2023年9月7日木曜日

和田東郭『蕉窓雑話』序跋 その2跋

 蕉窗雜話跋

先子少時學醫於東郭和田先

生其侍次先生每有說話輒與諸

子筆以記之後會輯成卷名曰

蕉窓雜話其言之於醫治一語金

玉以故為人所竊寫遂以流播

乎世矣先子懼其魯魚誤實荊璧

失真與諸子謀欲請之先生以上

  一オモテ

梓而先生忽易簀遂不能之果爾後

諸子亦繼逝先子每以慨恨戊寅

夏病疔瘡湯藥之間乃取而挍

之又附以一二之言將以上木既愈

而礙乎事務稽留越年則

舊毒復發遂不能起及其辭

世囑予以梓事予不肖斬焉

在衰絰哭擗之中未能奉命

  二オモテ

也今茲除服則急謀剞劂以壽

之于世聊以冀稱遺命懇〻

之萬一云爾

文政辛巳夏六月

      服部主一謹識



  【訓み下し】

『蕉窗雜話』跋

先子 少(わか)き時,醫を東郭和田先生に學ぶ。其の侍次,先生 每(つね)に說話有り。輒(すなわ)ち諸子と筆して以て之を記(しる)す。後に會輯して卷と成し,名づけて『蕉窓雜話』と曰う。其の言の醫治に於けるや,一語 金玉なり。故を以て人の竊(ひそ)かに寫(うつ)す所と為り,遂に以て世に流播す。先子 其の魯魚 實を誤り,荊璧 真を失うを懼れ,諸子と謀って,之を先生に請い,以て

  一オモテ

梓(あずさ)に上(のぼ)さんと欲す。而(しか)れども先生 忽ち簀(すのこ)を易(か)え,遂に之を果たすこと能わず。爾(しか)る後,諸子も亦た繼いで逝く。先子 每(つね)に以て慨恨す。戊寅の夏,疔瘡を病む。湯藥の間,乃ち取って之を挍す。又た附するに一二の言を以てし,將(まさ)に以て木に上(のぼ)さんとす。既に愈ゆるも事務に礙(さえぎ)らる。稽留して年を越し,則ち舊毒 復た發す。遂に起(た)つこと能わず。其の世を辭するに及んで,予に囑するに梓事を以てす。予 不肖,斬焉 衰絰・哭擗の中に在り,未だ命を奉ずること能わず。

  二オモテ

今茲 服を除く。則ち急ぎ剞劂を謀り,以て之を世に壽す。聊(いささ)か以て遺命の懇懇の萬一に稱(かな)わんことを冀(こいねが)う云爾(のみ)。

文政辛巳夏六月

      服部主一 謹んで識(しる)す



  【注釋】

○窗:「窻・窓」の異体字。 ○先子:称亡父。  ○少時:年輕時;年幼時[in the cradle]。 ○侍:伺候。在一旁陪著。敬うべき人のそばに控える。お仕えする。伺候する。 ○次:~の間。~の際。 ○說話:用語言表達意思;發表見解。發言、講話。閑談。話をすること。ものがたること。 ○輒:每、總是。每次 [always]。そのたびに。~のときはいつも。 ○諸子:諸君。多くの人々を親しみや敬意を込めていう語。同等または、それ以下の人々をさしていう。 ○筆:寫作、記述。用筆寫。筆で書くこと。 ○會輯:聚集。/會:集合、聚合。/輯:蒐錄後整理。如:「編輯」。 ○金玉:黃金與珠玉。泛指珍寶。珍重すべきすぐれたもの。【金玉之言】比喻珍貴的勸告或教誨。 ○以故:猶言因此,所以[therefore]。ゆえに。それで。 ○竊:偷偷的。ひそかに。人知れず。 ○流播:流傳。[spread;circulate;hand down] 傳播。広く伝わる。 ○魯魚:“魯”“魚”兩字相混。指抄寫刊印中的文字訛誤。《「魯」と「魚」の字は字体が似ていて誤りやすいところから》まちがいやすい文字。また、文字の誤り。 ○荊璧:即和氏璧。春秋時楚人卞和自楚國山中得一玉璞,獻給楚厲王,經玉工鑑定其為普通的石頭,厲王以卞和撒謊欺騙,乃刖其左腳。後武王即位,卞和再獻,仍視為石頭,卞和又被刖去右足。至文王即位,卞和抱玉石至荊山下大哭三天三夜,文王得知,命玉工加以琢磨,終得一塊寶玉,命名為「和氏璧」。見《韓非子.和氏》。中国の春秋時代、楚の国の卞和(和氏)という人物がある石を見つけ、磨けばとても美しい宝石(璧)になると考えて、王に献上しました。しかし、専門家の鑑定では、それは宝石ではないとのこと。卞和はうそをついたとされ、罰として左足の筋を抜かれてしまいました。次の代の王に献じても結果は同じで、今度は右足の筋を抜かれてしまいます。その次の代の王の時、卞和が泣いているところに、王が通りかかって、その理由を尋ねたところ、「宝石なのにそれが認められず、正直者なのにうそつき呼ばわりされるのが、悲しいのです」という返事。気になった王が試しにその宝石を磨かせてみたところ、美しい宝石になったということです。この宝石は、後に、いくつもの城と交換できるほど価値があるとされたところから、「連城の璧」とも呼ばれるようになりました。 ○失真:與真相不合。失去本意或本來面目[distort;be not true to the original]。 ○上梓:把文字雕刻在版上,即付印。古時以木版印刷,將文字刻於木版上,謂之上梓,亦稱付梓。)《梓(あずさ)(キササゲ)の木を版木に用いたところから》文字などを版木に刻むこと。書物を出版すること。

  一オモテ

○忽:突然 [suddenly]。迅速。にわかであるさま。 ○易簀:更換寢席。簀,華美的竹席。易簀指曾子臨終時,因席褥為季孫所賜,自己未嘗為大夫,而使用大夫所用的席褥,不合禮制,所以命人換席,舉扶更換後,反席未安而死。典出《禮記.檀弓上》。後遂比喻人之將死。《「礼記」檀弓上の、曽子が死に臨んで、季孫から賜った大夫用の簀(すのこ)を、身分不相応のものとして粗末なものに易(か)えたという故事から》学徳の高い人の死、または、死に際をいう語。 ○爾後:從此以後[henceforth;henceforward]。然後。その後。 ○繼:隨後、跟著。つづけて。 ○逝:死亡。多用于對死者的敬意。 ○慨恨:感嘆憤恨。感慨遺憾。残念に思う。 ○疔瘡:毛囊汗腺等處疼痛腫硬的泛稱。中醫指病理變化急驟並有全身症狀的惡性小瘡。隋 巢元方《諸病源候論‧丁瘡候》:「疔瘡者,風邪毒氣於肌肉所生也……初起時突起,如丁蓋,故謂之疔瘡」。[malignant boil;furuncle] 病名。又名疵瘡。因其形小,根深,堅硬如釘狀,故名。多因飲食不節,外感風邪火毒及四時不正之氣而發。 ○湯藥:中醫指用水煎服的藥物。湯液治療。 ○挍:「校」に同じ。比較。校正。 ○礙:阻止。妨害 [prevent;stop]。 ○事務:事情、雜務。要做的或所做的事情。[work]∶指具体的事情。 ○稽留: 耽擱、停留。延遲[delay] 。とどまること。とどこおること。滞留。 ○越年: 年を越すこと。新年を迎えること。年越し。 ○起:復甦、痊癒、好轉。治愈;病愈。[stand up]起床 [get up;get out of bed]。【不起】不起身。久病不癒。【不起之病】不易康復甚或導致死亡的疾病。 ○辭世:去世、死亡。逝世。この世に別れを告げること。死ぬこと。死に臨んで残す言葉。 ○囑:叮嚀、託付。托付 [entrust]。ものを頼む。 ○予:我。同「余」。 ○梓:出版。 ○不肖:子不似父。不賢,無才能。[unworthy]∶品行不好,没有出息。 [Nothing doing]∶謙辭。不才,不賢。取るに足りないこと。未熟で劣ること。また、そのさま。父に、あるいは師に似ないで愚かなこと。自称。わたくし。自分をへりくだっていうのに用いる。 ○斬焉:因喪哀痛貌。《左傳‧昭公十年》:「孤斬焉在衰絰之中」。喪中の悲しみの状態にあるさま。〔左伝、昭十年〕晉の平公卒(しゆつ)す。~既に葬る。諸侯の大夫、因りて新君に見(まみ)えんと欲す。~叔向(しゆくしやう)之れを辭して曰く、大夫の事(弔礼)畢(をは)れり。而して又孤に命ず(謁見を求める)。孤、斬焉、衰絰(さいてつ)(喪服)の中に在り。 ○衰絰:喪服。古人喪服胸前當心處綴有長六寸、廣四寸的麻布,名衰,因名此衣為衰;圍在頭上的散麻繩為首絰,纏在腰間的為腰絰。衰、絰兩者是喪服的主要部分。 ○哭:因傷心或激動而流淚,甚至發出悲聲 [cry;weep;sob]。 ○擗:用手捶拍胸部。《廣韻.入聲.陌韻》:「擗,撫心也。」《孝經.喪親章》:「擗踊哭泣,哀以送之。」 ○奉命:接受尊長或上級的命令。[receive orders;act urder orders;follow the cues of sb.]∶接受命令,遵守命令。貴人から命令をうけたまわること。→受けた命令を実行する。

  二オモテ

○今茲:今年。 ○除服:脫去喪服。謂不再守孝。守孝期滿,脫去喪服。《三國志‧魏志‧武帝紀》:「葬畢,皆除服」。喪服を脱ぐ。 ○剞劂:刻鏤的刀具。雕板;刻印。雕版、刊印。【剞劂氏】指刻板印書的經營人。 ○壽:序文などに「壽諸〔=之乎〕梓」とよく使われる。たとえば,張介賓『景岳全書』卷20に「祈壽諸梓,以為後人之鑑」とある。日本では,田中知箴撰『鍼灸五蘊抄』中村伯綏序に「求壽木」,高田玄達撰『經穴指掌』武田信邦序に「壽之乎梓」,佐藤仲甫撰『灸驗錄』井潛仲龍(井上四明)序に「今欲壽之梓以公於世」とある。壽=長命から引伸して,版木に刻んで長く保存することをいうのであろう。しいて訓ずれば,「ひさしくす,たもつ,きざむ」か。 ○聊:姑且、暫且。略微。かりそめ。とりあえず。少し。わずかばかり。 ○冀:希望,期望 [hope]。 ○稱:適合。 ○遺命:猶遺囑。人死前所遺留下來的遺言或命令。死ぬときにのこした命令。また、臨終に言い付けをのこすこと。 ○懇〻:至誠。誠摯殷切貌。心の込もったさま。 ○萬一:萬分之一[one ten-thousandth]。形容極微小。 ○云爾:語末助詞,表如此而已的意思。常用於句子或文章的末尾,表示結束。

 ○文政辛巳:文政四年(1821)。 ○服部主一:服部流謙の子であろう。


2023年9月6日水曜日

和田東郭『蕉窓雑話』序跋 その1序

 『対訳蕉窓雑話』(福岡・蕉窓雑話を読む会 たにぐち書店 2023/05発売)の購読者から序跋の【訓み下し】について,要望があったため,それにこたえる。


https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00000250

京都大学附属図書館富士川文庫(シ/382)

                                                                              

蕉窓雜話序

我邦醫政上古邈矣不可得而詳

焉中葉以來專宗李朱之言陰陽

旺相司天在泉只管推求不敢違其

範其弊多騁空理而失實際雖有

俊傑之士亦未能出其窩窟也然以

其人誠慤慎重失於密而不失於疏

其言傳于今亦多可以為準則者至

  一ウラ

享寶之間豪傑並出始盛唱復古直

求之于漢代一以長沙氏為宗斥宋

元諸家以破其拘惑其績固非不偉

而其持論過高求勝其弊全廢陰

陽六經之說不問虛實不論根因一從

見證以施治亦未免通此而礙彼之

誚也於是古方後世兩派分立彼此

紛〻莫之能折衷及乎吾東郭先生出

  二オモテ

曰聖賢在古用心盡力我儕生千歲

之下讀其書而學其道各法其所善

而闕其所疑則古人孰非吾師傷

寒金匱固我道之詩書然而殘缺不

完宋元方書雖旨趣不同亦孔註鄭

箋所謂夏取時商取輅周冕韶舞採

擇不遺學醫法亦如此而已矣是

以先生施治不必於古亦不拘於今

  二ウラ

自有一種活致而可傳於後世者多

矣當時門人侍函丈以國字錄其說

輯為數卷名曰蕉窓雜話距今

殆將二十年先生已沒錄者亦漸

就木豈得無感舊之情乎是以不顧

其固陋欲挍訂之以公于世久矣今茲

戊寅夏偶嬰疔毒幾死而幸免因謂

此雖瑣言亦先生之遺教今而不謀

  三オモテ

梨棗永將滅蠹塵乃黽勉從事先

以其一卷上于木如其二編三編則

追次續鍥庶幾乎先生之遺澤不

亡而門人之功力亦永存矣

文政紀元戊寅冬至日

     近江  服部流謙謹撰


  【訓み下し】

『蕉窓雜話』序

我が邦の醫政,上古邈(はるか)にして,得て詳らかにす可からず。中葉以來(このかた),專(もっぱ)ら李朱の言を宗(むね)とし,陰陽旺相,司天在泉をば,只管(ひたすら)推求して,敢えて其の範に違(たが)わず。其の弊 空理に騁(は)せて實際を失うこと多し。俊傑の士 有りと雖も,亦た未だ其の窩窟を出づること能わざるなり。然れども其の人 誠愨・慎重を以て,密に失すれども疏に失せず。其の言 今に傳わり,亦た以て準則と為す可き者多し。

  一ウラ

享寶の間に至って,豪傑 並び出でて,始めて盛んに復古を唱う。直(じか)に之を漢代に求め,一に長沙氏を以て宗と為す。宋元の諸家を斥(しりぞ)け,以て其の拘惑を破る。其の績 固(もと)より/固(まこと)に偉ならずんば非ず。而(しか)れども其の持論 高く勝を求むるに過ぐ/高きに過ぎ勝を求む/高く勝を求むるに過(あやまり)あり。其の弊 全く陰陽六經の說を廢し,虛實を問わず,根因を論ぜず,一に見證に從い,以て施治す。亦た未だ此れに通じて彼れを礙(さまた)ぐの誚(そし)りを免かれざるなり。是(こ)こに於いて古方・後世の兩派 分立し,彼れ此れ紛紛として,之を能く折衷すること莫し。吾が東郭先生出づるに及んで,

  二オモテ

曰わく,「聖賢 古(いにしえ)に在り,心を用い力を盡(つ)くす。我が儕(ともがら) 千歲の下に生まれ,其の書を讀んで其の道を學ぶ。各々其の善とする所に法(のっと)りて,其の疑わしき所を闕(か)けば,則ち古人 孰(たれ)か吾が師に非ざらん。『傷寒』『金匱』は,固(もと)より我が道の『詩』『書』なり。然り而(しこう)して殘缺して完(まった)からず。宋元の方書,旨趣 同じからずと雖も,亦た孔註・鄭箋なり。謂う所の夏に時を取り,商に輅を取り,周冕・韶舞,採擇して遺(のこ)さず。醫法を學ぶも,亦た此(か)くの如きのみ」と。是こを以て先生の施治は,必ずしも古(いにしえ)に於いてせず/古(いにしえ)を必とせず,亦た今に拘(こだわ)らず。

  二ウラ

自(おのずか)ら一種の活致 有って,後世に傳う可き者多し。當時の門人 函丈に侍して,國字を以て其の說を錄す。輯して數卷と為し,名づけて『蕉窓雜話』と曰う。今を距つること殆ど將(まさ)に二十年にならんとす。先生 已に沒し,錄する者も亦た漸く木に就く。豈に感舊の情 無きことを得んや。是こを以て其の固陋を顧みず,之を挍訂して,以て世に公(おおやけ)にせんと欲すること久し。今茲 戊寅の夏,偶々疔毒に嬰(かか)り,幾(ほとん)ど死なんとして幸いに免かる。因って謂(おも)えらく,「此れ瑣言と雖も,亦た先生の遺教なり。今にして

  三オモテ

梨棗を謀らずんば,永(とこしえ)に將(まさ)に蠹塵に滅びんとす」と。乃ち黽勉として事に從う。先ず其の一卷を以て,木に上(のぼ)す。其の二編・三編の如きは,則ち次を追って鍥を續ぐ。庶幾(こいねが)わくは,先生の遺澤 亡びずして,門人の功力も亦た永く存せんことを。

文政紀元戊寅 冬至日

     近江  服部流謙 謹しんで撰す


  【注釋】

蕉窓雜話序

 ○我邦:日本。 ○醫政:Medical Administration.医療に関する治政。下文から推測すれば,我が国では,遠い昔は,どのような治療方法(醫政)がおこなわれていたか,ということか。 ○上古:遠古時代。大昔[ancient times] 。 ○邈:久遠、遙遠。年月が長く隔たっているさま。 ○不可得而詳:はるか昔のことで,詳細に知ることができない。/不可得:不可能得到。 ○詳:審察議斷。明白、知道。細述、陳述。 [explain in detail] [know clearly] ○中葉:朝代或世紀的中期[middle period]。なかごろの時代。中期。 ○以來:以後。 ○宗:尊崇、效法 [follow]。根本、主旨。尊敬 [respect]。第一のものとして尊重する。たっとぶ。 ○李朱:金元四大家とされる李杲(東垣)と朱震亨(丹溪)の二人。 ○旺相:陰陽家指得時運。漢.王充《論衡.命祿》:「春夏囚死,秋冬旺相,非能為之也。」/星命家以五行配四季,每季中五行之盛衰以旺、相、休、囚、死表示,如春季是木旺、火相、水休、金囚、土死。凡人之八字中的日干逢旺相的月支為得時,逢囚、死的月支為失時,如日干為木,逢春為旺,逢冬為相,皆屬得時。/また,旺盛、興隆。 ○司天在泉:運気論の術語。司天(一年の前半)と在泉(一年の後半)の運気の情況。『素問』至真要大論(74)を参照。 ○只管:只顧;一直;一味。そのことだけに意を用いるさま。もっぱらそれだけを行うさま。 ひとすじに。いちずに。 ○推求:[inquire into;ascertain] 深入研究。以知道的條件為據,推究、探索未知。 ○不敢:心中怯懦,以致於不能付諸行動。謂沒膽量,沒勇氣。亦表示沒有膽量做某事 [I dare not;how dare I]。 ○範:法式、法則。如:「典範」、「規範」。守るべき規範。手本。模範。 ○弊:害處、毛病[harm]。害。 ○騁:直馳、奔跑。施展、放開。 ○空理:現実とかけ離れた、役に立たない理論。 ○俊傑:風姿瀟灑,才智出眾的人[elite]。才智傑出。 ○士:男子的美稱。知識分子的通称 [intelligentsia]。成人した男子。また、学識・徳行のあるりっぱな男子。 ○窩窟:窠窟。あな。いわや。ほらあな。好ましくないものが、隠れひそんでいる所。 ○誠慤:誠樸;真誠。/慤:「愨」の異体字。誠實、忠厚。つつしむ、まこと。 ○慎重:謹慎認真,不苟且[cautious;prudent;discreet]。注意深くて、軽々しく行動しないこと。 ○疏:粗心、不注意、不細密。粗忽 [neglect;slack;be inattentive]。粗。疎。おろそか。大ざっぱ。 ○準則:法式、標準。所遵循的標準或原則[norm;standard;criterion]。よりどころとすべき規則。 

  一ウラ

 ○享寶之間:貞享(1684年~1688年)。宝永(1704年~1711年)。享保(1716年~1736年)。宝暦(1751年~1764年)。/和田東郭(1742--1803)。名古屋玄医(1628--1696)。後藤艮山(1659--1733)。香川修庵(1683--1755)。山脇東洋(1705--1762)。吉益東洞(1702--1773)。→おそらく享保~宝暦。 ○豪傑:才智出眾的人[person of outstanding talent;hero]。才知・武勇に並み外れてすぐれていて、度胸のある人物。 ○並出:同時出現、同時存在。漢.班固〈公孫弘傳贊〉:「群士慕響,異人並出。」 ○唱:倡導。通「倡」[promote]。人に先立って言う。 ○復古:恢復舊的制度、習俗等[restore ancient ways;return to the ancients]。昔の状態・体制に戻ること。 ○直:不彎曲的。沒有間隔的 [straight]。一直 [directly]。まっすぐ。純粋な、他のものを交えない、の意を表す。 ○一:專注的。專一 [single-minded;concentrated]。もっぱら。ひたすら。 ○長沙氏:張仲景(150年—219年?)。長沙の太守をつとめたという。 ○斥:排除拒絕、摒棄不用 [drive out] [abandon]。如:「排斥」。 ○拘:束縛,限制 [restrain;constrain]。つかまえて自由を奪う。とらえる。かかわる。こだわる。「拘泥」。 ○惑:疑難。懷疑。欺騙。[puzzle;delude;confuse;mislead]。心が何かにとらわれて正しい判断ができなくなる。まどう。まどわす。「惑乱/疑惑」。 ○績:功業、成效 [achievement;merit]。積み重ねた仕事やその結果。「業績・功績」。 ○固:當然、誠然。必,一定 [surely]。確實[certainly]。 ○非不:非常;極其。 ○偉:盛壯、卓越。偉大 [great]。大きくりっぱなこと。すぐれていること。 ○持論:立論,所持理論或主張。提出主張[present an argument]。かねてから主張している自分の意見・説。持説。 ○求勝:爭取勝利。求取勝利。/『春秋存疑錄』四庫提要:是皆務高求勝之過也。 ○陰陽六經:三陰三陽經。 ○根因:根源,緣故。 ○見證:顯明的功效。證明;證據[evidence;clear proof]。 ○礙:限制。阻止。妨害。[prevent;stop]。 ○誚:責備、責怪 [blame;censure]。 ○古方:古医方派。 ○後世:後世方派。 ○紛〻:多而雜亂的樣子。入り乱れてまとまりのないさま。 ○折衷:折中。調和太過與不及,使之得當合理。調和不同意見或爭執。いくつかの異なった考え方のよいところをとり合わせて、一つにまとめ上げること。

  二オモテ

○用心:盡心。使用心力;專心。【用心竭力】竭盡心思、力量。 ○盡力:竭力。竭盡能力。竭盡全力。 ○儕:同輩、同類的人。如:「吾儕」。同類の人々をさしていう語。仲間。 ○千歲:千年。年代久遠。 ○下:在後面的。 ○闕其所疑:【闕疑】有所疑問則暫時擱置,不下斷語。遇有疑惑,暫時空着,不作主觀推測。《論語.為政》:「多聞闕疑,慎言其餘,則寡尤。」劉寶楠『正義』:「其義有未明,未安於心者,闕空之也」。疑わしいものとして、決定を保留しておくこと。 ○古人:古代的人。古時的人。[the ancients;one who has passed away] 泛指前人,以區別於當世的人。昔の世の人。 ○孰:誰。 ○傷寒金匱:『傷寒論』と『金匱要略』。 ○我道:醫道。 ○詩書:《詩經》和《書經》,亦泛指一切經書。詩経と書経。 ○然而:轉折連詞。用在子句頭,表示雖然有前句所敘述的事情,卻亦有末句所表達的狀況、行為等。/表示轉折。連接的兩部分意思相反。猶言如此,不過;如此,但是[yet;however;but]。 ○殘缺不完:殘破,缺損不完整。/殘缺:缺壞而不完整、不完備。缺損。 [incomplete;fragmentary]部分缺如。書物などの、一部分が欠けていて不完全なこと。 ○宋元:中国、北宋・南宋および元代。 ○方書:醫書 [medical book]。 療治の処方を記した書。医書。 ○旨趣:宗旨和意義。大意[purport;objective]。おもむき。内容。 ○不同:不一樣。不相同。不同意。おなじでないこと。異なっていること。 ○孔註鄭箋:(儒学)経書に対する注釈。/孔註:漢・孔安國によるとされる『尚書』に対する傳(注)。あるいは,唐・孔穎達による『周易』『尚書』『毛詩』『禮記』『春秋左傳』に対する正義(注)。/註:用來解釋或說明的文字。「注」におなじ。本文の意味を詳しく説明したり補足したりするために、本文の間に書き込んだり、別の箇所に記したりする文句。/鄭箋:漢・鄭玄による『周禮』『儀禮』『禮記』に対する注(箋)。/『近世漢方医学書集成(15和田東郭一)』の松田邦夫先生の解説に以下の文が引かれている(9頁。出典未調査)。「我曹千歳の下に生れその書を読み,その術を学び,その善に法ってその疑を闢〔石原保秀「和田東郭先生」,『漢方と漢薬』第6巻第20号の引用文は,この序と同じく「闕」に作る。〕くときは,古人いずれか吾が師に非ざる。傷寒金匱はもとより我道の詩書なり,残欠ありといえども,要領備さに存す,歴代の方書はなお鄭訓(後漢の鄭玄の訓詁)朱義(宋の朱熹の釈義)の如し……」とある。 ○所謂夏取時商取輅周冕韶舞:古いか新しいか時代に関係なく,よいものであれば選んで利用する。

    ・『論語』衛靈公:顏淵問為邦。子曰:「行夏之時,乘殷之輅,服周之冕,樂則韶舞……」〔顏淵問怎樣治理國家,孔子說:「用夏朝的曆法,乘商朝的車輛,戴周朝的禮帽,提倡高雅音樂……/Yan Yuan asked how the government of a country should be administered. The Master said, "Follow the seasons of Xia. Ride in the state carriage of Yin. Wear the ceremonial cap of Zhou. Let the music be the Shao with its pantomimes.〕。/夏王朝からは暦を,殷王朝からは車を,周王朝からは礼帽を,舞楽は帝舜の時代のものを採用する。

    ・『論語集注』衛靈公第十五:子曰:「行夏之時〔集注:夏時,謂以斗柄初昏建寅之月為歲首也。天開於子,地闢於丑,人生於寅,故斗柄建此三辰之月,皆可以為歲首。而三代迭用之,夏以寅為人正,商以丑為地正,周以子為天正也。然時以作事,則歲月自當以人為紀。故孔子嘗曰,「吾得夏時焉」而說者以為謂夏小正之屬。蓋取其時之正與其令之善,而於此又以告顏子也。〕,乘殷之輅〔輅,音路,亦作路。商輅,木輅也。輅者,大車之名。古者以木為車而已,至商而有輅之名,蓋始異其制也。周人飾以金玉,則過侈而易敗,不若商輅之樸素渾堅而等威已辨,為質而得其中也。〕,服周之冕〔周冕有五,祭服之冠也。冠上有覆,前後有旒。黃帝以來,蓋已有之,而制度儀等,至周始備。然其為物小,而加於眾體之上,故雖華而不為靡,雖費而不及奢。夫子取之,蓋亦以為文而得其中也。〕,樂則韶舞〔取其盡善盡美。〕。/

    ・韶舞:舜時樂舞名。『論語集解』「韶,舜樂也。盡善盡美,故取之」。

    https://kanbun.info/keibu/rongo1510.html

    

 ○採擇:選取、採納。選用 [to choose and use]。いくつかあるものの中から選んで取り上げること。 ○不遺:不漏。もらさない。 ○是以:所以,表示因果的連詞。因此[consequently;therefore]。それゆえに。 ○不必:不一定、未必。沒有一定。「必」を動詞と解すれば,「古を必とせず/古方を必須のものとは考えない」。

  二ウラ

 ○活致:未詳。臨機応変な道理か。/活:有生命的。生動,不死板。如:「靈活」。不固定的、可移動的。/致:旨趣、意態。事物的道理。 ○函丈:舊時講席間相隔一丈,以容人聽講。【席間函丈】討論、鑽研學問時,保持丈許距離,以便指畫。『禮記』曲禮上:「若非飲食之客,則布席,席間函丈」。鄭玄注:「謂講問之客也。函,猶容也,講問宜相對容丈,足以指畫也」。原謂講學者與聽講者坐席之間相距一丈。後用以指:講學的坐席。師に対して、一丈ほども席の間をおいてすわること。また、その間隔。 ○國字:漢字に対して仮名をいう。和字。また和文,日本語文。漢文に対していう。 ○輯:蒐錄後整理。聚集 [gather;assemble],特指聚集材料編書。材料を集めてまとめる。「輯録/編輯」。 ○為:創制。製作;創作 [make;compose]。「つくる」とも訓ず。 ○蕉窓雜話:本書の序を書いた服部流謙による凡例に,「此書,『蕉窓雜話』と名づくること,固より意義あるにあらず。先生家塾の窓前に芭蕉ありて筆記したる故に名づけしなり」〔カタカナをひらがなに変え,濁点・句読点を打つ。以下おなじ〕とある。/雜話:指胡乱編造的佳人才子的故事。さまざまな事柄をまとまりもなく話すこと。また、その話。 ○漸:慢慢的、逐步的。逐漸 [gradually]。 しだいに。だんだん。 ○就木:入棺木,比喻死亡。[enter the coffin;about to die] 入殮;垂危。棺に入る。死ぬ。服部流謙の凡例に「此書初め伊豫國久保喬德,首としてこれを錄し,同國柁谷守清これに續く。其他諸子の續て錄する者ありと雖も,歳月を歷ること久して,其姓名を遺失し,知ること能はずして喬德・守清の苦心最大なりとす。二子なくんば,此書も亦成ることなからん。但二子不幸にして皆夭し,草稿を改むること能はず。語辭雜駁にして完からず。故に予,二子の志を續ぎ,實に質して刪訂し,且これを補綴す」とある。 ○得無:能不、莫非。表測度語氣的語氣詞。 ○感舊:懷念故舊。住時をなつかしく思い起こす。 ○不顧:不顧慮。指不去計較或無法考慮。ろくに顧慮しないで。 ○其:わたしの。われわれの。 ○固陋:見聞淺陋。[ill-informed and ignorant] 見識淺薄,見聞不廣。見識が狭くてがんこなこと。 ○挍訂:校訂。校正改訂。校勘訂正。/挍:「校」におなじ。比較;估量。 ○今茲:今年。/茲:年、時。《孟子.滕文公下》:「今茲未能,請輕之,以待來年。」 ○戊寅:文政元年(1818)。 ○嬰:遭受;遇 [suffer]。【嬰疾】為疾病所困。 ○疔毒:[furuncle] 症狀發展到很嚴重地步的疔瘡。疔瘡爲病名。出《仙傳外科集驗方》卷六。泛指多種瘡瘍。古無疔字,丁通疔,泛指外科證情較重之多種瘡瘍。 ○幾死:危うく命をおとそうとする。/幾:將近、相去不遠。表示非常接近,相當於「幾乎」、「差不多」[almost;nearly]。 ○幸免:僥幸免除。[escape by sheer luck;have a narrow escape] 僥幸避免某種災禍。 語本《論語‧雍也》:「人之生也直,罔之生也幸而免」。 ○謂:認為、以為。 ○瑣言:瑣碎的言談;閑談。記述逸聞、瑣事的一種文章體裁。 (「瑣」は小さい、細かいの意) ちょっとしたことば。とるに足らないことば。これを和田東郭の『導水瑣言』と解するのは,うがちすぎであろう。 ○遺教:前人所遺留下來的思想、學說、主張等[theory,work and view left over by the dead]。 ○今而:いま,すなわち。 ○不謀:不商量。不求。不籌劃〔企画する.計画する.段取りする〕。/謀:あれこれと手段を講ずる。計画する。

  三オモテ

 ○梨棗:梨子和棗子。舊時雕版印書,用梨木棗木,故稱書版為「梨棗」。[wooden printing blocks (usu.made of pear and date wood)]舊時刻版印書多用梨木或棗木,故以“梨棗”為書版的代稱。 梨(なし)と棗(なつめ)。転じて、梨と棗はともに版木に用いられるところから、版木、また、版木にして出版すること。 ○蠹:蛀蟲。蛀爛、腐蝕。虫が食い破る。むしばむ。衣魚(しみ)の別名。 ○塵:飛揚的細小灰土。汙染。 ○黽勉從事:努力工作。勤勤懇懇。《詩經.小雅.十月之交》:「黽勉從事,不敢告勞。」/黽勉:勉勵、努力。盡力。つとめはげむこと。精を出すこと。/黽:勤勉、努力。 ○從事:行事;辦事 [handle affairs]。參與做(某種事情);致力於(某種事情)[engage;go in for]。處置;處理[deal with]。 ○上于木:図書を版木に彫りつけること。書物を出版すること。上梓(じょうし)。出版。 ○追次:先に行くもののすぐ後を追って続く。後からつぎたすこと。追加。/追:「近」字の可能性もあるが,下文の「近江」の「近」とは異なるとひとまず判断した。 ○鍥:刻。用刀子刻。 ○庶幾:表示希望的語氣詞。心から願うこと。 ○遺澤:遺留給後世的恩惠德澤。留下的德澤。後世まで残る恩沢。 ○功力:效驗。功夫和力量。功徳の力。効験(こうけん)。 ○永存:永遠存在。長存不滅。ながく存在すること。また、ながく保存すること。

 ○文政:1818年から1831年。 ○紀元:年歲的始元。[beginning of an era;epoch] 指紀年的第一年。歴史上の年数を数えるときの基準。また基準となる最初の年。年号を建てること。建元。改元。また、年号。 ○戊寅:1818年。 ○冬至:二十四節氣之一。此時太陽直射南回歸線,所以北半球夜最長,晝最短,南半球則相反。通常落在國曆的十二月二十一、二十二或二十三日。二十四節気の一。太陽の黄経(こうけい)が270度に達する日をいい、太陽暦で12月22日ごろ。太陽の中心が冬至点を通過する。北半球では一年中で昼がいちばん短く、夜がいちばん長くなる日。 ○近江:旧国名の一。現在の滋賀県にあたる。江州(ごうしゅう)。「近江」の文字は浜名湖のある遠江(遠つ淡海)に対して近江(近つ淡海)と称したもの。 ○服部流謙:松田邦夫先生の解説:「泰沖の子であろう」。「和田東郭には男子がなく,門人中の逸材中村哲を養子とし,長女を配して後を嗣がしめた。哲は字を哲郎,通称を泰沖といい,黙所と号した」。