2017年8月30日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕22

十九 咽喉(インコウ/のど)門
二十八ウラ
△夫(それ)咽(いん)は物(もの)を嚥(のみ)、喉(こう)は気を候(うか)がふ。気喉・穀咽とは是也(これなり)。若し熱府の寒冷なる則(とき)は、咽門(のど)破れて声嘶(かる)るなり。
〔清 陳修園『醫學實在易』卷四 傷寒條 附引三條:「咽者、咽也,喉者、候也。咽接三脘以通胃,故以之咽物;喉通五臟以系肺,故以之候氣。氣喉,穀咽,皎然明白。《千金》謂︰喉嚨主通利水穀之道,咽門主通臟腑津液神氣,誤也。 喉以納氣,故曰喉主天氣,咽以納食,故曰咽主地氣」。
『備急千金要方』卷十二膽腑方・咽門論第三:「若臟熱則咽門閉而氣塞、若腑寒則咽門破而聲嘶」。
・「熱府」難解。風門(BL12)穴の別名ではなかろう。『備急千金要方』によれば、脱文あるを疑う。〕
○咽(の)喉(ど)腫(はれ)ずして、熱塞(ネツソク/ねつしふさぐ)し、呑(のみ)飲(もの)鼻(はな)より還(かえ)り出(いづ)るには、然谷・合谷、幷(ならび)に久しく針(はり)を留(とど)めて、即ち瀉(しゃす)べし。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・咽喉不腫而熱塞吞飲從鼻還出:「久不愈、然谷・合谷、并久留針、即瀉」。〕
○喉(のど)腫(はれ)て胸(むね)脇(わき)の下(した)、支(ささえ)満(みつ)るには、中渚・絶骨・内関・合谷・神門・尺沢、皆(みな)倶(とも)に針(はり)して効(こう)あり。
〔・胸脇支滿:病證名。指胸及脅肋部支撐(つっぱる/ささえる)脹滿。《素問·繆刺論》:“邪客於足少陰之絡,令人卒心痛,暴脹,胸脇支滿” 。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・喉痛胸脇支滿:「尺澤・太谿・神門・合谷・內關・中渚・絕骨」。〕
○単蛾(タンガ/かたじろ)には、天窓の穴(けつ)。頸(うなじ)の大筋(おおすじ)の前(まえ)、曲頰(まかりぼう)の端(は)し、陥(くぼか)なる中(なか)なり。針(はり)を以(もっ)て湥〔深〕く患(うれ)ふあたりの喉(のど)の内(うち)に刺(さす)こと一二寸ばかりに至る。暫(しばらく)して即ち出す。神効あり。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・單蛾:「天窗穴在頸大筋前曲頰端一陷中。以針深刺患邊一二寸許、至喉內當處、而後即出。旋使病人吞涎無碍神效」。
・單蛾:病證名。見《儒門事親》。《景岳全書》卷二十八:「喉蛾腫於一邊者為單蛾,此其形必圓突如珠」。詳乳蛾條。
・乳蛾:喉蛾。扁桃体炎。以咽喉兩側喉核(即顎扁桃體)紅腫疼痛,形似乳頭,狀如蠶蛾為主要症狀的喉病。發生於一側的稱單乳蛾,雙側的稱雙乳蛾。乳蛾多由外感風熱,侵襲於肺,上逆搏結於喉核;或平素過食辛辣炙煿之品,脾胃蘊熱,熱毒上攻喉核;或溫熱病後餘邪未清,藏府虛損,虛火上炎等引起。
・「かたじろ」:乳蛾では、時に白っぽい点があらわれるので、漢字で書けば「片白」であろう。 〕
○双(ソウ/りょう)蛾(が)には、天窓・尺沢・神門・下(しも)三里・太谿、幷(なら)びに針(はり)すべし。少商及び大(おお)拇(ゆび)の爪の甲(こう)の後(うしろ)根(ね)に
二十九オモテ
三稜針を刺(さす)こと三次(みたび)。若し病(やまい)急ならば、一日(いちじつ)に再び針(はり)す。大(おおい)に妙(みょう)。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・雙蛾:「天窗・尺澤・神門・下三里・大谿、并針。少商及大拇指爪甲後根、排刺三針。○如病急、一日再針。神效」。〕
○一切の実火にて咽(のど)腫れ痛(いたむ)ときは、其(その)疼(いたむ)処(ところ)に針(はり)して幾(いく)たびも瀉(しゃ)すべし。
○喉痺腫(はれ)疼(いたみ)て言(もの)語(いう)ことならざるには、三稜針にて挑(かか)げ破り、血(ち)を出(いだ)すべし。腫(はるれ)は破り、痛(いた)まは針(はり)して数々(しばしば)血(ち)を取(とる)べし。

2017年8月29日火曜日

ハーバード燕京図書館の漢籍デジタルコレクション

医学綱目
http://listview.lib.harvard.edu/lists/drs-54069831

情報源:

http://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/archives/japanese/world-library38

あとをたどっていくと……
http://beta.hollis.harvard.edu/primo_library/libweb/action/search.do?ct=facet&fctN=facet_library&fctV=HVD_NET&rfnGrp=1&rfnGrpCounter=1&frbg=&vl(117501629UI1)=all_items&&indx=1&fn=search&vl(51615747UI0)=any&vl(1UI0)=contains&dscnt=0&scp.scps=scope%3A(HVD_FGDC)%2Cscope%3A(HVD)%2Cscope%3A(HVD_VIA)%2Cprimo_central_multiple_fe&tb=t&vid=HVD&mode=Basic&ct=search&srt=rank&tab=everything&dum=true&vl(freeText0)=%20Harvard-Yenching%20Library%20Chinese%20Rare%20Books%20Digitization%20Project-Philosophy&dstmp=1453231500980

醫學綱目
http://listview.lib.harvard.edu/lists/drs-54069831

エラーになって,見られない時があります。

2017年8月28日月曜日

『黄帝素問霊枢経』叙

越人得其一二而述難經皇甫謐次而為甲乙

http://www.human-world.co.jp/newsitem.php?id=1376
『ナラティブ霊枢』訳: 秦越人はその内のいくつかを利用して『難経』を書き、皇甫謐は次に『甲乙経』を作った
訳者は「次」を副詞と捉えたようだ。
陳璧琉等編著『霊枢経白話解』には,叙の部分の現代語訳はないので,訳者が独自に解釈したのだろう。

ちなみに東洋学術出版社【現代語訳】は、「皇甫謐はこれを編次して『甲乙経』を作った」と訳している。

2017年8月26日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕21

十八 口歯門 幷(ならび)に唇舌(シンゼツ/くちびるした)
経に曰(いわく)く、脾気は口(くち)に通ず。口臭きは、内熱(ないねつ)口乾き、或(あるい)は瘡(くさ)を生ずるは、脾熱に属(ぞく)す、と。唇舌(しんぜつ)・牙歯(げし)倶(とも)に其因〔ソノヨリ〕て病(やむ)ところ異(ことな)りといへども、脾熱(ひねつ)・胃鬱(いうつ)に属するもの居(おお)多(し)。故(ゆえ)に部門を頒(わけ)ざるなり。
〔・「曰(いわく)く」は、原文のまま。『靈樞』脈度(17):「脾氣通于口。脾和則口能知五穀矣」。/・瘡(くさ):皮膚病の総称。ただれ・うみをもった水ぶくれなど。特に、胎毒・梅毒。かさ。/・居多:多数を占める。〕
○歯痛(はいたむ)には、疼(いた)痛(む)歯に灸七(なな)壮(ひ)。即効(そくこう)あり。然(しか)れども慎しんで灸を加(くわう)ことなかれ。必(かならす)附骨疽を患(うれう)なり。
〔『鍼灸經驗方』齒部・上下齒痛・又方:「灸痛齒、七壯。慎勿加灸、必患附骨疽」。〕
〔附骨疽:附骨疽者、以其無破、附骨成膿、故名附骨疽。喜著大節解中、丈夫・產婦喜著䏶...凡人身體患熱、當風取涼、風入骨解中、風熱相摶、便成附骨疽。其候嗜眠沉重、忽忽耳鳴。又秋月露臥為冷所折、風熱伏結而作此疾。急者熱多風少、緩者風多熱少(中國歷代文獻精粹大典·下 )。/疽之生於筋骨部位的稱為“附骨疽”。多因風寒濕阻於筋骨、氣血凝滯而成(中醫名詞術語選釋)。〕
○上歯(うわば)の疼(いたむ)には、下(しも)三里に灸七(なな)壮(ひ)。効(こう)あり。
〔『鍼灸經驗方』齒部・上齒痛:「下三里、灸七壯」。〕
○下歯(したば)の痛(いたみ)には、合谷に灸七(なな)壮(ひ)。奇効(きこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』齒部・下齒痛:「合谷灸、七壯」。〕
○又(また)強く歯(は)いたむには、急に丁子(ちょうじ)・甘艸(かんぞう)の煎汁(せんじしる)を噉(ふく)んで即効(そくこう)あり。又(また)方(ほう):麝香を痛む歯(は)に附(つけ)て妙効(みょうこう)。
〔麝香:雄麝臍部麝腺的分泌物。黃褐色或暗赤色,香味甚烈,乾燥後可製成香料,亦可入藥。〕
○虫喰(むしくい)歯にて瘡(くさ)を生じ、腐(くさ)れ爛(ただ)るるものには、
二十八オモテ
承醤(じょうしょう)に灸すること七(なな)壮(ひ)。妙(みょう)なり。
〔承醤:承漿。〕
○口噤(くちくいし)ばり、牙車(はぼね)開(ひらか)ざるには、上関・頰車に五十壮(ひ)。神効(しんこう)あり。
○重舌(ちょうぜつ)舌強(したこわ)ばり、食すること能はざるには、神門・隠白・三陰交、交々(かわるかわる)針灸(しんきゅう)して効(こう)を斂(おさ)む。
〔『鍼灸經驗方』口部・重舌舌裂舌強:「舌者、心之竅也。神門・隱白・三陰交」。〕
〔・重舌:舌下靜脈鬱血而腫脹,如多生一小舌,或與舌體連貫成花狀、伴有頭項痛、發熱等,日久可潰爛。/①即舌下粘膜炎症、腫脹,突起狀若小舌,由心脾濕熱,熱重於濕所致。②舌下腺囊腫,隆起突出如小舌。為心脾濕熱,濕重子熱所致。二者均位於舌下,與舌相疊,故稱“重舌”。〕
○口中(こうちゅう)血(ち)出(いづ)るには、上星(じょうしょう)に五十壮(ひ)。風府に針(はり)三部(さんぶ)。
〔『鍼灸經驗方』口部・口中出血不止:「上星五十壯」。〕
○口中(こうちゅう)・舌(した)ともに白(しろく)して、娥口(かこう)のごとく瘡(くさ)を生ずるは、大抵血熱(けつねつ)の致(いた)すところなり。承漿(じょうしょう)・営宮(えいきゅう)を治(ぢ)すべし。或(あるい)は桑(くわ)の汁(しる)を塗りし、忽(たちま)ち治(ぢ)すべし。
〔・「塗りし」は「塗りて」か。〕
〔・娥口:『重訂囊秘喉書』蛾口:「一名雪口。初生月內小兒,滿口舌上白屑,如蛾口樣者,故名之。形如腐衣,後變黃色,轉如黑色者,不治。若口如魚口,或作鴉聲者,難治。此心脾積熱,又名迷口」。〕
〔・営宮:未詳。『鍼灸經驗方』別穴になし。字形と口中の瘡からすると、労宮の誤りか。『鍼灸經驗方』齒痛・齒齗腐:「合谷・中脘・下三里、幷針。承漿七壯、勞宮一壯」。〕
○口中、膠(にかわ)のことく粘(ねば)るは、大谿(たいけい)を治(ぢ)すべし。
〔『鍼灸經驗方』口部・口中如膠:「大谿」。〕
○唇(くちびる)乾(かわ)燥(き)さけて、繭(かいこ)のごとくなるは、多く陰虚火動(かどう)に因(よ)る。迎香(けいこう)・虎口(ここう)に灸すべし。
〔虎口:『鍼灸甲乙經』卷三:「合谷、一名虎口」。〕

2017年8月24日木曜日

『太素』卷十七 冒頭

『太素』に欠けている部分の『素問』五藏生成篇
「青如草茲者死。
黄如枳實者死。
黑如炲者死。
赤如衃血者死。
白如枯骨者死。」

『甲乙経』卷一・五色第十五と『千金翼方』卷二十五・診氣色法第一:「黑如炲煤者死」。
・森立之『素問攷注』:据文例,作「炲煤」者是。
(他の色から考えれば,黑色も「如」字の次には二字の語がくるはずである。)

・段玉裁『説文解字注』:(炱) 灰炱煤也。通俗文曰:積煙曰炱煤。玉篇曰:炱煤、煙塵也。廣韵曰:炱煤、灰入屋也。从火。台聲。徒哀切。一部。按本部無煤。土部有塺字。玉篇炱煤二文相接。

・森立之『素問攷注』:据此,則「炲煤」二字熟語,出于漢人。蓋古只云炲,云煤。漢已後云「炲煤」歟。

楊上善注(新新校正の句讀)
「滋,青之惡色也。炲,音苔,謂草烟栖聚炲煤,黒之惡色也。衃,凝惡之血也。枯骨,白色之惡色也」。

『太素』の経文も『甲乙経』と同じく「炲煤」に作っていたのでないか?
そうだとすると,楊注は:
「滋,青之惡色也。炲,音苔,謂草烟栖聚。炲煤,黒之惡色也。衃,凝惡之血也。枯骨,白色之惡色也」。
と句切るのがいいのではないか?

2017年8月23日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕20

十七 眼目(がんもく)門 めのやまひ
△夫(それ)眼目は血(けつ)を得て能(よく)視(みる)こと明(あきらか)なり。血の眼を養(やしなう)に大(おおい)に過(すぐ)ることあるか、又は足(たら)ぬことあるときは、眼病(がんひょう)となる。虚(きょ)眼(がん)は精(みづ)耗(へり)て眼(め)の養精(ちみづ)不足して病(やめ)るなり。針(しん)術、効(こう) 尤(もつとも)多し。
○眼眶(まぶた)の上下に青き黒き色あるは、尺沢に針(はり)して
二十七ウラ
血(ち)を出(いだ)せば神効。
○眼(め)の睛(ひとみ)痛(いた)んで涙(なみだ)なきは、中脘・内庭に久しく針(はり)を留(とどめ)て、即(すなわち)瀉すべし。
○瞳子(ひとみ)の突出(つきいだ)したるには、湧泉・然谷・太陽・太衝・合谷・百会・上髎・次髎・中髎・肝兪(かんゆ)・腎兪(じんゆ)に針(はり)して神効(しんこう)あり。
○大人(たいじん)小児(しょうに)の雀目(とりめ)には、肝兪(かんゆ)に灸七(なな)壮(ひ)。次に手の拇指(おやゆび)の甲(こう)の後(うし)ろ、第一(たいいち)の椎(ふし)の横紋(よこすぢ)の頭(ほと)り、白き肉の際(あいだ)に灸一(ひと)壮(ひ)。即効(そくこう)あり。
○風目(かざめ)にて眶(まぶた)の爛(ただれ)たるには、太陽・尺沢に針(はり)して血(ち)を棄(すつ)ること糞(ふん)のごとくすれは、神効あり。
〔かざめ:風目:『病名彙解』:風眼(ふうがん)「病源に云、風熱の気、目を傷(やぶ)り、眥瞼(シケン/まなじりまぶた)皆赤くただれ、風を見ればいよいよ甚し。これを風眼と云り」。かさめ(瘡目)であれば、梅毒性の眼炎。〕
○目に白き翳(もの)のかかりたるには、先(まづ)その白き翳膜(ものの)出(いづ)る処(ところ)を看(み)わけ、経(けい)に随(いたが)ひ日(ひ)を遂(お)ふて気を通ずるときは、神効(しんこう)あらざることなし。

2017年8月22日火曜日

FutureLearn

現在,慶應大学斯道文庫の先生方が日本における書物の歴史について,公開オンライン講座で配信しています。
はじめに堀川貴司先生の英語によるイントロダクションがありますが,あとは日本語です(英語字幕付き)。
無料ですが,講座に登録する必要あり。
https://www.futurelearn.com/courses/japanese-rare-books-sino/

仮名読十四経治方 〔翻字〕19

十六 脚気門
脚気の論は、孫真人尽(つく)せり。外臺(げだい)に曰く、飲食の毒(どく)自然(しぜん)に丹田に滞りて致すところなり、と。
△予(よ) 是を以(もっ)て為(おも)次(えら)く、独(ひと)り脚気の繁華(はんか)に多きは、厚味(こうみ)の物(もの)の毒するがゆへなり。穀醬(こくしょう)塩噌(えんそ)の類(たぐ)ひ都(すべ)て美味に制(せい)したれば、其(その)味(あぢ)厚くして、胃中に入(い)り、銷散し易(やす)からず。素(もと)より動作(トウサ/はたらき)少なき人(ひと)に多きは、厚味(こうみ) 胃中に鬱濛(うつもう)して、食毒 自然(しぜん)に積み、動気(どうき)
〔原文は「是」字に「よ」とふりがながある。本来は「予」のわきにあるべきである。また「為次」にある「おもへらく」という振り仮名、未詳。「以為」は「おもへらく」と訓ずる。「次」と「以」のくずし字は似ているので、「次」は「以」の誤字ではないかと疑う。
・穀醬塩噌:醤(ひしお):ペースト状の調味料、あるいは味の濃い食品の総称である。日本では食品を麹と食塩によって発酵させて製造した調味料または食品と認識される。現代日本語で醤(ひしお)と呼ぶ場合、液状の調味料のみを指すことが多い。なお「醤」の字体は印刷標準字体では「醬」つまり上部が將であり、「醤」は簡易慣用字体である。wikipedia./穀醤(こくしょう):大豆などの穀類を原料とする発酵調味料。日本のものとしては、味噌や醤油がこれに該当する。wikipedia./塩噌:塩と味噌。
・濛:こもる。〕
二十三~二十六オモテ
〔また版木の丁付けをまちがえたようです。〕
を生じ、疾(やまい)となるなり。因(よっ)て来するところ、胃鬱(いうつ)にあり。故(ゆえ)に浮腫するもの、十(じゅう)に七八。治法(ちほう)は、浮腫の有無(うむ)にかかわらずして、麦飯(ばくはん)・赤(あ)小(づ)豆(き)を食せしめ、塩(しお)を禁じ、飽食(ほうしょく)を禁じ、胃力(いりょく)を弱らしむを、一大(いちだい)要領(ようれい)とす。麻黄・独活・羗活・防已・石膏(せきこう)・大黄の類方(るいほう)を選(えら)み、方証(ほうしょう)相照(あいてら)して、汗(あせ)を多く取り、胃気を踈(すか)し、水道を利するを肝要とす。臍下(さいか)の動気止(やむ)ときは、病(やまい)治(ぢ)したるなり。若(も)し汗多(かんた)亡陽(ほうよう)せば、医の失(あやま)りなり。汗多(かんた)亡陽(ぼうよう)を恐れて汗多(かんた)せざるものは、下医(へたい)なり。
〔脚気には,麦飯がいいといっています,林太郎さん〕
○中脘に針(はり)して胃気を洩泄(もらす)べし。風市(ふぢ)・伏兔・膝眼・三里・上廉(しょうれん)・下廉・三陰交・絶骨、皆(みな)灸すべし。腰骨(ようこつ)より上(うえ)は灸を禁ず。
○鶴膝風(かくしつふう)
二十三~二十六ウラ
には、中脘・委中・風池等に針(はり)す。効(こう)あり。
〔鶴膝風:病名。指病後膝關節腫大變形,股脛變細,形如鶴膝者。亦名鶴游風、游膝風、鶴節、膝眼風、膝瘍、鼓槌風等。見《外科心法》卷五。該病多由經絡氣血虧損,風邪外襲,陰寒凝滯而成。病初多見膝關節疼痛微腫,步履不便,並伴見形寒發熱等全身症状;繼之膝關節紅腫焮熱,或色白漫腫,疼痛難忍,日久關節腔內積液腫脹,股脛變細,潰後膿出如漿,或流粘性黃液,癒合緩慢。本病類似膝關節結核及類風濕性關節炎。/中醫指結核性關節炎。患者膝關節腫大,象仙鶴的膝部。以膝關節腫大疼痛,而股脛的肌肉消瘦為特徵,形如鶴膝,故名鶴膝風。病由腎陰虧損,寒濕侵於下肢、流注關飾所致。大多由「歷節風」發展而成。〕
○足の掌(うら)の痛(いたみ)には、崑崙に針(はり)す。
○脚(あし)ところところ腫(はれ)起(おこ)りて大銭(たいせん)のごとく、或(あるい)は長く腫(はれ)て熱し痛(いた)み、或(あるい)は流注(りゅうちゅう)して処(ところ)を移(かえ)、年(とし)久しく治(ぢ)せず、膿(うみ)ざるは、瘀血の経絡(けいらく)に溢れ流れたるなり。其(その)血絡(けつらく)を刺して血(ち)を取(とり)捨(すつ)ること、糞(ふん)のごとく。神効あり。

2017年8月18日金曜日

沈澍农氏の新刊紹介

敦煌吐魯番医薬文献新輯校(沈澍农,高等教育出版社,2016.12)

内容概要
http://www.shanghaibook.co.jp/book4/551159086.htm

この本は,昨年南京に行く前にすでに出版予定が公表されていたもので,南京で沈先生に「出版はまだですか?」と尋ねたら,「もうすぐです」と回答をいただいたものです。

3日連続の新刊紹介で,気になる本が一気に出版された,という感じです。

2017年8月17日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕18

十五 腹脇(ふくきょう)門
△夫(それ)脇腹(わきはら)の痛(いたみ)患(うれう)るや、種々(しゅじゅ)あり。実(じつ)痛(いたむ)のものは、腹(はら)硬満(コウマン/かたく)にして、按(お)して疼(いたむ)ぞ。死血(しけつ)は、脇下(きょうか)に引き痛(いた)む。声(こえ)なせば痰(たん)、乍(たちま)ち痛(いた)み乍(たちま)ち止〔ヤム〕は熱、綿々(めんめん)として増減なきは寒なり。宿食(しゅくしょく)は大(おおい)に腹痛(ふくつう)すれども、瀉して後(のち)に痛(いた)み減(げん)ず。虫(むし)積(しゃく)は痛(いたみ)
二十二オモテ
甚(はなはだ)しといへども、食するときは則(すなわち)止(や)む。飢(うゆる)ときは痛む。左(ひだり)の脇(わき)に塊(かたまり)ありて、痛(いた)む処(ところ)を移(うつさ)ざるは死血、右(み)脇(ぎ)は塊(かたまり)あるとも多くは食積(しょくしゃく)なり。治法(ちほう)は一概(いちがい)しかたしといへども、一二を載(のす)ぞ。
○胃脘痛(いたむ)には、肝兪(かんのゆ)・脾兪(ひのゆ)・下(しも)三里・胸兪(きょうのゆ)・太冲(たいしょう)・独陰、両乳(りょうち)の下(した)各々(おのおの)一寸に灸二十一壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:胃脘痛:「肝兪・脾兪・下三里・膈兪・大冲・獨陰・兩乳下各一寸、灸二十壯」。したがって、「胸兪」は「膈兪」の誤り。灸壮については、偶数である『鍼灸経験方』の方に、問題があるか。〕
○冷物(れいぶつ)と熱物(ねつぶつ)と調和(チョウワ/ととのわず)せずして、臍(へそ)を遶(めぐ)り、疼(いたみ)絞(しぶ)るには、天枢に一百壮。気海に二十一壮。即効(そくこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:冷熱不調繞臍攻注疼痛:「氣海、三七壯。天樞、百壯。大腸兪、三壯。大谿、三壯」。「ととのわず」は「調和せず」の訓と理解するのだろう。「しぶる」は「しぼる」のあやまりか。〕
○腹(はら)大(おおい)に脹(は)り堅くして身悶(みもだえ)し、臍(へそ)及び小肚(こばら)筋(すぢ)ばり堅きは、水分・中極に各々(おのおの)百壮(ひ)。腎兪(じんのゆ)に年の壮。太冲(たいしょう)・三陰交・中脘等(とう)に毫鍼(コウシン/ほそきはり)すべし。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:腹脹堅小腹亦堅:「水分・中極、各百壯。三焦兪・膈兪、各三壯。腎兪以年壯。大谿・大冲・三陰交・脾兪・中脘、針」。〕
○腹脇(ふくきょう)手足(てあし)脊(せなか)、諸処(しょしょ)へ流注(リュウチュウ/ながれそそぐ)して、其(その)痛(いたみ)刺(さす)がごとく、忍(しのぶ)べからざるあり。皆(みな)瘀血の清血(せいけつ)に誘引(さそわれ)て
二十二ウラ
流れ注ぎ、暫く所(ところ)を定(さだめ)て、輙(すなわ)ち移り更(かわ)るなり。宜しく三稜針を用(もちい)て、其(その)痛む所々(ところところ)に随(したがい)て刺(さす)こと四五穴。血(ち)を取(とり)捨(すつ)ること糞(ふん)のごとくすべし。神効あり。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:腹脇及諸處流注刺痛不可忍:「用體長缸、而缸口以手三指容入、乃能毒也。隨其痛、每一處以三稜針刺四五穴、幷入缸口內、付缸灸七次、隨痛隨針、亦付缸灸累次、神效」。〕

黄龙祥氏の新書(旧書)の刊行の紹介

上海学術書店の新書特価目録(2017年8月続報)に,次の本を見つけました。

『针灸典籍考』(黄龙祥、北京科学技术出版社、201706、精装、756页)

概要と目次
http://www.shanghaibook.co.jp/book4/551161776.htm

 これはもともと十数年前に出版が予定されていた《针灸古典聚珍》叢書中の一部で,当時の書名は《针灸古典聚珍书目考》でした。
 黄氏によると,様々な原因でこの叢書は未だ出版されていないものの,読者から出版の要望が強く,まず当書だけ単独出版することになり,今回内容の一部を改編したということです。

2017年8月16日水曜日

张建斌氏の書籍紹介


 昨年度の南京での学術研討会(シンポジウム)〔季刊『内経』では「検討会」に誤り〕で,発表された建斌氏の本を入手しました。
発表内容は,季刊『内経』No.205に翻訳が掲載されていますが,本書はこの内容も含んでいます。
ちなみに私は,いつものように積読しています。

经络千古裂(用的断代研究)》(人民生出版社,2017.04出版,292ページ)
・概要と目次

2017年8月15日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕17

十四 心痛門 幷〔ナラビ〕に胸痛(むねいたむ)
△心痛、多くは気鬱に因(より)て熱をなし、痛(いたみ)をなす。心真痛の如きは、針灸(しんきゅう)・薬兕(やくお)の能(よく)治(ぢ)すべき所に非(あら)ず。其(その)発する
二十オモテ
なり。心(む)胸(ね)卒(にわか)に疼痛(トウツウ/いたみいたみ)して悶(もた)へ苦しみ、或(あるい)は汗大(おおい)に出(いで)、或(あるい)は手足の爪(つめ)の甲(こう)倶(とも)に皆(みな)青色(あおく)、其急なること夕(ゆうべ)に発(はっ)して朝(あした)に死す。之(これ)に類する症(しょう)あり。針灸(しんきゅう)薬(くすり)の及ぶ所なれば、医の豫(あづか)るところなり。其(その)一二(いちに)を知(しら)して初心に便(たより)す。
〔・心真痛:下文「真の心痛」。『靈樞』厥病(24):「真心痛.手足青至節.心痛甚.旦發夕死.夕發旦死」。/・兕:おそらく「咒」(「呪」の異体字)の誤り。/・其發するなり:おそらく「其發也」で、「其の發するヤ」と訓じて、下文につづけるべきであろう。/・初心に便す:初心者に便宜をはかる。〕
○心(しん)微(すこ)しく痛(いたん)で汗出(いで)苦しきあり。若(もし)早く治(ち)せざれは、真(しん)の心痛にいたる。倶(とも)に急に三稜針を用(もっ)て、神門・列缺・間使・大敦(たいとん)を刺(さし)て多く血(ち)を取(とり)棄(すて)べし。
○胸(むね)痛んで、冷(つめた)き酸(す)き水(みづ)を吐くことあり。尾窮骨(びきゅうこつ)に灸五十壮(ひ)。足の大指(おおゆび)の内(うちうち)、初(はじめ)の節(ふし)の横紋(よこすぢ)の中(なか)に三壮(ひ)。即効あり。
○痰(たん)厥(のぼ)せて胸(むね)痛(いたむ)ことあり。或(あるい)は胸(むね)腹(はら)ともに痛(いたむ)には、脊(せ)の第三椎(ずい)の下(しも)、四の椎(ずい)の
二十ウラ
上(うえ)に近きを量り、脊(せ)骨(こつ)の上(うえ)より両傍(りょうぼう)へ各々(おのおの)四分に灸(きゅう)二十一壮(ひ)より五十壮(ひ)に至る。立(たち)ところに愈(いゆ)。奇〻(きき)妙〻(みょうみょう)の神効あり。
○年(とし)久しく胸(むね)痛(いたむ)には、足(あし)の拇指(あうゆび=おーゆび)の爪(つめ)の甲(こう)の根もとの当中(まんなか)に灸七壮(ひ)。男(おとこ)は左(ひだり)、女(おんな)は右(みぎ)り。章門に七壮(ひ)。太冲(たいしょう)・独陰に五壮(ひ)。立(たち)どころに愈(いゆ)。もし或(あるい)は愈(いえ)ざれば、更(さら)に焼(やく)べし。
○腹中(ふくちゅう)に陽気微(うす)くして、冷気(れいき)、心(しん)を衝(つい)て痛め、或(あるい)は痰沫(だんまつ)を嘔(おう)し、大便(たいべん)頻(しき)りに利せんとして、快(こころよ)く通(つう)せず、或(あるい)は腹中(ふくちゅう)倶(とも)に痛(いたむ)には、臍(へそ)の下六寸、両傍(りょうほう)の𤄃(ひら)き各々(おのおの)一寸づつに灸すること二十一壮(ひ)。
〔・臍の下六寸:骨度法では臍(神闕)から曲骨までを五寸とする。〕
○又方(ほう)、蝋縄(もとゆい)を以(も)て病人の口の両角(りょうすみ)を一寸となし、夫(それ)を三摺(■けおり)になし、三角(さんかく)とし、一角(いっかく)を以(もっ)て
二十一オモテ
臍(へそ)の心(しん)に置き、両角(りょうすみ)は臍(へそ)の下(しも)に垂(たら)しめ、両傍(りょうほう)の端(はし)に点(しる)記(し)を附(つけ)て、灸二十一壮(ひ)。神効あり。立(たち)どころに差(いゆ)るなり。
〔・もとゆい:元結い。髻(もとどり)を結ぶ糸。/・摺:おりたたむ。「三摺」は、三つに折るという意味であろうが、はじめのカナ(■)が読めず。どなたか、ご教示下さい。/・心:芯。中心。〕
△是(この)病(やまい)急に救(すくわ)ざれは、三四日の中(うち)に死す。大病(たいびょう)の後(のち)、或(あるい)は老人などに是(この)症(しょう)を発せば、一両日(いちりょうにち)に死す。急に丁子(ちょうじ)・乾薑(かんきょう)の類(るい)を服さしめて後(のち)、艾火(がいか)を施すべし。必ず針(はり)を刺(さす)ことなかれ。針(はり)に補瀉ありといへども、実は瀉に効(こう)あり。瀉するときは気を脱す。予(よ)常に門生(もんせい)に示して針(はり)を禁ず。針(はり)もし腹内(ふくない)に下(くだ)りて、痛(いたみ)忽(たちまち)止(やむ)ことあり。忽(たちまち)死す。恐(おそ)るべし。丁子(ちょうじ)・乾薑(かんきょう)・茴香(ういきょう)の咽(の)とに下(くだ)りて回陽(かいよう)するなり。甚(はなはだ)速(すみや)かなり。
○心(むね)痛(いた)んで涎(よだ)れ沫(あわ)を嘔(えづ)き吐(はく)こと数日(すじつ)にして愈(いえ)ざれば、必ず三(みつ)の
二十一ウラ
虫(むし)あり。是(この)虫を取(と)れは、涎(よだれ)の多きも止(やみ)、心(むね)の痛(いたみ)も止(やむ)なり。上脘に灸すること七壮(ひ)。十二日にして治(ぢ)す。三虫(さんちゅう)を取(とる)の法、口授(くじゅ)。
〔・三つの虫:三虫。三尸のことであろう。〕
○胸中(きょうちゅう)へ瘀血逆(のぼ)り滞り痛(いたむ)あり。胗候(みよう)、口伝(くでん)。下(しも)三里・内関・神門・太淵に鍼(はり)して即効(そくこう)あり。
○心(むな)痛(いた)んで口禁(クチキン/くいしばる)ずるには、期門に三壮(みひ)。陰卵(きんたま)の下(した)、十字の紋(すぢ)に五壮(いつひ)。

壬の声

「壬」は漢音でジン,呉音でニンです。『漢辞海』にはそう載ってます。
ところが,小篆では2種類あって,ジンとテイだと指摘されました。いわれてみると廷の声符としてはテイでないと困る。

そこで『説文解字』をみてみると,「壬,善也。从人士。士,事也。一曰象物出地挺生也。」と有りました。段玉裁は壬挺疊韵といってますから,多分,あとの一曰がテイなんでしょう。もともと別の字なのかも知れない。
廷孔

仮名読十四経治方 〔翻字〕16

十三 頭痛(づつう)門
△凡(およそ)頭痛を治(ぢ)せんと欲(ほつ)せば、手足の諸(しょ)陽経を刺(さす)べし。針(はり)は気を引(ひく)に功(こう)あればなり。譬(たとえ)ば湯(ゆ)の沸(わく)を止(とど)むるは、釜下(かまのした)の薪(たきぎ)を抽(ひく)がごとく。然れども痰厥(たんのぼせ)の頭痛のごときは、気を引(ひく)ことあたはず。必ず頭部の穴(けつ)に灸すべし。即ち能(よく)痊(いゆ)るものなり。何(いか)んとなれば、艾(もぐさ)の性(せい)は熱するものゆゑ、之(これ)に灸するときは、其(その)熱をして発散せしむなり。或(あるい)は寒(かん)ずるものに灸を施すときは、其(その)寒(かん)をして温め和(か)すればなり。又(また)諸(しょ)陽経を瀉せんと欲(ほっ)する則(とき)は、先(まづ)百会の穴(けつ)に針(はり)して、必ず諸(しょ)陽
十六ウラ~十九
の熱気を引(ひき)て下(くだる)に行〔イカ〕しむものなり。譬(たとえ)ば硯滴(みづいれ)の上孔(うわあな)を開(ひらく)がごとし。然(しかれ)ども熱極めて、気を下(くだ)すこと能(あたわ)ざるものあり。即ち三稜針を以て其〔ソノ〕頭部の血絡(ケツラク/ちすぢ)を刺して血(ち)を棄(すつ)ること、糞(ふん)のごとくすれば、神効(しんこう)あり。
〔硯滴:すずりの水入れ。水差し。通常、そそぎ穴と空気穴(上孔)の二穴あり。〕
△頭痛、其〔ソノ〕因〔ヨッorヨリ〕て来するところ多端(タタン/はしおおく)なれば、一一挙(あげ)て諭(さと)しがたし。大抵は、承満・梁門・関門を幾(いく)たびも針(はり)し瀉して、効(こう)あり。唯(たた)其(その)頭痛するところの経を考(かんが)へ、前後左右に随(したが)ふて、手足の経穴を刺(さす)べし。

2017年8月14日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕15

十五オモテ
十二 淋病門 及び遺尿(よばり) 遺精(せいのもる) 白濁(おりもの)
〔よばり:夜尿。「ばり」は「ゆばり(尿)」の略。〕
△淋病(りんびょう)は、五臓(ごそう)の不足より、膀胱(ぼうこう)に熱を貯(たくわ)ふて致(いた)すと。湿毒(しつねつ)の熱(ねつ)蒸(むし)来(きた)りて、水道(すいどう)通(つう)ぜす、淋瀝(しただり)て出(いて)ず。或(あるい)は尿(しょう)水(べん)、豆(まめ)の汁(しる)のごときあり。或(あるい)は沙石(シャセキ/すないし)、或(あるい)は冷(ひえ)淋(しただ)りて、膏(み)蜜(つ)のごとく、或(あるい)は熱し淋(しただ)り、又は血出(いづる)あり。
○絶骨・太冲(たいしょう)・気海・中極に百壮(ひ)。曲骨には七壮(ひ)より二十一壮(ひ)に至る。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・五淋:「復溜・絕骨・太冲・氣海・中極、百壯。曲骨、在橫骨上、毛際陷中。七壯至七七壯」。
・「湿毒(しつねつ)」は,「湿毒(しつどく)」のあやまりだろうか。/・しただる:滴る。下に垂れる。〕
○老人、気虚(きょ)して淋病を患(わずら)ふには、脊(せなか)第七(しち)九(く)の椎(すい)の𤄃(ひら)き一寸半、各(おの)おの二十一壮(ひ)。
○小便赤く渋(しただ)り、閉(とぢ)て通ぜす、及び熱淋・血淋、或(あるい)は酒(さけ)の後(のち)、房事(ホウジ/いんよく)を行なひて病(やみ)たるには、気海に二百壮(ひ)と臍下(へそのした)一寸半に灸五十壮。手の左右の曲池に五
十五ウラ
壮(ひ)。五日を約(やく)して治(ぢ)すべし。
〔臍下一寸半:気海穴の位置と同じ。/『萬病回春』淋證:「八正散 治心經蘊熱,臟腑閉結,小便赤澀,癃閉不通及熱淋、血淋。如酒後恣欲而得者,則小便將出而痛,既出而痛,以此藥主之」。〕
○知(しら)ず、精(せい)の遺(もる)るあり。夢見て遺(もる)るあり。腎兪に二十一壮(ひ)。陽関に五壮。
○遺尿(イニョウ/よばり)には、気海・石門に百壮(ひ)。八髎に五十日。約(やく)するに、十日を焼(やき)て治(ぢす)べし。妙々(みょうみょう)。然れども飽食(ぼうしょく)するときは治(ぢ)せず。食(しょく)すること日(ひ)に一合(いちごう)半。食を減じ胃嚢(いぶくろ)を細くして後(のち)、灸すべし。
〔五十日:「五十壮(ひ)」の誤りか。〕
△余(よ)常に瓜蔕(かてい)を用ひて一吐(いっと)せしめ、胸膈を踈(すか)し後(のち)、食を減ずること七日、体(から)多(だ)微(すこ)しく瘦(やせ)たるを見て、烏頭(うづ)・附子(ぶし)・破胡紙(はこし)の類を服さしめ、屡々(しばしば)面眩(めんけん)に似たるときは、治(ぢ)を得(う)る。瓜葶を與(あた)ふこと増減あり。病者(びょうしゃ)の面色(めんしょく)を照(てら)して用(もち)ゆ。口授(くじゅ)。
〔破胡紙:補骨脂。マメ科。オランダビユの成熟した実。/ ・瓜葶:瓜蔕(蒂)。/・面眩:瞑眩。〕
○溺道(しょうべん)より白き濁(にごり)たるもの出(いづ)るには、照海・期門・陰蹻・腎兪・三陰交
十六オモテ~十九
〔おそらく「十七」~「十九」の板番号(丁)をぬかしたのであろう。〕
皆灸すること二十一壮(ひ)。神効(しんこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・溺白濁:「照海・期門・陰蹻・腎兪・三陰交、皆灸」。陰蹻は照海穴の別名でもあるが、同時にもちいられているため、交信の別名と考えられる。〕

2017年8月13日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕14

十一 疝気門
△疝に種々(じゅしゅ)あれども、大抵寒熱の二種に差(わけ)て治(ぢ)すべし。
〔じゅしゅ:濁点の位置をあやまっている?「しゅじゅ」か?〕
○疝気忽(たちま)ち逆(のぼ)りて、大(おおい)に心腹(しんふく)を急(い)痛(た)め、悶(もだえ)苦(くるし)んで、呼吸(いき)通(とお)りがたきの急なるには、足の左右の甲根(つめのね)に、三稜針を入〔イル〕るること一部。血(ち)を取(とる)べし。大冲(たいしょう)・内太冲(ないたいしょう)に三壮(ひ)づつ、独陰に
十四ウラ
五壮(いつひ)。神効(しんこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・疝氣上衝、心腹急痛、呼吸不通:「太冲・內太冲・期門、三壯。獨陰、五壯。甲根鍼一分、灸三壯。內太冲、甲根穴、在於別穴中。鍼灸神效」。『鍼灸經驗方』別穴・內大衝:「在足太冲穴對內傍、隔大筋、陷中。舉足取之。主治疝氣上衝、呼吸不通。鍼(一分)灸(三壯。極妙)」。〕
○疝毒伏々然(ふくふくせん)として動気を発し、上脘よりして鳩尾に逆(のぼ)り、遂に胸(むね)を突(つい)て気(いき)促(だわ)しく、将(まさ)に死せんとするには、急に麪粉(メンフン/そうめんのこ)、水(みつ)に𩜍(ね)り、餅のごとくなし、臍(へそ)の四畔(ぐるり)に置き、炒塩(いりしお)を衠(かた)め、厚さ五部ばかりになし、灸すること百壮(ひ)より二百に至る。艾炷(もぐさ)の大(おおき)さ、小(ちいさ)き棗(なつめ)の核(たね)ほどに作るべし。微(すこ)し温(あた)たまるを以て度(と)とすべし。
〔・𩜍:おそらく「練」の異体字。・衠: 『康煕字典』「眞也,正也,不雜也」。意味からして、「填」「闐」(充塞、充滿)などの異体字か。〕
○陰頭(イントウ/へのこさき)痛(つう)には、太敦(たいとん)・太冲(たいしょう)・腎兪(じんゆ)・陰交(いんこう)に灸す。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・陰頭痛:「太敦、太冲、腎兪、陰交」。〕
○陰戸(インコ/ぼぼ)痛(つう)には、曲泉・気衝を治(ぢ)すべし。陰(いり)腫(はれ)て挺(テイ/さね)出(シュツ)せば、曲泉・気衝・陰蹻・崑崙・太敦(たいとん)等(とう)に灸二十一壮(ひ)づつ。妙効(みょうこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・陰腫挺出:「曲泉・大敦・氣衝・獨陰・陰蹻・崑崙」。 /『諸病源候論』婦人雜病諸候:陰挺出下脫候:「胞絡傷損,子臟虛冷,氣下衝,則令陰挺出,謂之下脱。亦有因産而用力偃氣而陰下脫者。診其少陰脈浮動,浮則爲虛,動則為悸,故脫也」。子宮下垂・子宮脱。陰蹻は、おそらく交信の別名。
・「いり」は、「いれ」に見える(「り」の元の字「利」と「れ」の元の字「礼」からなるカナは似ている)が、意味が取れる「いり」と翻字した。いり(引っ込んだ奥の所)は、陰部を指すと解した。〕
△疝の病(やまい)、十(じゅう)に七八は寒(かん)に属す。烏頭(うづ)・附子(ぶし)・桂支(けいし)・羗活(きょうかつ)の類(るい)、能(よく)治(ぢ)す。針灸(しんきゅう)は、其(その)間(あいだ)に突出して効(こう)を奏(と)る。

仮名読十四経治方 〔翻字〕13

十 水腫門 うきやまひ
△夫(それ)水腫の疾(やまい)、其(その)症多しといへども、一大(いつたい)要領は、虚実を見て治(ぢ)すべし。針灸(しんきゅう)も効(こう)を奏(とる)こと多しといへども、其(その)治(ぢ)
十三オモテ
法は、食を減じ、塩味(ヱンミ/しお)・肉味(にくみ)を禁ず。能(よく)其(その)方症を対(たい)して平易(へいい)の行気(こうき)利水(りすい)の剤(さい)を投ずれば、通身(みうち)皷(つづみ)のごとく腫脹するものも、必(かならず)連々(れんれん)に験(しるし)を奏(と)る。然れども虚(キョ/へり)腫の類(るい)は、脾胃大(おおい)に虚乏(つかれ)、水を制すること能(あた)はず、精臓(セイゾウ/じんすい)虚(キョ/へり)冷(れい)から致(いた)すなれば、決して針灸(しんきゅう)を用ゆべからず。其(その)治(ち)法(ほう)は、大抵附子(ぶし)の入〔イリ〕たる薬方を証(しょう)に対(たい)し、照(てら)して與(あた)ふべし。易(やす)く治(ぢ)せず。元(もと)脾胃の気和(か)せざるより、水(みず)皮膚に妄行(モウコウ/みだりにゆき)して、小便(しょうべん)利(り)せず、遂に浮病(うきやまい)となる。方書(ほうじょ)に云(いう)、水分の穴(けつ)を針(はり)して、水尽(つく)れば斃(たお)るとあり。然れども浮腫(うきはれ)甚(はなはだ)しきときは、飲食なりがたし。腹(はら)に太皷(たいこ)を抱(いだく)に似て気(いき)促(だわ)しく、神(シン/こころ)悶(もだ)へ乱れて
十三ウラ
已(すで)に死せんとするあり。其(その)時(とき)急に救(すくう)べし。
〔・連々:たえず、ゆっくり。/・いきだわし:息だはし。「息労(いた)はし」の転。息づかいがはげしくて苦しい。息苦しい。息切れがする。/・急に:いそいで。 〕
〔『鍼灸資生經』卷一・腹部中行:「水分……禁針。針水盡即斃」。〕
○三稜針にて水分の穴(けつ)を刺(さ)し、水を出(いだ)し取(とる)こと三分(さんぶ)の二つなり。脹(はり)下(さが)りて臍(へそ)の辺(へん)にいたり、未(いま)だ水(みず)を竭(つく)すに至らず、急に血竭(けつかつ)の末(こ)、又は寒水石(かんすいせき)の末(こ)を針(はり)の穴(あな)へ塗(ぬり)付(つく)れは、即ち塞(ふさい)で水止(とどまる)なり。
〔『鍼灸經驗方』腫脹:「浮腫・鼓脹、乃脾胃不和、水穀妄行皮膚、大小便不利之致也。方書云、鍼水分、水盡則斃。然而水脹甚、則不能飲食、腹如抱鼓、氣息奄奄、心神悶亂、死在頃刻。當其時、若不救急、則終未免死亡。愚自臆料以謂等死莫如救急、鍼水分、出水三分之二、脹下至臍、未至盡水、急用血竭末、或寒水石末、塗付鍼穴、即塞止水」。
・血竭:ヤシ科のキリンケツヤシ(麒麟血・麒麟竭やし)の果実が分泌する紅色樹脂を塊状に固めたもの。 /・末(こ):粉(こ)。粉末。 /・寒水石(かんすいせき)は古くが芒硝の天然結晶体をいっていました。日本の正倉院御物にある寒水石は石灰芒硝という説もあります。 現在、市場に出ている寒水石(かんすいせき)には2種類あり、中国北部では紅石膏、中国南部では方解石が一般的であります。方解石の主成分は炭酸カルシウムで、その他にマグネシウム、鉄、マンガンなども含む。紅石膏の主成分はCaSo・2H2Oで、微量の鉄、アルミニウムを含みます。 漢方では清熱・除煩・生肌の効能であり、熱性疾患や煩躁、歯肉炎、丹毒、やけどなどに用いられます。〕
http://www.kanpou-store.net/productSearch/productSearch207.html
○浮腫(フシュ/うきはれ)の人(ひと)、陰茎(いんきょう)・陰(き)卵(ん)倶に腫(はれ)るものなり。睾(きん)・外腎(ガイシン/へのこ)に針(はり)して多く水を出(いだ)せば安(やす)し。水絡(すいりゃく)をみて刺(ささ)ざれば、水能(よく)出(いで)がたし。
〔『鍼灸經驗方』腫脹:「且浮腫之人、或有外腎及腎囊、亦致腫者、鍼刺腎皮及囊皮、多出黃水、則安。……如或出血、則不吉之兆也。蓋鍼外腎、出水者、通利小便之義也、吉。鍼手足、出水者、妄行皮膚之義也、凶。凡病加於少愈。都在慎攝而已」。『說苑』敬慎: 「官怠於宦成、病加於少愈、禍生於懈惰、孝衰於妻子」。
・外腎:腎囊。陰囊。舊時稱睾丸為外腎。清 黃六鴻 《福惠全書‧刑名‧檢肉尸》: “小腹、陰囊、外腎、玉莖。” / ・へのこ:陰核(陰嚢の中の核)。睾丸。転じて陰茎。 /・水絡:漢語の中医辞典に見えず。血絡から類推された日本漢方用語か。〕
△水絡(すいりゃく)の観候(みよう)、口授(くしゅ)。若(も)し初心(しょしん)の輩(ともが)ら妄(みたり)に鍼(はり)し過(すぎ)て血絡(けつりゃく)を刺(ささ)ば、大(おおい)に血(ち)を出(いだ)し、止(やむ)べからざるに至(いた)る。恐(おそ)るべし。慎(つつし)むべし。血絡(けつらく)の胗候(みよう)、口授(くじゅ)。
〔胗:「診」に通ず。〕
○惣身(そうみ)及び面(かお)も手足も浮き脹(はり)て、洪大(こうだい)なるは、内踝(うちくるぶし)の下(した)、白き肉の
十四オモテ
際(あいだ)に灸すること三壮(ひ)。能(よく)脹(はり)を銷(しょう)し、小便を利す。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・滿身卒面浮洪大:「內踝下白肉際三壯、立效」。〕
○水腫、腹脹(はらはり)たるには、水分・三陰交に灸百壮(ひ)。陰蹻に七壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・水腫腹脹:「水分・三陰交、幷百壯。幷治五臟兪穴中脘。針後按其孔、勿令出水。陰蹻七壯」。
・陰蹻:照海あるいは交信。後文によれば、交信であろう。〕
○手足(てあし)・面目(かおめ)のあたり、浮(うき)たるには、人中・合谷・照海・絶骨・下(しも)三里・曲池等(とう)に針(はり)すること五ア〔=ぶ〕。又(また)中脘に一寸。七日にして腫(はれ)銷(しょう)し、神(しん)安(やすう)して、食を進む。妙(みょう)。後(のち)艾火(やいと)を用ひて再び発せざるあり。口伝(くでん)。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・四肢面目浮腫:「照海・人中・合谷・下三里・絕骨・曲池・中脘針。腕骨・脾兪・胃兪・三陰交」。
・五ア:「ア」は、「部」字の旁のみを残した略体。以下、この「ア」字は、「部」とする。意味は「分」。〕

2017年8月12日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕12

九 積聚(しゃくじゅ)門 しやくつかへ
△積(しゃく)はつむと訓(くん)じ、聚(じゅ)はあつまるの義(ぎ)にして、気血(きけつ)の何日(いつ)となく積(つみ)て塊(かたまり)をなし、或(あるい)は集(あつま)り結ぼれて、腹中こころ好(よ)からぬの名(な)なり。五積(ごしゃく)の差別(しゃべつ)ありといへとも、針灸(しんきゅう)の治療(ぢりょう)多くは同じ。
○痞悶(つかえ)といふて、心下(むなした)怏(あし)く脹(はり)、こころに覚(おほ)へ、按じて痛(いたみ)なきを痞塊(ひしゃく)といふ。専(もつ)はら痞根(ひこん)の穴(けつ)に灸すべし。此(この)穴所は脊(せ)の第十三椎(ずい)の下(し)も左右へ𤄃(ひら)くこと各(おのおの)三寸半。多くは左辺に灸す。
〔覚(おほ)へ:原文「ほ」ではなく「え」に見えるが、意味として「覚(おぼ)へ」であろう。〕
十一ウラ
若(もし)左右ともに塊(かたまり)あらば、左右を焼(やく)べし。毎日二百壮(ひ)より三百。
○臍下(サイカ/へそ)に結(かた)塊(まり)ありて碗(わん)の大(おおきさ)のごとく、或(あるい)は盆(ぼん)のごときあり。新久を問〔トワ〕ず、関元・間使、各(おの)おの三十壮(ひ)。太冲(たいちゅう)・太谿(たいけい)・三陰交(さんいんこう)・合谷(こうこく)等(とう)に灸三壮(ひ)。腎の兪(ゆ)に年(とし)の壮(かず)。病者(びょうしゃ)若(も)し一月(いちげつ)を焼(やか)は果(はた)して病(やまい)の塊り消散すべし。
〔『鍼灸經驗方』積聚・臍下結塊如盆:「関元・間使、各三十壯。太冲・太谿・三陰交・合谷、各三壯。腎兪以年壯。獨陰、五壯」。〕
○疼積(とうしゃく)にて塊(かい)なさば、肺兪に百壮(ひ)。期門に五壮(ひ)。脊(せ)の第六椎(ずい)の下(した)七椎(しちずい)の上(うえ)、骨(ほね)をはづして右辺(みぎり)に炷(すゆ)べし。小(ちいさ)き棗(なつめ)の核(たね)の大(おおきさ)にして二十一壮(ひ)。神効(しんこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』積聚・痰積成塊:「肺兪、百壯。期門、三壯」。したがって、「疼積」は「痰積」のあやまり。「みぎり」は「ひだり」の反対。〕
○奔豚気(ほんとんき)といふは、小腹(しょうふく)痛(いたむ)積(しゃく)なり。是(これ)は腎水(じんすい)の虚(キョ/へり)より発(おこる)の積(しゃく)にして、二種(にしゅ)あり。一は、奔豚(ほんとん)として動気(どうき)下(しも)より発(はつ)し、中脘・上脘と敵上(うちのぼ)るあり。
十二オモテ
倶(とも)に腎の積なり。脇(わき)章門に百壮(ひ)。腎兪に年(とし)の壮(かず)。気海に百壮(ひ)。期門に三壮(みひ)。独陰(どくいん)に五壮(いつひ)。太冲(たいしょう)・太谿・三陰交・田根(でんこん)に各(おの)おの三壮(みひ)。約するに五十日を焼(やき)て治(ぢ)すべし。若(も)しくは軽症のものは、廿一日に治(ぢ)す。
〔『鍼灸經驗方』積聚・奔豚氣:「小腹痛也。氣海、百壯。期門、三壯。獨陰、五壯。章門、百壯。腎兪、年壯。太冲・太谿・三陰交・田根、各三壯」。『鍼灸經驗方』獨陰二穴:「在足大指次指內中節橫紋當中。主胸腹痛及疝痛欲死。男左女右」。
『鍼灸經驗方』甲根四穴:「在足大拇指端爪甲角、隱皮爪根左右廉內甲之際。治疝。鍼(一分)灸(三壯。極妙)」。よって「田根」は「甲根」のあやまり。『鍼灸大成』獨陰二穴「在足第二指下,橫紋中是穴,治小腸疝氣,又治死胎,胎衣不下,灸五壯」。甲根の出典に『針灸奇穴辞典』は『千金翼方』を掲載するが、『千金翼方』原文は「治卒中邪魅恍惚振噤法︰鼻下人中及兩手足大指爪甲,令艾炷半在爪上,半在肉上」で、「兩手足大指爪甲」、主治もことなる。
「一は」といい、「二は」あるいはもう一度の「一は」がなく、「倶に」という。脱文あるを疑う。〕
○腹中の積塊(しゃくかい)上(かみ)へ行(のぼ)るあり。中極に百壮(ひ)。また懸枢の穴に三壮(ひ)。これは第十二椎(ずい)の節(ふし)の下(した)にあり。伏(うつぶ)して取(とる)べし。
〔『鍼灸經驗方』積聚・腹中積聚氣行上行:「中極、百壯。懸樞、三壯。在第十三椎節下間。伏而取之」。本文の「十二椎」はあやまりであろう。〕
○積気(しゃくき)熱(ねつ)を貯(たくわ)ふときは、動気(どうき)臍(へそ)の傍(かたわら)より生じて、心先(むなさき)へ上(のぼ)り、気(き)聚(あつま)りて塊(かたまり)をなし、脊(せ)の第(だい)七九(しちく)の椎(ずい)より、或(あるい)は腰(こし)を周(めぐ)りて鬱重(ウツチョウ/うつしおもく)し、或(あるい)は痺(しび)れ、或(あるい)は咳嗽(せき)出(いで)て大便難(かた)き症(しょう)あり。腎兪に年(とし)の壮(かす)。肺兪・大腸兪・肝兪・太冲(たいしょう)等(とう)に二十一壮(ひ)。三十日を焼(やき)て、腹中に脹(チョウ/はり)
十二ウラ
悶(モン/くるしき)を覚(おぼ)へざれば、日(ひ)に百壮(ひ)より二百に及ぶ。数日(すうじつ)にして灸一万壮(ひ)に至れば、積根(しゃくこん)すでに絶(たえ)て、生涯(しょうがい)積(しゃく)の患(うれ)ひなし。
○積聚(しゃくじゅ)に五種(ごしゅ)あり。伏梁(ふくりょう)・息賁(そくほん)・肥気(ひき)・痞気(ひき)・奔豚(ほんとん)。いづれも倶(とも)に臓病(ぞうびょう)に属す。聚(じゅ)は腑病(ふびょう)を主(つかさど)る。皆(みな)艾火(がいか)を用ひて効(こう)あり。唯(ただ)其(その)急に発(はつ)して腹(はら)いため、及び心下(しんか)を攻(せむ)るときは、鍼術(しんじゅつ)を施(ほどこ)し急に治(ぢ)すべし。天枢・章門を刺(さく)こと二寸。即効(そくこう)あり。
〔刺(さく):おそらく「刺(さす)」のあやまり。〕

2017年8月10日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕11

八 嘔吐門 附 翻胃(ホンイ/しょくかえす) 呑酸(トンサン/すきおくび) 呃逆(キツギャク/しゃくり)
〔すきおくび:酸っぱいゲップ。胃内酸水、口にのぼる。〕
△凡(およそ)嘔吐(えづき)する症は、陰気上(かみ)へ逆(さかのぼ)り、陽気の勝(たえ)ざる
十オモテ
より致(いた)すものなり。又(また)心腹痛んで嘔(オウ/えづき)するなり。あるひは寒熱より致すあり。或(あるい)は痰飲の腸胃に客(かく)となりて致すあり。これは病(やまい)ありて後(のち)嘔するなれは、其(その)主(しゅ)たる疾(やまい)を療(りょう)すれは、嘔(おう)は自(みづか)ら止(や)む。医者切(せつ)に其〔ソノ〕因(より)て来(きた)す所を察せずんは、何(なに)の効(こう)か有(あら)ん。
○下(しも)閉(とぢ)て大便せず、気上(かみ)へ逆(のぼ)せて嘔吐するは、関格(かんかく)の症(しょう)といふ。宜しく四関(しかん)の穴を針して幾次(いくたび)も瀉すべし。
〔四関の穴:『鍼灸大成』『鍼灸経験方』:合谷と太衝をいう。〕
○腹中に冷気を含んで嘔吐するには、中脘・内関に針して、陽気を揺(うご)かし、三陰交に針を留(とど)めて、呼吸十二息(そく)。大〔オオイ〕に神効(しんこう)。
○乾嘔(カンオウ/からえづき)するには、尺沢・中渚(ちゅうちょ)・隠白(いんはく)・章門・間使・乳(ち)の下(した)一寸等(とう)に灸三壮(みひ)。
〔乳下一寸:『備急千金要方』卷十六胃腑・嘔吐噦逆第五「乾嘔:灸心主尺澤亦佳。又灸乳下一寸三十壯」。〕
十ウラ
○気、膈(むね)に否(つか)へて食進(すすみ)がたく、脊(せ)の七・九痛(いたむ)には、膈の兪(ゆ)・亶中(たんちゅう)・間使に三壮(ひ)。
○吐せんとして吐せざるには、心兪。
○嘔吐、忽(たちま)ち寒く、たちまち熱して、心神(しんじん)煩(わつら)はしきには、中脘・商丘・大椎(たいずい)・中衝・絶骨。
〔忽ち……たちまち:乍A乍Bにおなじ。二つの対立する状態・動作がつぎつぎに交替してあらわれる。〕
○虚人(きょじん)の常に食進みがたくして、嘔(えづき)の気味(きみ)あるは、脊(せ)の第七(しち)八(はち)九(く)椎(ずい)の𤄃(ひら)き、両方に灸五百壮(ひ)。即効あり。
〔椎の𤄃:脊椎から(一定の距離)はなれること。「開くこと」「去ること」とも表現される。〕
○噯気(あいき)呑酸は、胃中の熱と膈(カク/むね)上(しょう)の痰、相(あい)逆(むか=むこ)ふて清水(せいすい)を嘔吐す。中脘・膈兪に灸すべし。
△胃口(いこう)冷へ、手足ともに冷へ、呃逆(しゃくり)するには、中脘に灸すること二十一壮(ひ)。大に効(こう)あり。然(しかれ)ども是等(これら)の症は、針灸(しんきゅう)の能(よく)治(ぢ)すべきにあらず。丁子(ちょうじ)・乾薑(かんきょう)・桂枝(けいし)・良薑(りょうきょう)・柹蒂(してい)の
〔柹葶:柿蒂。柿のヘタ〕
十一オモテ
類を温服(うんふく)して良効(りょうこう)あり。湯液(トウエキ/くすり)に因(よっ)て針灸(しんきゅう)を与(あた)ふべし。然(しか)るときは、愈(いえ)ざるの病(やまい)なからむ。

2017年8月8日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕10

七 瘧疾門 おこり
△凡(およそ)瘧(おこり)一日に一次(ひとたび)午前(ひるまえ)より発(はつ)するは、邪気、陽分にあり。あるひは日(ひ)を隔(へだ)て、或(あるい)は三日を隔て、あるひは午後(ひるすぎ)或は夜(よる)に発するは、邪気、陰分に入(いる)ものなり。又日夜(にちや)に乱れ発(はつ)するものは、気も血(けつ)も倶(とも)に虚するなり。
【脉】弦数(けんさく)は多くは熱(ねつ)、弦遅(けんち)なるものは多くは寒(かん)と心得(こころえ)べし。
○寒(かん)多く、熱(ねつ)少(すくな)く、口苦(にが)く、咽乾(のどかわ)き、大便秘(ひ)し、小便赤く渋り、手臂(てひじ)より発(おこる)ものは、間使・三間に三壮(みひ)。妙なり。
○頂頭(かしらいただ)きのあたりより発(はつ)するものは、痛の日に当〔アタリ〕
九ウラ
て未発(いまだおこら)ざるまへ、百会(ひゃくえ)・大椎(だいずい)の尖(とがり)に灸三壮(みひ)。一時(いちどき)に焼(やき)て忽(たちま)ち治(ぢ)す。艾(もぐさ)の大〔オオキ〕さ、棗(なつめ)の核(たね)ほどに作るべし。
○寒冷なるものを多く食(しょく)し、脾に滞り鬱(うつ)して、瘧(ぎゃく)を発(はつ)し、あるひは脾胃虚し、または弱き人の患(うへ)ひたるには、神道(しんとう)に七壮(ななひ)、絶骨に三壮(みひ)。
〔患(うへ)ひ:「うれひ」の誤りか?〕
○痎瘧(がいぎゃく)に痰水および瘀血(おけつ)等(とう)塊りをなして、腹脇(フクキョウ/はらわき)のあたり、脹(はり)痛むには、月(つき)の三日と廿七日とに、期門に針して後(のち)に灸すること二十一壮(ひ)。神効(しんこう)あり。

2017年8月7日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕09

六 火症門 うちのねつ 附り発熱(ほつねつ)
八ウラ
△火症の疾(やまい)たるや、一身(いっしん)ことことく熱(ねつ)し、肌(はだ)へ燎(やく)がごとく【脉】多くは浮(ふ)にして洪数(コウサク/ふとくはやく)、其〔ソノ〕発(はつ)するや、虚火(きょか)の上焦(じょうしょう)に鬱(うつ)するものなり。又(また)実火(じつか)なるものあり。其(その)【脉】沈(ちん)にして実大(じつだい)。これは冷(ひえ)たるものなどを多く食(しょく)し、陽気伸(のび)ずして致(いた)す処(ところ)なり。
〔はだへ:〔文語・文章語〕皮膚。はだ。◆〔三島由紀夫・潮騒〕夕刻になってもその風は肌えを刺さなかった〕
○上焦(じょうしょう)燎(やく)ごとく、頭面(ヅメン/かしらかお)に瘡(かさ)を生(しょう)じ、風熱にて腫(はれ)痛(いたむ)には、中脘・関元・石門・期門等(とう)に針(はり)すべし。
○風熱にて歯痛み齦(はぐ)き腫(はれ)るには、其(その)痛むところに針して気を洩(もら)すべし。
○肝経に血少なく、脾胃瘦(つか)れて、肝火動き、熱の往来するには、天枢・否根の穴を治(ぢす)べし。
〔否根:痞根穴。〕
○三焦の実火内外(ないがい)倶に熱するには、三稜針にて、委中を刺(さ)
九オモテ
し、血(ち)を取(とっ)て治(ぢ)す。

2017年8月5日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕08

八オモテ
五 中湿門 しつきにあたる
△【脉】浮(フ/うかふ)にして緩(カン/ゆるく)なるは、湿(しつ)表(ひょう)にあり。沈(チン/しづむ)にして緩(カン/ゆるく)なるは、湿(しつ)裏(リ/うち)にあり。其(その)傷(やぶら)るるや、一身(いっしん)ことごとく痛み、あるひは身(み)重(おも)く、腰いたみ、手足倦怠(だるく)して、歩行なりがたく、悪寒(おかん)発熱(ほつねつ)吐瀉(トシャ/あけくだし)し、あるひは腹痛(はらいた)み、身体(しんたい)大に重くなるものなり。
○曲池・陰凌泉・合谷・肩井・肝兪・隔兪等(とう)に針(はり)すること五部。気を引(ひき)て経脉に通(つうず)べし。しかれども能(よく)疾(やまい)を治(ぢ)すること能(あた)はず。宜(よろ)しく独活(どっかつ)羗活(きょうかつ)防風(ぼうふう)蒼朮(そうじゅつ)陳皮(ちんひ)桂枝(けいし)の薬(くすり)を服して表(ひょう)発(はつ)して経(けい)を通じ気を泄(もら)すべし。速(すみやか)に効(こう)あり。

2017年8月4日金曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕07

四 中暑門 あつさにあたる 附り 霍乱 上(かみ)吐き下(しも)くだる
△凡(およそ)中暑の疾(やまい)汗(あせ)し下(くだす)べからず。但(ただ)熱を解(げ)し小便を利するを肝要とす。或〔アルイ〕は其(その)甚(はなは)だしきは、即ち死せんとす。忽(たちま)ち口禁じて語言(ものゆう)こと能(あた)はず。身体(シンタイ/からだ)反張(ハンチョウ/そりかえり)して四肢(てあし)動(うごか)ざるなり。此〔コノ〕時、芭豆(ばづ)も腹中に内(いるる)ことを得ず。瓜蔕(かてい)も咽(のど)に下(くだら)ざれは、倶(とも)に効(こう)なし。豈(あ)に艾火(きゅう)の尊(たっとき)ことを知らんや。急に両乳(りょうにゅう)の上(うえ)に灸すること七壮(ひ)、妙効あり。而(しこう)して後(のち)、其(その)【脉】虚微なれば、附子剤を施(ほどこす)べし。若(も)し弦芤なれば、桂枝・白朮(びゃくじゅつ)・猪苓(ちょれい)・沢瀉の類(るい)にて胃中を暖め、小便を利すべし。自然(しぜん)に身に熱(ねつ)しも
〔附り:つけたり。附録。〕
七オモテ
口の乾(かわき)も咽(のんど)の渇(かわき)も、小便の赤く渋り、大便の瀉(くだる)も止〔ヤミ/トマリ〕て治するなり。
○中暑霍乱にて、上(かみ)吐せず、下(しも)瀉せず、悶乱(モンラン/もだえみだれ)はなはだしく、胸腹(むねはら)大〔オオイ〕に疼(いた)んで苦楚(くるしみ)忍びがたきには、合谷・太冲(たいちゅう)・神闕に七壮(ななひ)づつ火を下(くだ)して、忽(たちま)ち差(いゆ)ること妙。
〔太冲:太衝におなじ。「たいちう」と「たいせう」のふりがなが混在する。〕
○又方、臍(へそ)の上(うえ)三寸に三壮(みひ)。三焦兪・合谷・太冲(たいちゅう)等(とう)に針して後(のち)、関衝に三稜針を入(いる)ること一部、血を出(いだ)せば立(たち)どころに差(いゆ)。
○転筋といふて筋(すち)動き攣(ひき)急(つり)、あるひは疼(いた)み、神(しん)にこたへ、或は上(かみ)吐(と)し下(しも)瀉(くだ)りて霍乱するには、先(まづ)急に委中・関衝を刺して血を出(いだ)すべし。しからざれは、転筋 腹に入(いり)て、心(しん)を衝(つき)、遂(つい)に死にいたるものなり。医忽(ゆるがせ)におもふべからす。
〔筋:原文は「筯」に見えるが、ふりがなに従って改めた。〕
七ウラ
○霍乱すべて心満(むねみち)て腹痛(はらいた)み、食を吐き腸鳴(ちょうなる)ものなり。中脘・内関・関衝より皆血を出(いだ)して効を奏(と)る。
○暴(にわか)に大便泄瀉(みずくだり)するには、間使の穴に灸すること七壮(ななひ)。若(も)し愈(いえ)ざれは、更に炷(すゆ)べし。
○霍乱にて已(すで)に死し、少(すこし)にても若(もし)暖(あたたま)りあるものは、承山を治(ぢ)すべし。此(この)承山の穴所(けつしょ)は、脚(あし)の腨腸(せんちょう)の中央に当(あたり)て分肉の間(あい)だ、脚跟(きびす)を去(さる)こと七寸にあり。是(これ)を起死(きし)の穴と名(なづ)けて、死人を起(いか)すの妙穴所(みょうけつしょ)なり。これに灸すること七壮(ななひ)。忽(たちま)ち蘇(いき)ること神(しん)のごとし。
○又方、塩(しお)を臍(へそ)の中(うち)に填(うづ)めて、其〔ソノ〕上に灸すること二十一壮(ひ)。および気海の穴に百壮(ひ)。奇効あり。

2017年8月3日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕06

六オモテ
三 中寒門 かんにあたる
△【脉】緊濇(キンショク/きびしくしぶる)なるものは、陰陽ともに盛(さかん)なり。法に針を用ひて経絡を通ずることなかれ。薬を用ひて当(まさ)に汗(あせ)すること無(なか)るべし。汗(あせ)せば、命(めい)を傷(やぶ)る。医忽(ゆるかせ)におもふべからず。
○五臓に寒気中(あた)りて口禁(くちきん)じて語言(ものいう)ことなりがたく、手足強(こわば)り、冷気刺(さす)がごとくに痛み、また臓毒下陥(ケカン/しもにおちいり)し、泄痢(セツリ/くだりはら)腹脹(はらはり)大便あるひは黄色(きいろ)あり、或(あるい)は白く、或(あるい)は黒く、又は清穀(セイコク/なまくだり)あるには、神闕・天枢に灸すること七壮(ひ)。而(しこう)して後(のち)参朮(じんじゅつ)乾薑(かんきょう)の温剤(うんざい)を投(とう)して効を奏(とる)こと神(しん)のごとし。
○寒気湿気に因(よっ)て干(おか)さるるには敢(あえ)て艾火(ガイカ/きゅう)の及(およぶ)べきにあらず。参朮(しんじゅつ)附薑(ぶきょう)の類(るい)に有ずんば効
六ウラ
を斂(おさめ)んや。

2017年8月2日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕05

二 中風(ちゅうぶう)門 かぜにあたる
△夫(それ)中風(ちゅうぶう)の證(しょう)に於(おけ)る劉河間は火(ひ)を主(しゅ)とし、東垣は気(き)
四ウラ
を主とし、丹渓は湿を主とす。後世(こうせい)に至(いたり)て種々(いろいろ)の論辨ありといへども、今(いま)これを載(のせ)て益なし。故(ゆえ)に略す。脉は大法浮沈なるものは吉(きつ)なり。急疾(キュウシツ/はやきはやく)にして大数(タイサク/はやく)なるは、凶(あし)し。
○中風(ちゅうぶう)寒(かん)を夾(さしはさ)むときは、浮遅(フチ/うかみおそく)を帯(おぶる)ぞ。暑(しょ)を夾(はさむ)ときは、脉虚す。湿を夾(さしはさ)むときは、脉浮(フ/うかむ)にして濇(ショク/しぶる)なり。
○卒中にて言(もの)いわず、肉痺(しび)れて人事を知(しら)ざるには、神道の穴に灸すること三百壮(ひ)すれば、立(たち)どころに差(いゆ)べし。
〔『鍼灸經驗方』「卒惡風不語肉痺不知人:神道在第五椎節下間、俛而取之、灸三百壯、立差」。〕
○遍身(そうみ)麻(しび)れ語(もの)言(いう)ことかなはず、口眼(くちめ)斜(ゆが)み喎(ひき)つりなどするには、間使・大迎(たいけい)・三里・承漿・合谷等(とう)に灸すること二十一壮(ひ)づつ十五日を約(やく)して治(ぢす)べし。
〔『鍼灸經驗方』「口眼喎斜:合谷・地倉・承漿・大迎・下三里・間使、灸三七壯」。〕
○遍身(そうみ)痒くして虫の行(はう)がごとく、但(ただ)怏々(こころわろ)く忍びがたく、或(あるい)は呵(あく)び嚔(はなひ)り
五オモテ
眼口(めくち)斜(ゆが)む等(とう)には、合谷・三陰交・曲池・神門(じんもん)に針入(いる)ること七部、而(しこう)して後(のち)肘の尖(とがり)に灸すること七壯(ななひ)、神効あり。
〔「怏」字、原文「快」に作る。意味から「怏」とした。九 積聚門も参照。「部」字は「分」が正しい(あるいは、かなと認識して「ぶ」と表記すべきか)と思われるが、ひとまずかえないでおく。以下、おなじ。 「而」のふりがな原文は「しかふう」か「しかつう」。/『鍼灸經驗方』「遍身痒如蟲行、不可忍:肘尖七壯。曲池・神門鍼。合谷・三陰交」。〕
○言舌(ごんぜつ)蹇渋(もとらず)して半身遂(かな)はず、或(あるい)は左右ともに癱瘓(ナンカン/なえ)し、久しく愈(いえ)ざるには、委中の穴に三稜針を入(いる)ること二部。悪血数升を出(いだ)して治(ぢす)べし。若(もし)くは軽症のものには、風市(ふじ)・絶骨・三里・曲池・肩井・列缺・委中等(とう)に灸すること、毎日五十壮(ひ)づつ、七十日を約(やく)して治(ぢす)ること神効(しんこう)あり。
〔癱瘓:本来の音は「タンタン」。 /『鍼灸經驗方』「言語蹇澁、半身不遂:百會……肩井幷風市・下三里・絕骨・曲池・列缺・合谷・委中・太冲・照海・肝兪・支溝・間使……」〕
○中風(ちゅうふう)睛(め)を弔視(つりあげ)語言(ものいう)こと能(あた)はず、手足(てあし)屈伸(のびかがみ)ならざるには、脊(せ)の第二椎(ずい)と五椎(すい)との上に七壮(ひ)、艾炷(カイチュウ/もぐさ)の大(おおき)さ小(ちいさ)さ、棗(なつめ)の核(たね)の大さにして炷(すゆ)べし。神効あり。
〔「椎」字、原文「推」に作る。『鍼灸経験方』にしたがい、改める。以下、手偏と木偏の字は意味にしたがい、適宜改める。 /『鍼灸經驗方』「中風眼戴上、及不能語者:灸第二椎幷五椎之上、各七壯同灸。炷如半棗核大」。〕
△中風(ちゅうぶう)の証、内傷(ナイショウ/うちのそんじ)に因(よる)ものは、外(ほか)の風邪(ふうじゃ)にあらず。多(おおく)は労役(ロウエキ/ほねおり)
五ウラ
することの甚(はなはだ)しく而(して)、真気を虚(へら)し、或(あるい)は憂へ怒(いかる)ことの積(つん)で其(その)気を傷(やぶ)るもの、卒(にわか)に目(め)眩(くるめ)いて倒れ、手足癱(なえ)痺(しび)れ、眼口(めくち)喎(ひきつ)り斜(ゆが)み、舌(した)強(こわ)りて語言(ものいい)がたき等(とう)は、必(かならず)しも針術(しんじゅつ)を数(しば)々施(ほどこ)すべからず。反(かえっ)て其(その)精神(せいじん)を竭(つく)し、命期(メイキ/いのち)を促(はやむ)るに至る。慎むべし。また肩井・曲池・三里・絶骨・風市(ふじ)・列决〔ママ〕等(とう)は、中風(ちゅうぶう)の妙灸(みょうきゅう)穴といへども、虚証の中風(ちゅうぶう)には多く炷(すゆ)べからず。三七壮(ひ)を期(ご)とし、但(ただ)薬液(ヤクエキ/くすり)の中(うち)を補ひ気を益(まし)を見(み)とめ、或(あるい)は防風・羗活・天麻・半夏・木香等(とう)の内(うち)より順多(じゅんき)して、手足に真陽の回(めくる)を候(うかが)ひて後(のち)、多く針灸すべし。深く虚実を認(とめ)て施さざれば、害多し。慎(つつし)むべし。
〔順多:ふりがなによれば、「順氣」の誤字か。/認(とめ)て:とむ。さがしもとめる。尋・求。〕

2017年8月1日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕04

三オモテ
仮名読十四経治法(ちほう)巻之上
津山彪編次

一 鍼灸之(しんきゅうの)大意
内経(だいきょう)に曰く、大(おおい)に労(つかる)るを刺(さす)ことなく、飢(うえ)たるを刺(さす)ことなく、大飽(たいしょく)を刺(さす)ことなく、酔(えい)たるを刺(さす)ことなく、驚くを刺(さす)ことなく、怒(いか)る人を刺(さす)ことなし、と。又(また)曰く、形気(からだ)不足せるもの或(あるい)は久しく病(やみ)て虚損せるもの、若(も)し針(はり)を刺(さす)ときは、重(かさね)て其気(そのき)を竭(へらす)、と。又曰く、針入(いる)ること僅(わずか)に芒(のぎ)のごとくなれとも、気のいづること車軸(ぼう)のごとし、と。△是(これ)いわゆる針の瀉するありて補(おぎな)ひ無(なけ)ればなり。凡(およそ)灸をするには、平旦(よあけ)よりして午後(ひるすぎ)に及ぶときは、
三ウラ
穀気(こくき)虚乏(へり)たるゆゑに、大(おおい)に宜(よろ)し。須(すべ)からく日午(ひる)までに施(ほどこ)すべし。大概(おおむね)脉絡は細き線(いと)の若(ごと)くなれば、竹筯頭(やいとはし)をもつて炷(すゆ)べし。ただただ其脉(そのみゃく)に当(あて)て灸をすれは、亦(また)よく疾(やまい)を愈(いや)すべきなり。是(ここ)を以て四肢(てあし)には但(ただ)その風邪(ふうじゃ)を去(さる)なれば、灸多く炷(すゆ)べからず。七壮(ななひ)より五十壮(ごじゅうひ)までにして止(やむ)べし。年(とし)の数(かず)に随ふて過(すぐ)ることを得ざるなり。然(しか)れども臍(へそ)の下(しも)の久冷(キュウレイ/ひえ)疝瘕(せんき)気塊(きかい)積気(しゃくき)の証(しょう)には、艾炷(もぐさ)の大(おおい)なるほど宜(よろ)し。故(かるか)ゆへに腹脊(はらせなか)は五百壮(ひ)を灸すべし。唯(ただ)巨闕(きょけつ)鳩尾(きゅうび)の穴(けつ)の如きは、是(これ)胸腹の穴といへども、灸して五十壮を過(すぎ)ずして止(やむ)なり。若(も)し艾(もぐさ)の大炷(おおひねり)を以て多く灸するときは、永く
四オモテ
心力(しんりょく)無(なか)らしむべし。頭項(ヅコウ/かしらうなじ)の穴も亦(また)多く灸するときは、精神(せいじん)を失す。臂脚(てあし)の穴に多く灸せば、血脉(ちすぢ)枯渇(かれかわい)て、肉瘦(にくやせ)毛枯(かれ)て、手足(しゅそく)力(ちから)なく、又(また)精神(せいじん)も失(うすく)なるべし。蓋(けだ)し穴処(けつしょ)に浅深(センシン/あさきふかき)あり。浅穴(あさけつ)に多く灸するときは、必(かならず)筋力(キンリョク/すぢちから)を傷(やぶ)る。故(この)ゆへに三壮(みひ)五壮(いつひ)七壮(ななひ)に遇(すぎ)ずして止(とどむ)なり。医者深く慎(つつしみ)て鍼灸を施(ほどこす)べし。必(かなら)ず忽(ゆるがせ)にすべけん乎(や)。
〔「頭項」の「項」字、「頂」に見えるが、ふりがなと『鍼灸経験方』により、「項」字とした。「七壮に遇(すぎ)ず」。『鍼灸経験方』は「過」字に作る。凡例では△は愚按のはずだが、ここは『鍼灸経験方』の文言。
・『鍼灸經驗方』鍼灸法:內經曰、無刺大勞、無刺大飢、無刺大飽、無刺大醉、無刺大驚、無刺大怒人。又曰、形氣不足者、久病虛損者、鍼刺、則重竭其氣。又曰、鍼入如芒、氣出如車軸、是謂鍼之有瀉無補也。凡灸平朝及午後、則穀氣虛乏、須施於日午。大概脉絡有若細線、以竹筯頭作炷、但令當脉灸之、亦能愈疾。是以四肢則去風邪、不宜多灸。故七壯至七七壯而止。不得過隨年數。臍下久冷疝瘕氣塊積氣之証、則宜芥炷大。故曰、腹背宜灸五百壯。如巨闕鳩尾、雖是胸腹之穴、灸不過七七壯而止。若大炷多灸、則令人永無心力。頭項穴多灸、則失精神。臂脚穴多灸、則血脉枯渇、四肢細瘦無力。又失精神。蓋穴有淺深。淺穴多灸、則必傷筋力。故不過三壯五壯七壯而止。可不慎哉」。〕

禁忌(いみもの)
○生冷(なまもの) 鶏肉(とりにく) 酒糆(さけめんるい) 房労(ぼうじ)等(とう)の物