2024年3月18日月曜日

鍼灸溯洄集 52

   卷中・二十二ウラ(718頁)

  (19)脇痛

左脇痛者肝經受邪也

  【訓み下し】

左の脇(わき)痛む者は,肝經 邪を受(う)〔く〕るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脇痛:「左脇痛者,肝經受邪也」。


○右脇痛者肝邪入肺也

  【訓み下し】

○右の脇痛む者は,肝邪 肺に入(い)るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脇痛:「右脇痛者,肝邪入肺也」。


○左右脇俱痛者肝火盛而木氣實

  【訓み下し】

○左右の脇 俱に痛む者は,肝火 盛んにして木氣 實す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脇痛:「左右脇俱痛者,肝火盛而木氣實也」。


○兩脇走注痛而有聲者痰飲也

  【訓み下し】

○兩脇(わき)走注 痛んで聲(こえ)有る者は,痰飲なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脇痛:「兩脇走注痛而有聲者,是痰飲也」。

 ○走注:病名。風邪游於皮膚骨髓,往來疼痛無定處之證。行痹的別稱,俗稱鬼箭風。『太平聖惠方』卷二十一:「夫風走注者,是風毒之氣,游於皮膚骨髓,往來疼痛無常處是也。此由體虛,受風邪之氣,風邪乘虛所致,故無定處,是謂走注也」。

 ◉『病名彙解指南』走注:「注病の一種なり。邪氣 血に隨て行き,或は皮膚に淫奕して,去來擊痛し,遊走して常に處にあることなし。故に名づく」。〔淫奕:行進貌。〕


○左脇下有塊作痛不移者死血也

  【訓み下し】

○左の脇の下(した) 塊(かい)有り,痛みを作(な)し移らず〔ざる〕者は,死血なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・脇痛:「左脇下有塊,作痛不移者,是死血也」。


○右脇下有塊作痛飽悶食積也

  【訓み下し】

○右の脇の下(した) 塊(かい)有り,痛みを作(な)し飽悶するものは,食積なり。

  【注釋】

 ★ものは:原文の添え仮名は「ヒノハ」。『萬病回春』原文に「者」とあることから,「モノハ」と解した。

 ◉『萬病回春』卷5・脇痛:「右脇下有塊,作痛飽悶者,是食積也」。


○肝火盛實有死血肝急丘墟[足外踝下如前陷中]中都[內踝上七寸䯒骨中]深刺

  【訓み下し】

○肝火盛んに實し,死血 有って,肝急,丘墟[足の外踝(とくるぶし)の下(した),前に如(ゆ)く陷中]・中都[內踝(うちくるぶし)の上(かみ)七寸,䯒骨(はぎほね)の中(うち)]深く刺す。

  【注釋】

 ★中都:『鍼灸聚英』治例・雜病・脇痛によれば,「中瀆」の誤り。

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・脇痛:「肝火盛、木氣實、有死血、痰注、肝急。鍼丘墟、中瀆」。

 ◉『鍼灸聚英』足厥陰肝經・中都:「(一名中郄) 內踝上七寸䯒骨中,與少陰相直。……主腸澼,㿉疝,小腹痛,不能行立,脛寒,婦人崩中,產後惡露不絕」。

 ◉『鍼灸聚英』足少陽膽經・中瀆:「髀外膝上五寸,分肉間陷中。……主寒氣客於分肉間,攻痛上下,筋痹不仁」。


○脇下痛不得息腕骨[手外側腕前起骨下陷者中]陽谷[手外側腕中銳骨下陷中]淺刺

  【訓み下し】

○脇の下痛み,息すること〔を〕得ず,腕骨[手の外の側(かたわら),腕前に起こる骨の下(した),陷者中]・陽谷[手の外の側(かたわら),腕中,銳(とがり)骨下の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』腕骨:「主熱病汗不出,脇下痛,不得息……」。

 ◉『鍼灸聚英』陽谷:「主癲疾狂走,熱病汗不出,脇痛……臂外側痛不舉……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・胸背脇:「脇痛陽谷腕骨宜」。


○胸脇痛支滿章門[季脇肋端]深支溝[出前]淺刺

  【訓み下し】

○胸脇(きょうきょう)痛み支滿,章門[季脇肋端(はし)]深く,支溝[前に出づ]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・胸背脇:「假如脇滿章門奇,脇痛陽谷腕骨宜。支溝膈俞及申脈」。

 ◉『鍼灸聚英』章門:「主腸鳴盈盈然,食不化,脇痛,不得臥,煩熱口乾,不嗜食,胸脇痛支滿,喘息,心痛而嘔……」。

 ◉『鍼灸聚英』支溝:「主熱病汗不出,肩臂酸重,脇腋痛,四肢不舉……」。


○脇下痛不得息申脉[外踝下五分之陷中白肉之間]腕骨[手外側腕前起骨下陷中]陽谷[手外側腕中鋭骨下陷中]淺刺

  【訓み下し】

○脇の下痛んで息すること〔を〕得ず,申脈[外踝(とくるぶし)の下(した)五分の陷中,白肉の間]・腕骨[手の外の側(かたわら),腕(わん)の前起こる骨の下(した)陷中]・陽谷[手の外の側(かたわら),腕の中(うち),鋭(とが)り骨の下(した)陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・胸背脇:「脇痛陽谷腕骨宜。支溝膈俞及申脈」。

 ◉『鍼灸聚英』腕骨:「主熱病汗不出,脇下痛,不得息……」。

 ◉『鍼灸聚英』申脈:「外踝下五分陷中,容爪甲白肉際。……主風眩,腰腳痛,䯒酸不能久立,如在舟中,勞極,冷氣逆氣,腰髖冷痹,腳膝屈伸難,婦人血氣痛,潔古曰:癇病晝發,灸陽蹺」。

 ◉『鍼灸聚英』陽谷:「主癲疾狂走,熱病汗不出,脇痛……」。


○脇痛結胸風市[膝上外廉兩筋之中]期門[直乳二肋之端]深刺

  【訓み下し】

○脇(きよう)痛結胸,風市[膝の上(かみ)外廉(そとかど),兩筋の中]・期門[直(じき)乳二肋の端(はし)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』期門:「主胸中煩熱……胸脇痛支滿,男子婦人血結胸滿,……仲景曰:……又曰:太陽與少陽並病,頭項強痛,或眩冒,時如結胸……又曰:……胸脇下滿,如結胸狀,譫語者,此為熱入血室,當刺期門……」。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・結胸:「刺期門。刺肺俞(嚴仁菴)。婦人因血結胸,熱入血室,刺期門……」。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・熱入血室:「七八日熱除而脈遲,胸脇滿,如結胸狀,譫語。此熱入血室,刺期門」。

 ◉『鍼灸聚英』古人有不行鍼知鍼理:「一婦人患熱入血室。醫者不識,用補血藥,數日成結胸證。許學士曰:〈小柴胡湯已遲,不可行也,可刺期門。予不能針,請善針者針之〉。如言而愈」。

 ★風市の関連主治,未詳。


  卷中・二十二オモテ(719頁)

○胸腹小腸痛京門[監骨下腰中季脇本夾脊]懸鐘[足外踝上三寸動脉之中]深刺

  【訓み下し】

○胸腹(むねはら)小腸痛み,京門[監骨の下腰の中(うち),季脇の本(もと),脊(せ)を夾(さしはさ)む]・懸鐘[足の外踝(とくるぶし)の上(かみ)三寸,動脈の中(うち)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』京門:「監骨下,腰中季脇本俠脊。……主腸鳴,小腸痛,肩背寒,痓(痙),肩胛內廉痛,腰痛不得俛仰久立」。

 ◉『鍼灸聚英』懸鐘:「主心腹脹滿。胃中熱。不嗜食。腳氣。膝䯒痛。筋骨攣痛。足不收。逆氣。虛勞寒損。憂恚。心中咳逆。泄注。喉痹。頸項強。腸痔瘀血。陰急。鼻衄。腦疽。大小便澀。鼻中干。煩滿狂易。中風手足不遂」。

 ◉『醫學入門』懸鐘:「主心腹脹滿,胃熱不食,膝脛痛,筋攣足不收,五淋,濕痹流腫,筋急瘛瘲,小兒腹滿不食,四肢不舉,風勞身重」。

 ◉『醫學入門』治病要穴:懸鐘:「主胃熱,腹脹,脇痛,腳氣,腳脛濕痹,渾身瘙癢,五足指疼」。

2024年3月17日日曜日

鍼灸溯洄集 51

   卷中・二十ウラ(716頁)

  (18)腹痛

腹痛者寒熱食血濕痰蟲虗實九種也

  【訓み下し】

腹痛は,寒熱食血濕痰蟲(こ)虛實,九(く)種なり。

  【注釋】

 ★蟲(こ):「蠱(コ)」字と混同して,カナを振っているのか。下文にも「コ」とある。/蠱:人腹中的寄生虫。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹痛者,有寒、熱、食、血、濕、痰、蟲、虛、實九般也」。


○綿綿痛無增减寒痛也

  【訓み下し】

○綿綿(べんべん)と痛み,增し減りの無きは,寒痛なり。

  【注釋】

 ○綿綿:連續不斷貌。【綿綿不斷】形容連續不絕。 ○减:「減」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「綿綿痛無增減,脈沉遲者,寒痛也」。


○乍痛乍止熱痛也

  【訓み下し】

○乍(たちま)ち痛み乍ち止(や)むは,熱痛なり。

  【注釋】

 ○『萬病回春』卷5・腹痛:「乍痛乍止、脈數者,火痛也(即熱痛)」。


○腹痛而瀉瀉後痛减食積也

  【訓み下し】

○腹痛んで瀉(くだ)り,瀉りて後(のち)痛み減るは,食積(しゃく)なり。

  【注釋】

 ○食積:九積之一。食滯不消,日久成積者。『雜病源流犀燭』積聚症瘕痃癖痞源流:「食積,食物不能消化,成積痞悶也」。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹痛而瀉,瀉後痛減者,食積也」。


○痛不移處者死血也

  【訓み下し】

○痛み處(ところ)を移さず〔ざる〕者は,死血なり。

  【注釋】

 ★「血」には「チツ」と添え仮名があるが,「チ」は「ケ」の誤字であろう。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「痛不移處者,是死血也」。


○腹痛引鉤脇下有聲痰飲也

  【訓み下し】

○腹痛んで脇の下に引き鉤(つ)り,聲(こえ)有るは,痰飲なり。

  【注釋】

 ○鉤:「釣・鈎・鉤」,通じて用いられる。 ○有聲:有聲音,發出聲音。音が出る/する。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹中引釣,脇下有聲,是痰飲也〔別訓:腹中に引き釣り,脇下に聲有るは,是れ痰飲なり〕」。


○以手按之腹軟痛止者虗痛也

  【訓み下し】

○手を以て之を按(お)し,腹 軟らかに痛み止(や)むは,虛痛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「以手按之,腹軟痛止者,虛痛也」。


○腹滿硬手不敢按實痛也

  【訓み下し】

○腹滿ち硬く,手 敢えて按(お)さざるは,實痛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹滿硬,手不敢按者,是實痛也」。


○時痛時止面白唇紅者蟲痛也

  【訓み下し】

○時に痛み時に止(や)み,面(おもて)白く唇(くちびる)紅(あか)きは,蟲(こ)痛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「時痛時止,面白唇紅者,是蟲痛也」。


  卷中・二十一オモテ(717頁)

○小腹脹痛氣海[臍下一寸五分]灸

  【訓み下し】

○小腹(ほうかみ)脹(は)り痛むに,氣海[臍の下(した)一寸五分]灸す。

  【注釋】

 ○小腹(ほうかみ):ほがみ・こがみ・このかみともいう。下腹部。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「小腹脹痛氣海焚」。


○繞臍痛水分[臍上一寸]曲泉[屈膝橫紋頭取之]中封[足內廉前一寸]深刺

  【訓み下し】

○臍を繞(めぐ)って痛むに,水分[臍の上一寸]・曲泉[膝を屈(かが)めて橫紋の頭(かしら),之を取る]・中封[足の內廉(うちくるぶし)〔內踝〕の前一寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○廉:添え仮名,また中封の位置[足內踝骨前一寸]から考えて,「踝」の誤字。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「繞臍痛兮治水分。……臍痛中封與曲泉」。

 ◉『鍼灸聚英』水分:「主水病,腹堅腫如鼓,轉筋不嗜食,腸胃虛脹,繞臍痛衝心……」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「主㿉疝,陰股痛,小便難,腹脇支滿,癃閉,少氣,泄利……」。

 ◉『鍼灸聚英』肘後歌:「臍腹有病曲泉鍼」。

 ◉『鍼灸聚英』中封:「主㾬瘧,色蒼蒼,發振寒,小腹腫痛,食怏怏繞臍痛」。


○燥屎舊積按之不痛為虗痛為實可灸不灸令病人冷結久而因氣冲心死刺委中[膝膕中央陷者]深

  【訓み下し】

○燥屎(らん)舊積(しやく),之を按(お)して痛まず,虛痛と為す,實と為す。灸す可し。灸せざれば,病人をして冷結せしめ,久しうして因って氣 心を冲(つ)くに死す。刺すこと委中[膝(しざ)の膕(おりかがんで)中央陷者]深く。

  【注釋】

 ★屎(らん):「ラン」,音の由来,未詳。

 ★之を按(お)して痛まず,虛痛と為す,實と為す:原文の誤読:「之を按(お)して痛まざるを虛と為し,痛むを實と為す」。

 ★因:『鍼灸聚英』は「困」に作る。

 ◉『鍼灸聚英』治例・腹痛:「有實有虛,寒熱燥屎舊積,按之不痛為虛,痛為實,合灸,不灸,令病人冷結,久而彌困〔久しくして彌々(いよいよ)困(くる)しむ〕,氣衝心而死,刺括委中穴」。


○腹滿心與背相引痛不容[巨闕旁各三寸]天樞[臍旁二寸]三隂交[內踝上三寸中]

  【訓み下し】

○腹滿ち,心(むね)と背相い引き痛む,不容・[巨闕の旁ら各三寸]・天樞[臍の旁ら二寸]・三隂交[內踝(うちくるぶし)の上(かみ)三寸中]。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』不容:「主腹滿痃癖,唾血,肩脇痛,口乾,心痛與背相引,不可咳,咳則引肩痛」。

 ◉『鍼灸聚英』天樞:「主奔豚,泄瀉,脹疝,赤白痢水痢不止,食不下,水腫腹脹腸鳴,上氣衝胸,不能久立,久積冷氣,繞臍切痛,時上衝心,煩滿嘔吐,霍亂,冬月感寒泄利,瘧寒熱,狂言,傷寒飲水過多,腹脹氣喘,婦人女子癥瘕,血結成塊,漏下赤白,月事不時」。

 ◉『鍼灸聚英』三陰交:「主脾胃虛弱,心腹脹滿……」。


○胃脹腹痛下脘[臍上二寸]氣海[臍下一寸半中]崑崙[外踝後跟骨上陷中]深刺

  【訓み下し】

○胃脹 腹(はら)痛むに,下脘・[臍の上二寸]・氣海[臍の下一寸半中]・崑崙[外踝(とくるぶし)の後(うしろ),跟(きびす)骨(ほね)の上の陷中]深く刺す。

  【注釋】

 ★「後」の訓,「しりへ」「あと」「うしろ」,一定せず。

 ◉『鍼灸聚英』下脘:「主臍下厥氣動,腹堅硬,胃脹羸瘦,腹痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「小腹脹痛氣海焚」。

 ◉『醫學入門』氣海:「主臟氣虛憊,一切氣疾,小腹疝氣遊行五臟,腹中切痛,冷氣衝心……」。

 ◉『醫學入門』崑崙:「主頭熱目眩如脫,目痛赤腫,鼻鼽衄,腹痛腹脹,喘逆,大便洞泄……」。


○腹中雷鳴小腹急痛復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]隂市[膝上三寸]淺刺下廉[上廉下三寸]深刺

  【訓み下し】

○腹中雷鳴(なり),小腹(ほうがみ)急(かわは)り痛むに,復溜(ふくる)[足の內踝(うちくるぶし)の上(かみ)二寸,筋骨の陷中]・隂市[膝の上三寸]淺く刺す。下廉[上廉の下三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○急(かわは)り:添え仮名「カハハリ」。「こわばり」?「皮張り」?

 ◉『鍼灸聚英』復溜:「主腸澼……腹中雷鳴,腹脹如鼓……」。

 ◉『醫學入門』復溜:「主目昏,口舌乾,涎自出,腹鳴鼓脹……」。

 ◉『鍼灸聚英』陰市:「主腰腳如冷水,膝寒,痿痹不仁,不屈伸,卒寒疝,力痿少氣,小腹痛,脹滿……」。

 ◉『鍼灸聚英』下廉:「上廉下三寸。蹲地舉足取之。……主小腸氣不足,……胸脇小腹控睪而痛……」。

 ◉『醫學入門』下巨虛:「主……胸脇小腹痛,乳癰,暴驚狂,小便難,寒濕下注,足脛跗痛肉脫」。

2024年3月16日土曜日

鍼灸溯洄集 50

   卷中・十九ウラ(714頁)

  (17)飲食(いんしい)

傷食者因喰飲食脾虗運化不及於胷腹飽悶惡

食噯氣作酸下洩臭屁或腹痛吐瀉重則發熱頭疼

  【訓み下し】

傷食は,飲食(いんしい)を喰(くろ)うに因って,脾虛し,運化 胸(むね)腹(はら)に及ばず,飽き悶え,食(しよく)を惡み,噯氣 酸を作(な)し,下洩臭屁,或いは腹痛吐瀉、重き則(とき)は發熱(ほつねつ),頭(かしら)疼む。

  【注釋】

 ○喰:「餐・飡」の異体字。吃。 ○胷:「胸」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「傷食者,只因多飡飲食,脾虛運化不及,停於胸腹,飽悶惡心、惡食不食、噯氣作酸、下洩臭屁、或腹痛吐瀉,重則發熱頭疼,左手關脈平和、右手關脈緊盛,是傷食也」。


  卷中・二十オモテ(715頁)

○飲食停積痞脹作痛者冝消導

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)停(とどこお)り積んで,痞脹 痛みを作(な)す者は,消導〔に〕宜(よろ)し。

  【注釋】

 ○冝:「宜」の異体字。

 ○痞脹:證名。胸脘痞滿而兼見脘腹發脹者。『張氏醫通』腹滿:「此得之濕熱傷脾陰,不能統血,胃雖受穀,脾不輸運,故成痞脹。當理脾氣,祛濕熱,兼養血之劑」。

 ○消導:消食化滯(resolving food stagnancy),消法之一,運用消除食滯的藥物,恢復脾胃運化功能的治法。又稱消食導滯、消導法。消食化滯法主治食積內停證,臨床表現為胸脘痞滿,噯腐吞酸,惡食嘔逆,飽脹或腹痛泄瀉,食瘧下利,脈滑,舌苔厚膩等症。

 ◉『指南』病名彙考・痞:「痞は否也。中氣否塞して上下の氣不通滿脹するなり。此症に積氣あるを痞塊と云」。

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食停積,痞脹作痛者,宜消導也」。


○飲食不思痞悶者胃寒也

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)思わず,痞悶する者は,胃寒なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食不思、痞悶者,胃寒也」。


○飲食不化到飽者脾虗也

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)化せず,飽くに到る者は,脾虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食不化到飽者,脾虛也」。


○飲食自倍者脾胃乃傷也

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)自(おの)ずから倍(ま)す者は,脾胃乃ち傷(やぶ)れるなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食自倍者,脾胃乃傷也」。

 ◉『素問』痺論(43):「飲食自倍,腸胃乃傷」。


○支滿不食肺俞[三推下相去脊中各三寸]淺刺

  【訓み下し】

○支滿不食,肺の俞[三推の下(しも),脊中を相い去ること各三【二】寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ★十ウラ(696頁)では,肺兪をはじめ,背部兪穴は,他の箇所では「各二寸」に作るので,「三寸」は誤りであろう。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「支滿不食治肺俞」。

 ○支滿:「胸脇支滿」:病證名。指胸及脇肋部支撐脹滿。


○振寒不食衝陽[足跗上五寸去陷谷三寸骨之間動脉]深刺

  【訓み下し】

○振寒不食,衝陽[足の跗(こう)の上(かみ)五寸,陷谷を去る三寸,骨の間の動脈]深く刺す。

  【注釋】

 ○振寒:證名。發冷時全身顫動。出『素問』寒熱病。『證治準繩』雜病:「振寒,謂寒而顫振也」。『靈樞』口問:「寒氣客於皮膚,陰氣盛,陽氣虛,故為振寒寒慄」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「振寒不食衝陽宜」。


○胃熱不食下廉[上廉下三寸舉足取之]深刺

  【訓み下し】

○胃熱不食,下廉[上廉の下(した)三寸,足を舉げ之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ○胃熱:病證名。指熱邪犯胃,或情志不遂,氣鬱化火,或過食辛辣炙煿以致胃中火熱熾盛的證候。症見胃脘灼痛,吞酸嘈雜,口渴口臭,或渴喜冷飲,消穀善飢,或牙齦腫痛,口腔糜爛,小便短赤,大便秘結,舌紅脈數等。治宜清胃瀉火。胃熱,即是胃火。中醫分為熱鬱胃中、火邪上炎和火熱下迫等。多由邪熱犯胃;或因嗜酒、嗜食辛辣、過食膏粱厚味,助火生熱;或因氣滯、血瘀、痰,濕、食積等鬱結化熱、化火,均能導致胃熱(胃火);肝膽之火,橫逆犯胃,亦可引起胃熱(胃火)。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「胃熱不食下廉穴」。


○胃脹不食水分[臍上一寸]深刺胸脇滿不得俛仰食不下喜飲周榮[中府下一寸六分仰取之]中府[乳上三肋間去中行六寸]淺刺

  【訓み下し】

○胃脹不食,水分[臍上一寸]深く刺す。胸脇(むねわき)滿ち,俛仰(めんぎょう)すること得ず,食下らず,喜(この)んで飲す。周榮[中府の下(しも)一寸六分,仰(あおの)いて之を取る]・中府[乳の上(かみ),三肋の間(あいだ),中行を去る六寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○俛仰(めんぎょう):「俛」,ここでは「俯」とおなじ意味なので「ふぎょう」と読むのが適切。

 ○胃脹:病名。脹病之一。主證脹滿、胃脘痛。『靈樞』脹論:「胃脹者,脹滿,胃脘痛,鼻聞焦臭,妨於食,大便難」。『醫醇剩義』脹:「胃為水穀之腑,職司出納。陰寒之氣上逆,水穀不能運行,故脹滿而胃痛,水穀之氣腐於胃中,故鼻聞焦臭,而妨食便難也」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「胃脹不食水分宜」。

 ◉『鍼灸聚英』周榮:「中府下一寸六分,仰而取之。……主胸脇滿不得俛仰,食不下,喜飲,欬唾稠膿,欬逆,多淫。(「淫」恐作「唾」。)」。

 ◉『鍼灸聚英』中府:「主腹脹,四肢腫,食不下,喘氣胸滿……」。


○飲食不消腹堅急腸鳴胞肓[十九推下相去脊中行各三寸半]深刺

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)消せず,腹堅く急に腸(はらわた)鳴り,胞肓[十九推下相去脊中行各三寸半]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』胞肓:「主腰脊急痛,食不消,腹堅急,腸鳴,淋瀝,不得大小便,癃閉下腫」。


○傷酒嘔吐率谷[耳上入髮際一寸半陷中]

  【訓み下し】

○酒に傷れ嘔吐するに,率谷[耳の上(かみ),髮の際(はえぎわ)に入る一寸半の陷中]。

  【注釋】

 ○傷酒:病證名。飲酒過度所致的病證。一名酒傷。見『證治要訣』傷酒。『諸病源候論』卷二:「酒性有毒,而復大熱,飲之過多,故毒熱氣滲溢經絡,浸溢腑臟,而生諸病也」。

 ◉『醫學入門』率谷:「耳上入髮際一寸半。……主煩滿嘔吐,醉傷酒,風目眩痛,膈胃寒痰,腦角眩痛不食」。


○多食身瘦疲吐醎汁關元[臍下三寸]脾俞[十一推下去脊中各二寸]灸刺

  【訓み下し】

○多く食し,身瘦せ疲れ,鹹(しははゆ)き汁を吐き,關元[臍下三寸]・脾俞[十一推下去脊中各二寸]灸刺す。

  【注釋】

 ○醎:「鹹」の異体字。「しははゆし」:塩っぱい。

 ◉『鍼灸聚英』脾俞:「主多食身疲瘦,吐鹹汁……」。

 ◉『鍼灸聚英』關元:「主積冷虛乏……」。


  卷中・二十ウラ(716頁)

○飲食喜完穀不化通谷[上脘旁各五分]梁門[承滿下一寸去中行二寸]淺刺

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)喜(この)んで完穀 化せず,通谷[上脘の旁(かたわら)各五分]・梁門[承滿の下一寸,中行を去る二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』梁門:「主脇下積氣,食飲不思,大腸滑泄,完穀不化」。

 ◉『鍼灸聚英』〔腹〕通谷:「幽門下一寸,夾上脘兩旁相去五分。……主失欠口喎,食飲善嘔,暴喑不能言,結積留飲,痃癖胸滿,食不化,心恍惚,喜嘔,目赤痛從內眥始」。

 ◉『鍼灸聚英』〔足〕通谷:「足小指外側本節前陷中。……主……留飲胸滿,食不化」。


○脾胃疼食不進天樞[臍旁二寸]中脘[臍上四寸]三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○脾胃疼(いた)み,食進まず,天樞[臍旁二寸]・中脘[臍上四寸]・三里[膝下三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「主五膈,喘息不止,腹暴脹,中惡,脾疼,飲食不進……」。

 ◉『鍼灸聚英』〔足〕三里:「主胃中寒,心腹脹滿,腸鳴,臟氣虛憊,真氣不足,腹痛食不下……」。

 ◉『鍼灸聚英』天樞:「主……食不下……」。

2024年3月15日金曜日

鍼灸溯洄集 49

   卷中・十八ウラ(712頁)

  (16)欝證[附諸氣]

  【訓み下し】

     欝證[附(つけた)り:諸氣]


六欝之証多沉伏

  【訓み下し】

六欝の證,多くは沉伏。

  【注釋】

  ○欝:「鬱」の異体字。 ○証:「證」の異体字。

 ○六欝:六鬱,氣鬱、濕鬱、痰鬱、熱鬱、血鬱、食鬱等六種鬱證的總稱。見『丹溪心法』。『醫學正傳』鬱證:「夫所謂六鬱者,氣、濕、熱、痰、血、食六者是也」。

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「六鬱者,氣血痰濕熱食結聚而不得發越也」。


○氣欝則腹脇刺痛不舒脉沉而濇

  【訓み下し】

○氣欝する則(とき)は,腹(はら)脇(わき) 刺し痛んで舒(の)びず,脈沉にして濇(しよう)。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「氣鬱者,腹脇脹滿、刺痛不舒、脈沈也」。


○濕欝則周身骨節走注疼痛遇隂雨即發脉沉而緩

  【訓み下し】

○濕欝は,(則ち)周身骨節走注疼痛し,隂雨に遇えば,即ち發(お)こる。脈沉にして緩。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「濕鬱者,周身骨節走注疼痛,遇陰雨即發,脈沉細而濡也」。

 ○走注:病名。風邪游於皮膚骨髓,往來疼痛無定處之證。行痹的別稱,俗稱鬼箭風。『太平聖惠方』卷二十一:「夫風走注者,是風毒之氣,游於皮膚骨髓,往來疼痛無常處是也。此由體虛,受風邪之氣,風邪乘虛所致,故無定處,是謂走注也」。『雜病源流犀燭』卷十三:「風勝為行痹,遊行上下,隨其虛處,風邪與正氣相搏,聚於關節,筋弛脈緩,痛無定處,古名走注。……俗有鬼箭風之說」。 ○隂雨:天陰而且下雨。


○熱欝則小便赤澁五心煩熱口若舌乾脉沉而數

  【訓み下し】

○熱欝する則(とき)は,小便赤く澁り,五心煩熱し口若(にが)〔苦〕く舌乾き,脈 沉にして數(さく)。

  【注釋】

 ★若:添え仮名「ニカク」。「苦」の誤字であろう。 

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「熱鬱者,即火鬱也,小便赤澀、五心煩熱、口苦舌乾、脈數也」。

 ○五心煩熱:證名。心中煩熱伴兩手足心有發熱感覺。見『太平聖惠方』治骨蒸煩熱諸方。多由陰虛火旺、心血不足,或病後虛熱不清及火熱內鬱所致。是虛損勞瘵等病的常見症之一。

 ◉『指南』病名彙考・五心熱:「手足の掌(たなごころ)幷に膻中〔ムネ〕,此の五處の熱するを云」。


○痰欝則喘滿氣急痰嗽不出胷脇痛沉而滑

  【訓み下し】

○痰欝する則(とき)は,喘滿氣急に,痰嗽 出でず,胸脇 痛み,沉にして滑。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「痰鬱者,動則喘滿氣急,痰嗽不出、胸脇痛、脈沉滑也」。


○血欝則能食便紅或卒吐紫血痛不移處脉芤而結

  【訓み下し】

○血欝は,(則ち)能く食し,便 紅(あか)く,或いは卒(にわ)かに紫血を吐き,痛んで處(ところ)を移さず,脈 芤にして結(けつ)。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「血鬱者,能食、便紅,或暴吐紫血、痛不移處,脈數澀也」。


  卷中・十九オモテ(713頁)

○食欝則噯氣作酸胷腹飽悶作痛惡食不思脉滑而緊

  【訓み下し】

○食欝は,(則ち)噯氣 酸を作(な)し,胸(むね)腹(はら)飽悶,痛みを作(な)し,惡食(おしょく)して思わず,脈 滑にして緊。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「食鬱者,噯氣作酸、胸腹飽悶作痛、惡食不思,右關脈緊盛也」。

 ◉『指南』病名彙考・噯氣:「釋義に云,噯は飽食の息なり。俗に云をくび,亦噫(あい)氣とも云。噫(あい)醋(さく)と云は,醋(す)き噫(をくび)の出る也」。

 ◉『病名彙解』噫(あい)氣(き〔〔噫(あい),噯と同じ〕:「俗に云をくびなり。○『入門』に云……○『素問』宣明五氣篇に曰……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/268?ln=ja

 ○惡食:見食則惡之證。『內外傷辨惑論』卷上:「勞役所傷及飲食失節、寒溫不適,三者俱惡食,口不知五味,亦不知五穀之味」。宜分虛實。實者多因傷食所致。證見胸腹痞滿,噁心咽酸,噫敗卵臭,惡食,頭痛,發熱惡寒而身不痛。輕則消導,重則吐下(『醫碥』卷二)。

 ◉『病名彙解』惡食

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/119?ln=ja


         ○舉痛論有九氣曰喜怒

憂思悲恐驚寒熱喜則氣散怒則氣逆憂則氣陷

悲則氣消恐則怯驚則氣耗寒則氣収熱則氣泄

也有實氣有虗氣雖云無氣補法正氣虗而不補

氣何由而行丹溪曰氣實不冝補氣虗冝補之

  【訓み下し】

○舉痛論に九氣有り,曰わく,「喜怒憂思悲恐驚寒熱。喜ぶ則(とき)は氣散じ,怒る則は氣逆し,憂うる則は氣陷(おちい)り,悲しむ則は氣消し,恐る則は怯(こう)し,驚く則は氣耗(へ)り,寒する則は氣収まり,熱する則は氣泄れる」。實氣有り,虛氣有り。氣に補法無しと云うと雖も,正氣虛して補わずんば,氣 何に由ってか行かん。丹溪の曰わく,「氣實するときは,補うに宜(よろ)しからず,氣虛するときは之を補うに宜(よろ)し」。

  【注釋】

 ★冝:「宜」の異体字。 

 ★「思」に関する記述,「思則氣結」を脱す。

 ◉『素問』舉痛論(39):「怒則氣上,喜則氣緩,悲則氣消,恐則氣下,寒則氣收,炅則氣泄,驚則氣亂,勞則氣耗,思則氣結,九氣不同,何病之生」。

 ◉『萬病回春』卷3・諸氣:「若內傷七情者喜怒憂思悲恐驚是也。喜則氣散,怒則氣逆,憂則氣陷,思則氣結,悲則氣消,恐則氣怯,驚則氣耗也。外感六淫者,風寒暑濕燥火也。風傷氣者為疼痛,寒傷氣者為戰慄,暑傷氣者為熱悶,濕傷氣者為腫滿,燥傷氣者為閉結。有虛氣、有實氣。虛者,正氣虛,用四君子湯;實者,邪氣實,用分心氣飲。丹溪有云:氣實不宜補,氣虛宜補之。雖云氣無補法,若痞滿壅塞實脹,似難於補;若正氣虛而不補則氣何由而行。故經云:壯者氣行而愈,怯者著而成病。此氣之確論也」。


○食欝腸鳴腹脹食飲不下承滿[不容下一寸去中行各三寸]外陵[天樞下一寸去中行各二寸]深刺鬲俞[七推下相去各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○食欝は,腸鳴り腹脹(は)り,食飲 下らず,承滿[不容の下一寸,中行を去ること各三寸]・外陵[天樞の下一寸,中行を去ること各二寸]は,深く刺す。鬲俞[七推の下,相去ること各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』承滿:「不容下一寸,去中行各三寸。……主腸鳴腹脹,上氣喘逆,食飲不下,肩息唾血」。

 ◉『鍼灸聚英』外陵:「天樞下一寸,去中行各二寸。……主腹痛,心下如懸,下引臍痛」。

 ◉『鍼灸聚英』鬲俞:「七椎下,兩旁相去脊中各一寸五分。正坐取之。……主……食飲不下」。


○熱欝大腸中熱身熱腹痛氣衛[去中行四寸鼠鼷上一寸動脉陷中]肝俞[九推下相去脊中各二寸]神堂[五推下相去脊中各三寸五分]淺刺

  【訓み下し】

○熱欝,大腸 中熱し,身(み)熱し,腹痛み,氣衛(きしょう)〔衝〕[中行を去ること四寸,鼠鼷の上(かみ)一寸,動脈の陷中]・肝の俞[九推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]・神堂[五推の下(しも),脊中を相い去ること各三寸五分]淺く刺す。

  【注釋】

 ★氣衛:「氣衝」の誤字。 

 ◉『鍼灸聚英』氣衝:「腹下夾臍相去四寸,鼠鼷上一寸。動脈應手宛宛中。……主腹滿不得正臥,㿗疝,大腸中熱,身熱腹痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』肝俞:「主……千金云:……寒疝小腹痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』神堂:「主腰背脊強急,不可俯仰,洒淅寒熱,胸腹滿,氣逆上攻,時噎」。


  卷中・十九ウラ(714頁)

○痰欝喘滿氣急三里[膝下三寸]梁門[承滿下去中行各三寸]深肺俞[三推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○痰欝は,喘滿氣急,三里[膝の下三寸]・梁門[承滿の下(しも),中行を去ること各三寸]深く,肺の俞[三推下相去脊中各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』三里:「主胃中寒,心腹脹滿……。千金翼云:主腹中寒,脹滿,腸中雷鳴,氣上衝胸,喘不能久立……」。

 ◉『鍼灸聚英』梁門:「主脇下積氣,食飲不思,大腸滑泄,完穀不化」。

 ◉『鍼灸聚英』肺俞:「主……寒熱喘滿……」。

 ★六鬱の治療法を確立しようとしたが,ここで挫折したか。


○一切氣疾滿氣海[臍下一寸五分]神道[五推節下之間]深刺膏肓[四推下相去脊中三寸半]淺刺

  【訓み下し】

○一切氣疾 滿するに,氣海[臍の下一寸五分]・神道[五推の節の下の間]深く刺す。膏肓[四推の下(した),脊中を相い去ること三寸半]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』氣海:「主……一切氣疾久不差……」。

 ◉『醫學入門』氣海:「主一切氣疾……」。

 ◉『鍼灸聚英』神道:「主傷寒發熱,頭痛,進退往來,痎瘧,恍惚,悲愁健忘,驚悸,失欠,牙車蹉,張口不合,小兒風癇」。

 ◉『鍼灸聚英』神封:「主胸滿不得息,咳逆,嘔吐,乳癰寒熱」。

 ◉『醫學入門』神封:「主胸滿不得息,咳逆,乳癰惡寒」。

 ◉『鍼灸聚英』膏肓俞:「主無所不療……。孫思邈曰:時人拙,不能得此穴,所以宿疴難遣,若能用心方便,求得灸之,無疾不愈矣」。


○氣塊脇痛勞熱內關[掌後去腕二寸兩筋間]深刺

  【訓み下し】

○氣塊,脇(わき)痛み,勞熱,內關[掌後,腕(わん)を去ること二寸,兩筋の間(あいだ)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『醫學入門』內關:「主氣塊及脇痛,勞熱瘧疾,心胸痛」。


○七情氣欝支正[腕後五寸]淺刺

  【訓み下し】

○七情,氣欝するに,支正[腕の後五寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『醫學入門』支正:「主七情氣鬱,肘臂十指皆攣及消渴」。

 ◉『鍼灸聚英』支正:「主風虛,驚恐悲愁……」。

2024年3月14日木曜日

鍼灸溯洄集 48

   卷中・十七ウラ(710頁)

  (15)喘急

  【注釋】

 ○喘急:臨床用語。喘急或稱「喘促」。是形容氣喘時呼吸急促之狀。


喘者爲惡候因火所欝而痰在肺胃也。

  【訓み下し】

喘は惡候と爲す。火(ひ) 欝する所にして痰に因る。肺胃に在り。

  【注釋】

 ○欝:「鬱」の異体字。 

 ○和刻本『萬病回春』卷2・喘急:「喘者為惡候,因火所鬱而痰在肺胃也〔和刻本の訓:火に因って鬱せ所(られ),痰 肺胃に在り〕」。別の訓としては,「火の鬱する所に因る,而して痰は肺胃に在り」が考えられるか。『溯洄集』の訓には問題があろう。

 ○肺胃:明万暦30年重刊本作「脾胃」。


○痰喘者喘動便有痰聲

  【訓み下し】

○痰喘は,喘動便ち痰聲有り。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・喘急:「痰喘者,喘動便有痰聲也」。


  卷中・十八オモテ(711頁)

○火喘者乍進乍退得食則减止食則喘也

  【訓み下し】

○火喘は,乍(たちま)ち進み乍ち退き,食を得(う)る則(とき)は減(げん)し,食を止(や)む則は喘(すだ)く。

  【注釋】

 ○火喘:病證名。因痰火上行,症見氣粗而盛的氣喘。見〔明代方谷〕『醫林繩墨』喘。又名火炎上喘、火炎肺胃喘、炎熱喘急。 ○减:「減」の異体字。 ○乍A乍B:AとBの対立する動作や状況が次々に交替して行なわれたり現われたりすることを示す。 ○すだく:あえぐ。呼吸が苦しくなる。

 ◉『萬病回春』卷2・喘急:「火喘者,乍進乍退,得食則減,止食則喘也」。

 ◉『丹溪心法』喘十五:「戴〔元禮〕云:有痰喘,有氣急喘,有胃虛喘,有火炎上喘。痰喘者,凡喘便有痰聲;氣急喘者,呼吸急促而無痰聲;有胃氣虛喘者,抬肩擷項,喘而不休;火炎上喘者,乍進乍退,得食則減,食已則喘」。


○氣短而喘者呼吸短促而無痰聲也

  【訓み下し】

○氣短にして喘(すだ)く者は,呼吸短促にして痰聲無し。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・喘急:「氣短而喘者,呼吸短促而無痰聲也」。


○上喘者曲澤[肘內廉下陷中屈肘得之]神門[掌後銳骨端之陷中]淺解谿[足大指次指直上跗上陷者中]崑崙[足外踝後跟骨上陷中]太陵[掌後骨下兩筋間陷者中]深刺

  【訓み下し】

○上(かみ)喘する者は,曲澤[肘(うで)の內廉(うちかど)下の陷中,肘(うで)を屈(かが)めて之を得(う)]・神門[掌後(じょうご)銳骨(ぜいこつ)の端(はし)の陷中]淺く,解谿[足の大指の次の指直上,跗(こう)の上,陷者中]・崑崙[足の外踝の後(あと),跟(きびす)骨上の陷中]・太陵[掌後骨の下(した),兩筋の間の陷者中]深く刺す。

  【注釋】

 ○太陵:「大陵」におなじ。 

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「上喘曲澤大陵中,神門魚際三間攻。商陽解谿崑崙穴,亶中肺俞十穴同」。


○喘咳隔食灸鬲俞[七推下相去脊中各二寸]

  【訓み下し】

○喘咳隔食,鬲の俞[七推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]に灸。

  【注釋】

 ○隔食:病證名。指飲食難以下膈入於胃腸。與噎膈、隔同義。陳念祖謂:「膈者,阻隔不通,不能納穀之謂也。又謂之隔食,病在胸膈之間也」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「喘嗽隔食治膈俞」。


○喘滿氣喘商陽[手大指次指内側去爪甲角]三間[食指本節後內側陷者中]淺刺

  【訓み下し】

○喘滿氣喘,商陽[手の大指の次の指內側(うちかたわら),爪の甲の角を去る]・三間[食指の本節(もとふし)の後(あと),內の側(かたわら),陷者中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「喘滿三間商陽宜」。

 ◉『鍼灸聚英』三間:「主……氣喘……」。


○上衝胸喘息不能行不得安臥上廉[三里下三寸舉足取之]期門[直乳二肋端不容旁一寸五分]中脘[臍上四寸]深刺

  【訓み下し】

○胸に上(のぼ)り衝(つ)き,喘息,行(ゆ)くこと能わず,安臥すること得ず,上廉[三里の下(しも)三寸,足を舉げて之を取る]・期門[直乳二肋の端,不容の旁(かたわら)一寸五分]・中脘[臍の上四寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』巨虛上廉:「主……氣上衝胸,喘息不能行……」。

 ◉『鍼灸聚英』期門:「主……大喘不得安臥……」。

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「主五膈,喘息不止……」。


○肺脹氣滿脇下痛大淵[掌後陷中]大都[足大指本節後內側陷中]。肺俞[三推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○肺脹,氣滿ち,脇の下痛み,大淵[掌後陷中]・大都[足の大指の本節(もとふし)の後ろ內の側(かたわら)の陷中]。肺の俞[三推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「肺脹氣搶脇下痛,都太淵肺俞除」。

 ◉『鍼灸聚英』大都:「主熱病汗不出,不得臥,身重骨疼,傷寒手足逆冷,腹滿善嘔,煩熱悶亂,吐逆,目眩,腰痛不可俯仰,繞踝風,胃心痛,腹脹胸滿,心蛔痛,小兒客忤」。

 ◉『鍼灸聚英』陰都:「陰都(一名食宮) 通谷下一寸,夾胃脘兩邊相去五分。……主心滿逆氣,腸鳴,肺脹氣搶,脇下,目赤痛從內眥始」。

 ★「大都」は「陰都」の誤りであろう。


  卷中・十八ウラ(712頁)

○喘息欬逆煩滿魄戶[三推下相去脊骨各三寸五分]淺刺

  【訓み下し】

○喘息欬逆,煩滿,魄戶[三推の下(しも),脊骨を相い去ること各三寸五分]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』魄戶:「主……喘息咳逆,嘔吐煩滿」。


○胸脇痛支滿喘息章門[大橫外直季脇肋端臍上二寸]幽門[巨闕旁各五分]不容[巨闕旁相去中行各三寸]深刺

  【訓み下し】

○胸(むね)脇(わき)痛み,支(ささ)え滿ち,喘息,章門[大橫の外(ほか)直ちに季脇肋の端(はし),臍の上(かみ)二寸]・幽門[巨闕の旁(かたわら)各五分]・不容[巨闕の旁(かたわら),中行を相い去ること各三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○胸脇支滿:指胸及脇肋部支撐脹滿。

 ◉『鍼灸聚英』章門:「主……胸脇痛支滿,喘息」。

 ◉『鍼灸聚英』不容:「主腹滿痃癖,唾血,肩脇痛,口乾,心痛與背相引,不可咳,咳則引肩痛,嗽喘疝瘕,不嗜食,腹虛鳴,嘔吐痰癖」。

 ◉『鍼灸聚英』幽門:「主小腹脹滿,嘔吐涎沫,喜唾,煩悶胸痛,胸中滿,不嗜食,逆氣咳,健忘,泄利膿血,目赤痛從內眥始,女子心腹逆氣」。

鍼灸溯洄集 47

   卷中・十六ウラ(708頁)

  (14)欬嗽

  【注釋】

 ○咳嗽(cough)爲病名。是指以咳嗽、咯痰爲主要表現的疾病。出自『黃帝內經素問』五臟生成篇。咳嗽爲肺系疾患的一種常見病症。/宋以前,咳、嗽同義。『素問病機氣宜保命集』:「咳謂無痰而有聲,肺氣傷而不清也;嗽是無聲而有痰,脾溼動而爲痰也。咳嗽謂有痰而有聲,蓋因傷於肺氣動於脾溼,咳而爲嗽也」。「咳」指肺氣上逆作聲,有聲無痰;「嗽」指咯吐痰液,有痰無聲;有聲有痰爲「咳嗽」。一般多爲痰聲並見,難以截然分開,故以咳嗽並稱。/咳嗽既是具有獨立性的證候,又是肺系多種疾病的一個症狀,因久咳致喘,表現肺氣虛寒或寒飲伏肺等證者,參閱喘證、痰飲。

 ◉『病名彙解』咳嗽:「せきしはぶきなり。○『入門』に,咳は氣動するに因て聲をなす。嗽は乃血化して痰となる。肺氣動ときは咳す。脾濕動ときは嗽す。……○『醫統』に云……」。/しわぶき:しわ‐ぶき〔しは‐〕【咳き】せきをすること。また、せき。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/127?ln=ja


  卷中・十七オモテ(709頁)

冷風嗽者遇風冷即發痰多喘嗽

  【訓み下し】

冷風嗽は,風冷に遇(あ)って即ち發(お)こる。痰多く喘嗽し,

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・咳嗽:「冷風嗽者,遇風冷即發,痰多喘嗽是也」。


○痰嗽者嗽動便有痰聲痰出嗽止

  【訓み下し】

○痰嗽は,嗽 動ず。便ち痰聲有り,痰出づれば嗽止む。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・咳嗽:「痰嗽者,嗽動便有痰聲,痰出嗽止是也(嗽而痰多者,是脾虛也。)」。


○肺脹者嗽則喘滿氣急也

  【訓み下し】

○肺脹は,嗽する則(とき)は,喘滿氣急なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・咳嗽:「肺脹嗽者,嗽則喘滿氣急也(喘急不得眠者難治。)」。


○咳嗽胷膈結痛者痰結也

  【訓み下し】

○咳嗽(しわぶ)き胸膈結痛するは,痰結なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・咳嗽:「咳嗽胸膈結痛者,是痰結也」。


○早晨嗽者胃中有食積也

  【訓み下し】

○早晨(あさ)嗽(しわぶき)するは,胃中 食積(しょくしゃく)有り。

  【注釋】

 ○食積:病名。中醫指吃食物過多而引起的消化不良的病。

 ◉『萬病回春』卷2・咳嗽:「早晨嗽者,胃中有食積也」。


○上半日嗽多者胃中伏火也

  【訓み下し】

○上(かみ)半日(にち),嗽(そう)多きは,胃中伏火なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・咳嗽:「上半日嗽多者,胃中有伏火也」。


○千金曰寒嗽太冲[足大指本節後二寸]淺刺心欬神門[掌後銳骨端陷中]淺刺脾咳太白[足大指內側內踝前核骨下之陷中]浅刺肺咳太淵[掌後陷中]淺刺腎咳太谿[足內踝後跟骨上動脉陷中]淺膽咳陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷中]深刺

  【訓み下し】

○『千金』に曰わく,「寒嗽,太冲(たいしょう)[足の大指の本節(もとふし)の後ろ二寸]淺く刺す。心欬,神門[掌後銳(とがり)骨端(はし)の陷中]淺く刺す。脾咳に太白[足の大指の內の側(かたわら),內踝(うちくるぶし)前の核骨の下の陷中],淺く刺す。肺咳,太淵[掌後(じょうご)の陷中]淺く刺す。腎咳,太谿[足の內踝(うちくるぶし)の後ろ,跟(きびす)骨の上,動脈の陷中]淺く。膽咳,陽陵泉[膝の下一寸䯒(はぎ)の外廉(そとかど)陷中]」。深く刺す。

  【注釋】

 ○冲:「衝」の異体字。 ○

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・咳嗽:「『千金方』曰:寒欬。肢〔「肝」の誤字であろう〕欬,刺足太冲。心欬,刺手神門。脾欬,刺足太白。肺欬,刺手太淵。腎欬,刺足太谿。膽欬,刺足陽陵泉」。

 ★本書の撰者は,「肢」が「肝」字の誤りであることに気づかず,そのため不審な「肢欬」を省いたか。


○上氣欬逆短氣風勞灸肩井[肩上陷中以三指按之中指下陷中]淺刺灸百壯

  【訓み下し】

○上氣欬逆,短氣風勞,肩井[肩の上,陷(くぼみ)中,三の指を以て之を按(お)し,中(なか)指の下(しも),陷中]に灸す。淺く刺す。百壯に(ママ)灸す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・咳嗽:「上氣欬逆,短氣,風勞病,灸肩井三百壯」。


○上氣欬逆短氣胸滿多唾冷痰灸肺俞[三推下相去脊中各二寸]五十壯

  【訓み下し】

○上氣欬(かい)逆,短氣胸(むね)滿ち,唾(つば)多く冷痰に,肺俞[三推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]に灸す,五十壯。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・咳嗽:「上氣欬逆,短氣胸滿,多唾,唾惡冷痰,灸肺俞五十壯」。


  卷中・十七ウラ(710頁)

○風寒火勞痰肺脹濕然谷[足內踝前起大骨下陷中]曲澤[肘內廉下陷中屈肘得之]前谷[手小指外側本節前陷中]肝俞[九推下相去脊中各二寸]期門[直乳二肋端不容旁一寸五分]灸刺

  【訓み下し】

○風寒火勞痰肺脹濕に,然谷[足の內踝(うちくるぶし)の前,起こる大骨の下,陷中]・曲澤[肘(うで)の內廉の下(しも)の陷中,肘を屈(かが)めて之を得(う)]・前谷[手の小指の外の側(かたわら),本節(もとふし)の前の陷中]・肝の俞[九推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]・期門[直乳(じきにゅう)二肋の端(はし),不容の旁(かたわら)一寸五分]灸刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・欬嗽:「風、寒、火、勞、痰、肺脹、濕。/灸天突、肺俞、肩井、少商、然谷、肝俞、期門、行間、廉泉、扶突。/鍼曲澤(出血立已)、前谷」。


○咳嗽上氣吐嘔沫列缺[去腕側上一寸五分]經渠[寸口陷中]淺刺

  【訓み下し】

○咳嗽上氣,嘔沫を吐し,列缺[腕の側(かたわら)の上(うえ)を去る一寸五分]・經渠[寸口陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』列缺:「去腕側上一寸五分。……主……嘔沫,咳嗽……」。

 ◉『鍼灸聚英』經渠:「主……咳逆上氣……心痛嘔吐」。


○面赤熱嗽支溝[腕後臂外三寸兩骨之間陷中]三里[曲池之下二寸]淺刺

  【訓み下し】

○面(おもて)赤く熱嗽に,支溝[腕後臂(うで)の外(ほか)三寸,兩骨の間の陷中]・三里[曲池の下二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・欬嗽:「面赤熱欬,支溝。多唾,三里」。

 ★『鍼灸聚英』によれば,「熱嗽」は「熱欬」の誤りか。

 ★『鍼灸聚英』によれば,「三里」は,咳嗽(風、寒、火、勞、痰、肺脹、濕)で,「多唾」のときに用いる。


○面浮腫拘急喘滿崑崙[足外踝後跟骨上之陷中]解谿[足大指次指直上跗上陷者中]深刺

  【訓み下し】

○面(おもて)浮腫(うそは)れ拘急,喘滿に,崑崙[足の外踝(とくるぶし)の後(あと),跟(きびす)骨上之陷中]・解谿[足の大指の次の指,直ちに上(かみ),跗(こう)の上(うえ)の陷者中]深く刺す。

  【注釋】

 ○うそはれ:「うそ」は接頭辞で,「うすし(薄し)」の変化したもの。すこし。わずかに。 ○跗:『玉篇』足部:「跗,足上也」。 ○こう:甲。手や足のおもての面。足の甲。

 ◉『鍼灸聚英』解谿:「主風面浮腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』崑崙:「主……頭痛肩背拘急,咳喘滿……」。

2024年3月12日火曜日

鍼灸溯洄集 46

   卷中・十五ウラ(706頁)

  (13)痰飲

  【注釋】

 ○痰飲:中醫病症名。四飲之一。指體內過量水液不得輸化、停留或滲注於某一部位而發生的疾病。一般認為「稠濁者為痰,清稀者為飲」。漢 張仲景『金匱要略』痰飲欬嗽病脈證並治:「其人素盛今瘦,水走腸間,瀝瀝有聲,謂之痰飲」。/但此書記述之痰飲有廣義和狹義的理解。廣義則概括多種飲病,包括痰飲、懸飲、溢飲、支飲等。此數種中之痰飲,則屬狹義之範疇。痰飲由體內水濕不化所釀生。

 ◉『病名彙解』痰飲:「『要訣』に云,痰に六あり。懸・溢・支・痰・留・伏也。痰飲はただ六飲の一のみ。人 此を病(やん)でただ痰飲と云ものは,蓋しとどまること已に久しければ,痰とならざるはなければなり。○『入門』に云……○『方考』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/146?ln=ja


痰者属濕乃津液所化也其症有數種難明

  【訓み下し】

痰は,濕に屬す。乃ち津液の化する所なり。其の症 數種有り。明らめ難し。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・痰飲:「痰者屬濕,乃津液所化也」。


○食積痰者多食飲食欝久而成痰

  【訓み下し】

○食積(しやく)痰は,多く食し,飲食(いんしい)欝久して痰を成す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・痰飲:「食積痰者,多飡飲食,欝久成痰也」。 ○飡:「餐」の異体字。吃、食。


  卷中・十六オモテ(707頁)

○胷膈有痰氣脹痛在咽喉間有如綿絮有如梅核吐之不出嚥之不下

  【訓み下し】

○胸膈に痰氣有り,脹痛 咽喉の間(あいだ)に在り,綿絮の如く有り,梅核の如く有り,之を吐けども出でず,之を嚥(の)めども下らず。

  【注釋】

 ○胷:「胸」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷2・痰飲:「痰氣者,胸膈有痰氣脹痛也(痰在咽喉間,有如綿絮,有如梅核,吐之不出,嚥之不下,或升或降,塞碍不通,亦痰氣也,後成膈噎病。)」。 ○碍:「礙」の異体字。


○痰飲者痰在胷膈間痛而有聲也

  【訓み下し】

○痰飲は,痰 胸膈の間(あいだ)に在り,痛んで聲(こえ)有り。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・痰飲:「痰飲者,痰在胸膈間,痛而有聲也」。


○痰涎者渾身胷背脇痛不可忍也

  【訓み下し】

○痰涎は,渾身胸(むね)背(せなか)脇(わき)痛み,忍ぶ可からず。

  【注釋】

 ○『萬病回春』卷2・痰飲:「痰涎症者,渾身胸背脇痛不可忍也。(牽引釣痛、手足冷痹,是痰涎在胸膈也。)」。


○痰濕流注者渾身有腫塊也

  【訓み下し】

○痰濕流注は,渾身に腫塊有り。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・痰飲:「痰濕流注者,渾身有腫塊也。(凡人骨體串痛,或作寒熱,都是濕痰流注經絡也。)」。


○痰核者渾身上下結不散也

  【訓み下し】

○痰核は,渾身上下結(むすぼ)うれて散せず。

  【注釋】

 ○結:添え仮名「ムスボフレテ」。むすぼふる。むすぼほる。むすぼおる。固まって形になる。

 ◉『萬病回春』卷2・痰飲:「痰核者,渾身上下結核不散也。(或發腫塊者,是痰塊也。大凡治痰塊、流注結核,俱與濕痰流注同治法。)」。

 ◉『指南』病名彙考・痰核:「痰火に因て生ずる結核をいふ。痰核は滑軟〔ナダラ?カニヤワラカ〕,氣核は堅硬〔カタシ〕也」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100314627/84?ln=ja

 ◉『病名彙解』痰核:「頸項〔クビノマワリ〕の間,或は臂(ひじ)或は遍身に核(さね)のやうなる物を生じ,これを推(おせ)ば動くなり。○『入門』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/147?ln=ja


○脇下有痰作寒熱咳嗽氣急作痛者痰結也

  【訓み下し】

○脇の下に痰有り,寒熱を作(な)し,咳嗽氣急,痛みを作(な)すは,痰結なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・痰飲:「脇下有痰,作寒熱咳嗽、氣急作痛者,亦痰結也」。


○痰涎前谷[手小指外側本節前陷中]復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]隂谷[膝下內輔骨後按之應手屈膝乃得之]淺刺

  【訓み下し】

○痰涎(たんぜん)には,前谷[手の小指の外の側(かたわら),本節(もとふし)の前の陷中]・復溜(ふくる)[足の內踝(うちくるぶし)の上(かみ)二寸,筋骨(きんこつ)の陷中]・隂谷[膝の下(した)內の輔骨(かまちほね)の後ろ,之を按(お)し手に應ず,膝を屈(かが)めて乃ち之を得(う)]淺く刺す。

  【注釋】

 ★出典は『鍼灸聚英』であろうが,『鍼灸聚英』は「然谷」を「前谷」に誤るか?

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「痰涎陰谷與前谷,復溜三穴不可忽」。

 ◉『神應經』痰喘咳嗽部:「痰涎:陰谷 谷 復溜」。 〔みな腎経〕

 ◉『鍼灸聚英』然谷:「主咽內腫不能內唾。時不能出唾。心恐懼。如人將捕。涎出喘呼少氣。足跗腫。不得履地。寒疝。小腹脹。上搶胸脇。咳唾血。喉痹……」。

 ◉『鍼灸聚英』前谷:「主熱病汗不出。痎瘧。癲疾。耳鳴。頸項腫。喉痹。頰腫引耳後。鼻塞不利。咳嗽吐衄。臂痛不得舉。婦人產後無乳」。


○結積留飲灸鬲俞[七推下相去脊中各二寸]通谷[幽門下一寸夾上脘相去五分]

  【訓み下し】

○結積(しやく)留飲,鬲の俞[七推の下(しも),脊中(せぼね)を相い去ること各二寸]・通谷[幽門の下(した)一寸,上脘を夾(さしはさ)み相い去ること五分]灸す。

  【注釋】

 ★原文には「鬲俞」の下に「一」点があるが,「通谷」の下に移動させて訓む。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「結積留飲病不瘳,膈俞五壯通谷灸」。

 ◉『神應經』痰喘咳嗽部:「膈俞(五壯) 通谷(灸)」。

 ◉『病名彙解』留飲:「六飲の一つなり。○『入門』に云,水 心下に停(とどまつ)て背冷ること手掌の大さのごとく,或は短氣にして渇し,四支歷節〔フシヲヘテ〕疼痛し,脇痛で缺盆に引(ひきつり),咳嗽うたた甚しと云り」。 ○うたた:ある状態が、どんどん進行してはなはだしくなるさま。いよいよ。ますます。


有痰氣隂虗灸中府[乳上三肋間動脉應手陷中去中行六寸]肺俞[三椎下相去脊中各二寸]華蓋[璇璣之下一寸之陷中]

  【訓み下し】

痰氣隂虛 有って,中府[乳上三肋の間,動脈 手に應ず,陷中,中行を去る六寸]・肺俞[三椎の下(しも),脊中を相い去る各二寸]・華蓋[璇璣の下(した)一寸の陷中]を灸す。

  【注釋】

 ★原文には「中府」の下に「ヲ一」点があるが,「華蓋」の下に移動させて訓む。『鍼灸聚英』の省略の仕方に問題があるように思える。

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・喘:「有痰、氣虛、陰虛。灸中府、雲門、天府、華蓋、肺俞」。


  卷中・十六ウラ(708頁)

○肩脇痛口乾心痛與背相引不可欬爲痰癖不容[巨闕旁各三寸]肝俞[九推下相去脊中各二寸]灸刺

  【訓み下し】

○肩脇痛み,口乾き,心(むね)痛み背(せなか)と相い引き欬す可からず,痰癖と爲る。不容[巨闕の旁(かたわら)各三寸]・肝俞[九推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]灸刺す。

  【注釋】

 ○痰癖:病名。即痰邪癖聚於胸脇之間所致病證。『諸病源候論』癖病諸候:「痰癖者,由飲水未散,在於胸府之間,因遇寒熱之氣相搏,沉滯而成痰也。痰又停聚,流移於脇肋之間,有時而痛,即謂之痰癖」。與此病相類者,另有飲癖,均屬痼疾。

 ◉『鍼灸聚英』不容:「主腹滿痃癖,唾血,肩脇痛,口乾,心痛與背相引,不可欬,欬則引肩痛,嗽喘疝瘕,不嗜食,腹虛鳴,嘔吐痰癖」。

 ◉『鍼灸聚英』肝俞:「主多怒,黃疸,鼻酸,熱病後目暗淚出,目眩,氣短欬血,目上視,欬逆,口乾,寒疝,筋寒,熱痙,筋急相引,轉筋入腹將死。千金云:欬引兩脇急痛不得息,轉側難,橛肋下與脊相引而反折……」。


○上氣喘逆食飲不下承滿[不容下一寸去中行各三寸]風門[二推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○上氣喘逆,食飲下(くだ)らず,承滿[不容の下(しも)一寸,中行を去ること各三寸]・風門[二推の下(しも)脊中を相い去ること各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』承滿:「主腸鳴腹脹,上氣喘逆,食飲不下,肩息唾血」。

 ◉『鍼灸聚英』風門:「主發背癰疽,身熱,上氣短氣,欬逆胸背痛,風勞嘔吐,傷寒頭項強,目瞑,胸中熱」。


○痰喘息令患人並立兩足以稈自左大指端至右大拇指周廻而裁端以其稗中指一寸切捨分髮端自鼻起垂項稈盡處灸穴男左女右脊骨之際取之予常試得効神也三里[曲池下二寸]

  【訓み下し】

○痰喘息,患人(にん)をして並び立たさしめ,兩足 稈(しべ)を以て,左の大指端(はし)自(よ)り,右の大拇指(おやゆび)に至って,周廻して端を裁(き)って,其の稈(しべ)を以て,中指(ちゆうし)一寸切り捨て,髮の端を分け,鼻自り起こし,項(うなじ)に垂れ,稈(しべ)盡くる處,灸穴。男は左,女は右の脊骨(せぼね)の際に之を取る。予(よ)常に試みるに効を得(う)る,神なり。三里[曲池の下(した)二寸]。

  【注釋】

 ◉『神應經』八穴灸法・足部二穴:「瘡發於足部,則並立兩足令相著,自左大拇趾端至右大拇趾端周廻(自左足大拇趾頭起端,從足際右旋,經左右足踵,右足趾端還至起端處。)以其稈當結喉下,項後雙垂,如頭部法【頭部二穴:……以其稈當結喉下至項後雙垂之,以患人手橫握其端而切去之(以其稈中央當結喉下,兩端左右會於項後,雙垂之。以患人手橫握其兩端之末而斷之,如『針經』一夫之法),其稈斷當處脊中骨上點之。瘡出左者,去中骨半寸灸左;出右者,灸右;出左右者,並灸左右。】」。

 ★手三里:出典未詳。

 ◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・痰飲 かすはき:「……三里」。/咳嗽(がいそう) しはぶき せき たぐる:「多く眠るには三里」。

2024年3月11日月曜日

鍼灸溯洄集 45

  卷中・十四ウラ(704頁)

(12)嘔吐[附翻胃膈噎]

  【訓み下し】

  嘔吐[附(つけた)り:翻胃膈噎]

  【注釋】

 ○翻胃:見『肘後備急方』卷四。翻胃即反胃。1.食下良久復出,或隔宿吐出者;2.噎膈。

 ◉『指南』病名彙考・翻胃:「反(ほん)胃とも云。食物を胃の府より吐翻(はきかえす)症也。朝(あした)に食すれば夕(ゆうべ)に吐(と)〔ハク〕し,暮(くれ)に食すれば朝に吐す。『要訣』に云,翻胃の病(やまい)嘔吐より重(おもき)ものは,嘔吐は食入(いり)て即ち吐す。翻胃は即吐せず,或は一日半日にして食また翻〔ヒルガエル〕上して化(か)〔コナレル〕せざること,故(もと)の如しと云云。乃ち胃中陽氣の虛絶也。」

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100314627/74?ln=ja

 ◉『病名彙解』翻胃:「飲食を胃の腑より吐翻(はきかえす)ことなり。反胃とも云り。『要訣』に云,翻胃の病嘔吐より重(おも)きものは,嘔吐は食入て即ち吐す。翻胃は即ち吐せず,或は一日半日にして食また翻上〔カエリノボル〕して化せざること故,胃の氣を消することあたはず,食すでに消せざれば,糟粕〔カス〕となって大腸に入らず,必ず氣に隨て逆上し口よりして出るなり。○『醫書大全』に云,翻胃の症,其の始は五噎五膈に由て始らずと云ことなし」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/74?ln=ja

 ○膈噎:病名。即噎膈。噎膈:1.吞嚥不利,飲食梗塞難下;2.飲食不得下,大便祕結者;3.反胃。

 ◉龔信『古今醫鑒』卷5〔和本龔廷賢續編『新刊古今醫鑑』卷3絲集〕・翻胃:「膈噎者,謂五膈、五噎也。五膈,憂、恚、寒、熱、氣也;五噎,憂、思、勞、食、氣也。膈者,在心脾之間,上下不通,若拒格之狀也。或結於咽喉,時覺有所礙,吐之不出,嚥之不下,由氣鬱痰搏而然。久則漸妨飲食,而為膈也。噎者,飲食之際,氣卒阻滯,飲食不下,而為噎也。翻胃也,膈也,噎也,三者名雖不同,而其所受之病,則一而已。『內經』謂:三陽結謂之膈。三陽者,大腸、膀胱也。結,熱結也。小腸熱結則血脈燥;大腸熱結則不能圊;膀胱熱結則津液涸;三陽既結,則前後閉結。下既不通,則反上行,所以噎食不下,縱下而復出也。此陽火不下降而上行也。故經曰:少陽所至為嘔、湧溢、食不下,此理明矣」。

  https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00008739 150/536コマ目

 ◉『指南』病名彙考・噎:「食して,呑(のみ)こまんとすれば,食に噎(むせ)て咽(のんど)に収(おさま)り入ざるを云。即ち五噎の名あり。憂噎・思噎・氣噎・勞噎・食噎也」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100314627/71?ln=ja

 ◉『病名彙解』噎膈:「俗に云かくの病なり。五噎五膈の品(しな)あり。噎は,食 胸の上咽(のど)の奧につかゑて下(くだ)らず,むせび吐するを云り。字書に,食 窒(ふさが)って氣通ぜざるなり,とあり。膈は,食 胸の下(した)につかへて吐するを云り。○『素問』陰陽別論に曰,三陽 結する,これを膈(かく)と云。○『醫學正傳』に張子和の曰,三陽は大腸・小腸・膀胱なり。結は熱結〔ムスボル〕を云なり。小腸 熱結するときは血脈燥(かわく)……。○『古今醫統』に云……。○按ずるに,名を立つること品(しな)ありといへども,其の源は一なり。蓋し七情火(ひ)起り,津液を薫蒸して痰をなし積をなし,積久しき時は血愈(いよいよ)衰へ噎をなし,飜胃をなすなり」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/42?ln=ja


○嘔吐有聲有物也

  【訓み下し】

○嘔吐は,聲有り物有るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「嘔吐者,有聲有物,胃氣有所傷也」。


○嘔噦清水冷涎寒吐也

  【訓み下し】

○嘔噦(えつ)は清水,冷涎は寒吐なり。

  【注釋】

 ○噦:因胃氣不順而打嗝。『說文解字』口部:「噦,氣啎也」。/乾嘔,嘔吐時只有聲音而沒有吐出東西。明・張自烈『正字通』口部:「方書:有物無聲曰吐,有聲無物曰噦,有物有聲曰嘔」。

 ◉『指南』病名彙考・噦:「俗に云,しやくり。吃逆と同症也。東垣・丹溪は噦を以て乾嘔〔カラエヅキ〕とす。誤也。『類經』に曰,夫れ乾嘔は嘔也。欬逆は嗽也。皆何ぞ噦に渉(わたら)ん云云。本文に因て考るに,龔氏はただ嘔噦 倶に吐逆のことに見たるなり」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100314627/106?ln=ja

 ◉『病名彙解』嘔噦:「乾嘔の甚しきをいへり。噦の條下,考べし」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/118?ln=ja

 ◉『病名彙解』噦:「噦・𩚚逆・咳逆,此の三病,古來論あることなり……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/350?ln=ja

 ◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「嘔噦清水冷涎,脈沉退者,是寒吐也」。


○煩渴嘔噦者熱吐也

  【訓み下し】

○煩渴嘔噦は,熱吐なり。

  【注釋】

 ○煩渴:煩躁乾渴。

 ◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「煩渴脈數嘔噦者,是熱吐也」。


○嘔噦痰涎者痰火也

  【訓み下し】

○嘔噦痰涎(ぜん)は,痰火なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「嘔噦痰涎者,是痰火也」。

 ○痰涎症:病證名。屬痰涎在胸膈引致之疾患。『萬病回春』痰涎:「痰涎症者,渾身胸背脇痛,不可忍也,牽掣釣痛,手足冷痹,是痰涎在心膈也」。


○水寒停胃嘔吐者濕吐也

  【訓み下し】

○水寒 胃に停(とど)まり,嘔吐は,濕吐なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「水寒停胃嘔吐者,宜燥濕也」。


○飽悶作酸嘔吐者食吐也

  【訓み下し】

○飽悶 酸を作(な)し,嘔吐は,食吐なり。

  【注釋】

 ○飽悶:因消化不良而難受的感覺。不舒服,喀氣應該是胃病的症狀。

 ◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「飽悶作酸嘔吐者,是停食吐也」。


  卷中・十五オモテ(705頁)

膈噎翻胃之症皆由七情太過而動五藏之火熏

蒸津液而痰益盛脾胃漸衰飲食不得流行爲此

三症

  【訓み下し】

膈噎翻胃の症,皆な七情太過(はなはだ)動き,五藏の火(ひ) 津液(うるおい)を熏蒸して,痰益々盛んに,脾胃漸く衰え,飲食(いんしい) 流行すること得ざるに由って,此の三症を爲す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・翻胃:「夫膈噎翻胃之症,皆由七情太過而動五臟之火,熏蒸津液而痰益盛,脾胃漸衰,飲食不得流行,為膈、為噎、為翻胃也」。


○年老人隂血枯槁痰火氣結升而不降飲食不下者乃成膈噎

  【訓み下し】

○年老の人,隂血 枯槁し,痰火 氣結ぼれて,升って降(くだ)らず,飲食(いんしい)下らず,乃ち膈噎と成る。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・翻胃:「年老之人,陰血枯槁,痰火氣結,升而不降,飲食不下者,乃成膈噎之病也」。


○年少之人有患膈噎者胃脘血燥不潤便閉塞而食不下也

  【訓み下し】

○年少(わか)き人,膈噎を患(うれ)う者有り,胃脘 血(ち)燥き潤わず,便 閉塞して食(しょく)下らず。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・翻胃:「年少之人,有患膈噎者,胃脘血燥不潤,便閉塞而食不下也」。


○咽喉以下至於臍胃脘之中百病危心氣痛胸結硬傷寒嘔噦悶涎中冲[手中指端去爪甲角陷中]列缺[去腕側上一寸五分]三間[食指本節後內側之陷中]三里[曲池之下二寸]淺風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]深刺

  【訓み下し】

○咽喉以下 臍に至って,胃脘の中(うち) 百病危(あやう)し,心氣痛み胸(むね)結硬して,傷寒嘔噦(おうえつ)悶涎(もんぜん),中冲(ちゅうしょう)[手の中指の端(はし),爪の甲の角を去る陷中]・列缺[腕(わん)の側(かたわら)の上(うえ)を去る一寸五分]・三間[食指本節(もとふし)後ろ內の側(かたわら)の陷中]・三里[曲池の下二寸]淺く,風池[耳の後ろ,髮の際(はえぎわ)の陷中,之を按(お)して耳の中(うち)に引く]深く刺す。

  【注釋】

 ○冲:「衝」の異体字。

 ◉『鍼灸聚英』雜病十一穴歌:「咽喉以下至於臍,胃脘之中百病危,心氣痛時胸結硬,傷寒嘔噦悶涎隨,列缺下鍼三分許,三分鍼瀉到風池,二定〔明本作「足」〕三間并三里,中冲還刺五分依」。


○嘔噦太淵[掌後陷中]淺刺

  【訓み下し】

○嘔噦,太淵[掌後(じょうご)の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』痰喘咳嗽部:「嘔噦:太淵」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「嘔噦太淵治之寧」。


○喘嗽隔食灸膈俞[七推下相相去脊中各二寸]

  【訓み下し】

○喘嗽隔食に膈俞[七推の下(した),脊中(せぼね)を相去る各二寸]に灸す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「喘嗽隔食治膈俞」。

 ◉『神應經』痰喘咳嗽部:「咳喘隔食:膈俞」。


  卷中・十五ウラ(706頁)

○膽虗嘔逆帶熱氣海[臍下一寸半]深刺

  【訓み下し】

○膽虛嘔逆,熱を帶ぶ,氣海[臍の下(した)一寸半]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「膽虛嘔逆兼帶熱,若治氣海病即瘳」。


○反胃灸膏肓[四推下相去脊中各三寸五分]百壯又膻中[兩乳間之陷中]灸七壯神効

  【訓み下し】

○反胃(ほんい),膏肓[四推の下,脊中(せぼね)を相い去ること各三寸五分]灸し,百壯,又た膻中[兩乳(ちち)の間(あいだ)の陷中]灸七壯,神効なり。

  【注釋】

 ○反胃:上文にあるように「翻胃」におなじ。

 ◉『萬病回春』卷3・翻胃・灸法:「治翻胃神効。膏肓(二穴,令病人兩手交在兩膊上,則胛骨開,以手揣摸第四椎骨下,兩旁各開三寸,四肋一二間之中,按之痠痛是穴,灸時手搭兩膊上不可放下,灸至百壯為佳。)・膻中(一穴,在膺部中,行兩乳中間陷中,仰臥取之,灸七壯,禁鍼。)・三里(二穴,在膝下三寸、䯒外臁兩筋間,灸七壯。)」。


○因血氣虗熱痰火三里[膝下三寸]石關[隂都下一寸去腹中行各五分]中脘[臍上四寸]氣海[臍下一寸五分]水分[臍上一寸]深刺胃倉[十二推下相去脊中各三寸五分]淺刺

  【訓み下し】

○血氣虛・熱痰火に因るに,三里[膝の下三寸]・石關[隂都の下(しも)一寸,腹の中行を去る各五分]・中脘[臍の上四寸]・氣海[臍の下一寸五分]・水分[臍の上一寸]深く刺す。胃倉[十二推の下,脊中(せぼね)を相い去ること各三寸五分]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・隔噎:「因血虗、氣虗、熱痰火血積、癖積。鍼天突、石關、三里、胃俞、胃脘、鬲俞、水分、氣海、胃倉」。


○飲食不下腹中雷鳴嘔噦多涎唾胸中噎悶隔關[七推下相去脊中各三寸半]魂門[九推下相去脊中各三寸五分]深刺

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)下らず,腹中雷鳴し,嘔噦,多く涎唾,胸中噎悶,隔關[七推の下,脊中(せぼね)を相い去る各三寸半]・魂門[九推の下(した),脊中(せぼね)を相い去ること各三寸五分]深く刺す。

  【注釋】

    ◉『鍼灸聚英』鬲關:「七椎下,兩旁相去脊中行各三寸陷中,正坐開肩取之。……主……食飲不下,嘔噦多涎唾,胸中噎悶……」。

    ◉『鍼灸聚英』魂門:「九椎下,兩旁相去脊中各三寸陷中,正坐取之。……主……食飲不下,腹中雷鳴……」。

2024年3月10日日曜日

鍼灸溯洄集 44

  卷中・十四オモテ(703頁)

(11)霍亂

霍亂者有濕乾之二症內傷飲食生冷外感風寒

暑濕而成濕霍亂忽心腹疼痛或上吐或下瀉或

吐瀉四肢厥冷六脉沉而爲絕○乾霍亂最難治

死有須更忽然心腹絞痛手足厥冷脉沉伏欲吐

不得吐欲瀉不得瀉隂陽乖隔㚈降不通急委中

  卷中・十四ウラ(704頁)

[膕中央約文動脉陷中]深刺出血

  【訓み下し】

霍亂は,濕・乾の二症有り,內(うち) 飲食(いんしい)の生冷(しょうれい)に傷り,外(ほか) 風寒暑濕【に/を】感じて成り,濕霍亂は,忽ち心腹(むねはら) 疼(いた)み痛む,或いは上(かみ)吐し,或いは下(しも)瀉(くだ)り,或いは吐瀉し,四肢(てあし)厥(ひ)冷(え),六脈 沉にして絕ゆることを爲す。○乾霍亂は,最も治(ぢ)し難し。死ぬること須更(しばらく)【須臾】に有り。忽然として心腹(むねはら)絞(こわ)り痛み,手足四肢(てあし)厥(ひ)冷(え),脈 沉伏にして,吐せんと欲し吐することを得ず,瀉せんと欲し瀉することを得ず,隂陽 乖隔,升降(しょうごう) 通ぜず,急(すみ)やかに委中[膕中央(あしのおりかがみのなか),約文(やくもん)動脈の陷中]深く刺す,血を出だす。


  【注釋】

 ○須更:「須臾」字の誤り。わずかの時間。瞬時。/「しばらく」:短い時間。 ○絞痛:指痙攣性的劇烈疼痛並伴有悶塞的感覺,尤指胸部悶塞性疼痛(心絞痛)。 ○手足厥冷:證名。手足冷至肘膝。見『金匱要略』腹滿寒疝宿食病脈證治:「寒疝繞臍痛,若發則自汗出,手足厥冷」。又稱手足逆冷、手足厥逆、四逆等。有寒熱之分。寒證由於陽氣衰微,陰寒內盛所致,伴有怕冷,下利清穀,脈沉微等,治宜回陽救逆,方用四逆湯、大烏頭煎等方;熱證多因熱邪鬱遏,陽氣不能通達四肢,伴有胸腹煩熱,口渴等證,治宜宣透鬱熱,方用四逆散、白虎湯、承氣湯等。 ○乖隔:分離,阻隔。 ○㚈:「升」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷3・霍亂:「夫霍亂者,有濕霍亂、有乾霍亂,皆是內傷飲食生冷、外感風寒暑濕而成。濕霍亂,忽時心腹疼痛,或上吐,或下瀉,或吐瀉齊作,攪亂不安,四肢厥冷,六脈沉欲絕,此名濕霍亂,俗云虎狼病。……有乾霍亂者,最難治,死在須臾,俗云攪腸痧。忽然心腹絞痛、手足厥冷、脈沉細或沉伏、欲吐不得吐、欲瀉不得瀉,陰陽乖隔,升降不通,急用鹽湯探吐及刺委中穴出血,治用理中湯加減」。

 ◉岡本一抱『指南』病名彙考・霍亂:「俗に此症を夏三月ならでは發せざることと思ば誤(あやまり)也。凡そ四時に皆有。なかんづく夏月には此症最も多し。即ち飲食寒温の不和を致し,或は暑濕心脾を犯し中焦塞(ふさがり)て,上下不交(まじわらず),吐瀉交(こもごも)起り,繚亂〔みだれる〕す。此を濕霍亂と云。吐せんと欲して吐すること不能(あたわず),瀉せんと欲して瀉すること不能(あたわず)。胸〔むね〕中悶〔もだゆ〕絶(ぜつ)するを乾霍亂と號す。『韻會(いんゑ)』に「手を搖(うごかす?)を揮と云。手を反(かえす)を攉と云。通じて霍に作云云。此病,揮攉の間に發して繚亂するが故に,霍亂と名づく」。

 ◉『病名彙解』霍亂: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/191?ln=ja

 ◉『病名彙解』乾霍亂:  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/135?ln=ja


  卷中・十四ウラ(704頁)

○霍亂隂陵泉[膝下內側輔骨下陷中伸足取之]承山[兌腨腸下分肉間陷中]深刺

  【訓み下し】

○霍亂,隂陵泉[膝の下(した),內の側(かたわら),輔骨(かまちほね)の下(した)陷中,足を伸べて之を取る]・承山[兌腨(こはら)の腸,分肉の間(あいだ)の陷中]深く刺す

  【注釋】

 ○輔骨:輔助主幹的骨骼。指腓骨。『醫宗金鑒』卷89・正骨心法要旨・四肢部・胻骨:「胻骨,即膝下踝上之小腿骨,……。其骨二根,……在後者名輔骨,其形細……」。沈彤『釋骨』:「俠膝之骨,曰輔骨。内曰内輔,外曰外輔。其專以骸上為輔者(骨空論云:「骸下為輔」,「下」乃「上」之訛也),則膝旁不曰輔而曰連骸,骸上者,𩩋之上端也」。/かまち【輔】:「かばち」とも。車などの両側に付ける枠で、荷の落ちるのを防ぐもの。

 ○兌腨腸:「腨腸」:腓腸,小腿肚。『靈樞』本輸:「太陽之別也,上踝五寸,別入貫腨腸,出於委陽」。馬蒔注:「腨腸者,即足腹也」。承筋穴の別名も「腨腸」であることから,「兌腨(こはら)の腸」という切り方,訓には問題があろう。下文では「腨腸(こむら)」と訓じている。

 ◉『鍼灸聚英』陰陵泉:「主……霍亂……」。

 ◉『鍼灸聚英』承山:「兌腨腸下分肉間陷中。……主……霍亂……」。


○胷中滿悶欲吐幽門[巨闕旁一寸半]深刺

  【訓み下し】

○胸(むね)の中(うち)滿ち悶え吐せんと欲して,幽門[巨闕の旁ら一寸半]深く刺す。

  【注釋】

 ○胷:「胸」の異体字。『鍼灸聚英』でも多く「胷」字が使われている。

 ◉『鍼灸聚英』幽門:「夾巨闕兩旁各五分陷中。明堂云巨闕旁一寸五分。千金云夾巨闕一寸。(按幽門當在足陽明胃經、任脈二脈之中。)……主……嘔吐涎沫,喜唾,煩悶胸痛,胸中滿……」。


○霍亂吐瀉尺澤[肘中約紋上動脉之中]三里[曲池下二寸按之肉起銳肉之端]關冲淺刺

  【訓み下し】

○霍亂吐瀉に,尺澤[肘中(ひじのおりかがみのうち),約紋の上(かみ),動脈の中(うち)]・三里[曲池の下(しも)二寸,之を按(お)し,肉の起こる銳肉の端(はし)]・關衝,淺く刺す。

  【注釋】

 ○冲:「衝」の異体字。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・霍亂:「霍亂吐瀉治關衝,支溝三里與尺澤」。


○霍亂轉筋承筋[腨腸中脛後從脚跟上七寸陷]附陽[外踝骨之上七寸]

○霍亂轉筋,承筋[腨腸(こむら)の中(うち),脛(はぎ)の後ろ,脚跟(きびす)の上(かみ)從り七寸陷]・附陽[外踝(とくるぶし)の骨の上七寸]。

  【注釋】

 ★「附陽」:『聚英』おなじ。いま教科書は「跗陽」に作る。「外踝骨之上7寸」とする説,未詳。「三寸」の誤りか。『聚英』附陽は「外踝上三寸」に作る。「骨」字があることから,飛揚穴(外踝骨上七寸)と見誤ったか。

 ○轉筋:證名。肢體筋脈牽掣拘攣,痛如扭轉。出『靈樞』陰陽二十五人。由陰血氣血衰少,風冷外襲或血分有熱所致。發於小腿肚,甚則牽連腹部拘急。

 ◉『指南』病名彙考・轉筋:「俗に云こむらがえり。『原病式』に,轉筋は經に所謂る反戾也云云」。

 ◉『病名彙解』轉筋:「俗に云こむらがへりなり。『病源』に云,轉とは,其轉するを謂也。○『原病式』に云,轉筋は經に所謂る反戾(ほんれい)也」。

 ◉『鍼灸聚英』承筋:「主……霍亂轉筋」。

 ◉『鍼灸聚英』附陽:「外踝上三寸。……主霍亂轉筋……」。

2024年3月9日土曜日

鍼灸溯洄集 43

  卷中・十三オモテ(701頁)

(10)泄瀉

泄瀉者因脾胃虗弱飢寒飲食過或爲風寒暑濕

所傷

  【訓み下し】

  泄瀉(せつしゃ)

泄瀉(くだりはら)は,脾胃虛弱,飢寒飲食(いんしい)過ごすに因る,或いは風寒暑濕の爲に傷(やぶ)らる所なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「泄瀉之症,只因脾胃虛弱,饑寒飲食過度,或為風寒暑濕所傷,皆令泄瀉」。

 ◉『病名彙解』泄瀉:「俗に云,くだりはらなり。……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/372?ln=ja


   ○寒泄者悠悠腹痛瀉無休止脉沉遲也

火瀉者腹中痛泄後去如湯後重如滯瀉下赤色

  卷中・十三ウラ(702頁)

小水短赤煩渇脉數也

  【訓み下し】

○寒泄は,悠悠腹痛み,瀉(くだ)り休(や)止(む)こと無し。脈 沉遲なり。火瀉は,腹中 痛み,泄(くだ)って後(のち)去ること湯(ゆ)の如し。後重(こうじゅう) 滯るが如し。瀉下(しゃげ) 赤色(あかく),小水(べん) 短赤(しやく),煩渇(はんかつ) 脈(みゃく)數(さく)なり。

  【注釋】

 ○寒泄:病證名。指脾胃寒盛所致之腹瀉。『靈樞』邪氣臟腑病形:「冬日重感於寒即泄」。劉宗素謂:「又有寒泄者,大腹滿而泄;又有鶩溏者,是寒泄也。」(『素問病機氣宜保命集』瀉論)

 ○悠悠:連綿不盡貌。動蕩;飄忽不定。

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「寒泄者悠悠腹痛瀉無休止,色青,脈沉遲是也。……火瀉者,腹中痛一陣,瀉一陣,後去如湯,後重如滯,瀉下赤色,小水短赤,煩渴脈數是也。(即火瀉也)」。


  卷中・十三ウラ(702頁)

○暑瀉者夏月暴瀉如水面垢脉虛也

  【訓み下し】

○暑瀉は,夏月 暴(にわ)かに瀉(くだ)り水の如し,面(おもて)垢(あか)つき,脈 虛なり。

  【注釋】

 ○暑瀉:病名。見『丹溪心法』泄瀉。又名暑泄。『證治要訣』卷八:「暑瀉,由胃感暑氣,或飲啖日中之所曬物,坐日中熱處,症状與熱瀉略同」。

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「暑瀉者,夏月暴瀉如水,面垢、脈虛、煩渴、自汗是也」。


○濕瀉者瀉水多而腹不痛腹雷鳴脉細

  【訓み下し】

○濕瀉は,瀉(くだ)ること水多くして腹 痛まず,腹雷(がらがら)と鳴り,脈 細(さい)。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「濕瀉者,瀉水多而腹不痛,腹響雷鳴,脈細是也」。

 ◉『病名彙解』濕瀉:「『入門』に云:濕瀉は水の傾(かたむけ)下か如く腸鳴,身重く腹疼(いたま)さるなり」。


○風泄者瀉而便帶清血脉浮弦

  【訓み下し】

○風泄(ふうしゃ)は,瀉(くだ)って便 清血を帶び,脈 浮弦。

  【注釋】

 ○風瀉:由風邪引起,兼有外感表證,以大便溏瀉或瀉下清水,頭脹,自汗,惡風為常見症的泄瀉證候。

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「風瀉者,瀉而便帶清血,脈浮弦是也」。

 ○「泄」は,引用元と添え仮名からすれば「瀉」字とすべきか。以下,おなじ。


○食積泄者腹痛甚而瀉瀉後痛减脉弦

  【訓み下し】

○食積泄(しょくしゃくしゃ)は,腹痛むこと甚だしうして瀉(くだ)り,瀉(くだ)って後(のち)痛み减り,脈 弦。

  【注釋】

 ○减:「減」の異体字。

 ○食積泄:病名。即傷食瀉。『不居集』泄瀉:「食積泄,泄下腐臭,噫氣作醋」。/食積泄瀉,病證名。飲食積滯傷脾所致的泄瀉。又稱傷食瀉、食瀉、積瀉。證見腹痛即瀉,瀉後即減,少頃復痛瀉,腹皮扛起,或成塊或成條,瀉下臭如敗卵(『症因脈治』卷四)。

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「食積瀉者,腹疼甚而瀉,瀉後痛減,脈弦是也」。


○痰瀉者或多或少或瀉或不瀉脉沉滑

  【訓み下し】

○痰瀉は,或いは多く或いは少なく,或いは瀉(くだ)り或いは瀉(くだ)らず,脈 沉滑。

  【注釋】

 ○痰瀉:病證名。即痰泄,一名痰積泄瀉。『醫學入門』卷五:「痰瀉,或瀉或不瀉,或多或少。此因痰留肺中,以致大腸不固」。瀉下物如白膠、或如蛋白狀,泄瀉時瀉時止、時輕時重,常兼有頭暈惡心,胸悶食減,腸鳴,苔微膩,脈弦滑。

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「痰瀉者,或多或少,或瀉或不瀉,脈沉滑是也」。


○虗瀉者飲食入胃即瀉水売不化脉㣲弱

  【訓み下し】

○虛瀉は,飲食(いんしい) 胃に入り,即ち水売(すいこく)【穀】を瀉(くだ)して化(こな)れず,脈 微弱。

  【注釋】

 ○「売」は「穀」の略字であろう。 ○「㣲」は「微」の異体字。

 ○虛瀉:病證名。因臟腑虛弱所致的泄瀉。見『醫學入門』卷五。又稱虛泄。多屬脾腎虛弱。症見睏倦無力,自汗,消瘦,大便溏泄清稀,甚至完谷不化,四肢清冷,脈多細弱。輕者屬脾,重者屬腎。

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「虛瀉者,飲食入胃即瀉,水穀不化,脈微弱是也」。


○脾瀉者食後到飽瀉去即寛脉細治法不同隨可用

  【訓み下し】

○脾瀉は,食後 到って飽(あ)くに,瀉(くだ)り去って即ち寛(ゆる)し,脈 細。

 治法(ぢほう)同じからず,隨って用ゆ可し。

  【注釋】

 ○脾瀉:病名。即脾泄。又名洞泄(見『醫學真傳』)。吳澄『不居集』謂:「脾瀉,腹脹滿,泄注,食即嘔吐」。/脾泄,病名。又名脾瀉。指飲食或寒濕傷脾,引致脾虛泄瀉。『難經』五十七難:「脾泄者,腹脹滿,泄注,食即嘔吐逆」。『丹溪心法』泄瀉:「老人奉養太過,飲食傷脾」。

 ◉『萬病回春』卷3・泄瀉:「脾瀉者,食後到飽,瀉後即寬,脈細是也」。


○泄瀉腹痛腸中雷鳴食不化中脘[臍上四寸]天樞[夾臍旁各二寸陷中]三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○泄瀉は,腹痛み,腸中雷鳴,食 化(こな)れざるに,中脘[臍の上四寸]・天樞[臍の旁(かたわら)を夾(さしはさ)むこと各二寸陷中]・三里[膝の下(した)三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「主……先腹痛先瀉,……食飲不化……」。

 ◉『鍼灸聚英』天樞:「主奔豚,泄瀉,脹疝,赤白痢水痢不止,食不下,水腫腹脹腸鳴,……」。

 ◉『鍼灸聚英』三里:「『千金翼』云:主腹中寒,脹滿,腸中雷鳴,……腹痛,……久泄利,食不化……」。


○腸鳴卒痛泄利不欲食飲食不下不容[巨闕旁各三寸直四肋間]承滿[不容下一寸]深刺梁門[承滿下一寸]關門[梁門下一寸]淺刺

  【訓み下し】

○腸鳴り卒(にわ)かに痛み,泄利して食を欲(この)まず,飲食(いんしい)下らず,不容[巨闕の旁(かたわら)各三寸,直(ただ)ちに四肋の間(あいだ)]・承滿[不容の下(しも)一寸]深く刺す。梁門[承滿の下(しも)一寸]・關門[梁門の下(した)一寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』不容:「幽門旁,相去各一寸五分,去中行任脈各三寸,上脘兩旁各一寸,直四肋間。……主……不嗜食,腹虛鳴,……」。

 ◉『醫學入門』不容:「平巨闕旁三寸,挺身取之」。

 ◉『鍼灸聚英』承滿:「不容下一寸,去中行各三寸。……主腸鳴腹脹,……食飲不下,……」。

 ◉『鍼灸聚英』關門:「梁門下一寸,去中行各三寸。……主……腸鳴卒痛,泄利,不欲食,……」。


  卷中・十四オモテ(703頁)

○泄利腹寒臍痛幽門[巨闕旁各五分]腹結[大橫下一寸三分去腹中行四寸半]深腹哀[日月下一寸五分]淺刺

  【訓み下し】

○泄利,腹寒(ひ)え臍痛むに,幽門[巨闕の旁(かたわら)各五分]・腹結[大橫の下一寸三分,腹の中行を去ること四寸半]深く,腹哀[日月の下(しも)一寸五分]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』幽門:「夾巨闕兩旁各五分陷中。……主……泄利膿血,……」。

 ◉『鍼灸聚英』腹結:「十四經發揮云:大橫下一寸三分,去腹中行四寸半。……主咳逆,臍痛,腹寒瀉利,……」。

 ◉『鍼灸聚英』腹哀:「日月下一寸五分,去腹中行四寸半。……主寒中食不化,大便膿血」。