卷下・廿四ウラ(774頁)
(31)產後[サンゴ]
産後諸疾氣血虗脉緩滑沈細冝實大強牢濇疾危
【訓み下し】
產後諸疾,氣血 虛し,脈 緩滑沈細に宜し。實大強(けん)牢濇疾,危し。
【注釋】
○冝:「宜」の異体字。 ○強:添え仮名および『万病回春』によれば,「弦」字の誤り。
◉『萬病回春』卷6・婦人科・產後:「脈:產後緩滑,沈細亦宜;實大弦牢濇疾,皆危」。
卷下・廿五オモテ(775頁)
○惡露不盡瘀血上衝昏迷腹滿硬痛惡血也氣海[臍下一寸五分]三隂交[踝上三寸]灸刺
【訓み下し】
○惡露 盡きず,瘀血 上(のぼ)り衝き,昏迷,腹滿ち硬く痛むは惡血(おけつ)なり。氣海[臍(へそ)の下(しも)一寸五分]・三隂交[踝上三寸]灸刺す。
【注釋】
★三隂交:『鍼灸聚英』玉機微義・婦人に基づくとすれば,「隂交」の誤りか。
○惡露:出『肘後備急方』。指產婦分娩後從陰道排出的餘血和濁液。一般在產後2-3周內完全排盡。如果超過三個星期,仍然持續淋瀝不斷,排出或多或少均屬病態。參惡露不止、惡露不絕條。/惡露不絕,病名。見『婦人大全良方』卷二十。又名惡露不止、惡露不盡。多因產後氣虛不攝,衝任不固;或余血未盡感受寒涼,敗血瘀阻衝任;或陰血耗損,虛熱內生,熱擾衝任,迫血下行所致。
◉岡本一抱『指南』惡露(おろ):「產後一七[ヒトシチヤ]日下る所の惡(あく)血を云」。
◉『萬病回春』卷6・婦人科・產後:「產後惡露不盡,瘀血上衝,昏迷不醒,腹滿硬痛者,當去惡血」。
◉『鍼灸聚英』三陰交:「主……產後惡露不行……」。
◉『鍼灸聚英』氣海:「主……產後惡露不止……」。
◉『鍼灸聚英』陰交:「主……婦人血崩,月事不絕,帶下,產後惡露不止,繞臍冷痛……」。
◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「產後惡露不止,及諸淋注,灸氣海……產後惡露不止,繞臍冷痛,灸陰交百壯……」。
○産後腹軟滿不硬痛者不瘀血乃脾虗也
【訓み下し】
○產後 腹(はら)軟らかに,滿ちて硬からずして痛むは,瘀血にあらず,乃ち脾虛なり。
【注釋】
◉『萬病回春』卷6・婦人科・產後:「產後腹軟、滿不硬痛者,不是瘀血,乃是脾虛故也」〔和刻本の訓:產後腹軟らかに,滿つれども硬痛せざる者は,是れ瘀血にあらず,乃ち是れ脾虛する故なり〕。この上文に「惡血去後,腹不滿、不硬、不痛,但虛熱不退」,「產後惡露不盡,瘀血上衝,昏迷不醒,腹滿硬痛者,當去惡血」とあることから,「不」字は「硬」字のみならず「痛」字にもかかっていると思われる。つまり和刻本のように理解するのが正しいであろう。
○産後心血空虗神無所依因悲思欝結喜怒憂驚生痰驚狂煩亂叫罵欲走悲歌妄笑
【訓み下し】
○產後 心血空虛,神 依る所無き,悲思欝結に因って,喜怒憂驚,痰を生じ,驚狂煩亂,叫罵(め) 走らんと欲す,悲しみ歌い妄りに笑う。
【注釋】
◉『萬病回春』卷6・婦人科・產後:「產後心血空虛、神無所依,或因悲思鬱結、怒氣憂驚。驚則神舍空,舍空則生痰,是神不守舍,使人驚狂煩亂、叫罵欲走、悲歌妄笑,頭搖手戰」。
○産後初起腹中有塊㚈舉作痛無寒熱俗云児枕
【訓み下し】
○產後初め起こる腹中 塊(かい)有り,升(のぼ)り舉し痛みを作(な)し,寒熱を無(な)し,俗に云わく児枕(しりばら)と。
【注釋】
★初め起こる:『萬病回春』和訓:「初めて起きて」。 ★寒熱を無(な)し:「を」は不要であろう。
○㚈:「升」の異体字。
○兒枕:①指妊娠晚期,胞中余血成塊有如兒枕,故名。『經效產寶』續編:「十月足日,食有餘,遂有成塊,呼為兒枕」。又曰「胎側則成形塊者,呼為兒枕」。兒枕每成為難產之成因,故『經效產寶』指出:「欲生時塊破,遂血裹其子,故難產」。②病證名。出『醫學入門』,即兒枕痛。/兒枕痛:病證名。出『古今醫鑒』卷十二。又名兒枕、兒枕不安、塊痛、產枕痛、血枕痛、血塊痛、血母塊、產後兒枕腹痛、產後腹中塊痛等。多因產後惡露未盡,或風寒乘虛侵襲胞脈,瘀血內停所致。惡露未盡者,症見小腹硬痛拒按,或可摸到硬塊,兼見惡露不下或不暢,治宜活血去瘀。
○しりばら:しり‐はら【後腹・産後腹】 出産のあとの腹痛。あとはら。
◉岡本一抱『指南』兒枕痛(にちんつう):「產後の腹痛也。俗に云アトハラ」。
◉『病名彙解』兒枕痛(じしんつう):「俗に云アトハラの痛むことなり。兒,胎にあって枕にして居たる所の敗血の痛むと云義なり。畢竟瘀血の痛なり」。
◉『萬病回春』卷6・婦人科・產後:「產後初起腹中有塊,升舉作痛,無寒熱者,俗云兒枕」。
○産後兩脇急痛不可忍灸石門[臍下二寸]
【訓み下し】
○產後兩脇急痛,忍ぶ可からず,石門[臍下二寸]に灸す。
【注釋】
★石門:『鍼灸聚英』によれば,「石關」(足少陰腎経)の誤りか。通行本『玉機微義』では見つけられず。『玉機微義』卷14寒門・灸法に,「石關一穴,在臍下二寸」とある。これは,位置からすれば「石門」である。
◉『鍼灸聚英』石門:「主……婦人因產惡露不止,結成塊,崩中漏下」。
◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「產後兩脇急痛不可忍,灸石關五十壯」。
○卒口噤語音不出風癇灸承漿[唇稜下陷開口取之]五壯
【訓み下し】
○卒(にわ)かに口噤(つぐ)み,語音(ごいん)出でず,風癇,承漿[唇稜の下(しも)の陷(くぼみ),口開いて之を取る]を灸す,五壯。
【注釋】
○風癇:①癇的一種。『聖濟總錄』卷十五:「風癇病者,由心氣不足,胸中蓄熱,而又風邪乘之。病間作也。其候多驚,目瞳子大,手足顫掉,夢中叫呼,身熱瘈瘲,搖頭噤,多吐涎沫,無所覺知是也」。②小兒癇證之一。『千金要方』卷五:「初得之時,先屈指如數,乃發作者,此風癇也」。③外感風邪而致的抽搐。『幼科證治準繩』:「風癇,因將養失度,血氣不和,或厚衣汗出,腠理開舒,風邪因入之,其病在肝,肝主風。驗其證:目青、面紅、發搐」。④手足偏廢如癱瘓之證。見『奇效良方』卷六十四:「風癇為病,廢手足,或一手一足,或兩手兩足,如癱不隨,或睫眼,或睫口,或口牽引頰車」。多見於腦血管意外〔=障碍〕後遺症等。
◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「婦人卒口噤,語音不出,風癇,灸承漿五壯」。
○産後血氣俱虗灸血海[膝臏上內廉白肉際二寸五分]五壯
【訓み下し】
○產後,血氣 俱に虛し,血海[膝臏の上內廉,白肉の際二寸五分]に灸す,五壯。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「婦人產後,血氣俱虛,灸血海百壯」。
○産後血暈不識人支溝[腕後臂外三寸兩骨之間]三里[膝下三寸]三隂交[踝上三寸]灸刺
【訓み下し】
○產後,血暈,人を識(し)らず,支溝[腕後臂(ひじ)の外(そと)三寸兩骨の間]・三里[膝(しつ)下三寸]・三隂交[踝上三寸]灸刺す。
【注釋】
○血暈:婦人生產後因失血而頭暈的病症。
◉『病名彙解』血暈:「產後などに血がのぼりて目のまふことなり」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「產後血暈不識人,支溝三里三陰交」。
卷下・廿五ウラ(776頁)
○生産耳如蟬鳴腰如折三里合谷[手大指次指之歧骨間陷中]光明[外踝上五寸]深刺
【訓み下し】
○生產(しょうさん),耳 蟬の鳴くが如く,腰 折れるが如し,三里・合谷[手の大指の次指の歧(ちまた)骨の間の陷中]・光明[外踝の上五寸]深く刺す。
【注釋】
○生產:生孩子。
◉『鍼灸聚英』席弘賦:「期門穴主傷寒患,六日過經猶未汗。但向乳根二肋間,又治婦人生產難。耳內蟬鳴腰欲折,膝下明存三里穴。若能補瀉五會間,且莫向人容易說。睛明治眼未效時,合谷光明安可缺」。
◉『鍼灸聚英』天元太乙歌:「期門穴主傷寒患,七日過經尤未汗。但於乳下雙肋間,刺入四分人力健。耳內蟬鳴腰欲折,膝下分明三里穴」。
★本書が『鍼灸聚英』席弘賦を元としたとすれば,難産は期門穴〔直乳二肋端〕,三里は耳鳴り,合谷・光明は目の治療穴としてあげられていると思われる。
◉『神應經』耳目部:「眼癢眼疼:光明(瀉) 五會」。
◉『鍼灸聚英』標幽賦:「眼癢眼疼,瀉光明於地五」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・耳目:「眼癢眼痛光明瀉,兼治五會癢痛休」。
◉『鍼灸聚英』合谷:「主……目視不明,生白翳」。
◉『神應經』婦人部:「產後諸病:期門」。
○産婦無乳前谷[手小指外側本節前陷中]且中[兩乳間陷]少澤[手小指內側去爪甲角]灸刺
○產婦 乳(ち)無きに,前谷[手の小指外側の本節の前の陷中]・旦(だん)中〔膻中〕[兩乳の間の陷]・少澤[手の小指の內側の爪甲の角を去る]灸刺す。
【注釋】
★且:添え仮名は「だん」であるので「旦」。「旦は」「亶」の略字で,「亶」は「膻」の略字であろう。なお『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人も「亶中」に作る。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「無乳亶中少澤燒」。
◉『鍼灸聚英』前谷:「主……婦人產後無乳」。
◉『鍼灸聚英』少澤:「手小指端外側,去爪甲角下一分陷中」。上文(684頁694頁)でも「外側」とする。
○胞衣不下內關[掌後去腕二寸兩筋間]照海[足內踝下]淺刺
【訓み下し】
○胞衣(えな) 下(くだ)らず,內關[掌後,腕を去る二寸,兩筋の間]・照海[足の內踝の下]淺く刺す。
【注釋】
○胞衣:胎兒出生時包裹在外的一層膜。/えな:胎児を包んでいた膜や胎盤など。後産(あとざん)として体外に排出される。
◉『醫學入門』附・雜病穴法:「死胎不下,瀉三陰交,胞衣不下,瀉照海、內關」。
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