2024年4月3日水曜日

鍼灸溯洄集 68 卷下(14)脹滿

   卷下・十一ウラ(748頁)

 (14)脹滿[チョウマン]

脹者由脾胃之氣虗弱不能運化精而致水売聚

而不散故成脹

  【訓み下し】

脹は,脾胃の氣 虛弱に由って,精を運化すること能わず,水穀(すいこく)を致し聚めて散ぜず,故(かるがゆえ)に脹を成す。

  【注釋】

 ○「売」:「穀・穀」の略字。

 ◉『萬病回春』卷3・鼓脹:「夫脹者,由脾胃之氣虛弱,不能運化精微而致水穀聚而不散,故成脹也」。


○飲食失節不能調養則清下降濁氣滿胷腹濕熱相蒸成脹滿

  【訓み下し】

○飲食(いんしい) 節を失い,調養すること能わず,則ち清 下降(げこう)し,濁氣 胸腹に滿ち,濕熱 相い蒸し,脹滿を成す。

  【注釋】

 ○「胷」:「胸」の異体字。和刻本『万病回春』も同じ。

 ◉『萬病回春』卷3・鼓脹:「然飲食失節,不能調養則清氣下降,濁氣填滿胸腹,濕熱相蒸,遂成脹滿」。


○經曰皷脹中空無物有似於皷小便短濇不利也

  【訓み下し】

○經(きょう)に曰わく,鼓脹は,中(なか)空にして物無し,鼓(つづみ)に似ること有り,小便 短濇(たんしよく)にして利せず。

  【注釋】

 ○「皷」:「鼓」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷3・鼓脹:「經曰:鼓脹是也。中空無物有似於鼓,小便短濇不利,其病膠固難以治療」。


  卷下・十二オモテ(749頁)

○熱脹腹有積聚者冝分消

  【訓み下し】

○熱脹は,腹に積聚有り,分消す宜(べ)し。

  【注釋】

 ○「冝」:「宜」の異体字。 

 ◉『萬病回春』卷3・鼓脹:「熱脹腹有積聚者,宜分消也」。


○血氣凝結積聚而成腹脹者宜攻也

  【訓み下し】

○血氣 凝結して積聚 腹脹を成す〔者〕,攻む宜(べ)し。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・鼓脹:「血氣凝結積聚而成腹脹者,宜專攻也」。


○腹脹因於氣者冝須氣

  【訓み下し】

○腹脹(は)り,氣に因る者は,氣を須(じゅん)【順】す宜(べ)し。

  【注釋】

 ○須:添え仮名と『万病回春』にしたがえば,「順」字の誤字か異体字。【順氣】:指使體氣順暢。『本草綱目』草二・防風:「消風順氣:老人大腸秘澀」。

 ◉『萬病回春』卷3・鼓脹:「腹脹因於氣者,宜順氣也」。


○心腹脹滿腸鳴臟氣虗憊三里[膝下三寸]上廉[三里下三寸舉足取]陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷]深刺

  【訓み下し】

○心腹 脹滿,腸鳴り,臟氣 虛憊,三里[膝の下三寸]・上廉[三里下三寸,足を舉げて取る]・陽陵泉[膝の下(しも)一寸,䯒(はぎ)の外廉(そとかど)の陷(くぼみ)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「腹肋滿兮治陽陵,三里上廉三穴精。心腹脹滿絕骨上,更兼一穴是內庭」。

 ◉『鍼灸聚英』三里:「膝下三寸……主胃中寒,心腹脹滿,腸鳴,臟氣虛憊……」。


○心腹脹滿胃中熱絕骨[足外踝上三寸]深刺內庭[足大指次指外間陷]淺刺

  【訓み下し】

○心腹 脹滿は,胃中の熱,絕骨[足の外踝(とくるぶし)の上(かみ)三寸]深く刺す。內庭[足の大指の次の指の外間(がいかん)の陷]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「心腹脹滿絕骨上,更兼一穴是內庭」。

 ◉『鍼灸聚英』內庭:「主……腹脹滿……」。

 ◉『鍼灸聚英』懸鍾(一名絕骨):「主心腹脹滿,胃中熱……」。


○小腹脹滿痛中封[足內踝骨前一寸]然谷[足內踝前起大骨下陷中]淺刺

  【訓み下し】

○小腹(ほうがみ)脹滿痛むに,中封(ちゆうほう)[足の內踝(うちくるぶし)の骨の前一寸]・然谷[足の內踝(くるぶし)の前,起こる大骨の下の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ○中封(ちゆうほう):(13)疝氣での添え仮名は「チウフウ」。 ○起大骨:舟状骨。「起」は,「隆起した」の意。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「小腹脹滿痛中封,然谷內庭大敦中」。

 ◉『鍼灸聚英』中封:「主……小腹腫痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』然谷:「主……小腹脹……」。


○腹暴脹中惡脾疼中脘[臍上四寸]隂市[膝上三寸]三里曲泉[膝股上內輔骨下]深刺

  【訓み下し】

○腹(はら)暴脹,中惡,脾疼に,中脘[臍の上四寸]・隂市[膝の上(かみ)三寸]・三里・曲泉[膝股(しつこ)の上(かみ),內(ない)輔骨の下(しも)]深く刺す。

  【注釋】

 ★曲泉穴の部位の問題については,卷下(13)疝氣にて言及した。

 ○中惡:病名。又稱客忤、卒忤。感受穢毒或不正之氣,突然厥逆,不省人事。

 ◉『指南』病名彙考・中惡:「『玉案』に,〈中惡・天弔は,惡鬼の氣に中(あたる)〉云云。死を弔(とむらい)喪(も)を問(とい),廟に入,塚に登(のぼり),一切不正[タダシカラズ]の邪惡の氣に犯(おかされ)て,忽(たちまち)四支厥冷,肌(き)粟起[サムケタツ],頭面青黑,妄言[タワゴト]す。甚時は口噤[クイツメ]して人事を知らざる也」。

 ◉『病名彙解』・中惡:「……○『丹臺玉案』に……」。 『丹臺玉案』中惡門。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/103?ln=ja

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「主……腹暴脹,中惡,脾疼……」。

 ◉『鍼灸聚英』陰市:「主……小腹痛,脹滿……」。

 ◉『鍼灸聚英』三里:「主胃中寒,心腹脹滿,腸鳴,臟氣虛憊……」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「主……小腹痛引咽喉……」。


○腹堅腫如皷水分[臍上一寸]復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]三隂交[踝上三寸]深刺

  【訓み下し】

○腹堅く腫れ鼓(つづみ)の如し,水分[臍上一寸]・復溜(ふくる)[足の內踝の上(かみ)二寸,筋骨の陷中]・三隂交[踝上三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』水分:「主水病,腹堅腫如鼓,轉筋不嗜食,腸胃虛脹……」。

 ◉『鍼灸聚英』復溜:「主……腹中雷鳴,腹脹如鼓……」。

 ◉『鍼灸聚英』三陰交:「主……腹脹腸鳴溏泄……」。


  卷下・十二ウラ(750頁)

○堅牢胸腹膨脹氣鳴者合谷[手大指次指歧骨間]三里[曲下二寸]淺刺期門[直乳二肋端]深刺

  【訓み下し】

○堅牢胸腹膨脹氣鳴る者は,合谷[手の大指の次指の歧骨(ちまたほね)の間]・三里[曲下二寸]淺く刺す。期門[直乳二肋の端(はし)]深く刺す。

  【注釋】

 ○堅牢:『鍼灸聚英』によれば,症状ではないので,引用する必要がない部分だと思われる。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「一穴治之命堅牢〔一穴 之を治せば命 堅牢なり〕,胸腹膨脹氣鳴疾,合谷三里期門高」。


○氣脹寒脹脾虗中滿上脘[臍之上五寸]章門[大橫外直季脇肋端]關元[臍下三寸]承滿[不容下一寸去中行各三寸]期門深刺

  【訓み下し】

○氣脹寒脹,脾虛中滿,上脘[臍の上五寸]・章門[大橫の外(ほか),直(じき)季脇肋の端(はし)]・關元[臍下三寸]・承滿[不容の下一寸,中行を去ること各三寸]・期門,深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・鼓脹:「氣脹、寒脹、脾虛中滿。鍼上脘、三里、章門、陰谷、關元、期門、行間、脾俞、懸鍾、承滿」。

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