2024年4月9日火曜日

鍼灸溯洄集 73 卷下(20)吐血[附衂血咳血唾血]

   卷下・十六オモテ(757頁)

 (20)吐血[附衂血咳血唾血]

  【訓み下し】

  吐(と)血(けつ)[附(つけた)り 衂血(じゅくけつ)・咳(がい)血・唾(だ)血]


一切血症皆属熱俱陽盛隂虗火載血上錯經妄行而爲逆

  【訓み下し】

一切の血症は,皆な熱に屬す。俱に陽盛んに隂虛,火(ひ) 血を載せて,上(かみ) 經を錯(みだ)し妄りに行(ゆ)いて逆を爲す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷4・失血:「一切血症,皆屬於熱。藥用清涼。俱是陽盛陰虛,火載血上,錯經妄行而為逆也」。


○吐血者出於胃吐出全血也先吐痰而後見血者積熱也先吐血而後見痰者隂虗也

  【訓み下し】

○吐血は,胃於(よ)り出だす,全血(ぜんけつ)を吐き出だす。先ず痰を吐きて後ち血を見(あら)わす者は,積(しゃく)熱なり。先ず血を吐いて後ち痰を見(あら)わす者は,隂虛なり。

  【注釋】

 ★「吐キテ」と「吐イテ」の訓が併存する。 ○全血:意味不明。

 ◉『萬病回春』卷4・失血:「吐血者,出於胃,吐出全是血也〔吐血は,胃より出で,吐出は全く是れ血なり〕。……先吐痰而後見血者,是積熱也。……先吐血而後見痰者,是陰虛也」。


  卷下・十六ウラ(758頁)

○衄血者於肺鼻中出血也

  【訓み下し】

○衄(じゅく)血(けつ)は,肺於(よ)り鼻中に血を出だすなり。

  【注釋】

 ★下文と合わせるならば,「者」の下の「出」字を残してほしかった。あるいは誤って脱落したか。

 ◉『萬病回春』卷4・失血:「衄血者,出於肺,鼻中出血也」。


○咳血者出於肺咳嗽痰中帶血也

  【訓み下し】

○咳血は,肺より出づ。咳嗽して痰の中(なか)に血を帶ぶ。

  【注釋】

 ○於:置き字として訓まず。次の「唾血」も同じ。

 ◉『萬病回春』卷4・失血:「咳血者,出於肺,咳嗽痰中帶血也」。


○唾血者出於腎鮮血隨唾出也

  【訓み下し】

○唾血(だけつ)は,腎より出づ。鮮血 唾(だ)に隨って出づ。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷4・失血:「唾血者,出於腎,鮮血隨唾而出也」。


○吐血隱白[足大指端內側去爪甲角]脾俞[十一推下去脊中各二寸]神門[掌後銳骨端陷]淺刺

  【訓み下し】

○吐血は,隱白[足の大指の端(はし)內側(ないそく),爪甲の角を去る]・脾の俞[十一推下(しも),脊中を去ること各二寸]・神門[掌(じょう)後(ご)の銳骨(ぜいこつ)の端(はし)の陷]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・吐衄血:「……鍼隱白、脾俞、上脘、肝俞」。

 ◉『鍼灸聚英』神門:「主……嘔血吐血……」。

 ◉『醫學入門』脾俞:「主……吐血……」。

 ◉『鍼灸聚英』隱白:「主……衄血……」。


○喉中乾燥吐血魚際[大指本節後內側陷]曲池[曲骨中紋之頭]隂郄[掌後脉中去腕五分]肝俞[九推下去脊中各二寸]上脘[臍上五寸]淺刺

  【訓み下し】

○喉中乾(せん)燥,吐血,魚際[大指の本節(もとふし)の後ろ內側の陷]・曲池[曲骨の中紋(うちもん)の頭(かしら)]・隂郄[掌後脈中,腕(わん)を去る五分]・肝の俞[九推下,脊中を去ること各二寸]・上脘[臍上五寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○乾:添え仮名「セン」。「カン」の誤字か。

 ◉『鍼灸聚英』魚際:「主……喉中乾燥……溺血嘔血……」。

 ◉『鍼灸聚英』六十六穴陰陽二經相合相生養子流注歌:「肺魚際(經火)衄血喉中燥」。

 ◉『鍼灸聚英』陰郄:「主鼻衄,吐血……」。

 ◉『鍼灸聚英』上脘:「主……虛勞吐血……」。

 ◉『醫學入門』肝俞:「主……吐血……」。

 ◉『醫學入門』曲池:「主……喉痹……皮燥……」。

 ★曲池の出典未詳。

 ◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・咽喉 のんどのやまひ:「咽の中ふさがるには合谷・曲池。……咽乾ぐは大淵・魚際」。


○衄血者申脉[外踝下五分陷]淺風府[項後入髮際一寸]委中[膕中央]深刺

  【訓み下し】

○衄(じゅく)血(けつ)は,申脈[外踝(とくるぶし)下五分の陷]淺く,風府[項(うなじ)の後(しりえ),髮際に入る一寸]・委中[膕(こく)の中央(まんなか)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・鼻口:「衄血風府風池良,合谷二間三間穴,後谿前谷委中強,申脈崑崙並厲兌」。


○衄血面赤顖會[上星後一寸陷中]上星[神庭後入髮際一寸陷中容豆]絕骨[足外踝上三寸]淺刺

  【訓み下し】

○衄(じゅく)血(けつ),面(おもて)赤く,顖會[上星の後(しりえ)一寸の陷中]・上星[神庭の後,髮際に入る一寸の陷中,豆を容(い)る]・絕骨[足の外踝(とくるぶし)の上三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』顖會:「主……衄血,面赤暴腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』上星:「主面赤腫……口鼻出血不止」。

 ◉『鍼灸聚英』懸鍾:「(一名絕骨)……主……鼻衄……」。


  卷下・十七オモテ(759頁)

○鼽衄不止三間[食指本節後內側陷]合谷[手大指次指歧骨間]前谷[手小指外側本節前陷中]崑崙[足外踝後跟骨上陷]淺刺

  【訓み下し】

○鼽(きゅう)衄(じゅく)止(や)まず,三間[食指の本節(もとふし)の後(しりえ),內の側の陷]・合谷[手の大指の次指歧骨の間]・前谷[手の小指の外側,本節の前の陷中]・崑崙[足の外踝の後(しりえ),跟骨の上の陷]淺く刺す。

  【注釋】

 ○鼽衄:病名,指鼻流清涕或鼻腔出血的病證。『素問』金匱真言論:「春善病鼽衄」。王冰註:「鼽,謂鼻中水出。衄,謂鼻中血出」。/鼽:因傷風感冒而鼻塞。『說文解字』鼻部:「鼽,病寒鼻窒也」。/衄:鼻子出血稱為「衄」,後泛指出血。如:「鼻衄」、「耳衄」。漢.張機『傷寒論』卷一・辨脈法:「脈浮,鼻中燥者,必衄也」。明.李時珍『本草綱目』卷三上・百病主治藥・吐血衄血:「口鼻併出曰腦衄,九竅俱出曰大衄」。也稱為「衄血」。/「鼽衄」は,鼻衄(鼻出血)と同じと思われる。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・鼻口:「衄血風府風池良,合谷二間三間穴,後谿前谷委中強,申脈崑崙並厲兌」。

 ◉『神應經』鼻口部:「衄血:風府 曲池 合谷 三間 二間 後谿 前谷 委中 申脈 崑崙 厲兌 上星 隱白」。

 ◉『醫學入門』三間:「主……鼻鼽衄血……」。


○咳血內損勞宮[掌中央]間使[掌後三寸兩筋間陷]神門瀉尺澤[肘中約文之上]曲泉[膝股上內輔骨之下]太谿[足內踝後跟骨之上]淺刺補

  【訓み下し】

○咳血內損に,勞宮[掌(たなごころ)の中央(おう)]・間使[掌後三寸兩筋の間の陷]・神門を瀉す。尺澤[肘中約文の上(かみ)]・曲泉[膝股(しつこ)の上(かみ),內輔骨の下(しも)]・太谿[足の內踝の後(しりえ),跟骨(こんこつ)の上(かみ)]淺く刺す。補う。

  【注釋】

 ★咳血:「唾血」とするのが適切。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「風門肺俞咳血關,唾血內損治勞宮,間使神門太淵同。魚際瀉兮尺澤補,曲泉太谿只在中」。

 ◉『神應經』痰喘咳嗽部:「咳血:列缺 三里 肺俞 百勞 乳根 風門 肝俞」。

 ◉『神應經』痰喘咳嗽部:「唾血內損:魚際(瀉) 尺澤(補) 間使 神門 太淵 勞宮 曲泉 太谿 然谷 太衝肺俞(百壯) 肝俞(三壯) 脾俞(三壯)」。


○肺痿咳血風門[二推下相去脊中各二寸]肺俞[三推下相去脊中各二寸]淺刺三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○肺痿咳血,風門[二推の下,脊中を相い去ること各二寸]・肺の俞[三推の下,脊中を相い去ること各二寸]淺く刺す。三里[膝の下三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「咳血列缺三里灣,肺俞百勞乳根穴,風門肺俞咳血關」。

 ◉『鍼灸聚英』肺俞:「主……肺痿咳嗽……」。

 ◉『神應經』痰喘咳嗽部:「咳血:列缺 三里 肺俞 百勞 乳根 風門 肝俞」。


○唾血振寒大谿三里[穴處出上]列缺[去腕上側一寸五分]太淵[掌後陷中]淺刺

  【訓み下し】

○唾血振寒,大谿・三里[穴處 上に出づ]・列缺[腕(わん)を去る上(かみ)の側(かたわら)一寸五分]・太淵[掌後の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「唾血振寒治太谿,三里列缺太淵宜」。

 ◉『鍼灸聚英』列缺:「去腕側上一寸五分」。下文は『鍼灸聚英』と同じく「去腕側上」に作るので,ここは誤写であろう。


○唾血然谷[足內踝前起大骨下陷中]太冲[足大指本節後二寸]淺刺

  【訓み下し】

○唾血然谷[足の內踝の前,起こる大骨の下に陷中]太冲(たいしょう)[足の大指の本節の後(しりえ)二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○下:添え仮名「ニ」。返り点がないが,「大骨の下に起こる」と訓むか。

 ◉『鍼灸聚英』然谷:「主……咳唾血……」。

 ◉『鍼灸聚英』太衝:「主……嘔血嘔逆……」。

 ★参考:

 ◉『鍼灸聚英』太谿:「主……咽腫唾血……」。

 ◉『神應經』:「唾血內損:……太谿 然谷 太衝……」。

 ◉『神應經』:「唾血振寒:太谿 三里 列缺 太淵」。

0 件のコメント:

コメントを投稿