2024年4月19日金曜日

鍼灸溯洄集 82 卷下(29)調經

   卷下・廿二ウラ(770頁)

 (29)調經[附帶下]

  【訓み下し】

  調經(ちょうけい)[附(つけた)り帶下(たいげ)]

  【注釋】

 ★調經:病名・症状名ではない。


婦人諸病者多氣盛而血虗也

  【訓み下し】

婦人諸病は,多くは氣盛んにして血虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調經(目次による。本文は明刊本・和刻本ともに「調理」に作る。以下,おなじ):「婦人諸病者,多是氣盛而血虛也」。


○經水先期而來者血有熱也

  【訓み下し】

○經水(けいずい) 期(ご)に先だって來たる者は,血(ち)に熱有り。

  【注釋】

 ★下文との対比から考えれば,「血」の下「虗」字を脱す。

 ○經水:婦女的月經。 ○先期:在預定時期之前。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調經:「經水先期而來者,血虛有熱也」。


○經水過期不來作痛者血虗有寒也

  【訓み下し】

○經水(けいずい) 期(ご)に過ぎて來たらず,痛みを作(な)す者は,血虛に寒有るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調經:「經水過期不來作痛者,血虛有寒也」。


○經水將來作痛者血實氣滯也

  【訓み下し】

○經水(けいずい) 將來 痛みを作(な)す者は,血實,氣の滯りなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調經:「經水將來作痛者,血實氣滯也」。

 ★「將來」は,上文との関連から,「將(まさ)に來たらんとして」と訓みたい。


○經水過期而來紫黑成塊者氣欝血滯也

  【訓み下し】

○經水(けいずい) 期(ご)に過ぎて來たること,紫黑(しこく) 塊(かい)を成す者は,氣欝,血(ち)の滯りなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調經:「經水過期而來,紫黑成塊者,氣鬱血滯也」。


○經行著氣作心腹腰脇疼痛者乃瘀血也

  【訓み下し】

○經行 氣に著(つ)いて心腹(しんぷく)腰脇(こしわき) 疼痛を作(な)す者は,乃ち瘀血なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調經:「經行着氣,作心腹腰脇疼痛者,乃瘀血也」。


○經水過期而來色淡者痰多也

  【訓み下し】

○經水(けいすい) 期に過ぎ來たる,色 淡き者は,痰 多きなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調理:「經水過期而來,色淡者,痰多也」。


○經行身麻痺寒熱頭疼者乃觸經感冒也

  【訓み下し】

○經行 身(み)麻痺,寒熱頭(ず)疼は,乃ち經に觸れ感冒するなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・調經:「經行身痛麻痺、寒熱頭疼者,乃觸經感冒也」。


○赤白帶下者皆因月經不調房色過度或產後血虗胃中濕痰滲入膀胱而滯属氣血虗又属濕熱也

  【訓み下し】

○赤白(しゃくびゃく)帶下(たいげ)は,皆な月經(がつけい) 調わざるに因る,房色 過度し,或いは產後 血虛,胃中 濕痰,滲(そそ)いで膀胱に入って滯り,氣に屬す,血虛,又た濕熱に屬す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・帶下:「婦人赤白帶下者,皆因月經不調、房色過度,或產後血虛、胃中濕痰流下,滲入膀胱而滯也。……帶下屬氣血虛者。……帶下屬濕熱者」。

 ★属氣血虗:→氣血の虛に屬す。


  卷下・廿三オモテ(771頁)

○經事改常地機[膝下五寸膝內側輔骨下陷中伸足取之]血海[膝臏上內廉也白肉際二寸半]深刺

  【訓み下し】

○經事 常を改むる,地機[膝下五寸,膝の內側輔骨の下(しも)の陷中,足を伸べ之を取る]・血海[膝臏(びん)の上內廉(うちかど),白肉の際二寸半]深く刺す。

  【注釋】

 ○經事:即月經。 ○改常:猶反常。改變常態。

 ◉『鍼灸聚英』百證賦:「抑又論婦人經事改常,自有地機血海」。


○少氣血漏交信[內踝骨上二寸]合陽[膝約文中央下二寸]深刺

  【訓み下し】

○少氣血漏(けつろ)に,交信[足の內踝骨の上二寸]・合陽[膝の約文(やくもん)の中央の下(しも)二寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○血漏:月經過多者。出『聖濟總錄』卷一百「漏下」篇。即經漏。

 ◉『鍼灸聚英』百證賦:「女子少氣漏血,不無交信合陽」。

 ◉『鍼灸聚英』交信:「主……女子漏血不止……」。

 ◉『鍼灸聚英』合陽:「主……女子崩中帶下」。


○帶下産崩衝門[橫骨兩端約中動脉去腹中四寸半]深大衝[足大指本節後二寸]

  【訓み下し】

○帶下(たいげ)產崩,衝門[橫骨の兩の端(はし),約中動脈,腹中を去る四寸半]深く,大衝[足の大指本節の後(しりえ)二寸]。

  【注釋】

 ★大衝:『鍼灸聚英』百證賦によれば,「氣衝」の誤りか。ただ太衝の主治に「女子漏下不止」とあることにより改めたか。

 ○帶下:(leukorrhea)是指潤澤婦女陰道和陰戶的黏液,即生理性白帶。婦女陰道流出一種黏性液體,連綿不斷,其狀如帶,名爲帶下。出『黃帝內經素問』骨空論:「任脈爲病,男子內結七疝,女子帶下瘕聚」。有白帶、青帶、黃帶、赤帶、黑帶、赤白帶下、五色帶下等。 ○産崩:崩漏(血崩)とおなじか。

 ◉岡本一抱『指南』帶下:「俗に云,女のコシケ也。赤帶・白帶あり。赤白雜(まぢ)ゑて下す。赤白帶下と號す」。

 ◉『病名彙解』帶下:「婦人のコシケなり。○『入門』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/154?ln=ja

 ○衝門:『鍼灸聚英』:「橫骨兩端約紋中動脈,去腹中行四寸半。……主……婦人乳難,妊娠子衝心,不得息……」。これによれば,「約中」は「約紋中」とすべきであろう。

 ◉『鍼灸聚英』百證賦:「帶下產崩,衝門氣衝宜審」。

 ◉『鍼灸聚英』太衝:「主……女子漏下不止……」。

 ◉『鍼灸聚英』氣衝:「主……婦人無子,小腹痛,月水不利,妊娠子上衝心,產難,包衣不出……」。


○月事不利中極[臍下四寸]三隂交[踝上三寸]深隠白[足大指端內側去爪甲角]淺刺

  【訓み下し】

○月事 利せず,中極[臍下四寸]・三隂交[踝上三寸]深く,隱白[足の大指の端(はし),內側の爪甲の角を去る]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「月事不利治中極,再兼一穴三陰交」。


○血漏不止血崩氣海[臍下一寸五分]中極深大衝三隂交淺刺

  【訓み下し】

○血漏(けつろ) 止まず,血崩,氣海[臍の下一寸五分]・中極 深く,大衝・三隂交 淺く刺す。

  【注釋】

 ◉岡本一抱『指南』血崩:「婦人時ならずして,卒(にわか)に月水,山の崩(くづる)るが如くに漏下(もれくだ)るを云」。

 ◉『病名彙解』血崩:「崩漏のことなり。本條に見たり」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「假如女人漏不止,太衝三陰交為便,血崩氣海與大敦,陰谷太衝然谷焚,三陰交穴與中極,七穴治之病不存」。

 ◉『鍼灸聚英』三陰交:「主……漏血不止,月水不止,妊娠胎動,橫生,產後惡露不行,去血過多,血崩暈」。


○赤白帶下白環俞[二十一推之下也去脊中各三寸半]帯脉[季脇下一寸八分之陷中]關元[臍下三寸]氣海三隂交深刺

  【訓み下し】

○赤白(しゃくびゃく)帶下(たいげ)に,白環の俞[二十一推の下なり。脊中を去る各三寸半]・帶脈[季脇の下一寸八分の陷中]・關元[臍の下(しも)三寸]・氣海・三隂交,深く刺す。

  【注釋】

 ○赤白帶下:病證名。出『備急千金要方』卷四。亦名赤白瀝、赤白漏下、婦人下赤白沃等。指婦女帶下,其色赤白相雜、味臭者。多因肝鬱化熱,脾虛聚溼,溼熱下注,損及衝任、帶脈,以致白帶夾胞絡之血混雜而成赤白帶下。

 ◉『病名彙解』赤帶下:「婦人,臍(へそ)の下きりきりと痛で血のをるることなり。帶下の條に詳なり。赤と白とまぢはり下るを赤白帶下と云り」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「赤白帶治白環俞,帶脈關元氣海等,間使三陰交為宜」。


○經事若正行舉夫交感瘦寒熱徃來精血傷爲虛勞腎俞[十四推下去中行各二寸]風門[二推下相去脊中各二寸]中極氣海三隂交深刺

  【訓み下し】

○經事 正行の若く,夫と交感して瘦せ,寒熱往來,精血傷(やぶ)れ,虛勞を爲す,腎俞[十四推の下,中行を去る各二寸]・風門[二推の下,脊中を相い去ること各二寸]・中極・氣海・三隂交,深く刺す。

  【注釋】

 ○交感:性交。 ○徃:「往」の異体字。 ○寒熱往來:證名。即往來寒熱。見『諸病源候論』冷熱病諸候。巢元方認為:寒氣並於陰則發寒,陽氣並於陽則發熱。陰陽二氣虛實不調,則邪氣更作而寒熱往來。參見往來寒熱條。指惡寒時不發熱、發熱時不惡寒,惡寒與發熱交替出現,定時或不定時發作的情況。這是少陽病正邪相爭所出現的熱型。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「婦人經事若正行,與夫交感瘦漸形,寒熱往來精血競,此病若把虛勞名,宜治百勞腎俞等,風門中極氣海并,再兼三陰交在內,如此治之功必成」。


  卷下・廿三ウラ(772頁)

○月事不來面黃嘔吐身無胎三隂交曲池[肘橫文頭]支溝[腕後臂外三寸兩骨間陷]深刺

  【訓み下し】

○月事(がつじ) 來たらず,面(おもて)黃に,嘔吐,身 胎(はら)めること無し,三隂交・曲池[肘(うで)の橫文(おうもん)の頭(かしら)]・支溝[腕後,臂外三寸,兩骨の間の陷]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・婦人:「女子月事若不來,面黃嘔吐身無胎,三陰交兮曲池穴,支溝三里治無災」。


○經水過多通里[腕後一寸之陷中]行間[足大指縫間]淺刺

  【訓み下し】

○經水過多,通里[腕後一寸の陷中]・行間[足の大指の縫(ぬいめ)の間(あいだ)]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・婦人:「經脈過多通里高,行間穴與三陰交」。

 ◉『鍼灸聚英』通里:「主……婦人經血過多,崩中……」。

 ◉『鍼灸聚英』行間:「主……婦人小腹腫,面塵脫色,經血過多不止,崩中……」。


○不時漏下月水不調結成塊三隂交關元深刺

  【訓み下し】

○時ならず漏下(ろうげ)し,月水 調わず,結して塊(かい)と成る,三隂交・關元,深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「不時漏下三陰交,月水不調結成塊,用鍼關元水自調」。


○久赤白帶下曲骨[橫骨上毛際之陷中]次膠[第二空夾脊陷]長強[脊骶骨端]灸最功

  【訓み下し】

○久しく赤白帶下,曲骨[橫骨の上,毛の際の陷中]・次膠【次髎】[第二の空(あな),脊(せ)を夾(さしはさ)む陷]・長強[脊(せ)の骶(はし)の骨の端(はし)]灸して最も功なり。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』曲骨:「主……婦人赤白帶下」。

 ◉『鍼灸聚英』次髎:「主……婦人赤白淋」。

 ★長強の出典,未詳。

 ◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・婦人の科:「久き帶下(こしけ)は曲骨・次膠・長強」。


○月事不利利即多心下滿目䀮䀮不能遠視腹中痛水泉[太谿下一寸內踝下]氣海灸之也

  【訓み下し】

○月事(がつじ) 利せず,利するときは即ち多く心下 滿ち,目 䀮䀮として,遠く視ること能わず,腹中 痛み,水泉[太谿の下(した)一寸,內踝の下]・氣海,之を灸す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「婦人月事不利,利即多,心下滿,目䀮䀮不能遠視,腹中痛,灸水泉五壯。……繞臍㽲痛,灸氣海」。

 ◉『鍼灸聚英』氣海:「主……婦人臨經行房羸瘦,崩中,赤白帶下,月事不調,產後惡露不止,繞臍㽲痛……」。


○不及月不調匀赤白帶下氣轉運背引痛不可忍灸帶脉

  【訓み下し】

○不及にして月(がつ) 調匀せず,赤白帶下,氣轉運,背(せなか)に引き痛んで忍ぶ可からず,帶脈を灸す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「婦人不及月不調勻,赤白帶下,氣轉連背引痛不可忍,灸帶脈二穴」。

 ◉『玉機微義』卷49・灸法:「帶脈二穴,……主婦人月水不調,及閉不通,赤白帶下,氣轉運背,引痛不可忍」。


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