2024年4月4日木曜日

鍼灸溯洄集 69 卷下(15)水腫

   卷下・十二ウラ(750頁)

 (15)水腫[スイシュ]

水腫者通身浮腫皮薄而光手按成窟舉手即滿

者也初起眼胞上下微腫如褁水上則喘咳氣急

下則足浮腫大小便短濇不利也

  【訓み下し】

水腫は,通身浮腫(うそはれ),皮(かわ)薄うして光り,手にて按(お)せば窟(あな)を成す。手を舉ぐれば即ち滿つる者なり。初め起こるとき眼胞(まぶち)上下微(すこ)し腫れ,水を褁(つつ)むが如し。上(のぼ)る則(とき)は喘咳氣急にし,下(くだ)る則(とき)は足浮腫(うそはれ),大小便 短濇にして利せず。

  【注釋】

 ○通身:全身。 ○うそはれ:「うそ」は接頭辞で,「うすし(薄し)」の変化したもの。すこし。わずかに。 ○喘咳:中醫上指因痰盛而作喘且兼見咳嗽。常見於慢性支氣管炎、肺原性心臟病、支氣管哮喘等病症。 ○氣急:呼吸急促,上氣不接下氣,多由缺氧〔酸素欠乏〕、情緒緊張等引起。

 ◉『萬病回春』卷3・水腫:「水腫者,通身浮腫,皮薄而光,手按成窟,舉手即滿者,是水腫也。初起眼胞上下微腫如裹水。上則喘咳氣急,下則足膝浮腫,大小便短濇不利」。


○血腫氣滿而四肢寒○朝寬暮急血虗暮寬朝急氣虗也

  【訓み下し】

○血腫は,氣滿ちて四肢(てあし)寒(ひ)え○朝(あした)に寬(ゆる)く暮れに急なるは血虛,暮れに寬く朝に急なるは氣虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・水腫:「水腫氣急而小便澀,血腫氣滿而四肢寒。朝寬暮急是血虛,暮寬朝急是氣虛,朝暮急氣血俱虛」。


  卷下・十三オモテ(751頁)

○內經曰經脉滿則脉絡溢絡脉溢則謬刺之謂

不分俞穴而刺之也

  【訓み下し】

○『內經(だいきょう)』に曰わく,「經脈滿つる則(とき)は,脈絡溢れ,絡脈溢れば,(則ち)之を謬(びゆ)刺す」。俞穴を分かたずして之を刺すを謂う。

  【注釋】

 ○謬刺:「謬」は「繆」の誤り(か異体字)。繆刺,刺法名。繆為交叉之意。『素問』繆刺論:「繆刺,以左取右,以右取左」。又「有痛而經不病者,繆刺之,因視其皮部有血絡者盡取之」。指人體一側絡脈有病而鍼刺對側絡脈的方法。

 ◉『素問』湯液醪醴論(14):「骨肉相保,巨氣乃平」。王冰注:「……經脉滿則絡脉溢,絡脉溢則繆刺之,以調其絡脉,使形容如舊而不腫,故云繆刺其處以復其形也」。


○渾身浮腫曲池[肘橫文之頭]三里[膝下三寸]內庭[足大指次指外間陷]淺之

  【訓み下し】

○渾身浮腫(うそは)れるは,曲池[肘(うで)の橫の文(もん)の頭(かしら)]・三里[膝下三寸]・內庭[足の大指の次指の外の間の陷]之を淺くす。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腫脹:「渾身浮腫治曲池,合谷三里內庭醫」。


○四肢浮腫通里[腕後一寸陷中]液門[手小指次指間陷中握拳取之]合谷[手大指次指歧骨間取之]三隂交[踝上三寸]淺刺

  【訓み下し】

○四肢(てあし)浮腫(うそは)れるは,通里[腕後一寸の陷中]液門[手の小指の次の指の間の陷中,拳(こぶし)を握り之を取る]合谷[手の大指の次の指の歧骨(ちまたほね)の間に之を取る]三隂交[踝上三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腫脹:「四肢浮腫曲池中,通里合谷中渚同,液門三里三陰交」。


○風面浮腫解谿[足大指次指直上跗上陷]深刺

  【訓み下し】

○風面(かぜおもて)浮腫(うそばれ),解谿[足の大指の次の指直上の跗上の陷]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』解谿:「主風面浮腫,顏黑……」。『甲乙』『外臺』『千金』は「主風水面浮腫,顏黑」に,『医心方』は「主面胕腫,顏面黑」に作る。


○水腫氣脹滿復溜[足內踝上之二寸筋骨陷]神闕淺刺[有口受]

  【訓み下し】

○水腫氣脹滿,復溜(ふくる)[足の內踝の上の二寸,筋骨の陷]・神闕,淺く刺す[口受有り]。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腫脹:「水腫氣脹滿復溜,併兼神闕功效收」。


○水脹脇滿隂陵泉[膝下內側輔骨下陷]深刺

  【訓み下し】

○水脹,脇(わき)滿ち,隂陵泉[膝の下(しも),內の側(かたわら)輔骨の下の陷]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腫脹:「水脹脇滿陰陵泉」。


○水腫腹堅喘逆不得臥小便不利隂谷[膝下內輔骨後]隂陵泉深刺

  【訓み下し】

○水腫,腹堅く,喘逆,臥(ふ)すことを得ず,小便利せず,隂谷[膝の下(しも),內(ない)輔骨の後(あと)]・隂陵泉,深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』陰陵泉:「主……水脹腹堅,喘逆不得臥,腰痛不可俯仰,霍亂,疝瘕,遺尿失禁不自知,小便不利……」。

 ◉『鍼灸聚英』陰谷:「主……溺難,小便急引陰痛……」。

 ◉『神應經』傷寒部:「小便不通:陰谷 陰陵」。


  卷下・十三ウラ(752頁)

○小便不通三里隂陵泉刺瀉下如注

  【訓み下し】

○小便 通ぜず,三里・隂陵泉 刺して瀉す,下(くだ)ること注ぐが如し。

  【注釋】

 ○瀉下如注:多く腹瀉のときに使われる表現。また「瀉下藥」「瀉下方」などの用語あり,「瀉」≒「下」で,「瀉下」を句切って訓むべきではないと思われる。

 ◉『醫學入門』附:雜病穴法:「小便不通,陰陵泉、三里瀉下溺如注〔……瀉下すれば溺 注ぐが如し〕」。


○水腫腹堅如皷小水洩下陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷]曲泉[膝股上內輔骨下陷]水分[臍上一寸]冲陽[足跗上五寸]腕骨[手小指外側本節後陷中握拳取之]深刺

  【訓み下し】

○水腫,腹堅く鼓(つづみ)の如し,小水洩下(せつげ),陽陵泉[膝下一寸,䯒(はぎ)の外廉(そとかど)の陷]・曲泉[膝股(しつこ)の上(かみ)の內輔骨の下の陷]・水分[臍(へそ)の上(かみ)一寸]・冲陽[足の跗(こう)の上五寸]・腕骨[手の小指の外側の本節の後(しりえ)の陷中,拳(こぶし)を握り之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ○冲陽:衝陽。

 ◉『鍼灸聚英』水分:「主水病,腹堅腫如鼓……」。

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・小水不禁:「灸陰陵泉、陽陵泉」。

 ◉『鍼灸聚英』治例・雜病・水腫:「皮水、正水、石水、風水、因氣濕食。刺胃倉、合谷、石門、水溝、三里、復溜、曲泉、四滿」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腫脹:「水腫列缺腕骨醫」。

 ◉『鍼灸聚英』衝陽:「主……腹堅大……」。

 ◉『神應經』腹痛脹滿部:「腹堅大:三里 陰陵 丘墟 解谿 衝陽 期門 水分 神闕 膀胱俞」。

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