2024年4月29日月曜日

黄龍祥『兪穴論』0

   [要旨]

 兪穴は鍼灸学が立脚する根本であり,鍼灸の理を理解するには,まず兪穴の構造と機能を明らかにしなければならない。『黄帝内経』にある兪穴の分類・分布・構造に関する論述を掘り起こすことを通じて,「奇正論」「節交論」「関機論」の三論を抽出し,固定された位置の有無によって兪穴を「経兪」と「奇兪」の二種類に分け,経兪はまた脈兪・骨空・気穴・募穴の四種類に分けることを示した。兪穴が分布する全体的な法則は「節の交」であり,兪穴,特に大兪要穴〔『鍼灸甲乙経』に「刺經渠及天府此謂之大俞」,『霊枢』背腧に「背中大腧,在杼骨之端」とあるが,著者は重要な兪穴という意味で「大兪要穴」と言っているのであろう〕が分布する密度は,関節の大きさとその機能の複雑さに比例している。兪穴は内に「機」があって外に「関」があるという立体構造をしている。その「機」は脈会の中にあり,「脈会」は探せるし思量することもできる。また、経兪と奇兪の関係,経兪の異なる状態の意義,および兪穴研究の道筋をどう選択するかなどの問題について深く討論して分析し,将来の兪穴研究に至急必要な解決すべき重要な問題と問題解決の考え方を提出し,鍼灸学の守正創新の参考に供する。〔守正創新:正道を厳守しながら,新たなものを創造する。習近平総書記の「新時代の中国の特色ある社会主義」思想の精髄をあらわす言葉のひとつ。堅持することが求められる。〕


 [キーワード] 鍼灸 兪穴 分類 分布法則 構造

 古典鍼灸学は気血を理論の原点とするが,兪穴は気血を計量し調節する節点〔原文:節点。/node. 結節点。ネットワークの接点や分岐点、中継点〕であり,鍼灸学は気血を調節し調和した状態にさせるという総合的な目標は,兪穴をよりどころとして定着させ発展させる必要がある。

 二千年以上前の『黄帝内経』 (本文が引用する『黄帝内経』はすべて伝世本『素問』『霊枢』を指し,『漢書』芸文志が記す「黄帝内経」とは異なる。)は,鍼灸学を対象とした人体形態学の構想を提供した。

    余聞上古聖人,論理人形,列別藏府,端絡經脈,會通六合,各從其經;氣穴所發,各有處名;溪谷屬骨,皆有所起;分部逆從,各有條理,四時陰陽,盡有經紀,外內之應,皆有表裏,其信然乎?

  〔余聞くならく,上古の聖人は,人形を論理するに,藏府を列別し,經脈を端絡し,六合を會通し,各々其の經に從う。氣穴の發する所,各々處名有り。溪谷は骨に屬(つら)なり,皆な起こる所有り。分部逆從,各々條理有り,四時陰陽,盡く經紀有り,外內の應,皆な表裏有りと,其れ信(まこと)に然るか?〕(『素問』陰陽応象大論)〔経文の句読は,4.3の引用文に従った。〕

    

 この篇の「人形を論理する」骨組みは極めて簡単だが,著者は筆を惜しまず気穴とその関連構造を際立たせ、最後にまた黄帝の口を借りて「其れ信(まこと)に然るか?」という問いが出された。残念なことに伝世本の『素問』の経文には錯簡があり,原書の旧態により近い『太素』の伝本では,この部分の経文はすべて欠けていて,原作者が答えを出したかどうか,どのような答えを出したかを考察することができない。かくして,この鍼灸学の根本的な問題に対する答えは歴史的に今日の鍼灸従事者の前に置かれることになったのである。


 兪穴はどこにあるのか。兪穴は何種類あるのか。それぞれどのような構造になっているのか。どうしたら気穴が得られるのか。

 兪穴が明らかでなければ,鍼灸学の人形構造の枠組みは抜きんでて独り立ちすることが困難であり,今日の鍼灸従事者も根本から鍼灸の理論をはっきり説明することができない。時期が異なることを踏まえると,鍼灸兪穴の総称は,「兪」「輸」「窬」「腧」と表記が異なっており,現在の学術界は標準となる名称を規定していない。本文では引用文をのぞいて,すべて「兪」字に統一した。


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