2024年4月5日金曜日

鍼灸溯洄集 70 卷下(16)淋症

    卷下・十三ウラ(752頁)

 (16)淋症[リンショウ]

淋小便澁痛也熱客膀胱欝結不能滲泄故也

  【訓み下し】

淋は小便 澁り痛むなり。熱 膀胱に客(かく)し,欝結 滲泄すること能わざるが故なり。

  【注釋】

 ○客:『說文解字』:「寄也」。凡そ外より至る者をみな客という。寄居,引伸為外邪入侵。『素問』玉機真蔵論(19):「今風寒客於人」。王注:「客,謂客止於人形也」。張介賓『類經』注:「客者,如客之自外而至,居非其常也」。 ○欝結:積聚不舒暢。/欝:「鬱」の異体字。 ○滲泄:泄露;泄漏。中醫謂利尿。

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義(鍼灸證治)・淋閉:「『原病式』曰:淋,小便澁痛也。熱客膀胱,欝結不能滲泄故也」。

 ◉『素問玄機原病式』六氣爲病・熱類:「淋:小便澁痛也。熱客膀胱,欝結不能滲泄故也」。


○氣淋者小便澁常有餘歴

  【訓み下し】

○氣淋は,小便 澁り,常に餘歷有り。

  【注釋】

 ○餘歴:和刻本『鍼灸聚英』による。明刊本は「餘瀝」に作る。残りのしたたり。/歴:「歷」の異体字で,ここでは「瀝」の略字。/瀝:『說文解字』:「水下滴瀝也。」

 ◉和刻本『鍼灸聚英』玉機微義・淋閉:「嚴氏曰:氣淋者,小便澁,常有餘歴」。

 ◉『嚴氏濟生方』小便門・淋利論治:「氣淋為病,小便澁,常有餘瀝」。

 ◉『萬病回春』卷4・淋證:「氣淋者,小便澁,常有餘瀝也」。


○石淋者莖中痛尿不得卒出

  【訓み下し】

○石淋は,莖(へのこ)の中(うち)痛み,尿(いばり)卒(にわ)かに出づることを得ず。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・淋閉:「嚴氏曰:……石淋者,莖中痛,尿不得卒出」。

 ◉『嚴氏濟生方』卷4・淋閉論治:「石淋之爲病,莖中痛,溺不得卒出」。


○膏淋者尿似膏出

  【訓み下し】

○膏淋は,尿(いばり) 膏(あぶら)に似て出づ。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・淋閉:「嚴氏曰:……膏淋,尿似膏出」。

 ◉『嚴氏濟生方』卷4・淋閉論治:「膏淋爲病,尿似膏出」。

 ◉『萬病回春』卷4・淋證:「膏淋者,尿出似膏也」。


○勞淋者勞倦即發痛引氣衝

  【訓み下し】

○勞淋は,勞倦 即ち發(お)こり,痛み氣衝に引き,

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・淋閉:「嚴氏曰:……勞淋者,勞倦即發,痛引氣衝」。

 ◉『嚴氏濟生方』卷4・淋閉論治:「勞淋爲病,勞倦即發,痛引氣衝」。

 ◉『萬病回春』卷4・淋證:「勞淋者,勞倦即發也」。


○血脉過熱即發甚則溺血是膀胱欝熱而成灸三隂交[踝上三寸]腎俞[十四推相去脊中各二寸]

  【訓み下し】

○血脈 過熱,即ち發こること甚だしき則(とき)は,溺血(できけつ),是れ膀胱の欝熱にして成る。三隂交[踝上三寸]・腎俞[十四推,脊中を相い去ること各二寸]を灸す。

  【注釋】

★原文には「交」に下に「ニ一」,「俞」の下に「ヲ一」がある。「ニ一」を無視して訓み下した。

★「脉」は,「淋」の誤り。/「過」は,和刻本『鍼灸聚英』によるが,明刊本『鍼灸聚英』およびその引用元『玉機微義』は「遇」に作る。

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義(針灸證治)・淋閉:「嚴氏曰:……血淋,過〔明刊本作「遇」〕熱即發,甚則溺血〔血淋は,熱に遇えば即ち發す。甚だしければ則ち溺血す。〕。劉氏曰:大抵是膀胱蓄熱而成。灸法:炒鹽不拘多少,熱填滿病人臍中却用筋〔明刊本作「筯」=箸〕頭大艾炷七壯,或灸三陰交」。これによれば,「腎俞ヲ一」は後から加えられたもので,「三陰交」の下に添えた訓点を除くのを忘れたか。

 ◉『鍼灸聚英』腎俞:「主……溺血,小便濁……」。

 ◉『神應經』陰疝小便部:「小便黃赤:陰谷 太谿 腎俞……」。

 ◉『嚴氏濟生方』卷4・淋閉論治:「血淋為病,熱即發,甚則尿血,候其鼻頭色黃者,小便難也」。

 ◉劉純『玉機微義』卷28・淋閟門・論淋閟分三因:「嚴氏曰:五淋,氣・石・血・膏・勞是也。氣淋為病,小便澀,常有餘瀝。石淋,莖中痛,尿不得卒出。膏淋,尿似膏出。勞淋,勞倦即發,痛引氣衝。血淋,遇熱即發,甚則溺血。候其鼻頭色黃者,小便難也。大抵此證多由心腎不交,積蘊熱毒,或酒後房勞,服食熱燥,七情鬱結所致。癃閉,淋閟為病,皆一類也」。


  卷下・十四オモテ(753頁)

○小便赤不通淋瀝小腸俞[十八推下相去脊中各二寸]膀胱俞[十九推下相去脊中各二寸]灸刺

  【訓み下し】

○小便赤く通ぜず,淋瀝,小腸の俞[十八推の下,脊中を相い去ること各二寸]膀胱の俞[十九推の下,脊中を相い去ること各二寸]灸刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』小腸俞:「主……小便赤不利,淋瀝遺溺……」。

 ◉『鍼灸聚英』膀胱俞:「主……小便赤黃……」。


○小便赤淋瀝次膠[十八推下交脊陷者中]中膠[十九推下交脊陷中]灸刺

  【訓み下し】

○小便赤く淋瀝,次膠【髎】[十八推の下,脊を交(さしはさ)【夾】む陷者中]中膠【髎】[十九推の下,脊を交(さしはさ)【夾】む陷中]灸刺す。

  【注釋】

 ○膠:「髎」の異体字,あるいは誤字。 ○推:「椎」の異体字,あるいは誤字。 ○交:「夾」字の誤り。

 ◉『鍼灸聚英』次髎:「第二空夾脊陷中。……主……小便赤……」。

 ◉『鍼灸聚英』中髎:「三空夾脊陷中。……主……小便淋瀝……」。


○淋瀝不得大小便癃閉下腫志室[十四推下去脊中各三寸五分]胞肓[十九推下去脊中各三寸五分]灸淺刺

  【訓み下し】

○淋瀝,大小便を得ず,癃閉,下(しも)腫るるに,志室[十四推の下,脊中を去ること各三寸五分]・胞肓[十九推の下,脊中を去ること各三寸五分]灸し淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』胞肓:「主……淋瀝,不得大小便,癃閉下腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』志室:「主……淋瀝……」。


○氣淋血淋小便如散復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]交信[內踝骨上二寸少陰前太陰後廉筋骨陷]淺刺久留

  【訓み下し】

○氣淋・血淋,小便 散るが如きに,復溜(ふくる)[足の內踝(くるぶし)の上二寸,筋骨の陷中]・交信[內踝(うちくるぶし)の骨の上二寸,少陰の前,太陰の後ろの廉(かど),筋骨の陷]淺く刺し,久しく留(とど)む。

  【注釋】

 ○交信[……筋骨陷]:『鍼灸聚英』は「筋骨間」に作る。

 ◉『鍼灸聚英』復溜:「主……五淋〔和刻本作「牀」〕血淋,小便如散火……」。

 ◉『鍼灸聚英』交信:「足內踝骨上二寸,少陰前,太陰後廉筋骨間。……主氣淋,㿉疝……大小便難,淋……」。


○小便不利隂器下引痛小腹滿橫骨[大赫下一寸去中一寸半]深刺

  【訓み下し】

○小便 利せず,隂器 下に引き痛み,小腹(ほうがみ)滿つるに,橫骨[大赫の下一寸,中を去ること一寸半]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』橫骨:「主淋,小便不通,陰器下縱引痛,小腹滿……」。


○轉胞不溺而淋瀝關元[臍下三寸]水分[臍上一寸]深刺

  【訓み下し】

○轉胞して溺(でき)せず,淋瀝に,關元[臍下三寸]・水分[臍上一寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○轉胞:病名。臍下急痛,小便不通之證。出『金匱要略』婦人雜病脈證治。胞,通脬,膀胱也。又稱胞轉、轉脬。『諸病源候論』小便病諸候:「胞屈辟不通,名為胞轉。其病狀,臍下急痛,小便不通是也」。因強忍小便,如忍尿疾走、忍尿入房、飽食忍尿等,或寒熱所迫,或驚憂暴怒,氣迫膀胱,使膀胱屈戾不舒所致。

 ◉『指南』病名彙考・轉胞:「姙婦[ハラミヲンナ]卒(にわか)に小便通ぜざるなり。子淋と同じからず。淋は小便澁(しぶる)と雖,少しは通ず」。

 ◉『病名彙解』轉胞:  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/260?ln=ja

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「轉胞不溺只淋瀝,關元療病真可必」。

 ◉『鍼灸聚英』關元:「主……溺血暴疝,風眩頭痛,轉胞閉塞,小便不通黃赤,勞熱,石淋五淋……」。

 ◉『神應經』陰疝小便部:「轉胞不尿,淋瀝:關元」。

 ◉『鍼灸聚英』水分:「主水病……」。

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