卷下・廿五ウラ(776頁)
(32)急驚[附慢驚癇症]
【訓み下し】
急(きゆう)驚(きよう)[附(つけた)り慢驚癇症]
急驚症牙關緊急壯熱涎潮二便閉属肝風邪痰熱有餘之症也
【訓み下し】
急驚症は,牙關(げかん)緊急,壯熱涎潮,二便閉づ,肝に屬す,風邪痰熱,有餘の症なり。
【注釋】
○急驚:中醫上指小兒急性癲癇症,患者兩眼直視、手足痙攣及牙關緊閉。 ○牙關緊急:證名。牙關緊收,口不能開。見『衛生寶鑒』咽喉口齒門。多由痰氣風火壅阻經絡所致。如卒中昏倒,不省人事,牙關緊急者,為中風痰。若皮肉破傷,風從瘡口而入,證見項強,牙關緊,狀如發痙,為破傷風。若因七情內傷,氣逆為病,痰潮昏塞,牙關緊急,為中氣。 ○壯熱:證名。指高熱、熱勢壯盛。『諸病源候論』傷寒挾實壯熱候:「傷寒,是寒氣客於皮膚,搏於血氣,腠理閉密,氣不宣洩,蘊積生熱,故頭痛、體疼而壯熱」。 ○涎潮:涎が潮のごとく口から漏れ出ることか。「涎潮發搐」「涎潮搐搦」「涎潮昏塞」「涎潮氣壅」「頰赤涎潮,欲變驚癇」などの用例が見られる。
◉岡本一抱『萬病回春指南』急慢驚風:「詮義,本文に見えたり。古は急驚風を陽癇とし,慢驚風を陰癇と號」。/牙關緊急:「牙噤とも云。上下の牙關緊[キビシ]急に合して開(ひら)かざる也。俗に云,牙(は)を食いしめる」。
◉『病名彙解』急驚風:「慢驚風は陰症にして治しがたく,急驚風は陽症にして治しやすし。○『壽世保元』に云,〈急驚風は內 欝熱あり,外 風邪をさしはさみ,心家 熱を受けて積で驚す。其の症,牙關緊急,壯熱涎潮,竄視[ソラメツカヒ],反張[ソリカヘル]搐搦[ビクメキ],顫動[フルヒウゴキ]唇口,眉眼眨引[ヒキヒク]するなり〉」。
◉『萬病回春』卷7・小兒科・急驚:「急驚風症,牙關緊急,壯熱涎潮〔割注:竄視反張、搐搦顫動、唇口眉眼牽引、口中熱氣、頰赤唇紅、二便閉結……〕。急驚屬肝,風邪、痰熱有餘之症也」。
○慢驚因病後或吐瀉或藥餌傷損脾胃支體逆冷口鼻氣微手足瘈瘲昏睡露睛属脾中氣虗損不足之症也
【訓み下し】
○慢驚は,病後に因り,或いは吐瀉し,或いは藥餌 脾胃を損傷し,支體 逆冷,口鼻 氣微(すく)なし,手足 瘈瘲(けつじょう),昏睡 露睛,脾に屬す,中氣 虛損,不足の症なり。
【注釋】
○瘈瘲:出『靈樞』邪氣藏府病形。即瘛瘲。瘛瘲,證名。亦作瘈瘲、痸瘲。又稱抽搐、搐搦、抽風等。指手足伸縮交替,抽動不已的病證。『靈樞』熱病:「熱病數驚,瘛瘲而狂」。『傷寒明理論』卷三:「瘈者筋脈急也,瘲者筋脈緩也。急者則引而縮,緩者則縱而伸。或縮或伸,動而不止者,名曰瘈瘲」。多由熱盛傷陰,風火相煽,痰火壅滯,或因風痰,痰熱所致。 ○中氣:中醫學術語,有多種含義。①泛指脾胃等臟腑對飲食的消化轉輸、升清降濁等生理功能。又稱「脾胃之氣」。臨床上常見的中氣不足證,即脾胃之氣虛弱,運化失常,可見面黃少華、唇淡或黯、食欲不振、食後腹脹、眩暈、聲低氣短、倦怠乏力、便溏、舌嫩苔厚、脈虛等症状。②指脾主升清的功能。脾居中焦,其氣主升。若飲食勞倦傷脾,或久病脾虛,皆可使脾氣不足,清氣不升,形成虛陷的證候,如久瀉、脫肛、子宮脫垂、小兒囟陷等,稱為中氣下陷。
◉『病名彙解』慢驚風:「慢は惰なり,怠なり。ゆるき義なり。慢驚は陰症なり。肢體逆冷し,口鼻の氣微にして,手足瘈瘲し,昏睡して睛(くろまなこ)をあらはす。此れ脾虛して風を生ず。無陽の症なり。○『保嬰集』に云……」。
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/211?ln=ja
◉『萬病回春指南』瘈瘲:「『類經』には,〈筋脈 急に引を瘈と云,弛(ゆるまり)長を瘲と云〉。又『醫學綱目』には,瘈瘲俱に相ひ引て急なるの名として,俗に之を搐と云といへり」。
◉『萬病回春』卷7・小兒科・慢驚:「慢驚症,因病後或吐瀉,或藥餌傷損脾胃,肢體逆冷、口鼻氣微、手足瘈瘲、昏睡露睛,此脾虛生風、無陽之症也。慢驚屬脾,中氣虛損不足之病也」。
○急慢驚灸攅竹[兩眉頭陷]前頂[顖會後一寸半]人中[鼻柱之下]
【訓み下し】
○急慢驚,攢竹[兩眉の頭(かしら)の陷]に灸す。前頂[顖會の後(しりえ)一寸半]・人中(にんちゅう)[鼻柱の下(した)]。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』玉機微義・小兒:「寶鑑曰:急慢驚風,灸前頂。若不愈,灸攢竹、人中各三壯」。
○驚癇先驚怖啼叫灸後頂[百會後一寸半枕骨之上]
【訓み下し】
○驚癇,先ず驚怖し啼叫,後頂[百會の後(しりえ)一寸半,枕骨(しんこつ)の上]に灸す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』玉機微義・小兒:「小兒驚癇,先驚怖啼叫乃發,灸後頂上旋毛中三壯,及耳後青絡脈」。これによれば,灸穴は,後頂ではない。また『玉機微義』には「後」字なし。
◉『玉機微義』卷50・小兒門・灸驚風法:「小兒驚癇,先啼怖啼叫乃發也。灸頂上旋毛中三壯,及耳後青脈,炷如小麥大」。
◉『鍼灸聚英』百會:「前頂後一寸五分,頂中央旋毛中」。
○驚癇灸鬼哭大拇指用縛定四尖也
【訓み下し】
○驚癇,鬼哭に灸す,大拇指 縛(ばく)を用い,四尖(ししょう)を定め。
【注釋】
◉『鍼灸重宝記』經絡要穴・秘傳の穴:「○鬼哭(二穴):病人の兩手を合(あわ)せ,大指を汰(そろへ)ならべて,紙よりにて兩の大指を縛り,艾(もぐさ)を四分ばかりの大さにして,兩の爪の角と肉と四処にあて,灸すること七壮十四壮。狐つき、物つき、驚風、てんかんを〔治す〕」。
◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・驚癇 てんかん くつち:「中惡狐魅(きつねつき),てんかんきやうふうは,鬼哭に灸」。
◉『鍼灸聚英』秦承祖灸鬼法:「鬼哭穴以兩手大指相並縛,用艾炷騎縫灸之,令兩甲角後肉四處著火,一處不著則不效。按丹溪治一婦人久積怒與酒,病癇……又灸鬼哭穴」。
○瘈驚暴驚百會[頂中央旋毛之中可容豆]解谿[冲陽後一寸腕上陷中]下廉[上廉之下三寸]淺刺
【訓み下し】
○瘈驚(けつきょう),暴驚,百會[頂(いただき)の中央(まんなか),旋毛(つじげ)の中(なか),豆を容る可し]・解谿[冲陽の後ろ一寸,腕の上の陷中]・下廉[上廉の下三寸]淺く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』解谿:「衝陽後一寸五分,腕上陷中。……主……瘈驚……」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・心邪癲狂:「瘈驚百會解谿頭,暴驚下廉一穴求」。
○客忤驚風隱白[足大指內側去爪甲]淺刺
【訓み下し】
○客忤,驚風,隱白[足大指內側去爪甲]淺く刺す。
【注釋】
○客忤:病證名。出『肘後備急方』。又名中客、中客忤、中人、少小客忤。此證多見於小兒,多因小兒神氣未定,卒見生人或突聞異聲、見異物,引起驚嚇啼哭,甚或面色變易。如兼風痰相搏,累及脾胃,而受納失調,則導致腹瀉、口吐涎沫、腹痛、反側瘈瘲、狀若驚癇。『諸病源候論』中惡病諸候:「卒忤者,亦名客忤,謂邪客之氣,卒犯忤人精神也,此是鬼厲之毒氣,中惡之類,人有魂魄衰弱者,則為鬼氣所犯忤」。
◉『萬病回春指南』客忤:「小兒のおびえ病也。譬ばみなれぬ人物を見て,驚(おどろき)おびえる也。然ども人のみを指(さす)にあらず。客とは常なきの義也。總じて見なれぬ物の為に驚(おどろき)おびえて病を云。忤は逆[サカフ]也,犯[ヲカス]也」。
◉『病名彙解』客忤: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/279?ln=ja
◉『鍼灸聚英』隱白:「主……小兒客忤,慢驚風」。
○臍風撮口然谷[足內踝前起大骨下陷中]灸刺
【訓み下し】
○臍風撮口,然谷[足內踝の前,起こる大骨の下の陷中]灸刺す。
【注釋】
○臍風:病名。出『針灸甲乙經』。又名風噤、風搐、噤風、馬牙風、初生口噤、七日口噤、四六風、七日風。即初生兒破傷風。多由斷臍不潔,感染外邪所致。 ○撮口:病證名。臍風三證之一。見『仁齋小兒方論』。又名撮風、唇緊。以唇口收緊、撮如魚口為特徵。並有舌強唇青,痰涎滿口,氣促,啼聲不出,身熱面黃等症。/又名撮風、口唇緊縮、口緊、沉唇、唇緊。臍風的三大主症之一。症見唇口收緊,撮如魚口。多由風痰入絡引起,唇口肌肉緊急,難於開合,不能進食或吮乳。
◉『萬病回春指南』臍風撮口:「臍風と撮口とに病に分ち見る說あり。又臍の帶の切口より風をひきこみて,口中に泡粒の如きもの生じて,卒に口を撮(つまみ)よせたる如に噤(つぐみ)て乳を飲ざる故に,臍風より撮口の症を發すれば一病と見る說もあり。本書に因て考に,龔氏は乃ち二病に分ち見るなり……」。
◉『病名彙解』臍風幷撮口: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/366?ln=ja
◉『鍼灸聚英』玉機微義・小兒:「初生小兒,臍風撮口,灸然谷三壯。或鍼三分不見血,立效」。
○癲癇癥瘕脊強灸長強
【訓み下し】
○癲癇,癥瘕,脊(せなか)強(こわ)ばり,長強に灸す。
【注釋】
○癥瘕:病證名。『金匱要略』瘧病脈證幷治:「病瘧,以月一日發,當以十五日愈;設不差,當月盡解;如其不差,當云何?師曰:此結為癥瘕,名曰瘧母」。『諸病源候論』癥瘕病諸候:「其病不動者,直名為症。若雖病有結症而可推移者,名為癥瘕」。指腹腔內有包塊腫物結聚的疾病。後世一般以堅硬不移,痛有定處的為癥;聚散無常,痛無定處的為瘕。『聖濟總錄』積聚門:「牢固推之不移者癥也」。又:「浮流腹內,按抑有形,謂之瘕」。『聖濟總錄』還認為癥瘕與積聚屬同類疾病:「癥瘕結癖者,積聚之異名也。證狀不一,原其根本,大略相類」。『醫學入門』等書以積聚為男子病,癥瘕為女子病。詳見癥、瘕、七癥、八瘕、十二癥等條。
◉『萬病回春指南』癥瘕:「癥は徵[シルシ]なり。其塊積所を定て動かず,即ち病形の徵驗(こころ)むべし。瘕は假なり。氣血をかりて假(かりそめ)に見(あらわる)といえども,其積塊所を定めざるなり。即ち積聚の類なり。また癥痞とも云也」。
◉『病名彙解』癥瘕:「腹中の塊積聚の類なり。○『病源』に云……」。
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/259?ln=ja
◉『鍼灸聚英』玉機微義・小兒:「小兒癲癇,癥瘕,脊強互相引,灸長強三十壯」。
○癇驚目眩灸神庭[前入髮際五分]
【訓み下し】
○癇,驚,目眩,神庭[前の髮際に入(い)る五分]を灸す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』玉機微義・小兒:「小兒癲癇,驚盡目眩,灸神庭一穴七壯」。
○凢新生児無病不可逆針灸之如逆針逆則忍痛動其五藏喜成癇灸害小兒可慎
【訓み下し】
○凡そ新たに生(むま)れる兒(こ),無病にて逆に針灸す可からず。逆針の如きは,逆する則(とき)は,痛みを忍び,其の五藏を動かす,喜(この)んで癇を成す。灸も害す。小兒 慎む可し。
【注釋】
○凢:「凡」の異体字。
◉『鍼灸聚英』玉機微義・戒逆〔明刊本有「鍼」〕灸(注:無病而先鍼灸曰逆。逆未至而迎之也。):「小兒新生無病,不可逆鍼灸之。如逆鍼灸,則忍痛動其五臟,因喜成癇。河洛關中土地多寒,兒喜病痓。其生兒三日,多逆灸以防之。吳蜀地溫,無此疾也。古方既傳之,今人不分南北灸之,多害小兒也。所以田舍小兒,任其自然,得無夭橫也」。
◉『鍼灸聚英』小兒戒逆灸:「千金云:小兒新生無疾,慎不可逆鍼灸之。如逆鍼灸,則忍痛動其五臟,因喜成癇。河洛關中土地多寒,兒喜病痓。其生兒三日,多逆灸以防之,灸頰以防噤。有噤者,舌下脈急,牙車筋急。其土地寒,皆決舌下去血,灸頰以防噤也。吳蜀地溫,無此疾也。古方既傳之。今人不詳南北之殊,便按方而用之。是以多害於小兒也。所以田舍小兒,任其自然,皆得無橫夭也」。
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