2017年11月22日水曜日

毎年恒例!新年発表会

平成29年度新年発表会の詳細が決まりました。
平成30年1月7日(日)に北里大学で行います。
詳細は下記のページを見てください。
http://plaza.umin.ac.jp/daikei/event.html

今年も北里研究所附属東洋医学総合研究所との共催で行います。

懇親会の受付が12月14日(木)までなので、ご注意ください。


ちなみに、日本内経医学会単体の新年会は今年も翌日の1月8日(月・祝)に行われます。
その詳細も上記のページに有りますので、奮ってご参加ください。

2017年11月4日土曜日

新出土医学簡講演会のご案内

http://www.shutsudo.jp/20171209kouenkai-kyousai1-1.pdf

この度、中国中医科学院中国医史文献研究所より四名の研究者、成都文物考古研究所より一名の研究者をお迎えし、成都天回鎭老官山漢墓出土医簡に関す る最新の情報を盛り込んだ発表をして頂くこととなりました。
ご関心をお持ちの 方々多数お誘い合わせの上、是非ご参加下さい。

日時:2017年12月9日(土)午後1時~午後5時 場所:東京大学法文2号館215番教室
○使用言語 中国語(通訳あり)
○参加費 無料
○講演会終了後に懇親会あり

自傷

以前,自傷行為を古典では何というのか,というメールが回ってきた。
ここ(日本内経医学会ブログ)に一向に問い合わせが掲載されない。
たぶん,解決したのだろう。
自縊・自経・自殺・自尽・自財・自裁・自決・自屠・自投・投身・自水・自焚・自刎・自頸・自剄・自刃・自割・自宮・自刖・自刺・自害・自残・自誅・自傷・自賊・自損・自討・自敗・自伐・自笞・自射・・自責・自絶・自滅・自辱・自点・自縛
リスカ・アムカ・レグカはみつからなかった。

2017年11月1日水曜日

今月第二日曜日の日曜講座の会場変更について

運営の小宮山です。

内経誌、メール、前回の日曜講座にてお知らせしてあるとおり、今月の日曜講座は会場を変更して行われます。
詳細はこちらのページを参考にしていただければ良いのですが、およそ以下のとおりです。

日時:平成29年11月12日(日)(第二日曜日)
会場:本町区民会館(渋谷区)
※行き方の例を詳細ページに載せておきましたので、参考にしてください。

お間違えの無いように事前に調べてお越しください。

2017年10月28日土曜日

2017年10月17日火曜日

2017年10月16日月曜日

黄龍祥『鍼灸経験方』考 2

  二、基本的な内容と学術的特徴

 『鍼灸経験方』の基本的な内容は大きく二つの部分からなり、前半部分は経脈腧穴の総論であり、後半部分は鍼灸証治である。これは『鍼灸資生経』『神応経』の形式と同じである。
 経絡〔ママ〕腧穴篇には、「訛穴」「五臓総属〔証〕」「一身所属臓腑経」「五臓六腑属病」「十二経抄穴」「鍼灸法」「別穴」「募原会穴」「井滎兪経合旁通」「折量法」の十篇がある。
 許任が穴を論じるのに、『銅人腧穴鍼灸図経』に依拠し、あわせて『鍼灸資生経』『十四経発揮』などの書を参考にしている。第一篇の「訛穴」は、『銅人腧穴鍼灸図経』に掲載されている六つの腧穴の取穴法が適切でなかったり、当時のひとの取穴の規範にのっとっていないところである。
 十二経抄穴〔原文「穴抄」。上文および享保本『鍼灸経験方』によりあらためる〕 『銅人腧穴鍼灸図経』に依拠し、『鍼灸資生経』を参照して、十四経穴の部位と刺灸法の内容を抄録する。
 別穴 『銅人腧穴鍼灸図経』に掲載されていないすべての穴を、許任はみな「別穴」類に入れている。この篇は『東医宝鑑』「別穴」篇を基礎として、増補されている。ただし『東医宝鑑』の原文を抄録するさい、ときに改編されているところがある。たとえば、
    膝眼四穴、在膝蓋骨下両傍陥中。主膝髕痠痛。
    血郄二穴、即百虫窠、在膝内廉上膝三寸陥中。主腎臓風瘡。(『東医宝鑑』別穴)
    膝眼二穴、一名百虫窠、又名血郄。在膝蓋下両傍陥中。主治腎臓風瘡及膝髕痠痛。(『鍼灸経験方』別穴)
 許任は『東医宝鑑』の「膝眼」と「血郄」の二穴をあわせて一穴にしているが、誤りである。
 折量法 『東医宝鑑』と『神応経』から収集している。
 鍼灸法 『鍼灸資生経』に類似するが、許任が序で述べている鍼法と異なる。
 五臓総属 『内経』の「病機十九条」から収録して改編したものからなる。
 一身所属臓腑経 「経脈分野」を論述している。内容は『類経図翼』に近い。
 その鍼灸証治の部分は、『神応経』『鍼灸資生経』『東医宝鑑』『奇効良方』『銅人腧穴鍼灸図経』『鍼灸大全』『医学入門』などの書を収録して基礎とし、それに許任本人の鍼灸臨床経験を溶け込ませたものである。
 許任は太医であり、鍼術に精通していて、「刺家之流推以為宗〔鍼術家の人々は敬服して宗師としていた〕」。許氏の経穴の選定は『銅人腧穴鍼灸図経』を本とし、あわせて「阿是穴」を重視し、折量取穴は『神応経』にしたがい、鍼法は『奇効良方』の方法を採用し、いずれも発展させた。灸法では「付缸灸」(現代の「刺絡抜缶法」に似る)使用を提唱した。『鍼灸経験方』には許任の論文数篇が収めてあり、一定の臨床的価値がある。
 注意が必要なことは、本書は「経験方」と名付けられているが、収録されている鍼灸処方すべてが編者である許任が臨床でためして効果のあった処方であるわけではない。そのうえ、この書は直接あるいは間接にいくつかの腧穴専門書にある腧穴証治を採用している。『鍼灸資生経』『神応経』『普済方』鍼灸門のもつ性質と同じで、厳格な意味での鍼灸処方ではない。
 この書は中国では広まらなかった。筆者の調査では、『鍼灸経験方』は清の太医院の蔵書目録以外、国内の私人および公共図書館にはみな所蔵がない。したがって中国の本や雑誌で『鍼灸経験方』の文を引用しているのは、みな清代の『勉学堂鍼灸集成』からの孫引である。

2017年10月15日日曜日

  黄龍祥『鍼灸経験方』考 1

 『鍼灸経験方』、原本は一巻、日本の重刊本は三巻に分かれる。朝鮮の太医許任編撰。仁祖二十二年(1644)の刊。許任は『東医宝鑑』『神応経』『鍼灸資生経』『奇効良方』『銅人腧穴鍼灸図経』『鍼灸大全』『医学入門』などの書籍を基礎として、みずからの臨床経験と結びつけ、『鍼灸経験方』一巻を編集した。
 本書が掲載する鍼灸処方は、『神応経』などの書籍にある腧穴証治から多くの材料を集めているが、編者は自分の臨床経験にもとづいて腧穴の下に刺灸法の内容を多く注記しており、かなり高い臨床的な価値をもっていて、たんなる文献の寄せ集めではない。書名にいう「経験方」とは、使ってみて効果があった処方という意味である。

  一、版本

 本書の原刊は仁祖二十二年で、活字版と木刻版の二種類がある。日本では本書を享保十年(1725)に重刻し、三巻に分けた。匡高19.1cm、幅14.8cm、六行、行十六字、白口、四周単辺。安永七年(1778)日本浪華書林がこの版を得て重印した(図266)〔図は省略。以下おなじ〕
 享保刊本と安永印本を朝鮮原刊本と対照してみると、おもに二つの異なる点がある。その一、原刊本『鍼灸経験方』にある韓国文字〔訓民正音、いわゆるハングル〕が、日本の刊本では全部除かれ、墨釘〔文字を彫っていないため、板本では黒くなっている部分〕の欠文が〔たぶん安永本には〕三十三箇所にみられる。享保刊本には四箇所のみ「音文」という表記があり、另有一处享保本(卷下14頁)无缺文〔未詳。ともかく、享保本の巻下十四丁には訓民正音も墨釘もない。以下の二十八箇所とは区別されるなんらかの特徴があるのであろう。〕、その他の二十八箇所の墨釘は享保本ではいずれも欠文としては処理されていない(図267~269)。その二、日本刊本にはかなり多くの脱文がある。たとえば巻中最後の一丁「食疽」の条文は原刊本一丁分まるまるぬけている。これは、日本刊本の校正が厳密でないか、底本がよくなかったことを物語っている。

2017年10月13日金曜日

灸所抜書之秘伝 その3

    灸治の時、やうしやう(養生)の事
前三日、後七日の間、ゆふろ(湯風呂)、男女のみち(道)あるへからす(有るべからず)。せんそく(洗足)はくるしからす(苦しからず=差し支えない)。きう(灸)するとき(時)、大酒、大食、はらた(腹立)つる事はろ(悪/下文からすると、「は」の下「わ」を脱するか)し。大風、大あめ(雨)する日はわろ(悪)し。

    長病〔チヤウヒヤウ〕日の事
一日 五六日 十五日 十八日 廿三日 廿六日 廿八九日

    血忌〔チイミ〕日の事
【刷りが不鮮明のため、『鍼灸聚英』『鍼灸重宝記』から推定。】月うし(丑) 二月ひつし(未) 三月とら(寅) 四月さる(申) 五月う(卯) 六月とり(酉) 七月たつ(辰) 八月いぬ(戌) 九月み(巳) 十月い(亥) 十一月むま(午) 十二月ね(子)

    四季によりい(忌)むところ(所)
春はひたり(左)のわき(脇) ○夏はへそ(臍)、十一のづ 
秋はみきり(右)のわき(脇) ○冬はこし(腰)、十四のづ
【『鍼灸聚英』『鍼灸重宝記』などには「十一のづ」「十四のづ」なし。未詳。「づ」は「図」か。『鍼灸枢要』には「右出于明堂・聖恵方・事林廣記・元亀集等」とある。また出典については、『鍼灸択日編集』も参照。なお、『医宗金鑑』に若干注あり。『霊枢』九針論(78):「左脇應春分.……膺喉首頭應夏至.……右脇應秋分.……腰尻下竅應冬至」.】
灸経終
開板

2017年10月11日水曜日

灸所抜書之秘伝 その2

せ中(背中)
一、後頂〔ゴチャウ〕の穴は、前のかみのはへぎわ(髪の生え際)より六寸五分上にあり。頭おも(重)く、まなこ(眼)くらむによし。五火。
二、肩井〔ケンセイ〕の穴は、かた(肩)の上二骨のあいだに三指をならべて、中指〔チウシ〕のところなり。くでん(口伝)あり。かたひちいた(肩臂痛)み、手あがらず、ならびにしわぶき(咳き=せき)いで(出で)、気つか(疲)れやすきによし。五十も百もすへし。
三、大杼〔ダイチヨ〕の穴は、第〔タイ〕一のほね(骨)のりやうばう(両傍)一寸半〔ハン〕つつなり。づつう(頭痛)、たちくらみ、くび(首)のすじこわる(筋強る/こわる=かたくなる。こわばる)に吉(よし)。五十すへし。
四、風門〔フウモン〕の穴は、第二のほね(骨)のりやうばう(両傍)一寸半つつにあり。づつう(頭痛)、たちぐらみ(立ちくらみ)、はなぢ(鼻血)出る(いづる)によし。五十か百もすへし。
五、肺兪〔ハイノユ〕の穴は、第三のほね(骨)の下りやうばう(両傍)一寸半つつ。ぜんそく(喘息)、たん(痰)、むね(胸)のうちくる(内苦)しみ、とけつ(吐血)、ろうさい(癆瘵≒肺結核)によし。五十、百もすへし。
六、膏肓〔コウクワウ〕(「膏音」と書いてある)の穴は、第四のほね(骨)の下、りやうばう(両傍)三寸つつなり。あるひは三寸半のさた(沙汰)あり。くでん(口伝)あり。ろうさい(癆瘵)、身やせつかれ(痩せ疲れ)、じやうき(上気=肺気上逆/あるいは頭に血が上ってぼうっとする)しやすく、たん(痰)つかへ、むねくる(胸苦)しみ、くびすしせなか(首筋背中)ひきつり、まなこ(眼)にち(血)さすに吉(よし)。百、二百も、おほきとき(多き時)は三、四百にもいたるべし。
七、譩譆〔イキ〕の穴は、第六のほね(骨)下、りやうばう(両傍)三寸つつなり。ろうさい(癆瘵)、おこり(瘧/「起こり」とも考えられるが、譩譆の主治に瘧疾あり)、ひさ(久)しくおちかね(落ちかね=なおらない/おちる=病気、憑き物などが除かれる)、むねくる(胸苦)しきによし。五十にても百にてもすへし。
八、膈兪〔カクユ〕の穴は、第七のほね(骨)の下、りやうはう(両傍)一寸半つつにあり。むねはらいた(胸腹痛)み、せなかおも(背中重)く、ときやく(吐逆)し、つね(常)にふしよく(不食)し、気きよ(虚)して、ふ(臥)すことをこの(好)むものによし。三十か五十よりす(過)ごすべからす。
九、肝兪〔カンノユ〕の穴は、第九のほね(骨)の下、りやうばう(両傍)一寸半つつにあり。わきいた(脇痛)み、はらはり(腹脹)、め(目)にまけ(目気。膜=そこひ。内障眼)い(出)で、気さかのほ(逆上)りて、はらた(腹立)て、せき(咳)出て、とけつ(吐血)するによし。百ほと(程)もすへし。
十、脾兪(ヒノユ)の穴は、第十一のほね(骨)の下、りやう(両)方一寸半つつに有(あり)。はらは(腹脹)り、くた(下)り、しぶ(渋)りて、と(止)まりかね、しよく(食)をこなさず、あるひはよくしよく(食)してや(痩)せ、ふくちう(腹中)にしやく(積)あつていた(痛)み、たい(体)よだる(弥怠/よだるし=非常に疲れてだるい)くして、かりそめにも(≒わずかでも)ふ(臥)すことをこの(好)み、ならびに小児〔セウニ〕の五かん(疳)、やせ(痩)おとろ(衰)へたるによし。百、二百もすへし。此(この)穴、くでん(口伝)あり。
十一、腎兪(ジンノユ)の穴は、第十四のほね(骨)の下、りやうはう(両傍)一寸半なり。こしいた(腰痛)み、らうさい(癆瘵)、じんきよ(腎虚)して、はらしぶ(腹渋)りくた(下)り、ほかみ(下腹)ひ(冷)ゑてな(鳴)り、じんきよ(腎虚)のりんびやう(淋病)によし。百、二百ほともすへし。
十二、志室〔シシツ〕の穴は、第十四のほね(骨)の下、りやうはう(両傍)三寸つつ也。わきいた(脇痛)み、ひきつり、こしいた(腰痛)み、しよく(食)こなさぬによし。五十、百ほとすへし。
十三、小腸〔せうちやう〕兪は、第十八のほね(骨)の下、りやうはう(両傍)一寸半つ(たぶん「つにあり」「つなり」などを脱する)。りんびやう(淋病)、ほかみ(下腹)いた(痛)み、こしいた(腰痛)み、せうへん(小便)しろ(白)くにこ(濁)るに、五十【?。「十」の部分に汚れあり。前後文による推定】、百もすへし。
十四、膀胱兪〔ボウケウユ?〕は、第十九の下、りやうはう(両傍)一寸半にあり。せうべん(小便)しげ(繁)く、ほがみ(下腹)いた(痛)み、こしひざ(腰膝)しびるゝによし。五十、百もすへし。
十五、章門〔しやうもん〕の穴は、へそ(臍)のとを(通)り、季肋〔キロク〕のはし(端)なり。よこ(横)にふ(臥)して、下のあし(足)をのへ(伸べ)、上のあし(足)をかゝ゛め(屈め)、ひち(臂=うで=上肢)をあげて(挙上して)と(取)る。しやく(積)、わき(脇)のした(下)にありて、ひだり(左)のわき(脇)にかたまり(塊)あるによし。五十、百までもすへし。
十六、曲池〔キョクチ〕の穴は、ひぢ(肘)のお(折)りめ(目)のかしら(頭)にあり。ちうぶう(中風)、かた(片)身かなわす(半身が麻痺して動作が思いどおりにならなく)、ひぢやせ(臂=上肢が細くなり)、いた(痛)むによし。三十、五十にいた(至)るへし。
十七、手三里〔テノサンリ〕は、曲池の下二寸、ひち(肘)をねち(捻)て、肉〔ニク〕のくぼ(凹)きところ(所)なり。くでん(口伝)あり。ひぢ(肘・臂=うで・上肢)のいた(痛)みによし。三十、五十もすへし。
十八、風市〔フウジ〕の穴は、もゝ(腿)のそと(外)のまんなか(真ん中)、立(たち)て、両手をひと(等)しくさ(下)げ、中指のさき(尖端)あ(当)たるところ(所)なり。ももはぎしび(腿脛痺)れいた(痛)み、ぎやうぶ(行歩)かないかたき(歩行困難)によし。年のかず(数)すへし。あるひは五十、百にいた(至)るへし。
三里の穴、ひさ(膝)の下三寸ほね(骨)のそと(外)、大すじ(筋)の内にあり。一説には、膝眼〔シツカン〕の下三寸とあり。気のぼ(上)り、目くらみ、胃〔イ〕きよ(虚)してふしよく(不食)するに三十、五十程。凡〔オヨソ〕人三十以上にはかなら(必)ず三里をきう(灸)すへし。しか(然)らされは、気上(のぼっ)て眼あきらかならす(明らかならず=眼がよく見えなくなる)。また膏肓・四花・百会をきう(灸)してのち(後)、かならす(必ず)三里にすへし。上の熱をひ(引)き下すなり。

2017年10月9日月曜日

灸所抜書之秘伝 その1

 京都大学図書館富士川文庫所蔵(キ/93) 『臨床鍼灸古典全書』八
 ※基本的に常用漢字を使用する。句読点をつける。一部、濁点をおぎなう。「すへし」はみな「すべし」であろう。〔〕内は原文にあるふりがな。カタカナにした。()内は補足。見当違いがあるかもしれない。未校正。

一、百会〔ヒャクエ〕の穴は、前のかみはへきわ(髪生え際)より五寸上なり。づつう(頭痛)、めまひ(目眩)、こころ(以下、「(心)煩驚悸」「(心)神恍惚」などを脱するか)、小児の驚癇、だつこう(脱肛)の出(いづ)るによし。三火あるひは五火、毎日七日すべし。一度に五火よりすごすべからず。
二、上星(ジャウセイ)の穴は、前のかみはへぎわ(髪生え際)より一寸上なり。づふう(頭風)、たちくらみによし。三火か五火ほどすべし。
三、天突(テントツ)の穴は、のどの下にたかきほね(高き骨)あり。これを結喉といふ。その下三寸、天突の穴なり。たん(痰)、せんそく(喘息)、口の中にか(苦)きによし。七火ほどすへし。
  ※図(正面と背面)あり。省略す。
四、花蓋〔クワカイ〕の穴は、天突の下二寸なり。せき(咳)出て、むねくる(胸苦)しきによし。七火ほどすへし。
五、玉堂(キョクタウ)の穴は、天突の下四寸なり。かく(膈/食物がつかえて吐く病)、むね(胸)の中いた(痛)むによし。七火か十三火にてもすへし。
六、膻中(ダンチウ)の穴は、りやうほう(両方)の乳〔チ〕のまんなか(真ん中)なり。むねひゑ(胸冷え)、かく(膈)、ぜんそく(喘息)によし。二十、三十にてもすへし。
七、鳩尾(キウビ)の穴は、蔽骨(ヘイコツ)の下五分なり。これはきんきう(禁灸)の穴なれども、てんかん(癲癇)、きやうき(驚悸)には、三火すへし。
八、巨闕(コケツ)の穴は、鳩尾の下一寸なり。むねいた(胸痛)み、くわくらん(霍乱)、ときやく(吐逆)、はらくた(腹下)るによし。七火、十三火すへし。
九、上脘〔クワン〕の穴は、鳩尾の下二寸なり。むなさはき(胸騒ぎ)、ときやく(吐逆)、ふしよく(不食/食欲不振)、よくはらは(腹脹)るによし。三十か五十すへし。
十、中脘(チウクワン)の穴は、臍(ヘソ)の上四寸なり。はらいた(腹痛)み、くわくらん(霍乱)、しよく(食)をこなさず、はらは(腹脹)り、むしな(虫鳴)きてうこ(動)くによし。三十、五十にてもすへし。
十一、建里(ケンリ)の穴は、臍の上三寸なり。はらは(腹脹)り、ふしよく(不食)、むししやく(虫積=臍の周囲にかたまりがあり、面青、清水を吐く)、かんけ(疳下=全身がやせ、腹がふくれる小児の病)によし。三十も五十もすへし。
十二、下脘(ケクワン)の穴は、臍の上二寸なり。くわくらん(霍乱)、はらいた(腹痛)み、あけつくだしつ(上げつ下しつ)するによし。三十か五十すへし。
十三、気海(キカイ)の穴は、臍の下五分なり。ほがみ(小腹=下腹部)いた(痛)み、くわくらん(霍乱)、ときやく(吐逆)やます(止まず)、ひさ(久)しく瀉(シヤ)ししぶ(渋)り、元気(ケンキ)おとろへ(衰え)、しやくり(シャックリ=呃逆)や(止)まざるによし。十五も二十もすへし。
十四、石門(セキモン)の穴は、臍の下二寸なり。じんしゃく(石門の主治に「疝積」あり。腎積=奔豚)、ほがみ(下腹部)かたく、すんばく(寸白=人体の寄生虫)のいた(痛)み、すいしゆ(水腫)、ちやうまん(脹満)、婦人崩漏〔ホウロウ〕(子宮出血)、帯下〔ダイケ〕(おりもの。こしけ)によし。三十か五十すへし。婦人此所(ここ)にきう(灸)すれば、なが(長)くくわいにん(懐妊)せず。
十五、幽門〔ユウモン〕の穴は、巨闕〔コケツ〕のりやうばう(両傍)各〔オノオノ〕五分にあり。はら(腹)つねにいた(痛)み、ふしよく(不食)するによし。三十すへし。
十六、通谷〔ツウコク〕の穴は、上脘のりやうばう(両傍)各五分にあり。むね(胸)の下にしやく(積)ありていた(痛)み、しよく(食)こなさぬによし。三十か五十ほどすへし。
十七、三陰交〔サンインコウ〕の穴は、内くるぶし(踝)上三寸、ほね(骨)のうしろなり。あしいた(足痛)み、せうべん(小便)しぶり、すんはく(寸白)にもよし。三十ほどすへし。
十八、陰蹻(インキヤウ)の穴は、内くるぶし(踝)の下のくぼ(凹)みなり。疝気〔センキ〕にわかにお(起)こり、ほかみ(ほがみ/小腹)いた(痛)み、小へんしぶ(便渋)り、あしやせほそく(足痩せ細く)、てんかん(癲癇)夜おこり、婦人月水〔グワツスイ〕(月経)ととのをらざる(調おらざる/ととのおる=調和がとれる)によし。十四五火すへし。

2017年10月6日金曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕54 


下三十ウラ

 文化六年己巳秋
  東都甘泉堂蔵
   弘所 江戸日本橋通三丁目/須原屋平助
      京冨小路山条下ル町/同 平左衛門
────────────────────────────────────
 仮名読(かなよみ)十四経   全部二冊         
右の書は十四経発揮を読(よみ)易(やすく)平(ひら)かなを加へ、文句の 
しれがたきは、左(ひだり)に其(その)訳(わけ)をくはしく紀(しる)し、初心のともがら
療治を行(ほどこ)さるゝことを明(あきら)かにしらしむ。    
────────────────────────────────────

2017年10月5日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕53 

下三十オモテ
三十 針灸の忌日(いみび)
毎月(まいげつ) 六日 十六日 十八日 二十三日 二十四日 晦日
 又三日、十五日、晦朔節(せつ)に入(いる)の前後(せんご)一日は凶なり。

仮名読(かなよみ)鍼灸治法(ちほう) 巻(かん)之(の)下(げ)終(おわり)

2017年10月4日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕52 

廿九 針灸の吉日(きちにち)
 丁卯(ひのとう) 丁亥(ひのとい) 庚午(かのえうま) 庚子(かのえね) 甲戌(きのえいぬ) 甲申(きのえさる) 丙子(ひのえね) 丙午(ひのえうま) 癸丑(みつのとうし) 丙戌(ひのえいぬ) 壬午(みつのえうま) 壬子(みつのえね) 壬戌(みつのえいぬ) 辛卯(かのとう) 戊戌(つちのえいぬ) 戊申(つちのえさる) 己亥(つちのとい) 乙巳(きのとみ) 丁丑(ひのとうし) 丙申(ひのえさる)
〔『鍼灸經驗方』おなじ。なお、『二中暦』卷五・医方暦とは一致しない。〕
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2561054?tocOpened=1  37コマ

2017年10月3日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕51 

廿八 禁灸穴の歌
○禁灸は、四十五ところ、あるぞかし。承光・瘂門、風府なりけり。
下二十九ウラ
○其(その)つぎは、天柱・素窌、臨泣に、睛明・攢竹、迎香のかず。
○第三は、禾窌・顴窌、紫竹空、頭維と下関と、背中(はいちゅう)の穴。
○乳(ち)の中(なか)と、又(また)人迎と、天牖(てんよう)と、肩貞・心兪、白環をいむ。
○鳩尾(はとのお)と、魚際(うおのあいだ)と、淵液に、少商・天府、腹哀はせず。
○隠白に、漏谷・条口、陰陵泉、灸を忌(いむ)べし、陽池・陽関。
○殷門に、委中の穴は、猶(なお)さらに、陰市・申脈、承扶(じょうふ)いましめ。
〔『鍼灸大全』『鍼灸聚英』禁灸穴歌「禁灸之穴四十五,承光瘂門及風府,天柱素窌臨泣上,睛明攢竹迎香數,禾(『聚英』作「和」)髎顴窌絲竹空,頭維下關與脊中,肩貞心兪白環兪,天牖人迎共乳中,周榮淵液并鳩尾,腹哀少商魚際位,經渠天府及中衝,陽關陽池地五會,隱白漏谷陰陵泉(『大全』有「條口・犢鼻・竅陰市」),伏兔髀關委中穴,殷門申脉承扶忌。」〕『鍼灸聚英』は「條口犢鼻竅陰市」を脱す。『鍼灸大全』の誤字は、『鍼灸聚英』に従った。

2017年10月2日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕50 

下二十九オモテ
廿七 禁針穴の歌七(しち)首  数々(しばしば)唱(となえ)て記憶すべし
○二十二穴、針を忌(いむ)べき、所あり。脳戸・顖会に、神庭の穴。
○承泣(じょうきゅう)と、承霊はなを、玉枕(たままくら)。角孫・顱顖(ろしん)、絡却(らくぎゃく)をせず。
〔『鍼灸大全』卷五・側頭部:「顱顖、耳後間青絡脈」。『甲乙経』「顱息、在耳後間青絡脈」。〕
○神道(しんとう)に、霊台(れいたい)・亶中、忌(いむ)べきぞ。神闕・会陰(かいいん)、水分の穴。
○横骨と、気衝・手の五里、三陽絡、箕門・承筋、及び青霊。
○遇(あやまり【ママ。「過」か】)て、肩井ふかく、刺(さし)ぬれば、人は気絶(きせつ)す、ものとこそしれ。
○雲門と、鳩尾を嘗て、刺なかれ。また缺盆と、客主人(かくしゅじん)なり。
〔『鍼灸大全』『鍼灸聚英』禁鍼穴歌「禁鍼穴道要先明,腦戶顖會及神庭。絡却玉枕角孫穴,顱顖承泣隨承靈。神道靈臺膻中忌,水分神闕并會陰。橫骨氣冲手五里,箕門承筋及青靈。更加臂上三陽絡,二十二穴不可針。……外有雲門并鳩尾,缺盆客主人莫深,肩井深時人悶倒,三里急補人還平」。〕
〔・「嘗て」:「カツて」では意味が通じないので「ナメて」と読むのだと思う。「頭から馬鹿にしてかかる」「みくびる」「あなどる」という意味。もし漢文に出典があるとすると、「嘗」は「常」に通じるので、「嘗(つね)に」という意味で使われていると思うが、いまのところ見つからない。〕


2017年10月1日日曜日

季刊内経No.208

季刊内経No.208を発行、発送しました。届いていない方は、事務局までご連絡ください。
過去号の索引を今回の最新号まで更新しましたので、そちらもご利用ください。

季刊内經 No.208 2017年秋号


項目 題名 執筆者
208 02 巻頭言 七十の手習い 薬膳を学び始めました 西岡由記
208 04 合宿発表 『素問』脈解篇の立ち位置―脈書Xと十二消長卦 米谷和輝
208 17 合宿発表 故・張士傑老中医と援物比類 土山絵里佳
208 22 投稿資料 小坂元祐『経穴籑要』の経穴取穴法 ② 小林健二
208 41 報告 夏合宿報告 鈴木幸次郎
208 45 連載 受講の折々② 嗚呼窈窈冥冥 大八木剛夫
208 47 コラム 医古文の森に入るために 藤澤知保
208 50 報告 東洋医学氣血研究会との交流 林孝信
208 52 末言 あの陰の脈 神麹斎

仮名読十四経治方 〔翻字〕49 

廿六 草度の方(ほう)
下二十七オモテ
血気形(きょう)志篇に曰く、背の兪を知(しら)んと欲せば、先(まづ)其(その)両乳(ち)の間を度(はか)り、中(なか)にこれを折り、更に他の草を以(もつ)て度り、半(なかば)を去(さり)已(おわ)り、即ち両(りょう)隅(すみ)を以(もつ)て相(あい)柱(ちゅう)すといへり。
〔『素問』血氣形志篇第二十四:「欲知背兪、先度其兩乳間、中折之、更以他草度、去半已、即以兩隅相拄也」。〕
△両乳(ち)を度(はか)るに古(いに)昔(しえ)は細長き草を以て量(はかり)しなり。今は蝋(もと)縄(ゆい)を用ゆ。便利なる故なり。蝋(もと)縄(ゆい)を以て両乳(ち)の間(あいだ)を量り、是(これ)を八寸と定む。偖(さて)八寸の尺(たけ)を真中(まんなか)より折(おら)ば、偏々(かたかた)四寸となるなり。【図は省略す。国会デジタルを参照】
八寸の蝋(もと)縄(ゆい)を二つに折(おれ)は、偏々(かたかた)四寸づゝになるなり。図、上(かみ)のことし。
下二十七ウラ
更に他の草を以て度(はかる)とは、改めて別に外(ほか)の蝋縄を以て前(まえ)の中(なか)に折る四寸の尺(たけ)にくらべ、是(これ)をも又四寸とす。図、左(ひだり)のごとし。
  【図は省略す。国会デジタルを参照】
更に別の尺(たけ)を以て前の偏(かた)々四寸にくらべはかり取(とる)なり。
半(なかば)を去(さり)已(おわ)るとは、右の四寸の尺(たけ)を又真中(まんなか)より二つに折(おる)なり。二つに折(おれ)は二寸となる偏(かた)々捨(すて)て二寸を取(とる)。故に半(なかば)を去(さる)と云(いう)。
  【図は省略す。国会デジタルを参照】
上(か)み二寸を切(きり)捨(すて)、下(しも)二寸をもちゆ。
  【図は省略す。国会デジタルを参照】
此(この)二寸の尺(たけ)を以て法とし、紙を四角
下二十八オモテ
に切(きり)て二寸四方となす。是(これ)を筋(すじ)違(かい)に折(おり)、角(すみ)と角(すみ)と重(さかね)合(あわ)せて三角(さんかく)鱗(うろこ)の象(かたち)となすなり。即ち両隅(すみ)を以て柱(ちゅう)すとは、是(これ)を云(いう)なり。隅(ぐう)とは角(すみ)なり。四角の紙を角(すみ)と角(すみ)とを合(あわ)すれは、三角となる。是(これ)形を柱(ちゅう)すという。図、左(さ)のごとし。
  【図は省略す。国会デジタルを参照】
此(この)二寸の紙を法とし、是(かく)の如く二寸四方に紙を截(たつ)なり。
  【図は省略す。国会デジタルを参照】
二寸四方の紙を図の如く筋(すじ)違(かい)に折(おる)なり。是(これ)を斜(ななめ)に折(おる)といふ。是(これ)上(かみ)にいふ処(ところ)の角(すみ)と角(すみ)を合(あわ)する也(なり)。
下二十八ウラ
  【図は省略す。国会デジタルを参照】
三隅(みすみ)の象(かたち)
 隅は角(かく)なり。三隅とは三角(さんかく)なり。上(か)みの筋(すじ)違(かい)に折(おり)たる此(かく)のことき三角になり、鱗(うろこ)形(かた)のごとく琴柱(キンヂュウ/ことぢ)に似たり。経文の柱(はしら)の字ば【ママ】是(この)義(ぎ)なり。
右の三隅(みすみ)の象(かたち)をあげて以て背を量る。上(か)みの尖(とが)りを大椎(だいずい)に当(あで【ママ】)、下(しも)の両傍(りょうほう)の尖り、便ち背の二行(にこう)にあたるなり。図の如し。
  【図は省略す。国会デジタルを参照】
下(しも)両隅の端に点(しる)す。両兪、相去(さる)こと全く三寸なり。これ、背兪(はいゆ)扁(へん)と相(あい)合(ごう)す。

2017年9月28日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕48

廿五 急死門
中悪と名(なづ)く疾(やまい)あり。是(この)病(やまい)は悪(あし)き気に中(あた)るなり。皆陰中の毒気なり。人多くは莽々(もうもう)たる草の中(なか)、或(あるい)は生(おい)茂りたる藪の裏(うち)、或(あるい)は人常に行(ゆか)ぬ墓(はか)原(はら)にいたり、或(あるい)は古き井(い)口(ど)に入(い)りて忽ち急死することあり。是(この)時忽(たちまち)に百会に二十一壮。間使、年壮。承漿(じょうしょう)に七壮。人中(にんちゅう)に五十壮。陰(き)卵(ん)の下、十字の紋(すぢ)に三壮。神闕に百壮。下(しも)三里に七壮。大に神効あり。皆能(よく)生(しょう)を回(かえ)さずといふことなし。
○溺水(デキスイ/おぼる)して死したるには、神闕に
下二十二~二十六ウラ
百壮。即ち活(いきかえ)ること神(しん)のごとし。
○弔死(チョウシ/くびくくり)したるには、先(まづ)心下を候(うかが)ふべし。微(すこし)にても温(あたたま)りあれは必(かならす)活(いく)べし。法に首を縦(ゆる)めずして索(なわ)を解(とき)おろし、衣服を取(とり)、温(あたたか)なる所に安(やす)く臥(ふさ)しめ、厚く裹(つつみ)きびしく肛門を填(つ)め、一人は頭(づ)髪(はつ)を引(ひき)、縦(ゆる)めず、一人は胸肩を摩(さす)り、頻々(しばしば)屈(かが)め伸(のば)し後(のち)、竹の管を以(もち)て両方の鼻の孔(あな)を吹(ふけ)ば、即ち活(いく)べし。奇々妙なり。必ず針灸を急ぎ施すべからす。三日を過(すご)して章門を焼(やく)こと廿一壮。
○中暑にて死せんとするには、急に両乳(ち)の上(うえ)に灸すること七壮、妙効あり。

2017年9月27日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕47

廿四 風癩門
鼻塞(ふさが)り面(おもて)熱して、夜(よる)寝(ねい)れは鼻より血を出(いだ)し、眉毛堕(お)落(ち)、眼(ま)眶(ぶた)腫れ、一身搔(か)痒(ゆく)、瘡(くさ)を成す。三稜針を以て一二日を間(へだ)てて、身上(からだ)の肉黒きところを乱刺し、肉汗(にくかん)出(いづ)るに至(いたる)こと百日。又針して骨に至(いたる)こと初(はじめ)のごとく、汗出(いづ)ること百日、鬚(シュ/ひちひげ)眉(ビ/まゆ)生じて後(のち)に即(すなわち)止(やむ)なり。灸もまた肉黒きところに随(したがい)て佳(よ)し。只(ただ)調摂(ようじょう=養生)は専ら針灸の法に依る。慎(つつしん)で風寒に触(ふるる)ことなかれ。良効あり。治穴(ちけつ)は委中・尺沢・太冲(たいしょう)、皆針して血
下二十二~二十六オモテ
を出(いだ)し棄(すつ)ること糞のことし。池門・中渚(ちゅうちょ)・絶骨・崑崙・申脈・太淵・照海・内関・合谷・心兪(しんのゆ)・肺兪(はいのゆ)・胃兪(いのゆ)・脾兪(ひのゆ)等、皆治(ぢ)すべし。
〔・池門:未詳。〕
〔『鍼灸經驗方』風癩(一名大風瘡。傷於隆冬心肺受邪):「鼻塞面熱、夜寢自鼻出血、眉毛墮落、一身搔痒、成瘡。以三稜鍼間一二日亂刺身上肉黑處。至肉汗出百日。又鍼至骨如初汗出百日。鬚眉還生後即止。灸亦隨於肉黑處、亦佳。調攝則一依鍼灸法。慎勿觸風寒。有大效。治穴、委中・尺澤・太冲、皆鍼出血。池門・中渚・合谷・内關・申脈・大淵・照海・絕骨・崑崙・心兪・肺兪・胃兪・脾兪」。*ハンセン氏病か。〕

2017年9月24日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕46

廿三 婦人門
婦人多くは血病なり。経水(けいすい)期(ご)なくして来(きたる)ものは、血(けつ)虚して熱あるものなり。経水来(きたら)んとするに痛(いたみ)を作(なす)ものは、血(けつ)実して気の滞るなり。
○婦人月水(がつすい)調はず、或(あるい)は小産の後(のち)帯下(タイゲ/しらち)腹痛、口乾き発熱(ほつねつ)し大腸(だいちょう)調はず、時々(よりより)血(ち)を下し、久しく懐(はら)孕(ま)ざるには、石門に七壮より百壮に至

下二十ウラ
る。曲泉に三十壮。奇効あり。
〔・小産:流産。〕
○女子(にょし)十五六歳にして経水(けいすい)行(ゆか)ず、日夜寒熱往来し、手足痺れ、食進(すすま)ず、頭痛、心(むね)悪(あし)く嘔吐(オウド/えづきはき)し、腹中塊(かい)ありて否(つか)へ痛(いたむ)には、天枢に百壮、章門・大腸兪(だいちょうゆ)・曲泉・曲池、臍(へそ)に対する背骨(せほね)の上(うえ)に二十一壮灸す。即効あり。
○陰挺(いんでい)の出(いづ)るには、照海・太敦(だいとん)・太谿・陰蹻・曲骨・曲泉に三壮。
〔・陰蹻:照海があるので、陰蹻脈の郄穴である交信穴の別名であろう。〕
○血塊ありて月事(つきのもの)調はざるには、関元・間使・陰蹻・天枢、皆針して奇効あり。
○臍下(ほそのした)に冷疝ありて時々(ときとき)痛(いたむ)には、気海・独陰・陰交・太冲(たいしょう)に灸すること百壮より二百壮。
○赤白(しゃくびゃく)の帯下(たいげ)には、曲骨に七壮。太冲(たいしょう)・関元・復溜・三陰交・天枢に一百壮灸す。
○月経(つきのもの)の通ぜざる
下二十一オモテ
には、合谷・陰交・血海・気衝に針すべし。
○血淋には、丹田に七壮より一百壮に至る。
〔・血淋:淋證以尿血或尿中俠血為主要症候者。 《諸病源候論·淋病諸候》:“血淋者,是熱淋之甚者,則尿血,謂之血淋。”〕
○淋瀝(リンレキ/しょうべんしただり)には、照海・曲泉・小腸兪(しょうちょうゆ)、皆針して神効あり。
○悪血(おけつ)にて腹痛するには、石門に十四壮より百壮に至る。陰都、巨闕(きょけつ)を挟(さしはさ)むこと一寸五ア〔=部=ぶ=分〕にして、下(しも)の二寸に直(なお)る。灸三壮、針を禁ずべし。一度針せば身を終(おわる)まで子なし。四満は臍(へそ)の傍(かたわら)を挟(さしはさ)むこと五分にあり、下(しも)の二寸直(なお)る。灸三壮、神効あり。
〔『鍼灸經驗方』婦人・胞中惡血痛:「石門二七壯至百壯。陰都挾巨闕一寸五分、直下二寸。三壯。禁鍼、鍼之、終身無子。四滿、在挾臍傍五分、直下二寸、三壯」。〕
〔・黄龍祥『中国鍼灸史図鑑』第貳編「明堂与経絡」の結語は、腹部穴の正中線から各経までの距離について、「現存する鍼灸文献や鍼灸図には,腹部穴の正中線から各経までの距離には,以下の五種類がある」として、
①腎経は半寸,胃経は一寸半,脾経は三寸半。
②上腹部の腎経と胃経は各一寸半,下腹部の腎経と胃経は各一寸。脾経は四寸半。
③腎経・胃経・脾経,各一寸半。
④上腹部では各一寸半。下腹部では腎経は五分,胃経は二寸,脾経は四寸半。
⑤上腹部では腎経は半寸,胃経は二寸。下腹部では腎経は一寸半,胃経は二寸。
をあげている。このうち、④にあたるものとしては、韓国にある銅人形をあげるのみで、書籍の存在はあげられていない。『鍼灸經驗方』は、ここで、腎経で上腹部にある陰都を正中線から一寸五分、下腹部にある四満を正中線から五分とするので、④の例に合致する。〕
○乳癰には騎竹馬の穴(けつ)に灸して妙効。
○乳(ちち)の汁なきには亶中に七壮より五十壮に至る。妙とす。是(この)穴処は針を禁ず。
○陰中乾き痛(いたみ)て陰陽を合(ごう)すること能はざるには、曲骨に五十壮、奇効あり。
〔・陰陽を合する:性交する。〕
下二十一ウラ
○小便より血交(まじ)り出(いづ)るには、膈兪(かくゆ)に針すること三分、留むこと七呼(なないき)、灸三壮。
○月事(つきのもの)断(たえ)ざれは、陰蹻に三壮。陰交に百壮。

2017年9月23日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕45

廿二 五癇門
△夫(それ)急驚風は風(かぜ)に因(よつ)て作(おこ)る。或(あるひ)は禽獣雞犬の声(こえ)を聞(きき)て作(おこ)る。口(くち)涎(よだ)れを生じ、一身搐搦(チクデキ/ひきつり)し、身口(しんこう)皆熱し、其(その)発(おこ)るや暴烈(ホウレツ/にわかはげし)し、惺(さめ)て後(のち)、旧(もと)のごとし。
下十九オモテ
慢驚風は大病(たいびょう)の余(あまり)、或(あるい)は大(たい)吐(ト/はく)の余に発するものなり。内(うち)大(おおい)に虚乏(きょほう)し、其(その)身口鼻(しんくひ)の気出(いつ)れとも、皆冷(ひえ)、時々(おりおり)瘈瘲(けいちゅう)す。或(あるひ)は昏睡(コンスイ/よくねいり)して睛(ひとみ)を露(あハらす)の類(たぐ)ひなり。
〔・あハらす:「あらハす(あらわす)」の誤りであろう。〕
右(みぎ)急慢驚の両症ともに気絶するものは、先(まつ)大衝の脉を胗(みる)に、絶(たえ)ざるものは必(かならず)治(ち)すべきなり。
○其(その)治方(ちほう)には百会に三壮(ひ)灸す。或(あるい)は両乳(りょうち)の頭(かしら)に五壮、背(せなか)の第(たい)二椎(すい)と五椎とに灸七壮(ひ)。或(あるい)は臍(へそ)の中(うち)に百壮(ひ)。神効あり。
〔・椎:繰り返しになるが、原文は「推」。〕
△医多くは大炷(だいちゅう)を以て灸壮(きゅうかず)を多くせず、僅(わづか)に十四五壮(ひ)にして止(やむ)。曰く不治(ふぢ)なりとす。歎すべし。予(よ)往々是(この)症(やまい)に遘(あう)ことに、先(まつ)太衝の脉を胗(しん)して未(いまだ)絶(たえ)ざるものは、肝兪(かんのゆ)・鬼眼(きかん)・神庭・百会
下十九オモテ
等(とう)に灸し、後(のち)に神闕に灸す。五十壮(ひ)より百壮(ひ)二百壮にいたりて輒(すな)はち効を奏することあり。
△案(あんず)るに、火気(かき)神(しん)に徹せずんは験(しるし)なし。神(しん)を補ふに火気を以てす。火気能(よく)生(せい)を回(かえ)す。神(しん)また火気を得て盛(さかん)なり。効(こう)あるかな。艾火(がいか)の神(しん)を殷(さかん)にし、病(やまい)を減ず。孟軻の曰く、三年の病に七年(しちねん)の艾(もぐさ)を用ゆ、と。若(もし)之(これ)に拠(よら)ば、よく治(ぢ)せざるもの疾(やま)ひならん乎(か)。
〔『孟子』離婁上:「今之欲王者,猶七年之病求三年之艾也」。覚え違いか、意図的な改変か。〕
  馬癇には、金門・神門・臍中に三壮(ひ)。
  羊癇には、大椎(たいずい)に三壮、第九椎(たいぐずい)の下(しも)に三壮。
  牛癇には、鳩尾に五壮、三陰交・大椎を治(ぢ)す。
下二十オモテ
  雞癇には、百会・間使・絶骨・申脈七壮。
  犬癇には、労宮・申脈に各(おのおの)一壮づつ。
  猪癇には、太淵・巨闕・絶骨に三壮。
  食癇には、鳩尾の上五分に三壮、三陰交。
〔『千金要方』卷五上・候癇法・灸法:「馬癇之為病,張口搖頭,馬鴻(鳴?)欲反折,灸項風府・臍中二壯,病在腹中,燒馬蹄末,服之良。
牛癇之為病,日(目?)正直視腹脹,灸鳩尾骨及大椎各二壯,燒牛蹄末,服之良。
羊癇之為病,喜揚日(目?)吐舌,灸大椎上三壯。
猪癇之為病,喜吐沫,灸完骨兩傍各一寸七壯。
犬癇之為病,手屈拳攣,灸兩手心一壯,灸足大陽一壯,灸肋戸一壯。(肋戸は未詳)
雞癇之為病,搖頭反折,喜驚自搖,灸足諸陽各三壯。/右六畜癇證候。」〕

2017年9月22日金曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕44

下十五ウラ
※四花穴の図あり。省略。
廿一 小児門
○遊風の毒、胸腹に入(いる)則(とき)は死(しする)なり。是(この)時急に三稜針を以て紅(あか)き処を乱刺して多く悪(お)血を出(いだ)し、翌日更に紅赤(こうしゃく)の処を見て、右のごとく針刺(しんし)す。奇効あり。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「火丹毒謂遊風、入胸腹則死(即用利鍼、周匝紅處多出惡血、翌日更觀紅赤處、如右鍼刺效)」。〕
〔・遊風:『幼科概論』論小兒之遊風丹毒:此症由娠母過食辛辣煎炙之物,或久卧火炕,内熱熾盛,波及生兒,降生後復感風邪,將血中已蘊之熱毒引起,發爲遊風丹毒。失治能漫延全身,變症百出,亦能致命也。俗云風疹·風疙疸者是。其症象小兒身上忽然紅腫,或分點粒,或成片斷,脹痛發癢,甚至滿身皆有,遊走無定。萬不可用手抓搔,因指甲梢有毒,能引外風,立刻全身皆起,且能起至二層三層。斯時起到何處,何處肌膚即行麻木癢痛。入口内小兒即不能吮乳,到心口上,小兒即心中慌亂,啼不住聲。再甚涕淚皆乾,丹毒轉向裏攻進,侵及神經,筋青鼻煽,痙攣抽搐,立時發措手也。其初跳見白斑,漸透黃色光亮,皮中恍如有水,脹破即流黃水,黃水到處,同樣之症型旋生,濕爛痛癢,名爲水丹。多生腿膝等處,屬脾肺有風熱而濕也。又有頭面身體起赤紅平點,不發熱而乾燥作痛癢,起多即連成雲片,名爲赤遊丹,是血分有火而受風也。又有遍身起扁疙疸與肉皮同色,無熱而微脹痛兼癢,遊走不定,是爲膜冷所致。又名冷丹,由胎毒未能發出肌膚,外受風寒郁遏也。又有腰間紅腫一圈,名纏腰,甚毒火甚更,是心包及内腎有毒熱感風邪而成,其發甚速,頃刻傷生,無法救治也。總之丹毒起于胸腹及于四肢者,其症象順而吉,起于四肢及于胸腹者,症象逆而危,治療之宜急也。今將各項丹症的治法藥方列下,按症之現象,應服何等方劑,即對症與小兒服之,自可應症而癒也。治水丹應用天保採薇湯,此症濕盛,脾氣因之不運化,濕熱郁積成毒,復感外間風邪而起,治法宜用利濕清熱,疏風邪,通脾氣法,使其熱清風去濕開氣通,脾能營運,毒自解也。
『漢方用語大辞典』:赤遊風·赤遊丹ともいう。一種の急性に皮膚にあらわれる風証である。多くは小児に見られ、口唇·眼瞼·耳たぶまたは胸部·背部·手背などに多発する。常に突然発生し、消失も速やかで転移も一定しない。患部の皮膚は紅く炎症を起こし、かつ浮腫は雲のような形で灼熱感がありかゆい。形が風疹のようであれば、さらに大きくなる。発熱·腹痛·嘔吐·吐瀉·便秘などをともなう。一般に背腹よりおこって四肢に流れていくものを順とし、四肢よりおこって胸腹に入るものを逆とする。食物アレルギーなどによって起こる。血分に滞れば赤色を発し、赤遊風·赤遊丹と名付け、気分に滞れば赤色となり、白遊風と名付ける。〕
○驚風には神道に灸七壮より百壮に至る。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「驚風(神道、在第五椎節間、灸七壯至百壯。即效)」。〕
○陰卵(きんだま)偏(かた)く大(おおい)にして、腹に入(いり)たるには、太冲(たいしょう)·独陰(とくいん)・気海·三陰交·関元を治(ぢ)すべし。
〔・偏(かた)く:「く」は、繰り返し記号が短くなっている形。パソコンで縦書きでは「〳〵」をつかう。読みは「カタカタ」。一方。かたほう。〕
〔『鍼灸經驗方』獨陰二穴:「在足大指次指內中節橫紋當中。主胸腹痛及疝痛欲死。男左女右」。『鍼灸大成』獨陰二穴「在足第二指下,橫紋中是穴,治小腸疝氣,又治死胎,胎衣不下,灸五壯」。〕
〔『鍼灸經驗方』小兒:「陰卵偏大入腹(太冲·獨陰·氣海·三陰交·關元)」。〕
○雀目(とりめ)には、手の大指(おおゆび)の甲(つめ)の後(うしろ)の第一の節の内の橫紋(よこすじ)
下十六オモテ~十八オモテ
の頭(かしら)白肉の際(あいだ)に各(おのおの)灸一壮(ひ)。肝兪(かんのゆ)に九壮。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「雀目(手大指甲後、第一節內橫紋頭白肉際各)灸一壯。肝兪(九壯)」。〕
○児(こ)生(むま)れて一七日の内啼(なく)こと多く、客風(カクフウ/かぜ)臍(へそ)に中(あた)りて、心脾に至るには、神門·合谷·太冲(たいしょう)·列缺、各灸七壮。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「兒生一七日內多啼客風中於臍、至心脾(合谷·太冲·神門·列缺七壯。承漿七壯)」。〕
○先に驚(おどろき)て後(のち)に啼(なく)ことの噪(さわが)しきには、百会に七壮。齦交·間使に五壮。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「先驚後啼(百會七壯。間使·齦交)」。〕
○浮腫(フシュ/うき)ありて気促するには、水分に三壮、三陰交に三十壮。脾兪(ひのゆ)に三壮。奇効あり。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「浮腫(水分三壯。三陰交三十壮。脾兪三壯)」。〕
○乳(ち)を吐(はく)には、中庭。亶中(だんちゅう)の下(しも)一寸六分に灸すること五壮。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「吐乳(中庭、在亶中下一寸六分、灸五壯)」。〕
○四五歳まで言(もの)いわざるには、心兪(しんのゆ)、足の内踝(うちくるぶし)の尖(とがり)の上(うえ)に各々(おのおの)灸すること三壮。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「四五歳不言(心兪·足内踝尖上各灸三壯)」。〕
○臍(へそ)の腫(はれ)るには、臍(へそ)に対する背骨(せほね)の上(うえ)に灸三壮、或(あるい)は七壮。奇効あり。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「臍腫(灸對臍脊骨上、灸三壯、或七壯)」。〕
○小便通ぜざるには、百会に七壮。湧泉に三壮。胞門に五十
下十六ウラ~十八ウラ
壮。而(しこう)して後(のち)、芭豆(はず)の肉を搗(つき)て、餅となし、臍(へそ)の中(なか)に填(うめ)て灸五七壮。妙。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「小便不通(百會七壯。營衝各三壯。丹田二七壯。湧泉三壯。胞門五十壯。又用巴豆肉、搗作餅、或炒鹽安填臍中。灸五七壯)」。〕
〔『鍼灸經驗方』大小便不通:「膀胱兪三壯。丹田二七壯。胞門五十壯。營衝在足内踝前後陷中、三壯。經中穴、在臍下寸半兩傍各三寸。灸百壯。大腸兪三壯」。〕
○口(くち)噤ずるには、然谷を治(ぢす)べし。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「口噤(然谷)」。〕
○善驚(おどろく)には、然谷。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「善驚(然谷)」。〕
○多く哭(なく)には、百会。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「多哭(百會)」。〕
○遺尿(イニョウ/よばり)には、気海に百壮。太敦に三壮。妙効あり。
〔『鍼灸經驗方』小兒:「遺尿(氣海百壯。大敦三壯)」。〕
○夜々(よなよな)魘(ゆめ)を見、悎(おび)へ、或(あるい)は自汗し、驚き悸(むなさわ)ぎし、或(あるい)は詈(ののし)りて息(やま)ず。又は譫語(うわこと)をいふには、心兪(しんのゆ)に百壮。腰眼·大陵·湧泉·後谿等(とう)に三壮。即効あり。
〔・悎(おび)へ:書いてあるのは、忄+牛+繰り返し記号(「渋」字の右下の部分)。本来なら「忄+犇」と翻字すべきだが、そのような文字はないようなので、誤字ととらえ、意味にあわせて「悎」とした。〕

鍼灸書は,どこに分類されているのか

国立国会図書館デジタルコレクションでは,現在,古典籍資料(貴重書等)96947点がデジタル化されている(ネットでは見られない,館内限定をふくむ)。
http://dl.ndl.go.jp
http://dl.ndl.go.jp/search/searchResult?categoryTypeNo=1&categoryGroupCode=C&categoryCode=02&viewRestrictedList=0|2|3
自然科学に分類されているのは183点。そのうち医学・薬学分類が38点。大半が本草綱目であり,鍼灸書はない。
では鍼灸と名の付くものはないかというと,検索方法をかえて探すと2点みつかる。
ひとつは,現在,更新中の『仮名読十四経治方』。もうひとつは『鍼灸極秘伝』。それから書名ではないが,『東医宝鑑』鍼灸篇。
鍼灸書は,どこに分類されているのか。
NDC分類で表記されている数字を足し算すると,96947に達しそうにないので,分類外なのかも知れない。
ちなみに馬医書は,産業に分類されている。
なお,「針」は「鍼」に包摂されません。
「針灸」で検索すると「針灸之秘伝」が見つかります。

2017年9月21日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕43

二十 四花の穴法
第二穴は、先(まづ)患人(びょうにん)を平身(まつすぐ)に正(ただ)しく立(たた)し、蝋縄(もとゆい)を以て、男は左り女は右の足の大(おお)拇(ゆ)指(び)の端(はし)に縄の頭(はし)を当(あて)て、足の掌(うら)に循(まわ)し、後(うしろ)に向(むか)はしめ、膝の膕(かがま)りの所、大(おお)横紋(よこすじ)に至りて截(きり)断(たち)、偖(さて)患人(びょうにん)の髪を解き、両辺(りょうほう)へ分(わけ)、平身(ますぐ)に正(ただ)しく坐せしめ、彼(かの)足を量りし縄を鼻の尖(とがり)の上(うえ)にあて、指にて按(おさ)へしめ、縄を引(ひき)て上(うえ)に向(むか)ひ
〔・第二穴:『鍼灸経験方』によれば「第一の二穴」の誤り。〕
下十四オモテ
頭(かしら)の正(まん)中(なか)、皮に循(そ)ふて脳後に至り、肉に付(つい)て垂れ下(くだ)し、背骨(せぼね)の正(まん)中(なか)に当て、縄の端(はし)の竭(つくる)処に記(しる)しを附(つ)け、卻(さ)て、病者の口を微(すこ)しく合(あい)さしめ、短き蝋縄(もとゆい)を以て口の左(ひだり)の角(かと)より上(うえ)へ唇の吻(ふち)に循(そう)て鼻の根に至り、斜(ななめ)に下(くだ)し、口の角(かど)に至るなり。
★〔顔面の絵あり。原本参照〕是(かく)の如くなして、截(きり)断(たち)、此(この)縄(なわ)を展(の)べ、中(ちゅう)を摺(お)り、墨(すみ)にて記(しる)し、先(さき)に記(き)したる背中の骨の上(うえ)に圧(お)し当て、墨(すみ)と記(すみ)とを合(あわ)せ、横に左右へ𤄃(ひら)き、平(たいら)かにして、高下(こうげ)もなく縄の両頭(りょうはし)の竭(つくる)ところ、墨にて記(しる)すべし。〔穴/灸〕(きゅうけつ)なり。
〔・「穴偏に灸」という字は、撰者が『鍼灸経験方』にある「灸穴」ということばから作った文字のようである。〕
〔『鍼灸經驗方』四花穴・治勞瘵症:「第一次二穴、先令患人平身正立、取一細蠟繩、勿令展縮、以繩頭於男左女右足大拇指端、比齊循足掌向後、至曲䐐大橫紋截斷、令患人解髮分兩邊、要見頭縫至腦後、又令患人平身正坐、將先比繩子一頭、於鼻尖上按定、引繩向上、循頭縫、至腦後、貼肉垂下、當脊骨正中、繩頭盡處、以墨點記之(是非灸穴。○或婦人纏足不明者、當於右肓穴、點定、以繩頭按其穴上、伸手引繩向下、至手中指盡處、截斷而用。男子之足不明者、亦佳)。卻令患人微合口、以短繩一頭、自口左角按定、鉤起繩子、向上至鼻根斜下、至口右角作△、此樣截斷、將此繩展、令摺中、墨記將繩墨點、壓於脊骨上先點處、而橫布左右取平、勿令高下、繩兩頭盡處、以墨圈記(此則灸穴) 」。〕
第次(だいじ)の二穴は、病人を平身(ますぐ)に正(ただ)しく座せしめ、両肩を脱(ぬが)
下十四ウラ
し、蝋縄(もとゆい)を以て項(うなじ)を繞(まと)はし、前に向(むか)ひて、双(ふた)筋(すじ)にし、垂(たれ)下(くだ)し、鳩尾の尖りと斉(ひと)しくなし、即ち双(なら)べ截(き)る。是(この)縄の中心(まんなか)を喉(のど)の結骨(けつこつ)の上(うえ)に着(つけ)て、縄の両頭(りょうはし)を引(ひき)て後(うしろ)へ向へ、背骨(せこつ)の正中(まんなか)に当(あた)て、縄の端(はし)の尽(つく)るところ、墨にて記(しる)す。卻(さ)て病者をして口を合(あわ)さしめ、短かき蝋縄(もとゆい)を以て横に口の両吻(りょうはし)を一文字(いちもんじ)の如く截(きり)取る。中(なか)より摺(お)り、墨にて記(しる)し、背骨(せほね)の上(うえ)の前(まえ)に点する所に推(おし)あてて、前(まえ)のことく横に両端(りょうはし)の尽(つくる)ところに墨にて記(しる)す。是(これ)四穴を共に同時に灸各々七壮より十五壮に至り、百壮にいたる。或(あるい)は百五十壮。神効あり。
〔・当(あた)て:「当(あて)て」の誤りであろう。/・是(これ)四穴:「是(この)四穴」の誤りか。〕
下十五オモテ
灸瘡(きゅうそう)初(はじめ)て発(おこ)るときを候(うかが)ふて、後の法に依(より)て又二穴に灸すへし。
〔『鍼灸經驗方』四花穴・治勞瘵症:「二次二穴、令患人平身正坐、稍縮肩膊、取一蠟繩、繞項向前雙垂、與鳩尾尖齊(鳩尾是心弊骨也。人無心弊骨者、從胸前岐骨下、量取一寸、是鳩尾穴也)、即雙截斷、將其繩之中心、着於喉嚨結骨上、引繩兩端向後、會於脊骨正中、繩頭盡處、以墨記之(是則非灸穴也)。卻令患人合口、以短蠟繩、橫量口兩吻、如一字樣截斷、中摺墨記、壓於脊骨上先點處、如前橫布、繩子兩頭盡處、以墨記之(上是四花穴之橫二穴也)。以上第二次點穴、通共四穴、同時灸各七壯、至二七壯、至百壯、或一百五十壯、為妙。候灸瘡初發時、依後法、又灸二穴」。〕
」。〕
第三の二穴は、第次の口を量る一文字の縄を中(なか)より摺(お)り、墨にて記(しる)し、第次の背骨(せぼね)の上(うえ)へ正中(まんなか)に推(おし)あてて、上下に𤄃(ひら)き、縄の端(は)し上下尽(つく)るところ、墨にて記(しる)す。是(これ)四花の穴より灸すること各々百壮。第三ともに六穴也(なり)。日輪(にちりん)の火(ひ)を取(とり)て、是(これ)に灸すること奇効あり。尤(はなはだ)妙とす。百日の中(うち)、飲食房労を慎み身を静かなる処に置(おき)て心を安(やす)んじ、三十日の後(のち)尚(なお)いまだ愈(いえ)ざるを覚(おぼう)ときは、復(また)初(はじめ)の灸穴に再(ふたたび)灸す。
〔『鍼灸經驗方』四花穴・治勞瘵症:「三次二穴、以第二次量口吻如一字樣短繩、中摺之墨記、壓於第二次脊點上正中、上下直放、繩頭上下盡處、以墨點記之(此四花穴之上下二穴也)。已上第三次點穴、謂之四花穴也。灸兩穴各百壯、三次共六穴、取火日灸之、百日內慎飲食房勞、安心靜處、將息一月後、仍覺未瘥、復於初灸穴上再灸」。〕

2017年9月20日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕42

十九 勞瘵門
勞瘵には、独(ひと)り艾火(がいか)を以て貴(たつとし)とす。針(しん)術薬餌(やくぢ)は功大(おおい)に微(すこ)し。脊(せ)の第(たい)三椎(ずい)より十五椎(ずい)の尖(とがり)に灸して、効あり。或(あるい)は脊(せ)骨(ぼね)を挟(さしはさ)んで両傍(りょうほう)とも、其(その)病(びょう)鬱の気の聚(あつま)る所を見(み)認(とめ)て数所を焼(やく)べし。
〔・微(すこ):「微(すく)」と書いてあって「微(すくナ)」の略か。〕
○四花患門等(とう)に灸、五万壮(ひ)。妙。
○又方。腰
下十三ウラ
眼の穴に艾(もぐさ)を安(あん)し、山椒(さんしょう)の末(まつ)を密(みつ)に𩜍(ね)りて餅の如くし、其(その)四畔(ぐるり)を闈(かこう)て火気を留(とどめ)しめ、数日(すじつ)灸して、三万壮に至れば、族類に伝(つたわ)る虫を殺す。是(これ)を遇仙の灸と名附(なづく)。神効有(あり)。
〔・密:「蜜」。〕
〔四花患門:下文を参照。また『新版 経絡経穴概論 第二版』二二二~二二三頁を参照。〕
〔『鍼灸經驗方』別穴・腰眼:「令病人解去衣服、直身正立、於腰上脊骨兩傍、有微陷處、是謂腰眼穴也。先計癸亥日、前一日預點、至夜半子時交、為癸亥日期、便使病人伏床着面而臥、以小艾炷灸七壯九壯至十一壯、瘵蟲吐出、或瀉下、即焚蟲、即安。此法之名遇仙灸。○治瘵之捷法也(病人をして衣服を解き去らしめ、身を直くして正しく立ち、腰上の脊骨の兩傍に於いて、微(すこ)し陷なる處有り、是れを腰眼穴と謂う也。先づ癸亥の日を計り、前(まえ)一日に預じめ點し、夜半子時の交(あいだ)に至るを、癸亥の日期と為す。便ち病人をして床に伏し面を着けて臥さしめ、小艾炷を以て灸すること七壯九壯より十一壯に至れば、瘵蟲吐出し、或るいは瀉下す。即ち蟲を焚けば、即ち安し。此の法之を遇仙の灸と名づく。○瘵を治するの捷法也)」。〕
〔『鍼灸經驗方』勞瘵(腹中有蟲惱人至死、相傳於族類、而殺害是也):「勞瘵症(灸腰眼穴。穴法載別穴中。其名遇仙灸)。人脈微細、或時無耇【「老」の異体字か】(以圓利針、刺足少陰經復溜穴、深刺以俟回陽脈生、方可出鍼)。虛勞百損失精勞症(肩井・大椎・膏肓俞・肝俞・腎俞・脾俞・下三里・氣海)」。〕

2017年9月19日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕41

下十三オモテ
十八 痔疾門
痔は凸(なかだか)の肉孔(あな)の中(なか)より出(いづ)るなり。是(この)肉に三稜針を用ひて多く血を取(とり)棄(すつ)れば、立処(たちところ)に治(ぢ)愈(ゆ)す。
○又方。凸(なかだか)の肉に灸すること百壮。即ち平(たいら)ぎて、効を奏す。
〔『鍼灸經驗方』痔疾・痔乳頭:「灸痔凸肉百壯、即平、神效」。〕
○痔疾、種々(しゅしゅ)の症ありといへとも、百会・瘂門等(とう)に灸して、神効あり。

2017年9月18日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕40

十七 痢疾門
〔『鍼灸經驗方』痢疾:「中氣虛弱、三焦不和之致」。〕
○赤白(しゃくびゃく)痢には、臍中に百壮。神効あり。
〔『鍼灸經驗方』痢疾・赤白痢:「臍中百壯、神效」。〕
○脱肛して苦しむには、神闕に年の壮。百会に二十一壮。膀胱兪に三壮。
〔『鍼灸經驗方』痢疾・脱肛久不愈:「臍中年壯、百會三七壯、膀胱兪三壯」。〕
○大便秘結し、絞(しぶり)重(おき)きには、巴豆(はづ)の肉を𩜍(ね)(ね)りて、餅のごとくし、臍の中(うち)におき、其上(そのうえ)に灸三壮。即効あり。
〔「おき」は「おも」の誤り。〕
〔『鍼灸經驗方』痢疾:「若大便秘結、取巴豆肉、作餅、安臍中、灸三壯」。〕

2017年9月17日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕39

十六 鼻病門
凡(およそ)水出(いづ)るを鼽(きゅう)といひ、血出(いづ)るを衂(ちく)といふ。倶に風府・迎香・上
下十二ウラ
星(じょうしょう)に十四壮灸す。太冲(たいしょう)・絶骨・合谷・大陵・尺沢・神門等(とう)を治(ぢ)すべし。
〔『鍼灸經驗方』鼻部・鼽衂:「水出曰鼽。血出曰衂。○風府・迎香・上星、二七壯。太冲・絕骨・合谷・大陵・尺澤・神門」。〕
○衂(ちく)血(けつ)止(やま)ずして、瘖(お)して言(もの)語(いう)こと能はざるには、肺兪・合谷・間使・大谿・霊道・風府・太冲(たいしょう)等治(ぢ)すべし。
〔『鍼灸經驗方』鼻部・衂血不止、瘖不能言:「肺兪・合谷・間使・大谿・靈道・風府・太冲」。〕
○鼻塞(ふさが)るには、臨泣・合谷に灸すべし。
〔『鍼灸經驗方』鼻部・鼻塞:「百會・上星・顖會・臨泣・合谷・厲兌、幷皆灸之」。〕
○鼻の中(なか)に瘜(に)肉(く)を生じて、涕(はな)出(いづる)には、上星(じょうしょう)に百壮。迎香・神門・合谷・肺兪(はいのゆ)・尺沢・顖会、皆灸すべし。
〔『鍼灸經驗方』鼻部・鼻中瘜肉:「上星百壯、迎香・合谷・神門・肺兪・心兪・尺澤・顖會」。〕

2017年9月16日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕38

十五 手臂(シュヒ/てひぢ)門
両手倶に大(おおい)に熱して火(ひ)の中(うち)に在(ある)ごときには、湧泉に灸五壮。立どころに効あり。
○左(ひだ)りの手足倶に何(なに)となく倦(だる)く力なきには、神闕に百壮。如(も)しそれにて愈ざれは、五百壮を灸すべし。
○手の五指倶に屈(かが)んで伸(のび)ざるには、曲池・合谷・中脘に針(はり)すへし。伸(のび)て屈(かがま)ざるによし。
〔『鍼灸經驗方』手臂・手五指不能屈伸:「曲池・下三里・外關・支溝・合谷・中脘鍼。絶骨・中渚、手大指内廉第一節横紋頭一壯」。〕

2017年9月15日金曜日

京都大学貴重資料デジタルアーカイブ

http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/bulletin/1375887
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/

現在、「京都大学 富士川文庫 目録」
http://edb.kulib.kyoto-u.ac.jp/exhibit/kicho/fuji.html
で「鍼灸」を検索すると白黒画像の2点(鍼灸集要/鍼灸要論)のみですが、
上の試験公開されたもので検索すると、
12点カラーで見ることができます。
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/search?keys=%E9%8D%BC%E7%81%B8

長野仁先生の成果が公表されているようです。

なお、京都大学の富士川文庫の目録は
https://kuline.kulib.kyoto-u.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=v3search_view_main_lnklst&block_id=251&tab_num=0&lnkfunc=9
です。

仮名読十四経治方 〔翻字〕37

十四 膝脚(シツギャク/ひざあし)門
○足の内外(うちそと)の踝(くるぶ)し紅(あか)く腫(はれ)て日(ひ)久しく、膿(うま)ず、微(すこ)しく痛(いたみ)て座しがたきには、騎竹穴に灸七壮(ひ)。若(もし)愈(いえ)ざれは、更に灸すべし。
○足(あ)脚(し)輒ち転筋(こぶるがえ)りして、痛(いたみ)忍(しの)びがたきには、承山
下十二オモテ
に灸三十一壮。若し内(うち)らの筋攣(すちつる)には、内(うち)踝(くるぶ)しの尖りに七壮。外(ほか)の筋(すぢ)急(つる)には、外(そと)踝(くるぶ)しの尖(とが)りに七壮。妙とす。
〔・こぶるがえり:「る」は「ら」のあやまりか。こむらがえり。腓(こむら・こぶら)=ふくらはぎ。〕

2017年9月14日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕36

下十一オモテ
十三 咳嗽(ガイソウ/せき)門 幷痰喘(たんぜん)
凡(およそ)痰喘は熱に因(よっ)て上(のぼ)り、大気(たいき)の炎上(えんしょう)より致(いたす)ゆへなり。
〔『鍼灸經驗方』咳嗽:「凡痰喘、因熱而上、謂大氣炎上故也」。〕
○咳逆久しく止(やま)ざるには、大椎(たいすい)より五の椎(すい)に至る節(ふし)の上(うえ)に灸すること年(とし)の壮(かず)に随う。而(しかう)して期門に三壮(ひ)。立(たち)どころに止(やむ)こと、神効あり。
〔・椎:あらためて注記しておくと、原文はみな「推」につくる。振り仮名には「すい」と「ずい」が使われている。〕
〔『鍼灸經驗方』咳嗽・咳逆不止:「自大椎至五椎節上、灸隨年壯。又方:期門三壯、立止」。〕
○又(また)方(ほう)。乳(ち)の下(した)、一指(いっし)を留(とど)むばかりに当(あた)りて、正(まさ)に乳(ち)と相(あい)直(なお)る胸肋の間(あいだ)、陥(くぼか)なる中に灸すること三壮(ひ)。女人(おんな)は、乳(ちち)の頭(かしら)を屈(かが)めて之を取り、灸す。男(おとこ)は左り、女は右り、肌に至れば、立処(たちどころ)に治(ぢ)す。神(しん)のごとし。
〔『鍼灸經驗方』咳嗽・咳逆不止・又方:「在乳下下一指許、正與乳相直肋間陷中、灸三壯。女人則屈乳頭、取之灸。男左女右、到肌立止」。〕
○音(こえ)失(いで)がたきには、魚際・合谷・間使・然谷・肺兪(はいのゆ)・腎兪(じんのゆ)に灸すべし。
〔『鍼灸經驗方』咳嗽:失音「魚際・合谷・間使・神門・然谷・肺兪・腎兪」。〕
○喘息には、合谷・太谿・上星・太陵・列決・下(しも)三里等(とう)に久しく針(はり)
下十一ウラ
を留(とど)めて、其気(そのき)を下(くた)すべし。
〔『鍼灸經驗方』咳嗽・喘急:「上星・合谷・太谿・太陵・列缺・下三里。久留鍼、下其氣」。〕
○哮喘には、天突に五壮(ひ)。又細き蝋縄(もとゆい)の類(るい)を頸(くび)に套(かけ)て前に垂(たれ)しめ、鳩尾の骨の尖(とが)りを量り、其(その)両端(りょうはし)を後(うしろ)に旋(まわ)し、脊骨(せぼね)の上(うえ)へ索(なわ)の尽(つく)る処(ところ)に点記(てんき)し、灸七壮(ひ)より二十一壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』咳嗽・哮喘:「天突五壯。又以細索套頸、量鳩尾骨尖、其兩端旋後、脊骨上索盡處點記、灸七壯、或三七壯」。〕
○痰喘(たんぜん)には、膏肓兪(こうもうゆ)に灸し、腎兪(じんのゆ)に灸し、合谷に針(はり)し、太淵(だいえん)に針(はり)し、亶中(だんちゅう)に二十一壮(ひ)。神効あり。
〔『鍼灸經驗方』咳嗽・痰喘:「膏肓兪灸、肺兪灸、腎兪灸、合谷針、太淵針、天突灸七壯、神道三七壯、亶中七七壯」。〕

2017年9月13日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕35

十二 腰脊(ヨウハイ/こしせなか)門
○腰の辺(あたり)より脊(せ)へかけて疼(いたみ)、溺水(しょうべん)の濁(にごる)には、章門に百壮、
下十ウラ
腎兪(じんのゆ)に百壮。膀胱兪・気海に二十一壮。
〔『鍼灸經驗方』腰背・腰脊疼痛溺濁:「章門百壯、膀胱兪・腎兪・委中・次髎・氣海、百壯」。〕
○卒(にわか)に腰痛(こしいたみ)て屈伸(のびかがみ)の自由なりがたきには、尾窮骨より上(うえ)へ一寸に七壮(ななひ)づつ、婦人は八膠(はちりょう)に五十壮。
〔・八膠:八髎。〕
○又法。病者をして正(ただ)しく立(たた)し、細き竹を地(ち)より竪(たて)に臍(へそ)を量りて竹に記(しる)しをつけ、其(その)竹を後(うしろ)の脊骨(ぜほね)に着け、竹の上(うえ)の記(しる)しの当(あた)るところに灸すること年(とし)の壮(かず)に随ふ。是(これ)を俗に臍(へそ)がへしと呼ぶ。
〔・ぜほね:おそらく「せぼね」。〕
○腰痛(こしいたみ)て腹の鳴(なる)には、神闕に百壮。胃の兪に年(とし)の壮(かず)。太谿・太冲(たいしょう)・三陰交に五十壮(ひ)。妙効あり。
〔『鍼灸經驗方』腰背・腰痛腹鳴:「胃兪、年壯。大腸兪・三陰交・太谿・太冲・神闕、百壯」。〕
○老人の腰いたむには、腎兪(じんのゆ)に三十壮。命門に五十壮。即効あり。
〔『鍼灸經驗方』腰背・老人腰痛:「命門三壯。腎兪年壯」。〕
○腰腫(はれ)て倦(だる)く痛(いたむ)には、崑崙・太冲(たいしょう)・章門に二十一壮。能(よく)愈(いゆ)るなり。
〔『鍼灸經驗方』腰背・腰腫痛:「崑崙・委中・太冲・通里・章門」。〕

2017年9月12日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕34

十一 大小便
○大小便通ぜされは、膀胱兪に三壮(ひ)。丹田に二十一壮。胞門に五十壮。臍下(へそのした)一寸半、両傍各々三寸に灸百壮。大腸兪に三壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』大小便・大小便不通:「膀胱兪三壯。丹田二七壯。胞門五十壯。營衝在足内踝前後陷中、三壯。經中穴、在臍下寸半兩傍各三寸。灸百壯。大腸兪三壯」。
〔『鍼灸經驗方』「胞門一穴:在關元左傍二寸、治婦人無子」。ちなみに「關元右傍二寸」にある穴を子戸という(『東医宝鑑』別穴)。〕
○小便黄赤(コウシャク/きあかく)にして禁ぜざれば、膀胱兪・三焦兪・小腸兪に針(はり)すべし。
〔『鍼灸經驗方』大小便・小便黃赤不禁:「腕骨・膀胱兪・三焦兪・承漿・小腸兪」。〕
○小便通ぜずして、臍下(さいか)冷(ひゆ)るには、胞門・丹田・神闕・営衝(えいこう)・膀胱兪、皆灸すべし。
〔・「えいこう」(原文は「ゑいこう」)は、「えいしょう」とすべきであろう。〕
〔『鍼灸經驗方』別穴・營衝:「一名營地。在足内踝前後兩邊池中脉。主赤白帶下、小便不通」。/「營地」當作「營池」。 營池:營,作圍繞解,池,停水之處。內踝下緣前後,繞內踝下而生,骨邊有如水池之凹陷,穴當其處,故名營池。位於足內踝下緣前後凹陷處。每側二穴,左右計四穴。〕
〔『鍼灸經驗方』大小便・小便不通臍下冷:「膀胱兪・胞門・丹田・神闕・營衝、皆灸」。〕
○小便難(かたき)には、臍(へそ)に対する脊骨(せこつ)の上(うえ)に灸三壮。
〔『鍼灸經驗方』大小便・小便難:「灸對臍脊骨上三壯」。〕
○小便に血交(まじわ)り出(いづる)には、胃兪(いのゆ)・関元・曲泉・営宮(えいきゅう)・三焦兪・腎兪・気海に年(とし)の壮。太冲(たいしょう)に三壮。膀胱兪・小腸兪、皆灸すべし。
〔・営宮:「労宮」のあやまり。〕
〔『鍼灸經驗方』大小便・尿血:「胃兪・關元・曲泉・勞宮・三焦兪・腎兪・氣海、年壯。太冲三壯。少府三壯。膀胱兪・小腸兪」。〕
○腸鳴り、溏泄(トウセツ/べたくだり)して、腹痛するには、神闕に百壮。三陰交に三壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』大小便・腸鳴溏泄腹痛:「神闕百壯、三陰交三壯」。〕

2017年9月11日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕33

十 蟠蛇(はんだ)癧
瘰癧の別名(へづみょう)なり。頂(うなじ)を繞(めぐり)て核(ガイ/ぐりぐり)を起(おこ)すを蟠蛇癧と名附(なづく)。
〔・「へづみょう」は「べつみょう」、「頂」は「項」、「ガイ」は「カク」とすべきであろう。〕
○天井・風池・肘の尖(とがり)に百壮。下(しも)三里・百労・神門・中渚(ちゅうちょ)・外関(げかん)・大椎(たいすい)、皆倶に灸して、神効あり。
〔『鍼灸經驗方』別穴・百勞二穴:「在大椎向髮際二寸點記、將其二寸、中摺墨記橫布於先點上、左右兩端盡處、是。治瘰癧兪【「大椎ヨリ髮際ニ向ヒ二寸ニ點シ記シテ、其ノ二寸ヲ將(もつ)テ、中ヨリ摺(おつ)テ墨ニテ記シ橫ニ先ニ點シタル上ニ布(し)キ、左右兩端盡クル處ニ在リ、是ナリ。瘰癧ヲ治ス】」。/在項部,當大椎直上2寸,後正中線傍開1寸。/摺:折疊。曲折。〕
〔『鍼灸經驗方』蟠蛇癧:「瘰癧繞項起核、名蟠蛇癧。天井・風池・肘尖百壯。換治下三里・百勞・神門・中渚・外關・大椎灸」。〕

2017年9月10日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕32

九 風丹幷(ならび)に火丹毒
三稜針を以て間(すきま)もなく腫(はれ)る処(ところ)及び暈(ウン/ざどり)の畔(くるり)を乱刺(ランシ/みだれさす)して多く悪血(おけつ)を出(いだ)し、翌日更に赤気(しゃくき)の在(ある)ところを看て、初(はじめ)のごとく乱刺して血(ち)を捨(すつ)ること糞(ふん)のごとくすれば、神効有(あり)。
〔・ざどり:座取る:場所をとる。腫れ物などの周囲が、赤くはれあがる。/・丹毒:火丹ともいう。連鎖球菌の感染によって起こる皮膚の浅いところ(真皮)の化膿性炎症。皮膚の浅いところに生じた蜂窩織炎。突然、高い熱、悪寒、全身の倦怠感を伴って、皮膚に境のはっきりしたあざやかな赤い色のはれが現れ、急速に周囲に広がる。表面は皮膚が張って硬く光沢があり、その部分は熱感があって触れると強い痛みがある。水疱や出血斑を伴うこともある。Web記事/・風丹:水疱性丹毒。水丹。/水丹:小儿丹毒证型中之如有水在皮中者。出 《备急千金要方》卷二十二。...为小儿丹毒之一。多因热毒与水湿相搏所致。以股及阴部较多见,亦可发于遍身,证见黄赤色水疱,甚者破烂流水,湿烂疼痛。治宜清热利湿,方用防己散内服,外用升麻膏敷之,或以如意金黄散调敷。〕
〔『鍼灸經驗方』風丹及火丹毒:「以三稜鍼無間亂刺當處及暈畔、多出惡血、翌日更看赤氣所在、如初亂刺棄血如糞。神效」。〕
癭瘤:針(はり)し破(やぶ)るべからす。針(はり)する則(とき)は、毒を肆(ほしいまま)にす。
肉瘤:針(はり)灸するときは、皆人を殺す。慎むべし。
血瘤:針(はり)するときは、大(おおい)に血を出(いだ)す。止(やま)ずして死す。
△瘤(こぶ)に種々ありて、皆能(よく)治(ぢ)し易からず。其(その)数(かず)三十有(ゆう)六(りく)。最も血瘤・肉瘤・癭瘤は、針(しん)灸の施しがたきなり。膏薬・服薬を以て治(ぢ)すべし。
  〔癭瘤:病名。癭は頸部の腫瘤、瘤は体表に発生する腫物で、あわせて癭瘤というが、単に癭をさすことが多い。癭は大脖子・癭気とも呼ばれる。発病は環境や憂・思・欝・怒と関係があり、肝気が欝結し脾が健運できなくなったため、頸部で気滞痰凝が生じて形成される。 甲状腺腫・リンパ節腫などをさすことが多い。/肉瘤:肉腫。/血瘤:中医病名。血瘤是指体表血络扩张,纵横丛集而形成的肿瘤。可发生于身体任何部位,大多数为先天性,其特点是病变局部色泽鲜红或暗紫,或呈局限性柔软肿块,边界不清,触之如海绵状。相当于西医的海绵状血管瘤。〕

2017年9月9日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕31

下九オモテ
八 石癰門
腫(はれ)堅(かたく)して根(ね)あり。石(いし)の如くなるを石癰(せきよう)といふ。腫物(しゅもつ)の上(うえ)に灸百壮(ひ)。或(あるい)は二百壮。毎日に炷(すゆ)べし。石子(いし)の如きものも砕(くだ)け潰(つぶ)るるなり。

2017年9月8日金曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕30

七 附子灸の法
附子を削ること、厚さ碁子(こいし)の如く、正(まさ)に腫物(しゅもつ)の上に着け、唾(つば)にて附子を湿(うるお)はし、艾(もぐさ)を附子の上に置(おき)、灸す。熱をして附子に徹せしむ。乾かんとせば、更に唾つけ、熱をして附子に徹せしむ。屡々(しばしば)乾(かわか)ば、輒(すなわ)ち改(か)ゆべし。艾気(がいき)附(フ/ぶし)熱(ネツ)と相(あい)撃(うつ)て、腫物(しゅもつ)に徹せしむ則(とき)は、愈(いえ)ざるものなし。
〔『鍼灸經驗方』附子灸法:「腦瘻及諸癰腫堅牢者、即削附子厚如碁子、正着腫上、小唾濕附子、以艾炷着附子上、灸之、令熱徹附子、欲乾更唾令熱徹附子、屢乾輒改、又令艾氣徹腫、則無不愈者」。〕

2017年9月7日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕29

蒜(にら)灸の法
〔ニラのどの部分を使うのか?「蒜」は、ニンニクである。ニラ=ニンニクなのだろうか?〕
蒜(にら)を隔てて灸する法は、其(その)腫毒大(おおい)に痛(いたみ)、あるひは痛(いたま)ず、麻木(マボク/しびれ)するに、先(まづ)湿紙(シツシ/うるおうかみ)を以て、其(その)腫物(しゅもつ)の上を覆(おお)ひ、其(その)乾く処を候(うか)がふ。乃ち是(これ)腫頭(はれかしら)なり。即ち蒜(にら)を片(へん)となし、厚さ三分ばかりにし、腫物(しゅもつ)の上(うえ)に置き、之に灸すること五炷(いつひ)にして、蒜(にら)を更(か)へ数々(しばしば)炷(すゆ)べし。初め灸して疼(いたむ)は、灸して痛(いたま)ざるに至
下八ウラ
る。初(はじめ)灸して痛(いたま)ざるは、灸して痛(いたむ)に至る。此(これ)則ち鬱毒を引(ひく)の法なり。且(かつ)回生の功(こう)あればなり。若し腫(しゅ)色(しょく)白(しろく)して、膿(うみ)を作(なさ)ざれは、日期(ニチキ/ひのかぎり)を問(とわ)ず、宜(よろし)く多(おおく)灸すべし。若(もし)腫物(しゅもつ)大(おおい)なるは、蒜(にら)を搗(つき)ただらし、患(うれうる)ところに鋪(し)き、艾(もぐさ)を置(おき)て灸するなり。
  〔・ただらす:ただらかす。爛れるようにする。ただれさす。〕
〔『醫說』鍼灸22  ●蒜灸癰疽
凡人初覺發背、欲結未結、赤熱腫痛、先以濕紙覆其上、立視候之、其紙先乾處、則是結癰頭也。取大蒜切成片、如當三錢厚薄安其頭上、用大艾炷灸之三壯、即換一片蒜、痛者灸至不痛、不痛者灸至痛時方住、最要早覺早灸爲上、一日二日、十灸十活、三日四日六七活、五六日三四活、過七日不可灸矣。若有十數頭、作一處生者、即用大蒜研成膏、作薄餅鋪頭上、聚艾於蒜餅上燒之、亦能活也。若背上初發、赤腫一片、中間有一粟米大頭子、便用獨頭蒜切去兩頭、取中間半寸厚薄、正安於瘡上、却用艾於蒜上灸二七壯、多至四十九壯。(江寧府紫極觀因掘得石碑載之)
凡そ人の初めて背に發し、結ばんと欲して未だ結ばず、赤熱腫痛を覺ゆれば、先づ濕紙を以て其の上を覆い、立ちどころに之れを視候す。其の紙 先づ乾く處は、則ち是れ結癰の頭なり。大蒜を取り、切りて片と成す。三錢に當たる厚さの如く薄くし、其の頭上に安んず。大艾炷を用いて之れに灸すること三壯にして、即ち一片の蒜を換え、痛む者は痛まざるに至るまで灸し、痛まざる者は痛むに至る時まで灸して方(まさ)に住(や)む。最も要なるは、早く覺え、早く灸するを上と爲す。一日二日ならば、十灸して十活す。三日四日ならば六七活す。五六日ならば三四活す。七日を過ぐれば灸すべからず。若し十數頭有り、一處に生ずるを作す者は、即ち大蒜を用い、研して膏と成し、薄餅を作り、頭上に鋪す。艾を蒜餅の上に聚め之れを燒く。亦た能く活するなり。若し背上に初めて赤腫一片を發し、中間に一粟米大の頭子有らば、便ち獨頭の蒜を用いる。切りて兩頭を去り、中間の半寸の厚薄を取り、正に瘡上に安んず。却て艾を蒜の上に用い、灸すること二七壯、多くは四十九壯に至る。(江寧府の紫極觀に掘りて得たる石碑に因りて之れを載す)〕

『针灸古典聚珍』

『针灸古典聚珍』全45册,中国科技出版社が,来年ついに出版されるようです。

亜東書店
中国科学技术出版社の記事

個人では,とても手が出ない価格ですね。

2017年9月6日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕28

五 疔腫門
下八オモテ
○疔腫、面(メン/かお)上(じょう)口角(コウカク/くちのかど)に生ずるには、合谷・下(しも)三里・神門に針(はり)すべし。
○手上(シュジョウ/てのうえ)に生ずるは、曲池の穴に二十一壮(ひ)。
○脊(せなか)上に生ずるには、肩井に七壮(ひ)。
△病の軽き重きを観て、重(おもき)ものは数(すう)を倍して灸すべし。幷(ならび)に騎竹馬の穴に灸七壮(ひ)。

2017年9月5日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕27

四 腸癰門
腸癰は、小腹より腰に連(つらなり)て痛み、或(あるい)は一脚(ひとあし)を蹇(ヒキ/ちんば)、身(み)熱すること火(ひ)のごとく、小便数(さく)にして、欠(あくび)し、昼は微(すこ)し歇(やめ)ども、夜(よ)劇(はげし)きは、三十余日(よにち)の後(のち)に膿(うみ)をなす。未(いまだ)膿(うま)ざるの前(まえ)、預(あらかじ)め騎竹馬の穴に各々灸七(なな)壮(ひ)。神効あり。已に膿(うみ)て後(のち)は、肘の尖(とがり)に百壮。膿汁(のうじゅう)注ぎ下(くた)ること一二鉢(はち)。神効あり。

2017年9月4日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕26

三 騎竹馬の穴法
一条(ひとすぢ)の蝋縄(もとゆい)を以て病人の尺沢の横紋(よこすぢ)より、中指(ちゅうし)の端(はし)までを量り、載断(きりたち)、偖(さて)病者の衣(き)裙(もの)を解き、体(からだ)を露(あらわ)し、直竹(まるたけ)の上(うえ)に騎(のせ)坐せしめ、尾竆骨(ひきゅうこつ)に当て、坐するに堪(たえ)しめ、彼(かの)先(さき)に量る蝋縄(もとゆい)を脊(せなか)より坐する竹の上に竪(たて)にし、縄の端尽(つく)る所の脊(せ)の上(うえ)に借(かり)点し、更に別の紙捻(こより)を作り、病者の中指(ちゅうし)の中(なか)の節(ふし)を量り、一寸となし、脊(せなか)の借(か)点より左右へ濶(ひら)き、端の尽(つく)る所に各々灸七壮(ひ)。
〔・載断:『鍼灸経験方』によれば、「截断」のあやまり。意味は「裁断」とおなじ。/・「借(か)点より」:「借(かり)点」の省略か、あるいは「仮点」の意味か。〕
止(ただ)多く灸すべからず。此(この)法を以て之(これ)に灸するときは、愈(いえ)ざるものなし。蓋し是(この)二穴は、心
下七ウラ
脈の過(よぎ)る所なり。凡(およそ)癰疽の疾(やまい)は、皆心気留滞に於(おい)て此(この)毒を生ず。之に灸せば則(すなわち)心脈流通(るづう)し、即時に安(やすく)し、以て死を起(おこ)し生(しょう)を回(かへ)する奇方(きほう)なり。
〔『鍼灸經驗方』騎竹馬穴法:「以直杻先量患人尺澤穴橫紋、比起循肉、至中指端、截斷令患人解衣裙露體、騎坐於直竹之上(瘦人用細竹、肥人用大竹)、當尾竆骨、可堪接坐。然後將其先量杻、從脊竪於坐竹之上、杻端盡處脊上點記(此則非灸穴也)、更用禾稗量病人男左女右中指中節兩紋、爲一寸、又加一寸、合爲二寸、將其二寸、中摺墨記、着於先點脊上、橫布稗兩端盡處(是灸穴也)各灸七壯、止不可多灸、以此法灸之、則無不愈者。蓋此二穴、心脉所過、凡癰疽之疾、皆於心氣留滯、故生此毒。灸此、則心脉流通、即時安愈。以起死回生矣」。〕

2017年9月3日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕25

下一オモテ
仮名読(よみ)十四(じゅうし)経(けい)治法(ちほう)巻(かん)之下(げ)
一 銅人形総図
□印は灸を禁(いむ)
△印は針(はり)を禁(いむ)
★五丁まで図(「腋より季肋まて一尺二寸」など骨度の説明あり)。省略
下六オモテ
二 癰疽門
癰疽の初(はじめ)て出(いづ)る、先(まづ)其(その)経絡の部分(ぶわけ)を看て、其(その)各(おの)おの経に随ひて針(はり)を行(おこな)ふこと間日(かんじつ)なし。如(も)し或(あるい)は針(はり)、日(ひ)を間(あいだ)するときは効(しるし)なし。日(ひ)を逐(お)ふて刺(さ)し、或(あるい)は一日(いちにち)に再び刺(さ)し、以て其(その)毒を瀉するときは、十日(じゅうじつ)に至らずして自(おのづか)ら安(やす)し。若(も)し針(はり)日(ひ)を間(へだ)て、或(あるい)は針(はり)五六度にして病者苦しみ半途(はんと)にして癈(やむ)れば、死に至る。如(も)し或(あるい)は死せずとも腐内(ふにく)より新肉を生じ、艱苦(かんく)万痛(まんつう)、累月に及ぶ。譬(たとう)るに物(もの)なし。若し病人(びょうにん)針治(しんぢ)を欲(よく)せざれは、急に騎竹馬の穴(けつ)に灸すること七壮(ななひ)。神効あらずといふことなし。
〔・腐内(ふにく):『鍼灸經驗方』瘡腫「腐肉」。/・艱苦萬苦:形容非常艱難辛苦。〕
〔『鍼灸經驗方』卷下 瘡腫:痛痒瘡瘍、皆屬心火、主治在各隨其經、及心經。癰者、陽滯於陰、為腫、有觜高起、皮肉光澤者是。疽者、陰滯於陽、為腫、無觜內暈廣大、皮膚起紋不澤者是。癰疽疔癤之初出、看其經絡部分、各隨其經、行鍼無間日、如或針間日、則無效矣。勿論擇日諸忌、逐日鍼刺、或一日再刺、以瀉其毒、則不至十日、自安。若針間日、或鍼五六度、而病者為苦半途而廢、至於死亡。如或不死、腐惡肉生新肉、延於累月、艱苦萬狀、連鍼十餘日之苦、與其死亡、或至辛苦、孰輕孰重、悔之無及。若病人不欲鍼治者、急灸騎竹馬穴七壯、無不神效」。〕
○又方。癰疽初め出(いづる)の三日の
下六ウラ
前(まえ)、急に其(その)腫物(しゅもつ)の頭(かしら)に灸二十一壮。自(おのづか)ら安(やす)し。
△其(その)初発は、至りて小(しょう)にして粟(あわ)のごとく、故(ゆえ)に人(ひと)みな忽(ゆるかせ)にして、其(その)毒を発するに至るを待(まち)て、終(つい)に死するに及ぶ。追ふて悔(くゆる)とも及(およぶ)ことなし。若(もし)已に三日を過(すぐる)ときは、即ち騎竹馬の穴(けつ)に灸各(おの)おの七壮(ななひ)。奇効あらざることなし。
〔『鍼灸經驗方』瘡腫:「又方:初出三日前、用手第四指納口、侵津涎、洽涂腫上、晝夜不輟、使不乾、不過四五日、自安。方藥無逾於此也。癰疽毒腫初出三日前、急灸其腫觜三七壯、自安。千方萬藥、無逾於此。其初發、至小如粟、故人皆忽待至其發、毒必至死域、追悔莫及。若已過三日、即灸騎竹馬穴、各七壯、無不神效」。〕
○癰疽(ようそ)諸腫(ショシュ/もろもろのはれ)、或(あるい)は痒からず痛(いたま)ず、色青黒のものは、肉先(まづ)死す。終(つい)に救(すくう)べからず。其(その)初(はじ)起(め)に急に騎竹馬の穴(けつ)に灸すること各(おの)おの七壮(ななひ)。
〔『鍼灸經驗方』瘡腫:「癰疽諸腫、或不痒不痛、色青黑者、肉先死、終不救、其初發、急灸騎竹馬穴、各七壯」。〕
○癰疽発脊、皆日(ひ)を逐(お)ふて経絡に針(はり)を行(おこな)へば、自(おのづか)ら安(やす)し。然れ共、未(いまだ)能(よく)治(ぢ)すること能(あた)はず、竟(つい)に熟し膿(うむ)に至る。三稜針を以て赤暈(せきうん)の四(ぐる)畔(り)を刺すべし。而(しこう)して大針(おおはり)を以て腫物(しゅもつ)の頭(かしら)
下七オモテ
を裂(さき)破(やぶ)る。連日に悪肉(あくにく)尽(ことごと)く消(しょう)し、新肉已(すで)に生ずるなり。
〔『鍼灸經驗方』瘡腫:「背腫、亦行逐日鍼經絡、自安然、而未能善治、竟至熟膿、以大鍼決破裂、過赤暈之裔、即取大蟾六七箇作膾、用薑芥汁連食、惡肉消盡、而新肉已生、可以起死回生。背腫當處狀如粟米者、亂出於腫上、自作穿孔、以手指揉按、則自其各孔、膿汁現出、按休則其各孔膿汁還入、是為熟膿矣。以大鍼裂破、赤暈之裔。凡大小腫、不問日數、即灸騎竹馬穴七壯。無不效者」。〕

2017年9月2日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕24

廿一 中毒門 どくにあたる
△凡(およそ)物(もの)食して忽(たちま)ち痛(いたむ)ものは、物(もの)毒ありて胃化(か)することあたわず、故(ゆえ)に胃中に受(うけ)ずして、胃口に溜(とど)む。滞(とどこお)るときは、痛(いた)む。多くは吐(とし)て止(やむ)べし。又(また)物(もの)食して一二時(じ)を遇(すご)し、或(あるい)は一日(いちにち)を経て、臍下(さいか)臍傍(さいほう)にて疼(いたむ)ものは、物(もの)毒ありて胃化せず、腸胃に滞(とどま)り痛(いたむ)なり。
〔・遇:「過」の誤字。四オモテにもあり〕
下(くだ)して治(ぢ)すべし。針灸(しんきゅう)の能(よく)及ぶ所にあらず。又河豚(ふぐ)の毒に中(あたり)たるは、毒に酔(えい)たるなり。血(ち)を吐(はき)て既(すで)に已(すで)に死すといへども、必ず葬るべからず。四五日を経て蘓(よみがえ)るもの多くあり。譬(たとえ)ば酒に酔(よう)と同
三十一オモテ
じ。毒醒(さむ)れば、蘓生(そせい)すべし。又(また)少(すこし)く中(あたり)て、心中(しんぢゅう)快々(おうおう)とあしく、腹痛せば、急に胆礬(たんはん)の末(まつ)を湯(ゆ)に拌立(かきたて)呑(のめ)ば、其(その)侭(まま)吐逆して愈(いゆ)べし。瓜葶もよし。
〔・快:添えカナと意味から、「怏」のあやまり。『鍼道秘訣集』に「胃快(イクワイ)之針」あり。「大食傷の日(とき)、針(はり)先を上へ成(なし)、深く荒荒(あらあら)と捏(ひねる)。大法是の針にて食を吐き、胃の府くつろぎ快(こころよく)なるが故に胃快の針と号す」という。これは、もともと「胃怏(々)の針」(胃の不快感に対する針)であった可能性はないだろうか?/・「末」は「粉末」。/・膽礬:鉱物(硫酸塩鉱物)の一種。化学組成は硫酸銅(II)の5水和物(CuSO4・5H2O)であり、水によく溶ける。加熱すると結晶水を失って白色粉末になる。又名膽子礬、藍礬、立制石、石膽。內服刺激胃壁神經,反射性引起嘔吐,大量嘔吐可致脫水或休克,同時刺激胃腸黏膜,引起黏膜損害,造成穿孔。/・瓜葶:瓜蔕。本品為葫蘆科一年生草質藤本植物甜瓜 (Cucumis melo L.) 的果蒂。【功效】涌吐痰食,祛濕退黃。用於痰熱鬱于胸中及宿食停滯于胃所致的多種病證。瓜蒂味苦涌泄,性寒泄熱,具涌吐熱病、宿食之功。治病熱鬱于胸中而為癲癇發狂,或喉痹喘息者,可單用研末吞服取吐,小豆為末,香豉煎湯送服,如瓜蒂散。 《本經》:「咳逆上氣,及食諸果,病在胸腹中,皆吐下之睜」。〕
○食毒、心下(しんか)に滞(とどこお)りて疼(いた)痛(み)、或(あるい)は悶(もん)し苦(くるし)むには、幽門・通谷の辺(へん)より針(はり)して、逆(さかさ)まに上(うえ)へ鳩尾に向(むけ)刺(さす)べし。忽(たちま)ち吐(と)す。吐物(とぶつ)尽(つき)て治(ぢ)す。
△予(よ)先年阿波(あわ)の州(くに)に遊んで、河豚(ふぐ)の毒に中(あた)りて已に死(し)たる人(ひと)を見るに、既に死せり。針灸(しんきゅう)更に駮(しる)しなく、亶中・湧泉・神闕、何(なに)の応ずることか有(あら)ん。況(いわん)乎(や)湯(くす)液(り)の咽(のんど)に下(くたす)べき手術なし。親属相(あい)集(あつま)りて葬(ほうむり)を談ず。一日一夜(や)を経て、遂に棺(かん)に斂(おさ)め框(ひつぎ)を曳(ひく)に至(いたり)て何(なに)か頭(こうべ)微(すこ)しく顫(うごく)を見る。驚(おどろき)て、予(よ)
三十一ウラ
をして胗(しん)せしむ。乃ち心下(しんか)微(び)陽(よう)を覚(おぼ)ふのみ。然(しかれ)ども手(しゅ)散(さん)し口開(ひら)ひて、素(もと)のごとし。
〔・死(し)たる:「死(しし)たる」か?/・駮:「験」か「効(效)」に作るべし。〕
〔(宋)楊士瀛撰『仁齋直指方論』卷之三 諸風・風論:「至若口開手散,瀉血遺尿,眼合不開,汗出不流,吐沫氣粗,聲如鼾睡,面緋面黑,發直頭搖,手足口鼻清冷,口噤而脈急數,皆為不治之證」。「散」は「撒」(放開、散放)の意。撒手:鬆手(手をゆるめる)、放開」。『古今醫統大全』卷之八 中風門・丹溪治法:「《脈訣》內言諸不治證︰口開手撒,眼合遺尿,吐沫直視,喉如鼾睡、肉脫筋痛、發直、搖頭上竄、面亦如妝、或頭面青黑,汗綴如珠,皆不治」。〕
かくて葬(かふむる)に忍(しのび)ざれは、更に一日を経(ふる)に心下(しんか)の微(び)陽(よう)竭(つき)ず、三日に至りて遂に蘓(よみがえる)べきことを得(え)たり。後(のち)これを語り、彼(かれ)を聞(きく)に、是(かく)のごときの類(るい)、間(まま)あり。中毒の軽きは両(りょう)三(に)日(ち)、重きは四五日を過ぎて生(しょう)を回(かえ)すもの多しと。豈(あに)卒(そつ)葬(そう)をなすべけんや。
〔・葬(かふむる):「ホふむる」とすべきであろう)〕

仮名読(よみ)十四(じゅうし)経(けい)治法(ちほう)上巻終

2017年9月1日金曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕23

二十 耳病(ニビョウ/みみのやまい)門
経に曰く、耳塞(ふさが)り噪(さわぐ)ものは、九竅(キュウキョウ/ここつのあな)通ぜざれはなり。心神(しんじん)最も竅(あな)に通ず。故(ゆえ)に心(しん)病(やむ)ときは、先(まつ)耳噪(さわい)で鳴り、遠声(エンセイ/とおくきく)聴(きく)ことあたはず。
〔・ここつのあな:「ここノつのあな」の省略であろう。〕
〔『鍼灸經驗方』耳部:耳者屬腎。左主氣,右主血。耳塞噪者,九竅不通。○又曰:心主竅,心氣通耳,氣通于腎。故心病,則耳噪而鳴,不能聽遠聲。〕
△或(あるい)は又(また)精虚して耳(みみ)聾(つぶ)れ鳴(な)あり、又(また)虚火逆(のぼ)り、痰気 耳の中に鬱(うつ)し、或(あるい)は閉(とぢ)、或(あるい)は鳴り、気鬱し、痞満(ヒマン/つかえ)し、
〔・鳴(な)あり:「鳴(なる)あり」の省略とも思えるが、「鳴(な)り」の誤りか。〕
二十九ウラ
痰盛(さかん)に咽(のど)の中(うち)快(こころ)よからぬあり。又(また)厚味(こうみ)を常に食し、胃火盛(さかん)にして、両(りょう)耳(に)聾(つぶる)もの、或(あるい)は瘡毒(そうどく)愈(いえ)て後(のち)、余毒(よどく)にて耳聾(みいしい)るあり。針灸(しんきゅう)の全く治(ぢ)すること能はずといへども、一二を載(の)す。
○耳鳴り、耳痛(いたみ)で響き、頭(かしら)にこたへ、或(あるい)は目(め)睡(ねふ)りて、輒(すなわ)ち神(しん)寢(いね)がたく、昼夜大(おおい)に苦しんで止(やま)ざるには、葦(あし)の筒(つつ)の長さ五寸ばかりなるを耳の孔(あな)に挿(さし)はさみ、偖(さて)索麪(そうめん)の粉(こ)を水に𩜍(ね)り、泥のごとくして、彼(かの)耳に挿入(さしいり)たる箇(つつ=筒)の四畔(ぐるり)を蜜封(ミツフウ/みつにてふたす)し、外(そと)に出(いで)たる筒(つつ/「厳密には竹+冂+古」と書いてある)の頭(かし)らに艾(もぐさ)を置き、灸すること七壮(ななひ)。左り痛(いたむ)ときは右に炷(すえ)、右若(も)し痛(いたむ)ときは左に炷(すゆ)べし。妙駮(みょうこう)あり。妙(みょう)。
〔・駮:音は「ハク」。意味もあわない(傳說中的猛獸。駁正、非難。矛盾、違逆。辯論、提出異議。顏色雜亂。雜亂)。三十一オモテに「駮(しる)し」とある。「験」または「效」の誤字であろう。〕
〔『鍼灸經驗方』耳部・耳痛耳鳴:「以葦筒長五寸切斷、一頭插耳孔、以泥糆密封于筒之四畔、而外出筒頭、安艾。灸七壯。左取右、右取左。又方:取蒼朮以四棱鍼銷、穿孔如竹筒。一如右葦筒法、灸三七壯。有大效」。〕
○耳鳴(みみなり)て遠く聴(きく)こと能(あた)はざるには、心兪(しんゆ)に三十
三十オモテ
壮(ひ)より五十壮(ひ)に至る。
〔『鍼灸經驗方』耳部・耳鳴不能聽遠:「心俞三十壯」。〕
○耳聾(みみしい)たるには、先(まづ)百会の穴(けつ)を刺し、次に中渚・後谿(こうけい)・下(しも)三里・合谷・腕骨・崑崙等(とう)に針(はり)を久しく留(とど)む。腎兪(しんゆ)に二七十四壮(ひ)より年(とし)に随(したがい)て壮(かず)を為(なす)に至る。
〔『鍼灸經驗方』耳部・耳聾:「先刺百會、次刺合谷・腕骨・中渚・後溪・下三里・絕骨・崑崙。並久留針。腎俞二七壯、至隨年、為壯」。〕
○五臓虚乏し、心神労(つか)役(れ)て、体(たい)羸(やせ)痩(やせ)て耳聾(みみしい)たるには、腎兪(じんゆ)に二十一壮。心兪(しんゆ)に三十壮。日(ひ)を遂(お)ふて治(ぢ)すべし。
〔『鍼灸經驗方』耳部・虛勞羸瘦耳聾:「腎俞三七壯。心俞三十壯」。〕
○諸(もろもろ)の虫(むし)、若し耳に入(いら)ば、藍(あい)の汁を一滴(イッテキ/ひとしづく)下(くだ)してよし。又は蔥(ひともじ)の汁を内(いる)るもよし。
〔・ひともじ:葱(ねぎ)の女房言葉。〕
○蚰蜒(げしげし?)の耳に入(いる)に塩少(すこし)ばかりを耳の内に搽(ひね)れば、即(すなわち)化(け)し水(みづ)となる。妙。
〔・蚰蜒(げしげし?):ふりがな不明。一字目に濁点があり、次に一字の繰り返し記号があり、つぎにその二字分繰り返し記号があるようにみえる。意味からするとナメクジのようだが、「蚰蜒」はムカデの一種。/・搽:敷、塗抹。/・搽:敷、塗抹。〕
○蜈蚣(むかで)耳に入(いる)には、鶏(にわとり)の肉を以て耳の辺(へん)に置(おけ)ば、自(おのづか)ら出(いづ)る。又猫の小便を灌(そそげ)ば、即ち出(いづ)る。猫の牙に生姜(しょうが)を摺(す)り付(つく)れは、小便、其(その)侭(よく)する
三十ウラ
するものなり。
〔・するする:「する」は重ねる必要はなかろう。/・儘(侭)は盡(尽)に同じ。〕
〔『外科大成』:卷三分治部下(小疵)・耳部:「蟲入耳者,以薑擦猫鼻,猫尿自出」。若干本文とは異なるが、ともかく猫の小便を得るには、ショウガが有効のようだ。〕

2017年8月30日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕22

十九 咽喉(インコウ/のど)門
二十八ウラ
△夫(それ)咽(いん)は物(もの)を嚥(のみ)、喉(こう)は気を候(うか)がふ。気喉・穀咽とは是也(これなり)。若し熱府の寒冷なる則(とき)は、咽門(のど)破れて声嘶(かる)るなり。
〔清 陳修園『醫學實在易』卷四 傷寒條 附引三條:「咽者、咽也,喉者、候也。咽接三脘以通胃,故以之咽物;喉通五臟以系肺,故以之候氣。氣喉,穀咽,皎然明白。《千金》謂︰喉嚨主通利水穀之道,咽門主通臟腑津液神氣,誤也。 喉以納氣,故曰喉主天氣,咽以納食,故曰咽主地氣」。
『備急千金要方』卷十二膽腑方・咽門論第三:「若臟熱則咽門閉而氣塞、若腑寒則咽門破而聲嘶」。
・「熱府」難解。風門(BL12)穴の別名ではなかろう。『備急千金要方』によれば、脱文あるを疑う。〕
○咽(の)喉(ど)腫(はれ)ずして、熱塞(ネツソク/ねつしふさぐ)し、呑(のみ)飲(もの)鼻(はな)より還(かえ)り出(いづ)るには、然谷・合谷、幷(ならび)に久しく針(はり)を留(とど)めて、即ち瀉(しゃす)べし。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・咽喉不腫而熱塞吞飲從鼻還出:「久不愈、然谷・合谷、并久留針、即瀉」。〕
○喉(のど)腫(はれ)て胸(むね)脇(わき)の下(した)、支(ささえ)満(みつ)るには、中渚・絶骨・内関・合谷・神門・尺沢、皆(みな)倶(とも)に針(はり)して効(こう)あり。
〔・胸脇支滿:病證名。指胸及脅肋部支撐(つっぱる/ささえる)脹滿。《素問·繆刺論》:“邪客於足少陰之絡,令人卒心痛,暴脹,胸脇支滿” 。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・喉痛胸脇支滿:「尺澤・太谿・神門・合谷・內關・中渚・絕骨」。〕
○単蛾(タンガ/かたじろ)には、天窓の穴(けつ)。頸(うなじ)の大筋(おおすじ)の前(まえ)、曲頰(まかりぼう)の端(は)し、陥(くぼか)なる中(なか)なり。針(はり)を以(もっ)て湥〔深〕く患(うれ)ふあたりの喉(のど)の内(うち)に刺(さす)こと一二寸ばかりに至る。暫(しばらく)して即ち出す。神効あり。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・單蛾:「天窗穴在頸大筋前曲頰端一陷中。以針深刺患邊一二寸許、至喉內當處、而後即出。旋使病人吞涎無碍神效」。
・單蛾:病證名。見《儒門事親》。《景岳全書》卷二十八:「喉蛾腫於一邊者為單蛾,此其形必圓突如珠」。詳乳蛾條。
・乳蛾:喉蛾。扁桃体炎。以咽喉兩側喉核(即顎扁桃體)紅腫疼痛,形似乳頭,狀如蠶蛾為主要症狀的喉病。發生於一側的稱單乳蛾,雙側的稱雙乳蛾。乳蛾多由外感風熱,侵襲於肺,上逆搏結於喉核;或平素過食辛辣炙煿之品,脾胃蘊熱,熱毒上攻喉核;或溫熱病後餘邪未清,藏府虛損,虛火上炎等引起。
・「かたじろ」:乳蛾では、時に白っぽい点があらわれるので、漢字で書けば「片白」であろう。 〕
○双(ソウ/りょう)蛾(が)には、天窓・尺沢・神門・下(しも)三里・太谿、幷(なら)びに針(はり)すべし。少商及び大(おお)拇(ゆび)の爪の甲(こう)の後(うしろ)根(ね)に
二十九オモテ
三稜針を刺(さす)こと三次(みたび)。若し病(やまい)急ならば、一日(いちじつ)に再び針(はり)す。大(おおい)に妙(みょう)。
〔『鍼灸經驗方』咽喉・雙蛾:「天窗・尺澤・神門・下三里・大谿、并針。少商及大拇指爪甲後根、排刺三針。○如病急、一日再針。神效」。〕
○一切の実火にて咽(のど)腫れ痛(いたむ)ときは、其(その)疼(いたむ)処(ところ)に針(はり)して幾(いく)たびも瀉(しゃ)すべし。
○喉痺腫(はれ)疼(いたみ)て言(もの)語(いう)ことならざるには、三稜針にて挑(かか)げ破り、血(ち)を出(いだ)すべし。腫(はるれ)は破り、痛(いた)まは針(はり)して数々(しばしば)血(ち)を取(とる)べし。

2017年8月29日火曜日

ハーバード燕京図書館の漢籍デジタルコレクション

医学綱目
http://listview.lib.harvard.edu/lists/drs-54069831

情報源:

http://u-parl.lib.u-tokyo.ac.jp/archives/japanese/world-library38

あとをたどっていくと……
http://beta.hollis.harvard.edu/primo_library/libweb/action/search.do?ct=facet&fctN=facet_library&fctV=HVD_NET&rfnGrp=1&rfnGrpCounter=1&frbg=&vl(117501629UI1)=all_items&&indx=1&fn=search&vl(51615747UI0)=any&vl(1UI0)=contains&dscnt=0&scp.scps=scope%3A(HVD_FGDC)%2Cscope%3A(HVD)%2Cscope%3A(HVD_VIA)%2Cprimo_central_multiple_fe&tb=t&vid=HVD&mode=Basic&ct=search&srt=rank&tab=everything&dum=true&vl(freeText0)=%20Harvard-Yenching%20Library%20Chinese%20Rare%20Books%20Digitization%20Project-Philosophy&dstmp=1453231500980

醫學綱目
http://listview.lib.harvard.edu/lists/drs-54069831

エラーになって,見られない時があります。

2017年8月28日月曜日

『黄帝素問霊枢経』叙

越人得其一二而述難經皇甫謐次而為甲乙

http://www.human-world.co.jp/newsitem.php?id=1376
『ナラティブ霊枢』訳: 秦越人はその内のいくつかを利用して『難経』を書き、皇甫謐は次に『甲乙経』を作った
訳者は「次」を副詞と捉えたようだ。
陳璧琉等編著『霊枢経白話解』には,叙の部分の現代語訳はないので,訳者が独自に解釈したのだろう。

ちなみに東洋学術出版社【現代語訳】は、「皇甫謐はこれを編次して『甲乙経』を作った」と訳している。

2017年8月26日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕21

十八 口歯門 幷(ならび)に唇舌(シンゼツ/くちびるした)
経に曰(いわく)く、脾気は口(くち)に通ず。口臭きは、内熱(ないねつ)口乾き、或(あるい)は瘡(くさ)を生ずるは、脾熱に属(ぞく)す、と。唇舌(しんぜつ)・牙歯(げし)倶(とも)に其因〔ソノヨリ〕て病(やむ)ところ異(ことな)りといへども、脾熱(ひねつ)・胃鬱(いうつ)に属するもの居(おお)多(し)。故(ゆえ)に部門を頒(わけ)ざるなり。
〔・「曰(いわく)く」は、原文のまま。『靈樞』脈度(17):「脾氣通于口。脾和則口能知五穀矣」。/・瘡(くさ):皮膚病の総称。ただれ・うみをもった水ぶくれなど。特に、胎毒・梅毒。かさ。/・居多:多数を占める。〕
○歯痛(はいたむ)には、疼(いた)痛(む)歯に灸七(なな)壮(ひ)。即効(そくこう)あり。然(しか)れども慎しんで灸を加(くわう)ことなかれ。必(かならす)附骨疽を患(うれう)なり。
〔『鍼灸經驗方』齒部・上下齒痛・又方:「灸痛齒、七壯。慎勿加灸、必患附骨疽」。〕
〔附骨疽:附骨疽者、以其無破、附骨成膿、故名附骨疽。喜著大節解中、丈夫・產婦喜著䏶...凡人身體患熱、當風取涼、風入骨解中、風熱相摶、便成附骨疽。其候嗜眠沉重、忽忽耳鳴。又秋月露臥為冷所折、風熱伏結而作此疾。急者熱多風少、緩者風多熱少(中國歷代文獻精粹大典·下 )。/疽之生於筋骨部位的稱為“附骨疽”。多因風寒濕阻於筋骨、氣血凝滯而成(中醫名詞術語選釋)。〕
○上歯(うわば)の疼(いたむ)には、下(しも)三里に灸七(なな)壮(ひ)。効(こう)あり。
〔『鍼灸經驗方』齒部・上齒痛:「下三里、灸七壯」。〕
○下歯(したば)の痛(いたみ)には、合谷に灸七(なな)壮(ひ)。奇効(きこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』齒部・下齒痛:「合谷灸、七壯」。〕
○又(また)強く歯(は)いたむには、急に丁子(ちょうじ)・甘艸(かんぞう)の煎汁(せんじしる)を噉(ふく)んで即効(そくこう)あり。又(また)方(ほう):麝香を痛む歯(は)に附(つけ)て妙効(みょうこう)。
〔麝香:雄麝臍部麝腺的分泌物。黃褐色或暗赤色,香味甚烈,乾燥後可製成香料,亦可入藥。〕
○虫喰(むしくい)歯にて瘡(くさ)を生じ、腐(くさ)れ爛(ただ)るるものには、
二十八オモテ
承醤(じょうしょう)に灸すること七(なな)壮(ひ)。妙(みょう)なり。
〔承醤:承漿。〕
○口噤(くちくいし)ばり、牙車(はぼね)開(ひらか)ざるには、上関・頰車に五十壮(ひ)。神効(しんこう)あり。
○重舌(ちょうぜつ)舌強(したこわ)ばり、食すること能はざるには、神門・隠白・三陰交、交々(かわるかわる)針灸(しんきゅう)して効(こう)を斂(おさ)む。
〔『鍼灸經驗方』口部・重舌舌裂舌強:「舌者、心之竅也。神門・隱白・三陰交」。〕
〔・重舌:舌下靜脈鬱血而腫脹,如多生一小舌,或與舌體連貫成花狀、伴有頭項痛、發熱等,日久可潰爛。/①即舌下粘膜炎症、腫脹,突起狀若小舌,由心脾濕熱,熱重於濕所致。②舌下腺囊腫,隆起突出如小舌。為心脾濕熱,濕重子熱所致。二者均位於舌下,與舌相疊,故稱“重舌”。〕
○口中(こうちゅう)血(ち)出(いづ)るには、上星(じょうしょう)に五十壮(ひ)。風府に針(はり)三部(さんぶ)。
〔『鍼灸經驗方』口部・口中出血不止:「上星五十壯」。〕
○口中(こうちゅう)・舌(した)ともに白(しろく)して、娥口(かこう)のごとく瘡(くさ)を生ずるは、大抵血熱(けつねつ)の致(いた)すところなり。承漿(じょうしょう)・営宮(えいきゅう)を治(ぢ)すべし。或(あるい)は桑(くわ)の汁(しる)を塗りし、忽(たちま)ち治(ぢ)すべし。
〔・「塗りし」は「塗りて」か。〕
〔・娥口:『重訂囊秘喉書』蛾口:「一名雪口。初生月內小兒,滿口舌上白屑,如蛾口樣者,故名之。形如腐衣,後變黃色,轉如黑色者,不治。若口如魚口,或作鴉聲者,難治。此心脾積熱,又名迷口」。〕
〔・営宮:未詳。『鍼灸經驗方』別穴になし。字形と口中の瘡からすると、労宮の誤りか。『鍼灸經驗方』齒痛・齒齗腐:「合谷・中脘・下三里、幷針。承漿七壯、勞宮一壯」。〕
○口中、膠(にかわ)のことく粘(ねば)るは、大谿(たいけい)を治(ぢ)すべし。
〔『鍼灸經驗方』口部・口中如膠:「大谿」。〕
○唇(くちびる)乾(かわ)燥(き)さけて、繭(かいこ)のごとくなるは、多く陰虚火動(かどう)に因(よ)る。迎香(けいこう)・虎口(ここう)に灸すべし。
〔虎口:『鍼灸甲乙經』卷三:「合谷、一名虎口」。〕

2017年8月24日木曜日

『太素』卷十七 冒頭

『太素』に欠けている部分の『素問』五藏生成篇
「青如草茲者死。
黄如枳實者死。
黑如炲者死。
赤如衃血者死。
白如枯骨者死。」

『甲乙経』卷一・五色第十五と『千金翼方』卷二十五・診氣色法第一:「黑如炲煤者死」。
・森立之『素問攷注』:据文例,作「炲煤」者是。
(他の色から考えれば,黑色も「如」字の次には二字の語がくるはずである。)

・段玉裁『説文解字注』:(炱) 灰炱煤也。通俗文曰:積煙曰炱煤。玉篇曰:炱煤、煙塵也。廣韵曰:炱煤、灰入屋也。从火。台聲。徒哀切。一部。按本部無煤。土部有塺字。玉篇炱煤二文相接。

・森立之『素問攷注』:据此,則「炲煤」二字熟語,出于漢人。蓋古只云炲,云煤。漢已後云「炲煤」歟。

楊上善注(新新校正の句讀)
「滋,青之惡色也。炲,音苔,謂草烟栖聚炲煤,黒之惡色也。衃,凝惡之血也。枯骨,白色之惡色也」。

『太素』の経文も『甲乙経』と同じく「炲煤」に作っていたのでないか?
そうだとすると,楊注は:
「滋,青之惡色也。炲,音苔,謂草烟栖聚。炲煤,黒之惡色也。衃,凝惡之血也。枯骨,白色之惡色也」。
と句切るのがいいのではないか?

2017年8月23日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕20

十七 眼目(がんもく)門 めのやまひ
△夫(それ)眼目は血(けつ)を得て能(よく)視(みる)こと明(あきらか)なり。血の眼を養(やしなう)に大(おおい)に過(すぐ)ることあるか、又は足(たら)ぬことあるときは、眼病(がんひょう)となる。虚(きょ)眼(がん)は精(みづ)耗(へり)て眼(め)の養精(ちみづ)不足して病(やめ)るなり。針(しん)術、効(こう) 尤(もつとも)多し。
○眼眶(まぶた)の上下に青き黒き色あるは、尺沢に針(はり)して
二十七ウラ
血(ち)を出(いだ)せば神効。
○眼(め)の睛(ひとみ)痛(いた)んで涙(なみだ)なきは、中脘・内庭に久しく針(はり)を留(とどめ)て、即(すなわち)瀉すべし。
○瞳子(ひとみ)の突出(つきいだ)したるには、湧泉・然谷・太陽・太衝・合谷・百会・上髎・次髎・中髎・肝兪(かんゆ)・腎兪(じんゆ)に針(はり)して神効(しんこう)あり。
○大人(たいじん)小児(しょうに)の雀目(とりめ)には、肝兪(かんゆ)に灸七(なな)壮(ひ)。次に手の拇指(おやゆび)の甲(こう)の後(うし)ろ、第一(たいいち)の椎(ふし)の横紋(よこすぢ)の頭(ほと)り、白き肉の際(あいだ)に灸一(ひと)壮(ひ)。即効(そくこう)あり。
○風目(かざめ)にて眶(まぶた)の爛(ただれ)たるには、太陽・尺沢に針(はり)して血(ち)を棄(すつ)ること糞(ふん)のごとくすれは、神効あり。
〔かざめ:風目:『病名彙解』:風眼(ふうがん)「病源に云、風熱の気、目を傷(やぶ)り、眥瞼(シケン/まなじりまぶた)皆赤くただれ、風を見ればいよいよ甚し。これを風眼と云り」。かさめ(瘡目)であれば、梅毒性の眼炎。〕
○目に白き翳(もの)のかかりたるには、先(まづ)その白き翳膜(ものの)出(いづ)る処(ところ)を看(み)わけ、経(けい)に随(いたが)ひ日(ひ)を遂(お)ふて気を通ずるときは、神効(しんこう)あらざることなし。

2017年8月22日火曜日

FutureLearn

現在,慶應大学斯道文庫の先生方が日本における書物の歴史について,公開オンライン講座で配信しています。
はじめに堀川貴司先生の英語によるイントロダクションがありますが,あとは日本語です(英語字幕付き)。
無料ですが,講座に登録する必要あり。
https://www.futurelearn.com/courses/japanese-rare-books-sino/

仮名読十四経治方 〔翻字〕19

十六 脚気門
脚気の論は、孫真人尽(つく)せり。外臺(げだい)に曰く、飲食の毒(どく)自然(しぜん)に丹田に滞りて致すところなり、と。
△予(よ) 是を以(もっ)て為(おも)次(えら)く、独(ひと)り脚気の繁華(はんか)に多きは、厚味(こうみ)の物(もの)の毒するがゆへなり。穀醬(こくしょう)塩噌(えんそ)の類(たぐ)ひ都(すべ)て美味に制(せい)したれば、其(その)味(あぢ)厚くして、胃中に入(い)り、銷散し易(やす)からず。素(もと)より動作(トウサ/はたらき)少なき人(ひと)に多きは、厚味(こうみ) 胃中に鬱濛(うつもう)して、食毒 自然(しぜん)に積み、動気(どうき)
〔原文は「是」字に「よ」とふりがながある。本来は「予」のわきにあるべきである。また「為次」にある「おもへらく」という振り仮名、未詳。「以為」は「おもへらく」と訓ずる。「次」と「以」のくずし字は似ているので、「次」は「以」の誤字ではないかと疑う。
・穀醬塩噌:醤(ひしお):ペースト状の調味料、あるいは味の濃い食品の総称である。日本では食品を麹と食塩によって発酵させて製造した調味料または食品と認識される。現代日本語で醤(ひしお)と呼ぶ場合、液状の調味料のみを指すことが多い。なお「醤」の字体は印刷標準字体では「醬」つまり上部が將であり、「醤」は簡易慣用字体である。wikipedia./穀醤(こくしょう):大豆などの穀類を原料とする発酵調味料。日本のものとしては、味噌や醤油がこれに該当する。wikipedia./塩噌:塩と味噌。
・濛:こもる。〕
二十三~二十六オモテ
〔また版木の丁付けをまちがえたようです。〕
を生じ、疾(やまい)となるなり。因(よっ)て来するところ、胃鬱(いうつ)にあり。故(ゆえ)に浮腫するもの、十(じゅう)に七八。治法(ちほう)は、浮腫の有無(うむ)にかかわらずして、麦飯(ばくはん)・赤(あ)小(づ)豆(き)を食せしめ、塩(しお)を禁じ、飽食(ほうしょく)を禁じ、胃力(いりょく)を弱らしむを、一大(いちだい)要領(ようれい)とす。麻黄・独活・羗活・防已・石膏(せきこう)・大黄の類方(るいほう)を選(えら)み、方証(ほうしょう)相照(あいてら)して、汗(あせ)を多く取り、胃気を踈(すか)し、水道を利するを肝要とす。臍下(さいか)の動気止(やむ)ときは、病(やまい)治(ぢ)したるなり。若(も)し汗多(かんた)亡陽(ほうよう)せば、医の失(あやま)りなり。汗多(かんた)亡陽(ぼうよう)を恐れて汗多(かんた)せざるものは、下医(へたい)なり。
〔脚気には,麦飯がいいといっています,林太郎さん〕
○中脘に針(はり)して胃気を洩泄(もらす)べし。風市(ふぢ)・伏兔・膝眼・三里・上廉(しょうれん)・下廉・三陰交・絶骨、皆(みな)灸すべし。腰骨(ようこつ)より上(うえ)は灸を禁ず。
○鶴膝風(かくしつふう)
二十三~二十六ウラ
には、中脘・委中・風池等に針(はり)す。効(こう)あり。
〔鶴膝風:病名。指病後膝關節腫大變形,股脛變細,形如鶴膝者。亦名鶴游風、游膝風、鶴節、膝眼風、膝瘍、鼓槌風等。見《外科心法》卷五。該病多由經絡氣血虧損,風邪外襲,陰寒凝滯而成。病初多見膝關節疼痛微腫,步履不便,並伴見形寒發熱等全身症状;繼之膝關節紅腫焮熱,或色白漫腫,疼痛難忍,日久關節腔內積液腫脹,股脛變細,潰後膿出如漿,或流粘性黃液,癒合緩慢。本病類似膝關節結核及類風濕性關節炎。/中醫指結核性關節炎。患者膝關節腫大,象仙鶴的膝部。以膝關節腫大疼痛,而股脛的肌肉消瘦為特徵,形如鶴膝,故名鶴膝風。病由腎陰虧損,寒濕侵於下肢、流注關飾所致。大多由「歷節風」發展而成。〕
○足の掌(うら)の痛(いたみ)には、崑崙に針(はり)す。
○脚(あし)ところところ腫(はれ)起(おこ)りて大銭(たいせん)のごとく、或(あるい)は長く腫(はれ)て熱し痛(いた)み、或(あるい)は流注(りゅうちゅう)して処(ところ)を移(かえ)、年(とし)久しく治(ぢ)せず、膿(うみ)ざるは、瘀血の経絡(けいらく)に溢れ流れたるなり。其(その)血絡(けつらく)を刺して血(ち)を取(とり)捨(すつ)ること、糞(ふん)のごとく。神効あり。

2017年8月18日金曜日

沈澍农氏の新刊紹介

敦煌吐魯番医薬文献新輯校(沈澍农,高等教育出版社,2016.12)

内容概要
http://www.shanghaibook.co.jp/book4/551159086.htm

この本は,昨年南京に行く前にすでに出版予定が公表されていたもので,南京で沈先生に「出版はまだですか?」と尋ねたら,「もうすぐです」と回答をいただいたものです。

3日連続の新刊紹介で,気になる本が一気に出版された,という感じです。

2017年8月17日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕18

十五 腹脇(ふくきょう)門
△夫(それ)脇腹(わきはら)の痛(いたみ)患(うれう)るや、種々(しゅじゅ)あり。実(じつ)痛(いたむ)のものは、腹(はら)硬満(コウマン/かたく)にして、按(お)して疼(いたむ)ぞ。死血(しけつ)は、脇下(きょうか)に引き痛(いた)む。声(こえ)なせば痰(たん)、乍(たちま)ち痛(いた)み乍(たちま)ち止〔ヤム〕は熱、綿々(めんめん)として増減なきは寒なり。宿食(しゅくしょく)は大(おおい)に腹痛(ふくつう)すれども、瀉して後(のち)に痛(いた)み減(げん)ず。虫(むし)積(しゃく)は痛(いたみ)
二十二オモテ
甚(はなはだ)しといへども、食するときは則(すなわち)止(や)む。飢(うゆる)ときは痛む。左(ひだり)の脇(わき)に塊(かたまり)ありて、痛(いた)む処(ところ)を移(うつさ)ざるは死血、右(み)脇(ぎ)は塊(かたまり)あるとも多くは食積(しょくしゃく)なり。治法(ちほう)は一概(いちがい)しかたしといへども、一二を載(のす)ぞ。
○胃脘痛(いたむ)には、肝兪(かんのゆ)・脾兪(ひのゆ)・下(しも)三里・胸兪(きょうのゆ)・太冲(たいしょう)・独陰、両乳(りょうち)の下(した)各々(おのおの)一寸に灸二十一壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:胃脘痛:「肝兪・脾兪・下三里・膈兪・大冲・獨陰・兩乳下各一寸、灸二十壯」。したがって、「胸兪」は「膈兪」の誤り。灸壮については、偶数である『鍼灸経験方』の方に、問題があるか。〕
○冷物(れいぶつ)と熱物(ねつぶつ)と調和(チョウワ/ととのわず)せずして、臍(へそ)を遶(めぐ)り、疼(いたみ)絞(しぶ)るには、天枢に一百壮。気海に二十一壮。即効(そくこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:冷熱不調繞臍攻注疼痛:「氣海、三七壯。天樞、百壯。大腸兪、三壯。大谿、三壯」。「ととのわず」は「調和せず」の訓と理解するのだろう。「しぶる」は「しぼる」のあやまりか。〕
○腹(はら)大(おおい)に脹(は)り堅くして身悶(みもだえ)し、臍(へそ)及び小肚(こばら)筋(すぢ)ばり堅きは、水分・中極に各々(おのおの)百壮(ひ)。腎兪(じんのゆ)に年の壮。太冲(たいしょう)・三陰交・中脘等(とう)に毫鍼(コウシン/ほそきはり)すべし。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:腹脹堅小腹亦堅:「水分・中極、各百壯。三焦兪・膈兪、各三壯。腎兪以年壯。大谿・大冲・三陰交・脾兪・中脘、針」。〕
○腹脇(ふくきょう)手足(てあし)脊(せなか)、諸処(しょしょ)へ流注(リュウチュウ/ながれそそぐ)して、其(その)痛(いたみ)刺(さす)がごとく、忍(しのぶ)べからざるあり。皆(みな)瘀血の清血(せいけつ)に誘引(さそわれ)て
二十二ウラ
流れ注ぎ、暫く所(ところ)を定(さだめ)て、輙(すなわ)ち移り更(かわ)るなり。宜しく三稜針を用(もちい)て、其(その)痛む所々(ところところ)に随(したがい)て刺(さす)こと四五穴。血(ち)を取(とり)捨(すつ)ること糞(ふん)のごとくすべし。神効あり。
〔『鍼灸經驗方』腹脇:腹脇及諸處流注刺痛不可忍:「用體長缸、而缸口以手三指容入、乃能毒也。隨其痛、每一處以三稜針刺四五穴、幷入缸口內、付缸灸七次、隨痛隨針、亦付缸灸累次、神效」。〕

黄龙祥氏の新書(旧書)の刊行の紹介

上海学術書店の新書特価目録(2017年8月続報)に,次の本を見つけました。

『针灸典籍考』(黄龙祥、北京科学技术出版社、201706、精装、756页)

概要と目次
http://www.shanghaibook.co.jp/book4/551161776.htm

 これはもともと十数年前に出版が予定されていた《针灸古典聚珍》叢書中の一部で,当時の書名は《针灸古典聚珍书目考》でした。
 黄氏によると,様々な原因でこの叢書は未だ出版されていないものの,読者から出版の要望が強く,まず当書だけ単独出版することになり,今回内容の一部を改編したということです。

2017年8月16日水曜日

张建斌氏の書籍紹介


 昨年度の南京での学術研討会(シンポジウム)〔季刊『内経』では「検討会」に誤り〕で,発表された建斌氏の本を入手しました。
発表内容は,季刊『内経』No.205に翻訳が掲載されていますが,本書はこの内容も含んでいます。
ちなみに私は,いつものように積読しています。

经络千古裂(用的断代研究)》(人民生出版社,2017.04出版,292ページ)
・概要と目次

2017年8月15日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕17

十四 心痛門 幷〔ナラビ〕に胸痛(むねいたむ)
△心痛、多くは気鬱に因(より)て熱をなし、痛(いたみ)をなす。心真痛の如きは、針灸(しんきゅう)・薬兕(やくお)の能(よく)治(ぢ)すべき所に非(あら)ず。其(その)発する
二十オモテ
なり。心(む)胸(ね)卒(にわか)に疼痛(トウツウ/いたみいたみ)して悶(もた)へ苦しみ、或(あるい)は汗大(おおい)に出(いで)、或(あるい)は手足の爪(つめ)の甲(こう)倶(とも)に皆(みな)青色(あおく)、其急なること夕(ゆうべ)に発(はっ)して朝(あした)に死す。之(これ)に類する症(しょう)あり。針灸(しんきゅう)薬(くすり)の及ぶ所なれば、医の豫(あづか)るところなり。其(その)一二(いちに)を知(しら)して初心に便(たより)す。
〔・心真痛:下文「真の心痛」。『靈樞』厥病(24):「真心痛.手足青至節.心痛甚.旦發夕死.夕發旦死」。/・兕:おそらく「咒」(「呪」の異体字)の誤り。/・其發するなり:おそらく「其發也」で、「其の發するヤ」と訓じて、下文につづけるべきであろう。/・初心に便す:初心者に便宜をはかる。〕
○心(しん)微(すこ)しく痛(いたん)で汗出(いで)苦しきあり。若(もし)早く治(ち)せざれは、真(しん)の心痛にいたる。倶(とも)に急に三稜針を用(もっ)て、神門・列缺・間使・大敦(たいとん)を刺(さし)て多く血(ち)を取(とり)棄(すて)べし。
○胸(むね)痛んで、冷(つめた)き酸(す)き水(みづ)を吐くことあり。尾窮骨(びきゅうこつ)に灸五十壮(ひ)。足の大指(おおゆび)の内(うちうち)、初(はじめ)の節(ふし)の横紋(よこすぢ)の中(なか)に三壮(ひ)。即効あり。
○痰(たん)厥(のぼ)せて胸(むね)痛(いたむ)ことあり。或(あるい)は胸(むね)腹(はら)ともに痛(いたむ)には、脊(せ)の第三椎(ずい)の下(しも)、四の椎(ずい)の
二十ウラ
上(うえ)に近きを量り、脊(せ)骨(こつ)の上(うえ)より両傍(りょうぼう)へ各々(おのおの)四分に灸(きゅう)二十一壮(ひ)より五十壮(ひ)に至る。立(たち)ところに愈(いゆ)。奇〻(きき)妙〻(みょうみょう)の神効あり。
○年(とし)久しく胸(むね)痛(いたむ)には、足(あし)の拇指(あうゆび=おーゆび)の爪(つめ)の甲(こう)の根もとの当中(まんなか)に灸七壮(ひ)。男(おとこ)は左(ひだり)、女(おんな)は右(みぎ)り。章門に七壮(ひ)。太冲(たいしょう)・独陰に五壮(ひ)。立(たち)どころに愈(いゆ)。もし或(あるい)は愈(いえ)ざれば、更(さら)に焼(やく)べし。
○腹中(ふくちゅう)に陽気微(うす)くして、冷気(れいき)、心(しん)を衝(つい)て痛め、或(あるい)は痰沫(だんまつ)を嘔(おう)し、大便(たいべん)頻(しき)りに利せんとして、快(こころよ)く通(つう)せず、或(あるい)は腹中(ふくちゅう)倶(とも)に痛(いたむ)には、臍(へそ)の下六寸、両傍(りょうほう)の𤄃(ひら)き各々(おのおの)一寸づつに灸すること二十一壮(ひ)。
〔・臍の下六寸:骨度法では臍(神闕)から曲骨までを五寸とする。〕
○又方(ほう)、蝋縄(もとゆい)を以(も)て病人の口の両角(りょうすみ)を一寸となし、夫(それ)を三摺(■けおり)になし、三角(さんかく)とし、一角(いっかく)を以(もっ)て
二十一オモテ
臍(へそ)の心(しん)に置き、両角(りょうすみ)は臍(へそ)の下(しも)に垂(たら)しめ、両傍(りょうほう)の端(はし)に点(しる)記(し)を附(つけ)て、灸二十一壮(ひ)。神効あり。立(たち)どころに差(いゆ)るなり。
〔・もとゆい:元結い。髻(もとどり)を結ぶ糸。/・摺:おりたたむ。「三摺」は、三つに折るという意味であろうが、はじめのカナ(■)が読めず。どなたか、ご教示下さい。/・心:芯。中心。〕
△是(この)病(やまい)急に救(すくわ)ざれは、三四日の中(うち)に死す。大病(たいびょう)の後(のち)、或(あるい)は老人などに是(この)症(しょう)を発せば、一両日(いちりょうにち)に死す。急に丁子(ちょうじ)・乾薑(かんきょう)の類(るい)を服さしめて後(のち)、艾火(がいか)を施すべし。必ず針(はり)を刺(さす)ことなかれ。針(はり)に補瀉ありといへども、実は瀉に効(こう)あり。瀉するときは気を脱す。予(よ)常に門生(もんせい)に示して針(はり)を禁ず。針(はり)もし腹内(ふくない)に下(くだ)りて、痛(いたみ)忽(たちまち)止(やむ)ことあり。忽(たちまち)死す。恐(おそ)るべし。丁子(ちょうじ)・乾薑(かんきょう)・茴香(ういきょう)の咽(の)とに下(くだ)りて回陽(かいよう)するなり。甚(はなはだ)速(すみや)かなり。
○心(むね)痛(いた)んで涎(よだ)れ沫(あわ)を嘔(えづ)き吐(はく)こと数日(すじつ)にして愈(いえ)ざれば、必ず三(みつ)の
二十一ウラ
虫(むし)あり。是(この)虫を取(と)れは、涎(よだれ)の多きも止(やみ)、心(むね)の痛(いたみ)も止(やむ)なり。上脘に灸すること七壮(ひ)。十二日にして治(ぢ)す。三虫(さんちゅう)を取(とる)の法、口授(くじゅ)。
〔・三つの虫:三虫。三尸のことであろう。〕
○胸中(きょうちゅう)へ瘀血逆(のぼ)り滞り痛(いたむ)あり。胗候(みよう)、口伝(くでん)。下(しも)三里・内関・神門・太淵に鍼(はり)して即効(そくこう)あり。
○心(むな)痛(いた)んで口禁(クチキン/くいしばる)ずるには、期門に三壮(みひ)。陰卵(きんたま)の下(した)、十字の紋(すぢ)に五壮(いつひ)。

壬の声

「壬」は漢音でジン,呉音でニンです。『漢辞海』にはそう載ってます。
ところが,小篆では2種類あって,ジンとテイだと指摘されました。いわれてみると廷の声符としてはテイでないと困る。

そこで『説文解字』をみてみると,「壬,善也。从人士。士,事也。一曰象物出地挺生也。」と有りました。段玉裁は壬挺疊韵といってますから,多分,あとの一曰がテイなんでしょう。もともと別の字なのかも知れない。
廷孔

仮名読十四経治方 〔翻字〕16

十三 頭痛(づつう)門
△凡(およそ)頭痛を治(ぢ)せんと欲(ほつ)せば、手足の諸(しょ)陽経を刺(さす)べし。針(はり)は気を引(ひく)に功(こう)あればなり。譬(たとえ)ば湯(ゆ)の沸(わく)を止(とど)むるは、釜下(かまのした)の薪(たきぎ)を抽(ひく)がごとく。然れども痰厥(たんのぼせ)の頭痛のごときは、気を引(ひく)ことあたはず。必ず頭部の穴(けつ)に灸すべし。即ち能(よく)痊(いゆ)るものなり。何(いか)んとなれば、艾(もぐさ)の性(せい)は熱するものゆゑ、之(これ)に灸するときは、其(その)熱をして発散せしむなり。或(あるい)は寒(かん)ずるものに灸を施すときは、其(その)寒(かん)をして温め和(か)すればなり。又(また)諸(しょ)陽経を瀉せんと欲(ほっ)する則(とき)は、先(まづ)百会の穴(けつ)に針(はり)して、必ず諸(しょ)陽
十六ウラ~十九
の熱気を引(ひき)て下(くだる)に行〔イカ〕しむものなり。譬(たとえ)ば硯滴(みづいれ)の上孔(うわあな)を開(ひらく)がごとし。然(しかれ)ども熱極めて、気を下(くだ)すこと能(あたわ)ざるものあり。即ち三稜針を以て其〔ソノ〕頭部の血絡(ケツラク/ちすぢ)を刺して血(ち)を棄(すつ)ること、糞(ふん)のごとくすれば、神効(しんこう)あり。
〔硯滴:すずりの水入れ。水差し。通常、そそぎ穴と空気穴(上孔)の二穴あり。〕
△頭痛、其〔ソノ〕因〔ヨッorヨリ〕て来するところ多端(タタン/はしおおく)なれば、一一挙(あげ)て諭(さと)しがたし。大抵は、承満・梁門・関門を幾(いく)たびも針(はり)し瀉して、効(こう)あり。唯(たた)其(その)頭痛するところの経を考(かんが)へ、前後左右に随(したが)ふて、手足の経穴を刺(さす)べし。

2017年8月14日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕15

十五オモテ
十二 淋病門 及び遺尿(よばり) 遺精(せいのもる) 白濁(おりもの)
〔よばり:夜尿。「ばり」は「ゆばり(尿)」の略。〕
△淋病(りんびょう)は、五臓(ごそう)の不足より、膀胱(ぼうこう)に熱を貯(たくわ)ふて致(いた)すと。湿毒(しつねつ)の熱(ねつ)蒸(むし)来(きた)りて、水道(すいどう)通(つう)ぜす、淋瀝(しただり)て出(いて)ず。或(あるい)は尿(しょう)水(べん)、豆(まめ)の汁(しる)のごときあり。或(あるい)は沙石(シャセキ/すないし)、或(あるい)は冷(ひえ)淋(しただ)りて、膏(み)蜜(つ)のごとく、或(あるい)は熱し淋(しただ)り、又は血出(いづる)あり。
○絶骨・太冲(たいしょう)・気海・中極に百壮(ひ)。曲骨には七壮(ひ)より二十一壮(ひ)に至る。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・五淋:「復溜・絕骨・太冲・氣海・中極、百壯。曲骨、在橫骨上、毛際陷中。七壯至七七壯」。
・「湿毒(しつねつ)」は,「湿毒(しつどく)」のあやまりだろうか。/・しただる:滴る。下に垂れる。〕
○老人、気虚(きょ)して淋病を患(わずら)ふには、脊(せなか)第七(しち)九(く)の椎(すい)の𤄃(ひら)き一寸半、各(おの)おの二十一壮(ひ)。
○小便赤く渋(しただ)り、閉(とぢ)て通ぜす、及び熱淋・血淋、或(あるい)は酒(さけ)の後(のち)、房事(ホウジ/いんよく)を行なひて病(やみ)たるには、気海に二百壮(ひ)と臍下(へそのした)一寸半に灸五十壮。手の左右の曲池に五
十五ウラ
壮(ひ)。五日を約(やく)して治(ぢ)すべし。
〔臍下一寸半:気海穴の位置と同じ。/『萬病回春』淋證:「八正散 治心經蘊熱,臟腑閉結,小便赤澀,癃閉不通及熱淋、血淋。如酒後恣欲而得者,則小便將出而痛,既出而痛,以此藥主之」。〕
○知(しら)ず、精(せい)の遺(もる)るあり。夢見て遺(もる)るあり。腎兪に二十一壮(ひ)。陽関に五壮。
○遺尿(イニョウ/よばり)には、気海・石門に百壮(ひ)。八髎に五十日。約(やく)するに、十日を焼(やき)て治(ぢす)べし。妙々(みょうみょう)。然れども飽食(ぼうしょく)するときは治(ぢ)せず。食(しょく)すること日(ひ)に一合(いちごう)半。食を減じ胃嚢(いぶくろ)を細くして後(のち)、灸すべし。
〔五十日:「五十壮(ひ)」の誤りか。〕
△余(よ)常に瓜蔕(かてい)を用ひて一吐(いっと)せしめ、胸膈を踈(すか)し後(のち)、食を減ずること七日、体(から)多(だ)微(すこ)しく瘦(やせ)たるを見て、烏頭(うづ)・附子(ぶし)・破胡紙(はこし)の類を服さしめ、屡々(しばしば)面眩(めんけん)に似たるときは、治(ぢ)を得(う)る。瓜葶を與(あた)ふこと増減あり。病者(びょうしゃ)の面色(めんしょく)を照(てら)して用(もち)ゆ。口授(くじゅ)。
〔破胡紙:補骨脂。マメ科。オランダビユの成熟した実。/ ・瓜葶:瓜蔕(蒂)。/・面眩:瞑眩。〕
○溺道(しょうべん)より白き濁(にごり)たるもの出(いづ)るには、照海・期門・陰蹻・腎兪・三陰交
十六オモテ~十九
〔おそらく「十七」~「十九」の板番号(丁)をぬかしたのであろう。〕
皆灸すること二十一壮(ひ)。神効(しんこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・溺白濁:「照海・期門・陰蹻・腎兪・三陰交、皆灸」。陰蹻は照海穴の別名でもあるが、同時にもちいられているため、交信の別名と考えられる。〕

2017年8月13日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕14

十一 疝気門
△疝に種々(じゅしゅ)あれども、大抵寒熱の二種に差(わけ)て治(ぢ)すべし。
〔じゅしゅ:濁点の位置をあやまっている?「しゅじゅ」か?〕
○疝気忽(たちま)ち逆(のぼ)りて、大(おおい)に心腹(しんふく)を急(い)痛(た)め、悶(もだえ)苦(くるし)んで、呼吸(いき)通(とお)りがたきの急なるには、足の左右の甲根(つめのね)に、三稜針を入〔イル〕るること一部。血(ち)を取(とる)べし。大冲(たいしょう)・内太冲(ないたいしょう)に三壮(ひ)づつ、独陰に
十四ウラ
五壮(いつひ)。神効(しんこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・疝氣上衝、心腹急痛、呼吸不通:「太冲・內太冲・期門、三壯。獨陰、五壯。甲根鍼一分、灸三壯。內太冲、甲根穴、在於別穴中。鍼灸神效」。『鍼灸經驗方』別穴・內大衝:「在足太冲穴對內傍、隔大筋、陷中。舉足取之。主治疝氣上衝、呼吸不通。鍼(一分)灸(三壯。極妙)」。〕
○疝毒伏々然(ふくふくせん)として動気を発し、上脘よりして鳩尾に逆(のぼ)り、遂に胸(むね)を突(つい)て気(いき)促(だわ)しく、将(まさ)に死せんとするには、急に麪粉(メンフン/そうめんのこ)、水(みつ)に𩜍(ね)り、餅のごとくなし、臍(へそ)の四畔(ぐるり)に置き、炒塩(いりしお)を衠(かた)め、厚さ五部ばかりになし、灸すること百壮(ひ)より二百に至る。艾炷(もぐさ)の大(おおき)さ、小(ちいさ)き棗(なつめ)の核(たね)ほどに作るべし。微(すこ)し温(あた)たまるを以て度(と)とすべし。
〔・𩜍:おそらく「練」の異体字。・衠: 『康煕字典』「眞也,正也,不雜也」。意味からして、「填」「闐」(充塞、充滿)などの異体字か。〕
○陰頭(イントウ/へのこさき)痛(つう)には、太敦(たいとん)・太冲(たいしょう)・腎兪(じんゆ)・陰交(いんこう)に灸す。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・陰頭痛:「太敦、太冲、腎兪、陰交」。〕
○陰戸(インコ/ぼぼ)痛(つう)には、曲泉・気衝を治(ぢ)すべし。陰(いり)腫(はれ)て挺(テイ/さね)出(シュツ)せば、曲泉・気衝・陰蹻・崑崙・太敦(たいとん)等(とう)に灸二十一壮(ひ)づつ。妙効(みょうこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』陰疝・陰腫挺出:「曲泉・大敦・氣衝・獨陰・陰蹻・崑崙」。 /『諸病源候論』婦人雜病諸候:陰挺出下脫候:「胞絡傷損,子臟虛冷,氣下衝,則令陰挺出,謂之下脱。亦有因産而用力偃氣而陰下脫者。診其少陰脈浮動,浮則爲虛,動則為悸,故脫也」。子宮下垂・子宮脱。陰蹻は、おそらく交信の別名。
・「いり」は、「いれ」に見える(「り」の元の字「利」と「れ」の元の字「礼」からなるカナは似ている)が、意味が取れる「いり」と翻字した。いり(引っ込んだ奥の所)は、陰部を指すと解した。〕
△疝の病(やまい)、十(じゅう)に七八は寒(かん)に属す。烏頭(うづ)・附子(ぶし)・桂支(けいし)・羗活(きょうかつ)の類(るい)、能(よく)治(ぢ)す。針灸(しんきゅう)は、其(その)間(あいだ)に突出して効(こう)を奏(と)る。

仮名読十四経治方 〔翻字〕13

十 水腫門 うきやまひ
△夫(それ)水腫の疾(やまい)、其(その)症多しといへども、一大(いつたい)要領は、虚実を見て治(ぢ)すべし。針灸(しんきゅう)も効(こう)を奏(とる)こと多しといへども、其(その)治(ぢ)
十三オモテ
法は、食を減じ、塩味(ヱンミ/しお)・肉味(にくみ)を禁ず。能(よく)其(その)方症を対(たい)して平易(へいい)の行気(こうき)利水(りすい)の剤(さい)を投ずれば、通身(みうち)皷(つづみ)のごとく腫脹するものも、必(かならず)連々(れんれん)に験(しるし)を奏(と)る。然れども虚(キョ/へり)腫の類(るい)は、脾胃大(おおい)に虚乏(つかれ)、水を制すること能(あた)はず、精臓(セイゾウ/じんすい)虚(キョ/へり)冷(れい)から致(いた)すなれば、決して針灸(しんきゅう)を用ゆべからず。其(その)治(ち)法(ほう)は、大抵附子(ぶし)の入〔イリ〕たる薬方を証(しょう)に対(たい)し、照(てら)して與(あた)ふべし。易(やす)く治(ぢ)せず。元(もと)脾胃の気和(か)せざるより、水(みず)皮膚に妄行(モウコウ/みだりにゆき)して、小便(しょうべん)利(り)せず、遂に浮病(うきやまい)となる。方書(ほうじょ)に云(いう)、水分の穴(けつ)を針(はり)して、水尽(つく)れば斃(たお)るとあり。然れども浮腫(うきはれ)甚(はなはだ)しきときは、飲食なりがたし。腹(はら)に太皷(たいこ)を抱(いだく)に似て気(いき)促(だわ)しく、神(シン/こころ)悶(もだ)へ乱れて
十三ウラ
已(すで)に死せんとするあり。其(その)時(とき)急に救(すくう)べし。
〔・連々:たえず、ゆっくり。/・いきだわし:息だはし。「息労(いた)はし」の転。息づかいがはげしくて苦しい。息苦しい。息切れがする。/・急に:いそいで。 〕
〔『鍼灸資生經』卷一・腹部中行:「水分……禁針。針水盡即斃」。〕
○三稜針にて水分の穴(けつ)を刺(さ)し、水を出(いだ)し取(とる)こと三分(さんぶ)の二つなり。脹(はり)下(さが)りて臍(へそ)の辺(へん)にいたり、未(いま)だ水(みず)を竭(つく)すに至らず、急に血竭(けつかつ)の末(こ)、又は寒水石(かんすいせき)の末(こ)を針(はり)の穴(あな)へ塗(ぬり)付(つく)れは、即ち塞(ふさい)で水止(とどまる)なり。
〔『鍼灸經驗方』腫脹:「浮腫・鼓脹、乃脾胃不和、水穀妄行皮膚、大小便不利之致也。方書云、鍼水分、水盡則斃。然而水脹甚、則不能飲食、腹如抱鼓、氣息奄奄、心神悶亂、死在頃刻。當其時、若不救急、則終未免死亡。愚自臆料以謂等死莫如救急、鍼水分、出水三分之二、脹下至臍、未至盡水、急用血竭末、或寒水石末、塗付鍼穴、即塞止水」。
・血竭:ヤシ科のキリンケツヤシ(麒麟血・麒麟竭やし)の果実が分泌する紅色樹脂を塊状に固めたもの。 /・末(こ):粉(こ)。粉末。 /・寒水石(かんすいせき)は古くが芒硝の天然結晶体をいっていました。日本の正倉院御物にある寒水石は石灰芒硝という説もあります。 現在、市場に出ている寒水石(かんすいせき)には2種類あり、中国北部では紅石膏、中国南部では方解石が一般的であります。方解石の主成分は炭酸カルシウムで、その他にマグネシウム、鉄、マンガンなども含む。紅石膏の主成分はCaSo・2H2Oで、微量の鉄、アルミニウムを含みます。 漢方では清熱・除煩・生肌の効能であり、熱性疾患や煩躁、歯肉炎、丹毒、やけどなどに用いられます。〕
http://www.kanpou-store.net/productSearch/productSearch207.html
○浮腫(フシュ/うきはれ)の人(ひと)、陰茎(いんきょう)・陰(き)卵(ん)倶に腫(はれ)るものなり。睾(きん)・外腎(ガイシン/へのこ)に針(はり)して多く水を出(いだ)せば安(やす)し。水絡(すいりゃく)をみて刺(ささ)ざれば、水能(よく)出(いで)がたし。
〔『鍼灸經驗方』腫脹:「且浮腫之人、或有外腎及腎囊、亦致腫者、鍼刺腎皮及囊皮、多出黃水、則安。……如或出血、則不吉之兆也。蓋鍼外腎、出水者、通利小便之義也、吉。鍼手足、出水者、妄行皮膚之義也、凶。凡病加於少愈。都在慎攝而已」。『說苑』敬慎: 「官怠於宦成、病加於少愈、禍生於懈惰、孝衰於妻子」。
・外腎:腎囊。陰囊。舊時稱睾丸為外腎。清 黃六鴻 《福惠全書‧刑名‧檢肉尸》: “小腹、陰囊、外腎、玉莖。” / ・へのこ:陰核(陰嚢の中の核)。睾丸。転じて陰茎。 /・水絡:漢語の中医辞典に見えず。血絡から類推された日本漢方用語か。〕
△水絡(すいりゃく)の観候(みよう)、口授(くしゅ)。若(も)し初心(しょしん)の輩(ともが)ら妄(みたり)に鍼(はり)し過(すぎ)て血絡(けつりゃく)を刺(ささ)ば、大(おおい)に血(ち)を出(いだ)し、止(やむ)べからざるに至(いた)る。恐(おそ)るべし。慎(つつし)むべし。血絡(けつらく)の胗候(みよう)、口授(くじゅ)。
〔胗:「診」に通ず。〕
○惣身(そうみ)及び面(かお)も手足も浮き脹(はり)て、洪大(こうだい)なるは、内踝(うちくるぶし)の下(した)、白き肉の
十四オモテ
際(あいだ)に灸すること三壮(ひ)。能(よく)脹(はり)を銷(しょう)し、小便を利す。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・滿身卒面浮洪大:「內踝下白肉際三壯、立效」。〕
○水腫、腹脹(はらはり)たるには、水分・三陰交に灸百壮(ひ)。陰蹻に七壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・水腫腹脹:「水分・三陰交、幷百壯。幷治五臟兪穴中脘。針後按其孔、勿令出水。陰蹻七壯」。
・陰蹻:照海あるいは交信。後文によれば、交信であろう。〕
○手足(てあし)・面目(かおめ)のあたり、浮(うき)たるには、人中・合谷・照海・絶骨・下(しも)三里・曲池等(とう)に針(はり)すること五ア〔=ぶ〕。又(また)中脘に一寸。七日にして腫(はれ)銷(しょう)し、神(しん)安(やすう)して、食を進む。妙(みょう)。後(のち)艾火(やいと)を用ひて再び発せざるあり。口伝(くでん)。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・四肢面目浮腫:「照海・人中・合谷・下三里・絕骨・曲池・中脘針。腕骨・脾兪・胃兪・三陰交」。
・五ア:「ア」は、「部」字の旁のみを残した略体。以下、この「ア」字は、「部」とする。意味は「分」。〕

2017年8月12日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕12

九 積聚(しゃくじゅ)門 しやくつかへ
△積(しゃく)はつむと訓(くん)じ、聚(じゅ)はあつまるの義(ぎ)にして、気血(きけつ)の何日(いつ)となく積(つみ)て塊(かたまり)をなし、或(あるい)は集(あつま)り結ぼれて、腹中こころ好(よ)からぬの名(な)なり。五積(ごしゃく)の差別(しゃべつ)ありといへとも、針灸(しんきゅう)の治療(ぢりょう)多くは同じ。
○痞悶(つかえ)といふて、心下(むなした)怏(あし)く脹(はり)、こころに覚(おほ)へ、按じて痛(いたみ)なきを痞塊(ひしゃく)といふ。専(もつ)はら痞根(ひこん)の穴(けつ)に灸すべし。此(この)穴所は脊(せ)の第十三椎(ずい)の下(し)も左右へ𤄃(ひら)くこと各(おのおの)三寸半。多くは左辺に灸す。
〔覚(おほ)へ:原文「ほ」ではなく「え」に見えるが、意味として「覚(おぼ)へ」であろう。〕
十一ウラ
若(もし)左右ともに塊(かたまり)あらば、左右を焼(やく)べし。毎日二百壮(ひ)より三百。
○臍下(サイカ/へそ)に結(かた)塊(まり)ありて碗(わん)の大(おおきさ)のごとく、或(あるい)は盆(ぼん)のごときあり。新久を問〔トワ〕ず、関元・間使、各(おの)おの三十壮(ひ)。太冲(たいちゅう)・太谿(たいけい)・三陰交(さんいんこう)・合谷(こうこく)等(とう)に灸三壮(ひ)。腎の兪(ゆ)に年(とし)の壮(かず)。病者(びょうしゃ)若(も)し一月(いちげつ)を焼(やか)は果(はた)して病(やまい)の塊り消散すべし。
〔『鍼灸經驗方』積聚・臍下結塊如盆:「関元・間使、各三十壯。太冲・太谿・三陰交・合谷、各三壯。腎兪以年壯。獨陰、五壯」。〕
○疼積(とうしゃく)にて塊(かい)なさば、肺兪に百壮(ひ)。期門に五壮(ひ)。脊(せ)の第六椎(ずい)の下(した)七椎(しちずい)の上(うえ)、骨(ほね)をはづして右辺(みぎり)に炷(すゆ)べし。小(ちいさ)き棗(なつめ)の核(たね)の大(おおきさ)にして二十一壮(ひ)。神効(しんこう)あり。
〔『鍼灸經驗方』積聚・痰積成塊:「肺兪、百壯。期門、三壯」。したがって、「疼積」は「痰積」のあやまり。「みぎり」は「ひだり」の反対。〕
○奔豚気(ほんとんき)といふは、小腹(しょうふく)痛(いたむ)積(しゃく)なり。是(これ)は腎水(じんすい)の虚(キョ/へり)より発(おこる)の積(しゃく)にして、二種(にしゅ)あり。一は、奔豚(ほんとん)として動気(どうき)下(しも)より発(はつ)し、中脘・上脘と敵上(うちのぼ)るあり。
十二オモテ
倶(とも)に腎の積なり。脇(わき)章門に百壮(ひ)。腎兪に年(とし)の壮(かず)。気海に百壮(ひ)。期門に三壮(みひ)。独陰(どくいん)に五壮(いつひ)。太冲(たいしょう)・太谿・三陰交・田根(でんこん)に各(おの)おの三壮(みひ)。約するに五十日を焼(やき)て治(ぢ)すべし。若(も)しくは軽症のものは、廿一日に治(ぢ)す。
〔『鍼灸經驗方』積聚・奔豚氣:「小腹痛也。氣海、百壯。期門、三壯。獨陰、五壯。章門、百壯。腎兪、年壯。太冲・太谿・三陰交・田根、各三壯」。『鍼灸經驗方』獨陰二穴:「在足大指次指內中節橫紋當中。主胸腹痛及疝痛欲死。男左女右」。
『鍼灸經驗方』甲根四穴:「在足大拇指端爪甲角、隱皮爪根左右廉內甲之際。治疝。鍼(一分)灸(三壯。極妙)」。よって「田根」は「甲根」のあやまり。『鍼灸大成』獨陰二穴「在足第二指下,橫紋中是穴,治小腸疝氣,又治死胎,胎衣不下,灸五壯」。甲根の出典に『針灸奇穴辞典』は『千金翼方』を掲載するが、『千金翼方』原文は「治卒中邪魅恍惚振噤法︰鼻下人中及兩手足大指爪甲,令艾炷半在爪上,半在肉上」で、「兩手足大指爪甲」、主治もことなる。
「一は」といい、「二は」あるいはもう一度の「一は」がなく、「倶に」という。脱文あるを疑う。〕
○腹中の積塊(しゃくかい)上(かみ)へ行(のぼ)るあり。中極に百壮(ひ)。また懸枢の穴に三壮(ひ)。これは第十二椎(ずい)の節(ふし)の下(した)にあり。伏(うつぶ)して取(とる)べし。
〔『鍼灸經驗方』積聚・腹中積聚氣行上行:「中極、百壯。懸樞、三壯。在第十三椎節下間。伏而取之」。本文の「十二椎」はあやまりであろう。〕
○積気(しゃくき)熱(ねつ)を貯(たくわ)ふときは、動気(どうき)臍(へそ)の傍(かたわら)より生じて、心先(むなさき)へ上(のぼ)り、気(き)聚(あつま)りて塊(かたまり)をなし、脊(せ)の第(だい)七九(しちく)の椎(ずい)より、或(あるい)は腰(こし)を周(めぐ)りて鬱重(ウツチョウ/うつしおもく)し、或(あるい)は痺(しび)れ、或(あるい)は咳嗽(せき)出(いで)て大便難(かた)き症(しょう)あり。腎兪に年(とし)の壮(かす)。肺兪・大腸兪・肝兪・太冲(たいしょう)等(とう)に二十一壮(ひ)。三十日を焼(やき)て、腹中に脹(チョウ/はり)
十二ウラ
悶(モン/くるしき)を覚(おぼ)へざれば、日(ひ)に百壮(ひ)より二百に及ぶ。数日(すうじつ)にして灸一万壮(ひ)に至れば、積根(しゃくこん)すでに絶(たえ)て、生涯(しょうがい)積(しゃく)の患(うれ)ひなし。
○積聚(しゃくじゅ)に五種(ごしゅ)あり。伏梁(ふくりょう)・息賁(そくほん)・肥気(ひき)・痞気(ひき)・奔豚(ほんとん)。いづれも倶(とも)に臓病(ぞうびょう)に属す。聚(じゅ)は腑病(ふびょう)を主(つかさど)る。皆(みな)艾火(がいか)を用ひて効(こう)あり。唯(ただ)其(その)急に発(はつ)して腹(はら)いため、及び心下(しんか)を攻(せむ)るときは、鍼術(しんじゅつ)を施(ほどこ)し急に治(ぢ)すべし。天枢・章門を刺(さく)こと二寸。即効(そくこう)あり。
〔刺(さく):おそらく「刺(さす)」のあやまり。〕

2017年8月10日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕11

八 嘔吐門 附 翻胃(ホンイ/しょくかえす) 呑酸(トンサン/すきおくび) 呃逆(キツギャク/しゃくり)
〔すきおくび:酸っぱいゲップ。胃内酸水、口にのぼる。〕
△凡(およそ)嘔吐(えづき)する症は、陰気上(かみ)へ逆(さかのぼ)り、陽気の勝(たえ)ざる
十オモテ
より致(いた)すものなり。又(また)心腹痛んで嘔(オウ/えづき)するなり。あるひは寒熱より致すあり。或(あるい)は痰飲の腸胃に客(かく)となりて致すあり。これは病(やまい)ありて後(のち)嘔するなれは、其(その)主(しゅ)たる疾(やまい)を療(りょう)すれは、嘔(おう)は自(みづか)ら止(や)む。医者切(せつ)に其〔ソノ〕因(より)て来(きた)す所を察せずんは、何(なに)の効(こう)か有(あら)ん。
○下(しも)閉(とぢ)て大便せず、気上(かみ)へ逆(のぼ)せて嘔吐するは、関格(かんかく)の症(しょう)といふ。宜しく四関(しかん)の穴を針して幾次(いくたび)も瀉すべし。
〔四関の穴:『鍼灸大成』『鍼灸経験方』:合谷と太衝をいう。〕
○腹中に冷気を含んで嘔吐するには、中脘・内関に針して、陽気を揺(うご)かし、三陰交に針を留(とど)めて、呼吸十二息(そく)。大〔オオイ〕に神効(しんこう)。
○乾嘔(カンオウ/からえづき)するには、尺沢・中渚(ちゅうちょ)・隠白(いんはく)・章門・間使・乳(ち)の下(した)一寸等(とう)に灸三壮(みひ)。
〔乳下一寸:『備急千金要方』卷十六胃腑・嘔吐噦逆第五「乾嘔:灸心主尺澤亦佳。又灸乳下一寸三十壯」。〕
十ウラ
○気、膈(むね)に否(つか)へて食進(すすみ)がたく、脊(せ)の七・九痛(いたむ)には、膈の兪(ゆ)・亶中(たんちゅう)・間使に三壮(ひ)。
○吐せんとして吐せざるには、心兪。
○嘔吐、忽(たちま)ち寒く、たちまち熱して、心神(しんじん)煩(わつら)はしきには、中脘・商丘・大椎(たいずい)・中衝・絶骨。
〔忽ち……たちまち:乍A乍Bにおなじ。二つの対立する状態・動作がつぎつぎに交替してあらわれる。〕
○虚人(きょじん)の常に食進みがたくして、嘔(えづき)の気味(きみ)あるは、脊(せ)の第七(しち)八(はち)九(く)椎(ずい)の𤄃(ひら)き、両方に灸五百壮(ひ)。即効あり。
〔椎の𤄃:脊椎から(一定の距離)はなれること。「開くこと」「去ること」とも表現される。〕
○噯気(あいき)呑酸は、胃中の熱と膈(カク/むね)上(しょう)の痰、相(あい)逆(むか=むこ)ふて清水(せいすい)を嘔吐す。中脘・膈兪に灸すべし。
△胃口(いこう)冷へ、手足ともに冷へ、呃逆(しゃくり)するには、中脘に灸すること二十一壮(ひ)。大に効(こう)あり。然(しかれ)ども是等(これら)の症は、針灸(しんきゅう)の能(よく)治(ぢ)すべきにあらず。丁子(ちょうじ)・乾薑(かんきょう)・桂枝(けいし)・良薑(りょうきょう)・柹蒂(してい)の
〔柹葶:柿蒂。柿のヘタ〕
十一オモテ
類を温服(うんふく)して良効(りょうこう)あり。湯液(トウエキ/くすり)に因(よっ)て針灸(しんきゅう)を与(あた)ふべし。然(しか)るときは、愈(いえ)ざるの病(やまい)なからむ。

2017年8月8日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕10

七 瘧疾門 おこり
△凡(およそ)瘧(おこり)一日に一次(ひとたび)午前(ひるまえ)より発(はつ)するは、邪気、陽分にあり。あるひは日(ひ)を隔(へだ)て、或(あるい)は三日を隔て、あるひは午後(ひるすぎ)或は夜(よる)に発するは、邪気、陰分に入(いる)ものなり。又日夜(にちや)に乱れ発(はつ)するものは、気も血(けつ)も倶(とも)に虚するなり。
【脉】弦数(けんさく)は多くは熱(ねつ)、弦遅(けんち)なるものは多くは寒(かん)と心得(こころえ)べし。
○寒(かん)多く、熱(ねつ)少(すくな)く、口苦(にが)く、咽乾(のどかわ)き、大便秘(ひ)し、小便赤く渋り、手臂(てひじ)より発(おこる)ものは、間使・三間に三壮(みひ)。妙なり。
○頂頭(かしらいただ)きのあたりより発(はつ)するものは、痛の日に当〔アタリ〕
九ウラ
て未発(いまだおこら)ざるまへ、百会(ひゃくえ)・大椎(だいずい)の尖(とがり)に灸三壮(みひ)。一時(いちどき)に焼(やき)て忽(たちま)ち治(ぢ)す。艾(もぐさ)の大〔オオキ〕さ、棗(なつめ)の核(たね)ほどに作るべし。
○寒冷なるものを多く食(しょく)し、脾に滞り鬱(うつ)して、瘧(ぎゃく)を発(はつ)し、あるひは脾胃虚し、または弱き人の患(うへ)ひたるには、神道(しんとう)に七壮(ななひ)、絶骨に三壮(みひ)。
〔患(うへ)ひ:「うれひ」の誤りか?〕
○痎瘧(がいぎゃく)に痰水および瘀血(おけつ)等(とう)塊りをなして、腹脇(フクキョウ/はらわき)のあたり、脹(はり)痛むには、月(つき)の三日と廿七日とに、期門に針して後(のち)に灸すること二十一壮(ひ)。神効(しんこう)あり。

2017年8月7日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕09

六 火症門 うちのねつ 附り発熱(ほつねつ)
八ウラ
△火症の疾(やまい)たるや、一身(いっしん)ことことく熱(ねつ)し、肌(はだ)へ燎(やく)がごとく【脉】多くは浮(ふ)にして洪数(コウサク/ふとくはやく)、其〔ソノ〕発(はつ)するや、虚火(きょか)の上焦(じょうしょう)に鬱(うつ)するものなり。又(また)実火(じつか)なるものあり。其(その)【脉】沈(ちん)にして実大(じつだい)。これは冷(ひえ)たるものなどを多く食(しょく)し、陽気伸(のび)ずして致(いた)す処(ところ)なり。
〔はだへ:〔文語・文章語〕皮膚。はだ。◆〔三島由紀夫・潮騒〕夕刻になってもその風は肌えを刺さなかった〕
○上焦(じょうしょう)燎(やく)ごとく、頭面(ヅメン/かしらかお)に瘡(かさ)を生(しょう)じ、風熱にて腫(はれ)痛(いたむ)には、中脘・関元・石門・期門等(とう)に針(はり)すべし。
○風熱にて歯痛み齦(はぐ)き腫(はれ)るには、其(その)痛むところに針して気を洩(もら)すべし。
○肝経に血少なく、脾胃瘦(つか)れて、肝火動き、熱の往来するには、天枢・否根の穴を治(ぢす)べし。
〔否根:痞根穴。〕
○三焦の実火内外(ないがい)倶に熱するには、三稜針にて、委中を刺(さ)
九オモテ
し、血(ち)を取(とっ)て治(ぢ)す。

2017年8月5日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕08

八オモテ
五 中湿門 しつきにあたる
△【脉】浮(フ/うかふ)にして緩(カン/ゆるく)なるは、湿(しつ)表(ひょう)にあり。沈(チン/しづむ)にして緩(カン/ゆるく)なるは、湿(しつ)裏(リ/うち)にあり。其(その)傷(やぶら)るるや、一身(いっしん)ことごとく痛み、あるひは身(み)重(おも)く、腰いたみ、手足倦怠(だるく)して、歩行なりがたく、悪寒(おかん)発熱(ほつねつ)吐瀉(トシャ/あけくだし)し、あるひは腹痛(はらいた)み、身体(しんたい)大に重くなるものなり。
○曲池・陰凌泉・合谷・肩井・肝兪・隔兪等(とう)に針(はり)すること五部。気を引(ひき)て経脉に通(つうず)べし。しかれども能(よく)疾(やまい)を治(ぢ)すること能(あた)はず。宜(よろ)しく独活(どっかつ)羗活(きょうかつ)防風(ぼうふう)蒼朮(そうじゅつ)陳皮(ちんひ)桂枝(けいし)の薬(くすり)を服して表(ひょう)発(はつ)して経(けい)を通じ気を泄(もら)すべし。速(すみやか)に効(こう)あり。

2017年8月4日金曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕07

四 中暑門 あつさにあたる 附り 霍乱 上(かみ)吐き下(しも)くだる
△凡(およそ)中暑の疾(やまい)汗(あせ)し下(くだす)べからず。但(ただ)熱を解(げ)し小便を利するを肝要とす。或〔アルイ〕は其(その)甚(はなは)だしきは、即ち死せんとす。忽(たちま)ち口禁じて語言(ものゆう)こと能(あた)はず。身体(シンタイ/からだ)反張(ハンチョウ/そりかえり)して四肢(てあし)動(うごか)ざるなり。此〔コノ〕時、芭豆(ばづ)も腹中に内(いるる)ことを得ず。瓜蔕(かてい)も咽(のど)に下(くだら)ざれは、倶(とも)に効(こう)なし。豈(あ)に艾火(きゅう)の尊(たっとき)ことを知らんや。急に両乳(りょうにゅう)の上(うえ)に灸すること七壮(ひ)、妙効あり。而(しこう)して後(のち)、其(その)【脉】虚微なれば、附子剤を施(ほどこす)べし。若(も)し弦芤なれば、桂枝・白朮(びゃくじゅつ)・猪苓(ちょれい)・沢瀉の類(るい)にて胃中を暖め、小便を利すべし。自然(しぜん)に身に熱(ねつ)しも
〔附り:つけたり。附録。〕
七オモテ
口の乾(かわき)も咽(のんど)の渇(かわき)も、小便の赤く渋り、大便の瀉(くだる)も止〔ヤミ/トマリ〕て治するなり。
○中暑霍乱にて、上(かみ)吐せず、下(しも)瀉せず、悶乱(モンラン/もだえみだれ)はなはだしく、胸腹(むねはら)大〔オオイ〕に疼(いた)んで苦楚(くるしみ)忍びがたきには、合谷・太冲(たいちゅう)・神闕に七壮(ななひ)づつ火を下(くだ)して、忽(たちま)ち差(いゆ)ること妙。
〔太冲:太衝におなじ。「たいちう」と「たいせう」のふりがなが混在する。〕
○又方、臍(へそ)の上(うえ)三寸に三壮(みひ)。三焦兪・合谷・太冲(たいちゅう)等(とう)に針して後(のち)、関衝に三稜針を入(いる)ること一部、血を出(いだ)せば立(たち)どころに差(いゆ)。
○転筋といふて筋(すち)動き攣(ひき)急(つり)、あるひは疼(いた)み、神(しん)にこたへ、或は上(かみ)吐(と)し下(しも)瀉(くだ)りて霍乱するには、先(まづ)急に委中・関衝を刺して血を出(いだ)すべし。しからざれは、転筋 腹に入(いり)て、心(しん)を衝(つき)、遂(つい)に死にいたるものなり。医忽(ゆるがせ)におもふべからす。
〔筋:原文は「筯」に見えるが、ふりがなに従って改めた。〕
七ウラ
○霍乱すべて心満(むねみち)て腹痛(はらいた)み、食を吐き腸鳴(ちょうなる)ものなり。中脘・内関・関衝より皆血を出(いだ)して効を奏(と)る。
○暴(にわか)に大便泄瀉(みずくだり)するには、間使の穴に灸すること七壮(ななひ)。若(も)し愈(いえ)ざれは、更に炷(すゆ)べし。
○霍乱にて已(すで)に死し、少(すこし)にても若(もし)暖(あたたま)りあるものは、承山を治(ぢ)すべし。此(この)承山の穴所(けつしょ)は、脚(あし)の腨腸(せんちょう)の中央に当(あたり)て分肉の間(あい)だ、脚跟(きびす)を去(さる)こと七寸にあり。是(これ)を起死(きし)の穴と名(なづ)けて、死人を起(いか)すの妙穴所(みょうけつしょ)なり。これに灸すること七壮(ななひ)。忽(たちま)ち蘇(いき)ること神(しん)のごとし。
○又方、塩(しお)を臍(へそ)の中(うち)に填(うづ)めて、其〔ソノ〕上に灸すること二十一壮(ひ)。および気海の穴に百壮(ひ)。奇効あり。

2017年8月3日木曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕06

六オモテ
三 中寒門 かんにあたる
△【脉】緊濇(キンショク/きびしくしぶる)なるものは、陰陽ともに盛(さかん)なり。法に針を用ひて経絡を通ずることなかれ。薬を用ひて当(まさ)に汗(あせ)すること無(なか)るべし。汗(あせ)せば、命(めい)を傷(やぶ)る。医忽(ゆるかせ)におもふべからず。
○五臓に寒気中(あた)りて口禁(くちきん)じて語言(ものいう)ことなりがたく、手足強(こわば)り、冷気刺(さす)がごとくに痛み、また臓毒下陥(ケカン/しもにおちいり)し、泄痢(セツリ/くだりはら)腹脹(はらはり)大便あるひは黄色(きいろ)あり、或(あるい)は白く、或(あるい)は黒く、又は清穀(セイコク/なまくだり)あるには、神闕・天枢に灸すること七壮(ひ)。而(しこう)して後(のち)参朮(じんじゅつ)乾薑(かんきょう)の温剤(うんざい)を投(とう)して効を奏(とる)こと神(しん)のごとし。
○寒気湿気に因(よっ)て干(おか)さるるには敢(あえ)て艾火(ガイカ/きゅう)の及(およぶ)べきにあらず。参朮(しんじゅつ)附薑(ぶきょう)の類(るい)に有ずんば効
六ウラ
を斂(おさめ)んや。

2017年8月2日水曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕05

二 中風(ちゅうぶう)門 かぜにあたる
△夫(それ)中風(ちゅうぶう)の證(しょう)に於(おけ)る劉河間は火(ひ)を主(しゅ)とし、東垣は気(き)
四ウラ
を主とし、丹渓は湿を主とす。後世(こうせい)に至(いたり)て種々(いろいろ)の論辨ありといへども、今(いま)これを載(のせ)て益なし。故(ゆえ)に略す。脉は大法浮沈なるものは吉(きつ)なり。急疾(キュウシツ/はやきはやく)にして大数(タイサク/はやく)なるは、凶(あし)し。
○中風(ちゅうぶう)寒(かん)を夾(さしはさ)むときは、浮遅(フチ/うかみおそく)を帯(おぶる)ぞ。暑(しょ)を夾(はさむ)ときは、脉虚す。湿を夾(さしはさ)むときは、脉浮(フ/うかむ)にして濇(ショク/しぶる)なり。
○卒中にて言(もの)いわず、肉痺(しび)れて人事を知(しら)ざるには、神道の穴に灸すること三百壮(ひ)すれば、立(たち)どころに差(いゆ)べし。
〔『鍼灸經驗方』「卒惡風不語肉痺不知人:神道在第五椎節下間、俛而取之、灸三百壯、立差」。〕
○遍身(そうみ)麻(しび)れ語(もの)言(いう)ことかなはず、口眼(くちめ)斜(ゆが)み喎(ひき)つりなどするには、間使・大迎(たいけい)・三里・承漿・合谷等(とう)に灸すること二十一壮(ひ)づつ十五日を約(やく)して治(ぢす)べし。
〔『鍼灸經驗方』「口眼喎斜:合谷・地倉・承漿・大迎・下三里・間使、灸三七壯」。〕
○遍身(そうみ)痒くして虫の行(はう)がごとく、但(ただ)怏々(こころわろ)く忍びがたく、或(あるい)は呵(あく)び嚔(はなひ)り
五オモテ
眼口(めくち)斜(ゆが)む等(とう)には、合谷・三陰交・曲池・神門(じんもん)に針入(いる)ること七部、而(しこう)して後(のち)肘の尖(とがり)に灸すること七壯(ななひ)、神効あり。
〔「怏」字、原文「快」に作る。意味から「怏」とした。九 積聚門も参照。「部」字は「分」が正しい(あるいは、かなと認識して「ぶ」と表記すべきか)と思われるが、ひとまずかえないでおく。以下、おなじ。 「而」のふりがな原文は「しかふう」か「しかつう」。/『鍼灸經驗方』「遍身痒如蟲行、不可忍:肘尖七壯。曲池・神門鍼。合谷・三陰交」。〕
○言舌(ごんぜつ)蹇渋(もとらず)して半身遂(かな)はず、或(あるい)は左右ともに癱瘓(ナンカン/なえ)し、久しく愈(いえ)ざるには、委中の穴に三稜針を入(いる)ること二部。悪血数升を出(いだ)して治(ぢす)べし。若(もし)くは軽症のものには、風市(ふじ)・絶骨・三里・曲池・肩井・列缺・委中等(とう)に灸すること、毎日五十壮(ひ)づつ、七十日を約(やく)して治(ぢす)ること神効(しんこう)あり。
〔癱瘓:本来の音は「タンタン」。 /『鍼灸經驗方』「言語蹇澁、半身不遂:百會……肩井幷風市・下三里・絕骨・曲池・列缺・合谷・委中・太冲・照海・肝兪・支溝・間使……」〕
○中風(ちゅうふう)睛(め)を弔視(つりあげ)語言(ものいう)こと能(あた)はず、手足(てあし)屈伸(のびかがみ)ならざるには、脊(せ)の第二椎(ずい)と五椎(すい)との上に七壮(ひ)、艾炷(カイチュウ/もぐさ)の大(おおき)さ小(ちいさ)さ、棗(なつめ)の核(たね)の大さにして炷(すゆ)べし。神効あり。
〔「椎」字、原文「推」に作る。『鍼灸経験方』にしたがい、改める。以下、手偏と木偏の字は意味にしたがい、適宜改める。 /『鍼灸經驗方』「中風眼戴上、及不能語者:灸第二椎幷五椎之上、各七壯同灸。炷如半棗核大」。〕
△中風(ちゅうぶう)の証、内傷(ナイショウ/うちのそんじ)に因(よる)ものは、外(ほか)の風邪(ふうじゃ)にあらず。多(おおく)は労役(ロウエキ/ほねおり)
五ウラ
することの甚(はなはだ)しく而(して)、真気を虚(へら)し、或(あるい)は憂へ怒(いかる)ことの積(つん)で其(その)気を傷(やぶ)るもの、卒(にわか)に目(め)眩(くるめ)いて倒れ、手足癱(なえ)痺(しび)れ、眼口(めくち)喎(ひきつ)り斜(ゆが)み、舌(した)強(こわ)りて語言(ものいい)がたき等(とう)は、必(かならず)しも針術(しんじゅつ)を数(しば)々施(ほどこ)すべからず。反(かえっ)て其(その)精神(せいじん)を竭(つく)し、命期(メイキ/いのち)を促(はやむ)るに至る。慎むべし。また肩井・曲池・三里・絶骨・風市(ふじ)・列决〔ママ〕等(とう)は、中風(ちゅうぶう)の妙灸(みょうきゅう)穴といへども、虚証の中風(ちゅうぶう)には多く炷(すゆ)べからず。三七壮(ひ)を期(ご)とし、但(ただ)薬液(ヤクエキ/くすり)の中(うち)を補ひ気を益(まし)を見(み)とめ、或(あるい)は防風・羗活・天麻・半夏・木香等(とう)の内(うち)より順多(じゅんき)して、手足に真陽の回(めくる)を候(うかが)ひて後(のち)、多く針灸すべし。深く虚実を認(とめ)て施さざれば、害多し。慎(つつし)むべし。
〔順多:ふりがなによれば、「順氣」の誤字か。/認(とめ)て:とむ。さがしもとめる。尋・求。〕

2017年8月1日火曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕04

三オモテ
仮名読十四経治法(ちほう)巻之上
津山彪編次

一 鍼灸之(しんきゅうの)大意
内経(だいきょう)に曰く、大(おおい)に労(つかる)るを刺(さす)ことなく、飢(うえ)たるを刺(さす)ことなく、大飽(たいしょく)を刺(さす)ことなく、酔(えい)たるを刺(さす)ことなく、驚くを刺(さす)ことなく、怒(いか)る人を刺(さす)ことなし、と。又(また)曰く、形気(からだ)不足せるもの或(あるい)は久しく病(やみ)て虚損せるもの、若(も)し針(はり)を刺(さす)ときは、重(かさね)て其気(そのき)を竭(へらす)、と。又曰く、針入(いる)ること僅(わずか)に芒(のぎ)のごとくなれとも、気のいづること車軸(ぼう)のごとし、と。△是(これ)いわゆる針の瀉するありて補(おぎな)ひ無(なけ)ればなり。凡(およそ)灸をするには、平旦(よあけ)よりして午後(ひるすぎ)に及ぶときは、
三ウラ
穀気(こくき)虚乏(へり)たるゆゑに、大(おおい)に宜(よろ)し。須(すべ)からく日午(ひる)までに施(ほどこ)すべし。大概(おおむね)脉絡は細き線(いと)の若(ごと)くなれば、竹筯頭(やいとはし)をもつて炷(すゆ)べし。ただただ其脉(そのみゃく)に当(あて)て灸をすれは、亦(また)よく疾(やまい)を愈(いや)すべきなり。是(ここ)を以て四肢(てあし)には但(ただ)その風邪(ふうじゃ)を去(さる)なれば、灸多く炷(すゆ)べからず。七壮(ななひ)より五十壮(ごじゅうひ)までにして止(やむ)べし。年(とし)の数(かず)に随ふて過(すぐ)ることを得ざるなり。然(しか)れども臍(へそ)の下(しも)の久冷(キュウレイ/ひえ)疝瘕(せんき)気塊(きかい)積気(しゃくき)の証(しょう)には、艾炷(もぐさ)の大(おおい)なるほど宜(よろ)し。故(かるか)ゆへに腹脊(はらせなか)は五百壮(ひ)を灸すべし。唯(ただ)巨闕(きょけつ)鳩尾(きゅうび)の穴(けつ)の如きは、是(これ)胸腹の穴といへども、灸して五十壮を過(すぎ)ずして止(やむ)なり。若(も)し艾(もぐさ)の大炷(おおひねり)を以て多く灸するときは、永く
四オモテ
心力(しんりょく)無(なか)らしむべし。頭項(ヅコウ/かしらうなじ)の穴も亦(また)多く灸するときは、精神(せいじん)を失す。臂脚(てあし)の穴に多く灸せば、血脉(ちすぢ)枯渇(かれかわい)て、肉瘦(にくやせ)毛枯(かれ)て、手足(しゅそく)力(ちから)なく、又(また)精神(せいじん)も失(うすく)なるべし。蓋(けだ)し穴処(けつしょ)に浅深(センシン/あさきふかき)あり。浅穴(あさけつ)に多く灸するときは、必(かならず)筋力(キンリョク/すぢちから)を傷(やぶ)る。故(この)ゆへに三壮(みひ)五壮(いつひ)七壮(ななひ)に遇(すぎ)ずして止(とどむ)なり。医者深く慎(つつしみ)て鍼灸を施(ほどこす)べし。必(かなら)ず忽(ゆるがせ)にすべけん乎(や)。
〔「頭項」の「項」字、「頂」に見えるが、ふりがなと『鍼灸経験方』により、「項」字とした。「七壮に遇(すぎ)ず」。『鍼灸経験方』は「過」字に作る。凡例では△は愚按のはずだが、ここは『鍼灸経験方』の文言。
・『鍼灸經驗方』鍼灸法:內經曰、無刺大勞、無刺大飢、無刺大飽、無刺大醉、無刺大驚、無刺大怒人。又曰、形氣不足者、久病虛損者、鍼刺、則重竭其氣。又曰、鍼入如芒、氣出如車軸、是謂鍼之有瀉無補也。凡灸平朝及午後、則穀氣虛乏、須施於日午。大概脉絡有若細線、以竹筯頭作炷、但令當脉灸之、亦能愈疾。是以四肢則去風邪、不宜多灸。故七壯至七七壯而止。不得過隨年數。臍下久冷疝瘕氣塊積氣之証、則宜芥炷大。故曰、腹背宜灸五百壯。如巨闕鳩尾、雖是胸腹之穴、灸不過七七壯而止。若大炷多灸、則令人永無心力。頭項穴多灸、則失精神。臂脚穴多灸、則血脉枯渇、四肢細瘦無力。又失精神。蓋穴有淺深。淺穴多灸、則必傷筋力。故不過三壯五壯七壯而止。可不慎哉」。〕

禁忌(いみもの)
○生冷(なまもの) 鶏肉(とりにく) 酒糆(さけめんるい) 房労(ぼうじ)等(とう)の物

2017年7月31日月曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕03

二オモテ
巻之上(かんのじょう) 目録
一 鍼灸之(の)大意 二 中風(ちゅうぶう)門 三 中寒門 四 中暑門 五 中湿門 六 火症門 七 瘧疾門 八 嘔吐(おうど)門 九 積聚(しゃくじゅ)門 十 水腫門 十一 疝気門 十二 淋病門 十三 頭痛(づつう)門 十四 心痛門 十五 腹脇門 十六 脚気門 十七 眼目門 十八 口歯門 十九 咽喉門 廿 耳(に)病門 廿一 中毒門
巻之下(かんのけ) 目録
一 銅人形総図 二 癰疽門 三 騎竹馬(きちくばの)穴法
二ウラ
四 腸癰門 五 疔腫門 六 蒜灸(にらぎゅうの)法 七 附子(ふしの)灸法 八 石癰門 九 丹毒 十 蟠蛇癧(はんだれき) 十一 大小便 十二 腰背(ようはい)門 十三 咳嗽(がいそう)門 十四 膝脚(しつきゃく)門 十五 手臂(しゅひ)門 十六 鼻病(びびょう)門 十七 痢疾門 十八 痔疾(ぢしつ)門 十九 労瘵門 二十 四花(しかの)穴法 廿一 小児(しょうに)門 廿二 五癇門 廿三 婦人門 廿四 風癩門 廿五 急死門 廿六 草度(そうどの)方(ほう) 廿七 禁針穴(けつの)歌 廿八 禁灸穴(けつの)歌 廿九 針灸吉日(きちにち) 三十 針灸忌日(いみにち)

2017年7月30日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕02

一オモテ
仮名読十四経(じゅうしけい)治法(ちほう)
凡例(はんれい)
一 此編(このへん)や衆書中(しゅしょちゅう)の最も良(りょう)なるものを採(ひろ)り摭(とり)集(あつめ)て、上下の巻(かん)とす。朝鮮の許任が説に拠(よる)もの多し。間(まま)また積歳の経験を載(の)す。
〔許任『鍼灸経験方』仁祖二十二年(一六四四)刊。本書の参考文献は享保十年(一七二五)山川淳庵刊本。〕
一 国字(かな)を以て直読(すぐよみ)に記(しるす)するものは、読易(よみやす)からしめんが為なり。童蒙の行(ゆく)に岐路(ちまた)なきを示す。
〔岐路:分かれ道。正しくない道。〕
一 篇中僅(わずか)に薬物を載(の)するものは、針灸の及ばざる処を補(おぎなう)ものなり。敢(あえ)て自分窮(きわむ)るにあらず。只(ただ)寸心棄(すつ)るに忍(しのび)ざるか為なり。覧(みる)もの若(も)し能(よく)これが意を加へ、方(ほう)を需(もと)め証
一ウラ
に対せば、効(しるし)を収むるに小補あらん。
〔寸心:こころ。〕
一 ○置(おく)は、門中の諸症を頒(わかち)、其(その)急に臨んで易(やす)からしめんが為なり。△置(おく)は、愚按なり。蓋(けだし)皆拠(よりどころ)あれは也(なり)。混(こんじ)見(みる)事なかれ。
〔といいながら、△の下も実際は引用文だったりする。〕
一 編中、口授(くじゅ)口伝(くでん)といふものは、敢(あえ)て秘するにあらず。耳提せざれは諭(さと)しがたし。故に口授(くじゅ)といふ。
〔耳提:耳を引いて寄せること。面命(向かい合って説き聞かせること)とまとめていうことが多い。細かいところまで行き届いた丁寧な説明をして、理解できるように説き聞かせること。〕
一 死を起(おこ)し生(しょう)を回(かえ)すものは、兪穴(ゆけつ)にあり。兪穴刺(ささ)ざれは効(しるし)なし。故に下巻(げかん)に図翼を載(の)す。腹脇(ふくきょう)手足(しゅそく)骨度の寸尺を記(しる)して、兪穴の分寸(ぶんすん)を知(しら)しむ。全く骨度正誤の図説に従(したがう)なり。
〔骨度正誤図説:村上宗占撰。http://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/html/ya09/ya09_01095/〕

2017年7月29日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕01

底本:国会図書館蔵本
文化六年刊 津山彪著
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2605829?tocOpened=1
凡例:
・よみやすさを優先させ、適宜、句読点をふやしたが、一部へらしたところもある。
・原則として常用漢字をもちいる。
・ふりながを()内に入れるが、一部省略する。
・ふりがなは、原文によらず、おおむね現代仮名遣いとする(わうと→おうと)が、一部、そのままとした。
・左右にふりがながある場合は、(右フリガナ/左ふりがな)の形とする。
・〔〕内は補註。
・未校正。不審な点があれば、画像でご確認ください。
************************
〔表紙〕
文化己巳新刻
両点ひらかな附/骨度正誤図説入
此書(このしょ)は十四経の諸穴に療治をほどこすとき、鍼に深浅の法、灸に多少の法あることをくはしく〔詳しく〕平かなにて書(かき)しるし、諸病を治(ぢ)することをしらしむ〔知らしむ〕。

鍼灸仮名読(かなよみ)十四経(けい)治方(ぢほう)

東都 甘泉堂蔵

2017年7月27日木曜日

清儒《黃帝內經》小學研究叢書

http://www.toho-shoten.co.jp/toho-web/search/simple?keyword=%e6%b8%85%e5%84%92%e3%80%8a%e9%bb%83%e5%b8%9d%e5%85%a7%e7%b6%93%e3%80%8b%e5%b0%8f%e5%ad%b8%e7%a0%94%e7%a9%b6%e5%8f%a2%e6%9b%b8&bookType=ch&orderType=0&offset=0¤t=0
錢超塵先生,いまだにご健在。
みな,オリエント出版社本なみの値段。
思い起こせば,1980年代,和刻本は高くて手が届かなかった。
大陸本で千円以上するものは珍しかったと思う。
だから,いろいろ買った。たまたま,医古文基礎の時代だった。
それから,個人的にはずるずるつきあってきたけれど,
いまの本の値段をみたら,他人にはすすめられない。
まあ,すきなひとには,値段など問題ではないかも知れないが。

2017年7月22日土曜日

『庭訓徃來註』

http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/36272/jsb011-09-hagihara.pdf

この本に、「難經・素問經・靈樞經・金亀經・甲乙經也」とあるそうですが、
「金亀經」とは、何でしょうか?  
医学書ではないようですが、『日本国見在書目録』にある「黄帝注金匱經十」と関係するものでしょうか?

萩原 義雄:『庭訓徃來註』にみる室町時代古辞書について(その17)十一月十二日・十一月日の往返状、語注解
http://ci.nii.ac.jp/naid/120005994567

2017年7月21日金曜日

はり

近世期絵入百科事典データベース

http://dbserver.nichibun.ac.jp/EHJ/index.html

これで「針」を検索すると、
http://dbserver.nichibun.ac.jp/EHJ/detail.html?id=591
針(しん):はり。鍼(しん)、箴(しん)、並同。
とある【訓蒙図彙】。

これによると、縫い針を「鍼」と表記することもおこなわれていたことがわかる。

ちなみに,『和漢三才圖繪』卷三十六・女工具でも,「縫鍼」で項目をたてている。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2596371?tocOpened=1
26コマ目
その説明文から『説文解字』をたどると,「縫,以鍼紩衣也(鍼を以て衣を紩〔ぬ〕う也)」とある。

ということで,「鍼」字は,医療専用の文字ではなかった。

2017年7月16日日曜日

靈樞經白話解

陳璧琉、鄭卓人合編。前言と「黄帝素問霊枢経叙」あり。
http://www.twwiki.com/wiki/%E3%80%8A%E9%9D%88%E6%A8%9E%E7%B6%93%E7%99%BD%E8%A9%B1%E8%A7%A3%E3%80%8B

王洪图『靈樞經白話解』
https://www.amazon.cn/%E9%BB%84%E5%B8%9D%E5%86%85%E7%BB%8F%E7%81%B5%E6%9E%A2%E7%99%BD%E8%AF%9D%E8%A7%A3-%E7%8E%8B%E6%B4%AA%E5%9B%BE/dp/B0011AL0Q6
これは,陳璧琉、鄭卓人合編のパクリ本です。
以下で,読めます。注釈の場所をしめす①②などがなかったりしますが。
http://www.tcm100.com/user/hdnjlsbhj/index.htm
なお陳璧琉、鄭卓人合編には【提要】はありません。

王洪图先生の靈樞講義 字幕付き
http://list.youku.com/albumlist/show/id_27763676.html?

2017年7月5日水曜日

『ナラティブ霊枢』

http://www.human-world.co.jp/newsitem.php?id=1328 
翻訳に際して、底本を人民衛生出版社の影印本の明代趙府居敬堂刊本としていますが、これを底本とした理由は?

名越:それしかないのでは? ほかの本もたぶん同じではないでしょうか?

2017年6月26日月曜日

尚賊人子

『漢方の臨床』2017年第6号に長野仁氏所蔵の張仲景像が掲載されている。
その賛の一部に「學之不精尚賊人子」とある。
これを解説者は、「これを学びて精(くは)しからざれば、尚ほ人子を賊(そこな)ふ」とよんでいる。
「人子」とは、「ひとのこ、こども」の意味である。大人はそこなわないのだろうか。
ここは「尚ほ賊人子」とよんだ方がいいのではなかろうか。
「賊人子」は「賊子」と同じで、「親を害するような不孝の子」(『大漢和辭典』)という意味ではないか。
「人」は四文字に合わせるために入れたのであり、上文の「可祖而述張仲景氏」の「而」と同じように、実質上の意味はないのではないか。
あるいは、『儒門事親』の序など、多くの医書に引用される「為人子者、不可不知醫」(こどもであるなら【親のために】医学を知ることは絶対必要である)が念頭にあって「人子」としたか。
「祖述すべきは張仲景であり、医学の学習に精を出さないのは親不孝である」という意味だとおもう。

2017年6月12日月曜日

京都の医史学会

日本医史学会の学術大会に,南京でお世話になった先生がたが,来日,参加されるということで,京都へ行ってきました。


第2日の11日(日)の午前中に,真柳さんを座長として:
沈澍農教授 :敦煌巻子医書の綴合
ロシヤとフランスに分蔵されている残片が,実は同一の巻子から分裂された二つの部分だったというお話。行幅、紙幅、書式、字形、筆跡がいずれもよく似る。また接合部の曲線もかなり一致する。その接合部分の内容は『素問』三部九候論に相当し,文意もよく通る。ただし,字句は微妙に異なる。『太素』とも微妙に異なる。そこがまたおもしろい。

王明強副教授:「元気」と「原気」考
元と原は,古来同じ発音で,もともとほぼ同義なのに,どうして元気と原気と,二つの書き方が有るのか。原気という書き方は,明以降に多い。おそらくは避諱のせいだろうというお話。
(王明強さんは,南京でいろいろお世話になって,最後の答礼宴にも参加いただけたうちの男性のほうです。)



王旭東さんの「影宋本『重広補注黄帝内経素問』版本諸問題について」は,事情はよくわかりませんが,取りやめになりました。

2017年6月5日月曜日

漢字の現在

日本の文字とUnicode

http://www.taishukan.co.jp/kokugo/webkoku/series003_04.html
http://www.taishukan.co.jp/kokugo/webkoku/series003_05.html
http://www.taishukan.co.jp/kokugo/webkoku/series003_06.html
http://www.taishukan.co.jp/kokugo/webkoku/series003_07.html
http://www.taishukan.co.jp/kokugo/webkoku/series003_08.html

2017年5月26日金曜日

『康煕字典』 しんにょうの点の数

漢字の現在:皇帝が書かせた手書きの『康煕字典』―後編

手書きに対して最も神経質な王朝となった清代においてさえも、しんにょうの点の数など、「どちらでもよかった」のである。

http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/2017/05/15/%E6%BC%A2%E5%AD%97%E3%81%AE%E7%8F%BE%E5%9C%A8%EF%BC%9A%E7%9A%87%E5%B8%9D%E3%81%8C%E6%9B%B8%E3%81%8B%E3%81%9B%E3%81%9F%E6%89%8B%E6%9B%B8%E3%81%8D%E3%81%AE%E5%BA%B7%E7%85%95%E5%AD%97%E5%85%B82/

2017年5月2日火曜日

森立之『素問攷注』王冰解

重廣補註黄帝内經素問序
  (眉)『醫賸』卷上・王氷章可參看。又『玄珠密語』序曰:「余即遇玄珠子,與我啓萌,故自號啓玄子也。謂啓問於玄珠子也」。
  (眉)宋・沈作喆『寓簡』卷七作「王砅」,砅字從石從水。
  (眉)宋本『素問』及王氷事件,詳出『琳琅書目』卷九,宜參看。
  (眉)『集韻』十六・蒸「砅,披冰切。水激山也。或作砰」。又四十七・證「砅,蒲應切。水激石聲」。 
  (眉)『正字通』「韓愈詩:瓿墅輾砅砰」。【瓿,「競」同。】
  (眉)『文選』江賦:「砅巖鼓作」。注:「砅,水激巖之聲也」。
  (眉)方以智『通雅』卷十二曰:「王砅,唐太僕令,自號啓玄子。陳、晁皆作砅。『本草』、『六書故』、『月令廣義』皆引作冰」。
  (眉)『皇朝類苑』卷五十九曰:「李陽氷深於篆隷,而名作冰,音凝。故參政王公堯臣但讀氷字曰:「陽凝」無義,唯陽冰有『不治(當作冶)』之語」。
  (眉)『文館詞林』四百五十七首有「東晉孫綽作庾冰碑銘,其序曰:君諱冰,字季堅」。

【補注】
0181○冰字解(補二オ頭)
・『說文』「仌。凍也」。〈鉉〉音「筆陵切」。隷俗作「氷」。『說文』「冰。水堅也。从仌从水」。〈鉉〉音「魚陵切」。又曰:「今作筆陵切。以爲冰凍之冰」。又『說文』「凝。俗冰。从疑」。(補二オ頭)
・案。啓明玄道而成正。故名〈冰〉。字〈啓玄〉。又『淮南』兵略「典凝如冬」。注「凝。正也」。『文選』七命「天凝地閉」。注「凝猶結也」。『五常政大論』「其候凝肅」。注「凝。寒也」。『文選』劉公幹詩「凝寒」。注「凝。嚴也」。『左傳』僖五注「啓。立春立夏」。『又』昭十七疏「立春立夏謂之啓」。宋本『素問』診要經終「陰氣始冰」。〈王〉注「陰氣始凝」。可知冰即凝。字非仌俗。與『生氣通天論』(當作『四氣調神大論篇』)「水冰」自別。蓋俗作冰。於是「冰」復作「凝」爲恐混也。(補二オ頭)
0182○王氷(補二オ)
・和坊刻〈王〉注本本書、『新唐志』、『宋志』、『書録解題』原面、『崇文總目』、『愛日書目』、『文獻通考』二百二十二引〈陳氏〉一見作「王氷」。『甲乙』卷一注引「王氷曰」二見。〈毛晉〉本『新唐書』宰相世系表作「王氷」。[文見次條]
・『書』皐陶謨「庶績其凝」。〈孔〉傳「凝。成也」。『釋文』「馬云:定也」。『正義』引〈鄭〉注「凝。成也」。『易』鼎卦象「正位凝命」。〈鄭〉注「凝,成也」。
0183○王冰(補二オ)
・『通雅』十(當作「十二」)引『本草』,又引『六書故』,又引『月令廣義』。本書古抄本。本書宋本正脈本。本書元板本。『四庫提要』。〈馬玄臺〉書。(補二オ)
・『新唐書』宰相世系表弟十二中「汾州長史王滿亦太原晉陽人云云」下曰:「冰。京兆府參軍」。嘉靖十年刊版紙如此。〈毛晉〉刊本作「氷」字。
0184○王砅(補二オ)
・『寓簡』七。『通雅』十(當作「十二」)。『通雅』引〈陳〉〈晁〉。『提要』引〈晁公武〉『讀書志』。
0185○王砯(補二オ)
・『崇文總目』〈錢侗〉注釋引一本。〈趙希弁〉『讀書後志』。『文獻通考』二百廿二引〈晁氏〉〈陳氏〉。『古今偽書考』。
0186○王氷(補三ウ)
・『四庫提要』曰:「冰名見新唐書宰相世系表,稱爲京兆府參軍。林億等引『人物志』,謂冰爲太僕令。未知孰是。然醫家皆稱王太僕。習讀億書也」。『舊唐書』韋抗傳曰:「抗爲京畿按察使時,擧奉天尉梁昇郷、新豐尉王倕、金城尉王冰、華原尉王燾爲判官及度支使。其後昇郷等皆名位通顯,時人以抗有知人之鑒」。
・『四庫提要』曰:「王冰其名,晁公武『讀書志』作王砯。杜甫詩有『贈重表姪王砯詩』。亦復相合。然唐宋『志』,皆作冰。而世傳宋槧本,亦作氷字。或公武因杜詩而誤歟」。(補三ウ)
・『天禄琳琅書目』曰「按晁公武『讀書志』、陳振孫『書録解題』,倶稱王冰,自號啓玄子。陳氏又稱其寶應中官太僕令,而爲王氷之名載于『讀書志』及『文獻通考』者,竝作砯。惟『宋史』藝文志,仍作冰字。按『集韻』、『韻會』諸書,砯竝音砰,爲水撃出岩聲,與氷字音義廻別。据此,書作氷,則知晁馬二家之誤也」。(補三ウ)
・『醫賸』有〈王氷〉說。宜記。(補三ウ)
 【『医賸』国会図書館デジタル http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2555673?tocOpened=1 二十一コマ目】
・『醫籍考』曰:「按郎官石柱題名有金部員外郎王氷,是當時所自署,益知作氷爲正」。

2017年5月1日月曜日

王冰(おうぎょう)?

 『漢方の臨床』4月号に,矢数道数先生の「温知荘雑筆--人名・書名の正誤のこと--」(1963年)が再掲載されています。
 理由が説明されていないため,??と思ったのが次の3つです。

1.王 冰  ×おうひょう  ☞  ○おうぎょう
2.葛 洪  ×かっこう    ☞  ○かっきょう
3.抱朴子 ×ほうぼくし  ☞  ○ほうはくし

『漢辞海』によると音は次のとおり。
1.【冰】 (漢)(呉)ヒョウ 
2.【洪】 (漢)コウ、(呉)グ・コウ
3.【朴】 A.B.(慣)ボク、(漢)ハク,C.ホク

 これからすると,3.は「慣習音ではなく漢音で読みましょう」ということでしょうか。
1.2.については,よくわかりません。
思い当たる方がいましたら,よろしくお願いします。
 

2017年4月26日水曜日

李今庸《古代医事編注》 あてにならない注(もある)

該書由李今庸教授選錄唐、宋、元、明、清朝等著名的典籍筆記中有關中醫藥醫事史料予以製卡,並據卡內容分類,對原文加以較詳細註釋。


李琳というひと(おそらく李今庸先生のむすめ)の注がついている。
うるさいくらい注がついている。
ありがたくはあるが,理解できないながら注をつけたところがある。
例:
26頁:明 王世貞撰『弇山堂別集』卷九十四・中官考五:弘治十八年五月,上崩,司設監,太監張瑜,掌太醫院事右通政施10欽,院判劉文泰,御醫高廷和下獄。初,上以禱雨齋戒,偶感風寒,命瑜與太醫院議方藥,瑜私與文泰,廷和不請診視,輒12用藥以進,繼與欽及院判方叔和、醫士徐吴等進藥,皆與症乖,先帝遂彌留,中外痛恨。……
注10通政施:通政司。
○「欽」という字は,基本的に皇帝に関することばにつかわれる。ここでは意味をなさないであろう。後文からすれば,「通政」は「通政司」の略で,「施」は姓で,「施欽」というひと。
「司設監,太監張瑜」は「司設監の太監張瑜」で「,」は不要ではなかろうか。
「瑜私與文泰,廷和不請診視」の「(劉)文泰」と「(高)廷和」は同格で,「瑜私與文泰、廷和不請診視」とすべきではないか。

注12輒:①総是。②立即,就。③専擅,独断専行。
○辞書を引き写すのではなく,ここではどの意味か,ひとつ書けばすむことではないか。
・なお,「徐吴」を『明實錄』は「徐昊」,『文淵閣四庫全書』は「徐旻」に作る。姓が「徐」で,「吴」という名はありそうもない。

55頁:宋 洪邁《夷堅志補》食挂:……醫莫能愈,乃趨01郡謁史載之。吏曰「俗醫不讀醫經,而妄欲療人,可歎也」。……史君名堪10,最善醫,……
注01趨:①趕快,快走。②趨向,奔向。③小歩快走。
○ここも意味を三つならべる必要はなかろう。
注10名堪:名声更顕。
○史載之の名が「堪」であるのを知らなかったのだろう。
・なお,意味から考えると,「吏曰」は「史曰」のあやまりだとおもう。

67頁:『夷堅三志辛・興教寺僧』:臨安11西湖12上興13教寺14,一僧15年方16四十餘歲,得頭頼之疾17……。
注:13興:時興,興盛。/14教寺:宗教寺院。/17:頭頼之疾:發生在頭皮上的癬頼,表現……。
・タイトルからして,西湖のほとりにある「興教寺」でしょう。どういうつもりで,「興」と「教寺」字をわけて注をつけているのでしょうか?
・「頭頼之疾」とは,頭部にできる皮膚病だとして,症状を説明していますが,下文(扶之則仰,按之則俯,擁之左則左,移之右則右,若非他人運轉,輒終日不動。 ……若積之五臟,硝毒發作,能令人骨軟)から考えれば,「頼」は「軟」字の誤字でしょう。
82頁:『夢溪筆談・技藝』:天章12閣13待制14……
注:12天章:①章,文采,……。②𦾔稱帝王所作的詩文。……/13閣:樓臺亭閣。
・天章閣:宋代の宮中にあった藏書閣の名。宋の真宗天禧四年に建築がはじめられ,翌年に完成した。

79頁:《夷堅志・張小娘子》……又轉以教厥01夫。
注01厥:代詞。他的,那個。
・張小娘子が夫に教えたのだから,漢語としては,「他的=かれの」ではなく,「她的=彼女の」ですむはず。

91頁:《庚已編》
・正しくは《庚巳編》

97頁:『清稗類鈔・蒙古醫療周尚白傷』:……上馬鞭山,弔孤竹07少君之冢08。……經長城,墜車,車輪轉股上,股斷。遇蒙古醫,置股於冰,令僵09徐剖肉,視骨,粉碎,為聯綴,緝桑皮紉之,飲以藥,五日而能行矣。
注07孤竹:①竹の一種。……②古代の一種の管楽器。③古国名,墨胎氏。在今河北盧龍南。
08冢:墳墓。
09僵:硬。
・以下,孫引き:清顧祖禹《讀史方輿紀要》記載:“孤竹城:府西十五里。……《水經注》:孤竹祠,在山上,城在山側。今山陰,即古孤竹城。《志》云:孤竹山在城西北二十里,其相近有雙子山,孤竹長君墓在焉,一名長君山。又西有馬鞭山,孤竹少君墓在焉,一名少君山。……”
孤竹君与商王同為子姓,墨胎氏,又作“墨台氏”、“墨夷氏”、“默夷氏”或“目夷氏”,炎帝之后。公元前1600年,商湯滅夏桀。成湯十八年(公元前1582年)三月丙寅,分封有功之臣,封孤竹等諸侯國。
なお,この上にある文の「、」三つは,「,」とすべきではないか。
・「令僵徐剖肉」は「令僵,徐剖肉」で「僵」は「かたい」ではなく「倒す」で,周尚白を寝かせて,ゆっくり肉を裂いたのだろう。

99頁:『清稗類鈔・潘龍田精於醫』:楔05齒,少注藥……。
注05楔:①一種似松而有刺的喬木。②填充空隙的木橛、木片等。
・「楔」は,動詞で,口齒をこじあけるためにくさびをいれることだろう。《儀禮‧士喪禮》:“楔齒用角柶。”鄭玄 注:“為將含,恐其口閉急也。”