2017年6月26日月曜日

尚賊人子

『漢方の臨床』2017年第6号に長野仁氏所蔵の張仲景像が掲載されている。
その賛の一部に「學之不精尚賊人子」とある。
これを解説者は、「これを学びて精(くは)しからざれば、尚ほ人子を賊(そこな)ふ」とよんでいる。
「人子」とは、「ひとのこ、こども」の意味である。大人はそこなわないのだろうか。
ここは「尚ほ賊人子」とよんだ方がいいのではなかろうか。
「賊人子」は「賊子」と同じで、「親を害するような不孝の子」(『大漢和辭典』)という意味ではないか。
「人」は四文字に合わせるために入れたのであり、上文の「可祖而述張仲景氏」の「而」と同じように、実質上の意味はないのではないか。
あるいは、『儒門事親』の序など、多くの医書に引用される「為人子者、不可不知醫」(こどもであるなら【親のために】医学を知ることは絶対必要である)が念頭にあって「人子」としたか。
「祖述すべきは張仲景であり、医学の学習に精を出さないのは親不孝である」という意味だとおもう。

6 件のコメント:

  1. 「賊人子」が賊人・賊子であるというのはなるほどと思うが,「尚ほ賊人子(のごとし)」といいたいときも,「尚」字でいいのだろうか。

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  2. 山本惟孝(和歌山藩の儒者)の四言の賛詩
    扁倉邈矣誰敢得擬
    可祖而述張仲景氏
    學之不精尚賊人子
    戒哉慎哉遺容在此
    遺容は、生前の肖像。
    「尚(なほ)」は「まるで~みたいだ」の「なほ~(のごとし)」ではなく、「いまなほ」の「尚」で、「まだまだ親不孝だ」という意味だとおもいます。
    ややこしくなるから「人子」の例としては出さなかったのですが,
    『靈樞』史崧敘:「是故古人有言曰:為人子而不讀醫書,猶為不孝也」。
    の,「猶」とは,ちがうとおもいます。

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  3. なるほど。
    「学んではいるけれど精ではない」,だから「尚ほ賊人子」(まだまだ親不孝だ)というわけですね。
    学んでも無ければ,これはもう,猶お賊人子のごとし。
    すっきりしました。ありがとうございます。

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  4. 『新字源』の助字解説が一番わかりやすいようです。
    【猶】①なほ…ごとし。事理の類似を表わす。②なほ。(ア)時間的・事理的に,まだやはり。それでもなお。(イ)…でさえなお。……
    【尚】①なほ。(ア)いまもなお。(イ)さらに。そのうえに。それでもなお。……

    「學之不精尚賊人子」をみて,「学んでも好い加減なことでは,親を害する不孝の子のようなものだ(なお賊人子のごとし)」と思ってしまったのが失敗で,そういう場合に「尚」で良いのか,と不安になったことは,まあまあだった,のかな。

    そういえば,『新字源』が秋には改訂版らしいですね。いわれて取り出してみたら,文字が小さい小さい。これって大きな版も有ったんですかね。今のB6のものだけだったら,出ても買わないと思う。買えないと思う。

    「尚」の本義は,重んずるとか,こいねがうとかだろうから,否定的な内容の上にもつかえるのか,という感覚も有りました。でも食貨志に「虚郡國倉廩以振貧,猶不足,又募豪富人相假,尚不能相救」と有るらしいから,まあ良いのでしょうね。

    『文語解』には,尚のほうが猶より重い,としてます。

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  5. 重也は、重ねるなり、でしょうね。

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  6. 『文語解』
    http://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/ho04/ho04_01857/ho04_01857_0001/ho04_01857_0001.pdf
    の19コマ目。

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