2017年8月13日日曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕13

十 水腫門 うきやまひ
△夫(それ)水腫の疾(やまい)、其(その)症多しといへども、一大(いつたい)要領は、虚実を見て治(ぢ)すべし。針灸(しんきゅう)も効(こう)を奏(とる)こと多しといへども、其(その)治(ぢ)
十三オモテ
法は、食を減じ、塩味(ヱンミ/しお)・肉味(にくみ)を禁ず。能(よく)其(その)方症を対(たい)して平易(へいい)の行気(こうき)利水(りすい)の剤(さい)を投ずれば、通身(みうち)皷(つづみ)のごとく腫脹するものも、必(かならず)連々(れんれん)に験(しるし)を奏(と)る。然れども虚(キョ/へり)腫の類(るい)は、脾胃大(おおい)に虚乏(つかれ)、水を制すること能(あた)はず、精臓(セイゾウ/じんすい)虚(キョ/へり)冷(れい)から致(いた)すなれば、決して針灸(しんきゅう)を用ゆべからず。其(その)治(ち)法(ほう)は、大抵附子(ぶし)の入〔イリ〕たる薬方を証(しょう)に対(たい)し、照(てら)して與(あた)ふべし。易(やす)く治(ぢ)せず。元(もと)脾胃の気和(か)せざるより、水(みず)皮膚に妄行(モウコウ/みだりにゆき)して、小便(しょうべん)利(り)せず、遂に浮病(うきやまい)となる。方書(ほうじょ)に云(いう)、水分の穴(けつ)を針(はり)して、水尽(つく)れば斃(たお)るとあり。然れども浮腫(うきはれ)甚(はなはだ)しきときは、飲食なりがたし。腹(はら)に太皷(たいこ)を抱(いだく)に似て気(いき)促(だわ)しく、神(シン/こころ)悶(もだ)へ乱れて
十三ウラ
已(すで)に死せんとするあり。其(その)時(とき)急に救(すくう)べし。
〔・連々:たえず、ゆっくり。/・いきだわし:息だはし。「息労(いた)はし」の転。息づかいがはげしくて苦しい。息苦しい。息切れがする。/・急に:いそいで。 〕
〔『鍼灸資生經』卷一・腹部中行:「水分……禁針。針水盡即斃」。〕
○三稜針にて水分の穴(けつ)を刺(さ)し、水を出(いだ)し取(とる)こと三分(さんぶ)の二つなり。脹(はり)下(さが)りて臍(へそ)の辺(へん)にいたり、未(いま)だ水(みず)を竭(つく)すに至らず、急に血竭(けつかつ)の末(こ)、又は寒水石(かんすいせき)の末(こ)を針(はり)の穴(あな)へ塗(ぬり)付(つく)れは、即ち塞(ふさい)で水止(とどまる)なり。
〔『鍼灸經驗方』腫脹:「浮腫・鼓脹、乃脾胃不和、水穀妄行皮膚、大小便不利之致也。方書云、鍼水分、水盡則斃。然而水脹甚、則不能飲食、腹如抱鼓、氣息奄奄、心神悶亂、死在頃刻。當其時、若不救急、則終未免死亡。愚自臆料以謂等死莫如救急、鍼水分、出水三分之二、脹下至臍、未至盡水、急用血竭末、或寒水石末、塗付鍼穴、即塞止水」。
・血竭:ヤシ科のキリンケツヤシ(麒麟血・麒麟竭やし)の果実が分泌する紅色樹脂を塊状に固めたもの。 /・末(こ):粉(こ)。粉末。 /・寒水石(かんすいせき)は古くが芒硝の天然結晶体をいっていました。日本の正倉院御物にある寒水石は石灰芒硝という説もあります。 現在、市場に出ている寒水石(かんすいせき)には2種類あり、中国北部では紅石膏、中国南部では方解石が一般的であります。方解石の主成分は炭酸カルシウムで、その他にマグネシウム、鉄、マンガンなども含む。紅石膏の主成分はCaSo・2H2Oで、微量の鉄、アルミニウムを含みます。 漢方では清熱・除煩・生肌の効能であり、熱性疾患や煩躁、歯肉炎、丹毒、やけどなどに用いられます。〕
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○浮腫(フシュ/うきはれ)の人(ひと)、陰茎(いんきょう)・陰(き)卵(ん)倶に腫(はれ)るものなり。睾(きん)・外腎(ガイシン/へのこ)に針(はり)して多く水を出(いだ)せば安(やす)し。水絡(すいりゃく)をみて刺(ささ)ざれば、水能(よく)出(いで)がたし。
〔『鍼灸經驗方』腫脹:「且浮腫之人、或有外腎及腎囊、亦致腫者、鍼刺腎皮及囊皮、多出黃水、則安。……如或出血、則不吉之兆也。蓋鍼外腎、出水者、通利小便之義也、吉。鍼手足、出水者、妄行皮膚之義也、凶。凡病加於少愈。都在慎攝而已」。『說苑』敬慎: 「官怠於宦成、病加於少愈、禍生於懈惰、孝衰於妻子」。
・外腎:腎囊。陰囊。舊時稱睾丸為外腎。清 黃六鴻 《福惠全書‧刑名‧檢肉尸》: “小腹、陰囊、外腎、玉莖。” / ・へのこ:陰核(陰嚢の中の核)。睾丸。転じて陰茎。 /・水絡:漢語の中医辞典に見えず。血絡から類推された日本漢方用語か。〕
△水絡(すいりゃく)の観候(みよう)、口授(くしゅ)。若(も)し初心(しょしん)の輩(ともが)ら妄(みたり)に鍼(はり)し過(すぎ)て血絡(けつりゃく)を刺(ささ)ば、大(おおい)に血(ち)を出(いだ)し、止(やむ)べからざるに至(いた)る。恐(おそ)るべし。慎(つつし)むべし。血絡(けつらく)の胗候(みよう)、口授(くじゅ)。
〔胗:「診」に通ず。〕
○惣身(そうみ)及び面(かお)も手足も浮き脹(はり)て、洪大(こうだい)なるは、内踝(うちくるぶし)の下(した)、白き肉の
十四オモテ
際(あいだ)に灸すること三壮(ひ)。能(よく)脹(はり)を銷(しょう)し、小便を利す。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・滿身卒面浮洪大:「內踝下白肉際三壯、立效」。〕
○水腫、腹脹(はらはり)たるには、水分・三陰交に灸百壮(ひ)。陰蹻に七壮(ひ)。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・水腫腹脹:「水分・三陰交、幷百壯。幷治五臟兪穴中脘。針後按其孔、勿令出水。陰蹻七壯」。
・陰蹻:照海あるいは交信。後文によれば、交信であろう。〕
○手足(てあし)・面目(かおめ)のあたり、浮(うき)たるには、人中・合谷・照海・絶骨・下(しも)三里・曲池等(とう)に針(はり)すること五ア〔=ぶ〕。又(また)中脘に一寸。七日にして腫(はれ)銷(しょう)し、神(しん)安(やすう)して、食を進む。妙(みょう)。後(のち)艾火(やいと)を用ひて再び発せざるあり。口伝(くでん)。
〔『鍼灸經驗方』腫脹・四肢面目浮腫:「照海・人中・合谷・下三里・絕骨・曲池・中脘針。腕骨・脾兪・胃兪・三陰交」。
・五ア:「ア」は、「部」字の旁のみを残した略体。以下、この「ア」字は、「部」とする。意味は「分」。〕

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