2026年5月11日月曜日

  天応穴について

  宮川浩也氏は,第 114 回 日本医史学会・第 41 回 日本歯科医史学会における発表で

(http://jshm.or.jp/journal/59-2/59-2_215.pdf)

天応穴の初出を明の「李梴の『医学入門』(1576 刊)」としているが,元・王國瑞『扁鵲神應鍼灸玉龍經』身痛に「不定穴:又名天應穴,但疼痛便鍼,鍼則臥,鍼出血無妨,可少灸」とある。こちらの方が早い。

 宮川氏は,李梴が言う「徐氏」とは,「徐煕,徐秋夫の末裔を指すと考えられる」とまとめられている。

 「徐氏」とは,徐鳳のことであると思われる。以下,その根拠を示す。


 『醫學入門』の「徐氏」には,以下の引用がある。

(https://jicheng.tw/tcm/book/醫學入門/index.html)による。


1. 卷首・集例:經絡,修明堂仰人伏人圖歌,而注以《內經》。寸數穴法主治,與《銅人針灸經》及徐氏、莊氏皆同。……

2. 灸必依古,針學曾受五家手法,取其合於《素》、《難》及徐氏、何氏,錄之以備急用。

3.  德醫:胡宗仁 字彥德,國朝晉陵人。父禎善醫術,常州路醫學錄,母徐氏亦知醫,學錄早喪,守節四十餘年,常藥濟人。至公醫業尤精,其配李氏,有婦德,亦知醫。(これは関係がない)

4. 針灸・子午八法:若夫折傷跌撲、損逆走痛,因其病之所在而針之,雖穴亦不顧其得與否也。(指痛針痛,徐氏謂之天應穴) 此穴法之大概也。(宮川氏の出典)

5. 附:雜病穴法:徐氏有歌云:甲日戌時膽竅陰,丙子時中前谷滎,戊寅陷谷陽明俞,返本丘墟木在寅,庚辰經注陽谿穴,壬午膀腕委中尋,甲申時納三焦水,榮合天干取液門。……

6. ……假如甲日膽經為主,他穴為客,針必先主後客。其甲戌時,乃癸日戌時,則不必用,只用丙子時起。余仿此。愚反復思玩,乃悟徐氏諸書,未嘗明言也。

7. ……靈龜八法專為奇經八穴而設,其法具載徐氏針灸,乃竇文真公之妙悟也。

8. ……徐氏曰:通氣接氣之法,已有定息寸數。手足三陽,上九而下十四,過經四寸……

9. ……再考《難經圖注》,及徐氏云左與右不同,胸與背有異,然後知其源流有自。

10. 灸法:……藥之不及,針之不到,必須灸之。詳徐氏針灸等書……

11. 雜病用藥賦:……徐氏硫苓丸 礬制硫黃一兩,白茯苓二兩……


 この中に「徐氏針灸」が2回出てくる。

 黄龍祥氏は『針灸名著集成』の解説部分(『鍼灸古典の解説 『鍼灸名著集成』の解説部分の翻訳(改訂新版)』,日本内経医学会,2021年,136頁)で,『鍼灸大全』について,

    本書の書名に関しては、『明史』芸文志は『徐氏鍼灸』と記し、周弘祖の『古今書刻』も同じである。明中期の医書である徐春甫の『古今医統』や李梴の『医学入門』はいずれも「徐氏鍼灸」として著録する。現存する明万暦間刻本の多くは『鍼灸大全』と題する。

と述べている。

 そこで,『醫學入門』に引用されている「徐氏」の言葉が,徐鳳『鍼灸大全』(《鍼灸大全》,人民衛生出版社,1987年;明萬曆鄭氏宗文堂刊本(国立公文書館掃描本))にみられるかを検索した。(https://jicheng.tw/tcm/book/針灸大全/index.html)

 https://www.digital.archives.go.jp/img/4774053#1(新鋟太医院参訂徐氏鍼灸大全)

 https://www.digital.archives.go.jp/img/4410574#1(鼎雕太医院校正徐氏針灸大全)

 で画像が確認できる。

 (『徐氏鍼灸』(『鍼灸大全』)は,版本と伝本の系統が複雑(『鍼灸古典の解説』137頁~)であり,内容にも異同が多い。)



    八法主治病證  ○白虎歷節風疼痛:肩井二穴 三里二穴 曲池二穴 委中二穴 合谷二穴 行間二穴 天應一穴(遇痛處針,強針出血。)

      ○走注風遊走,四肢疼痛:天應一穴 曲池二穴 三里二穴 委中二穴


ここに「天應」という語が見える。


 ①子午流注逐日按時定穴訣に,「甲日戌時膽竅陰,丙子時中前谷滎,戊寅陷谷陽明俞,返本丘墟木在寅,庚辰經注陽谿穴,壬午膀胱委中尋,甲申時納三焦水,滎合天干取液門。」とあり,『醫學入門』5.の引用文に対応する。

 ②靈龜八法之圖あり。

 ③梓岐風谷飛經撮要金針賦に「左與右有異,胸與背不同」,「通經接氣之法已有定息寸數。手足三陽,上九而下十四,過經四寸;手足三陰,上七而下十二,過經五寸。……」とあり,『醫學入門』9.と8.の引用文に対応する。


 以上のことから,『醫學入門』が引用する「徐氏」とは,徐鳳であると考えられる。

2026年1月14日水曜日

『鍼灸重宝記』校註 (一部)

 

○牙齒(げし) きば・はのやまひ 

▲牙痛は陽谿・少海・曲池・陽谷・二・厲兌。  140頁上段うしろ2行目:

★「二門」は,『神應經』鼻口部・牙疼によれば「二」の誤り。

▲上牙痛には人中・内庭・大淵・呂細・少海・三里。  140頁上段うしろ1行目:

★呂細:出典と思われる『神應經』鼻口部・牙疼にしたがって「内踝骨の尖り上に在り」を加える。

▲下歯いたまば、龍玄側腕交刃・承漿・合谷・三間。  140頁下段1行目:

★龍玄側腕交刃:出典と思われる『神應經』牙疼にしたがって,「龍玄(側腕交叉脈に在り)」とする。

 

 ○婦人の科

▲月水調(ととなふ)らざるには‥‥又肩兪効あり。 147頁下段2行目:

★「兪」は,『神應經』婦人部・月脈不調によれば「腎兪」の誤り。

▲腿痛は骨康し。 148頁下段2行目:

★出典は,『鍼灸聚英』手足腰腋女人:「假如腿痛寘骨康」(「寘」は「置」の異体字)。これをそのまま引用している。

『鍼灸聚英』の出典は『神應經』手足腰腋部の「腿痛:骨」であると思われるので,「寘骨」は「骨」の誤りであろう。寛骨は,また「髖骨」に作る。

・『扁鵲神應鍼灸玉龍經』腿痛:「髖骨能醫兩腿痛」。髖骨:在膝蓋上一寸,梁丘穴兩傍各五寸。直針半寸,灸二七壯,隨病補瀉。

・「梁丘穴兩傍各五」は,不審。

・『類經圖翼』卷10・奇兪:「髖骨:在膝蓋上,梁丘旁外開一寸」。

・『鍼灸大成』通玄指要賦(楊氏注解):髖骨將腿痛以祛殘髖骨二穴,在委中上三寸,髀樞中,垂手取之,治腿足疼痛,針三分。一云:『跨骨在膝臏上一寸,兩筋空處是穴,刺入五分,先補後瀉,其病自除。』此即梁丘穴也,更治乳癰。按此兩解,俱與經外奇穴不同,並存,以俟知者。)

・『針灸奇穴辞典』328頁:【経穴との関係】梁丘穴(胃経)の両側1寸5分のところ。

・間中喜雄訳『奇穴図譜』120頁:膝蓋骨の上2寸,梁丘穴の両側各1寸のところ。

A+醫學百科:「在大腿前面下部,當胃經梁丘穴兩旁各1.5處,一側兩穴;正坐或仰臥取穴。」

 https://cht.a-hospital.com/w/骨穴

・『針灸奇穴辞典』には,『醫經小學』:「梁丘穴の両側各1寸5分のところ」とあるが, 吉田宗恂『重編醫經小學』のことか。『重編醫經小學』卷8下・鍼灸下・手足腰腋に「假如腿痛骨康」とあるが,部位に関しては未詳。

 

▲血塊には復溜・三里・気海・丹田・復帯・三陰交。 148頁下段9行目:

★『重宝記』は『鍼灸聚英』手足腰腋女人の「血塊曲泉復溜中,三里氣海丹田同,復帶三陰交一穴,醫人須當仔細攻」による。

・対応する『神應經』婦人部・血塊は,「曲泉 復溜 足三里 氣海 丹田 三陰交」で,「復帶」はない。

 つまり「復帶」は穴名ではない。七言詩を構成する語の一部であり,「復帶三陰交一穴」は「復た三陰交の一穴を帶ぶ」。

 

妊婦 はらみおんな

▲子なきは三丘・中極。 148頁下段うしろ2行目:

・「三丘」は「商丘」の誤りか。

★『鍼灸聚英』手足腰腋女人:「絕子商丘中極攻」。

★『神應經』婦人部・絕子:「商丘 中極」。

・なお「絕子」は,子を産む機能を絶つことであろう。