2017年9月2日土曜日

仮名読十四経治方 〔翻字〕24

廿一 中毒門 どくにあたる
△凡(およそ)物(もの)食して忽(たちま)ち痛(いたむ)ものは、物(もの)毒ありて胃化(か)することあたわず、故(ゆえ)に胃中に受(うけ)ずして、胃口に溜(とど)む。滞(とどこお)るときは、痛(いた)む。多くは吐(とし)て止(やむ)べし。又(また)物(もの)食して一二時(じ)を遇(すご)し、或(あるい)は一日(いちにち)を経て、臍下(さいか)臍傍(さいほう)にて疼(いたむ)ものは、物(もの)毒ありて胃化せず、腸胃に滞(とどま)り痛(いたむ)なり。
〔・遇:「過」の誤字。四オモテにもあり〕
下(くだ)して治(ぢ)すべし。針灸(しんきゅう)の能(よく)及ぶ所にあらず。又河豚(ふぐ)の毒に中(あたり)たるは、毒に酔(えい)たるなり。血(ち)を吐(はき)て既(すで)に已(すで)に死すといへども、必ず葬るべからず。四五日を経て蘓(よみがえ)るもの多くあり。譬(たとえ)ば酒に酔(よう)と同
三十一オモテ
じ。毒醒(さむ)れば、蘓生(そせい)すべし。又(また)少(すこし)く中(あたり)て、心中(しんぢゅう)快々(おうおう)とあしく、腹痛せば、急に胆礬(たんはん)の末(まつ)を湯(ゆ)に拌立(かきたて)呑(のめ)ば、其(その)侭(まま)吐逆して愈(いゆ)べし。瓜葶もよし。
〔・快:添えカナと意味から、「怏」のあやまり。『鍼道秘訣集』に「胃快(イクワイ)之針」あり。「大食傷の日(とき)、針(はり)先を上へ成(なし)、深く荒荒(あらあら)と捏(ひねる)。大法是の針にて食を吐き、胃の府くつろぎ快(こころよく)なるが故に胃快の針と号す」という。これは、もともと「胃怏(々)の針」(胃の不快感に対する針)であった可能性はないだろうか?/・「末」は「粉末」。/・膽礬:鉱物(硫酸塩鉱物)の一種。化学組成は硫酸銅(II)の5水和物(CuSO4・5H2O)であり、水によく溶ける。加熱すると結晶水を失って白色粉末になる。又名膽子礬、藍礬、立制石、石膽。內服刺激胃壁神經,反射性引起嘔吐,大量嘔吐可致脫水或休克,同時刺激胃腸黏膜,引起黏膜損害,造成穿孔。/・瓜葶:瓜蔕。本品為葫蘆科一年生草質藤本植物甜瓜 (Cucumis melo L.) 的果蒂。【功效】涌吐痰食,祛濕退黃。用於痰熱鬱于胸中及宿食停滯于胃所致的多種病證。瓜蒂味苦涌泄,性寒泄熱,具涌吐熱病、宿食之功。治病熱鬱于胸中而為癲癇發狂,或喉痹喘息者,可單用研末吞服取吐,小豆為末,香豉煎湯送服,如瓜蒂散。 《本經》:「咳逆上氣,及食諸果,病在胸腹中,皆吐下之睜」。〕
○食毒、心下(しんか)に滞(とどこお)りて疼(いた)痛(み)、或(あるい)は悶(もん)し苦(くるし)むには、幽門・通谷の辺(へん)より針(はり)して、逆(さかさ)まに上(うえ)へ鳩尾に向(むけ)刺(さす)べし。忽(たちま)ち吐(と)す。吐物(とぶつ)尽(つき)て治(ぢ)す。
△予(よ)先年阿波(あわ)の州(くに)に遊んで、河豚(ふぐ)の毒に中(あた)りて已に死(し)たる人(ひと)を見るに、既に死せり。針灸(しんきゅう)更に駮(しる)しなく、亶中・湧泉・神闕、何(なに)の応ずることか有(あら)ん。況(いわん)乎(や)湯(くす)液(り)の咽(のんど)に下(くたす)べき手術なし。親属相(あい)集(あつま)りて葬(ほうむり)を談ず。一日一夜(や)を経て、遂に棺(かん)に斂(おさ)め框(ひつぎ)を曳(ひく)に至(いたり)て何(なに)か頭(こうべ)微(すこ)しく顫(うごく)を見る。驚(おどろき)て、予(よ)
三十一ウラ
をして胗(しん)せしむ。乃ち心下(しんか)微(び)陽(よう)を覚(おぼ)ふのみ。然(しかれ)ども手(しゅ)散(さん)し口開(ひら)ひて、素(もと)のごとし。
〔・死(し)たる:「死(しし)たる」か?/・駮:「験」か「効(效)」に作るべし。〕
〔(宋)楊士瀛撰『仁齋直指方論』卷之三 諸風・風論:「至若口開手散,瀉血遺尿,眼合不開,汗出不流,吐沫氣粗,聲如鼾睡,面緋面黑,發直頭搖,手足口鼻清冷,口噤而脈急數,皆為不治之證」。「散」は「撒」(放開、散放)の意。撒手:鬆手(手をゆるめる)、放開」。『古今醫統大全』卷之八 中風門・丹溪治法:「《脈訣》內言諸不治證︰口開手撒,眼合遺尿,吐沫直視,喉如鼾睡、肉脫筋痛、發直、搖頭上竄、面亦如妝、或頭面青黑,汗綴如珠,皆不治」。〕
かくて葬(かふむる)に忍(しのび)ざれは、更に一日を経(ふる)に心下(しんか)の微(び)陽(よう)竭(つき)ず、三日に至りて遂に蘓(よみがえる)べきことを得(え)たり。後(のち)これを語り、彼(かれ)を聞(きく)に、是(かく)のごときの類(るい)、間(まま)あり。中毒の軽きは両(りょう)三(に)日(ち)、重きは四五日を過ぎて生(しょう)を回(かえ)すもの多しと。豈(あに)卒(そつ)葬(そう)をなすべけんや。
〔・葬(かふむる):「ホふむる」とすべきであろう)〕

仮名読(よみ)十四(じゅうし)経(けい)治法(ちほう)上巻終

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