2024年4月2日火曜日

鍼灸溯洄集 67 卷下(13)疝氣

   卷下・十ウラ(746頁)

  (13)疝氣[センキ]

  【注釋】

 ○疝氣:hernia. 通常指腹股溝部的疝。因小腸通過腹股溝區的腹壁肌肉弱點墜入陰囊內而引起,症狀是腹股溝凸起或陰囊腫大,時有劇痛。也稱小腸串氣。/疝氣以少腹痛引睾丸,或睾丸、陰囊、少腹腫脹疼痛爲主症。體腔內容物向外突出且伴疼痛、腹脹。目前臨牀多指睾丸、陰囊腫脹疼痛、牽引少腹疼痛之症。也見於現代醫學的腹外疝、腹股溝斜疝、急慢性睾丸炎、副睾炎、鞘膜積液、陰囊絲蟲病及腸套疊、腸嵌頓、精索扭轉等多種病症中。

 ◉『病名彙解』疝氣:「俗に下風(しもかぜ)と云り。『內經』馬玄臺が註には,〈土積て高大なる者を山と云。疝は漸く積(つむ)の義なり〉。○骨空論に云……○『病源』に云……○『入門』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/366?ln=ja

 ★馬玄臺『黃帝內經素問註證發微』大奇論注:「積土以高大者曰山。疝有漸積之義,故名」。


疝本肝經濕熱欝久後感寒氣外束不得踈散作痛

  【訓み下し】

疝,本(もと)肝經の濕熱 鬱久して後(のち),寒氣に感し,外(ほか)束(つか)ねて踈散することを得ず,痛みを作(な)す。

  【注釋】

 ○欝:「鬱」の異体字。積聚、凝滯。 ○踈:「疏」の異体字。分散:疏散。開通、使通暢。

 ◉『萬病回春』卷5・㿗疝:「疝氣者,疝本肝經,宜通勿塞,絕與腎經無干。或無形有聲,或有形如瓜,有聲似蛙,是疝氣病也。始初濕熱在經欝久,後感寒氣外束,不得踈散,所以作痛。


○腸中走氣作聲或痛盤腸氣也

  【訓み下し】

○腸中走氣 聲(こえ)を作(な)し,或いは痛み,盤腸氣なり。

  【注釋】

 ○盤腸氣:盤腸氣痛。病證名。見『嬰童百問』。又名盤腸痛、腸痛。症見腹痛曲腰,叫哭不已,不乳,面色青白,兩眉蹙鎖,大便瀉青,額上汗出等。多由小兒脾氣不足,感受寒邪風冷,搏於腸間所致。/(明)魯伯嗣『嬰童百問』卷之三・盤腸氣〔第二十二問〕:「盤腸氣者,痛則腰曲乾啼,額上有汗,是小腸為冷氣所搏然耳,其口閉脚冷上唇乾是也。此是生下洗遲感受風冷,或青糞不實,卻有此證」。

  https://ctext.org/library.pl?if=gb&file=31709&page=10

 ◉『指南』病名彙考・盤腸氣:「小兒疝氣の一症也。寒氣 小腸に鬱し,腸胃堅[カタシ]大にして盤の如し。亦蟠腸とも號(なづく)。『入門』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100314627/73?ln=ja

 ◉『病名彙解』盤疝・盤腸痛:  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/64?ln=ja

 ◉『萬病回春』卷5・㿗疝:「腸中走氣作聲,或痛者,是盤腸氣也」。


○小腹隂囊手按作響聲痛者膀胱氣也

  【訓み下し】

○小腹(ほうがみ)・隂囊,手にて按(お)せば,響聲(けいせい)を作(な)し痛む者は,膀胱の氣なり。

  【注釋】

 ○膀胱氣:病名。①指小腹腫痛而不得小便的病證。見『普濟本事方』卷三。『雜病源流犀燭』膀胱病源流:「膀胱氣,膀胱經病也。其症小腹腫痛,必小便祕澀」。②爲疝之別名。『奇效良方』疝門:「世俗呼爲小腸氣、膀胱氣、奔腸氣、蟠腸氣……由疝之爲病,其名別也」。或謂疝病之由膀胱經得病者,名爲膀胱氣,可用「毛際上小腹作痛」的症候(見『醫碥』疝)。

 ◉『萬病回春』卷5・㿗疝:「小腹陰囊,手按作響聲痛者,是膀胱氣也」。


○小腸臍傍一挭斘上釣雖硬大而不痛者腎氣也

  【訓み下し】

○小腸臍の傍ら一挭升(のぼ)り上(のぼ)り釣(つ)き,硬く大いなりと雖も,痛まざる者は,腎氣なり。

  【注釋】

 ○挭:古同「梗」,梗概。向上挺直。『紅樓夢』第二三回:「鳳姐聽了,把頭一梗」。 ○斘:「升」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・㿗疝:「小腸臍傍一梗升上釣痛者,是小腸氣也。小腹下注,上奔心腹急痛者,是腎氣也。陰子〔=睾丸〕偏大偏小者,是偏墜〔陰囊的一側腫大下垂的症狀〕也。陰子雖硬,大而不痛者,是水腎氣也」。


○一切疝氣者多因熱欝於中而寒束於外也

  【訓み下し】

○一切の疝氣は,多くは中(うち)に熱欝に因る,而して寒 外(ほか)に束(つか)ぬなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・㿗疝:「一切疝氣者,多因熱欝於中而寒束於外也」。


○疝氣發於寒月者多寒邪入膀胱

  【訓み下し】

○疝氣 寒月に發(お)こるは,多くは寒邪 膀胱に入(い)る。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・㿗疝:「疝氣發於寒月者,多是寒邪入膀胱也」。


  卷下・十一オモテ(747頁)

○疝氣發於暑月者多暑入膀胱也

  【訓み下し】

○疝氣 暑月に發(お)こるは,多くは暑 膀胱に入る。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・㿗疝:「疝氣發於暑月者,多是暑入膀胱也」。


○寒疝腹痛隂市[膝上三寸]太谿[足內踝後跟骨上動脉陷]肝俞[九推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○寒疝腹痛は,隂市[膝上三寸]・太谿[足の內踝の後(あと),跟骨(こんこつ)の上(かみ),動脈の陷]・肝の俞[九推【椎】の下,脊中を相い去ること各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「寒疝腹痛陰市宜,并及太谿與肝俞」。


○㿗疝腰引小腹兩丸縮大冲[足大指本節後二寸]中封[足內踝骨前一寸]曲泉[膝股上內側輔骨下]商丘[足內踝骨下微前]淺刺

  【訓み下し】

○㿗疝は,腰 小腹(ほうがみ)に引き,兩丸(きんたま)縮(しじ)まるに,大冲(しょう)[足の大指の本節(もとふし)の後二寸]・中封(ふう)[足の內踝(うちくるぶし)骨(ほね)の前一寸]・曲泉[膝(ひざ)股(もも)の上(かみ),內の側(かたわら),輔骨の下(した)]・商丘[足の內踝の骨の下微(すこし)し前]淺く刺す。

  【注釋】

 ★曲泉の部位:『鍼灸聚英』による。『鍼灸甲乙經』などによれば,「輔骨下」と矛盾するので,「股上」は衍文か。

 ○ホウカミ:「ほがみ」ともいう。したはら。 ○大冲:太衝。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「㿗疝曲泉與中封,再兼商丘與太衝。小腹下痛目痃癖」。

 ◉『鍼灸聚英』太衝:「主……腰引小腹痛,兩丸騫縮……」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「膝股上內側,輔骨下,大筋上,小筋下陷中。屈膝橫文頭取之」。

 ◉『鍼灸甲乙經』:「曲泉者,水也。在膝内輔骨下,大筋上,小筋下陷者中,屈膝得之」。


○小腹下痛目痃癖三里[膝下三寸]脾俞[十一推下去脊中各二寸]三隂交[踝上三寸]淺刺

  【訓み下し】

○小腹(ほうがみ)の下(しも)痛み,目痃癖(けんへき)するは,三里[膝の下(しも)三寸]・脾の俞[十一推【椎】の下(しも),脊中を去ること各二寸]・三隂交[踝上三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「小腹下痛目痃癖,太谿三里脾俞同,三陰交穴曲泉穴」。


○隂莖腫痛隂谷[膝下內輔骨後]隂陵泉[膝下內側輔骨下陷中]中極[臍下四寸]曲泉深刺

  【訓み下し】

○隂莖(へのこ)腫れ痛むに,隂谷[膝の下(しも),內輔骨(うちかまちほね)の後ろ]・隂陵泉[膝の下(した),內の側(かたわら)輔骨の下の陷中]・中極[臍下四寸]・曲泉,淺く刺す。

  【注釋】

 ○へのこ:睾丸。陰茎。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「陰莖腫痛治曲泉,陰陵陰谷與行間,太衝大敦太谿穴,腎俞中極三陰痊。陰莖痛兮陰汗出,太谿魚際與中極」。

 ◉『鍼灸聚英』中極:「主……陰癢而熱,陰痛……」。



○病疝自臍下至心背脹滿嘔吐不進飲食伯仁曰此寒在下焦章門氣海灸

  【訓み下し】

○疝を病んで,臍の下(した)自(よ)り心背に至って脹滿,嘔吐,飲食(いんしい)進まず。伯仁の曰わく,此れ寒 下焦(げしょう)に在り。章門・氣海 灸す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』章門:「魏士珪妻徐病疝,自臍下上至於心背脹滿,嘔吐煩悶,不進飲食。滑伯仁曰:此寒在下焦,為灸章門、氣海」。


  卷下・十一ウラ(748頁)

○卒疝小腹堅寒熱丘墟[足外踝下如前陷中]大敦[足大指端去爪甲角]照海[足內踝下]淺刺

  【訓み下し】

○卒疝,小腹(ほうがみ)堅く,寒熱に,丘墟[足の外踝(とくるぶし)の下(した),前に如(ゆ)く陷中]・大敦[足の大指の端(はし),爪甲の角を去る]・照海[足の內踝(うちくるぶし)の下(しも)]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』丘墟:「主……卒疝,小腹堅,寒熱頸腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「卒疝大敦與丘墟,兼治陰市與照海,四穴不失大效隨」。

 ◉『鍼灸聚英』大敦:「主……卒疝七疝……」。

 ◉『鍼灸聚英』席弘賦:「若是七疝小腹痛,照海陰交曲泉鍼」。

 ◉『鍼灸聚英』百證賦:「大敦照海,患寒疝而善蠲」。


○疝氣偏墜用小繩患者口角量一形分作三摺成三角如△字樣爲權衡一角安在臍心上兩角安在臍下兩角盡處是穴也予度度試得效神也

  【訓み下し】

○疝氣偏墜,小(ほそ)き繩を用い,患(うれ)う者 口の角(かど)を量り,一形(きょう)分けて三摺(みおり)と作(な)し,三角と成す。△字樣の如し。權衡と爲す。一角(かく) 臍心の上(うえ)に安在し,兩角 臍の下(しも)に安在して,兩角盡くる處(ところ),是れ穴なり。予(われ)度度(たびたび)試み效(しるし)を得ること神なり。

  【注釋】

 ★是穴也:刺すのか灸するのかの記載がない。『鍼灸聚英』によれば「是灸穴也」。

 ○摺:折疊。曲折。 ○安在:「安於」に同じ。「~に置く」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「疝氣偏墜用小繩,患者口角量一形,分作三摺成三角,如△字樣為權衡,一角安在臍心上,兩角安在臍下平,兩角盡處是灸穴。患左患右灸反更,各三七壯病立愈……」。

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