卷下・十五オモテ(755頁)
(18)遺精[イセイ]
邪客於隂神不守舎故心有所感夢也其候有三
【訓み下し】
邪 隂に客(やど)り,神(しん) 舎(しゃ)を守らず,故(かるがゆえ)に心 夢に感ずる所有り。其の候(うかが)い三つ有り。
【注釋】
◉『萬病回春』卷4・遺精:「邪客於陰,神不守舍,故心有所感,夢而後泄也。其候有三:」
○年少氣盛鰥曠矜持強制情慾不自覺知泄也
【訓み下し】
○年(とし)少(わか)く,氣盛んなる鰥(やもめ) 曠(むな)しく矜(つつし)み持(たも)って強(し)いて制し,情慾 自(みずか)ら覺えて泄(も)るることを知らず。
【注釋】
★「年少,氣盛鰥,曠矜持強制,情慾不自覺知泄也」と句切っていると思われる。
◉『萬病回春』卷4・遺精:「年少氣盛、鰥曠矜持,強制情慾,不自覺知,此泄如瓶之滿溢者也」〔強いて情慾を制(おさ)え,自ら覺知せず,此れ泄るること瓶の滿ち溢るる者の如きなり〕。
○心氣虗不能主宰或心受熱陽氣不收而泄也
【訓み下し】
○心氣 虛し,主宰なること能わず,或いは心 熱を受け,陽氣 收まらずして泄(も)るるなり。
【注釋】
◉『萬病回春』卷4・遺精:「心家氣虛,不能主宰,或心受熱,陽氣不收,此泄如瓶之側而出者也」。
○藏府弱真元久虧心不攝念腎不攝精泄也
【訓み下し】
○藏府 弱く,真元 久しく虧(か)け,心(しん) 念(おも)いを攝(おさ)めず,腎 精〔を〕攝(おさ)めずして泄(も)らすなり。
【注釋】
○腎不攝精:添え仮名の通りに訓めば,「腎 精攝(おさ)メスズシテ」。
◉『萬病回春』卷4・遺精:「臟腑積弱,真元久虧,心不攝念,腎不攝精,此泄如瓶之罅而漏者也」。
卷下・十五ウラ(756頁)
○心有所慕而夢遺者君火動相火隨也
【訓み下し】
○心 慕う所有り,夢遺,君火 動き,相火 隨うなり。
【注釋】
○夢遺:病證名。睡夢中遺精的病證。見『普濟本事方』卷三。又稱夢失精、夢泄精、夢泄。多因見情思色,相火妄動,或思考過度,心火亢盛所致。『類證治裁』:「心為君火,肝腎為相火。君火一動,相火隨之,而夢泄焉」。治宜清心寧神,或兼滋腎固精。
◉『指南』病名彙考・夢遺精滑:「此二症同じからず。夜る男女交感を夢見て精を泄(もらす)を夢遺と云。精滑は,夢見るにかぎらず。睡中或は悟[サメタリ]中,おぼえずして精自泄(おのずからもる)を云。又遺精とも號」。
◉『萬病回春』卷4・遺精:「心有所慕而夢遺者〔心に慕(ねが)う所有って夢に遺(も)らす者は〕,君火動、相火隨也」。
○夜夢與人交感而泄精者謂之夢遺
【訓み下し】
○夜(よる)夢に人と交感して精を泄らす者,之を夢遺と謂う。
【注釋】
○交感:性交。
◉『萬病回春』卷4・遺精:「夜夢與人交感而精泄者,謂之夢遺」。
○少氣遺精腎俞[十四推下去脊中各二寸]三隂交[踝上三寸]可灸
【訓み下し】
○少氣遺精は,腎の俞[十四推の下,脊中を去る各二寸]三隂交[踝上三寸]灸す可し。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「陰疼少氣遺精疲,不須別求療此病,只治一穴是腎俞,遺精白濁腎俞燒,關元穴與三陰交」。
◉『鍼灸聚英』腎俞:「主……少氣……失〔明刊本作「出」〕精夢泄……」。
◉『鍼灸聚英』三陰交:「主……夢遺失精……」。
○遺精白濁關元[臍下三寸]腎俞三隂交深刺
【訓み下し】
○遺精白濁(びゃくだく),關元[臍下三寸]・腎の俞・三隂交,深く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「遺精白濁腎俞燒,關元穴與三陰交」。
◉『神應經』陰疝小便部:「遺精白濁:腎俞 關元 三陰交」。
○夢泄大冲[足大指本節後二寸]曲泉[膝股上內輔骨下]中封[足內踝骨前一寸陷]脾俞[十一推下去脊中各二寸]深刺
【訓み下し】
○夢泄,大冲(たいしょう)[足の大指の本節の後二寸]・曲泉[膝股(しつこ)の上(かみ),內輔骨の下(しも)]・中封[足の內踝骨の前一寸の陷]・脾の俞[十一推下,脊中を去ること各二寸]深く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・疝:「夢泄百壯曲泉穴,中封太衝至陰高,膈俞脾俞腎俞準」。
◉『神應經』陰疝小便部:「夢遺失精:曲泉(百壯)中封 太衝 至陰 膈俞 脾俞 三陰交」。
○失精精溢然谷[足內踝前起大骨下]大赫[氣穴下一寸去中行各一寸半]深刺
【訓み下し】
○失精,精溢(あふ)るれば,然谷[足の內踝の前,起こる大骨の下]・大赫[氣穴の下一寸,中行を去ること各一寸半]深く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』然谷:「主……男子精泄……」。
◉『鍼灸聚英』大赫:「主虛勞失精,陰痿精溢……」。
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