2024年4月23日火曜日

鍼灸溯洄集 83 卷下(30)姙娠

   卷下・廿四オモテ(773頁)

 (30)姙娠[附臨産]

  【訓み下し】

  姙娠(じんしん)[附(つけた)り臨產]


經脉不行已經三月者尺脉不正則胎也

  【訓み下し】

經脈 行かざること已に三月(つき)を經て,尺脈 正しからざる則(とき)は,胎(はら)むなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「經脈不行已經三月者,尺脈不正,則是胎也」。


○惡阻者惡心阻其飲食也

  【訓み下し】

○惡阻(つわり)は,惡心(あくしん) 其の飲食(いんしい)を阻(へだ)つ。

  【注釋】

 ○惡阻:病名。出『諸病源候論』卷四十一。亦名子病、阻病、病兒、病阻、病隔、選飯、惡字、惡子、惡食、妊娠嘔吐等。是指懷孕初期出現噁心、嘔吐,擇食,或食入即吐,甚則嘔吐苦水或血性物者,稱為惡阻。 ○惡心:(nausea)是一種讓人想嘔吐的胃部不適感, 常為嘔吐的前驅感覺,但也可單獨出現,主要表現為上腹部的特殊不適感,常伴有頭暈、流涎、脈搏緩慢血壓降低等迷走神經興奮症状。/證名。一作噁心。胃氣上逆,泛惡欲吐之證。『諸病源候論』卷二十一:「噁心者,由心下有停水積飲所為也」。「水飲之氣不散,上乘於心,復遇冷氣所加之,故令火氣不宣,則心裡澹澹然,欲吐,名為噁心也」。『羅氏會約醫鏡』卷八:「噁心者,胃口作逆,兀兀欲吐欲嘔之狀,或又不能嘔吐,覺難刻過,此曰噁心,而實胃口之病也。其症之因,則有寒,有食,有痰,有宿水,有火邪,有穢氣所觸,有陰濕傷胃,或傷寒瘧痢諸邪之在胃口者,皆能致之」。

 ◉岡本一抱『指南』惡阻:「俗に云ツワリ也。其の病症は種々有」。

 ◉『病名彙解』惡阻〔附阻病〕:「俗に云孕[ハラム]婦のつはりなり。阻病と云るは少しく異なることあり。○『正傳』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/118?ln=ja

 ◉岡本一抱『指南』惡心:「心惡(むねあしし)[ムネワロシ]也。元禮云,聲(こえ)なく物なく心下吐せんと欲して吐かず。嘔せんと欲して中心兀々然〔むんむんとするぞ〕として,人の舟車[フネクルマ]を畏(おそる)る〔舟にゑうぞ〕が如き者これ也」。

 ◉『病名彙解』惡心:「むねわるきなり。呑酸に見たり。○戴元禮の云,……。○惡(を)は畏惡[ヲソレニクム]なり。惡心は飲を見ることを想て即ち畏惡するの心あるなり」。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「惡阻者,惡心阻其飲食也」。


○子煩者心神悶亂也

  【訓み下し】

○子煩は,心神(しんじん) 悶亂す。

  【注釋】

 ○子煩:病名。出王肯堂『胤產全書』。亦名妊娠子煩。多因火熱乘心,以致心驚膽怯,煩悶不安。或因素體陰血不足,孕後聚血養胎,陰血虛虧,心火偏亢所致,症見五心煩熱,口乾咽燥,乾咳無痰等症。/指婦女妊娠期中出現的煩躁心悸的病症。『醫宗金鑒』婦科心法要訣・子煩證治:「孕婦時煩名子煩,胎熱乘心知母痊」。註:「孕婦別無他證,惟時時心煩者,名曰子煩,由胎中鬱熱上乘於心也」。

 ◉『指南』子煩:「『產寶』に曰,姙婦心(むね)煩(いきれ)熱悶する也」。

 ◉『病名彙解』子煩:「姙娠の時,心神悶亂するなり。此れ火肺 金を剋するに因(よる)なり」。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「子煩者,心神悶亂也」。


○子癇者目吊口噤也

  【訓み下し】

○子癇は,目吊(もくちょう),口噤(こうきん)す。

  【注釋】

 ○子癇:子癇,中醫病名。妊娠晚期或臨產前及新產後,突然發生眩暈倒仆,昏不知人,兩目上視,牙關緊閉,四肢抽搐,全身強直,須臾醒,醒復發,甚至昏迷不醒者,稱為「子癇」,又稱「子冒」、「妊娠癇證」。根據發病時間不同,若發生在妊娠晚期或臨產前,稱產前子癇;若發生在新產後,稱「產後子癇」。臨床以產前子癇多見。子癇是產科的危、急、重癥,嚴重威脅母嬰生命安全。/妊娠晚期或臨產時或新產後,眩暈頭痛,突然昏不知人,兩目上視,手足抽搐,全身強直、少頃即醒,醒後復發,甚至昏迷不醒者;稱為「子癇」,又稱「妊娠癇證」。本病是由先兆子癇症状和體徵加劇發展而來的。子癇可發生於妊娠期、分娩期或產後24小時內,被分別稱為產前子癇、產時子痛和產後子癇,是產科四大死亡原因之一。 ○口噤:口緊閉。

 ◉『指南』子癇:「姙婦[ハラミヲンナ]臨月に目弔(ひきつり)口噤(つぐみ),痰涎[ヨダレ]壅[フサガル]盛して夢中の如し。此懷胎の中風なり」。

 ◉『病名彙解』子癇:「姙娠の時,目弔(ひきはり)口噤し,痰涎壅盛して昏々として人をしらざるなり。懷胎の中風なり」。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「子癇者,目吊口噤也」。


○子懸者心胃脹痛也

  【訓み下し】

○子懸は,心(むね)胃 脹(ふく)れ痛む。

  【注釋】

 ○子懸:病名。『婦人大全良方』卷十二:「紫蘇飲治妊娠胎氣不和,懷胎迫上脹滿疼痛,謂之子懸」。亦名子朝、胎氣上逆、胎上逼心、胎氣上逼。症見妊娠期中胸腹脹滿,甚則喘急疼痛,煩躁不安。多因平素腎陰不足,肝失所養,孕後陰虧於下,氣浮於上,衝逆心胸所致。治宜理氣安胎,子懸,指妊娠胸脇脹滿,甚或喘急,煩躁不安者,又稱胎上逼心。/子懸多因孕後陰血聚下養胎,肝木橫逆,肝木乘脾,總由肝鬱或脾虛使氣血不和,氣機升降失常,胎氣上逆所致。

 ◉『指南』子懸:「姙婦氣和せずして,胎とり上(のぼり)て心胃脹痛し,氣逆上[サカノボル]して悶亂するなり」。

 ◉『病名彙解』子懸:「姙娠の時,心胃脹痛し,氣逆して一時悶絕するなり」。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「子懸者,心胃脹痛也」。


○子腫者面目虗浮也

  【訓み下し】

○子腫は,面目 虛浮(うそば)れる。

  【注釋】

 ○子腫:病名。出『醫學入門』。俗稱琉璃胎。指懷孕至五、六個月時,胎體漸長,由於脾腎陽虛,運化失職,水濕泛濫,流於四末,症見兩足浮腫,遍及下肢,漸至周身,頭面皆腫,小便短少。/妊娠中晚期,孕婦出現不同程度的肢面目腫脹者稱為「子腫」。亦稱為「妊娠腫脹」。古人根據腫脹的部位、性質和程度不同,又有子腫、子氣、皺腳、脆腳等名稱。

 ◉『指南』子腫:「姙婦七八箇月の前後に面目虛浮[ウソハレル]し,小便通ぜず,肢腹大(おおい)なるを云。又胎水とも號(なづく)。『良方』に此を子漏と云」。

 ◉『病名彙解』子腫:「姙娠の時,面目虛浮(うそばる)て,小便利せず,腹大にして常に異なり。又胎水と云り」。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「子腫者,面目虛浮也」。


○子氣者兩足浮腫也

  【訓み下し】

○子氣は,兩足 浮腫(うそは)れるなり。

  【注釋】

 ○子氣:病名。『婦人大全良方』卷十五:「妊娠自三月成胎之後,兩足自腳面漸腫腿膝以來,行步艱辛,以至喘悶,飲食不美,似水氣狀,至於腳指間有黃水出者,謂之子氣,直至分娩方消」。多因脾腎陽虛,脾不健運;或抑鬱氣滯,阻礙氣機升降,導致水濕內蘊,流注於下。/指婦人孕後出現肢體腫脹不甚,小便清長者。屬子腫較輕的證型,見『婦人良方大全』引『產乳集』。『醫宗金鑒』婦科心法要訣:「自膝至足腫,小水長者,屬濕氣為病,故名曰子氣」。

 ◉『指南』子氣:「『產寶』に曰,〈姙[ハラム]して三月胎を成(なす)の後より,面足より脚面[アシノコウ]まで漸(ようやく)腫(はれ)て行歩しがたく,喘[アヘギ]悶[モダユ]して食を妨(さまたげ)て水腫の如し。甚しては足指の間より黃水を出す者,之を子氣と云,云云〉。按に子腫は上部に腫多し。子氣は下部の腫氣多きなり」。

 ◉『病名彙解』子氣:「姙娠の時,兩足浮腫するなり。甚しき時は,脚指[アシノユビ]の間,黃水流れ出るなり」。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「子氣者,兩足浮腫也」。


○子淋者小便澁少也

  【訓み下し】

○子淋は,小便 澁り少なし。

  【注釋】

 ○子淋:病名。『諸病源候論』卷四十二・姙娠患子淋:「姙娠之人,胞繫於腎,腎患虛熱成淋,故謂子淋也」。亦稱妊娠小便淋痛。多因孕婦有陰虛、實熱、濕熱、氣虛等原因,致使膀胱氣化不行,出現小便頻數,點滴而下,淋漓疼痛等症状。/子淋(urination disturbance during pregnancy),即「妊娠小便淋痛」,指孕婦小便頻數,淋瀝疼痛的一種病症。多因下焦虛熱或濕熱所致。

 ◉『指南』子淋:「姙婦,小便澁[シブル]痛して少きを云」。

 ◉『病名彙解』子淋:「姙娠[ハラム]の時,小便の澁(しぶ)り少(すくな)く,腹中疼痛するなり」。

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・姙娠:「子淋者,小便澁少也」。


○墮胎手足如水厥肩井[肩上陷中]淺刺覺悶急三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○墮胎,手足 水厥の如く,肩井[肩(けん)上の陷中]淺く刺す。悶(もん)を覺えば,急に三里[膝下(しっか)三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「墮胎手足如水厥,肩井五分鍼病消,覺悶急鍼三里穴」。「水」字,明刊本も同じだが,この歌の元となったと思われる『神應經』婦人部は「墜胎後手足如氷,厥逆:肩井(五分。若又覺悶亂,急針三里)」に作る。これによれば「水の如く厥す」と訓むのがいいのではないか。/厥:指突然昏倒、手足逆冷等症。『素問』六節藏象論(9):「凝於足者爲厥」。王注:「厥謂足逆冷也」。


○胎衣不下中極[臍下四寸]肩井刺

  【訓み下し】

○胎衣(えな) 下(くだ)らずんば,中極[臍下四寸]・肩井を刺す。

  【注釋】

 ★深さに関する言及なし。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「胎衣不下中極高,兼治一穴是肩井」。


○陰挺出者曲泉[膝股上內側輔骨下陷中]大敦[足大指端去爪甲角]照海[足內踝下]

  【訓み下し】

○陰挺出づる者は,曲泉[膝股の上(かみ)の內側(ないそく)輔骨の下の陷中]・大敦[足の大指の端(はし),爪甲の角を去る]・照海[足內踝の下(しも)]。

  【注釋】

 ★深さに関する言及なし。

 ○陰挺:病證名。婦科常見疾病之一。指婦人陰道中有物突出。『景岳全書』:「婦人陰中突出如菌如芝,或挺出數寸,謂之陰挺」。包括子宮脫垂、陰道壁膨出、陰痔、陰脫等。/指婦女子宮下脫,甚則脫出陰戶之外,或者陰道壁膨出,稱為陰挺,又稱陰脫、陰菌、陰痔、產腸不收、葫蘆頹等。多由分娩損傷所致,常見於經產婦。現代醫學分別稱為「子宮脫垂」、「陰道壁膨出」。

 ◉『病名彙解』陰挺幷陰脫:「前陰の內より肉の挺出するなり。陰脫とも云り。此れ膀絡傷損して,子腸虛冷し,氣下衝するときは,陰中下脫するなり。或は臨產に力を用ること甚しき時は必陰挺することあり。○『入門』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/51?ln=ja

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「陰挺出者曲泉焦,照海大敦共三穴」。


  卷下・廿四ウラ(774頁)

○横生死胎大冲[足大指本節後二寸]合谷[手大指次指歧骨間陷中]三隂交[踝上三寸]深刺

  【訓み下し】

○橫に生まれ,死胎,大冲[足の大指の本節(もとふし)の後(しりえ)二寸]・合谷[手の大指の次指の歧骨(ちまたぼね)の間の陷中]・三隂交[踝上三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「橫生死胎治太衝,合谷三陰交穴同」。


○難産合谷補三隂交瀉

  【訓み下し】

○難產は合谷を補い,三隂交を瀉す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「難產合谷補無失,再瀉一穴三陰交」。


○子上逼心氣欲絶可刺巨闕[鳩下一寸]三隂交瀉合谷補者生子男女左右手在痕也

  【訓み下し】

○子 心氣に上(のぼ)り逼り絕せんと欲せば,巨闕[鳩下一寸]を刺す可し。三隂交を瀉し,合谷を補えば,生れる子,男女(なんにょ)左右の手に痕(あと) 在り。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「子上逼心氣欲絕,這難須當攻巨闕,三陰交瀉合谷補,產婦端的無險跌,假如子手掬母心,生下男女左右痕」。「子 心氣に上る」は難解。「子 上って心に逼り,氣 絕えんと欲す」。

 ◉『鍼灸聚英』巨闕:「鳩尾下一寸。……○妊娠子上衝心,昏悶,刺巨闕,下鍼令人立蘇不悶。次補合谷,瀉三陰交,胎應鍼而落。如子手掬心,生下手有鍼痕」。

 ★参考:『宋史』龐安時傳に「有民家婦孕將產,七日而子不下,百術無所效……兒已出胞,而一手誤執母腸不復能脫……鍼其虎口,既痛即縮手,所以遽生……取兒視之,右手虎口鍼痕存焉。其妙如此」とある。


○姙娠腹脹滿煩逆溺難小腹急引隂痛股內廉隂谷[膝下內輔骨後屈膝乃取之]灸

  【訓み下し】

○姙娠,腹 脹(ふく)れ滿ち,煩逆,溺(でき) 難(かた)く,小腹(ほうかみ) 隂痛 股(もも)の內廉に急引す,隂谷[膝の下(しも),內輔骨の後(あと),膝を屈(かが)め乃ち之を取る]灸す。

  【注釋】

 ★以下の文には,いずれも「內廉」の下に「痛」字あり。「小腹 急に陰に引いて痛み,股の內廉痛む」。

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「女子如姙娠,赤白帶下,婦人漏血不止,腹脹滿不得息,小便黃,如蠱,及治腰痛如錐刺,不得屈伸,舌縱涎下,煩逆溺難,小腹急引陰痛,股內廉痛,灸陰谷二穴」。

 ◉『鍼灸聚英』陰谷:「主……煩逆,溺難,小便急引陰痛,陰痿,股內廉痛,婦人漏下不止,腹脹滿不得息……」。


○子冲心痛不得息衝門[去大橫五寸橫骨兩端約中]深刺

  【訓み下し】

○子(こ) 心(しん)に冲(つ)いて痛み,息することを得ず,衝門[大橫を去ること五寸,橫骨兩の端(はし)の約中]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』:「去大橫五寸,府舍下,橫骨兩端約紋中動脈,去腹中行四寸半。……主……妊娠子衝心,不得息」。

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