卷下・十八オモテ(761頁)
(22)痔漏[ジロウ]
人於九竅中但有小肉突出皆曰痔不特於肛門邊生者名之亦有鼻眼牙痔等其狀不一分五種
【訓み下し】
人 九竅の中(うち)に於いて,但だ小肉(じく)有って突出す。皆な痔と曰う。特(ひと)り肛門の邊(ほとり)に於いて生ずる者 之を名づけず。亦た鼻・眼・牙(げ)痔等有り。其の狀(かたち) 一(いつ)ならず。五種に分かつ。
【注釋】
◉岡本『萬病回春指南』痔漏:「凡そ九竅[アナ]のうちに突[ウガツ]出する肉を皆痔と云。鼻中に生するを鼻痔と云。眼中に生ずるを眼痔と云類也。今の俗,肛邊の病名にかぎり見るは誤なり。痔漏と屬[ツヅク?]するときは,肛邊の病にかぎる也。漏は俗に云アナヂ。痔瘡久くして穴になり,膿水の漏(もれ)出るを云」。
◉『病名彙解』痔漏:「痔は小肉突出して破れざるを云り。漏は已に潰(ついへ)て膿血を出すを云り。世俗,痔は肛門の邊のみに生ずと思へり。他所にても痔と云ることはあるなり。漏は漏瘡に見たり……」。
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/307?ln=ja
◉『萬病回春』卷4・痔漏:「凡人於九竅中,但有小肉突起,皆曰痔。不特於肛門邊生者名之〔特り肛門の邊に於いて生ずる者のみに之を名づけず〕,亦有鼻痔、眼痔、牙痔等。其狀不一,方分五種」。
○牝痔者肛門邊生瘡腫突出一日數枚膿潰散
【訓み下し】
○牝痔は,肛門の邊(ほとり)に瘡(かさ)を生じ,腫れ突出,一日數(す)枚,膿 潰(つい)えて散ず。
【注釋】
◉『病名彙解』牝痔: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/357?ln=ja
◉『萬病回春』卷4・痔漏:「牝痔者,肛門邊生瘡腫突出,一日數枚,膿潰即散」。
○牡痔者肛門邊露肉珠狀如鼠奶時時潰膿血也
【訓み下し】
○牡痔は,肛門の邊(ほとり)に肉珠の狀(かたち)を露(あら)わす,鼠奶(そねい)の如し。時時潰えて膿血す。
【注釋】
◉『病名彙解』牡痔: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/76?ln=ja
○鼠奶:病名。指肛門內所生之贅生物。丹波元堅『雜病廣要』臟腑類:「一者肛腸生肉……或似嬰桃,或大如豆,時時出血,又如出膿,名曰鼠奶痔」。本病相當於直腸息肉治療應以外治爲主。餘可參見息肉痔條。
◉『萬病回春』卷4・痔漏:「牡痔者,肛門邊發露肉珠,狀如鼠奶,時時滴漬膿血」。
○脉痔者腸口顆顆發㿔且痛且癢血出淋
【訓み下し】
○脈痔は,腸口 顆顆として發㿔(はいるい)し,且つ痛み且つ癢(かゆ)く,血 出でて淋(そそ)ぐ。
【注釋】
★發(はい):「廢・廃」に影響された音か。
○顆:量詞。計算粒狀或圓形物體的單位。土塊。 ○㿔:「癗」の異体字。皮膚上起的雞皮疙瘩〔突起。ぶつぶつ〕。
◉『病名彙解』脈痔: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/302?ln=ja
◉『萬病回春』卷4・痔漏:「脈痔者,腸口顆顆發㿔,且痛且癢,血出淋瀝」。
○腸痔者肛門內結核有血寒熱徃來登溷脫肛也
【訓み下し】
○腸痔は,肛門の內(うち)結核 血有り,寒熱往來,溷(かわや)に登って脫肛す。
【注釋】
○結:実際に書いてあるのは,増画俗字の「𦀽(糸+告)」字。 ○徃:「往」の異体字。
◉『病名彙解』腸痔: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/104?ln=ja
◉『萬病回春』卷4・痔漏:「腸痔者,肛門內結核有血,寒熱往來,登溷脫肛」。
○氣痔者遇恐怒則發肛門腫痛氣散則俞
【訓み下し】
○氣痔は,恐怒に遇うときは則ち發し,肛門腫れ痛む。氣散ずるときは俞(い)ゆ。
【注釋】
○氣痔:病名。見『諸病源候論』卷三十四。又稱狐痔。是指以齒線以下的靜脈叢發生擴大麴張,肛緣形成柔軟靜脈團塊爲主要表現的痔。氣痔相當於西醫的靜脈曲張性外痔。varicoid external hemorrhoid. ○俞:『萬病回春』の原文は「愈」。以下おなじ。
○酒痔者每遇酒飲發動瘡即腫而流血此等久而不俞必穿穴爲漏
【訓み下し】
○酒痔は,每(つね)に酒飲に遇う,發動す,瘡(かさ) 即ち腫れて流血す。此等(これら) 久しうして俞(い)えず。必ず穿穴して漏(ろ)を爲す。
【注釋】
◉『病名彙解』酒痔: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/332?ln=ja
◉『萬病回春』卷4・痔漏:「又有酒痔,每遇飲酒發動,瘡即腫痛而流血;血痔者,每遇大便則血出而不止,宜解熱調血順氣為主。若久而不愈,必至穿穴為漏矣」。
卷下・十八ウラ(762頁)
○血痔泄腹痛承山[兌腨腸下分肉間陷]復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]深刺
【訓み下し】
○血痔泄れ,腹痛み,承山[兌腨腸(だたんちょう)の下(しも),分肉の間陷(くぼみ)]・復溜(ふくる)[足の內踝の上二寸,筋骨の陷中]深く刺す。
【注釋】
○腨腸:即腓腸,小腿肚。『靈樞』本輸:「太陽之別也,上踝五寸,別入貫腨腸,出於委陽」。馬蒔註:「腨腓,即足腹也」。卷下(3)脚氣や(24)秘結では,「兌腨腸」に「コムラ」と添え仮名あり。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・腸痔大便:「患者血痔泄腹痛,承山復溜二穴攻」
○痔疾骨疽蝕久痔商丘[足內踝骨下微前陷]長強[脊骶骨端]承山淺刺
【訓み下し】
○痔疾,骨疽 蝕(むしば)み,久痔,商丘[足の內踝の骨の下,微(すこ)し前の陷]・長強[脊骶骨の端(はし)]承山,淺く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・腸痔大便:「若是痔疾骨疽蝕,承山商丘收神功,久痔宜治二白間,須兼長強與承山」。
○久痔尻臀脽腫大便難承扶[尻臀橫文陷中]深刺
【訓み下し】
○久痔,尻(きゅう)臀(とん)脽(い)腫れ,大便難きに,承扶[尻臀橫文(おうもん)の陷中]深く刺す。
【注釋】
○尻:コウ。 ○臀:トン ドン デン。 ○脽:臀部。尾椎骨。スイ・ズイ・シュウ・シュ。『說文解字』:「从肉隹聲」。
◉『鍼灸聚英』承扶:「主……久痔,尻臀脽腫,大便難……」。
○痔腫痛體重不能起㘴不収歩履飛陽[外踝上七寸]淺刺
【訓み下し】
○痔腫痛,體(たい)重く,起坐能わず,歩履を收めず,飛陽[外踝の上七寸]淺く刺す。
【注釋】
○㘴:「坐」の異体字。 ○歩履:步行、行走。 ○收:控制、約束。 ○飛陽:飛揚。
◉『鍼灸聚英』飛揚:「一名厥陽。……主痔腫痛,體重,起坐不能,步履不收」。
○五痔發腫秩邊[二十推下去脊中三寸半]委中[膕中央]大衝[足大指本節後二寸]陽輔[足外踝上四寸輔骨前絕骨端三分]深刺
【訓み下し】
○五痔發腫,秩邊[二十推の下,脊中を去る三寸半]・委中[膕(こく)の中央(ちゅうおう)]・大衝[足の大指の本節の後二寸]・陽輔[足の外踝の上四寸,輔骨の前,絕骨(ようじほね)の端(はし)三分]深く刺す。
【注釋】
○五痔:病名,肛門痔五種類型之合稱。『備急千金要方』卷二十三:「夫五痔者,一曰牡痔,二曰牝痔,三曰脈痔,四曰腸痔,五曰血痔」。
◉『鍼灸聚英』秩邊:「主五痔發腫……」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・腸痔大便:「五痔承山與委中,飛揚陽輔復溜同,俠谿氣海會陰穴,長強之穴與太衝」。
◉『神應經』腸痔大便部:「五痔:委中 承山 飛揚 陽輔 復溜 太衝 俠谿 氣海 會陰 長強」。
○鼻痔通天[五處後一寸半]淺刺
【訓み下し】
○鼻痔,通天[五處後一寸半]淺く刺す。
【注釋】
★「五處後一寸半」は,承光穴。
◉『病名彙解』鼻痔:「『入門』に云,〈肺氣熱極,日久して凝濁結して瘜肉をなし,棗の如く鼻瓮[ハナノアナ]を滯塞すること甚しきものは,又鼻齆と名く〉。○按るに,是俗に云ハナタケなるべし。瘜肉のことにはあらじ」。
◉『醫學入門』卷3・臟腑條分・肺:「鼻齆鼻痔或成淵」注:「內生瘜肉,謂之鼻痔,流涕不止,謂之鼻淵。皆上熱下虛也」。
◉『醫學入門』治病要穴・通天:「主鼻痔。左臭灸右,右臭灸左,左右臭,左右灸。鼻中去一塊如朽骨,臭氣自愈」。
◉『鍼灸聚英』通天:「承光後一寸半……。主癭氣,鼻衄鼻瘡,鼻窒,鼻多清涕……」。
○灸腸風諸痔十四推下各開一寸年深者最功也
【訓み下し】
○腸風諸痔を灸〔す〕,十四推の下(しも),各々開(ひら)くこと一寸,年深き者,最も功(しるし)なり。
【注釋】
○「しるし」:【名詞】効果。ききめ。効能。【形容詞】はっきりしている。際立っている。「なり」に接続しているので名詞であろう
◉『醫學入門』治病奇穴:「灸腸風諸痔 十四椎下各開一寸,年深者最効」。
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