2024年4月26日金曜日

鍼灸溯洄集 87 卷下(34)瘡瘍

   卷下・廿七オモテ(779頁)

 (34)瘡瘍[ソウエキ]

  【注釋】

 ★瘍:音は「よう」。「エキ」は「易」からの類推か。

 ◉岡本一抱『指南』瘍(やう):「『原病式』などでは,〈頭に有の瘡〉とあれども,『周禮』には〈身に疕瘍有り〉と云。註に〈身の傷(やぶれ)を瘍と云〉とあれば,瘍は諸瘡の通稱也」。〔本のノドの所にあり,一部読めず。『周禮』『病名彙解』等により想像しておぎなう。〕

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 ◉『病名彙解』瘍(やう):「『素問』の音釋幷に『原病式』などでは,〈頭(づ)に有る瘡〉とあり。頭(かしら)に生ずる瘡の心か,但(ただし)かしらにある瘡と云心か。『入門』の音釋には,〈音(こへ)羊(やう),頭(つ)瘡〉とありしかば,頭に生ずる瘡の心なり。然ども,諸書に皆瘡の摠名のやうに云り。曲禮に……」。

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疔瘡者風邪熱毒相搏也

  【訓み下し】

疔瘡は,風邪 熱毒 相い搏(う)つなり。

  【注釋】

 ○疔瘡:外科常見病之一。因其堅硬而根深,形如釘狀,故名。癰疽等化膿性感染之局部腫脹形似疔蓋狀者。出『仙傳外科集驗方』卷六。從廣義講,泛指瘡瘍之病證者,參見丁條。狹義單指瘡瘍中之一種病證,即所謂:又名丁瘡、丁腫、疔腫、疔毒、疵瘡等。

 ◉岡本一抱『指南』疔瘡:「諸瘡の中にして急症也。始一小泡[アメツフ]を生じて,搔(かき)傷れば,痒[カユシ]痛して黃泡膿[ウミ]を生ず。其の瘡の形小なりと雖,深(ふかく)腐(くち)て骨に陷藏(おちいり)を傷る。其深(ふかき)こと丁の字の形の如し。故に名とす」。

 ◉『病名彙解』疔瘡:「『正宗』に云,疔瘡は乃ち外科迅[トク]速[スミヤカ]の病なり。朝(あした)に發して夕(ゆうべ)に死し,隨て發して隨て死することあり……」。

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 ◉『萬病回春』卷8・疔瘡:「疔瘡者,風邪熱毒相搏也」。


○癰者大而高起属乎陽六府之氣所生也

  【訓み下し】

○癰は,大いにして高く起こる,陽に屬す。六府の氣 生ずる所なり。

  【注釋】

 ◉岡本一抱『指南』癰疽:「癰は壅[フサグ]也。血氣壅(ふさがり)て大熱肉を腐[クチ]爛[タダル]す。然ども骨傷(やぶ)れず,藏 損せず。疽は阻也。氣血熱毒の為に阻[トド]滯[コヲル]し,肉骨皆腐(くちて)藏に陷(おちい)る。癰は淺(あさく)して,はば廣く,瘡邊(へん)の皮薄(うすく)澤(うるをい)有。疽は深(ふかく)して,はばせばく,瘡邊(へん)の皮厚(あつく)牛領[ウシノクビ]の如し」。

 ◉『病名彙解』癰疽:「癰は壅[フサクガル]なり。衛(ゑい)氣壅[フサガリ]遏[フサガル]して通ぜざるなり。疽は沮(しょ)なり。沮は字書に,〈止也,遏也,抑也〉,ふさがる心なり。皆氣血不順より發する故なり。○……」。

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 ◉『萬病回春』卷8・癰疽:「癰者,大而高起屬乎陽,六腑之氣所生也」。


○疽者平而內起属乎隂五藏之氣所生也

  【訓み下し】

○疽は,平にして內に起こる。隂に屬す。五藏の氣 生ずる所なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷8・癰疽:「疽者,平而內發屬乎陰,五臟之氣所成也」。


○癬瘡皆血分濕熱所致也

  【訓み下し】

○癬瘡,皆な血分 濕熱 致す所なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷8・癬瘡:「五癬者,濕、頑、風、馬、牛也(注:疥癬皆血分熱燥,以致風毒尅於皮膚。浮淺為疥,深沉者為癬。疥多挾熱,癬多挾濕。)」。

 ◉『指南』癬瘡:「俗に云,タムシなり。『保元』に曰,〈癬は肌肉にかくる,或は圓(まろか)或は斜(ななめ)也。云云〉……」。

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 ◉『病名彙解』癬:「俗に云タムシ,又ゼニガサとも云り。またハタケと云は乾癬のことなるべし。○……」。

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○乳岩始有核腫多生於憂欝積忿也

  【訓み下し】

○乳岩,始め核腫有り,多く憂欝積忿(しゃくふん)に生ず。

  【注釋】

 ◉『指南』乳岩[チチハレモノ]:「婦人の乳房に結核を生じ,漸く腫(はれ)潰(ついゑ)て乳房の形岩穴[イワアナ]の凸凹あるに似たるを云。多は欝氣痰火の致す所也」。

 ◉『病名彙解』乳岩:「乳房の瘡潰(ついへ),岩穴の凹(なかぼそ)なるが如しとなり。○……」。

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 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・乳岩:「婦人乳岩,始有核腫,如鼈,棋子大,不痛不癢,五七年方成瘡。……此疾多生於憂欝積忿」。


○乳癰發痛者血脉凝注不散也

  【訓み下し】

○乳癰 發(お)こり痛むは,血脈 凝注して散せず。

  【注釋】

 ◉『指南』乳癰:「乳汁[チチシル]忽(たちまち)壅(ふさがり)て腫(はれ)痛(いたみ),結核を生じ,色赤く,數日の外(のち),焮[ホメク]痛して脹(はれ)潰(ついゑ),稠膿湧(わき)出て,膿盡(つき)て愈(いゆる)を乳癰と云(『婦人方』に出)」。

 ◉『病名彙解』乳癰幷乳瘻:「『婦人良方』に云,〈乳房[チブサ]忽ち壅(ふさがっ)て腫(はれ)痛(いたみ),……久しく瘥(いえ)ざれば,瘻となるなり(是を乳瘻と云り)」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/71?ln=ja

 ◉『萬病回春』卷6・婦人科・乳病:「乳癰發痛者,血脈凝注不散也」。「發痛者」は「痛みを發する者」と読むのが通常か。


○疔瘡生面上口角合谷[手大指次指歧骨間陷中]曲池[肘橫文頭]灸生背足肩井[肩上陷中]三里[膝下三寸]委中[膕之中央]灸刺

  【訓み下し】

○疔瘡 面上口角に生ずるは,合谷[手の大指の次指の歧(ちまた)骨の間の陷中]・曲池[肘(うで)の橫文の頭(かしら)]灸す。背足に生ずるに,肩井[肩上の陷中]・三里[膝下三寸]・委中[膕の中央]灸刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疔瘡、溺死、犬傷、蛇傷、脈絕、癰疽:「疔生面上與口角,須灸合谷瘡即落,若生手上灸曲池,若生背上肩井索,三里委中臨泣中,八穴灸之不可錯」。


  卷下・廿七ウラ(780頁)

○癰疽發背肩井委中灸刺

  【訓み下し】

○癰疽 發背(ほつはい),肩井・委中 灸刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・疔瘡、溺死、犬傷、蛇傷、脈絕、癰疽:「癰疽發背肩井攻,再兼一穴是委中。以蒜片貼瘡上灸,如不疼兮灸至疼,愈多愈好是此病,若疼宜灸至不疼」。


○熱風癮疹肩髃[肩端陷中]曲澤[肘內廉下陷中屈肘得之]曲池[穴處出上]環跳[髀樞之中]合谷深刺

  【訓み下し】

○熱風癮疹,肩髃[肩端の陷中]・曲澤[肘(うで)の內廉の下(しも)陷中,肘を屈(かが)めて之を得(う)]・曲池[穴處 上に出づ]・環跳[髀樞の中]・合谷,深く刺す。

  【注釋】

 ○癮疹:癮疹是一種皮膚出現紅色或蒼白風團,時隱時現的瘙癢性、過敏性皮膚病。『醫宗金鑒・外科心法要訣』云:「此證俗名鬼飯疙瘩,由汗出受風,或露臥乘涼,風邪多中表虛之人」。中醫古代文獻又稱風瘩癌、風疹塊、風疹等。本病相當於西醫的蕁麻疹。/熱風癮疹是中醫古籍中記載的一種皮膚病,多發於夏秋季節,主要症狀是皮膚出現紅色丘疹、水皰,伴有瘙癢、灼熱感。

 ◉『指南』癮𤺋:「『玉案』に云,〈隱[カクル]々然として皮膚あいに有。發するときは,多は癢(かゆく)して不仁[ヒトハダナラズ]す〉と云云」。

 ◉『病名彙解』癮𤺋:「『丹臺玉案』㿀【癍】疹門に云,〈又癮疹と云ものあり。多くは脾に屬す。隱々然として皮膚の間にあり。發するときは多くは癢して不仁[シビル]す。風濕・風熱の殊(こと)なるあり〉」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・小兒:「熱風癮疹肩髃臧,曲池曲澤環跳等,須帶合谷湧泉康」。


○癬瘡曲池委中三里支溝[腕後臂外三寸兩骨間陷]後谿[手小指外側本節後陷中]陽谷[手外側腕中銳骨下陷中]崑崙[足外踝後跟骨上陷]大陵[掌後去腕二寸兩筋之間]陽輔[足外踝上四寸輔骨前絕骨端]深刺

  【訓み下し】

○癬瘡,曲池・委中・三里・支溝[腕後臂の外(ほか)三寸,兩骨の間の陷]・後谿[手の小指の外側,本節(もとふし)の後の陷中]・陽谷[手の外側腕の中(うち),銳骨(ぜいこつ)の下の陷中]・崑崙[足の外踝の後,跟骨の上の陷]・大陵[掌後,腕を去る二寸,兩筋の間]・陽輔[足の外踝の上(かみ)四寸,輔骨の前,絕骨の端(はし)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・小兒:「疥癬瘡兮曲池攻,支溝陽谿陽谷等,大陵合谷後谿同,委中三里陽輔穴,崑崙穴與行間通,三陰交穴百蟲窠,十四穴治為有功」。


○乳癰腫痛三里[曲下二寸]下廉[上廉下三寸]委中深臨泣[足小指次指之本節後間陷中]夾雞[足小指次指歧骨間本節之前陷中]淺刺

  【訓み下し】

○乳癰腫痛,三里[曲下二寸]・下廉[上廉の下三寸]・委中深く,臨泣[足の小指の次指の本節(もとふし)の後(しりえ)の間陷中]・夾雞【俠谿】[足の小指の次指の歧骨の間,本節(もとふし)の前の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ○夾雞:「俠溪・俠谿」。 

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・婦人:「乳癰腫痛,鍼三里穴五分,其痛立止。乳癰、喉痹、胻腫、足跗不收,灸下廉三壯」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「乳癰下廉三里醫,魚際少澤委中穴,足臨泣兮與俠谿」。


○乳癰天樞[臍傍二寸]水泉[大谿下一寸內踝下]肩井刺極功也

  【訓み下し】

○乳癰,天樞[臍の傍二寸]・水泉[大谿の下(しも)一寸,內踝の下]・肩井,刺す,極めて功あり。

  【注釋】

 ★『鍼灸聚英』によれば,天樞・水泉は「乳癰」の主治穴ではない。

 ◉『鍼灸聚英』百證賦:「月潮違限,天樞水泉細詳。肩井乳癰而極效」。これによれば,天樞と水泉は,「月潮違限」の主治穴。

 ◉『鍼灸聚英』天樞:「主……婦人女子癥瘕,血結成塊,漏下赤白,月事不時」。

 ◉『鍼灸聚英』水泉:「主……女子月事不來,來即心下多悶痛,陰挺出,小便淋瀝,腹中痛」。


  卷下・廿八オモテ(781頁)

○腋腫馬刀瘍頭中瘡陽輔太冲[足大指本節後二寸]淺刺

  【訓み下し】

○腋腫れ,馬刀瘍(えき),頭中(ずちゅう)に瘡(かさ)ある,陽輔・太冲[足の大指の本節(もとふし)の後二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○馬刀:病證名。即馬刀瘡。出『靈樞』經脈。系指耳之前後,忽有瘡狀似馬刀,如杏核,大小不一,名馬刀瘡。本瘡赤色如火燒烙極痛,發展甚猛。

 ◉『指南』馬刀瘰:「瘰癧の一種也。其形(かたち)長じて,馬刀(まて)蛤と云貝に似たり。一說に此を俗に云キシユと云は,誤(あやまり)也。キシユは,氣腫なり。結核の久して,潰[ツイエ]漏したる者なり」。

 ◉『病名彙解』馬刀瘰:  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/60?ln=ja

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・小兒:「假如腋腫馬刀瘍,要知此是頭中瘡,宜治陽輔太衝穴」。


○瘍瘇振寒少海[肘內大骨外去肘端五分陷中]淺刺

  【訓み下し】

○瘍瘇(えきしゅ)振寒に少海[肘(うで)の內大骨の外,肘(うで)の端を去ること五分の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・小兒:「瘍腫振寒少海中」。


  元禄八[乙亥]暦三月吉旦

           武江日本橋萬町中通角

              本屋清兵衛梓行

鍼灸溯洄集終


  【注釋】

 ○元禄八[乙亥]暦:1695年。 ○吉旦:農曆每月初一。吉祥的日子,好日子。吉日。/旦:実際は「且」と書かれている。 ○武江:武蔵国江戸の意。 ○日本橋萬町中通:現在の日本橋1丁目の地は……の多くの町があり……万町と青物町の間の南北の通りを中通りといいました。(日本橋「町」物語:日本橋1〜3丁目)

http://www.nihonbashi.gr.jp/story/nihonbashi.html


 ○本屋清兵衛:松葉軒万屋清兵衛であろう。速水香織「江戸書肆万屋清兵衛の初期活動」(『近世文藝』79 巻/2004)を参照。『和漢朗詠集』の刊記には「江戸日本橋万町/本屋清兵衛」とあるという。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kinseibungei/79/0/79_1/_pdf/-char/ja

この論文の「万屋清兵衛出版年表」の元禄8年には『鍼灸溯洄集』はない。万屋清兵衛は,元禄5年に『医道重宝記』,宝永3年に『難経本義諺解』(日本橋南詰)をいずれも連名で出版している。 ○梓行:刻版印行。

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