2024年4月15日月曜日

鍼灸溯洄集 78 卷下(25)健忘

   卷下・十九ウラ(764頁)

 (25)健忘[附怔忡]

  【訓み下し】

   健(けん)忘(ぼう)[附(つけた)り怔忡(せいちゆう)]

  【注釋】

 ○健:原文は人偏(イ)ではなく,行人偏(彳)。和刻本『鍼灸聚英』も同じ。


健忘者爲事有始無終言發不知首尾也

  【訓み下し】

健忘は,事を爲し,始め有り,終わり無し,言(こと) 發して首尾を知らず。

  【注釋】

 ○健忘:證名。指記憶力減退,容易遺忘。見『濟生方』卷四。亦稱善忘、喜忘、多忘。因心、腎、腦髓不足所致。『醫林改錯』腦髓說:「所以小兒無記性者,腦髓未滿;高年無記性者,腦髓漸空」。『類證治裁』卷四:「健忘者,陡然忘之,儘力思索不來也。夫人之神宅於心,心之精依於腎,而腦為元神之府,精髓之海,實記性所憑也」。

 ◉『病名彙解』健忘:「ものわすれすることなり。健は強(きょう)なりとあり。ツヨク忘(わする)る心なり。或人の云,其身は健固にあって愚人のやうに物を言(こと)ばの下に忘(わする)るなり。○『摘要』に云,〈健忘は事をなすに始(はじめ)あって終(おわり)なし。言談[モノガタリ]首尾[ハジメヲハリ]をしらず。此を以て病の名とす。生成の愚頑人事を知ざるに比するにあらず〉,と云り」。

 ◉『萬病回春』卷4・健忘:「健忘者,為事有始無終,言發不知首尾,此是病之名,非比生成愚頑也」。


○精神短少者多主於痰也

  【訓み下し】

○精神 短少なる者は,多くは痰を主(つかさど)るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷4・健忘:「精神短少者,多主於痰」。


○有因心氣不足胱𦝰多忘事者

  【訓み下し】

○心氣不足に因り,胱𦝰として多く事を忘る者有り。

  【注釋】

 ○胱𦝰:「恍惚」の異体字あるいは誤字。隱約模糊,不可辨認。神志模糊不清。

 ◉『萬病回春』卷4・健忘:「有因心氣不足,恍惚多忘事者」。


○怔忡者心無養心中惕惕然而跳動也

  【訓み下し】

○怔忡は,心(しん) 養うこと無く,心(むね)の中(うち) 惕惕然として跳動するなり。

  【注釋】

○怔忡:①指心悸。又名心忪、忪悸。『醫碥』卷四:「悸即怔忡。悸者,心築築惕惕然而不安,俗名心跳」。『素問玄機原病式』:「心胸躁動,謂之怔忡」。②指心跳並有恐懼不安感。『赤水玄珠』卷六:「怔忡者,心中惕惕然動不安也。……怔忡止於心不自安,悸則心既動而又恐恐然畏懼,如人將捕之」。 ○惕惕:憂心、恐懼。憂勞。

 ◉岡本一抱『指南』怔忡:「俗に云,むなさわぎなり」。

 ◉『病名彙解』怔忡:「俗に云むなさわぎなり。怔はヲソルルと讀り。忡はウレフルと讀り。憕忡は忪悸なり。驚悸とは小く異なることあり。○『入門』に云,〈怔忡は驚悸久しきに因て成〉。○……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/366?ln=ja

 ◉『萬病回春』卷4・怔忡:「怔忡者,心無血養,如魚無水,心中惕惕然而跳動也,如人將捕捉之貌」。


  卷下・二十オモテ(765頁)

○有因思慮即心跳者血虗也

  【訓み下し】

○思慮に因って,即ち心(むね) 跳(おど)る者有り,血虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷4・怔忡:「若思慮即心跳者,是血虛也」。


○心若時跳時止者是痰因火動也

  【訓み下し】

○心(むね) 時に跳(おど)り時に止(や)むが若き者は,是れ痰 火動に因るなり。

  【注釋】

 ★「因火動也」:「痰 火に因って動ずるなり」が適切か。

 ◉『萬病回春』卷4・怔忡:「心若時跳時止者,是痰因火動也」。


○心慌神亂者血虗火動也

  【訓み下し】

○心(しん)慌(ほ)れ神(しん)亂れる者は,血虛火動なり。

  【注釋】

 ○心慌:心裡驚慌忙亂。そわそわしている,落ち着かない。病時心中顫抖而不能自持的症狀。動悸が止まらない。胸がどきどきする。/【心慌意亂】心中慌亂無主。気が動転する。慌てて取り乱す。心が落ち着かない。

 ◉『萬病回春』卷4・怔忡:「心慌神亂者,血虛火動也」。


○心性癡果健忘神門[掌後銳骨端陷者中]小海[肘內廉節後大骨外去肘端五分屈肘向頭得之]淺刺

  【訓み下し】

○心性 癡果(ぎょうか),健忘,神門[掌後,銳骨(ぜいこつ)の端(はし)の陷者中]・小海[肘(うで)の內廉(うちかど)の節後,大骨の外(そと),肘端を去る五分,肘(うで)を屈(かが)め頭(こうべ)に向かえ之を得(う)]淺く刺す。

  【注釋】

 ○癡果:「癡呆(ちほう)」の誤り。「痴呆」におなじ。遲鈍;愚昧。

 ○小海:取穴部位および主治によれば,「少海」の誤り(『鍼灸聚英』による)。

 ◉『鍼灸聚英』神門:「主……心性癡呆,健忘……」。

 ◉『鍼灸聚英』通玄指要賦:「神門去心性之呆癡」。

 ◉『鍼灸聚英』手少陰心經・小海〔當作「少海」〕:「肘內廉節後,大骨外,去肘端五分。屈肘向頭得之。主……心疼,手顫,健忘」。


○心虗膽寒怔忡少冲[手小指內廉端去爪甲角]

  【訓み下し】

○心虛,膽寒,怔忡に,少冲[手の小指の內廉(うちかど)の端(はし),爪甲の角を去る]。

  【注釋】

◉『醫學入門』少衝:「主心虛,膽寒,怔忡,癲狂」。


○煩心心懸怔忡三里[膝下三寸]大陵[掌後骨下兩筋間陷]深鬲俞[七推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○煩心,心懸,怔忡,三里[膝下三寸]・大陵[掌後骨の下,兩筋の間の陷]深く,鬲の俞[七の推の下,脊中を相い去ること各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』大陵:「主……煩心,心懸若飢……」。

 ★足三里と鬲俞,出典未詳。

 ◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・健忘 怔忡 驚悸:「灸:膈俞……。針:神門・大陵・巨闕・上脘・三里」。

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