2024年4月17日水曜日

鍼灸溯洄集 79 卷下(26)癲癇

   卷下・二十オモテ(765頁)

 (26)癲癇[附狂症]

  【訓み下し】

   癲(てん)癇(かん)[附(つけた)り狂症]

  【注釋】

 ◉『病名彙解』癲癇:「『回春』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/259?ln=ja


經曰隂附陽則狂陽附隂則癲脫陽者見鬼脫隂者目盲

  【訓み下し】

經(きょう)に曰わく,隂 陽に附く則(とき)は狂し,陽 隂に附く則(とき)は癲す。脫陽の者は鬼(き)を見,脫隂の者は目(め)盲(し)いる。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷4・癲狂:「陰附陽則狂,陽附陰則癲。脫陽者見鬼,脫陰者目盲」。

『脈經』卷1・辨脈陰陽大法第9:「陰附陽則狂,陽附陰則癲」。

『難經』:「二十難曰:……重陽者狂,重陰者癲。脫陽者見鬼,脫陰者目盲」。


○狂者大開目與人語所未甞見之事爲狂也

  【訓み下し】

○狂者は大いに目を開き,人と嘗(かつ)て見(み)未(ざ)る所の事を語る,狂と爲す。

  【注釋】

 ○甞:「嘗」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷4・癲狂:「狂者,大開目與人語所未嘗見之事,為狂也」。


  卷下・二十ウラ(766頁)

○癲者心血不足也喜笑不常顛倒錯亂之謂也

  【訓み下し】

○癲は心血 不足,喜(この)んで笑い常ならず,顛倒錯亂の謂(いい)なり。

  【注釋】

 ○顛倒錯亂:順序混亂倒置,毫無章法。『孟子』離婁上「安其危而利其菑」句下,宋・朱熹注:「不仁之人,私欲固蔽,失其本心,故其顛倒錯亂至於如此」。/顛倒:心神離亂。上下、前後或次序倒置。回旋翻轉;翻來覆去。傾倒;跌倒。錯亂;混亂。/錯亂:雜亂無序。/【精神錯亂】精神極度混亂的狀態,如注意力無法保持、意識不清和認知狀態的異常混亂。常合併出現錯覺、妄想與幻覺。

 ◉『萬病回春』卷4・癲狂:「癲者,心血不足也。又云癲者,喜笑不常,顛倒錯亂之謂也」。


○狂者痰火實盛也喜笑不休者心火之盛也

  【訓み下し】

○狂は,痰火 實盛なり。喜(この)んで笑い休(や)まざる者は,心火の盛んなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷4・癲狂:「狂者,痰火實盛也。……喜笑不休者,心火之盛也」。


○婦人癲疾歌唱無時踰墻上屋者營血迷心包所致也皆痰欝心竅故也

  【訓み下し】

○婦人 癲疾,歌唱 時無く,墻(かき)を踰え屋(おく)に上(のぼ)る者は,營血 心包を迷うて致す所。皆な痰 心竅に欝する故なり。

  【注釋】

 ○無時:指任何時刻或隨時。

 ◉『萬病回春』卷4・癲狂:「婦人癲疾,歌唱無時,踰墻上屋者,乃營血迷於心包所致也」。


○癇病卒時暈倒身軟咬牙吐涎沫不省人事隨後醒醒者癇也有五癇羊猪馬牛犬也

  【訓み下し】

○癇病,卒時に暈倒し,身軟らかに牙(きば)を咬み,涎沫を吐き,人事を省みず,隨って後ち醒醒する者は癇なり。五癇有り,羊(よう)・猪(ちょ)・馬(ば)・牛(ぎゅう)・犬(けん)なり。

  【注釋】

 ○卒:倉猝、突然。 ○涎沫:唾液。 ○不省人事:昏迷而失去知覺。 ○隨後:緊隨其後。表示緊接前述情況、行動之後。すぐに。

 ◉『萬病回春』卷4・癇證:「癇病者,卒時暈倒,身軟咬牙吐涎沫,不省人事,隨後醒醒者,是癇病也。有羊癇、猪癇、牛癇、馬癇、犬癇,皆驚風熱痰……」。


○諸癇痰涎壅併也属風痰或属風熱發也

  【訓み下し】

○諸癇,痰涎 壅併なり。風痰に屬す,或いは風熱に屬して發するなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷4・癇證:「諸癇者,痰涎壅併然也。……癇屬痰者,宜化痰清火也。……癇屬風熱者,宜祛風清熱也」。


○心邪癲狂攅竹[兩眉頭陷]陽谿[腕中上側兩筋間陷]尺澤[肘中約文上]間使[掌後三寸兩筋間陷]深刺

  【訓み下し】

○心邪癲狂,攢竹[兩眉の頭(かしら)の陷]・陽谿[腕中の上側,兩筋の間の陷]・尺澤[肘中約文(やくもん)の上]・間使[掌後三寸,兩筋の間の陷]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心邪癲狂:「心邪癲狂攢竹穴,陽谿間使與尺澤」。

 ◉『神應經』心邪癲狂部:「心邪癲狂:攢竹 尺澤 間使 陽谿」。


○癲癇神門[掌後銳骨端陷]天井[肘外大骨之後肘之上一寸]小海[肘內廉節後大骨內去肘端五分陷者中]金門[外踝下申脉下一寸]商丘[足內踝骨下微前]行間[足大指縫間]淺刺

  【訓み下し】

○癲癇,神門[掌後銳骨の端の陷]・天井[肘(うで)の外(ほか),大骨の後(しりえ),肘の上一寸]・小海[肘の內廉節後大骨の內(うち),肘を去る端(はし)五分の陷者中]・金門[外踝の下(しも),申脈の下一寸]・商丘[足の內踝骨の下微(すこ)し前]・行間[足の大指縫(ぬいめ)の間(あいだ)]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心邪癲狂:「癲癇攢竹神門中,天井小海金門同,商丘行間與通谷,心俞後谿鬼眼攻,通前總計十一穴」。

 ◉『神應經』心邪癲狂部:「癲癇:攢竹 天井 小海 神門 金門 商丘 行間 通谷 心俞(百壯) 後谿 鬼眼(四穴,在手大指、足大趾內側爪甲角,其艾炷半在爪上、半在肉上,三壯極妙)」。


  卷下・廿一オモテ(767頁)

○狂言數回顧陽谷[手外側腕中銳骨下]液門[手小指次指間陷中握拳取之]淺刺

  【訓み下し】

○狂言,數々(しばしば)回顧,陽谷[手の外側(そく)の腕中,銳(ぜい)骨の下(しも)]・液門[手の小指の次指の間の陷中,拳(こぶし)を握り之を取る]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心邪癲狂:「患者狂言數回顧,宜治陽谷液門穴」。

 ◉『神應經』心邪癲狂部:「狂言數回顧:陽谷 液門」。


○妄言喜笑大陵[掌後骨下兩筋之間]支溝[腕後臂外三寸兩骨間陷]列缺[去腕側上一寸五分]陽谿[腕中上側兩筋間陷]淺刺

  【訓み下し】

○妄言,喜(この)んで笑う,大陵[掌後骨下(こつか)兩筋の間]・支溝[腕後臂外三寸,兩骨の間の陷]・列缺[腕(わん)を去る側(かたわら)上一寸五分]・陽谿[腕中上(かみ)の側(かたわら),兩筋の間の陷]淺く刺す。

  【注釋】

 ★支溝:『鍼灸聚英』『神應經』によれば「水溝」の誤りか。

 ◉『鍼灸聚英』水溝:「主……失笑無時,癲癇,語不識尊卑,乍哭乍喜……」。

 ◉『鍼灸聚英』支溝には,それらしき病症なし。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心邪癲狂:「喜笑陽谿及大陵,並及水溝與列缺」。

 ◉『神應經』心邪癲狂部:「喜笑:水溝 列缺 陽谿 大陵」。


○喜哭笑百會[項中央旋毛之中]水溝[鼻柱下]淺刺

  【訓み下し】

○喜(この)んで哭(わら)う,百會[項(いただき)【頂】の中央,旋毛(つじげ)の中]・水溝[鼻柱(はなばしら)の下(した)]淺く刺す。

  【注釋】

 ★「ワラフ」という添え仮名は,「笑」字と誤認したのであろう。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心邪癲狂:「喜哭百會水溝中」。

 ◉『神應經』心邪癲狂部:「喜哭:百會 水溝」。


○癲癇狂走不擇言語心中氣悶属痰火鳩尾[蔽骨之端]中脘[臍上四寸]百會神門深刺

  【訓み下し】

○癲癇狂走,言語(げんぎょ)を擇(えら)ばず,心中 氣悶は,痰火に屬す。鳩尾[蔽骨の端(はし)]・中脘[臍の上四寸]・百會・神門,深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』鳩尾:「主……癲癇狂走,不擇言語,心中氣悶……」。

 ◉『鍼灸聚英』百會:「主……心煩悶……羊鳴,多哭,語言不擇……」。

 ◉『鍼灸聚英』神門:「主瘧,心煩甚……狂悲笑……」。

 ★中脘に関しては,未詳。

 ◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・狂乱 きちがひ:「針:尺澤・間使・天井・百會・神門・中脘」。

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