卷下・九ウラ(744頁)
(12)積聚[シャクジュ]
痞塊者一名癥瘕不能移者癥塊
【訓み下し】
痞塊は,一(いつ)に癥瘕と名づく。移すこと能わざる者は癥塊。
【注釋】
○不能移:引用元と思われる『萬病回春』では,「不能移動」と下文の「能移動」が対になっている。引用するのであれば,こちらも対である方が理解しやすい。
◉『萬病回春』卷3・積聚:「痞塊者,一名癥瘕。不能移動者,是癥塊」。
○能移動或左或右者瘕塊
【訓み下し】
○能く移り動き,或いは左,或いは右は,瘕塊(がかい)。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・積聚:「能移動,或左或右者,是瘕塊」。
卷下・十オモテ(745頁)
○五積六聚者積在本位聚者無定處氣不能作塊而成聚
【訓み下し】
○五積六聚は,積(しやく) 本位に在り,聚(しゆ)は定まる處無し。氣 塊を作(な)すこと能わず,而して聚を成す。
【注釋】
○積聚:積聚(abdominal mass),臨床以腹內結塊,或痛或脹為主要特徵的病證。積證和聚證的合稱。積證觸之有形,固定不移,痛有定處,病在血分,多為臟病;聚證觸之無形,聚散無常,痛無定處,病在氣分,多為腑病。積聚的發生主要與肝、脾兩臟有關,多因正氣虛虧,臟腑失和,氣滯血瘀,痰濁蘊結腹內所致。由於積證和聚證病因相同,病機相關,故常以二者並稱。中醫文獻中的癥瘕、癖塊、痞塊以及伏梁、痞氣、肥氣、息賁、奔豚(賁豚、奔豚氣)等疾病均屬積聚範疇。聚證預後一般較好,而積證的預後較差。積聚名稱首見於『靈樞』五變。『難經』對積、聚作了明確區分:「積者,五臟所生;聚者,六腑所成也」。『諸病源候論』認為積聚主要由正虛感邪所致,並指出積聚之成,一般都有漸積成病的過程。
◉『指南』病名彙考・積聚:「五積六聚,倶に塊の病也。積は陰に屬し藏に屬して,其塊の發するに定る所有て移らず。聚は陽に屬し府に屬し,其塊の發するに定所なくして能移る也。五積は肝積〔肥氣〕心積〔伏梁〕脾積〔痞氣〕肺積〔息賁〕腎積〔賁豚〕也。〔以下五十六難之略文〕……」。
◉『病名彙解』積聚:「五積六聚の分ちな(ママ)り。○『病源』に云,五臟の氣積(つむ)を名て積と云。六府の氣聚を名て聚と云。積は痛で其の部を離れず,聚は其の痛,常の處にあることなし。○『難經』五十五難に……」。
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/323?ln=ja
★『諸病源候論』卷19・積聚病諸候・積聚候:「積聚者,由陰陽不和,腑臟虛弱,受於風邪,搏於腑臟之氣所為也。腑者,陽也。臟者,陰也。陽浮而動,陰沉而伏。積者陰氣,五臟所生,始發不離其部,故上下有所窮已;聚者陽氣,六腑所成,故無根本,上下無所留止,其痛無有常處。諸臟受邪,初未能為積聚,留滯不去,乃成積聚」。
◉『萬病回春』卷3・積聚:「五臟五積,六腑六聚。積在本位,聚無定處。氣不能作塊成聚」。
○塊乃有形之物痰與食積成死血
【訓み下し】
○塊 乃ち有形の物,痰と食と積んで死血を成す。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・積聚:「塊乃是有形之物,痰與食積死血而成,此理曉然。且中為痰飲,左為血塊,右為食積」。
★『万病回春』の意味するところは,その下文の「中為痰飲,左為血塊,右為食積」からすると,「塊は有形の物で,それは痰・食積・死血から形成される」という塊の説明であって,痰と食が蓄積して死血が形成される,という意味ではないと思う。
○脇下積氣期門[直乳二肋之端]章門[大橫外直季脇肋端]中脘[臍上四寸]深刺
【訓み下し】
○脇下積氣は,期門[直乳(ちょくにゅう)二肋の端(はし)]・章門[大橫の外(ほか),直(ちょく)季脇肋の端(はし)]・中脘[臍の上(かみ)四寸]深く刺す
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・諸積聚:「脇下積氣治期門,章期(ママ)中脘療賁豚」。
◉『鍼灸聚英』期門:「主……脇下積氣……。
◉『鍼灸聚英』章門:「主……脇痛……胸脇痛支滿……賁豚積聚……」。
○賁豚氣海[臍下一寸五分]灸
【訓み下し】
○賁豚(ほんとん),氣海[臍下一寸五分]灸す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』氣海:「主……賁豚七疝……」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・諸積聚:「氣塊冷氣一切氣,氣海鍼灸病可愈。……章期中脘療賁豚,氣海百壯不可少」。
○積聚癥瘕腸澼大腸有水臍下切痛四滿[中注下一寸去腹中行一寸半]商曲[石關下一寸去腹中行各五分]深刺
【訓み下し】
○積聚癥瘕(が),腸澼,大腸 水有り,臍(へそ)の下(しも)切痛に,四滿[中注の下(しも)一寸,腹の中行を去る一寸半]・商曲[石關の下(しも)一寸,腹の中行を去る各五分]深く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』四滿:「主積聚疝瘕,腸澼,大腸有水,臍下切痛……」。
◉『鍼灸聚英』商曲:「主腹痛,腹中積聚,時切痛,腸中痛……」。
○伏梁心下如䨱柸中脘深百會[項中央旋毛中]淺刺
【訓み下し】
○伏梁,心下(しんか) 覆杯の如く,中脘深く,百會[項(いただき)【頂】中央(まんなか),旋毛(つじげ)の中(うち)]淺く刺す。
【注釋】
○䨱:「覆」の異体字。 ○柸:古同「杯」,盛酒、茶等的器皿。
○伏梁:古病名。主要是指心下至臍部周圍有包塊(或氣塊)形成的病證,大多由於氣血結滯所致。①心積症。其症有積自臍上至心下,其大如臂,狀似屋舍棟樑。『難經』五十六難:「心之積名曰伏梁,起臍上,大如臂,上至心下。久不愈,令人病煩心」。②髀股䯒皆腫,環臍而痛的疾患。『素問』腹中論:「人有身體髀股䯒皆腫,環臍而痛,是為何病?歧伯曰:病曰伏梁。此風根也,其氣溢於大腸,而著於肓,肓之原在臍下,故環臍而痛也」。③指少腹內之癰腫。『素問』腹中論:「病有少腹盛,上下左右皆有根,……病名伏梁,……裹大膿血,居腸胃之外」。
◉『病名彙解』伏梁 https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/235?ln=ja
◉『鍼灸聚英』雜病歌・諸積聚:「結氣上喘及伏梁,中脘治之病自愈,更有心下如杯形,須治中脘及百會」。
◉『難經』五十六難曰:「……肝之積名曰肥氣,在左脇下,如覆杯,有頭足」。
○血塊如柸關元[臍下三寸]淺刺
【訓み下し】
○血塊 杯(さかずき)の如く,關元[臍下三寸]淺く刺す。
【注釋】
◉『神應經』諸般積聚部:「血結如杯:關元」。
◉『鍼灸聚英』關元:「主……冷氣結塊痛,寒氣入腹痛……」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「瘕聚關元病必除」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・婦人:「月水不調結成塊,用鍼關元水自調」。
◉『醫學入門』關元:「臍下㽲痛,或結血狀如覆杯……」。
○積聚堅大如盤上脘[臍上五寸]三里[膝下三寸]觧谿[衝陽後一寸五分腕上陷]通谷[交上脘相去五分]隂谷[膝下內輔骨後按之應手屈膝得之]深刺
【訓み下し】
○積聚堅く大 盤の如く,上脘[臍の上五寸]・三里[膝の下三寸]・解谿[衝陽の後ろ一寸五分,腕(わん)の上の陷]・通谷[上脘を交(さしはさ)【夾】んで相い去ること五分]・隂谷[膝の下(しも),內輔骨の後(あと),之を按(お)し手に應じ,膝を屈(かが)めて之を得(う)]深く刺す。
【注釋】
○觧谿:解谿。/觧:「解」の異体字。 ○交:添え仮名および上文などによれば「夾」字の誤り。
◉『鍼灸聚英』上脘:「主……積聚堅大如盤……」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・諸積聚:「諸積三里治之寧,陰谷解谿通谷穴」。
◉『鍼灸聚英』通谷(腹):「幽門下一寸,夾上脘兩旁相去五分。……主……結積留飲,痃癖胸滿,食不化……」。
卷下・十ウラ(746頁)
○痞根專治之痞塊[十三推下各開三寸五分]灸多左邊如左右俱有左右俱灸灸而後一晩夕覺腹中響動是驗也
【訓み下し】
○痞根,專ら之痞塊[十三推【椎】の下,各開(ひら)くこと三寸五分]を治(ぢ)す。灸 左邊多く,如(も)し左右俱に有らば,左右俱に灸す。灸して後(のち)一晩(ばん)夕(せき),腹中響動を覺えば,是れ驗(しるし)なり。
【注釋】
★『醫學入門』が出典であれば,「之」字は衍文であろう。
◉『醫學入門』治病奇穴・痞根穴:「專治痞塊。十三椎下各開三寸半,多灸左邊。如左右俱有,左右俱灸。又法:……。後灸一晚夕,覺腹中響動是驗」。
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