2024年3月31日日曜日

鍼灸溯洄集 65 卷下(11)喉痺

   卷下・九オモテ(743頁)

 (11)喉痺[コウヒ]

  【注釋】

 ◉『病名彙解』喉痺:「常に云コウヒなり。○陰陽別論に云,〈一陰一陽,結(むすぼ)ふる,これを喉痺と云〉。『類註』に,〈痺(ひ)は閉[トヅル]なり〉。○『鍼灸聚英』に云,〈手の少陰少陽の二脈,喉(のど)に並ぶ。氣熱するときは,內結して腫脹,痺して通ぜざるときは死す。後人強(しい)て八名を立つ。……八名詳なりといへども,皆是火に歸するなり〉。○『正傳』に云……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/237?ln=ja

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・喉痹:「『原病式』曰:〈痹、不仁也。俗作閉。閉、壅也。火主腫脹,故熱客上焦,而咽嗌腫脹也〉。張戴人曰:〈手少陰、少陽二脈,並於喉。氣熱則內結腫脹。痹而不通則死〉。後人強立八名。曰:單乳蛾、雙乳蛾、單閉喉、雙閉喉、子舌脹、木舌脹、纏喉風、走馬喉閉。熱氣上行,故傳於喉之兩旁,近外腫作。以其形似,是謂乳蛾。一為單,一為雙也。其比乳蛾差小者,名閉喉。熱結舌下,復生一小舌,名子舌脹。熱結於舌中為之腫,名木舌脹。木者,強而不柔和也。熱結於咽喉,腫繞於外,且麻且癢,腫而大者,名曰纏喉風。暴發暴死者,名走馬喉痹。八名雖詳,皆歸之火……」。

 ◉『醫學正傳』卷5・喉病・論:「若夫卒然腫痛,水漿不入,言語不通,死在須臾,誠可驚駭」。


喉痛生瘡者紅腫結核脹痛者喉閉塞不能言者

俱是風熱痰火也因爲呼吸氣欝肩背間貯血熱

爲喉痺

  【訓み下し】

喉(のど)痛み瘡(かさ)を生じ,紅腫結核脹痛,喉(のど)閉塞,言(ものい)うこと能わざる者は,俱に是れ風熱痰火なり。因って呼吸を爲し,氣欝し,肩(けん)背(ぱい)の間(あいだ),血(けつ)熱(ねつ)〔を〕貯わえ,喉痺を爲す。

  【注釋】

 ★「貯」の下にレ点があるが,「血」と「熱」との間の中央に縦線があるので,こちらを重視し,「血〔を〕貯え,熱」とはしなかった。また「血熱」は「貯」の対象語(目的語)であるので,「ヲ」があったほうがよかろう。

 ◉『萬病回春』卷5・咽喉:「咽喉腫痛者,或喉痛生瘡者,或咽痛閉塞者,或紅腫結核脹痛者,或喉閉塞不能言語者,俱是風熱痰火,皆用清涼散加減」。


○喉閉急症也疾刺少商[大指去爪甲角]用砭針出毒血併豁吐痰涎爲要

  【訓み下し】

○喉(のど)閉づるは,急症なり。疾(すみ)やかに少商[大指(てのおゆび)の爪の甲の角(かど)を去る]〔を〕刺す。砭針を用い毒(どく)血(けつ)を出だす。併豁 痰涎を吐する,要と爲す。

  【注釋】

 ○オユビ:親ゆび。おおゆび。 ○豁:排遣、發洩。割裂、裂開。舒張、舒展。

 ◉『萬病回春』卷5・咽喉:「或喉閉急症,急刺少商穴,在大指甲外側,用三稜針放出毒血,併豁吐痰涎為要」。「併(あわ)せて/併(なら)びに痰涎を豁吐するを要と為す」。


  卷下・九ウラ(744頁)

○尺澤[肘橫文中]瘂門[後髮際五分中]用砭針出血

  【訓み下し】

○尺澤[肘(うで)の橫文(おうもん)の中(なか)]・瘂門[後髮際五分の中]砭針を用い血を出だす。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』尺澤:「主……喉痹……」。

 ★瘂門の主治,出典未詳。

 ◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・咽喉 のんどのやまひ:「尺澤・瘂門より血をとる……」。


○從喉腫以針刺取血[有口受]若遲緩者不救急關冲[手小指次指端去爪甲角]合谷[手大指次指岐骨間陷中]豐隆[外跗上八寸下䯒外外廉]湧泉[足心陷中]淺刺

  【訓み下し】

○喉腫從(よ)り針を以て刺して血を取る[口(く)受(じゆ)有り]。若し遲緩なれば,急を救わず。關冲[手の小指の次の指の端,爪甲の角を去る]・合谷[手の大指の次の指,岐骨(ちまたほね)の間の陷中]・豐隆[外(そと)跗(ふ)上(じよう)八寸の下(した),䯒(はぎ)の外(ほか),外廉(そとかど)]・湧泉[足心の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ○口(く)受(じゆ):相手の人の口から直接に教えを受けること。口授を受けること。 ○冲:「衝」の異体字。 ○外跗上八寸下䯒外外廉:「跗」は和刻本『鍼灸聚英』によると思われる。「踝」字の誤り。「外跗【踝】上八寸の下」は意味不明で,「下」字の前で句切るべきであろう。「外外廉」,『鍼灸聚英』は「外廉」で,「外」字重ならず。→「外跗【踝】の上八寸,下䯒(はぎ)の外廉」。 ○若遲緩者不救急:ここも句読に問題があると思う。引用元に意味するところは,「もしぐずぐずしていたら,(その人の命を)救えない。急いで/すみやかに以下の処置をせよ」で,「急」字は下文に属すと思う。

     ★和刻本には訓点があるものが多いが,これを書き写す際には(時間の節約などのために)訓点を省略して写すことがある。のちに改めてこれに点をつけるときには,底本を参照せず,あるいは参照できず,独自に施すために誤りが生じるのだと思う。これは,全文を写したものよりも,一部分を引用したものに多く現われる印象がある。

 ◉『萬病回春』卷5・咽喉:「或喉閉急症,急刺少商穴……若遲緩不救即死,速用吹喉散,或用好醋噙漱,吐痰要緊」。

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・喉痹:「劉氏曰:傷寒少陰病,咽痛及生瘡,不能言,聲不出者,用甘苦辛溫制其標病,以通咽喉。至若傷寒伏氣內發,咽痛兼下利清穀,裡寒外熱,面赤脈微弱者,用辛熱之藥攻其本病,以順陰陽。利止則水升火降而咽痛自無也。此非雜病一陰一陽結為喉之比,不可妄施針砭及寒涼之藥,右是火熱喉痹,急用吹藥點,刺少商、合谷、豐隆、湧泉、關冲等穴」。

 ◉『鍼灸聚英』豐隆:「外跗〔明刊本作「踝」〕上八寸,下䯒外廉陷中。……主……喉痹不能言……氣逆則喉痹卒瘖……」。

 ◉『鍼灸甲乙經』豐隆:「在外踝上八寸,下廉胻外廉陷者中」。


○喉痺哽腫氣舍[頸直人迎下夾天突陷中]缺盆[肩下橫骨陷中]陽谿[腕中上側兩筋之間陷中]經渠[寸口陷中]太陵[掌後骨下兩筋間陷]前谷[手小指外側本節前陷中]隨症淺刺深刺

  【訓み下し】

○喉痺 哽(かた)く腫れるに,氣舍[頸(くび)の直ぐ人迎の下(した),天突を夾(さしは)む陷中]・缺盆[肩の下(しも),橫骨の陷中]・陽谿[腕(わん)の中(なか),上(かみ)の側(かたわら),兩筋の間の陷中]・經渠[寸口の陷中]・太陵[掌後の骨の下(した),兩筋の間の陷]・前谷[手の小指の外の側(かたわら),本節(もとふし)の前の陷中]症に隨って淺く刺し,深く刺す。

  【注釋】

  ○哽腫:『鍼灸聚英』氣舍の「哽饐,咽腫」を省略したものと思われる。「哽饐」は,「哽噎」に同じ。意味は,食物梗塞,難下咽。著者は意味を理解できず,「哽」を「硬」字のように解したのであろう。/哽:阻塞 [choke]。噎住,食物不能下咽 [choke with food]。/饐:食物腐壞變味。/噎:食物塞住咽喉,氣透不過來。 ○太陵:「大陵」に同じ。 ○筋:原文は「筯」〔=箸(ハシ)〕に作る。

 ◉『鍼灸聚英』氣舍:「主……喉痹哽饐,咽腫不消,食飲不下……」。

 ◉『鍼灸聚英』缺盆:「主……瘰癧喉痹……」。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・咽喉:「凡人喉痹治頰車,合谷少商與經渠,大陵二間與尺澤,再兼前谷與陽谿」。

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