2024年3月27日水曜日

鍼灸溯洄集 61 卷下(7)耳

   卷下・六ウラ(738頁)

  (7)耳[二]

  【注釋】

 ★耳:添え仮名には「テ」とあるが,「ニ」の誤りであろう。


耳者腎之竅也

  【訓み下し】

耳(みみ)は,腎の竅なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「耳者,腎之竅。腎虛則耳聾而鳴也」。


○左耳聾忿怒動膽火也

  【訓み下し】

○左の耳 聾(し)いるは,忿(ふん)怒(ど) 膽火を動かす。

  【注釋】

 ○動:事物改變原來位置或脫離靜止狀態。與「靜」相對。觸發、感觸。動搖;震撼。改變;變動。 ○膽火:證名。膽火偏盛所出現的證候。證見眩暈、目黃、口苦、坐臥不寧等。『張氏醫通』火:「目黃,口苦,坐臥不寧,此膽火所動也」。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「耳左聾者,忿怒動膽火也」。

 ◉『病名彙解』耳(に)聾(ろう):  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/69?ln=ja


○右耳聾者色慾動相火也

  【訓み下し】

○右〔の〕耳 聾(し)いるは,色慾 相火を動かす。

  【注釋】

 ○相火:生理學名詞。指寄居於肝腎二臟的陽火,是人體生命活動的動力。『格致餘論』相火論:「火內陰而外陽,主乎動也,故凡動皆屬火。以名而言,形氣相生,配於五行,故謂之君;以位而言,生於虛無,守位稟命,因其動而可見,故謂之相。……具於人者,寄於肝腎二部,肝屬木而腎主水也。膽者,肝之府;膀胱者,腎之府;心包絡者,腎之配;三焦以焦言,而下焦司肝腎之分,皆陰而下者也。天非此火,不能生物;人非此火,不能有生。……肝腎之陰,悉具相火,人而同乎天也」。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「耳右聾者,色慾動相火也」。


○兩耳聾者厚味動胃火也

  【訓み下し】

○兩の耳 聾(し)いる者は,厚味 胃火を動かす。

  【注釋】

 ○胃火:中醫學名詞。指胃熱熾盛化火的病變。胃火熾盛,可延足陽明胃經上炎,表現為牙齦腫痛、口臭、嘈雜易飢、便秘等。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「兩耳俱聾者,厚味動胃火也」。


○兩耳腫痛亦出膿者腎經之風熱也

  【訓み下し】

○兩の耳 腫れ痛み,亦た膿を出だすは,腎經の風熱なり。

  【注釋】

 ○風熱:病證名。風和熱相結合的病邪。臨床表現為發熱重、惡寒較輕、咳嗽、口渴、舌邊尖紅、苔微黃、脈浮數,甚則口燥、目赤、咽痛、衄血等。

 ◉『萬病回春』卷5・耳病:「兩耳腫痛者,腎經有風熱也。……兩耳出膿者,腎經亦風熱也」。


○耳鳴如蟬聲聤耳膿出耳生瘡聽宮[耳前起肉當耳缺者陷中]百會[項中央旋毛中]陽谷[手外側腕中銳骨下陷中]淺刺

  【訓み下し】

○耳鳴ること蟬の聲の如く,聤耳(ていに)膿出でて,耳 瘡(かさ)を生じ,聽宮[耳の前起肉の耳の缺けたに當たる者陷中]・百會[項(いただき)【頂】の中央(まんなか),旋毛(つじげ)の中(うち)]・陽谷[手の外の側(かたわら),腕(わん)の中(なか),銳骨(とがりほね)の下の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ★選穴は,『鍼灸聚英』雑病歌・耳目(か,『神應經』耳目部)によっていると思われる。ただ『鍼灸聚英』の手太陽小腸経には聽宮穴の記載がない(聽會に誤る。図は誤らず)。ここでの「聽宮」穴の部位と主治は,『鍼灸聚英』の耳門穴と合致するので,「聽宮」は「耳門」の書き誤りか,聽宮穴の部位注と耳門穴を書き漏らしたのかも知れない。→聽宮[耳中珠子,大如赤小豆]耳門[耳前起肉當耳缺者陷中]。

 ○聤耳:(suppurative otitis media),發生於中耳部的急性或慢性化膿性耳病。……相當於西醫的化膿性中耳炎。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「耳鳴百會與聽宮,聽會耳門絡却中,陽谿陽谷前谷穴,後谿腕骨中渚同,液門商陽腎俞頂,緫筭〔=總算〕十四穴裏攻,聤耳生瘡有膿汁」。

 ◉『神應經』耳目部:「耳鳴:百會 聽會 聽宮 耳門 絡卻 陽谿 陽谷 前谷 後谿 腕骨 中渚 液門商陽 腎俞」。「聤生瘡有膿汁:耳門 翳風 合谷」。

 ◉『鍼灸聚英』耳門:「耳前起肉,當耳缺者陷中。……主耳鳴如蟬聲,聤耳膿汁出,耳生瘡……」。

 ◉『鍼灸聚英』手太陽小腸經穴・聽會〔正しくは聽宮〕:「(一名多所聞)○耳中珠子,大如赤小豆。主……聤耳耳聾,如物填塞無聞,耳中嘈嘈憹憹蟬鳴」。

 ◉『鍼灸聚英』陽谷:「主……耳聾耳鳴……」。

 ★『鍼灸聚英』督脈の百會の主治に耳関連の記載なし。


  卷下・七オモテ(739頁)

○耳鳴耳聾合谷[手大指次指岐骨間]腕骨[手外側腕前起骨下陷中]少海[肘內大骨外去肘端五分陷中]肩貞[曲胛下兩骨觧間肩髃後陷中]淺刺

  【訓み下し】

○耳鳴り耳聾(し)いるに,合谷[手の大指の次の指の岐骨(ちまたほね)の間]・腕骨[手の外の側(かたわら),腕前起骨の下の陷中]・少海【小海】[肘(うで)の內(うち),大骨の外(ほか),肘(うで)の端を去る五分の陷中]・肩貞[曲胛の下(しも),兩骨の解(とけめ)の間(あいだ),肩髃の後の陷中],淺く刺す。

  【注釋】

 ★少海:「小海」とすべきもので,『鍼灸聚英』によると思われる。『鍼灸聚英』は,少陰心經・太陽小腸經,ともに「少海」に作る。

 ◉『鍼灸聚英』合谷:「主……耳聾……」。

 ◉『鍼灸聚英』腕骨:「主……寒熱耳鳴……」。

 ◉『鍼灸聚英』手少陰心經穴・少海:「(一名曲節)肘內廉節後,大骨外,去肘端五分。屈肘向頭得之」。主治に「耳鳴耳聾」なし。

 ◉『鍼灸聚英』手太陽小腸經穴・少海〔正しくは小海〕:「肘內大骨外,去肘端五分陷中。屈手向頭取之。……主……耳聾目黃……」。

 ◉『鍼灸聚英』肩貞:「主……耳鳴耳聾……」。


○耳不聦耳鳴痛天牖[頸大筋外完骨下髮際上]顱𩔨[耳後間青絡脉中]絡却[通天後一寸半]淺刺

  【訓み下し】

○耳聰(さと)からず,耳鳴り痛むに,天牖[頸(くび)の大筋(きん)の外,完骨の下(した),髮際の上(かみ)]・顱𩔨(けんろ)[耳の後の間(あいだ),青絡脈の中(なか)]・絡却[通天の後ろ一寸半]淺く刺す。

  【注釋】

 ★顱𩔨(けんろ):添え仮名にしたがえば,「懸顱」穴の可能性があるが,懸顱には耳関連の主治がない。またその部位の説明は「顱息」穴と一致するので,「顱𩔨」は「顱息」の誤りであろう。

 ○聦:「聰・聡」の異体字。聽覺敏銳。如:「耳聰目明」。

 ◉『鍼灸聚英』天牖:「頸大筋外,缺盆上,天容後,天柱前,完骨下,髮際上。……主……耳不聰……」。

 ◉『鍼灸聚英』顱息:「耳後間青絡脈中。……主耳鳴痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』懸顱:「曲周上,顳顬上廉」。懸顱の主治に耳関連なし。

 ◉『鍼灸聚英』絡却:「通天後一寸五分。……主頭旋耳鳴……」。『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「耳鳴百會與聽宮,聽會耳門絡却中」。

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