2024年3月16日土曜日

鍼灸溯洄集 50 卷中(17)飲食

   卷中・十九ウラ(714頁)

  (17)飲食(いんしい)

傷食者因喰飲食脾虗運化不及於胷腹飽悶惡

食噯氣作酸下洩臭屁或腹痛吐瀉重則發熱頭疼

  【訓み下し】

傷食は,飲食(いんしい)を喰(くろ)うに因って,脾虛し,運化 胸(むね)腹(はら)に及ばず,飽き悶え,食(しよく)を惡み,噯氣 酸を作(な)し,下洩臭屁,或いは腹痛吐瀉、重き則(とき)は發熱(ほつねつ),頭(かしら)疼む。

  【注釋】

 ○喰:「餐・飡」の異体字。吃。 ○胷:「胸」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「傷食者,只因多飡飲食,脾虛運化不及,停於胸腹,飽悶惡心、惡食不食、噯氣作酸、下洩臭屁、或腹痛吐瀉,重則發熱頭疼,左手關脈平和、右手關脈緊盛,是傷食也」。


  卷中・二十オモテ(715頁)

○飲食停積痞脹作痛者冝消導

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)停(とどこお)り積んで,痞脹 痛みを作(な)す者は,消導〔に〕宜(よろ)し。

  【注釋】

 ○冝:「宜」の異体字。

 ○痞脹:證名。胸脘痞滿而兼見脘腹發脹者。『張氏醫通』腹滿:「此得之濕熱傷脾陰,不能統血,胃雖受穀,脾不輸運,故成痞脹。當理脾氣,祛濕熱,兼養血之劑」。

 ○消導:消食化滯(resolving food stagnancy),消法之一,運用消除食滯的藥物,恢復脾胃運化功能的治法。又稱消食導滯、消導法。消食化滯法主治食積內停證,臨床表現為胸脘痞滿,噯腐吞酸,惡食嘔逆,飽脹或腹痛泄瀉,食瘧下利,脈滑,舌苔厚膩等症。

 ◉『指南』病名彙考・痞:「痞は否也。中氣否塞して上下の氣不通滿脹するなり。此症に積氣あるを痞塊と云」。

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食停積,痞脹作痛者,宜消導也」。


○飲食不思痞悶者胃寒也

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)思わず,痞悶する者は,胃寒なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食不思、痞悶者,胃寒也」。


○飲食不化到飽者脾虗也

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)化せず,飽くに到る者は,脾虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食不化到飽者,脾虛也」。


○飲食自倍者脾胃乃傷也

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)自(おの)ずから倍(ま)す者は,脾胃乃ち傷(やぶ)れるなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・飲食:「飲食自倍者,脾胃乃傷也」。

 ◉『素問』痺論(43):「飲食自倍,腸胃乃傷」。


○支滿不食肺俞[三推下相去脊中各三寸]淺刺

  【訓み下し】

○支滿不食,肺の俞[三推の下(しも),脊中を相い去ること各三【二】寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ★十ウラ(696頁)では,肺兪をはじめ,背部兪穴は,他の箇所では「各二寸」に作るので,「三寸」は誤りであろう。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「支滿不食治肺俞」。

 ○支滿:「胸脇支滿」:病證名。指胸及脇肋部支撐脹滿。


○振寒不食衝陽[足跗上五寸去陷谷三寸骨之間動脉]深刺

  【訓み下し】

○振寒不食,衝陽[足の跗(こう)の上(かみ)五寸,陷谷を去る三寸,骨の間の動脈]深く刺す。

  【注釋】

 ○振寒:證名。發冷時全身顫動。出『素問』寒熱病。『證治準繩』雜病:「振寒,謂寒而顫振也」。『靈樞』口問:「寒氣客於皮膚,陰氣盛,陽氣虛,故為振寒寒慄」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「振寒不食衝陽宜」。


○胃熱不食下廉[上廉下三寸舉足取之]深刺

  【訓み下し】

○胃熱不食,下廉[上廉の下(した)三寸,足を舉げ之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ○胃熱:病證名。指熱邪犯胃,或情志不遂,氣鬱化火,或過食辛辣炙煿以致胃中火熱熾盛的證候。症見胃脘灼痛,吞酸嘈雜,口渴口臭,或渴喜冷飲,消穀善飢,或牙齦腫痛,口腔糜爛,小便短赤,大便秘結,舌紅脈數等。治宜清胃瀉火。胃熱,即是胃火。中醫分為熱鬱胃中、火邪上炎和火熱下迫等。多由邪熱犯胃;或因嗜酒、嗜食辛辣、過食膏粱厚味,助火生熱;或因氣滯、血瘀、痰,濕、食積等鬱結化熱、化火,均能導致胃熱(胃火);肝膽之火,橫逆犯胃,亦可引起胃熱(胃火)。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「胃熱不食下廉穴」。


○胃脹不食水分[臍上一寸]深刺胸脇滿不得俛仰食不下喜飲周榮[中府下一寸六分仰取之]中府[乳上三肋間去中行六寸]淺刺

  【訓み下し】

○胃脹不食,水分[臍上一寸]深く刺す。胸脇(むねわき)滿ち,俛仰(めんぎょう)すること得ず,食下らず,喜(この)んで飲す。周榮[中府の下(しも)一寸六分,仰(あおの)いて之を取る]・中府[乳の上(かみ),三肋の間(あいだ),中行を去る六寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○俛仰(めんぎょう):「俛」,ここでは「俯」とおなじ意味なので「ふぎょう」と読むのが適切。

 ○胃脹:病名。脹病之一。主證脹滿、胃脘痛。『靈樞』脹論:「胃脹者,脹滿,胃脘痛,鼻聞焦臭,妨於食,大便難」。『醫醇剩義』脹:「胃為水穀之腑,職司出納。陰寒之氣上逆,水穀不能運行,故脹滿而胃痛,水穀之氣腐於胃中,故鼻聞焦臭,而妨食便難也」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「胃脹不食水分宜」。

 ◉『鍼灸聚英』周榮:「中府下一寸六分,仰而取之。……主胸脇滿不得俛仰,食不下,喜飲,欬唾稠膿,欬逆,多淫。(「淫」恐作「唾」。)」。

 ◉『鍼灸聚英』中府:「主腹脹,四肢腫,食不下,喘氣胸滿……」。


○飲食不消腹堅急腸鳴胞肓[十九推下相去脊中行各三寸半]深刺

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)消せず,腹堅く急に腸(はらわた)鳴り,胞肓[十九推下相去脊中行各三寸半]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』胞肓:「主腰脊急痛,食不消,腹堅急,腸鳴,淋瀝,不得大小便,癃閉下腫」。


○傷酒嘔吐率谷[耳上入髮際一寸半陷中]

  【訓み下し】

○酒に傷れ嘔吐するに,率谷[耳の上(かみ),髮の際(はえぎわ)に入る一寸半の陷中]。

  【注釋】

 ○傷酒:病證名。飲酒過度所致的病證。一名酒傷。見『證治要訣』傷酒。『諸病源候論』卷二:「酒性有毒,而復大熱,飲之過多,故毒熱氣滲溢經絡,浸溢腑臟,而生諸病也」。

 ◉『醫學入門』率谷:「耳上入髮際一寸半。……主煩滿嘔吐,醉傷酒,風目眩痛,膈胃寒痰,腦角眩痛不食」。


○多食身瘦疲吐醎汁關元[臍下三寸]脾俞[十一推下去脊中各二寸]灸刺

  【訓み下し】

○多く食し,身瘦せ疲れ,鹹(しははゆ)き汁を吐き,關元[臍下三寸]・脾俞[十一推下去脊中各二寸]灸刺す。

  【注釋】

 ○醎:「鹹」の異体字。「しははゆし」:塩っぱい。

 ◉『鍼灸聚英』脾俞:「主多食身疲瘦,吐鹹汁……」。

 ◉『鍼灸聚英』關元:「主積冷虛乏……」。


  卷中・二十ウラ(716頁)

○飲食喜完穀不化通谷[上脘旁各五分]梁門[承滿下一寸去中行二寸]淺刺

  【訓み下し】

○飲食(いんしい)喜(この)んで完穀 化せず,通谷[上脘の旁(かたわら)各五分]・梁門[承滿の下一寸,中行を去る二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』梁門:「主脇下積氣,食飲不思,大腸滑泄,完穀不化」。

 ◉『鍼灸聚英』〔腹〕通谷:「幽門下一寸,夾上脘兩旁相去五分。……主失欠口喎,食飲善嘔,暴喑不能言,結積留飲,痃癖胸滿,食不化,心恍惚,喜嘔,目赤痛從內眥始」。

 ◉『鍼灸聚英』〔足〕通谷:「足小指外側本節前陷中。……主……留飲胸滿,食不化」。


○脾胃疼食不進天樞[臍旁二寸]中脘[臍上四寸]三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○脾胃疼(いた)み,食進まず,天樞[臍旁二寸]・中脘[臍上四寸]・三里[膝下三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「主五膈,喘息不止,腹暴脹,中惡,脾疼,飲食不進……」。

 ◉『鍼灸聚英』〔足〕三里:「主胃中寒,心腹脹滿,腸鳴,臟氣虛憊,真氣不足,腹痛食不下……」。

 ◉『鍼灸聚英』天樞:「主……食不下……」。

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