2024年3月4日月曜日

鍼灸溯洄集 38 卷中(5)痺症[附痛風]

   卷中・七ウラ(690頁)

(5)痺症[附痛風] /【訓】痺症[附(つけた)り:痛風]

痺論歧伯曰風寒濕之三氣雜至合而為痺。

  【訓み下し】

痺論に歧伯の曰わく,「風寒濕の三氣雜(まじ)わり至り合(がっ)して痺と為る」。

  【注釋】

 ○痺論:『素問』痺論(43)。 ○歧:「岐」の異体字。

 ◉『素問』痺論:「黃帝問曰:痺之安生。歧伯對曰:風寒濕三氣雜至,合而為痺也」。


○骨痺者足攣不能伸歩身僂不能直居

  【訓み下し】

○骨痺は,足攣し伸歩すること能わず,身僂(かが)まり,直(ただ)ちに居(い)ること能わず。

  【注釋】

 ◉『醫宗必讀』卷10・痹:「腎痹者,善脹,尻以代踵,脊以代頭」。[注:腎者胃之關,腎氣痹則陰邪乘胃,故善脹。尻以代踵,足攣不能伸也,脊以代頭,身僂不能直也,腎脈入跟中,上腨內,出膕內廉,貫脊屬腎。故為是病。]


○筋痺者夜臥則驚多飲小便數

  【訓み下し】

○筋痺は,夜臥(ふ)して(則ち)驚き,多く飲して小便數(さく)。

  【注釋】

 ○筋痺:病名。語出『素問』痹論。指以筋的症状為主的痹證。臨床表規為筋脈拘急,關節疼痛而難以伸張。因筋聚於關節,風寒濕,邪氣侵於筋所致。『素問』長刺節論:「病在筋,筋攣節痛,不可以行,名曰筋痹」。

 ◉『素問』痺論:「肝痺者,夜臥則驚,多飲數小便,上為引如懷」。


○脉痺者脉不通煩則心下皷暴上氣而喘嗌乾善噫

  【訓み下し】

○脈痺は,脈 通ぜず,煩する則(とき)は心下皷し,暴(にわ)かに上氣して喘し,嗌(のど)乾き善(この)んで噫(あい)す。

  【注釋】

 ○脉痺:病名。風寒濕邪阻滯血脈所致的痹症。出『素問』痹論。證見皮膚變色,皮毛枯萎,肌肉頑痹等。凡是指以血脈症状為主的痹證。臨床表現為有不規則的發熱,肌膚有灼熱感、疼痛、皮府或見紅斑,多因血虛,以寒濕邪留滯血脈所致。

 ◉『素問』痺論:「心痺者,脈不通,煩則心下鼓,暴上氣而喘,嗌乾善噫,厥氣上則恐」。 ○皷:「鼓」の異体字。 ○


○肌痺者四支解墯發咳嘔汁上爲大塞

  【訓み下し】

○肌痺は,四支(てあし)解墯し,咳(がい)を發し,嘔汁 上(のぼ)って大塞を爲す。

  【注釋】

 ○肌痺:病名。寒濕侵襲肌膚所致的痹症。又名著痹、濕痹。『素問』長刺節論:「病在肌膚,肌膚盡痛,名曰肌痹,傷於寒濕」。

 ◉『素問』痺論:「脾痺者,四支解墯,發欬嘔汁,上為大塞」。


○皮痺者煩滿喘而嘔桉後世醫正不考內經爲一哀哉

  【訓み下し】

○皮痺は,煩滿喘して嘔す。案ずるに後世の醫 正に『內經(だいきょう)』を考えず,一と爲す。哀しいかな。

  【注釋】

 ○皮痺:病名。指皮膚症状為主要特徵之痹證。出『素問』痹論。『張氏醫通』卷六:「皮痹者,即寒痹也。邪在皮毛,癮疹風瘡,搔之不痛,初起皮中如蟲行狀」。多因脾腎陽虛,衛不能外固,風寒濕邪乘虛郁留,經絡氣血痹阻,營衛失調而成。

 ○桉:「案」の異体字。また「按」に通ず。

 ◉『素問』痺論:「肺痺者,煩滿喘而嘔」。 


  卷中・八オモテ(691頁)

○痛風者血氣風濕痰火皆令作痛或當風取凉臥濕地雨汗濕衣蒸軆而成痛風

  【訓み下し】

○痛風は,血氣風濕痰火は,皆な痛みを作(な)さしむ。或いは風に當たる,凉を取り,濕地に臥(ふ)し,雨汗 衣を濕(うるお)し,軆(たい)を蒸(くん)じ,痛風と成る。

  【注釋】

 ○凉:「涼」の異体字。 ○軆:「体・體」の異体字。 

 ◉『萬病回春』卷5・痛風:「痛風者,遍身骨節走注疼痛也。謂之白虎歷節風,都是血氣、風濕、痰火,皆令作痛。或勞力,寒水相搏;或酒色醉臥,當風取凉;或臥卑濕之地;或雨、汗濕衣蒸體而成」。

 ◉『病名彙解』痛風:「遍身骨節走り注ぎ疼痛するなり。皆氣血風濕痰火のなす所なり。其はなはだしきものを白虎歷節風と云り」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/170?ln=ja


○遍身壯熱骨節疼痛者風寒也

  【訓み下し】

○遍身壯熱,骨節疼痛は,風寒なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・痛風:「遍身壯熱、骨節疼痛者,是風寒也」。


○遍身疼痛属濕痰

  【訓み下し】

○遍身疼痛は,濕痰に属す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・痛風:「遍身疼痛屬濕痰者,宜除濕化痰也」。


○遍身走痛日輕夜重者血虗也

  【訓み下し】

○遍身走痛して,日(ひる)輕く夜重きは,血虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・痛風:「遍身走痛,日輕夜重者,是血虛也」。


○肢節腫痛者濕痛者皆火邪也

  【訓み下し】

○肢節腫痛は,濕痛は,皆な火邪なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・痛風:「肢節腫痛者,腫是濕、痛是火也〔肢節腫れ痛む者,腫れは是れ濕にして,痛みは是れ火なり〕」。これを誤読したか?


○兩手疼痛痲痺者風痰也

  【訓み下し】

○兩手 疼痛・痲痺する者は,風痰なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・痛風:「兩手疼痛、麻痹者,是風痰也」。


○風痺臑肘攣手臂不得舉尺澤[肘中約紋上動脉中]陽輔[足外踝上四寸絕骨端三分]深刺

  【訓み下し】

○風痺,臑肘攣,手臂 舉ぐることを得ず,尺澤[肘中の約紋の上(かみ),動脈の中(うち)]・陽輔[足の外踝(とくるぶし)の上(かみ)四寸,絕骨(ようじほね)の端三分]深く刺す。

  【注釋】

 ○風痺:病名。以疼痛遊走不定為特徵痹證。見『靈樞』壽夭剛柔。又名行痹、筋痹。『素問』痹論:「風寒濕三氣雜至,合而為痹也。其風氣勝者為行痹」。『雜病證治準繩』:「風痹者,遊行上下,隨其虛邪與血氣相搏,聚於關節,筋脈弛縱而不收」。

 ○絕骨:人體部位名。在外踝直上三寸許的腓骨凹陷處。『靈樞』經脈:「膽足少陽之脈……直下抵絕骨之端。」腓骨在此突然陷下如盡,故名。/ようじほね:楊枝骨。

 ◉『鍼灸聚英』尺澤:「肘中約紋上動脉中……風痹,臑肘攣,手臂不得舉」。『銅人腧穴鍼灸圖經』にも同様の主治証あり。

 ◉『鍼灸聚英』陽輔:「(一名分肉)足外踝上四寸。輔骨前,絕骨端三分,去丘墟七寸」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痹厥:「風痹尺澤陽輔區」。

 ◉『神應經』諸風部・風痹:「天井 尺澤 少海 委中 陽輔」。


○痰痺灸鬲俞[七推下相去脊中各二寸]

○痰痺,鬲の俞に灸す[七推の下(しも),脊中(せなか)を相い去ること各二寸]。

  【注釋】

 ○痰痺:未詳。参考:痰瘀痹阻證,中醫病證名。是指平素體虛,外感痰邪,滯留肢體筋脈、關節、肌肉,經絡閉阻所表現出來的肌肉關節刺痛,固定不移,舌質紫暗或有瘀斑,舌苔白膩,脈弦澀一類病證。本病證見於痹證,相當於西醫病名風濕性關節炎、類風濕性關節炎、反應性關節炎、肌纖維炎、強直性脊柱炎、痛風、增生性骨關節炎。

 ○本書での背部膀胱経の中行(脊中)からの距離については,『鍼灸溯洄集』30(26)「同身量尺寸法」の(26の4)「背部橫寸法」を参照。また『神應經』折量法を参照。/背兪穴の読み方は,江戸時代においては,臓腑名のあとに「心ノ兪」のように,「の」を入れることが多い。

 ◉『類經圖翼』膈俞:「在第七椎下,去脊中二寸,正坐取之」。

 ◉『神應經』穴法圖:「膈俞 在第七椎下,兩旁各二寸」。

 ◉『神應經』痺厥部:「積癖痰痺:膈俞」。

 ◉『鍼灸聚英』鬲俞:「七椎下,兩旁相去脊中一寸五分。正坐取之」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・痺厥:「積癖痰痺治膈俞」。


○寒痺腰膝痛蹇膝不得轉側伸縮委中[膕中央約文動脉陷]曲池列缺環跳風市[穴處出中風]深刺

○寒痺,腰膝痛み蹇(な)え,膝 轉側伸縮することを得ず,委中[膕の中央(まんなか),約文(もん)動脈の陷]・曲池・列缺・環跳・風市[穴處出中風]深く刺す。

  【注釋】

 ○寒痺:寒痹,病名。一名痛痹、骨痹。指寒邪偏重的痹證。『靈樞』賊風:「嘗有所傷於濕氣,藏於血脈之中、分肉之間,久留而不去,若有所墮墜,惡血在內而不去,卒然喜怒不節,飲食不適,寒溫不時,腠理閉而不通;其開而遇風寒,則血氣凝結,與故邪相襲,則為寒痹」。『靈樞』壽夭剛柔:「寒痹之為病也,留而不去,時痛而皮不仁」。『證治準繩』雜病:「寒痹者,四肢攣痛,關節浮腫」。

 ○蹇:跛腳、行動不便。遲鈍、不流利。あしなえ。/「蹇」字:実際は「足」の部分を「豆」と書いている。「足」は「𠯁」のようにも書かれたので,「𠯁」を「豆」に書き誤ったか。

 ◉『鍼灸聚英』委中:「(一名血郄)○膕中央約文動脉陷中。令人面挺伏地臥取之」。

 ◉『鍼灸聚英』環跳:「……半身不遂,腰膝痛蹇,膝不得轉側伸縮」。

 ◉『神應經』痺厥部:「身寒痺:曲池 列缺 環跳 風市 委中 商丘 中封 臨泣」。


  卷中・八ウラ(692頁)

○脚膝痠痛曲泉[膝股上內側輔骨下陷中屈膝橫文頭取之]三里[膝下三寸䯒骨外廉舉足取之]陽陵泉[膝下一寸䯒骨外廉陷中蹲居取之]委中[穴處出上]深刺宜久留膝胻股腫解谿[冲陽後一寸五分腕上陷]委中三里陽輔[穴處出之]淺刺

  【訓み下し】

○脚(あし)膝痠(しび)れ痛むに,曲泉[膝股(しつこ)の上(かみ)內側輔骨の下(しも)の陷(くぼ)み中,膝を屈(かが)め,橫文(おうもん)頭(かしら)に之を取る]・三里[膝の下(しも)三寸,䯒骨(はぎほね)の外廉(そとかど),足を舉げ之を取る]・陽陵泉[膝の下(しも)一寸,䯒骨(わきほね)の外廉(そとかど)の陷中,蹲居して之を取る]・委中[穴處 上に出づ]深く刺す。久しく留むるに宜し。膝胻(はび)股(もも)腫るるに解谿[冲陽(しょうよう)の後(しりえ)一寸五分,腕上の陷]・委中・三里・陽輔[穴處 之〔上〕に出づ]淺く刺す。

  【注釋】

 ○䯒骨:添え仮名「ワキホネ」。卷中21ウラ(718頁)は「ハキホネ」=はぎ(脛)ほね。「䯒」が「骹」の異体字であれば,脛骨近腳處較細的部分,亦指腳。「胻」の異体字であれば,小腿。いずれにせよ,「ワキ」は「waki」ではなく「はぎ」と読むと思われる。

 ○痠痛:痛時且覺酸軟;又酸又痛。痠軟疼痛。也作「痠疼」。 

 ○[穴處出之]:「之」は「上」の誤りであろう。/

 ◉『神應經』手足腰腋部:「脚膝痛:委中 三里 曲泉 陽陵 風市 崑崙 解谿」。

 ◉『神應經』手足腰腋部:「膝胻股腫:委中 三里 陽輔 解谿 承山」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「膝股上內側,輔骨下,大筋上,小筋下陷中。屈膝橫文頭取之。……膝關痛。筋攣不可屈伸。……䯒腫。膝脛冷疼」。

 ◉『鍼灸聚英』三里:「膝下三寸,䯒骨外廉大筋內宛宛中,兩筋肉分間,舉足取之。極重按之,則趺上動脈止矣。又云:犢鼻下三寸。……膝䯒痠痛……膝痿寒熱」。

 ◉『鍼灸聚英』陽陵泉:「膝下一寸,䯒外廉陷中。蹲坐取之」。「居」に作る鍼灸書,見当たらず。意味は「蹲踞〔しゃがむ〕」で,あろう。 


○脚胻痲木者環跳風市[穴處出上]深刺

  【訓み下し】

○脚(あし)胻(はぎ)痲木(まもく)は,環跳・風市(ふうじ)[穴處 上に出づ]深く刺す。

  【注釋】

 ○痲木:「麻木」におなじ。『病名彙解』麻木:「しびるることなり……」。以下,原文を参照。  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/211?ln=ja

 ◉『神應經』手足腰腋部:「風痺,脚胻麻木:環跳 風市」。


○周痺吐食肝俞[九推下相去脊中各二寸]膽俞[十推下去脊中各二寸]腎俞[十四推下去脊中各二寸]灸之

  【訓み下し】

○周痺吐食は肝の俞[九の推〔椎〕の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]・膽の俞[十の推〔椎〕の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]・腎の俞[十四の推〔椎〕の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]之を灸す。

  【注釋】

 ○周痺:周痹是病名。痹證之及於全身者。為風寒濕邪乘虛侵入血脈、肌肉所致。『靈樞』周痹:「周痹者,在於血脈之中,隨脈以上,隨脈以下,不能左右,各當其所」。「此內不在臟,而外未發於皮,獨居分肉之間,真氣不能周,故命曰周痹」。『醫學正傳』卷五:「因氣虛而風寒濕三氣乘之,故周身掣痛麻木並作者,古方謂之周痹」。證見周身疼痛,上下遊行,或沈重麻木,項背拘急,脈濡澀等。

 ◉『神應經』穴法圖:「肝俞 在第九椎下,兩旁各二寸。腎俞 在第十四椎下,與臍平,兩旁各二寸」。『神應經』には,膽俞はみえない。

 ◉『鍼灸聚英』鬲俞:「主心痛周痺,吐食翻胃」。

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