2024年3月10日日曜日

鍼灸溯洄集 44 卷中(11)霍亂

  卷中・十四オモテ(703頁)

(11)霍亂

霍亂者有濕乾之二症內傷飲食生冷外感風寒

暑濕而成濕霍亂忽心腹疼痛或上吐或下瀉或

吐瀉四肢厥冷六脉沉而爲絕○乾霍亂最難治

死有須更忽然心腹絞痛手足厥冷脉沉伏欲吐

不得吐欲瀉不得瀉隂陽乖隔㚈降不通急委中

  卷中・十四ウラ(704頁)

[膕中央約文動脉陷中]深刺出血

  【訓み下し】

霍亂は,濕・乾の二症有り,內(うち) 飲食(いんしい)の生冷(しょうれい)に傷り,外(ほか) 風寒暑濕【に/を】感じて成り,濕霍亂は,忽ち心腹(むねはら) 疼(いた)み痛む,或いは上(かみ)吐し,或いは下(しも)瀉(くだ)り,或いは吐瀉し,四肢(てあし)厥(ひ)冷(え),六脈 沉にして絕ゆることを爲す。○乾霍亂は,最も治(ぢ)し難し。死ぬること須更(しばらく)【須臾】に有り。忽然として心腹(むねはら)絞(こわ)り痛み,手足四肢(てあし)厥(ひ)冷(え),脈 沉伏にして,吐せんと欲し吐することを得ず,瀉せんと欲し瀉することを得ず,隂陽 乖隔,升降(しょうごう) 通ぜず,急(すみ)やかに委中[膕中央(あしのおりかがみのなか),約文(やくもん)動脈の陷中]深く刺す,血を出だす。


  【注釋】

 ○須更:「須臾」字の誤り。わずかの時間。瞬時。/「しばらく」:短い時間。 ○絞痛:指痙攣性的劇烈疼痛並伴有悶塞的感覺,尤指胸部悶塞性疼痛(心絞痛)。 ○手足厥冷:證名。手足冷至肘膝。見『金匱要略』腹滿寒疝宿食病脈證治:「寒疝繞臍痛,若發則自汗出,手足厥冷」。又稱手足逆冷、手足厥逆、四逆等。有寒熱之分。寒證由於陽氣衰微,陰寒內盛所致,伴有怕冷,下利清穀,脈沉微等,治宜回陽救逆,方用四逆湯、大烏頭煎等方;熱證多因熱邪鬱遏,陽氣不能通達四肢,伴有胸腹煩熱,口渴等證,治宜宣透鬱熱,方用四逆散、白虎湯、承氣湯等。 ○乖隔:分離,阻隔。 ○㚈:「升」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷3・霍亂:「夫霍亂者,有濕霍亂、有乾霍亂,皆是內傷飲食生冷、外感風寒暑濕而成。濕霍亂,忽時心腹疼痛,或上吐,或下瀉,或吐瀉齊作,攪亂不安,四肢厥冷,六脈沉欲絕,此名濕霍亂,俗云虎狼病。……有乾霍亂者,最難治,死在須臾,俗云攪腸痧。忽然心腹絞痛、手足厥冷、脈沉細或沉伏、欲吐不得吐、欲瀉不得瀉,陰陽乖隔,升降不通,急用鹽湯探吐及刺委中穴出血,治用理中湯加減」。

 ◉岡本一抱『指南』病名彙考・霍亂:「俗に此症を夏三月ならでは發せざることと思ば誤(あやまり)也。凡そ四時に皆有。なかんづく夏月には此症最も多し。即ち飲食寒温の不和を致し,或は暑濕心脾を犯し中焦塞(ふさがり)て,上下不交(まじわらず),吐瀉交(こもごも)起り,繚亂〔みだれる〕す。此を濕霍亂と云。吐せんと欲して吐すること不能(あたわず),瀉せんと欲して瀉すること不能(あたわず)。胸〔むね〕中悶〔もだゆ〕絶(ぜつ)するを乾霍亂と號す。『韻會(いんゑ)』に「手を搖(うごかす?)を揮と云。手を反(かえす)を攉と云。通じて霍に作云云。此病,揮攉の間に發して繚亂するが故に,霍亂と名づく」。

 ◉『病名彙解』霍亂: https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/191?ln=ja

 ◉『病名彙解』乾霍亂:  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/135?ln=ja


  卷中・十四ウラ(704頁)

○霍亂隂陵泉[膝下內側輔骨下陷中伸足取之]承山[兌腨腸下分肉間陷中]深刺

  【訓み下し】

○霍亂,隂陵泉[膝の下(した),內の側(かたわら),輔骨(かまちほね)の下(した)陷中,足を伸べて之を取る]・承山[兌腨(こはら)の腸,分肉の間(あいだ)の陷中]深く刺す

  【注釋】

 ○輔骨:輔助主幹的骨骼。指腓骨。『醫宗金鑒』卷89・正骨心法要旨・四肢部・胻骨:「胻骨,即膝下踝上之小腿骨,……。其骨二根,……在後者名輔骨,其形細……」。沈彤『釋骨』:「俠膝之骨,曰輔骨。内曰内輔,外曰外輔。其專以骸上為輔者(骨空論云:「骸下為輔」,「下」乃「上」之訛也),則膝旁不曰輔而曰連骸,骸上者,𩩋之上端也」。/かまち【輔】:「かばち」とも。車などの両側に付ける枠で、荷の落ちるのを防ぐもの。

 ○兌腨腸:「腨腸」:腓腸,小腿肚。『靈樞』本輸:「太陽之別也,上踝五寸,別入貫腨腸,出於委陽」。馬蒔注:「腨腸者,即足腹也」。承筋穴の別名も「腨腸」であることから,「兌腨(こはら)の腸」という切り方,訓には問題があろう。下文では「腨腸(こむら)」と訓じている。

 ◉『鍼灸聚英』陰陵泉:「主……霍亂……」。

 ◉『鍼灸聚英』承山:「兌腨腸下分肉間陷中。……主……霍亂……」。


○胷中滿悶欲吐幽門[巨闕旁一寸半]深刺

  【訓み下し】

○胸(むね)の中(うち)滿ち悶え吐せんと欲して,幽門[巨闕の旁ら一寸半]深く刺す。

  【注釋】

 ○胷:「胸」の異体字。『鍼灸聚英』でも多く「胷」字が使われている。

 ◉『鍼灸聚英』幽門:「夾巨闕兩旁各五分陷中。明堂云巨闕旁一寸五分。千金云夾巨闕一寸。(按幽門當在足陽明胃經、任脈二脈之中。)……主……嘔吐涎沫,喜唾,煩悶胸痛,胸中滿……」。


○霍亂吐瀉尺澤[肘中約紋上動脉之中]三里[曲池下二寸按之肉起銳肉之端]關冲淺刺

  【訓み下し】

○霍亂吐瀉に,尺澤[肘中(ひじのおりかがみのうち),約紋の上(かみ),動脈の中(うち)]・三里[曲池の下(しも)二寸,之を按(お)し,肉の起こる銳肉の端(はし)]・關衝,淺く刺す。

  【注釋】

 ○冲:「衝」の異体字。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・霍亂:「霍亂吐瀉治關衝,支溝三里與尺澤」。


○霍亂轉筋承筋[腨腸中脛後從脚跟上七寸陷]附陽[外踝骨之上七寸]

○霍亂轉筋,承筋[腨腸(こむら)の中(うち),脛(はぎ)の後ろ,脚跟(きびす)の上(かみ)從り七寸陷]・附陽[外踝(とくるぶし)の骨の上七寸]。

  【注釋】

 ★「附陽」:『聚英』おなじ。いま教科書は「跗陽」に作る。「外踝骨之上7寸」とする説,未詳。「三寸」の誤りか。『聚英』附陽は「外踝上三寸」に作る。「骨」字があることから,飛揚穴(外踝骨上七寸)と見誤ったか。

 ○轉筋:證名。肢體筋脈牽掣拘攣,痛如扭轉。出『靈樞』陰陽二十五人。由陰血氣血衰少,風冷外襲或血分有熱所致。發於小腿肚,甚則牽連腹部拘急。

 ◉『指南』病名彙考・轉筋:「俗に云こむらがえり。『原病式』に,轉筋は經に所謂る反戾也云云」。

 ◉『病名彙解』轉筋:「俗に云こむらがへりなり。『病源』に云,轉とは,其轉するを謂也。○『原病式』に云,轉筋は經に所謂る反戾(ほんれい)也」。

 ◉『鍼灸聚英』承筋:「主……霍亂轉筋」。

 ◉『鍼灸聚英』附陽:「外踝上三寸。……主霍亂轉筋……」。

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