卷中・十四ウラ(704頁)
(12)嘔吐[附翻胃膈噎]
【訓み下し】
嘔吐[附(つけた)り:翻胃膈噎]
【注釋】
○翻胃:見『肘後備急方』卷四。翻胃即反胃。1.食下良久復出,或隔宿吐出者;2.噎膈。
◉『指南』病名彙考・翻胃:「反(ほん)胃とも云。食物を胃の府より吐翻(はきかえす)症也。朝(あした)に食すれば夕(ゆうべ)に吐(と)〔ハク〕し,暮(くれ)に食すれば朝に吐す。『要訣』に云,翻胃の病(やまい)嘔吐より重(おもき)ものは,嘔吐は食入(いり)て即ち吐す。翻胃は即吐せず,或は一日半日にして食また翻〔ヒルガエル〕上して化(か)〔コナレル〕せざること,故(もと)の如しと云云。乃ち胃中陽氣の虛絶也。」
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◉『病名彙解』翻胃:「飲食を胃の腑より吐翻(はきかえす)ことなり。反胃とも云り。『要訣』に云,翻胃の病嘔吐より重(おも)きものは,嘔吐は食入て即ち吐す。翻胃は即ち吐せず,或は一日半日にして食また翻上〔カエリノボル〕して化せざること故,胃の氣を消することあたはず,食すでに消せざれば,糟粕〔カス〕となって大腸に入らず,必ず氣に隨て逆上し口よりして出るなり。○『醫書大全』に云,翻胃の症,其の始は五噎五膈に由て始らずと云ことなし」。
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○膈噎:病名。即噎膈。噎膈:1.吞嚥不利,飲食梗塞難下;2.飲食不得下,大便祕結者;3.反胃。
◉龔信『古今醫鑒』卷5〔和本龔廷賢續編『新刊古今醫鑑』卷3絲集〕・翻胃:「膈噎者,謂五膈、五噎也。五膈,憂、恚、寒、熱、氣也;五噎,憂、思、勞、食、氣也。膈者,在心脾之間,上下不通,若拒格之狀也。或結於咽喉,時覺有所礙,吐之不出,嚥之不下,由氣鬱痰搏而然。久則漸妨飲食,而為膈也。噎者,飲食之際,氣卒阻滯,飲食不下,而為噎也。翻胃也,膈也,噎也,三者名雖不同,而其所受之病,則一而已。『內經』謂:三陽結謂之膈。三陽者,大腸、膀胱也。結,熱結也。小腸熱結則血脈燥;大腸熱結則不能圊;膀胱熱結則津液涸;三陽既結,則前後閉結。下既不通,則反上行,所以噎食不下,縱下而復出也。此陽火不下降而上行也。故經曰:少陽所至為嘔、湧溢、食不下,此理明矣」。
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◉『指南』病名彙考・噎:「食して,呑(のみ)こまんとすれば,食に噎(むせ)て咽(のんど)に収(おさま)り入ざるを云。即ち五噎の名あり。憂噎・思噎・氣噎・勞噎・食噎也」。
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◉『病名彙解』噎膈:「俗に云かくの病なり。五噎五膈の品(しな)あり。噎は,食 胸の上咽(のど)の奧につかゑて下(くだ)らず,むせび吐するを云り。字書に,食 窒(ふさが)って氣通ぜざるなり,とあり。膈は,食 胸の下(した)につかへて吐するを云り。○『素問』陰陽別論に曰,三陽 結する,これを膈(かく)と云。○『醫學正傳』に張子和の曰,三陽は大腸・小腸・膀胱なり。結は熱結〔ムスボル〕を云なり。小腸 熱結するときは血脈燥(かわく)……。○『古今醫統』に云……。○按ずるに,名を立つること品(しな)ありといへども,其の源は一なり。蓋し七情火(ひ)起り,津液を薫蒸して痰をなし積をなし,積久しき時は血愈(いよいよ)衰へ噎をなし,飜胃をなすなり」。
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○嘔吐有聲有物也
【訓み下し】
○嘔吐は,聲有り物有るなり。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「嘔吐者,有聲有物,胃氣有所傷也」。
○嘔噦清水冷涎寒吐也
【訓み下し】
○嘔噦(えつ)は清水,冷涎は寒吐なり。
【注釋】
○噦:因胃氣不順而打嗝。『說文解字』口部:「噦,氣啎也」。/乾嘔,嘔吐時只有聲音而沒有吐出東西。明・張自烈『正字通』口部:「方書:有物無聲曰吐,有聲無物曰噦,有物有聲曰嘔」。
◉『指南』病名彙考・噦:「俗に云,しやくり。吃逆と同症也。東垣・丹溪は噦を以て乾嘔〔カラエヅキ〕とす。誤也。『類經』に曰,夫れ乾嘔は嘔也。欬逆は嗽也。皆何ぞ噦に渉(わたら)ん云云。本文に因て考るに,龔氏はただ嘔噦 倶に吐逆のことに見たるなり」。
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100314627/106?ln=ja
◉『病名彙解』嘔噦:「乾嘔の甚しきをいへり。噦の條下,考べし」。
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/118?ln=ja
◉『病名彙解』噦:「噦・𩚚逆・咳逆,此の三病,古來論あることなり……」。
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/350?ln=ja
◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「嘔噦清水冷涎,脈沉退者,是寒吐也」。
○煩渴嘔噦者熱吐也
【訓み下し】
○煩渴嘔噦は,熱吐なり。
【注釋】
○煩渴:煩躁乾渴。
◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「煩渴脈數嘔噦者,是熱吐也」。
○嘔噦痰涎者痰火也
【訓み下し】
○嘔噦痰涎(ぜん)は,痰火なり。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「嘔噦痰涎者,是痰火也」。
○痰涎症:病證名。屬痰涎在胸膈引致之疾患。『萬病回春』痰涎:「痰涎症者,渾身胸背脇痛,不可忍也,牽掣釣痛,手足冷痹,是痰涎在心膈也」。
○水寒停胃嘔吐者濕吐也
【訓み下し】
○水寒 胃に停(とど)まり,嘔吐は,濕吐なり。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「水寒停胃嘔吐者,宜燥濕也」。
○飽悶作酸嘔吐者食吐也
【訓み下し】
○飽悶 酸を作(な)し,嘔吐は,食吐なり。
【注釋】
○飽悶:因消化不良而難受的感覺。不舒服,喀氣應該是胃病的症狀。
◉『萬病回春』卷3・嘔吐:「飽悶作酸嘔吐者,是停食吐也」。
卷中・十五オモテ(705頁)
膈噎翻胃之症皆由七情太過而動五藏之火熏
蒸津液而痰益盛脾胃漸衰飲食不得流行爲此
三症
【訓み下し】
膈噎翻胃の症,皆な七情太過(はなはだ)動き,五藏の火(ひ) 津液(うるおい)を熏蒸して,痰益々盛んに,脾胃漸く衰え,飲食(いんしい) 流行すること得ざるに由って,此の三症を爲す。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・翻胃:「夫膈噎翻胃之症,皆由七情太過而動五臟之火,熏蒸津液而痰益盛,脾胃漸衰,飲食不得流行,為膈、為噎、為翻胃也」。
○年老人隂血枯槁痰火氣結升而不降飲食不下者乃成膈噎
【訓み下し】
○年老の人,隂血 枯槁し,痰火 氣結ぼれて,升って降(くだ)らず,飲食(いんしい)下らず,乃ち膈噎と成る。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・翻胃:「年老之人,陰血枯槁,痰火氣結,升而不降,飲食不下者,乃成膈噎之病也」。
○年少之人有患膈噎者胃脘血燥不潤便閉塞而食不下也
【訓み下し】
○年少(わか)き人,膈噎を患(うれ)う者有り,胃脘 血(ち)燥き潤わず,便 閉塞して食(しょく)下らず。
【注釋】
◉『萬病回春』卷3・翻胃:「年少之人,有患膈噎者,胃脘血燥不潤,便閉塞而食不下也」。
○咽喉以下至於臍胃脘之中百病危心氣痛胸結硬傷寒嘔噦悶涎中冲[手中指端去爪甲角陷中]列缺[去腕側上一寸五分]三間[食指本節後內側之陷中]三里[曲池之下二寸]淺風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]深刺
【訓み下し】
○咽喉以下 臍に至って,胃脘の中(うち) 百病危(あやう)し,心氣痛み胸(むね)結硬して,傷寒嘔噦(おうえつ)悶涎(もんぜん),中冲(ちゅうしょう)[手の中指の端(はし),爪の甲の角を去る陷中]・列缺[腕(わん)の側(かたわら)の上(うえ)を去る一寸五分]・三間[食指本節(もとふし)後ろ內の側(かたわら)の陷中]・三里[曲池の下二寸]淺く,風池[耳の後ろ,髮の際(はえぎわ)の陷中,之を按(お)して耳の中(うち)に引く]深く刺す。
【注釋】
○冲:「衝」の異体字。
◉『鍼灸聚英』雜病十一穴歌:「咽喉以下至於臍,胃脘之中百病危,心氣痛時胸結硬,傷寒嘔噦悶涎隨,列缺下鍼三分許,三分鍼瀉到風池,二定〔明本作「足」〕三間并三里,中冲還刺五分依」。
○嘔噦太淵[掌後陷中]淺刺
【訓み下し】
○嘔噦,太淵[掌後(じょうご)の陷中]淺く刺す。
【注釋】
◉『神應經』痰喘咳嗽部:「嘔噦:太淵」。
◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「嘔噦太淵治之寧」。
○喘嗽隔食灸膈俞[七推下相相去脊中各二寸]
【訓み下し】
○喘嗽隔食に膈俞[七推の下(した),脊中(せぼね)を相去る各二寸]に灸す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・痰喘咳嗽:「喘嗽隔食治膈俞」。
◉『神應經』痰喘咳嗽部:「咳喘隔食:膈俞」。
卷中・十五ウラ(706頁)
○膽虗嘔逆帶熱氣海[臍下一寸半]深刺
【訓み下し】
○膽虛嘔逆,熱を帶ぶ,氣海[臍の下(した)一寸半]深く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「膽虛嘔逆兼帶熱,若治氣海病即瘳」。
○反胃灸膏肓[四推下相去脊中各三寸五分]百壯又膻中[兩乳間之陷中]灸七壯神効
【訓み下し】
○反胃(ほんい),膏肓[四推の下,脊中(せぼね)を相い去ること各三寸五分]灸し,百壯,又た膻中[兩乳(ちち)の間(あいだ)の陷中]灸七壯,神効なり。
【注釋】
○反胃:上文にあるように「翻胃」におなじ。
◉『萬病回春』卷3・翻胃・灸法:「治翻胃神効。膏肓(二穴,令病人兩手交在兩膊上,則胛骨開,以手揣摸第四椎骨下,兩旁各開三寸,四肋一二間之中,按之痠痛是穴,灸時手搭兩膊上不可放下,灸至百壯為佳。)・膻中(一穴,在膺部中,行兩乳中間陷中,仰臥取之,灸七壯,禁鍼。)・三里(二穴,在膝下三寸、䯒外臁兩筋間,灸七壯。)」。
○因血氣虗熱痰火三里[膝下三寸]石關[隂都下一寸去腹中行各五分]中脘[臍上四寸]氣海[臍下一寸五分]水分[臍上一寸]深刺胃倉[十二推下相去脊中各三寸五分]淺刺
【訓み下し】
○血氣虛・熱痰火に因るに,三里[膝の下三寸]・石關[隂都の下(しも)一寸,腹の中行を去る各五分]・中脘[臍の上四寸]・氣海[臍の下一寸五分]・水分[臍の上一寸]深く刺す。胃倉[十二推の下,脊中(せぼね)を相い去ること各三寸五分]淺く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』治例・雜病・隔噎:「因血虗、氣虗、熱痰火血積、癖積。鍼天突、石關、三里、胃俞、胃脘、鬲俞、水分、氣海、胃倉」。
○飲食不下腹中雷鳴嘔噦多涎唾胸中噎悶隔關[七推下相去脊中各三寸半]魂門[九推下相去脊中各三寸五分]深刺
【訓み下し】
○飲食(いんしい)下らず,腹中雷鳴し,嘔噦,多く涎唾,胸中噎悶,隔關[七推の下,脊中(せぼね)を相い去る各三寸半]・魂門[九推の下(した),脊中(せぼね)を相い去ること各三寸五分]深く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』鬲關:「七椎下,兩旁相去脊中行各三寸陷中,正坐開肩取之。……主……食飲不下,嘔噦多涎唾,胸中噎悶……」。
◉『鍼灸聚英』魂門:「九椎下,兩旁相去脊中各三寸陷中,正坐取之。……主……食飲不下,腹中雷鳴……」。
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