2024年3月21日木曜日

鍼灸溯洄集 55 卷下(1)腰痛

   卷下・一オモテ(727頁)

鍼灸溯洄集下卷

  (1)腰痛

大抵腰痛新久緫属腎虗 

  【訓み下し】

大抵腰の痛み,新久總(すべ)て腎虛に屬す。 

  【注釋】

 ○緫:「總・総」の異体字。 ○属:「屬」におなじ。 

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「大抵腰痛新久總屬腎虛」。


○常常腰痛者腎虗也

  【訓み下し】

○常(つね)常(づね)腰痛む者は,腎虛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「常常腰痛者,腎虛也」。


○日輕夜重者瘀血也

  【訓み下し】

○日(ひる)輕(かろ)く夜重きは,瘀血なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「日輕夜重者,瘀血也」。


○遇隂雨久㘴而發者濕也

  【訓み下し】

○隂雨に遇(お)うて久しく坐して發(お)こる者は,濕なり。

  【注釋】

 ○㘴:「坐」の異体字。 ○隂雨:天陰而且下雨。[be overcast and rainy] 天色陰沈,又下著雨。しとしとと降りつづく陰気な雨。空が曇って雨が降ること。

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「遇陰雨久坐而發者,是濕也」。


○腰背重注走串痛者痰也

  【訓み下し】

○腰背(せなか)重く注走串(つらぬ)き痛む者は,痰なり。

  【注釋】

 ○注走:参考。『諸病源候論』卷24・注病諸候・走注候:「注者住也,言其病連滯停住,死又注易傍人也。人體虛,受邪氣,邪氣隨血而行,或淫躍奕皮膚,去來擊痛,遊走無有常所,故名為走注」。

 ○串痛:竄痛〔窜痛〕。竄痛是指疼痛走竄不定的症状。走竄痛。症狀名。指疼痛部位走竄〔擴散〕不定,病人可感覺到疼痛的竄動〔鑽動〕。/中醫學名詞,是指痛處遊走不定,或走竄攻痛。其中胸脇脘腹疼痛而走竄不定的,常稱為竄痛,多因氣滯所致;肢體關節疼痛而遊走不定的,常稱為遊走痛,多見於風濕痹病。

 ◉『萬病回春』卷5・腰痛:「腰背重注走串痛者,是痰也」。

 ◉岡本一抱『萬病回春指南』病名彙考・串痛:「言心は串(くしさす)が如くに痛なり」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/376


○挫閃腰疼脇肋疼尺澤[肘中約紋上動脉中]曲池[肘外輔骨屈肘曲中]三隂交[踝上三寸]淺刺

  【訓み下し】

○挫閃腰(こし)疼(いた)み脇(わき)肋(あばら)疼(いた)むに,尺澤[肘(おりかがみ)の中(うち),約紋の上(うえ),動脈の中]・曲池[肘(ちゅう)の外(ほか)輔骨(かまちほね),肘(うで)を屈(かが)めて曲がる中(うち)]・三隂交[踝上三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○挫閃:出『世醫效效方』卷三。其證如『傷科匯纂』卷九所述:「挫閃者,非跌非打之傷,乃舉重勞力所致也。或挫腰瘀痛,不能轉側;或手足拗閃,骨竅扭出,其傷雖屬尋常,若不及時醫治,失於謂理,非成痼疾,即為久患也」。治宜施行針灸、推拿為佳。/閃挫,閃傷和挫傷的合稱。軀幹因突然旋轉或屈伸,使筋膜、韌帶或肌腱等受急驟的牽拉而引起的損傷,稱為「閃傷」,它屬扭傷的範圍,常見於腰部。體表受鈍器直接撞擊而致肌肉等軟組織損傷,稱為「挫傷」。

 ◉参考:『病名彙解』・閃挫:「うちひしぎたがひくぢくことなり。閃は躱避〔サケサクル〕なり。挫は,摧〔クダク〕なり,折〔ヲル〕なり」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/376

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「挫閃腰疼脇肋疼,尺澤曲池合谷穴,三陰交穴與陰陵,行間三里手三里」。

 ◉『鍼灸聚英』曲池:「肘外輔骨,屈肘兩骨之中,以手拱胸取之」。


○腰疼難動風市[膝上七寸]委中[膝膕中英]行間[足大指縫間動脉應手中]深刺

  【訓み下し】

○腰疼(いた)んで動き難き,風市(ふうじ)[膝の上(かみ)七寸]・委中[膝の膕(おりかがみ)の中英(まんなか)]・行間[足の大指の縫間(ぬいめ)の動脈,手に應ず中(うち)]深く刺す。

  【注釋】

 ★中英:おそらく「中央」の誤字。 ★應手中:おそらく「應手陷中」の誤り。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「腰疼難動風市攻,再兼委中行間穴,三穴治之誠有功」。

 ◉『鍼灸聚英』委中:「膕中央約紋動脈陷中」。

 ◉『鍼灸聚英』行間:「足大指縫間。動脈應手陷中」。


○腰脊強痛腰俞[二十一之節下間中]膀胱俞[十九推下去脊中各二寸]委中深刺

  【訓み下し】

○腰脊(せなか)強(こわ)ばり痛むに,腰俞[二十一の節(ふし)下(した)間中(くぼみ)]・膀胱の俞[十九の推下(した),脊中(せぼね)を去ること各二寸]・委中,深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「腰脊強痛治腰俞,委中湧泉小腸俞,膀胱俞穴宜兼治」。


○腰脚疼者環跳[髀樞之中側臥取之]深刺

  【訓み下し】

○腰脚(あし)疼(いた)む者は,環跳[髀樞の中の側,臥て之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ★臥て:「ふして」か,「がして」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・手足腰腋女人:「腰脚痛者環跳宜」。


  卷下・一ウラ(728頁)

○自背引腰疼太冲[足大指本節後二寸]太白[足大指內側內踝前]淺刺

  【訓み下し】

○背(せなか)自(よ)り腰に引いて疼(いた)むに,太冲[足の大指の本節(もとふし)〔の〕後ろ二寸]・太白[足の大指の內(うち)の側(かたわら)內踝(うちくるぶし)の前]淺く刺す。

  【注釋】

 ○太冲:太衝。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「太衝太白引腰痊」。


○腰尻引痛崑崙[足外踝後跟骨上陷者中]承山[兌腨腸下分肉間陷者中]陽輔[足外踝之上四寸輔骨前]

  【訓み下し】

○腰(こし)尻(しり)引き痛みに,崑崙[足の外踝(とくるぶし)の後(あと),跟(きびす)骨(ほね)の上(うえ)の陷者(くぼみ)中]・承山[兌腨(こむら)の腸下(しも),分肉間(あいだ)の陷者中(くぼみ)]・陽輔[足の外踝(とくるぶし)の上(うえ)四寸,輔骨(かまちほね)の前]

  【注釋】

 ★陷者(くぼみ)中:添え仮名の「クボミ」は,「陷者中」全体の訓かも知れない。次の文の丘墟の部位「陷中」に「クボミ」とある。

 ◉『鍼灸聚英』崑崙:「主腰尻脚氣,足腨腫不得履地,鼽衄,膕如結,踝如裂,頭痛肩背拘急,咳喘滿,腰脊內引痛……」。

 ◉『神應經』手足腰腋部:「腰痛:肩井 環跳 陰市 三里 委中 承山 陽輔 崑崙」。


○髀樞膝骨冷痛陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷]丘墟[足外踝下如前陷中]深刺

  【訓み下し】

○髀樞膝(ひざ)骨冷え痛むに,陽陵泉[膝の下(しも)一寸䯒(わき)の外廉(そとかど)の陷(くぼみ)]・丘墟[足の外踝(とくるぶし)の下(しも),前の如くの陷中(くぼみ)]深く刺す。

  【注釋】

 ★「如前」は,脇痛(卷中・二十二ウラ/718頁)の丘墟穴と同じく「前に如(ゆ)く」と訓むべきであろう。

 ○髀樞: 即股骨大轉子的部位,位於股部外側的最上方,股骨向外方項著隆起部分。指骨盆外方中央的髖臼的部位,又名「機」。髀樞即髀厭也,當環跳穴之分,謂之樞者,以楗骨轉動,如戶之樞也。

 ◉『鍼灸聚英』陽陵泉:「主膝伸不得屈,髀樞膝骨冷痹……」。

 ◉『鍼灸聚英』丘墟:「主胸脇滿痛不得息,久瘧振寒,腋下腫,痿厥,坐不能起,髀樞中痛……」。

 ◉『神應經』手足腰腋部:「髀樞痛:環跳 陽陵 丘墟」。


○志室[十四推下相去脊中各三寸半]曲泉[膝股內側屈膝橫文頭取之]深刺

  【訓み下し】

○志室[十四推の下(した),脊中(せぼね)を相去ること各三寸半]・曲泉[膝股(もも)の內の側(かたわら),膝を屈(かが)め橫紋の頭(かしら)に之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ★冒頭に,症状を脱する?

 ◉『鍼灸聚英』志室:「主陰腫陰痛,背痛腰脊強直,俯仰不得……」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「主㿉疝,陰股痛,小便難,腹脇支滿,癃閉,少氣,泄利,四肢不舉,實則身目眩痛,汗不出,目䀮䀮,膝關痛,筋攣不可屈伸,發狂,衄血下血,喘呼,小腹痛引咽喉,房勞失精,身體極痛,泄水下痢膿血,陰腫,陰莖痛,䯒腫,膝脛冷疼,女子血瘕,按之如湯浸股內,小腹腫,陰挺出,陰癢」。

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