2024年3月24日日曜日

鍼灸溯洄集 58 卷下(4)頭痛

   卷下・四オモテ(733頁)

 (4)頭痛 

氣虗頭痛者耳鳴九竅不利

  【訓み下し】

氣虛の頭(ず)痛(つう)は,耳鳴り,九竅 利せず。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「氣虛頭痛者,耳鳴、九竅不利也」。


○濕熱頭痛者頭重如石

  【訓み下し】

○濕熱の頭痛は,頭(かしら)重きこと石の如し。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「濕熱頭痛者,頭重如石,屬濕也」。


○風寒頭痛者身重惡寒寒邪從外入宜汗之

  【訓み下し】

○風寒の頭痛は,身重く惡寒,寒邪 外(ほか)從(よ)り入(い)る,之を汗(あせ)す宜(べ)し。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「風寒頭痛者,身重惡寒,寒邪從外入,宜汗之也」。


  卷下・四ウラ(734頁)

○偏頭痛者少陽陽明經左半邊属火属風右半邊属痰属熱也。

  【訓み下し】

○偏頭痛は,少陽陽明經,左(ひだり)半邊は火(ひ)に屬し風(かぜ)に屬す。右(みぎ)半邊は痰に屬し熱に屬す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「偏頭痛者,手少陽、陽明經受症;左半邊屬火、屬風、屬血虛;右半邊屬痰、屬熱也」。

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「少陽頭痛者,往來寒熱也;陽明頭痛者,自汗發熱惡寒也;太陽頭痛者,有痰重或腹痛,為之痰癖也;少陰經痛者,三陰三陽經不流行而足寒,氣逆為寒也;厥陰頭痛者,或痰多厥冷也;血虛頭痛者,夜作苦者是也。眉輪骨痛,痰火之徵也;又云風熱與痰也。有汗虛羞明眉眶痛者,亦痰火之徵也」。


○眞頭痛者腦盡而疼手足冷至節者不治朝發夕死

  【訓み下し】

○眞頭痛は,腦盡(ことごと)く疼(いた)み,手足冷え節(ふし)に至るは,治(ぢ)せず。朝(あした)に發(お)こり夕(ゆうべ)に死す。

  【注釋】

 ○眞:「真」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・頭痛:「真頭痛者,腦盡而疼。手足冷至節者,不治也」。

 ◉『靈樞』厥病:「真心痛,手足清至節,心痛甚,旦發夕死,夕發旦死」。


○頭痛項急不得回顧風府[項後入髮際一寸也]百會[項中央旋毛中可容豆直兩耳尖]上星[神庭後入髮際一寸陷中容豆]淺刺

  【訓み下し】

○頭痛,項(うなじ)急に回(かえ)り顧(み)ること得ざるは,風府[項(うなじ)の後(した),髮の際(はえぎわ)に入ること一寸也]・百會[項(いただき)【頂】の中央(まんなか),旋毛(つじけ)の中(なか),豆(まめ)を容(い)る可し。直(ただ)ちに兩耳(に)の尖り]・上星[神庭の後(あと),髮の際(はえぎわ)に入る一寸の陷中,豆を容(い)る]淺く刺す。

  【注釋】

 ★本書では,「項」「頂」字が混同されている。

 ○つじげ:【旋毛】馬の毛で、渦のように巻いているもの。つじ。つむじ。つむじげ。/つむじ【旋毛】頭頂にある毛が集中して放散性の渦状になっている部分の俗称。

 ◉『鍼灸聚英』風府:「主中風,舌緩不語,振寒汗出身重,惡寒頭痛,項急不得回顧……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・頭面:「頭痛百會上星中。……頭風牽引腦項痛,上星百會合谷同」。


○頭重痛頸項如秡腦空[夾玉枕骨下陷者中]風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]上星[穴處出上]深刺

  【訓み下し】

○頭(かしら)重く痛み,頸項(けいこう) 秡(ぬ)【拔】けるが如し,腦空[玉(ま)枕(くら)骨(ほね)を夾(さしはさ)む下(しも)の陷者中]・風池[耳の後ろ,髮の際(はえぎわ)の陷中,之を按(お)せば耳の中(うち)に引く]・上星[穴處 上に出づ]深く刺す。

  【注釋】

 ○秡:添え仮名「ヌケルカ」,および『鍼灸聚英』風池穴の主治を参考にすれば,「拔」字の誤り。 ○玉枕骨:後頭骨。又名枕骨、後山骨、乘枕骨、後枕骨。枕骨[occipital bone] 形成顱骨後部並圍繞著枕骨大孔的一塊複合骨。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・頭面:「腦痛上星風池中,腦空天柱少海攻」。

 ◉『鍼灸聚英』腦空:「主……頸項強不得回顧,頭重痛不可忍……」。

 ◉『鍼灸聚英』風池:「主……偏正頭痛,痎瘧,頸項如拔,痛不得回顧……」。

 ◉『鍼灸聚英』上星:「主腦虛冷,或飲酒過多,腦疼如破,衄血,面赤暴腫,頭皮腫,生白屑風,頭眩,顏青目眩,鼻塞不聞香臭,驚悸,目戴上,不識人」。


○頭風面目赤通里[腕後一寸陷中]觧谿[足大指次指直上跗上陷者中]深刺

  【訓み下し】

○頭風(ずふう),面(かお)目(め)赤きに,通里[腕後一寸陷中]・解谿(がいけい)[足の大指の次の指,直(ただ)ちに上(かみ),跗(こう)の上(かみ),陷者中]深く刺す。

  【注釋】

 ○觧:「解」の異体字。『鍼灸聚英』による。 ○次指:「指」の添え仮名は「タヽ」。これは下にある「直」字の添え仮名「タヽチニ」に影響された誤りと判断した。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「頭風面目赤何治,通里觧谿真有功」。


○醉後頭風攅竹[兩眉頭少陷中]三里[膝下三寸]淺刺

  【訓み下し】

○醉後の頭風(ずふう),攢竹[兩の眉の頭(かしら),少し陷中]・三里[膝下三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』頭面部:「醉後頭風:印堂 攅竹 三里」。『神應經』で,単に「三里」とあれば,足の三里のこと。手の三里は「手三里」と表記されている。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「醉後頭風治印堂,攅竹三里三穴當」。


○頭面項俱痛百會[穴處出上]後項[百會後一寸五分枕骨上]合谷[手大指次指歧骨間]淺刺

  【訓み下し】

○頭(ず)面(めん)項(うなじ)俱に痛むに,百會[穴處 上に出づ]・後項(ごちよう)【後頂】[百會の後(あと)一寸五分,枕骨(まくらぼね)の上(かみ)]・合谷[手の大指(おおゆび)の次の指の歧骨(ちまたほね)の間(あいだ)]淺く刺す。

  【注釋】

 ○「後項」に「ゴテウ」と添え仮名あり。『鍼灸聚英』雑病歌・頭面は「項後」に作る。『神應經』頭面部には「面」字がないことから,『鍼灸聚英』を出典として「項後」を「後項」とし,「後頂」穴と判断したものと思われる。『鍼灸聚英』は『神應經』に基づいて歌を作ったが,七字句にするために「面」字を入れたのであろう。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「患者頭面項俱痛,百會項後合谷強」。

 ◉『神應經』頭面部:「頭項俱痛:百會 後頂 合谷」。


  卷下・五オモテ(735頁)

○逆上頭痛大衝[足大指本節後二寸]陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷者中]絲竹空[眉後陷中]淺刺

  【訓み下し】

○逆上の頭痛には,大衝[足の大指(おおゆび)の本節(もとふし)の後(あと)二寸]陽陵泉・[膝の下(しも)一寸,䯒(はぎ)の外廉の陷者中]・絲竹空[眉の後ろの陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ★出所未詳。

 ○逆上:興奮して、頭部や顔面などが充血すること。のぼせ上がって精神が正常でなくなること。激しい怒りや悲しみなどのために、頭に血が上ること。/のぼせ。 熱気や興奮などのために、頭がぼうっとすること。上気すること。/「逆上頭痛」は和語で,厥(逆)頭痛に相当するものか。厥頭痛,病證名。厥,逆亂之意。頭痛因手經氣衝逆所致,名為厥心痛。『靈樞』厥病:「厥頭痛,面若腫起而煩心,取之足陽明、太陰。厥頭痛,頭脈痛,心悲善泣,視頭動脈反盛者,刺盡去血,後調足厥陰。厥頭痛,貞貞頭重而痛,瀉頭上五行,先取手少陰,後取足少陰。厥頭痛,意善忘,按之不得,取頭面左右動脈,後取足太陰。厥頭痛,項先痛,腰脊為應,先取天柱,後取足太陽。厥頭痛,頭痛甚,耳前後脈涌有熱,瀉出其血,後取足少陽」。

 ○大衝:『鍼灸聚英』太衝穴の主治には頭痛がないので,「天衝」の誤字であろうか。

 ◉『鍼灸聚英』天衝:「主……頭痛」。

 ○大指(おおゆび):添え仮名「ヲホユビ(おおゆび)」。「大指」には「おゆび」という添え仮名もある。これは「おおゆび」を省略したわけではないようだ。/虎明本狂言・察化(室町末‐近世初)「『ねずみ色なとりの、まつこれほどな大きさでおじゃる』と云て、おゆびを見する」。

 ◉『鍼灸聚英』陽陵泉:「主……頭面腫……」。

 ◉『鍼灸聚英』絲竹空:「主目眩頭痛……偏正頭疼」。

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