2024年3月8日金曜日

鍼灸溯洄集 42 卷中(9)痢

   卷中・十二オモテ(699頁)

(9)痢

痢疾不分赤白俱腸胃作濕熱也

  【訓み下し】

痢疾 赤白(しゃくびゃく)を分かたず,俱に腸胃の濕熱を作(な)す。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・痢疾:「痢疾不分赤白,俱作濕熱治之明矣」。

 ◉『病名彙解』痢病:「俗に云しぶりはらなり。○丹溪の曰:痢赤きは血に屬す,小腸より來る。白きは氣に屬す,大腸より來る。○戴元禮の云:痢疾,古(いにし)へは帶下と名く。氣滯(とどこおっ)て積をなすを以てなり。五色を以て五臟に屬す」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/111?ln=ja



             ○赤白兼膿血

雜痢皆因脾胃失調飲食停滯積於腸胃之間多

是暑濕傷脾故作痢起於肚腹疼痛大便裏急後

  卷中・十二ウラ(700頁)

重小水短赤不長

  【訓み下し】

○赤白兼ね,膿血(うみち)雜り痢(くだ)る,皆な脾胃 調を失し,飲食(いんしい) 停滯(とどこ)り,腸胃の間(あいだ)に積むに因って,多くは是れ暑濕 脾を傷(やぶ)り,故に痢を作(な)す。肚腹 疼(いた)み痛むに起こり,大便 裏急後重,小水(しょうべん) 短赤(たんしゃく)長からず。

  【注釋】

 ○裏急後重:指腹痛欲便而不爽,且便時肛管有沉重下墜的感覺。常見於痢疾、痔瘡、肛裂、直腸癌等症。/證名。腹痛窘迫,時時欲瀉,肛門重墜,便出不爽之證。為痢疾主證之一。出『難經』第五十七難。「裏急」是指肚子裡面的內急,一陣一陣的腸痙攣既疼痛又想大便。「後重」是指大便刺激肛門時產生的便意。實際上根本沒有什麼大便了,因為基本上都拉完了。即使拉出來也只是水樣便或極少量的伴有膿血樣的大便。但是病人一直有「裏急後重」的感覺,老覺得想拉,就一直在廁所不敢出來。 ○小水短赤:中醫上小便異常的一個症狀,短指量少,赤指顏色深黃,即小便量少顏色深黃。

 ◉『萬病回春』卷3・痢疾:「赤屬血、白屬氣,赤白相兼,膿血雜痢,皆因脾胃失調,飲食停滯,積於腸胃之間多。其暑濕傷脾,故作痢疾,起於肚腹疼痛,大便裏急後重,小水短赤不長」。


  卷中・十二ウラ(700頁)

○初下痢不分赤白濕熱也

  【訓み下し】

○初め下痢,赤白を分かたずは,濕熱なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・痢疾:「初下痢者,不分赤白,皆濕熱也。壯盛人初痢宜利之」。


○下痢發熱不退者腸胃有風邪也

  【訓み下し】

○下痢,發熱(ほつねつ) 退(の)かざる者は,腸胃に風邪有り。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・痢疾:「下痢發熱不退者,腸胃中有風邪也」。


○下痢發熱便閉者表裏有實熱

  【訓み下し】

○下痢,發熱(ほつねつ),便閉ぢる者は,表裏に實熱有り。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・痢疾:「下痢發熱,便閉者,表裏有實熱也」。


○下痢噤口不食者脾虗胃熱盛也

  【訓み下し】

○下痢,噤口,食せざる者は,脾虛 胃熱盛んなり。

  【注釋】

 ○噤口:閉口不言、不叫。閉口、閉嘴。【噤口痢】中醫上指患者不想進飲食的痢疾。/痢疾患者不想進飲食的症狀。『醫宗金鑒』雜病心法要訣・痢疾總括:「噤口飲食俱不納」。注:「噤口痢者,下利不食或嘔不能食也」。/噤:閉嘴不作聲。閉口不說話。

 ◉『萬病回春』卷3・痢疾:「下痢噤口不食者,脾虛胃熱甚也。……噤口痢不食者,胃口熱極故也」。

 ◉岡本『萬病回春(指南)』病名彙考・噤口:「痢を病で直(ただち)に噤口〔くひつめる?〕するにはあらず。痢病にして全く不食するを云。保元に曰:脾胃濕熱の毒 清道に薫蒸するが若シ。上て以テ胃口閉塞而禁口之症ヲ致す」。[一部,本の喉(のど)の部分が読めないため『壽世保元』小兒・痢疾より補って,訓み下した。和刻本『壽世保元』とは訓点が異なるかも知れない。]

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100314627/102?ln=ja



○下痢腹痛裏急後重者熱積氣滯也

  【訓み下し】

○下痢,腹痛み,裏急後重する者は,熱積 氣の滯りなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷3・痢疾:「下痢腹痛、裏急後重者,是熱積氣滯也。〔一本作「是熱極氣滯也」〕又云:裏急者,腹中不寬快也」。


○痢疾曲泉[膝股上內側輔骨陷中屈膝橫文頭取之]大谿[足內踝後跟骨上動脉之陷中]淺刺丹田[臍下二寸]深太衝[足大指本節後二寸內間動脉陷中]脾俞[十一推下相去脊中有各二寸]

  【訓み下し】

○痢疾には,曲泉[膝股(ひざもも)の上(かみ),內の側(かたわら),輔(かまち)骨の陷み中,膝を屈(かが)めて橫の文(もん)の頭(かしら)に之を取る]・大谿[足の內踝(うちくるぶし)の後ろ,跟(きびす)骨の上(かみ),動脈の陷中]淺く刺す。丹田[臍の下二寸]深く,太衝[足の大指の本節(もとふし)の後二寸內の間(あいだ),動脈の陷中]・脾の俞[十一推の下,脊中を相い去る各二寸に有り]。

  【注釋】

 ◉『神應經』腸痔大便部:「痢疾:曲泉 太谿 太衝 丹田 脾俞 小腸俞」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腸痔大便:「泄不覺兮治中脘,痢疾曲泉太谿便。太衝丹田與脾俞,兼治小腸俞最善」。


○腹中切痛裏急膿血大白[足大指內側內踝前核骨下陷中]復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]太沖[穴處出上]淺承山[兌腨腸下分肉間陷中]深刺

  【訓み下し】

○腹中切(きび)しく痛み,裏急膿血(うみち)に,大白[足の大指內の側(かたわら),內踝(うちくるぶし)の前,核骨(おゆびのくるぶし)の下(した),陷中]・復溜(ふくる)[足內踝の上(かみ)二寸,筋(すじ)骨の陷中]・太沖[穴處 上に出づ]淺く,承山[兌腨(こむら)の腸の下(した),分肉の間(あいだ),陷中]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』腸痔大便部:「便血:承山 復溜 太衝 太白」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腸痔大便:「便血承山並復溜,太衝太白四穴求」。

 ◉『鍼灸聚英』太白:「足大指內側,內踝前核骨下陷中。……主……泄瀉膿血……腹中切痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』承筋:「(一名腨腸,一名直腸)腨腸中央陷中」。承山:「(一名魚腹,一名肉柱,一名傷山)兌腨腸下分肉間陷中。一云腿肚下分肉間」。


○赤痢下重腫痛承山[穴處出上]照海[足內踝下]淺刺小腸俞[十八推下相去脊中有各二寸]章門[大橫外直季脇肋端]深刺

  【訓み下し】

○赤(あか)痢(はら)下重(げり),腫れ痛むに,承山[穴處 上に出づ]・照海[足內踝(うちくるぶし)の下]淺く刺す。小腸俞[十八の推の下(した),脊中 相い去ること各二寸に有り]・章門[大橫の外(ほか),直(ただ)ちに季脇(わき)の肋(あばら)の端(はし)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』腸痔大便部:「大便不通:承山 太谿 照海 太衝 小腸俞 太白 章門 膀胱俞」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腸痔大便:「大便不通治太谿,承山照海太衝宜,小腸俞穴與太白,章門穴與膀胱俞。大便下重治承山」。

 ◉『鍼灸聚英』承山:「主大便不通……」。

 ◉『鍼灸聚英』小腸俞:「主……五色赤痢下重,腫痛……」。


  卷中・十三オモテ(701頁)

○小腹痛裏急後重帶脉[季脇下一寸八分陷中]深解谿[冲陽後一寸五分腕上陷中]承山太白[穴處出上]淺刺

  【訓み下し】

○小腹(ほがみ)痛み,裏急後重には,帶脈[季脇(あばらぼね)の下(した)一寸八分の陷中]深く,解谿(がいけい)[冲陽の後ろ一寸五分,腕上の陷の中]・承山・太白[穴處 上に出づ]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』腸痔大便部:「大便下重:承山 解谿 太白 帶脈」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腸痔大便:「大便下重治承山,解谿太白帶脈間」。

 ◉『鍼灸聚英』帶脈:「主……裏急後重……」。

 ◉『鍼灸聚英』解谿:「衝陽後一寸五分,腕上陷中,足大指次指直上,。跗上陷者宛宛中。……主……大便下重……」。

 ◉『鍼灸聚英』太白:「主……泄瀉膿血……腹中切痛……」。


○胃中寒泄痢關元[臍下三寸]三里[膝下三寸]深脾俞[十一推下相去脊中有各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○胃中寒し,泄痢には,關元[臍の下(した)三寸]・三里[膝の下(した)三寸]深く,脾の俞[十一推下,脊中を相い去ること各二寸に有り]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』關元:「主……洩利……」。

 ◉『鍼灸聚英』(足)三里:「主胃中寒……久泄利……」。

 ◉『鍼灸聚英』薛真人天星十二穴歌:「三里在膝下,三寸兩筋間,能通心腹脹,善治胃中寒,腸鳴並泄瀉」。

 ◉『鍼灸聚英』脾俞:「主……洩利……」。

 ◉『鍼灸重宝記』針灸諸病の治例・泄瀉 くだりはら:「針:關元……。灸:三里……脾俞……」。 

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