卷下・八オモテ(742頁)
(10)牙齒[ゲシ]
牙痛者胃火盛也
【訓み下し】
牙(きば)痛む者は,胃火の盛んなり。
【注釋】
◉『萬病回春』卷5・牙齒:「牙痛者,胃火盛也」。
○蟲食而痛者腸胃中有濕熱
【訓み下し】
○蟲(こ)食して痛む者は,腸胃の中(うち) 濕熱有り。
【注釋】
○「蟲」:「虫」の異体字。齲齒。虫歯。音「コ」は「蠱」字。
◉『萬病回春』卷5・牙齒:「蟲食而痛者,腸胃中有濕熱也」。
○牙齦宣露者胃中客熱也
【訓み下し】
○牙(げ)齦宣露は,胃中の客(かく)熱なり。
【注釋】
○宣露:顯露;外露。 ○牙齦:齒齦的別名。覆蓋在齒槽突及圍繞齒冠周圍的口腔黏膜,即牙床齒莖的部分。可分為不動的附著齒齦,及可動的游離齒齦。 ○客熱:外來的熱邪。
◉『萬病回春』卷5・牙齒:「牙齦宣露者,胃中客熱也」。
○走馬牙疳者上焦濕熱也牙疳者齗潰侵蝕唇鼻
【訓み下し】
○走馬(ば)牙(げ)疳は,上焦の濕熱なり。牙疳は,齦(はぐき)潰(つい)え唇(しん)鼻(び)を侵(おか)し蝕む。
【注釋】
○走馬牙疳:noma.水癌(壊疽性口内炎。余命数日)。是指以牙齦紫黑,腐敗潰爛,甚則穿腮破脣,齦脫骨暴,進展急如走馬,病勢速而險爲主要表現的疾病。 ○齗:「齦」の異体字。牙齦、牙根肉。『玉篇』齒部:「齗,齒根肉也」。
◉『指南』病名彙考・走馬牙疳:「俗間に云,ハグサなり。『入門』に云〈腎疳。又急疳と名(なづく)。多は痘[モガサ]後の餘毒淨(きよ)から未(ざ)るに,更に加るに乳食調(ととのお)らず,甘味 脾に入て蟲を生じ,狀 傷寒狐惑に似て,上齒齦[ハグキ]を蝕[クラフ]するときは,口瘡 血を出して臭氣[クサシ]あり。甚きときは齒齦潰爛[ツイエタダレ]し,齒黑み脫[モヌク]落して,顋[オトガイ]に穴有者を云。言う心は,陽明の熱氣上り奔(わし)りて馬の如く然るなり〉」。
◉『病名彙解』走馬牙疳 https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/164?ln=ja
★『醫學入門』小兒門・內傷乳食類・五疳:「腎疳耳焦天柱倒,齒脫手足冷如氷」。注:「腎疳又名急疳,言五疳惟腎為最急也。多因痘後餘毒未淨,更加乳食不調,甘味入脾而生蟲,狀似傷寒狐惑。上蝕齒齦,則口瘡出血臭氣,甚則齒齦潰爛,齒黑脫落,腮有穴者,名曰走馬疳。言陽明熱氣上奔如馬然,下蝕腸胃,則下痢肛爛,即後疳痢」。
◉『指南』病名彙考・牙疳:「陽明の熱より生ず。齒齦(はぐき)腫(はれ)て涎(よだれ)を流し,顋(あぎと)腫,或は齦(はぐき)潰爛[ツイエタダレ]して,臭(くさく),或は蟲を生じて唇鼻[クチビルハナ]を侵蝕[オカシクラフ]す」。
◉『萬病回春』卷5・牙齒:「走馬牙疳者,上焦濕熱也。……蟾蜍散:治走馬疳、齦潰侵蝕唇鼻」。
○牙床腫痛動搖黑爛脫落皆属手足陽明經之火
【訓み下し】
○牙(げ)床(じょう) 腫れ痛み,動搖,黑く爛(ただ)れ,脫落,皆な手足(しゅそく)陽明經の火(ひ)に屬す。
【注釋】
◉『萬病回春』卷5・牙齒:「清胃湯:治牙床腫痛、動搖、黑爛、脫落,皆屬二陽明大腸與胃二經之火」。
○血熱有胃口咽引齒痛浮白[耳後入髮際一寸]内庭[足大指次指外間陷]合谷[手大指次指歧骨間陷中]淺刺
【訓み下し】
○血(けつ)熱 胃口に有り,咽(のど) 齒に引き痛む,浮白[耳の後ろ髮際に入る一寸]・內庭[足の大指の次の指の外間の陷]・合谷[手大指の次の指の歧骨(ちまたほね)の間(あいだ)の陷中]淺く刺す。
【注釋】
★血熱有胃口:『鍼灸聚英』牙疼からの引用と思われるが,その省略には問題があろう。
◉『鍼灸聚英』治例・雑病・牙疼:「主血熱、胃口有熱、風寒、濕熱、蟲蛀。合谷、內庭、浮白、陽白、三間」。
◉『鍼灸聚英』浮白:「主……齒痛……」。
◉『鍼灸聚英』內庭:「主……咽中引痛,口喎,上齒齲……」。
◉『鍼灸聚英』合谷:「主……下齒齲,耳聾,喉痹……」。
○寒熱上齒齲小海[肘內廉節前大骨內]厲兌[足大指次指端去爪甲角]淺刺
【訓み下し】
○寒熱上齒(うわば)齲(むしば),小海[肘(うで)の內廉(うちかど),節(ふし)の前の大骨の內(うち)]・厲兌[足の大指の次の指の端(はし),爪甲を去る角(かど)]淺く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』手少陰心經・少海:「肘內廉節後,大骨外,去肘端五分。……主寒熱齒齲痛……」。
◉『鍼灸聚英』手太陽小腸經・少海〔「小海」の誤り〕:「肘內大骨外,去肘端五分陷中。……主……寒熱齒根腫……」。
◉『鍼灸聚英』厲兌:「主……熱病汗不出,寒瘧不嗜食……上齒齲……」。
◉『神應經』鼻口部:「齒齲:少海 小海 陽谷 合谷 液門 二間 內庭 厲兌」。
○下齒齲痛下關[耳前動脉下廉合口有空]三間[食指本節後內側陷中]合谷[穴處出上]深刺瀉
【訓み下し】
○下齒(げし)齲痛(ぐうつう)は,下關[耳の前動脈の下廉(げれん),口を合わせ空(あな)有り]・三間[食指本節(もとふし)の後(あと),內の側(かたわら)の陷中]・合谷[穴處 上に出づ]深刺,瀉す。
【注釋】
○齲(ぐう):漢音「く」。慣用音「う」。 ○深刺:通例であれば「深く刺す」と訓むところであるが,後ろの「瀉」字に影響されているのか,添え仮名がなく,「深」と「刺」をつづけて音読することを示すつなぎの縦線が中央にある。(通常,どちらかの字を訓読する場合は,縦線が左側に寄っているのが原則。)
◉『鍼灸聚英』三間:「主……下齒齲痛……」。
◉『鍼灸聚英』合谷:「主……下齒齲……」。
卷下・九オモテ(743頁)
○牙關痛頰腫牙不可嚼物頰車[耳下曲頷端近前陷中開口有空]曲池[肘中約文頭]淺刺
【訓み下し】
○牙(げ)關痛み,頰(ほう)腫れ,牙(きば) 物を嚼(か)む可からず,頰車[耳の下(しも),曲頷の端(はし),前に近く,陷中(くぼみ),口を開(ひら)けば空(あな)有り]・曲池[肘(うで)の中(なか),約文(やくもん)の頭(かしら)]淺く刺す。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』頰車:「耳下曲頷〔明刊本作「頰」〕端近前陷中。開口有空。主……牙關痛,頷頰腫,牙不可嚼物……」。
◉『神應經』鼻口部:「牙疼:曲池 少海 陽谷 陽谿 二間 液門 頰車 內庭 呂細(在內踝骨尖上,灸二七壯)」。
◉『醫學入門』附:雜病穴法:「頭面耳目口鼻(咽牙)病,曲池合谷為之主」。
○齒齦痛唇吻強牙斷疼角孫[耳郭中間上髮際下開口有穴]三里[曲下二寸]二間[食指本節前內側陷]
【訓み下し】
○齒齦(しこん)痛み,唇(しん)吻(ふん)強(こわ)ばり,牙(げ)斷(きん)疼(いた)み,角孫[耳郭(にかく)の中間の上(かみ),髮際の下(しも),口を開(ひら)けば穴有り]・三里[曲下二寸]・二間[食指の本節の前,內側の陷]。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雜病歌・鼻口:「液門二間內庭等,齦痛角孫少海居」。
◉『鍼灸聚英』角孫:「主……齒齦腫,唇吻強,齒牙不能嚼物,齲齒……」。
◉『鍼灸聚英』手陽明大腸經・三里:「曲池下二寸。主……齒痛,頰頷腫……」。
◉『鍼灸聚英』二間:「主喉痹,頷䪼腫……齒痛……」。
○牙疳蝕爛生瘡灸承漿[唇稜下陷中開口取之]七壯
【訓み下し】
○牙疳 蝕(むしば)み爛(ただ)れ,瘡(かさ)を生じ,承漿に灸す[唇稜の下(しも)の陷中,口を開き之を取る],七壯。
【注釋】
◉『鍼灸聚英』雑病歌・鼻口:「牙疳蝕爛至生瘡,炷如小箸頭樣大,七壯須灸在承漿」。
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