2024年3月17日日曜日

鍼灸溯洄集 51 卷中(18)腹痛

   卷中・二十ウラ(716頁)

  (18)腹痛

腹痛者寒熱食血濕痰蟲虗實九種也

  【訓み下し】

腹痛は,寒熱食血濕痰蟲(こ)虛實,九(く)種なり。

  【注釋】

 ★蟲(こ):「蠱(コ)」字と混同して,カナを振っているのか。下文にも「コ」とある。/蠱:人腹中的寄生虫。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹痛者,有寒、熱、食、血、濕、痰、蟲、虛、實九般也」。


○綿綿痛無增减寒痛也

  【訓み下し】

○綿綿(べんべん)と痛み,增し減りの無きは,寒痛なり。

  【注釋】

 ○綿綿:連續不斷貌。【綿綿不斷】形容連續不絕。 ○减:「減」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「綿綿痛無增減,脈沉遲者,寒痛也」。


○乍痛乍止熱痛也

  【訓み下し】

○乍(たちま)ち痛み乍ち止(や)むは,熱痛なり。

  【注釋】

 ○『萬病回春』卷5・腹痛:「乍痛乍止、脈數者,火痛也(即熱痛)」。


○腹痛而瀉瀉後痛减食積也

  【訓み下し】

○腹痛んで瀉(くだ)り,瀉りて後(のち)痛み減るは,食積(しゃく)なり。

  【注釋】

 ○食積:九積之一。食滯不消,日久成積者。『雜病源流犀燭』積聚症瘕痃癖痞源流:「食積,食物不能消化,成積痞悶也」。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹痛而瀉,瀉後痛減者,食積也」。


○痛不移處者死血也

  【訓み下し】

○痛み處(ところ)を移さず〔ざる〕者は,死血なり。

  【注釋】

 ★「血」には「チツ」と添え仮名があるが,「チ」は「ケ」の誤字であろう。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「痛不移處者,是死血也」。


○腹痛引鉤脇下有聲痰飲也

  【訓み下し】

○腹痛んで脇の下に引き鉤(つ)り,聲(こえ)有るは,痰飲なり。

  【注釋】

 ○鉤:「釣・鈎・鉤」,通じて用いられる。 ○有聲:有聲音,發出聲音。音が出る/する。

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹中引釣,脇下有聲,是痰飲也〔別訓:腹中に引き釣り,脇下に聲有るは,是れ痰飲なり〕」。


○以手按之腹軟痛止者虗痛也

  【訓み下し】

○手を以て之を按(お)し,腹 軟らかに痛み止(や)むは,虛痛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「以手按之,腹軟痛止者,虛痛也」。


○腹滿硬手不敢按實痛也

  【訓み下し】

○腹滿ち硬く,手 敢えて按(お)さざるは,實痛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「腹滿硬,手不敢按者,是實痛也」。


○時痛時止面白唇紅者蟲痛也

  【訓み下し】

○時に痛み時に止(や)み,面(おもて)白く唇(くちびる)紅(あか)きは,蟲(こ)痛なり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・腹痛:「時痛時止,面白唇紅者,是蟲痛也」。


  卷中・二十一オモテ(717頁)

○小腹脹痛氣海[臍下一寸五分]灸

  【訓み下し】

○小腹(ほうかみ)脹(は)り痛むに,氣海[臍の下(した)一寸五分]灸す。

  【注釋】

 ○小腹(ほうかみ):ほがみ・こがみ・このかみともいう。下腹部。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「小腹脹痛氣海焚」。


○繞臍痛水分[臍上一寸]曲泉[屈膝橫紋頭取之]中封[足內廉前一寸]深刺

  【訓み下し】

○臍を繞(めぐ)って痛むに,水分[臍の上一寸]・曲泉[膝を屈(かが)めて橫紋の頭(かしら),之を取る]・中封[足の內廉(うちくるぶし)〔內踝〕の前一寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○廉:添え仮名,また中封の位置[足內踝骨前一寸]から考えて,「踝」の誤字。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「繞臍痛兮治水分。……臍痛中封與曲泉」。

 ◉『鍼灸聚英』水分:「主水病,腹堅腫如鼓,轉筋不嗜食,腸胃虛脹,繞臍痛衝心……」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「主㿉疝,陰股痛,小便難,腹脇支滿,癃閉,少氣,泄利……」。

 ◉『鍼灸聚英』肘後歌:「臍腹有病曲泉鍼」。

 ◉『鍼灸聚英』中封:「主㾬瘧,色蒼蒼,發振寒,小腹腫痛,食怏怏繞臍痛」。


○燥屎舊積按之不痛為虗痛為實可灸不灸令病人冷結久而因氣冲心死刺委中[膝膕中央陷者]深

  【訓み下し】

○燥屎(らん)舊積(しやく),之を按(お)して痛まず,虛痛と為す,實と為す。灸す可し。灸せざれば,病人をして冷結せしめ,久しうして因って氣 心を冲(つ)くに死す。刺すこと委中[膝(しざ)の膕(おりかがんで)中央陷者]深く。

  【注釋】

 ★屎(らん):「ラン」,音の由来,未詳。

 ★之を按(お)して痛まず,虛痛と為す,實と為す:原文の誤読:「之を按(お)して痛まざるを虛と為し,痛むを實と為す」。

 ★因:『鍼灸聚英』は「困」に作る。

 ◉『鍼灸聚英』治例・腹痛:「有實有虛,寒熱燥屎舊積,按之不痛為虛,痛為實,合灸,不灸,令病人冷結,久而彌困〔久しくして彌々(いよいよ)困(くる)しむ〕,氣衝心而死,刺括委中穴」。


○腹滿心與背相引痛不容[巨闕旁各三寸]天樞[臍旁二寸]三隂交[內踝上三寸中]

  【訓み下し】

○腹滿ち,心(むね)と背相い引き痛む,不容・[巨闕の旁ら各三寸]・天樞[臍の旁ら二寸]・三隂交[內踝(うちくるぶし)の上(かみ)三寸中]。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』不容:「主腹滿痃癖,唾血,肩脇痛,口乾,心痛與背相引,不可咳,咳則引肩痛」。

 ◉『鍼灸聚英』天樞:「主奔豚,泄瀉,脹疝,赤白痢水痢不止,食不下,水腫腹脹腸鳴,上氣衝胸,不能久立,久積冷氣,繞臍切痛,時上衝心,煩滿嘔吐,霍亂,冬月感寒泄利,瘧寒熱,狂言,傷寒飲水過多,腹脹氣喘,婦人女子癥瘕,血結成塊,漏下赤白,月事不時」。

 ◉『鍼灸聚英』三陰交:「主脾胃虛弱,心腹脹滿……」。


○胃脹腹痛下脘[臍上二寸]氣海[臍下一寸半中]崑崙[外踝後跟骨上陷中]深刺

  【訓み下し】

○胃脹 腹(はら)痛むに,下脘・[臍の上二寸]・氣海[臍の下一寸半中]・崑崙[外踝(とくるぶし)の後(うしろ),跟(きびす)骨(ほね)の上の陷中]深く刺す。

  【注釋】

 ★「後」の訓,「しりへ」「あと」「うしろ」,一定せず。

 ◉『鍼灸聚英』下脘:「主臍下厥氣動,腹堅硬,胃脹羸瘦,腹痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・腹痛脹滿:「小腹脹痛氣海焚」。

 ◉『醫學入門』氣海:「主臟氣虛憊,一切氣疾,小腹疝氣遊行五臟,腹中切痛,冷氣衝心……」。

 ◉『醫學入門』崑崙:「主頭熱目眩如脫,目痛赤腫,鼻鼽衄,腹痛腹脹,喘逆,大便洞泄……」。


○腹中雷鳴小腹急痛復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]隂市[膝上三寸]淺刺下廉[上廉下三寸]深刺

  【訓み下し】

○腹中雷鳴(なり),小腹(ほうがみ)急(かわは)り痛むに,復溜(ふくる)[足の內踝(うちくるぶし)の上(かみ)二寸,筋骨の陷中]・隂市[膝の上三寸]淺く刺す。下廉[上廉の下三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○急(かわは)り:添え仮名「カハハリ」。「こわばり」?「皮張り」?

 ◉『鍼灸聚英』復溜:「主腸澼……腹中雷鳴,腹脹如鼓……」。

 ◉『醫學入門』復溜:「主目昏,口舌乾,涎自出,腹鳴鼓脹……」。

 ◉『鍼灸聚英』陰市:「主腰腳如冷水,膝寒,痿痹不仁,不屈伸,卒寒疝,力痿少氣,小腹痛,脹滿……」。

 ◉『鍼灸聚英』下廉:「上廉下三寸。蹲地舉足取之。……主小腸氣不足,……胸脇小腹控睪而痛……」。

 ◉『醫學入門』下巨虛:「主……胸脇小腹痛,乳癰,暴驚狂,小便難,寒濕下注,足脛跗痛肉脫」。

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