2024年3月15日金曜日

鍼灸溯洄集 49 卷中(16)欝證[附諸氣]

   卷中・十八ウラ(712頁)

  (16)欝證[附諸氣]

  【訓み下し】

     欝證[附(つけた)り:諸氣]


六欝之証多沉伏

  【訓み下し】

六欝の證,多くは沉伏。

  【注釋】

  ○欝:「鬱」の異体字。 ○証:「證」の異体字。

 ○六欝:六鬱,氣鬱、濕鬱、痰鬱、熱鬱、血鬱、食鬱等六種鬱證的總稱。見『丹溪心法』。『醫學正傳』鬱證:「夫所謂六鬱者,氣、濕、熱、痰、血、食六者是也」。

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「六鬱者,氣血痰濕熱食結聚而不得發越也」。


○氣欝則腹脇刺痛不舒脉沉而濇

  【訓み下し】

○氣欝する則(とき)は,腹(はら)脇(わき) 刺し痛んで舒(の)びず,脈沉にして濇(しよう)。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「氣鬱者,腹脇脹滿、刺痛不舒、脈沈也」。


○濕欝則周身骨節走注疼痛遇隂雨即發脉沉而緩

  【訓み下し】

○濕欝は,(則ち)周身骨節走注疼痛し,隂雨に遇えば,即ち發(お)こる。脈沉にして緩。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「濕鬱者,周身骨節走注疼痛,遇陰雨即發,脈沉細而濡也」。

 ○走注:病名。風邪游於皮膚骨髓,往來疼痛無定處之證。行痹的別稱,俗稱鬼箭風。『太平聖惠方』卷二十一:「夫風走注者,是風毒之氣,游於皮膚骨髓,往來疼痛無常處是也。此由體虛,受風邪之氣,風邪乘虛所致,故無定處,是謂走注也」。『雜病源流犀燭』卷十三:「風勝為行痹,遊行上下,隨其虛處,風邪與正氣相搏,聚於關節,筋弛脈緩,痛無定處,古名走注。……俗有鬼箭風之說」。 ○隂雨:天陰而且下雨。


○熱欝則小便赤澁五心煩熱口若舌乾脉沉而數

  【訓み下し】

○熱欝する則(とき)は,小便赤く澁り,五心煩熱し口若(にが)〔苦〕く舌乾き,脈 沉にして數(さく)。

  【注釋】

 ★若:添え仮名「ニカク」。「苦」の誤字であろう。 

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「熱鬱者,即火鬱也,小便赤澀、五心煩熱、口苦舌乾、脈數也」。

 ○五心煩熱:證名。心中煩熱伴兩手足心有發熱感覺。見『太平聖惠方』治骨蒸煩熱諸方。多由陰虛火旺、心血不足,或病後虛熱不清及火熱內鬱所致。是虛損勞瘵等病的常見症之一。

 ◉『指南』病名彙考・五心熱:「手足の掌(たなごころ)幷に膻中〔ムネ〕,此の五處の熱するを云」。


○痰欝則喘滿氣急痰嗽不出胷脇痛沉而滑

  【訓み下し】

○痰欝する則(とき)は,喘滿氣急に,痰嗽 出でず,胸脇 痛み,沉にして滑。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「痰鬱者,動則喘滿氣急,痰嗽不出、胸脇痛、脈沉滑也」。


○血欝則能食便紅或卒吐紫血痛不移處脉芤而結

  【訓み下し】

○血欝は,(則ち)能く食し,便 紅(あか)く,或いは卒(にわ)かに紫血を吐き,痛んで處(ところ)を移さず,脈 芤にして結(けつ)。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「血鬱者,能食、便紅,或暴吐紫血、痛不移處,脈數澀也」。


  卷中・十九オモテ(713頁)

○食欝則噯氣作酸胷腹飽悶作痛惡食不思脉滑而緊

  【訓み下し】

○食欝は,(則ち)噯氣 酸を作(な)し,胸(むね)腹(はら)飽悶,痛みを作(な)し,惡食(おしょく)して思わず,脈 滑にして緊。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷2・鬱證:「食鬱者,噯氣作酸、胸腹飽悶作痛、惡食不思,右關脈緊盛也」。

 ◉『指南』病名彙考・噯氣:「釋義に云,噯は飽食の息なり。俗に云をくび,亦噫(あい)氣とも云。噫(あい)醋(さく)と云は,醋(す)き噫(をくび)の出る也」。

 ◉『病名彙解』噫(あい)氣(き〔〔噫(あい),噯と同じ〕:「俗に云をくびなり。○『入門』に云……○『素問』宣明五氣篇に曰……」。

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/268?ln=ja

 ○惡食:見食則惡之證。『內外傷辨惑論』卷上:「勞役所傷及飲食失節、寒溫不適,三者俱惡食,口不知五味,亦不知五穀之味」。宜分虛實。實者多因傷食所致。證見胸腹痞滿,噁心咽酸,噫敗卵臭,惡食,頭痛,發熱惡寒而身不痛。輕則消導,重則吐下(『醫碥』卷二)。

 ◉『病名彙解』惡食

  https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100232367/119?ln=ja


         ○舉痛論有九氣曰喜怒

憂思悲恐驚寒熱喜則氣散怒則氣逆憂則氣陷

悲則氣消恐則怯驚則氣耗寒則氣収熱則氣泄

也有實氣有虗氣雖云無氣補法正氣虗而不補

氣何由而行丹溪曰氣實不冝補氣虗冝補之

  【訓み下し】

○舉痛論に九氣有り,曰わく,「喜怒憂思悲恐驚寒熱。喜ぶ則(とき)は氣散じ,怒る則は氣逆し,憂うる則は氣陷(おちい)り,悲しむ則は氣消し,恐る則は怯(こう)し,驚く則は氣耗(へ)り,寒する則は氣収まり,熱する則は氣泄れる」。實氣有り,虛氣有り。氣に補法無しと云うと雖も,正氣虛して補わずんば,氣 何に由ってか行かん。丹溪の曰わく,「氣實するときは,補うに宜(よろ)しからず,氣虛するときは之を補うに宜(よろ)し」。

  【注釋】

 ★冝:「宜」の異体字。 

 ★「思」に関する記述,「思則氣結」を脱す。

 ◉『素問』舉痛論(39):「怒則氣上,喜則氣緩,悲則氣消,恐則氣下,寒則氣收,炅則氣泄,驚則氣亂,勞則氣耗,思則氣結,九氣不同,何病之生」。

 ◉『萬病回春』卷3・諸氣:「若內傷七情者喜怒憂思悲恐驚是也。喜則氣散,怒則氣逆,憂則氣陷,思則氣結,悲則氣消,恐則氣怯,驚則氣耗也。外感六淫者,風寒暑濕燥火也。風傷氣者為疼痛,寒傷氣者為戰慄,暑傷氣者為熱悶,濕傷氣者為腫滿,燥傷氣者為閉結。有虛氣、有實氣。虛者,正氣虛,用四君子湯;實者,邪氣實,用分心氣飲。丹溪有云:氣實不宜補,氣虛宜補之。雖云氣無補法,若痞滿壅塞實脹,似難於補;若正氣虛而不補則氣何由而行。故經云:壯者氣行而愈,怯者著而成病。此氣之確論也」。


○食欝腸鳴腹脹食飲不下承滿[不容下一寸去中行各三寸]外陵[天樞下一寸去中行各二寸]深刺鬲俞[七推下相去各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○食欝は,腸鳴り腹脹(は)り,食飲 下らず,承滿[不容の下一寸,中行を去ること各三寸]・外陵[天樞の下一寸,中行を去ること各二寸]は,深く刺す。鬲俞[七推の下,相去ること各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』承滿:「不容下一寸,去中行各三寸。……主腸鳴腹脹,上氣喘逆,食飲不下,肩息唾血」。

 ◉『鍼灸聚英』外陵:「天樞下一寸,去中行各二寸。……主腹痛,心下如懸,下引臍痛」。

 ◉『鍼灸聚英』鬲俞:「七椎下,兩旁相去脊中各一寸五分。正坐取之。……主……食飲不下」。


○熱欝大腸中熱身熱腹痛氣衛[去中行四寸鼠鼷上一寸動脉陷中]肝俞[九推下相去脊中各二寸]神堂[五推下相去脊中各三寸五分]淺刺

  【訓み下し】

○熱欝,大腸 中熱し,身(み)熱し,腹痛み,氣衛(きしょう)〔衝〕[中行を去ること四寸,鼠鼷の上(かみ)一寸,動脈の陷中]・肝の俞[九推の下(しも),脊中を相い去ること各二寸]・神堂[五推の下(しも),脊中を相い去ること各三寸五分]淺く刺す。

  【注釋】

 ★氣衛:「氣衝」の誤字。 

 ◉『鍼灸聚英』氣衝:「腹下夾臍相去四寸,鼠鼷上一寸。動脈應手宛宛中。……主腹滿不得正臥,㿗疝,大腸中熱,身熱腹痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』肝俞:「主……千金云:……寒疝小腹痛……」。

 ◉『鍼灸聚英』神堂:「主腰背脊強急,不可俯仰,洒淅寒熱,胸腹滿,氣逆上攻,時噎」。


  卷中・十九ウラ(714頁)

○痰欝喘滿氣急三里[膝下三寸]梁門[承滿下去中行各三寸]深肺俞[三推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○痰欝は,喘滿氣急,三里[膝の下三寸]・梁門[承滿の下(しも),中行を去ること各三寸]深く,肺の俞[三推下相去脊中各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』三里:「主胃中寒,心腹脹滿……。千金翼云:主腹中寒,脹滿,腸中雷鳴,氣上衝胸,喘不能久立……」。

 ◉『鍼灸聚英』梁門:「主脇下積氣,食飲不思,大腸滑泄,完穀不化」。

 ◉『鍼灸聚英』肺俞:「主……寒熱喘滿……」。

 ★六鬱の治療法を確立しようとしたが,ここで挫折したか。


○一切氣疾滿氣海[臍下一寸五分]神道[五推節下之間]深刺膏肓[四推下相去脊中三寸半]淺刺

  【訓み下し】

○一切氣疾 滿するに,氣海[臍の下一寸五分]・神道[五推の節の下の間]深く刺す。膏肓[四推の下(した),脊中を相い去ること三寸半]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』氣海:「主……一切氣疾久不差……」。

 ◉『醫學入門』氣海:「主一切氣疾……」。

 ◉『鍼灸聚英』神道:「主傷寒發熱,頭痛,進退往來,痎瘧,恍惚,悲愁健忘,驚悸,失欠,牙車蹉,張口不合,小兒風癇」。

 ◉『鍼灸聚英』神封:「主胸滿不得息,咳逆,嘔吐,乳癰寒熱」。

 ◉『醫學入門』神封:「主胸滿不得息,咳逆,乳癰惡寒」。

 ◉『鍼灸聚英』膏肓俞:「主無所不療……。孫思邈曰:時人拙,不能得此穴,所以宿疴難遣,若能用心方便,求得灸之,無疾不愈矣」。


○氣塊脇痛勞熱內關[掌後去腕二寸兩筋間]深刺

  【訓み下し】

○氣塊,脇(わき)痛み,勞熱,內關[掌後,腕(わん)を去ること二寸,兩筋の間(あいだ)]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『醫學入門』內關:「主氣塊及脇痛,勞熱瘧疾,心胸痛」。


○七情氣欝支正[腕後五寸]淺刺

  【訓み下し】

○七情,氣欝するに,支正[腕の後五寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『醫學入門』支正:「主七情氣鬱,肘臂十指皆攣及消渴」。

 ◉『鍼灸聚英』支正:「主風虛,驚恐悲愁……」。

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