2024年3月6日水曜日

鍼灸溯洄集 40 卷中(7)傷寒

   卷中・九オモテ(693頁)

(7)傷寒

  卷中・九ウラ(694頁)

冬時人起居失節飮食失時感邪而即病曰傷寒

寒邪藏肌肉之間至春發者曰温病至夏發曰熱

病其理一也有傳經有越經有直入有幷病有合

病其症不一也

  【訓み下し】

冬の時,人 起居 節を失い,飮食(いんしい) 時を失い,邪に感じ即ち病むを傷寒と曰う。寒邪 肌肉の間に藏(かく)れ,春に至って發(お)こる者は,温病(うんびょう)と曰う。夏に至って發こるを熱病と曰う。其の理 一なり。傳經 有り,越經 有り,直入(じきにゅう) 有り,幷病 有り,合病 有り,其の症 一つならず。

  【注釋】

 ○傷寒:中醫上指外感熱病的總稱;亦指受了風寒而引起的病。/病名。病原體為沙門氏傷寒桿菌,可經由飲水或食物傳染。潛伏期約為兩周,症狀為發燒、頭痛、發冷、腹痛、便祕或腹瀉、脈搏緩慢,甚至出現肝脾腫大、胸腹部有玫瑰疹等病症。可能引起腸胃出血、肺炎等併發症。也稱為「腸傷寒」。 ○温病:指夏至以前發病之溫熱病。『素問』熱論:「凡病傷寒而成溫者,先夏至日者為病溫……」此說為後世「伏氣溫病」說提供了理論依據。 ○傳經:傷寒疾病發展過程中的傳變,即從一經證候傳變為另一經的證候。『傷寒論』辨太陽病脈證幷治:「傷寒一日,太陽受之,脈若靜者為不傳。頗欲吐,若躁煩,脈數急者,為傳也」。 ○越經:指傷寒不按六經的次序傳變。見『東垣十書』、『此事難知』等書。 ○直入:傷寒初起不從陽經傳入,病邪直入三陰者稱為直中。 ○幷病:傷寒一經證候未解,又出現另一經證候。出『傷寒論』。『傷寒論大全』傷寒合病幷病:「幷病者,一經先病未盡,又過一經之傳者,為幷病」。 ○合病:傷寒病二經或三經同時受邪,起病即同時出現各經主症。見『傷寒論』。『景岳全書』傷寒典:「合病者,乃兩經三經同病也。如初起發熱、惡寒、頭痛者,此太陽之證,而更兼不眠,即太陽陽明合病也;若兼嘔惡,即太陽少陽合病也,若發熱不眠嘔惡者,即陽明少陽合病也,若三者俱全,便是三陽合病」。以兩經或三經一時並受,見證齊發,無先後之不齊,故謂之合病(『傷寒溯源集』合病幷病總論)。合病多見於三陽經,陰經與陽經亦可見合病。


六經者○頭項痛腰脊強病在大陽

  【訓み下し】

六經(りくけい)は○頭項痛み,腰(こし)脊(せなか)強ばり病むは,大陽【太陽】に在り。

  【注釋】

 ◉『素問』熱論(31):「傷寒一日,巨陽受之,故頭項痛腰脊強」。


○身熱鼻乾目疼不得臥病在陽明

  【訓み下し】

○身(み)熱し,鼻乾き,目疼(いた)み,臥(ふ)すことを得ず。病 陽明に在り。

  【注釋】

 ◉『素問』熱論(31):「二日陽明受之,陽明主肉,其脈俠鼻絡於目,故身熱目疼而鼻乾,不得臥也」。


○胷脇痛耳聾徃來寒熱病在少陽

  【訓み下し】

○胸(むね)痛み,耳聾(し)い,往來寒熱の病,少陽に在り。

  【注釋】

○胷:「胸」の異体字。 ○徃來寒熱:證名。出『傷寒論』辨少陽病脈證幷治。即寒熱往來。指惡寒與發熱交替發作之證。為傷寒少陽病主證。以邪入少陽,居半表半里,正邪分爭,邪勝則寒,正勝則熱,故寒熱往來。/徃:「往」の異体字。 

 ◉『素問』熱論(31):「三日,少陽受之,少陽主膽,其脈循脇絡於耳,故胸脇痛而耳聾」。

 ◉『傷寒論』辨少陽病脈證并治:「本太陽病不解,轉入少陽者,脇下硬滿,乾嘔不能食,往來寒熱,尚未吐下,脈沉緊者,與小柴胡湯」。


○咽乾腹滿自利病在太隂

  【訓み下し】

○咽(のど)乾き腹滿ち自利,病 太陰に在り。

  【注釋】

 ◉『素問』熱論(31):「四日,太陰受之,太陰脈布胃中絡於嗌,故腹滿而嗌乾」。

 ◉『傷寒論』辨太陰脈證并治:「太陰之為病,腹滿而吐,食不下,自利益甚,時腹自痛」。


○口燥舌乾而渇病在少隂

  【訓み下し】

○口燥き舌乾いて渇する病,少陰に在り。

  【注釋】

 ◉『素問』熱論(31):「五日,少陰受之,少陰脈貫腎絡於肺,繫舌本,故口燥舌乾而渴」。


○煩滿囊縮病在厥隂

  【訓み下し】

○煩滿,囊(へのこ)縮(しじ)まり,病 厥陰に在り。

  【注釋】

 ○へのこ:睾丸。陰茎。 ○しじまる:ちぢんで小さくなる。ちぢまる。

 ◉『素問』熱論(31):「六日,厥陰受之,厥陰脈循陰器而絡於肝,故煩滿而囊縮」。


○身熱頭疼不出汗攅竹[兩眉頭少陷中]神門[掌後銳骨端陷中]少澤[手小指端外側去爪甲角下一分陷]太陵[掌後骨下筋間陷中]淺刺

  【訓み下し】

○身(み)熱し頭(かしら)疼(いた)み汗出でずんば,攅竹[兩の眉の頭(かしら),少し陷(くぼ)かなる中(うち)]・神門[掌後(じょうご)銳骨(ぜいこつ)の端(はし),陷中]・少澤[手の小指の端,外(ほか)の側(かたわら),爪の甲の角を去ること下(した)一分の陷]・太陵[掌の後(しりえ)の骨の下(しも),筋の間(あいだ),陷(くぼ)かなる中(うち)]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』攢竹:「兩眉頭少陷宛宛中」。

 ◉『鍼灸聚英』神門:「掌後銳骨端陷中」。

 ◉『鍼灸聚英』少澤:「手小指端外側,去爪甲角下一分陷中」。

 ◉『鍼灸聚英』大陵:「掌後骨下兩筋間陷中」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒:「身熱 頭疼 攢竹穴。大陵 神門與少澤」。


○汁不出胸滿膨膨洒淅【氵+木+亍】寒熱風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]經渠[寸口陷中]魚際[大指本節後內側陷]商陽[手大指次指內側去爪甲角]淺刺

  【訓み下し】

○汁(あせ)【汗】出でず,胸滿ち膨膨として洒淅(そぞろさむ)【氵+木+亍】く,寒熱するに,風池[耳の後ろ髮の際(はえぎわ)陷(くぼ)かなる中(うち),之を按(お)し,耳の中(うち)に引く]・經渠[寸口陷中]・魚際[大指本節後內側陷]・商陽[手の大指の次の指內の側に爪の甲の角を去る]淺く刺す。

  【注釋】

 ○汁:添え仮名「アセ」。「汗」の誤字。

 ◉『神應經』傷寒部:「傷寒汗不出:風池 魚際 經渠(各瀉) 二間」。汗部:「無汗:……風池……經渠……魚際……商陽……」。

 ◉『鍼灸聚英』風池:「耳後顳顬後,腦空下,髮際陷中。按之引於耳中。……主洒淅寒熱,傷寒溫病汗不出……」。經渠:「寸口陷中。……主瘧寒熱,……胸滿膨膨,……傷寒熱病汗不出……」。魚際:「大指本節後內側陷中。又云散脈中。……主……傷寒汗不出……」。商陽:「手大指次指內側,去爪甲角如韭葉。……主……熱病汗不出……」。


○餘熱不盡曲池三里合谷[穴處出中風]淺刺

  【訓み下し】

○餘熱 盡きず,曲池・三里・合谷[穴處 中風に出づ]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』傷寒部:「餘熱不盡:曲池 三里 合谷」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒:「餘熱不盡先曲池,次及三里與合谷」。

 ◉『鍼灸聚英』曲池:「主……傷寒餘熱不盡……」。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・發熱:「餘熱不盡,取曲池」。


○嘔噦百會曲池[穴處出中風]商丘[足內踝骨下微前陷中]淺刺

  【訓み下し】

○嘔噦に百會・曲池[穴處 中風に出づ]・商丘[足の內踝(うちくるぶし)の骨の下(した)微(すこ)し前の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ○嘔噦:嘔吐。

 ★出典は,『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒であろうが,『鍼灸聚英』は「曲澤」を「曲池」に誤ったと思われる。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒:「嘔噦百會曲池中,間使勞宮商丘底」。

 ◉『神應經』傷寒部:「嘔噦:百會 曲澤 間使 勞宮 商丘」。

 ◉『鍼灸聚英』商丘:「足內踝骨下微前陷中」。

 ◉『鍼灸聚英』曲澤:「主心痛善驚。身熱煩渴。口乾。逆氣嘔涎血。心下澹澹。身熱。風胗。臂肘手腕善搖動。頭清汗出不過肩。傷寒逆氣嘔吐」。

 ◉『鍼灸聚英』曲池:「主繞踝風。手臂紅腫。肘中痛。偏風半身不遂。惡風邪氣。泣出。喜忘。風癮疹。喉痹不能言。胸中煩滿。臂膊疼痛。筋緩捉物不得。挽弓不開。屈伸難。風痹。肘細無力。傷寒餘熱不盡。皮膚乾燥。瘛瘲癲疾。舉體痛癢如蟲齧。皮脫作瘡。皮膚痂疥。婦人經脈不通」。


○胸中澹澹發狂間使[掌後三寸筋間陷中]勞宮[掌中央動脉屈中指無名指間取之]復溜[足內踝上二寸筋骨陷中]合谷[穴處出中風]淺刺

  【訓み下し】

○胸の中(うち)澹澹(ざわざわ)として發狂するに,間使[掌(たなごころ)の後ろ三寸,筋の間の陷中]・勞宮[掌(て)の中央(まんなか),動脈,中指(なかゆび)無名指(くすりゆび)を屈(かが)めて間に之を取る]・復溜(ふくる)[足の內踝(うちくるぶし)の上(かみ)二寸,筋骨の陷中]・合谷[穴處 中風に出づ]淺く刺す。

  【注釋】

★「勞宮」は「百勞」の誤りであろう。あるいは「百勞」穴を知らず,「勞宮」穴の誤りと判断したか。

 ◉『神應經』胸背脇部:「胸中澹澹:間使」。傷寒部:「發狂:百勞 間使 合谷 復溜」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒:「發狂 間使與百勞,合谷 復溜四穴焦」。

 ◉『鍼灸聚英』間使:「掌後三寸兩筋間陷中……主傷寒……胸中澹澹」。

 ◉『鍼灸聚英』勞宮:「掌中央動脈。『銅人』:〈屈無名指取之〉。『資生』:〈屈中指取之〉。滑氏云:〈以今觀之,屈中指無名指兩者之間取之為允〉」。

 ○『鍼灸聚英』復溜:「足內踝上二寸,筋骨陷中。前旁骨是復溜,後旁筋是交信,二穴止隔一條筋」。

 ○百勞:經穴別名。『扁鵲神應鍼灸玉龍經』:「百勞,在背第一椎骨尖上,鍼三分,灸二七壯」。後『鍼灸大全』等作大椎別名。

 ◉『鍼灸集成』:「百勞,在大椎向髮際二寸點記,將其二寸中折墨記,橫佈於先點上,左右兩端盡處是。主治瘰癧,灸七壯,神效」。在項部,當大椎直上2寸,後正中線傍開1寸。


○不省人事中渚[手小指次指本節後間陷]大敦[足大指端去爪甲三毛中]三里[膝下三寸]淺刺

  【訓み下し】

○人事を省(かえり)みざるに,中渚[手の小指(こゆび)の次の指本節(もとふし)後の間の陷]・大敦[足の大指(おおゆび)の端(はし),爪の甲を去る三毛(みつけ)の中(うち)]・三里[膝の下三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』傷寒部:「不省人事:中渚 三里 大敦」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒:「不省人事 中渚穴,三里 大敦二穴燒」。

 ◉『鍼灸聚英』中渚:「手小指次指本節後間陷中。在腋門下一寸」。

 ◉『鍼灸聚英』大敦:「足大指端去爪甲如韭葉,及三毛中。一云:內側為隱白,外側為大敦」。


○秘塞照海[足內踝下]淺刺章門[大橫外直季脇肋端]深刺

  【訓み下し】

○秘塞に,照海[足內踝(うちくるぶし)の下(した)]淺く刺す。章門[大橫の外(ほか),直ちに季(すえ)の脇肋(あばらぼね)の端(はし)]深く刺す。

  【注釋】

 ○秘塞:秘澀。指大便不通、大便乾燥、排下困難等。

 ◉『神應經』傷寒部:「秘塞:照海 章門」

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒:「秘塞 照海與章門」。


○煩滿汗不出風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]深刺命門[十四推節下間]淺刺

  【訓み下し】

○煩滿,汗出でざるに,風池[耳の後ろ髮際の陷中,之を按せば耳の中(なか)に引く]深く刺す。命門[十四の推【椎】の節の下(しも)の間]淺く刺す。

  【注釋】

 ○「中」,訓(なか/うち),一定せず。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・傷寒:「煩滿汗不出。取風池、命門」。

 ◉『鍼灸聚英』風池:「耳後顳顬後。腦空下。髮際陷中。按之引於耳中」。

 ◉『鍼灸聚英』命門:「十四椎節下間,伏取之」。


  卷中・十ウラ(696頁)

○汗出寒熱五處[上星旁一寸半]攅竹[兩眉頭少陷中]淺刺中脘[臍上四寸居心蔽骨與臍之中]深刺

  【訓み下し】

○汗出寒熱に,五處[上星の旁ら一寸半]・攅竹[兩眉(び)の頭(かしら),少し陷の中]淺く刺す。中脘[臍の上(かみ)四寸,居心蔽骨(とがりほね)と臍との中(なか)]深く刺す。

  【注釋】

 ★『鍼灸聚英』治例・傷寒・發熱に基づくとすれば,「中脘」は「上脘」の誤り。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・發熱:「汗出寒熱,取五處、攢竹、上脘」。

 ◉『鍼灸聚英』五處:「夾上星旁一寸五分」。

 ◉『鍼灸聚英』攢竹:「兩眉頭少陷宛宛中」。

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「上脘下一寸。臍上四寸。居心蔽骨與臍之中〔心蔽骨(=鳩尾骨)と臍との中に居る〕」。


○身熱頭痛汗不出曲泉[膝股內側輔骨下屈膝橫文頭取之]深刺

  【訓み下し】

○身(み)熱し頭(かしら)痛み汗出でざるに,曲泉[膝股(うちもも)の內の側(かたわら),輔骨の下(した),膝を屈(かが)め,橫の文(もん)の頭(かしら)に之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・發熱:「身熱頭痛汗不出,取曲泉」。

 ◉『鍼灸聚英』曲泉:「膝股上內側,輔骨下,大筋上,小筋下陷中。屈膝橫文頭取之」。


○少隂發熱灸太谿[足內踝後跟骨上動脉陷中]

  【訓み下し】

○少陰發熱(ほつねつ)に,太谿(たいげい)[足の內踝(うちくるぶし)の後ろ,跟(きびす)骨(ほね)の上(かみ),動脈の陷中]に灸し,

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・發熱:「少陰發熱,灸太谿」。

 ◉『鍼灸聚英』太谿:「足內踝後,跟骨上動脈陷中」。


○胷脇滿譫期門[直乳二肋端陷]淺刺

  【訓み下し】

○胸(むね)脇(わき)滿ち譫(せんご)には,期門[直乳二肋端(はし)の陷]淺く刺す。

  【注釋】

★添え仮名に基づけば,「譫」の下に「語」字を脱す。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・胷脇滿:「胷脇滿兼譫語,刺期門」。

 ◉『鍼灸聚英』期門:「直乳二肋端,不容傍一寸五分。又曰乳直下一寸半」。


○六七日脉㣲手足厥冷煩躁灸厥隂俞[四推下去脊中各二寸]

  【訓み下し】

○六七日脈微に,手足厥(ひえ)冷,煩躁,厥隂(けっちん)の俞[四推の下(した),脊中を去る各二寸]に灸す。

  【注釋】

 ○㣲:「微」の異体字。 ○厥冷:「厥」字の上に「ヒヘ」とあるが「厥冷」二文字に対するものか。つぎの「四支厥冷」もおなじ。/中醫學名詞。手足厥冷,也叫“手足逆冷”、“四逆”。指手足四肢由下而上冷至肘膝的症狀。有寒熱之分。可見於傷寒、厥證、疝等病症。參閱『金匱要略』腹滿寒疝宿食病脈證治。 

★「厥陰」の添え仮名には,「ケツイン」「ケツチン」の二通りあり。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・煩躁:「傷寒六七日,脈微,手足厥冷,煩躁,灸厥陰俞穴」。

 ◉『鍼灸聚英』厥陰俞:「四椎下,兩旁各一寸五分。正坐取之」。

★「二寸」と「一寸五分」の異説については,卷上664頁(26の4)背部橫寸法を参照。


○四支厥冷身冷四逆也灸肝俞[九推下相去脊中各二寸]腎俞[十四推下相去脊中各二寸]氣海[臍之下一寸半]

  【訓み下し】

○四支(てあし)厥(ひえ)冷,身冷ゆるものは,四逆なり。肝の俞[九推の下,脊中を相い去る,各二寸]腎の俞・[十四推の下,脊中を去る,各二寸]・氣海[臍の下(した)一寸半]に灸す。

  【注釋】

 ○四逆:中醫學名詞。也叫厥冷、手足逆冷。指四肢冷至肘膝以上的症狀。有寒熱之分。可見於傷寒等病症。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・四逆:「四肢逆冷而不溫,積涼成寒,六府氣絕於外。四肢手足寒冷,足脛寒逆,少陰也。四肢厥冷,身寒者,厥陰也。四逆灸氣海、腎俞、肝俞。


○太陽少陽幷病頭痛或冒悶如結胷狀大推[一推上陷者中]肺俞[三推下相去脊中各二寸]淺刺

  【訓み下し】

○太陽少陽の幷病,頭(かしら)痛み,或いは冒悶,結胸の狀(かたち)の如く,大推【大椎】[一推【椎】上(かみ)の陷の中(うち)]・肺俞[三推【椎】下,脊中を相い去る各二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○結胷:結胸。中醫病症名。指邪氣鬱結於胸中的病症。『醫宗金鑒』傷寒心法要訣・結胸:「按之滿硬不痛痞,硬而滿痛為結胸。大結從心至少腹,小結心下按方痛」。

 ◉『鍼灸聚英』治例・傷寒・鬱冒:「鬱為氣不舒,冒為神昏不清,即昏迷是也。多虛極乘寒所致,或吐下使然。鬱冒,刺太陽、少陽。幷病頭痛,或冒悶,如結胸狀,當刺大椎第一間,及肺肝二俞,慎不可汗」。

    ★『鍼灸聚英』の文は,太陽・少陽は,治療箇所であって,「太陽・少陽がともに病む」の意には読めない。しかし,『傷寒論』には「太陽與少陽并病,頭項強痛,或眩冒,時如結胸,心下痞鞕者,當刺大椎第一間、肺俞、肝俞,慎不可發汗,發汗則譫語、脈弦,五日譫語不止,當刺期門」とある。すると『鍼灸聚英』の「刺太陽、少陽」の「刺」字は衍文のようにも思える。/成無己注:「太陽之脈,絡頭下項。頭項強痛者,太陽表病也。少陽之脈,循胸絡脇,如結胸心下痞硬者,少陽裡病也。太陽少陽相併為病,不純在表,故頭項不但強痛而或眩冒,亦未全入裡,故時如結胸,心下痞硬,此邪在半表半裡之間也。刺大椎第一間,肺俞,以瀉太陽之邪;刺肝俞,以瀉少陽之邪。邪在表,則可發汗;邪在半表半裡,則不可發汗。發汗則亡津液,損動胃氣。少陽之邪,因干於胃,土為木刑,必發譫語。脈弦,至五六日傳經盡,邪熱去而譫語當止;若復不止,為少陽邪熱甚也,刺期門,以瀉肝膽之氣」。

     ◉沈金鰲『傷寒論綱目』頭眩鬱冒:【綱】仲景曰:太陽與少陽並病,頭項強痛,或眩冒,時如結胸,心下痞硬者,當刺大椎、肺俞、肝俞。諸乘寒者,則為厥。鬱冒不仁。【目】成無己曰:鬱為鬱結而氣不舒。冒為虛冒而神不清。鬱冒之來,皆虛熱而乘寒也。『金匱』云:新產婦人有三病。一者病痙,二者病鬱冒,三者大便難。亡血復汗寒多,故令鬱冒。又曰:產婦鬱冒,其脈微弱,嘔不能食,大便堅。所以然者,血虛而厥,厥而必冒,冒家欲解,必大汗出。即此觀之,鬱冒為虛寒可知矣。

     ○「幷病」:並病,傷寒一經證候未解,又出現另一經證候。出『傷寒論』。『傷寒論大全』傷寒合病幷病:「幷病者,一經先病未盡,又過一經之傳者,為幷病」。

     ○鬱冒:昏冒神志不清的病證。『素問』至真要大論:「欝冒不知人者,寒熱之氣亂於上也」。『傷寒論』辨厥陰病脈證幷治:「下利,脈沉而遲,其人面少赤,身有微熱,下利清穀者,必欝冒汗出而解,病人必微厥。所以然者,其面戴陽,下虛故也」。『醫學入門』卷四:「欝乃氣不舒,冒乃神不清,俗謂之昏迷也。經曰:諸虛乘寒則為厥。欝冒不仁,言寒氣乘虛中人,如物蒙罩其首,恍惚不省人事,比之眩昏更重」。/「欝」は「鬱」の異体字。


○潔古曰煩滿囊縮灸陽陵泉[膝下一寸䯒外廉陷中蹲坐取之]

  【訓み下し】

○潔古の曰わく,「煩滿囊(へのこ)縮(しじ)まるに,陽陵泉[膝の下(した)一寸,䯒(はぎ)の外廉(ほかかど)の陷中,蹲(つまだ)ち坐して之を取る]を灸す」。

  【注釋】

 ○潔古:張元素(1151年—1234年),字潔古,晚號潔古老人,金代易州(即今河北省易縣)人,著名中醫師。他的代表著作有『醫學啟源』三卷、『珍珠囊』一卷、『臟腑標本寒熱虛實用藥式』、『潔古刺諸痛法』、『醫方』、『藥注難經』、『潔古本草』等等。

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・傷寒:「○陽陵泉○潔古曰:煩滿囊縮者灸此」。


  卷中・十一オモテ(697頁)

          ○醫學發明曰陷下則

灸之已陽在外上隂在內下今言陷下者陽氣下

陷而入隂血之中隂反居其上而覆其陽脉俱見

寒外者灸之。

  【訓み下し】

○『醫學發明』に曰わく,「陷下(かんげ)する則(とき)は之を灸し,已に陽は外上(ほかかみ)に在り,陰は內下(うちしも)に在り。今ま言う陷下は,陽氣下陷して陰血の中(うち)に入り,陰反(かえ)って其の上(かみ)に居り,其の陽脈を覆い,俱に寒を外(ほか)に見(あら)わす者は,之を灸す」。

  【注釋】

 ○醫學發明:醫論著作。金.李杲撰(一本誤作元.朱震亨撰),撰年不詳。

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・傷寒:「醫學發明云:陷下則灸之。天地間,陰陽二氣而已。陽在外在上,陰在內在下。今言陷下者,陽氣下陷入陰血之中,是陰反居其上而覆其陽,脈證俱見寒在外者,則灸之」。

 ★『鍼灸聚英』玉機微義・傷寒によれば,「已」は,「天地間,陰陽二氣而已(天地の間は,陰陽の二氣のみ)」の末尾の「已」と思われるので,必要なかろう。


○仲景曰微數之脉慎不可灸因火爲邪則爲煩逆血散脉中血難復實實虗虗也

  【訓み下し】

○仲景曰わく,「微數(さく)の脈は,慎んで灸す可からず。火(ひ)に因って邪を爲す則(とき)は,煩を爲し,逆血 脈中に散じて,血 復し難し。實實虛虛なり」。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』玉機微義・傷寒:「如仲景云:微數之脈,慎不可灸。因火為邪,則為煩逆,追虛逐實,血散脈中,火氣雖微,內攻有力,焦骨傷筋,血難復也。又云:脈浮,宜以汗解,用火灸之。邪無從出,因火而盛,病從腰以下必重而痹,名火逆也。脈浮熱甚而灸之。此為實實而虛虛治。因火而動,必咽燥唾血。……此仲景傷寒例」。

 ★「逆血」は意味不明。『鍼灸聚英』玉機微義・傷寒によれば,「則ち煩逆を為し,(追虛逐實,)血は脈中に散ず」。

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