卷下・五オモテ(735頁)
(5)眩暈
【注釋】
◉『病名彙解』眩(けん)暈(うん):「目のまうことなり。或は眩運といひ,或は眩冒と云。眩は其黑を云。暈は其の轉[メグル]ずるを云。冒とは其昏(くらき)を云。運も〈めぐる〉とよめり。皆一なり。目がまへばめぐるやうにて昏なるを以てなり。大概肥[コヘ]人は多くは濕痰 上に滯りて,火 下より起るなり。瘦[ヤセル]人は多くは腎水虧(かけ)少なくして,相火上炎して眩暈するなり。
眩者黑運旋轉其狀目閉眼暗身轉耳聾如立舟車之上凡頭眩者痰也下虗上實脉頭暈眩風浮寒眩緊濕眩細暑眩虗痰眩滑
【訓み下し】
眩は,黑運旋轉,其の狀(かたち)目閉じ眼(まなこ)暗く,身(み)轉じ耳(みみ)聾(し)い,舟(しゆう)車(しや)の上(うえ)に立つが如く,凡そ頭眩(ずけん)は,痰なり。下(しも)虛し上(かみ)實し,脈,頭暈,眩風は浮,寒眩は緊,濕眩は細,暑眩は虛,痰眩は滑。
【注釋】
★後半部分,難解。『萬病回春』にしたがって意訳すれば,「下(しも)が虛し上(かみ)が實してなる。頭暈の脈狀は,風邪によるめまいは浮,寒邪によるめまいは緊,濕邪によるめまいは細,暑邪によるめまいは虛,痰によるめまいは滑である」。
◉『萬病回春』卷4・眩暈:「脈:風寒暑濕,氣鬱生涎;下虛上實,皆頭暈眩。風浮寒緊〔風(が原因の場合)は浮(脈),寒は緊(脈)〕;濕細暑虛〔濕は細(脈),暑は虛(脈)〕;痰弦而滑〔痰は弦にして滑(脈)〕;瘀芤而澀;數大火邪;虛大久極。先理氣痰,次隨症脈。眩者,言其黑運旋轉,其狀目閉眼暗、身轉耳聾,如立舟車之上,起則欲倒。蓋虛極乘寒得之,亦不可一途而取軌也。大凡頭眩者,痰也」。
○寒濕風痰目眩合谷[手大指次指歧骨間陷中]豐隆[外跗上八寸下䯒外廉陷]觧谿[足大指次指直上跗上之陷中]風池[耳後髮際陷中按之引於耳中]淺刺
【訓み下し】
○寒濕風痰目眩は,合谷[手の大指の次の指の歧骨(ちまたほね)の間の陷中]・豐隆[外(そと)の跗上八寸,下(しも)䯒(はぎ)の外廉(そとかど)の陷(くぼみ)]・解谿[足の大指の次の指直ちに上(かみ),跗(こう)の上の陷中]・風池[耳の後(あと)髮の際(はえぎわ)陷中,之を按(お)せば,耳の中(うち)に引く]淺く刺す。
【注釋】
★豐隆:「外跗上」は「外踝上」の誤り。和刻本『鍼灸聚英』による。/跗:足の甲。『玉篇』足部:「跗,足上也」。
◉『鍼灸聚英』雑病歌・頭面:「頭風眩暈治合谷,次及豐隆解谿方,再兼風池通四穴」。
◉『鍼灸聚英』豐隆:「外跗〔明刊本作「踝」〕上八寸,下䯒外廉陷中」。
◉『鍼灸甲乙經』豐隆:「在外踝上八寸,下廉胻外廉陷者中」。
○頭眩目眩臨泣[足小指次指本節後間陷]風府[項後入髮際一寸]
【訓み下し】
○頭眩目眩,臨泣[足の小指の次の指の本節(もとふし)の後(あと)の間の陷]・風府[項(うなじ)の後(あと),髮際(はっさい)に入る一寸]
【注釋】
◉『鍼灸聚英』通玄指要賦:「風傷項急,始求於風府。頭暈目眩,要覓於風池」。
◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「目眩臨泣風府中」。
◉『鍼灸聚英』(頭)臨泣:「目上,直入髮際五分陷中,令患人正睛取穴。……主目眩」。
◉『鍼灸聚英』(足)臨泣:「足小指次指本節後間陷中,去俠谿一寸五分。……主……目眩」。
◉『神應經』耳目部:「目眩:臨泣 風府 風池 陽谷 中渚 液門 魚際 絲竹空」。
【訓み下し】
○上逆目眩,中渚[手の小指の次の指本節(もとふし)の後(あと)の間の陷]・梁門[承滿の下(しも)一寸,中行を去る三寸]・陽谷[手の外の側(かたわら),腕(わん)の中(なか),銳骨(とがりほね)の下の陷中]淺く刺す。
【注釋】
★「梁門」穴に「目眩」の主治なし。「液門」の誤りか。
◉『鍼灸聚英』中渚:「主……目眩頭痛」。
◉『鍼灸聚英』陽谷:「主……目眩」。
◉『鍼灸聚英』雑病歌・耳目:「目眩臨泣風府中,風池陽谷中渚同,通前通後共八穴」。
◉『鍼灸聚英』梁門:「主脇下積氣,食飲不思,大腸滑泄,完穀不化」。(目眩なし)
◉『鍼灸聚英』六十六穴陰陽二經相合相生養子流注歌:「液門(滎水)手臂痛寒厥,妄言驚悸昏,偏頭疼目眩,當以液門論」。
◉『醫學入門』液門:「主……目澀目眩……」。
◉『神應經』耳目部:「目眩:臨泣 風府 風池 陽谷 中渚 液門 魚際 絲竹空」。
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