2024年3月19日火曜日

鍼灸溯洄集 53 卷中(20)心痛[附胃脘痛]

   卷中・二十二オモテ(719頁)

  (20)心痛[附胃脘痛]

   【訓み下し】

  心痛[附(つけた)り:胃脘痛]


心痛初起者胃中有寒也

  【訓み下し】

心(むね)痛み初め起こる者は,胃中に寒有るなり。

  【注釋】

 ◉『萬病回春』卷5・心痛[即胃脘痛]:「心痛初起者,胃中有寒也」。


○心痛稍久者胃中有欝熱也

  【訓み下し】

○心(むね)痛み稍(やや)久しき者は,胃中に欝熱有るなり。

  【注釋】

 ○欝:「鬱」の異体字。

 ◉『萬病回春』卷5・心痛:「心痛稍久者,胃中有鬱熱也」。


○心痛素食熱物者死血留胃口也

  【訓み下し】

○心(むね)痛み,素(もと) 熱き物を食する者は,死血 胃口に留(とど)まるなり。

  【注釋】

 ★素:『萬病回春』の「因素喜」を省略したのであろうが,わかりづらい。

 ◉『萬病回春』卷5・心痛:「心痛因素喜食熱物者,死血留於胃口也」。


○卒心疼不可忍灸足大指次指內紋中各一壯

  【訓み下し】

○卒(にわ)かに心(むね)疼み忍ぶ可からず,足の大指(おゆび)の次の指の內(うち)の紋の中(うち),各々一壯灸す。

  【注釋】

 ○おゆび:親ゆび。おおゆび。

 ◉『鍼灸聚英』雑病歌・心脾胃:「卒心疼兮不可忍,吐冷酸水難服藥,此患灸足最為良,得效最速不虛謔,大指次指內紋中,各一壯炷如小麥」。


○心痛有風寒氣血食積熱太谿[足內踝後跟骨上動脉陷者中]尺澤[肘中約紋上動脉中]太白[足大指內側內踝前核骨下陷者中]淺建里[臍之上三寸]淺刺

  【訓み下し】

○心(しん)痛(つう)に風寒氣血食積(しやく)熱有る,太谿[足の內踝(うちくるぶし)の後(あと),跟(きびす)骨の上(うえ),動脈の陷者中]・尺澤[肘(て)の中(おりかがみ),約紋の上(うえ),動脈の中]・太白[足の大指(ゆび)の內の側(かたわら),內踝(うちくるぶし)の前(まえ),核骨(おゆびのくるぶし)の下(しも)の陷者中]淺く,建里[臍の上(かみ)三寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ★下(しも):原文の添え仮名「モモ」。「シモ」の誤りであろう。

 ★建里は,おそらく「深く刺す」。可能性としては,建里の上にある「淺」字が衍文とも考えられる。

 ◉『鍼灸聚英』雑病・心痛:「有風寒、氣血虛、食積熱。鍼太谿、然谷、尺澤、行間、建里、大都、太白、中脘、神門、湧泉」。


○心痛色蒼蒼如死狀終日不得息如錐然谷[足內踝前起大骨下陷中]大都[足大指本節後內側陷中]淺行間[足大指縫間動脉應手陷者中]中脘[臍上四寸]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)痛み色蒼蒼(あおあお)として死する狀(かたち)の如く,終日(ひめもす)息すること〔を〕得ず,錐(きり)に〔て〕さ〔=刺〕すが如く,然谷[足の內踝(うちくるぶし)の前,起こる大骨(ほね)の下の陷中]・大都[足の大指(ゆび)の本節(もとふし)の後(あと)內の側(かたわら)の陷中]淺く,行間[足の大指(ゆび)の縫間(ぬいめ)の動脈,手に應ず陷者中]中脘[臍の上(かみ)四寸]深く刺す。

  【注釋】

 ○ひめもす:「ひねもす」に同じ。朝から晩まで続くさま。一日中。

 ○錐:添え仮名は「キリニサスカニテ」に見える。「錐ニ刺す」は不自然である。「ニ」は「ヲ」の誤字の可能性もある。また末尾の「ニテ」が不審である。変則で「錐ヲさすが如くニテ」と読むのかもしれない。ただ然谷の主治は「心痛如錐刺……」であるので「刺」字を誤脱した可能性が高いと思う。『鍼灸聚英』然谷の添え仮名にしたがい,「錐にて刺すが如く」というのが,著者の本来の意図であったと思う。

 ○大都:太谿穴の主治には「心痛如錐刺」とあるので,「太谿」の誤りの可能性がある。太衝穴の主治には「心痛,蒼然如死狀,終日不得息」とあるので,「太衝」の誤りの可能性がある。

 ○中脘:中封穴の主治には「色蒼蒼」とあるので,中封穴の誤りかも知れない。

 ◉『鍼灸聚英』然谷:「主……心痛如錐刺墜墮……」。

 ◉『鍼灸聚英』大都:「主熱病汗不出,不得臥,身重骨疼,傷寒手足逆冷,腹滿善嘔,煩熱悶亂,吐逆,目眩,腰痛不可俯仰,繞踝風,胃心痛,腹脹胸滿,心蛔痛,小兒客忤」。

 ◉『鍼灸聚英』太谿:「主久瘧咳逆,心痛如錐刺……」。

 ◉『鍼灸聚英』行間:「主……肝心痛,色蒼蒼如死狀,終日不得息……」。

 ◉『鍼灸聚英』太衝:「主心痛……肝心痛,蒼然如死狀,終日不得息……」。

 ◉『鍼灸聚英』中脘:「主五膈,喘息不止,腹暴脹,中惡,脾疼,飲食不進,翻胃,赤白痢,寒癖,氣心疼,伏梁,心下如覆杯,心膨脹,面色痿黃,天行傷寒,熱不已,溫瘧,先腹痛先瀉,霍亂,泄出不知,食飲不化,心痛,身寒,不可俯仰,氣發噎,東垣曰:氣在於腸胃者,取之足太陰、陽明,不下,取三里、章門、中脘,又曰:胃虛而致太陰無所稟者,於足陽明募穴中導引之」。

 ◉『鍼灸聚英』中封:「主……色蒼蒼……」。


○心痛胸滿厥陰俞[四推下相去脊骨各二寸]鬲俞[七推下相去脊中各二寸]淺京骨[足之外側大骨下赤白間陷中]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)痛み胸滿ち,厥陰(けっちん)の俞[四推の下,脊骨を相い去ること各二寸]・鬲の俞[七推の下,脊中を相い去ること各二寸]淺く,京骨[足の外の側(かたわら),大骨の下,赤白(しゃくびゃく)の間(あいだ),陷中]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』厥陰俞:「主咳逆,牙痛心痛,胸滿嘔吐,留結煩悶」。

 ◉『鍼灸聚英』鬲俞:「主心痛周痹,吐食翻胃,骨蒸,四肢怠惰,嗜臥,痃癖,咳逆,嘔吐,鬲胃寒痰,食飲不下,熱病汗不出,身重常溫,不能食,食則心痛,身痛臚脹,脇腹滿,自汗盜汗」。

 ◉『鍼灸聚英』京骨:「主頭痛如破,腰痛不可屈伸,身後痛身側痛,目內眥赤爛,白翳俠內眥起,目反白,目眩,發瘧寒熱,喜驚,不欲食,筋攣,足䯒痛,髀樞痛,頸項強,腰背不可俛仰,傴僂,鼻鼽不止,心痛」。


○卒心痛湧泉[足心陷中]淺刺

  【訓み下し】

○卒(にわ)かに心(むね)痛むに,湧(ゆ)泉(せん)[足心(つちふまず)の陷中]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』湧泉:「主……煩心心痛……,卒心痛……」。


○心痛善驚身熱煩渇口乾逆氣心下澹澹曲澤[肘內廉下陷中屈肘得之]郄門[掌後去腕五寸]淺刺

  【訓み下し】

○心(むね)痛んで善(この)んで驚き,身(み)熱し,煩渇,口乾き,逆氣し,心下澹澹(さわさわ)とするに,曲澤[肘(うで)の內廉(うちかど)の下の陷中,肘(うで)を屈(かが)めて之を得(う)]・郄門[掌後,腕を去る五寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ○澹澹:蕩漾貌。水搖蕩的樣子。/添え仮名「サワサワ」。サワサワ:落ち着かないさま。そわそわ。/ザワザワ:大勢の人が集まって騒がしいさま。木の葉などが触れ合って立てる音。

 ◉『鍼灸聚英』曲澤:「主心痛善驚,身熱煩渴,口乾,逆氣嘔涎血,心下澹澹……」。

 ◉『鍼灸聚英』郄門:「主嘔血衄血,心痛嘔噦,驚恐畏人,神氣不足」。


○心痛伏梁奔豚上脘[臍上五寸]深刺

  【訓み下し】

○心痛,伏梁,奔豚,上脘[臍の上五寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』上脘:「主……奔豚,伏梁,三蟲,卒心痛……」。


○心腹脹滿胃脘痛太淵[掌後陷中]魚際[大指本節後內側陷者中]淺三里[膝下三寸]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)腹(はら)脹滿し,胃脘痛するに,太淵[掌後の陷中]・魚際[大指(ゆび)の本節(もとふし)の後(あと),內の側(かたわら)の陷者中]淺く,三里[膝の下(しも)三寸]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「心痛食不化中脘,胃脘痛兮治太淵,魚際三里兩乳下,一寸三十壯為便」。

 ◉『鍼灸聚英』三里:「膝下三寸……。主胃中寒,心腹脹滿……。胃病者,胃脘當心而痛……」。


○心煩胃脘痛解谿[足大指次指直上跗上陷者宛宛中]完骨[耳後入髮際四分]胃俞[十二推下去脊中二寸]淺刺

  【訓み下し】

○心煩胃脘痛,解谿[足の大指(ゆび)の次の指直上,跗(こう)の上(うえ),陷者宛宛たる中(うち)]・完骨[耳の後ろ,髮の際(はえぎわ)に入ること四分]・胃の俞[十二推の下(しも),脊中を去ること二寸]淺く刺す。

  【注釋】

 ◉『神應經』心脾胃部:「心煩:神門 陽谿 魚際 腕骨 少商 解谿 公孫 太白 至陰。……胃脘痛:太淵 魚際 三里 兩乳下各一寸(各三十壯)膈俞 胃俞 腎俞(隨年壯)」。

 ◉『鍼灸聚英』解谿:「主風面浮腫,顏黑,厥氣上衝,腹脹,大便下重,瘈驚,膝股胻腫,轉筋目眩,頭痛癲疾,煩心悲泣,霍亂,頭風,面赤目赤,眉攢疼不可忍」。

 ◉『鍼灸聚英』完骨:「主足痿失履不收,牙車急,頰腫,頭面腫,頸項痛,頭風,耳後痛,煩心,小便赤黃,喉痹齒齲,口眼喎斜,癲疾」。

 ◉『鍼灸聚英』胃俞:「主霍亂,胃寒腹脹而鳴,翻胃嘔吐,不嗜食,多食羸瘦,目不明,腹痛,胸脇支滿,脊痛筋攣,小兒羸瘦,不生肌膚,東垣曰:中濕者,治在胃俞」。


○心狂胃脘痛公孫[足大指本節後一寸內踝前陷]三隂交[內踝上三寸中骨下陷]隂陵泉[膝下內側曲膝取之]深刺

  【訓み下し】

○心(むね)狂わしく胃脘痛,公孫[足の大指(おおゆび)の本節(もとふし)の後(あと)一寸,內踝(うちくるぶし)の前の陷(くぼみ)]・三隂交[內踝(うちくるぶし)の上三寸中骨下陷]・隂陵泉[膝の下(した),內の側(かたわら),膝を曲(かが)めて之を取る]深く刺す。

  【注釋】

 ◉『鍼灸聚英』公孫:「主寒瘧,不嗜食,癇氣,好太息,多寒熱汗出,病至則喜嘔,嘔已乃衰,頭面腫起,煩心狂言……」。

 ◉『鍼灸聚英』雜病歌・心脾胃:「煩悶不臥治太淵,公孫隱白陰陵泉,肺俞三陰交六穴,治之何患病不痊」。


鍼灸溯洄集卷中終

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