2021年5月15日土曜日

張樹剣『中国鍼灸思想史論』から 第七章 鍼灸の「辨証論治」についての討論 抄訳

 1.  張樹剣:問題提起。

(前略)方薬治療とはまったく異なる鍼灸臨床に,辨証論治という元来内科医のためにカスタマイズされた理論体系は適用できるのか?さらに問えば,辨証論治は学術理論上,西洋医学と対等に振る舞うためにでっち上げられたモデルではないのか?(後略)

2. 黄龍祥:鍼灸は方薬診療モデルという足に合わない靴を履いてすでに50数年を歩んできた。十数年前,わたしは公開の場所で上に述べた鍼灸の診療理論と実践がはなはだしくちぐはぐな状態になっていることを明確に指摘したが,学術界であれ,そのリーダーであれ,ほとんど理解されず,同意するひとさえいなかった。

 (著者コメント略。)

3. 趙京生:鍼灸辨証が議論され疑問視される価値のある問題になった理由,その原因を突き詰めれば,現代において踏襲されている中医内科の辨証の規則,それが過度に強調され,「唯一の臨床モデル」として感じられるようにさえなったことと直接関連するが,根本的には鍼灸診治の思考方法やその特徴がよく理解されていないからである。

 (著者コメント略。)

4. 張建斌:辨証論治を強調することは,鍼灸臨床も例外ではない。問題の鍵は,鍼灸臨床の辨証論治のモデルと体系は,つまるところどのような特徴と特色があるかということである。

 (著者コメント略。)

5. 張効霞:「辨証分型」のモデルを用いて中医臨床の標準,規範,指南およびその鍼灸辨証取穴のやり方を制定するのは,木に登って魚を探すようなもの〔縁木求魚〕,南に行きたいのに北に向かって車を走らせるようなもの〔南轅北轍〕で,方法と目的が相反するものではないか。

 著者コメント:中華人民共和国成立以来,「辨証論治」はずっと中国医学の最も特色を具備した学術の精髄であり,一つの原則と規範として中医臨床実践の全過程をほとんど支配している。しかし現在の学界が理解し認識するところでは,「辨証論治」の概念は実際には根本的に存在しないものであり,一個人が捏造した「奇形児」である。

 まず,西洋医学が中国に伝来する以前,古代の医家の中国医学が疾病を治療する方法の体系について,「脈因証治」「辨証施治」「診病施治」「症因脈治」「見症施治」「辨証施治」などのたくみで該博な用語をつかって概括しようとこころみた。しかしそのいかなる呼称であろうとも,一致した認識には達しなかった。西洋医学が徐々に東方に進入して以降,思考のうえで中国医学と西洋医学という異なる体系に違いを比較するとともに,一般民衆は「西洋医学は標を治し,中国医学は本を治す」と考え,学術界は「中国医学は辨証を重視し,西洋医学が識病〔病気を識別する〕を重視する」と考えた。しかし中華人民共和国成立以前まではずっと,「辨証論(施)治」が中医臨床における疾病治療の主要な手段あるいは方法であるというスローガンや主張を明確に提出するひとはだれもいなかった。

 つぎに,中華人民共和国の中医政策が確立し履行されはじめた当初,できるだけ早く「中国医学は科学ではない」という偏見を根本から払拭するために,ひとびとはそれ以前には重視されなかった「辨証論(施)治」を中国医学の基本診療手順,西洋医学と区別する学術的特徴の要約とし,中医政策が履行されるにともない,中医学界で迅速につたわり広まった。簡略に言えば,「辨証論治」が正式に提出されたのは1955年,今から60年しかたっておらず,「辨証論治」が中医の特色と優位性であるとする見解が提出されたのは,1974年であり,今から40数年前である。

 かさねて,伝統中国医学においては,「証」とは病人が自分で感じるさまざまな症状を指し,「候」とは医者が診察して得られるさまざまな異常な徴候を指す。中国医学では歴史上,証・候・症とこれから派生した証候・症候・病候・病症・病徴・病状・徴候・症状などは,すべて代替して使用できる同義語であり,これらの間には本質的相違はない。しかし中医学界では長期にわたり,本来症状と徴候を指す「証」を,疾病の本質,根本として鍵となる「病機」といっしょくたに論じてきて,中国医学を正しい発展の軌道から逸脱させ,かつ軌道からどんどん離れてさせた。

 最後に,ひとびとは当然のことながら「辨証論治」はゆたかに変化に富む方法であるべきであると認識し,みずから「六経辨証」「三焦辨証」「衛気営血辨証」「病因辨証」「臓腑辨証」「経絡辨証」などたくさんの「辨証方法」を「創立」し,「辨病と辨証を結合」した新理論を「創造」し,ひとつの病をいくつかの型に分ける,いわゆる「辨証分型」の新方式を「発明」し,中医臨床教科書や学術論文の基本的枠組みとして普及し応用したいと思った。それから今日にいたるまで,中医学界は依然としてこのような「辨証分型」方式をたえず制定し,中医臨床の標準,規範,指南として発布している。しかし中国医学は,世界には二人の完全に同一のひとは存在しないし,まして完全に同一の病に罹患するなどありえないと考えている。その上,中医はこれまでずっと時に応じ,地に応じ,人に応じて適切な措置を講じる〔因地・因時・因人制宜〕という原則を強調してきたし,西洋医学での同じ病は,異なる病人の体では,中医のあらゆる病機のタイプが出現し,あらゆる中医の方剤を加減すれば治癒可能であるとも言える。逆に言えば,中国医学の一方剤は,西洋医学のあらゆる疾病を治療でき,病人が呈する病機と方剤の主治病機がぴったり合いさえすれば,そのまま応用できる。この点から見ていくと,「辨証分型」方式を用いて制定した臨床の標準,規範と指南および鍼灸辨証取穴のやり方は,縁木求魚,南轅北轍ではないか。

1 件のコメント:

  1. 对针灸“辨证论治”的回顾与省思
    张树剑:山东中医药大学
    黄龙祥:中国中医科学院针灸研究所
    赵京生:中国中医科学院针灸研究所
    张建斌:南京中医药大学第二临床医学院
    张效霞:山东中医药大学中医文献研究所
    吴章:美国宾利大学历史系

    『中国科技史杂志』2016年01期

    摘要(Abstract):
    邀请针灸理论界与学术史界的部分学者,就针灸辨证论治的理论来源,辨证论治是否适合针灸临床,海外不同流派的针灸医生如何实施辨证论治,针灸临床适应于什么样的思维方式,是否需要以及如何建立符合针灸自身的临床诊疗范式等问题提出讨论,以期对现有针灸辨证论治规范做出省思,并希冀与同道疑义相析。

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