国立公文書館内閣文庫に『新鋟鰲頭金糸万応膏徐氏針灸全書』がある。
[請求番号]子034-0004
編者:朱鼎臣(明) [数量]3冊 [書誌事項]刊本 ,明万暦 ,明万暦12年 , 王氏三槐堂
[旧蔵者]紅葉山文庫
[関連事項]1巻新鍥鰲頭加減十三方銅人鍼灸全書2巻海上仙方徐氏針灸全書1巻
[請求番号]304-0278
編者:朱鼎臣(明) [数量]2冊 [書誌事項]刊本 ,明万暦 ,明万暦12年 , 王氏三槐堂
[旧蔵者]医学館
[関連事項]1巻新鍥鰲頭加減十三方銅人鍼灸全書2巻海上仙方徐氏針灸全書1巻
残念ながら,現在ネット上には公開されていない。(2021/12/02)
長たらしい書名を説明すると,(正確であるか自信はないが),「新鍥」=新刻(前からあった本を新たに彫りなおした)。「鰲頭」=鼇頭。由来の説明ははぶくが,版本学用語としては,版面が上下二層に分かれていて,通常は下段の広いスペースに本文があり,上段に注があって,この部分を「鼇頭」という。「加減十三方」は,この「鰲頭」の部分にあり(約25%),下段(約75%)に「徐氏針灸全書」がある。
上段と下段の内容に関連があるようには思えない。
ただし,この書名は,内容を正確には反映していない。正確に反映させようとすると,もっと長くなりそうである。
以下,『臨床鍼灸古典全書』55巻所収(304-0278/2冊)にもとづく。
本書の扉には,「万応膏薬徐/氏針灸全書」とあり,次に人物の絵があり,次に巻頭に「新鋟鰲頭金絲万応膏徐氏針灸全書巻之一(上?)」とある。そして,上段は「(増補)金絲万応膏」で,下段が「徐氏針灸全書」となっている。
途中の末尾?に「新鋟鰲頭神効万応膏徐氏針灸全書」とある。次に「新鋟鰲頭海上僊方徐氏針灸全書巻之(下?)」がある。上段は「(増補)効捷仙方」,下段は「徐氏針灸全書」のつづき。
2冊目は巻頭に「新鍥鰲頭加減十三方銅人針灸全書之上」とある。上段に「(増補)加減十三方」,下段は「徐氏針灸全書」のつづき。途中に「尾終」とあり,つぎに「新鍥鰲頭加減十三方銅人針灸全書之下」。上段は「神効加減十三方」。下段は「針灸全書」のつづき。
さて,巻頭「巻之一」の次に「豫章 古臨 冲懐 朱鼎臣 編/閩建 書林 三槐 王 祐 発行」とあり。本文が始まる。
最初に,
「且夫徐氏鍼灸之書、乃先師秘伝之奥旨、得之者毎毎私蔵而不以視人、必須待価求之乃可得也、予今以活人為心、更不珍蔵……用針之法,尽載於此書矣〔且つ夫(そ)れ徐氏の鍼灸の書、乃ち先師秘伝の奥旨なり。之を得る者は毎毎私蔵して以て人に視(しめ)さず、必ず須からく価を待ちて之を求むべく乃ち得可きなり。予(わ)れ今ま人を活かすを以て心と為し、更に珍蔵せず……針を用いるの法,尽く此の書に載す〕」
とあって,次に「金針賦序」が始まるので,「且夫徐氏鍼灸之書」以下は,編者の朱鼎臣の語のように錯覚しそうだが,徐鳳による
「此の『金針賦』は乃ち先師秘伝の要法なり。之を得る者は、毎毎私蔵して以て人に示さず、必ず価の千金を待ちて乃ち得べきなり……」
を改編したもの。(「待価(待價)」は,『論語』子罕の「子曰:沽之哉!沽之哉!我待賈者也(子曰わく:これを沽(う)らんかな、これを沽らんかな。我れは賈を待つ者なり)」によるのだろう。)
以下,本題。
黄龍祥『鍼灸名著集成』の解説部分を読んでいたときは,朱鼎臣を鍼灸に従事しているひとだと思っていた。
ネットで調べてみると,百度百科に,
金文京先生の《中國古代小說全目 白話卷》“三國志演義”條:山西教育出版社,2004:302にもとづき,
朱鼎臣:[明]字冲怀,广州人。生卒年均不详,约明世宗嘉靖末前后在世。为庠生。善著通俗小说,有《唐三藏西游释厄传》十卷
=朱鼎臣:[明]字冲懷,廣州人。生卒年均不詳,約明世宗嘉靖末前後在世。為庠生。善著通俗小說,有《唐三藏西遊釋厄傳》十卷。
https://ctext.org/wiki.pl?if=gb&chapter=799794
とある。
出典は,以下のようだ。
『古本小說叢刊』第1輯に『鼎鍥全相唐三藏西遊傳』10巻が収められていて,これには「羊城沖懷朱鼎臣編輯」とある(『書物・印刷・本屋』所収,金文京「〈中国の商業出版〉 明代建陽の商業出版と通俗小説」による)。
明代,嘉靖末年は1566年。
『徐氏針灸全書』は,万暦12年(1584)刊。
字も同じである。同一人物だろう。
こうしてみると,朱鼎臣は,鍼灸に従事していた,というより,エディター,本の編集が仕事だったのだろうと思う。
朱鼎臣編『徐氏鍼灸全書』は,日本にしか残存していないらしい。
この本は,徐鳳『鍼灸大全』を改編したものである。この『鍼灸全書』をさらに改編したものが,陳言『楊敬斎鍼灸全書』である。
このあたりのことは,黄龍祥『鍼灸名著集成』未収載書目解説 Ⅳ.明・清の鍼灸医籍をご参照下さい。
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