2023年5月23日火曜日

成都老官山漢墓の漆塗り人形から見た足陽明経脈の変遷進化 01

  1 歴代の関連文献文物の足陽明経に対する異なる記載と特徴の比較


 1.1 成都老官山漢墓経穴漆塗り人形像

 老官山漆人の正面には,おおむね縦方向に走る線がある。この線は口鼻・胸腹・下肢の前部を通るが,明確な分枝はない。その具体的な循行部位は「足の小指次指―足背に上る―脛の外廉―膝蓋骨―大腿全部―気街―小腹――乳内廉―咽喉―唇を環る―鼻」である。帛書や綿陽双包山漆人などの文献文物中の経脈循行分布の特徴と比較勘案して,われわれはこの線を足陽明経と確定した。

 この漆人の足陽明経の左右循行分布は基本的に対称であり,左右とも循行線は一本だけで,主に頭・体幹・下肢の前面に分布し、起点・止点はそれぞれ足の小指次指と鼻であり,走行区域は乳内廉・咽喉・唇などの組織構造と連携している。この経には支脈はない。


 1.2  綿陽双包山漢墓人体経脈漆彫〔堆朱〕

 1993年に四川省綿陽市永興鎮双包山漢墓から人体経脈漆彫が出土し、この漆彫の体表には経脈10本が彫り描かれている。その中には足陽明経が含まれている。研究成果によれば,双包山漆人の足陽明は顔面部,目下の正中から起こり,頰部から口角へ下り,ここで手太陰脈の起始部と合流した後,まっすぐ下行し,前頸部の結喉外方を過ぎ,手少陰脈の起始部と合流した後,鎖骨を越えて下行し,胸部乳頭正中(前胸第二縦線)を経て,垂直に下って上腹部から下腹部へ過ぎ,鼠径溝の正中,大腿部(前面,正中線),膝蓋部(前面,正中線),下腿部(前面,正中線),足背部(正中線)をへて,足の中指端で止まる[2]。

 この漆人の体表にある足陽明経は一本しかなく,支脈はない。この経は顔面と体幹と下肢の前側に分布し,目下から起こり,足の中指端に止まる。走行する区域は頰骨部と口角と乳中に連係し,口角で手太陰と交叉し,頸部で手少陰と交叉する。


 1.3 『足臂十一脈灸経』『陰陽十一脈灸経』

 『足臂十一脈灸経』(『足臂』と略称する)と『陰陽十一脈灸経』(『陰陽』と略称する)で足陽明経の内容に関連するところは以下のとおり[3]:①『足臂』:「足陽明脈,循胻中,上貫膝中,出股,挾(夾)少腹,上出乳內兼(廉)出膉(嗌),挾(夾)口,以上之鼻」。②『陰陽』:「陽明脈,繫於骭骨外廉,循骭而上,穿髕,出魚股之外廉(「廉」字は原欠),上穿乳,穿頰,出目外廉,環顏」。

 『足臂』と『陰陽』に記載されている足陽明経にはいずれも支脈がなく,主となる一本の脈しかないが,実際に経過する箇所には違いがある。共通するところは,どちらも下腿から始まり,膝部・大腿前部・乳をへて,最後に顔面に至るが,顔面での循行については両者の差が大きい。『足臂』にはこの経が「膉(嗌)に出で,口を挟み,以て上って鼻に之く」と記載されているが,『陰陽』には「頰を穿ち,目の外廉に出で,顏を環る」と記載されており,顔面で関連する器官が全く異なり,前者は老官山漢墓漆人に似ているが,後者の「頰を穿ち,顏を環る」などは『霊枢』に記載されている内容と類似するところがある。


 1.4  『霊枢』経脈および後世の医書

 『霊枢』経脈は経絡理論の基礎を定めた書とみなされている。後世の多種の医書,たとえば『鍼灸甲乙経』『鍼灸大成』『医宗金鑑』などの経脈循行に関する内容は『霊枢』経脈の説を模範としていることが多いため,ここでは『霊枢』経脈に見える足陽明経の循行についてのみ論ずる。

 『霊枢』経脈には「胃足陽明之脈,起於鼻,交頞中,旁約太陽之脈,下循鼻外,入上齒中,還出挾口環唇,下交承漿,卻循頤後下廉,出大迎,循頰車,上耳前,過客主人,循發際,至額顱;其支者,從大迎前,下人迎,循喉嚨,入缺盆,下膈屬胃絡脾;其直者,從缺盆下乳內廉,下挾臍,人氣街中;其支者,起於胃口,下循腹里,下至氣街中而合,以下髀關,抵伏兔,下入膝臏中,下循脛外廉,下足跗,入中指內間;其支者,下膝三寸而別,下入中指外間;其支者,別跗上,入大指間,出其端」と記載されている。

 この経の循行は体内と体外の両部分に関連し,1本の主脈,3本の支脈があり,循行する間に脾臓・胃腑と連絡する。これは足陽明経が臓腑と連絡することを最も早く明確に提出した文献記載である。それと同時に鼻・歯・口唇・乳内廉などの器官と連絡する。


 1.5  足陽明経の循行特徴の比較

 老官山漆人,双包山漆人,『足臂』『陰陽』に示される足陽明経はいずれも主となる脈が1本あるだけで,支脈はないが,『霊枢』経脈にはこの経に3本の支脈があり,そのルートは他よりはるかに複雑である。この経の循行方向や連絡する臓腑器官の記載は,各本ごとに相違がある。具体的な内容を表1にまとめた。


  表1 足陽明経循行特徴の対比


出典       起点      止点    循行方向   連係臓腑   連絡器官     支脈

成都老官山漆人 小趾次趾  鼻      未知    未見   乳内廉・口・鼻   なし

綿陽双包山漆人 目下正中 足中趾端  由上至下    未見    口角・乳     なし

足臂十一脈灸経 胻(脛骨) 鼻    由下至上    未見    乳・口・鼻    なし

陰陽十一脈灸経 骭骨外廉  顏    由下至上    未見    乳・目外廉      なし

        (脛骨外) 

霊枢.経脈   鼻   中趾内間     由上至下    脾胃  鼻・歯・口唇・乳内廉 支脈3本

                                                                 (支脈:具体的には経脈の循行に関する記載を参照)


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