2016年11月8日火曜日

卓廉士先生の『素問』標本病伝論(65)講義 その9

『素問』標本病伝論(65)は、この思想の基礎のうえに、衛気標本の理論を結びつけて発展させ、かなり具体的な治療案を形作った。標本刺法では、先病は先に治療するだけではなく、先病は本を治療し、本部の腧穴を鍼刺することが多い。これは四肢末端が衛気があつまるところであるからである。人体にある特定穴の多くは肘膝関節より下に位置する。たとえば、五輸穴・原穴・絡穴・郄穴などはかなり大きな範囲でその治療作用を発揮できる。かつまた古代人は、ずっと「從本引之,千枝萬葉,莫不隨也〔根っこから引き抜けば、あらゆる枝葉はみな従ってくる〕」(『淮南子』精神訓)と考えていて、本部の腧穴には疾病の根本を治療する作用がある。

しかし注意すべきことは、『素問』標本病伝論(65)の先病後病の治療に関しては、衛気が経脈の標本での位置の移動を生じる病症に適していることである。もし疾病の伝変〔発展変化。疾病がある経脈臓腑から他の経脈臓腑へ移ることと、ある症候が他の症候に変わること〕が、標本の限度とする範囲を超えた場合、しばしば危険な症候となり、この方法はふさわしくないようである。『素問』標本病伝論の篇末では、もっぱら「病伝」の証候を論じている。

「夫病伝者.心病.先心痛.一日而欬.三日脇支痛.五日閉塞不通.身痛体重.三日不已死.冬夜半.夏日中.〔疾病の伝変のしかたは以下のようになっております。心の病はまず心痛が起こりますが、一日すると病は肺に伝わり咳嗽が出ます。三日すると病は肝に伝わり脇に脹痛が起こります。五日すると病は脾に伝わり大便の通じがなくなり、身体が痛んで重く感じられるようになります。さらに三日すぎて治らなければ死亡します。冬であれば夜半に死亡し、夏であれば日中に死亡します。〕
肺病.喘欬.三日而脇支満痛.一日身重体痛.五日而脹.十日不已死.冬日入.夏日出.〔肺の病になると喘咳が起こりますが、三日すぎて治らなければ、病は肝に伝わり、肝脈は脇肋部を循っているので脇肋部の脹満、疼痛が起こります。さらに一日すると病は脾に伝わりますが、脾は肌肉を主っていますので、身重疼痛が起こるのです。さらに五日すると病邪は胃に伝わり、腹が脹るようになります。さらに十日すぎて治らなければ、死亡します。冬であれば日没時に、夏であれば日の出の時に死亡します。〕
……如是者.皆有死期.不可刺.間一蔵止.及至三四蔵者.乃可刺也.〔上述の順序で相伝すると、すべて一定の死期があり、この場合には刺法を用いてはなりません。もし病の伝わる順序が上述のような相伝ではなく、間蔵相伝あるいは隔三四蔵相伝であるならば、刺鍼治療を行うことができます。〕」

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