叙(二)
凡物博則多方皆宜而及
其臨機事煩易惑約則精
一必中而至其應變技窮
受敗物無兼美誰昔然博
而能約是其難哉余鄕木
ウラ
子慎覃精於鍼灸嘗試術
於平安數年所經驗亦多
矣本有所傳之書今修次
其書緣飾以己意錄爲一
小冊公之世病症悉列輸
二ウラ
穴明備便於懷袖易於檢
閲可得約而不失博矣若
夫其所受授有淵源最爲
可珍寶詳于台州先生序
中茲不復贅矣安永戊戌
題於平安
東奥 滕晁明
【訓み下し】
凡そ物は、博なれば則ち多方にして皆な宜(よろ)し。而(しか)るに其の機に臨むに及んでは、事煩わしくて惑い易し。約なれば則ち精一にして必ず中(あ)たる。而るに其の變に應ずるに至っては、技窮まりて敗を受く。物に兼美無し。誰昔(むかし)より然り。博にして能く約、是れ其れ難きかな。余が鄕の木
ウラ
子慎 鍼灸に覃精なり。嘗て術を平安に試みること數年、經驗する所亦た多し。本(もと)より傳うる所の書有り。今ま其の書を修次し、緣飾するに己が意を以てし、錄して一小冊と爲し、之を世に公(おおやけ)にす。病症悉く列(つら)なり、輸
二ウラ
穴明らかに備わる。懷袖に便あり、檢閲に易し。約を得(う)可くして、博を失せず。若(も)し夫(そ)れ其の受授する所、淵源有りて、最も珍寶とす可きと爲すは、台州先生の序中に詳(くわ)し。茲(ここ)に復た贅せず。安永戊戌 平安に題す。
東奥 滕晁明
【注釋】
凡物 ○博:広大。衆多。 ○則 ○多方:種々の方法がある。 ○皆宜而及其臨機事煩易惑 ○約:簡要。精練。 ○則 ○精一:まじりけがなく単一。 ○必中而至其 ○應變:ものの変化に対応する。臨機応変。 ○技窮受敗物無 ○兼美:兼ね備えている。揃っている。 ○誰昔然:むかしからそうだった。「誰」は発語のことば。無義。『詩經』陳風・墓門「知而不已、誰昔然矣」。孔穎達疏引郭璞曰「誰、發語辭」。朱熹集傳「誰昔、昔也、猶言疇昔也」。 ○博而能約是其難哉 ○余鄕:我が郷土の。わたくしと同郷の。この叙を書いている滕晁明は東奥のひとで、木村は福島のひとなので、同じ陸奥(みちのく)國のひとということであろう。 ○木
ウラ
○子慎:木村氏の呼称の一と解しておく。 ○覃精:「覃」は、ふかい、およぶ。研深覃精。学問研究が精しく深く、大変優れている。 ○於鍼灸嘗試術於 ○平安:京都。 ○數年:長年。多年。 ○所 ○經驗:経験。効果があったこと。 ○亦多矣 ○本:もともとから。 ○有所傳之書今 ○修次:整える。編修する。編次する。 ○其書 ○緣飾:文飾。文章・語句を修飾する。 ○以 ○己意:個人の見解。 ○錄爲一小冊公之世病症悉 ○列:陳列する。排列する。ならぶ。 ○輸
二ウラ
穴 ○明備: 明確に完備する。 ○便於:便利である。 ○懷袖:ふところとそで(にしまい入れる)。 ○易於:~しやすい。 ○檢閲:調べる。 ○可得約而不失博矣 ○若夫:~については、関しては。「夫(か)の~の若きは」とも訓む。 ○其所受授有淵源最爲可珍寶詳于台州先生序中茲 ○不復贅:無駄(贅言)なので繰り返さない。 ○矣安永戊戌題於平安 ○東奥:いま青森あたり。 ○滕晁明:未詳。印形には「朝明」「子光」とある。「晁」は「朝」の古字。「滕」は、おそらく加藤・江藤などの「藤」。
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