2012年7月22日日曜日

『醫説』鍼灸33 灸難産

張文仲灸婦人横産、先手出、諸般符藥不捷、灸婦人右脚小指頭尖頭〔一本無「頭」〕三壯、炷如小麥大、下火立産。

【倭讀】
張文仲 婦人の横産して、先づ手出で、諸般の符藥 捷(な)らざるに灸す。婦人の右脚の小指頭の尖(頭)に灸すること三壯。炷は小麥大の如くす。火を下せば、立ちどころに産す。

【注釋】
○張文仲:『舊唐書』卷百九十一列傳第一百四十一‥張文仲、洛州洛陽人也。少與郷人李虔縱、京兆人韋慈藏並以醫術知名。文仲、則天初為侍御醫。時特進蘇良嗣於殿庭因拜跪便絶倒、則天令文仲、慈藏隨至宅候之。文仲曰‥「此因憂憤邪氣激也、若痛衝脇、則劇難救。」自朝候之、未及食時、即苦衝脇絞痛。文仲曰‥「若入心、即不可療。」俄頃心痛、不復下藥、日旰而卒。文仲尤善療風疾。其後則天令文仲集當時名醫共撰療風氣諸方、仍令麟臺監王方慶監其修撰。文仲奏曰‥「風有一百二十四種、氣有八十種。大抵醫藥雖同、人性各異、庸醫不逹藥之性使、冬夏失節、因此殺人。惟脚氣頭風上氣、甞須服藥不絶、自餘則隨其發動、臨時消息之。但有風氣之人、春末夏初及秋暮、要得通洩、即不困劇。」於是撰四時常服及輕重大小諸方十八首表上之、文仲久視年終於尚藥奉御。撰『隨身備急方』三卷、行於代。虔縱官至侍御醫、慈藏景龍中光禄卿。自則天、中宗已後、諸醫咸推文仲等三人為首。
『新唐書』卷五十九/志第四十九藝文/醫術類に「張文仲隨身備急方三卷」、『宋史』卷二百七志 第四十九藝文 醫書類に「張文仲法象論一卷」あり。『黄帝明堂灸経』に「張仲文灸經」(張文仲灸經ではない)が数回引用されているが、至陰穴のところでの引用はない。
『鍼灸資生經』卷七「張仲文療横産、治先出手、諸符藥不捷。灸右脚小指尖頭三壯、炷如小麥、下火、立産」。『醫説』鍼灸とほぼ同文。『類經圖翼』卷七の至陰にも見える。
『甲乙經』あたりの至陰穴には婦人科、産科の主治は無いみたいです。ひょっとするとこの故事が最初なんでしょうか。
○横産:橫產。橫生。横生倒產。孕婦難產。
○諸般:萬般、各種[various;different kinds of;many]。
○符:一種道士用來避邪﹑驅使鬼神的神祕文字。道士畫的驅使鬼神的圖形或線條。
○捷:戰勝、勝利。カツ。/ナル。成功 [success] 
○灸婦人右脚小指頭尖頭三壯、
○炷如小麥大
○下火:点火。
○立:即刻。

※張文仲あるいは張仲文
『大觀本草』、晦明軒本『政和証類本草』卷十/附子の引用は「張文仲」で、『四庫全書』本『証類本草』は「張仲文」につくる。ただ『四庫全書』本『證類本草』でも圧倒的に「張文仲」につくる(九箇所)。
『備急千金要方』の注はみな「張文仲」につくる。
『外臺祕要方』の注もみな「張文仲」につくる。
『證治準繩』卷六十七/催生法には「張仲文 横産難産 右脚小指尖頭(原注‥灸三壯立産)」と「仲文」につくり、『醫説』鍼灸と同じ内容をのせる。
『本草綱目』には「(唐)張仲文備急方」と「張文仲備急方」あり。数としては「文仲」の方がおおい。
『續名醫類案』卷十二には、張仲文の薬方による六十歳の婦人の治験例を載せるが、脈診などの詳しい辨証があり、興味深い。『本草綱目』からの引用か。
『薛氏醫案』卷四十三/第九産後口噤腰背反張方論は「張仲文」の藥方をのせる。
『鍼灸資生經』卷三「張仲文灸脚筋急(原注‥見腰脚)」。
『鍼灸資生經』卷四「張仲文療卒心痛不可忍、吐冷酸水、及元藏氣、灸足大指、次指内横文中、各一壯、炷如小麥。立愈」。
『鍼灸資生經』卷五「張仲文療腰重痛、不可轉、起坐難、及冷痺、脚筋攣不可屈伸、灸曲踿兩文頭、左右脚四處、各三壯。毎灸一脚、二火齊下、燒纔到肉、初覺痛、便用二人兩邊齊吹至火滅。午時着艾、至人定、自行動藏腑一兩回、或藏腑轉如雷聲、立愈。神效」。「踿」は、「䐐」(ももとすねの間)の異体字であろう。
ほぼ同文が『衞生寶鑑』卷十五/灸腰痛法にみえる。『衞生寶鑑』は「張仲文傳神仙灸法」として引用しているので、『鍼灸資生經』と源を一にする祖本があったのかも知れない。『普濟方』卷四百二十一にあるほぼ同文は、『鍼灸資生經』からの引用と思われる。『續名醫類案』卷二十五にも同文がみえる(『本草綱目』からの引用)。
『類經圖翼』卷四/養老「張仲文傳灸治仙法‥療腰重痛、不可轉側、起坐艱難、及筋攣脚痺、不可屈伸」。これは、『衞生寶鑑』から主治症を採取する際、カード整理を誤って養老穴のところに分類されてしまったのではあるまいか。
『鍼灸資生經』卷五「張仲文灸腰痛(原注‥見腰脚)」。
『鍼灸資生經』卷六「張仲文療風眼、卒生翳膜、兩目痛不可忍。灸手中指本節頭節閒尖上三壯、炷如麥、左灸右、右灸左」。『普濟方』卷四百十九に同文が見える。
『鍼灸資生經』卷七「張仲文療横産、治先出手、諸符藥不捷。灸右脚小指尖頭三壯、炷如小麥、下火、立産」。『醫説』鍼灸とほぼ同文。『類經圖翼』卷七/至陰にも見える。

★むかしの論議:纏足の文化がある地域で下肢の経穴を使う事は有り得ない。/この話は唐代で纏足が普及する以前。

1 件のコメント:

  1. 張文仲灸婦人横産、先手出、
     橫産は手が先に生まれる出産で、名詞であるので、「橫産して先ず手出で」というより、「橫産にして先ず手出づるに」に読んでみたらどうでしょうか。

    炷如小麥大
     「如~~状」という句式があって、「~~の如き状」と読むとすれば、ここも「小麦の如きの大」と読むのはどうでしょうか。

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