2 『難経』五輸穴の主病と実践との間の距離
『難経』が提起した五輸穴の主治病症に関する原文は以下のごとし。
六十八難曰:五藏六府各有井滎俞經合,皆何所主?然。經言:所出為井,所流為榮,所注為俞,所行為經,所入為合。井主心下滿,滎主身熱,俞主體重節痛,經主喘咳寒熱,合主逆氣而泄。此五藏六府其井滎俞經合所主病也〔六十八の難に曰わく:五藏六府各々(おのおの)井滎俞經合有り,皆な何の主る所ぞ?然(こた)う。經に言う:出づる所を井と為し,流るる所を滎と為し,注ぐ所を俞と為し,行く所を經と為し,入る所を合と為す,と。井は心下滿を主り,滎は身熱を主り,俞は體重節痛を主り,經は喘咳寒熱を主り,合は逆氣して泄するを主る。此れ五藏六府 其の井滎俞經合の主る所の病なり。〕[3] 124-125。
「主病〔病を主る〕」とは,すなわち病症を主治することである。元代の滑伯仁『難経本義』は「主,主治也〔主は,主治なり〕」[5]87と注する。上記の原文にいう「此五藏六府其井滎俞經合所主病」とは,すべての五輸穴を意味する。果たしてそうなのか。また一体何者の病を主治するのか。その内包を正確に理解し,主治の内容の由来を明確にするために,ここでは主に2点を分析する:
(1)実際には陰脈の五輸穴の主病にすぎない。この点は,少なくとも宋代にはすでに明確に指摘されていた。たとえば,明代の王九思等編の『難経集注』は,宋の丁徳用の「此是五藏井滎俞經合也……〔此れは是れ五藏の井滎俞經合なり……〕」と,虞庶の「以上井滎俞經合,法五行,應五藏,邪湊其中,故主病如是〔以上の井滎俞經合は,五行に法(のっと)って,五藏に應じ,邪 其の中に湊(あつ)まる。故に病を主ること是(か)くの如し〕」[6]90を引用している。しかしながら,その後の認識はかえって以前に及ばず、例えば滑伯仁の『難経本義』も五蔵病から解釈したが,また謝堅白の注,「此舉五藏之病各一端為例……不言六府者,舉藏足以該之〔此れ五藏の病の各々一端を舉げて例と為す……六府を言わざる者は,藏を舉げて以て之を該(かぬ)るに足ればなり〕」[5]88を引用している。清代の徐大椿の『難経経釈』はその主病を「由六十四難五行所屬推之〔六十四難の五行の屬する所に由って之を推す〕」と指摘し,(そして五蔵において)さらに「然此亦論其一端耳,兩經辨病取穴之法,實不如此,不可執一說而不知變通也〔然れども此れも亦た其の一端を論ずるのみ。兩經の辨病取穴の法は,實は此(か)くの如きにあらず。一說に執(とらわ)れて變通を知らざる可からざるなり〕」 [7]90と指摘した。唯一,中華民国の張山雷は『難経注釈箋正』において問題の所在を明確にし,「然於陽經之井滎等五行,則又何如〔然れども陽經の井滎等の五行に於いては,則ち又た何如(いかん)せん〕?」[8]150という。しかしながら,謝堅白の曖昧な認識は今でもきわめて一般的である。例えば中医大学の本科の統一編集教材では,普通高等教育中医薬類計画教材の第6版『針灸学』[9]が「陰脈の五輸穴は五臓の病を主治する」と明言している以外,その他の書は,みなほとんど判断分析をしていない。さらに鍼灸の著作では,これを「五腧穴の主治総綱」と見なしているものさえある[10]。
(2)五輸主病は,陰脈の五輸穴の五行が五蔵に応ずることに基づいて得られたもので,その具体的な内容は『難経』中から推し量ることができる。著者が『難経』のテキストを整理して見つけたことは,これらの具体的な主治病症は本書の中で論じられている五蔵の病と内在的な関連があり,第十六難で詳しく述べられている五蔵の病の診断に集中していることである。たとえば,「假令得肝脈,其外證:善潔,面青,善怒。其內證:齊左有動氣,按之牢若痛。其病:四肢滿,閉癃,溲便難,轉筋〔假令(たと)えば肝脈を得れば,其の外證は,潔きを善(この)み,面青く,善く怒る。其の內證は,齊(へそ)の左に動氣有り,之を按(お)せば牢(かた)く若(も)しくは痛し。其の病は,四肢滿し,閉癃し,溲便難く,轉筋す〕」[3] 33-34。五輸穴の主治病症とこれらの五蔵の病の表現を照合すると,五輸主病はこれらの五蔵の病の主な表現と特性から抽出したものであることが見いだせる(表2)。
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第十六難 第六十八難
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肝脈……其病:四肢滿,閉癃,溲便難、轉筋。 井主心下滿
心脈,其外證:面赤、口乾、喜笑……
五 其病:煩心,心痛,掌中熱而啘。 滎主身熱
藏
脾脈……其病:腹脹滿、食不消,體重 俞主體董節痛
與 節痛,怠墮嗜臥,四肢不收。
陰 肺脈……其病:喘咳,灑淅寒熱 經主喘咳寒熱
脈
腎脈……其病:逆氣,少腹急痛,泄如下重, 合主逆氣而泄
足脛寒而逆。
此五藏六府其
性 井滎俞經合所
是其病,有內外證。 主病也
類
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五輸穴理論を提起した『黄帝内経』において,五輸穴の主病はそれぞれの類穴が所在する部位と関連している。例えば,五蔵の病を主治するのは五輸穴中の「輸」穴,すなわち五蔵の原穴である。六府の病を主治するのは五輸穴中の「合」穴であり,実際には主に六府の下合穴である。腧穴の所在する部位は主治と関係があるため,五蔵の「輸(原)」穴であれ,六府の「(下)合」穴であれ,いずれも同じ種類の穴では所在する部位が似ている特徴を持つ。『難経』が提起した五輸穴の主病は,この法則を全く反映しておらず,五行の属性を内在的根拠とした推論の結果であって,「人体で検証した」術では全くない。そのため,『難経』とその理論が持っている大きな影響,また五輸穴が臨床で常用される類穴でもあることに鑑みて,さらにその根本的な欠陥に対して本質的な分析と価値判別を行う必要がある。
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