3 『内経』『難経』における五輸穴が季節に応じる根本的な差異
五輸穴の特性に対する認識は,五輸穴と季節の対応関係にも反映されているが,このような関係の理論構築には,治法という形式で天人相応の観念を反映させ,強調する意図もある。『黄帝内経』と『難経』には,いずれもこれについての専門の論述があり,それぞれの五輸穴に対する認識の重要な研究面を明らかにしている。
『難経』は五輸穴と季節関係を論じているが,これも陰脈にある五輸穴の五行属性に基づいいて,(四季に長夏を加えた)五時は井滎輸経合に対応する。第七十四難:
經言春刺井,夏刺滎,季夏刺俞,秋刺經,冬刺合者,何謂也?然。春刺井者,邪在肝;夏刺滎者,邪在心;季夏刺俞者,邪在脾;秋刺經者,邪在肺;冬刺合者,邪在腎〔經に言う,春は井に刺し,夏は滎に刺し,季夏は俞に刺し,秋は經に刺し,冬は合に刺すとは,何の謂(いい)ぞや?然(こた)う。春は井に刺すとは,邪 肝に在ればなり。夏は滎に刺すとは,邪 心に在ればなり。季夏は俞に刺すとは,邪 脾に在ればなり。秋は經に刺すとは,邪 肺に在ればなり。冬は合に刺すとは,邪 腎に在ればなり〕[3]133。
その論法は五輸穴の主病と同じく,依然として五蔵の陰脈に限られている。その内容の欠陥について,張山雷は次のように明言している。「然陽經井金滎火,豈亦屬肝屬心耶?以此推之,則空言欺人,蓋亦不辯自明〔然れども陽經の井金・滎火,豈に亦た肝に屬し心に屬せんや?此れを以て之を推せば,則ち空言 人を欺く,蓋し亦た辯ぜずして自(おのずか)ら明らかなり〕」[8]158。
『黄帝内経』には五輸穴と季節の関係が多くの篇ですでに述べられていたが,五輸穴と五行の配属に基づいているわけではなく,長夏に言及するものも,『霊枢』の順気一日分為四時篇の一篇のみである。そのため,五輸穴と季節の対応は,両書はほとんど全く異なっている。簡単に言えば,『黄帝内経』は井穴で冬に対応するが,『難経』は井穴で春に対応し,合穴で冬に対応する。両書では,五輸穴の最初の穴と歳時〔季節〕の順序が正反対である(表3)。
表3 『黄帝内経』と『難経』の五輸穴が対応する季節の比較
文献 季節
書名 篇目 春 夏 長夏 秋 冬
『黄帝内経』本輸 滎 腧 ― 合 井腧
四時氣 ― ― ― 経腧,合 井滎
水熱穴論 ― ― ― 経腧,合 井滎
順氣一日分 滎 輸 經 合 井
為四時
『難経』第七十四難 井 滎 俞 経 合
『黄帝内経』で冬に井穴を取るのは,「深」「陰」(四時気篇と水熱穴論篇)からの着想で,「病は蔵に在り」(順気一日分為四時篇)を用いている。『難経』はこれと異なり,五輸穴を五行に配した基礎の上で,春に井穴を取るのは,「始生」からの着想で,冬に合穴を取るのは,「入蔵」からの着想である。第六十五難はつぎのようにいう。「所出為井,井者,東方春也,萬物之始生,故言所出為井也。所入為合,合者,北方冬也,陽氣入藏,故言所入為合也〔「出づる所を井と為す」とは,井なる者は,東方春なり,萬物之れ始めて生ず,故に「出づる所を井と為す」と言うなり。「入る所を合と為す」とは,合なる者は,北方冬なり,陽氣入藏す,故に「入る所を合と為す」と言うなり〕」[3]120。
したがって,両書のこのような大きな違いは,「変通の義〔原則に拘泥せず状況の変化に対応した柔軟な処置という意味〕」[6]93(楊注)〔七十四難注〕なのではなく,根本的な原因は当初からの着想が異なることにある。
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