2022年11月16日水曜日

『難経』五輸穴の主治病症とその五行観念に関する分析 05

   結び

 以上の分析から以下のことが明らかになった。『難経』が提出した五輸穴の主治病症は,井滎輸経合をすべて網羅していて,病症は具体的で,形式は規範にのっとっているように見えるが,実際には型どおりに五行学説の理論から導き出されたものであり,構想上,観念に迎合したのみで,鍼灸の実践から離れていて,腧穴の実際の治療法則を反映できていない。したがって,その内容は実践に応用する価値を欠いている。この腧穴「理論」の内容について,もし区別せず,そのまま取り入れてこじつけし,ひいてはそのまま臨床マニュアルとして用いるならば,まったくの無定見である。

 中医鍼灸の理論構築において,五行学説は理論を説明する道具の一つとして,人体生命活動現象と原理および診療経験と法則の理論的説明の中で,幅広く運用され重要な作用を持っているが,もし五行学説のみから医学の理論と診療の理法〔筋道組み立ての方法〕を演繹するならば,それは机上の空論であり,実践を誤った方向に導くことになる。現代の鍼灸研究の目的から見ると,古代の学術理論の様相を客観的に表現することは歴史的な要求であり,それと同時に,その理論の本質・構築の理念・進化の過程・学術的価値・実践的指導性に対して,理性的に判断し,明確に述べる必要がある。あるべき態度としては,百年近く前に有識者が叫んだように,『難経』のような「空論五行〔いたずらに(役に立たない)五行を論じ〕」「空言生克〔むだに(根拠のない)相生相克を言い〕」「理の必ず通ぜざる所の者」に対しては,まさに「荆棘を除いて康衢を辟(ひら)く〔いばら=困難・混乱を除いて大道を開通させる〕」べきであり,「固(もと)より学者 実事もて是(ぜ)を求むるは,当務の急なり〔当然,学ぶ者は事実に即して問題を処理するのが,当面の急務である〕」[8]152。



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