2012年4月10日火曜日

『醫説』鍼灸 關聯史料集成 21 灸背瘡

京師萬勝門剩員王超、忽覺背上如有瘡隱起、倩人看之。已如盞大、其頭無數、或教徃梁門裏外科金龜兒張家、買藥。張視、嚬眉曰‥此瘡甚惡、非藥所能治、只有灼艾一法。庶可冀望萬分、然恐費力。乃撮艾與之、曰‥且歸家、試灸瘡上。只怕不疼、直待灸疼、方可療爾。灼火十餘、殊不知痛。妻守之而哭。至第十三壯、始大痛、四傍惡肉捲爛、隨手墮地。即似稍愈。再詣張謝。張付藥。敷貼數日安、則知癰疽發於背脅、其捷法莫如灸也。(類編)

京師 萬勝門の剩員 王超、忽ち背上に瘡有り隱起するが如きを覺ゆ。人を倩して之れを看しむ。已に盞の大の如し。其の頭 無數。或るひと教えて梁門裏の外科 金龜兒張家に徃き、藥を買わしむ。張 視て眉を嚬(ひそ)めて曰く「此の瘡 甚だ惡し。藥の能く治する所に非ず。只だ灼艾の一法あり。庶(ねがわ)くは萬分を冀望すべし。然れども恐くは力を費さん」と。乃ち艾を撮りて之れに與えて曰く「且に家に歸りて試みに瘡上に灸すべし。只だ疼まざるを怕る。直だ灸して疼むを待てば、方(まさ)に療すべきのみ」と。灼火すること十餘、殊に痛みを知らず。妻 之れを守りて哭く。第十三壯に至りて始めて大いに痛む。四傍の惡肉 捲爛して手に隨いて地に墮つ。即ち稍や愈ゆるに似たり。再び張に詣り謝す。張 藥を付す。敷貼すること數日にして安んず。則ち癰疽の背脅に發するは、其の捷法 灸に如くは莫しと知るなり。(『類編』)

○瘡:皮膚或黏膜上的潰瘍。
○京師:首都。公羊傳˙桓公九年:「京師者何?天子之居也。」
○萬勝門:北宋の首都、汴京(開封)にあった。
○剩員:宋代軍士名目。禁兵、廂兵、土兵因年老或疾病,不任征戍,保留軍籍,減削軍俸,在軍中從事雜役,稱剩員。/非正員軍士。建隆元年,始從殿前、侍衛二司中揀汰老弱怯懦禁軍為剩員,給以官符,從事宮觀...剩員立額從此始(陳傅良《開基事要·建隆元年》)。/宋揀選(選ぶ)降退軍士名目之一。太祖建隆二年(961年)始置。...個別有年齡三十五歲以下少壯之人充當剩員者。其軍俸削減一半甚至一半以上。一般只充任軍中雜役,而由剩員重新擔任戰士則屬特殊情況。其在軍中占有相當比例和數量,各地專設剩員指揮,並在各禁、廂兵中設十分之一......。
○王超:
○隱起:凸起,高起。/隱:塞,堵塞 [block up;stop up]。宏大 [great]。殷盛 [rich]。
○倩:請人代為做事。
○盞:小而淺的杯子。
○頭:頂端或末稍。
○無數:極多。
○或:泛指人或事物。相當於「有人」﹑「有的」。
○梁門:指大梁夷門。“夷門”即魏都大梁之關隘。汴京,即戰國時之“大梁”,東魏置梁州,隋唐改為汴州,自五代梁晉漢周及北宋皆建為都,遂有汴京之稱。
○外科金龜兒張家:12世紀初頭の汴京(開封)のにぎわいを記した南宋の孟元老『東京夢華録』卷三、大内西右掖門外街巷に「殿前司相對……張戴花洗面藥國太丞張老兒金龜兒醜婆婆藥鋪」とある。殿前司(宮廷直轄正規軍司令部)の向かい側に張戴花という洗面薬を売る店、張老兒(張老人)金龜兒、醜婆婆などが経営する薬局が軒を並べていたようだ。この張さんは外科と薬屋を兼業していたのだろうか。
東洋文庫『東京夢華録』では張老児金亀児を二軒と考えているようです。ただし、ここで金亀児の主人が張氏となるとちょっとややこしい。でも、この前の記事「馬行街から北の医者町」では、「山水」李家の口歯咽喉薬、「石魚児」班防禦、「銀孩児」柏郎中家の小児科、「大鞋」任家の産科などとあります。つまり渾名が前、姓が後ろが一般的です。防禦とか郎中とかは官名、ただしほとんど全てが詐称です。だから、ここで金亀児張家というのには問題有りません。おそらくは張老児と金亀児は別の店で、金亀児の主人の姓も張というのは偶然だろうと思います。 (醫説 鍼灸 神麹斎/2006/1/27/08:03)
○兒:長輩稱呼晚輩。輕視、辱罵對方為「兒」。
○嚬:憂愁不樂而皺眉。通「顰」。
○庶:相近、差不多。表示希望發生或出現某事,進行推測;但願,或許。
○可冀:可以期待。 
○冀望:希望、期望。
○萬分:極甚、非常。萬分之一。謂極少。
○然:但是﹑可是。
○恐:大概、或者。表疑慮不定的語氣。
○費力:耗費精力或體力。
○撮:抓取。
○且:將要。只。文言發語詞,用在句首,與“夫”相似。
○只:僅。但、而。
○怕:恐懼、害怕。擔心、疑慮。可能、或許、大概。表猜測。
○直:但﹑只﹑不過。
○疼:痛。
○方:正、適。將。
○灼:炙﹑燒。
○殊:非常、極、甚。まったく。すこしも。
○哭:因傷心或激動而流淚,甚至發出悲聲。泣、哭、號三詞分用時有所區別。無聲有淚叫「泣」;有聲有淚叫「哭」;哭而有言叫「號」。通稱時都可用「哭」表示,如:「哭泣」、「號哭」。
○傍:側、邊。通「旁」。
○惡肉:腐敗之肉。
○捲:把東西彎轉成圓筒狀。彎曲。
○爛:腐敗。燒灼。
○隨手:立刻。順手處理。
○似:好像。
○稍:略微。頗、甚。
○詣:拜訪﹑進見上級或長輩。
○謝:表示感激、酬答。
○付:授予、交給。如:「交付」。
○敷貼:[apply;stick] 敷布粘貼。/敷:塗抹。/貼:黏附。
○安:平靜、恬適。
○癰疽:常見的毒瘡。多由於血液運行不良,毒質淤積而生。大而淺的為癰,深的為疽,多長在脖子、背部或臀部等地方。或作「雍雎」。
○脅:胸部兩側,由腋下至肋骨盡處的部位。亦指肋骨。
○捷:快速。
○莫如:不如。
○類編:未詳。「類編」を書名に持つものには、宋の呂祖謙『観史類編』、宋(元?)の潘迪『格物類編』、宋(元?)の胡助『純白類編』があったが、他書である可能性のほうが高いかもしれない。

1 件のコメント:

  1. 根岸鎮衛『耳嚢』にも、「ぜんそく灸にて癒えし事」というのがある。
    若侍に喘息がひどくて、起きても臥しても苦しむものがいて、脊椎の五番目に握りこぶしほどの灸をすえさせた。熱さに耐えかねて気絶しても、水をぶっかけ、あるいは飲ませて、焼ききった。当座は腫れ上がり、膿崩れ、さらには骨まで見えたらしいが、その後は絶えて喘息しなかったという。ただ、茶碗を伏せたほどの火傷痕にはなった。立派に勤め上げ、当時としては長寿の七十余歳で身まかった。
    釈迦に説法ながら、昨今の熱くない、痕も残らないというお灸の宣伝は、いかがなものか。

    金亀児張家についての書き込みをすっかり忘れていたくらいだから、これもすでにどこかに書いたかも知れない。

    返信削除