2016年12月27日火曜日

卓廉士先生の『黄帝内経』術数講義:経脈の長さと営気の流注について その2

  1 古代数術
 古代人類の思惟にあっては、数字は現実に対する抽象といった簡単なものでは決してない。フランスの著名な人類学者である、レヴィ=ブリュール(1857-1939)は、「それぞれの数はみなそれ自身の個別の様相・ある種の神秘的な雰囲気・ある種の『力の場』に属しており」「つねに数として数えようとするとき、それは必然的にその数とこれの数に属し、かつまた同様の神秘的互いの浸透によって、まさにこの数字に属するなんとも神秘的な物の意味が同時に想像される。数とその名称はともにこれらの互いに浸透する媒介である。」[1]201と考えている〔*1〕。中国古代思想にもやはり類似した特徴がある。たとえば『易経』説卦は「參天兩地而倚數〔天を參にし地を兩にして數に倚(よ)す(天の数を三とし、地の数を二とし、それをよりどころとして易のすべての数が始まり定まる)〕」といい、天地宇宙に対する認識をひとつの数術に符合する大系内におさめている。レヴィ=ブリュールは、「このような神秘的雰囲気に包まれた数は、多くは十の範囲を超えない」[1]202としている〔*2〕。同様に、中医も「天地之至數、始於一、終於九焉〔天地の至數は、一に始まり、九に終わる〕」(『素問』三部九候論)としている。数術の原理は天人の原理を含み、一から九にいたる数字の上に成り立っている。

 われわれは、一・二・三・六・九という数字を先にみる。『説文解字』巻一上に「一、惟初太始、道立於一、造分天地、化成萬物〔一、惟(こ)れ初め太始、道 一に於いて立ち、天地を造分し、萬物を化成す〕」とある。古代人は、「一」を宇宙の本源とみなし、「道」の体現であるとした。そのため、「一」は「大一」「太一」(あるいは「泰一」)と認識され、祭られ、崇拝された。たとえば中医では、刺鍼時に神を守って、「治之極於一〔治の極は一に於いてす〕」(『素問』移精変気論)ることを強調している。医者と患者の神気が合一することが最も道に合ったことであり、最もよく治療効果を発揮できる[2]。
 『老子』第四十二章は「道生一、一生二、二生三、三生萬物〔道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は萬物を生ず〕」という。道の一は分かれて二となり、陰陽に判別されるので、「二」は陰陽双方を代表する。「陰陽合和而萬物生〔陰陽が和合して万物が生じ〕」(『淮南子』天文訓)、雌雄が合して新たな生命を生み出すことができる。いわゆる「三は萬物を生ず」は、ここにおいて、三を三倍にして、生生として已まず、千変万化して繁栄する。よって古代人は、「物は三を以て生じ」、「三」は万物化生の基であり、非常に重要な数字であると考えた。三の倍数である六・九・十二・二十四などはいずれも三の延長と発展とみなされた。このほか、六と九は、三から生成されるのみならず、六は陰数であり、九は陽数であり、六と九の倍数である六六三十六と九九八十一は、みな特殊な意味を賦与された。

 つぎに四と五をみる。四は四季の数であり、五行と配するために特に一季を増やして、あわせて五季とする。春・夏・長夏・秋・冬は、生・長・化・収・蔵の数に符合する。五は五行の常数であり、『易経』繫辭上は「天數五、地數五、五位相得而各有合。天數二十有五、地數三十、凡天地之數、五十有五、此所以成變化而行鬼神也〔天の數は五、地の數は五、五位相得て各おの合有り。天の數二十有五、地の數三十、凡そ天地の數、五十有五、此れ變化を成して鬼神を行う所以なり〕」という。よって、五も重要な基本数のひとつであり、五の倍数である十・十五・二十・二十五・三十・三十五……と、三百六十五にいたるまで、「天地の数」とみなされる。まさにいわゆる「天地之間、六合之内、不離于五、人亦應之〔天地の間、六合の内、五を離れず、人も亦た之に應ず〕」(『霊枢』陰陽二十五人)である。

 最後に七・八をみる。女子の数は七、男子の数は八。これは古代人が男女の生理の自然な過程を観察した結果、発見したものである(『素問』上古天真論に見える)。男女の道には「七損八益」という型がある。七と八で体現された自然過程は、またある種の周期律もあらわしている。たとえば『傷寒論』辨太陽病脈証幷治に「七日以上自愈」、『霊枢』熱病に「熱病七日八日」といった言い回しがあり、常にある段階の日時を指すが、医学においては演繹的なものは少ない。

 以上のまとめを通して、三と五は、数術の重要な基本数であり、『黄帝内経』においては、出現頻度がきわめて高いことがわかった。たとえば、三は、三候・三部・三陰・三陽、その倍数では六気・六腑・病の六変・陰陽六経・情志の九気・形神の九蔵・頭部の九竅・鍼の九鍼・十二経脈・十二節・十二時・十二月である。五は、五臓・五官・五色・五音・五体・五志・五乱、その倍数では「二十五陽」(『素問』陰陽別論)、「二十五変」(『素問』玉機真蔵論)、「二十五穴」(『素問』気穴論)、「二十五腧」(『霊枢』本輸)、「陰陽二十五人」(『霊枢』陰陽二十五人)、「衞氣行于陰二十五度、行于陽二十五度」「營周不休、五十而復大會」(『霊枢』営衛生会)、三百六十五節(『素問』六節蔵象論)、「三百六十五絡」(『素問』針解)などである。このほか、『内経』では河図洛書にある天地の生成の数ももちいられている。

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